もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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 Trin artくんが微妙にヒロアカの画風を学習していることに気付いてしまいました。以前作った妹紅の画像を重ね描き機能でヒロアカ風にしてみたので、暇な人は覗いてみて下さい。

・以前、自分で作った雄英制服の妹紅。CG風に作製した画像でしたが、これを元絵として使用。
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・微笑する妹紅。一番マトモに生成されたヒロアカ風の1枚。瞳周辺など崩れた部分は画像編集ソフトで修正しています。
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・ミルコっぽい感じ?100枚くらい生成しましたが、この系統の顔に近付いたのはこの1枚だけでした。
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・か、かっちゃん…!?生成すると頻繁に爆豪君が出てきます。とにかく出て来る。2枚に1枚くらいは爆豪君に近付きます。むしろ爆豪ママっぽい雰囲気がある。
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・たまに完全な爆豪君が生成されます。スカート姿でドヤ顔とか多分変態だと思うんですけど(名推理)
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もこたんとホークスとエンデヴァー 中編

 

「こコンな火デ俺レをを…殺セるとと思っ思っ思っったカ?」

 

「ふん、やはり『超再生』か」

 

 エンデヴァーの赫灼熱拳が直撃した脳無。しかし、焼けた肉がブクブクと泡立つように盛り上がり、そこから元通りに修復されていく。『超再生』の個性だ。更に『肩部のジェット機構』によって飛行能力を得ており、この脳無は空中戦を得意としていた。

 

「オ前は強いノか?」

 

「再生能力は厄介だが、炎熱耐性も無しに挑んでくるとは舐められたものだな。生け捕りにして情報を頂くぞ!『赫灼熱拳 ヘルスパイダー』!」

 

 『超再生』で回復されたものの炎ダメージの通り自体は悪くない。エンデヴァーは勝機を見出すためにも果敢に攻めた。

 次なる必殺技『ヘルスパイダー』は凝縮した炎を指先から糸状に放つエンデヴァーの巧技である。狙いは脳無の四肢の切断。そこから再生しようとする脳無の身体に炎の糸を巻き付け、焼き続けながら拘束することによる無力化を目論んでいた。

 

「オ遅い…!」

 

 しかし、脳無は軟体動物(タコ)のように身体をくねらせて『ヘルスパイダー』を避けると、そのままエンデヴァーに掴みかかる。

 エンデヴァーは新コスチュームの導入によって空での戦闘が可能となったものの、それは炎の噴出によって落下せずに高度を維持できているだけのこと。空中戦における機動力は脳無に大きく劣っていた。

 

「グッ…!」

 

 エンデヴァーを掴んだ脳無は恐るべきパワーで彼をビルに叩きつける。窓を貫き壁も貫き、果てには建物そのものを貫通してビルの裏側から飛び出すエンデヴァー。そこから脳無は彼を掴んだまま腕を大きく振り回した。

 

「ビルを…!」

 

「おい、ウソやろ!?」

 

 異変を聞きつけて駆けつけた地元ヒーローはその光景を前にして我が目を疑った。薙ぎ払うように振り回した脳無の豪腕が高層ビルを叩き切ったのである。階を繋ぐ支柱は全て折られ、切断された上層階が斜めに傾く。そして轟音と共に崩れ落ち始めた。

 

「ビルが落ちるぞ!」

 

「下は大通りやぞ!あの中にもまだ何人入っとるか…!」

 

 日曜の昼間だ。大通りは平日の倍近くの通行人がいる。瓦礫やガラスが落ちてきたことで彼らも慌てて避難を始めているが、ビルの上階などが落ちてくれば広域を巻き込むだろう。そうなればビルの被害部分にまだ残っている人々も含めて数百人が死ぬ。

 状況は最悪。ほどなく訪れるであろう地獄を予想して地元ヒーローたちは戦慄した。

 

 

「キャアアアッ!?」

 

「うわあああ!」

 

「マズい!火の鳥で多少火傷させてでも中の人たちを避難させます!」

 

 時を同じくして、UMAIビルの中を避難していた人々も大きな悲鳴を上げていた。地響きと共に傾いていく床、崩れて落ちていくような感覚。生きた心地など一切しなかったことだろう。

 そんな中で妹紅が叫んだ。最早どうしようもない。とにかく見える限りの人々の命だけでも守らんと慌てて火の鳥を作り出そうとするが、そんな妹紅をホークスが落ち着いて制した。

 

「大丈夫、俺に任せて。悲鳴、呼吸、衣ずれ、人から生じる振動。俺の『剛翼』は全てを感知する…」

 

 ホークスの『剛翼』は翼の羽根を思いのまま操る個性である。数百枚の羽根は1枚1枚が感知能力に優れ、同時に操り複数の作業を並行処理することも可能だった。

 凡人では決して扱いきれないこの個性をホークスは天才的なセンスと血が滲むような訓練量によって完璧に使いこなしていたのである。

 

「……被害部分の全員、76名の避難完了!」

 

 ホークスの翼から放たれた羽根が高速で各階を飛び回り、救助者を探し出す。そして妹紅が抱えていた仲居の女性も含めて全てを羽根で救出。更に、救出した人々を近くのビルの屋上へと運搬して優しく降ろした。

 速い。一連の動作全てが圧倒的に速い。故にホークスは『速すぎる男』であり、誰もが認めるNo.2ヒーローなのであった。

 

「それでさ、これの焼却処分なんだけど…もこたんイケる?」

 

 民間人の救出後、妹紅とホークスも自前の翼で崩れゆくビルから脱出した。

 残る問題はこの落ちていくビルの被害部分だ。こればかりは流石のホークスでも手に負えない。エンデヴァーと連携すれば何とかなるだろうが、彼は強敵と戦闘中である。

 ならば、と思いホークスは妹紅へ声をかけた。それに対して妹紅は些細なことでも引き受けるかのように軽く頷いてみせた。

 

「この程度なら問題なく。『パゼストバイフェニックス』!」

 

 落ちていく建物の下に潜り込んだ妹紅は最大火力を一息で練り上げた。全力の炎を込めて巨大な火の鳥を作り出す妹紅の奥義『パゼストバイフェニックス』。雄英USJで使用した際は例の脳無によって真価を発揮できなかったが今回は違う。

 完璧な精神状態。万全の体調。最大(フルマックス)の体力。そして鍛え上げられた個性制御能力。妹紅のパーフェクトコンディションから繰り出される最強の一撃は、以前と同じ技とは思えないほどの差違があった。

 

「な、なにが起きとうと!?」

 

「炎の鳥!?まさか藤原妹紅が来とるん!?」

 

「うわアツっ!?…あれ、全然熱くない?なんか(ぬく)いくらい…?」

 

 妹紅から放たれた炎の巨鳥が嘴を大きく開く。崩れ落ちてくるビルの上層階を簡単に丸呑みにすると、火の鳥はその重さを苦にすることもなく天へと駆け上がっていった。

 全てを焼き尽くす巨大な火の鳥。ホークスに助けられた者たちや、まだ避難できていない人々は突如として現われたソレに驚いた。なにせ凄まじい獄炎が目と鼻の先を飛翔していったのだ。彼らの中には身を守ろうと思わず身体を丸めてしまった者もいる。

 しかし、すぐに全員あることに気付いた。極大の炎塊が通り過ぎていったというのに誰も皮膚を焼くような熱さを感じなかったのである。精々が日光浴程度の優しい温かさ。加えて、人的被害以外に関しても周囲への延焼などはほとんど無かった。

 これは個性の精密操作を訓練し続けていた妹紅が火の鳥から放出される熱を内側に押し込める技術を習得したからである。全力を出すと全てを焼き尽くしてしまう妹紅にとって周囲への被害を可能な限り抑える個性制御は最優先事項。幸運なことに、炎熱を内側に押し込めたことで今まで外部に放出されていたエネルギーが、その分だけ内部の熱量として強化されるという副次的効果もあった。

 地元ヒーローたちもそんな桁外れの炎を見て、あんぐりと口を大きく開けて面食らっていた。

 

「や、焼き消したってのか…!?」

 

「あのデカさの鉄筋コンクリートの塊を溶かすわけでもなく蒸発させた…!?信じらんねぇ…!」

 

 被害部分の目測重量はおよそ数万トン。その割合の多くを占めるものが鉄筋コンクリートだが、それすらも妹紅は容易く燃やせる。その光景に地元ヒーローたちが目を剥くのも無理はなかった。

 

「お見事!流石の超火力だね。予想以上で驚いちゃったよ」

 

「ありがとうございますホークス。とはいえ呑み込んだ瓦礫を完全に焼却処分するには少し時間が必要です」

 

「アレだけの質量だからね。時間がかかるのは当たり前か。いや、それでも本当に凄いって!」

 

 そう褒めながらホークスは頷いて納得した。外からは確認出来ないが、空へと飛翔していく巨鳥の腹には今もまだ大量の瓦礫が残っている。むしろ数万トンの重さを抱えながら飛べることの方が驚きだ。火力に比例する見事な力強さをホークスは手放しで称賛していた。

 しかし、妹紅としてはそういう意味で言った訳ではなかった。

 

「いえ。完全に蒸発させると周囲に大量の粉塵が出てしまうので、大部分は地上付近ではなく空高くで焼き消そうかと思います。人体への影響が少ない高度まで飛ばすので、時間は少々かかってしまいますが」

 

「……うん、そうだね!ハハハ!」

 

 ホークスですら思考が一時停止してしまうような、そんな理由。規格外れの大火力に彼はもう乾いた笑いを浮かべて頷くしかなかった。

 そう、妹紅がその気であれば鉄筋コンクリートの瓦礫など即座に焼き尽くせていたのだ。しかし、鉄などの金属類が蒸発して気体になると周囲の冷えた空気に触れて固体に戻り、細かな粒子状態で空中を漂ってしまう。これらを多量に吸い込んでしまうと人体(主に気管支や肺)に悪影響が出るのだ。また、コンクリートの主な組成であるケイ素も蒸発すると空中で粒子となり、これも吸入すると呼吸器系に悪影響を及ぼす。

 そのため避難の終わっていない街中で瓦礫数万トン分の粉塵を撒き散らす訳にはいかず、妹紅は遙か上空で焼却処分することを選択していた。

 

「『パゼストバイフェニックス』の操作を自動に切り換えました。私たちはエンデヴァー先生の所に行きましょう」

 

「おっと、そうだった。援護に向かおう!」

 

 フェニックスを空高くに飛ばして、妹紅と我に返ったホークスは脳無と戦闘しているエンデヴァーの下へと急ぐ。

 ビルを叩き切った攻撃の余波で彼もダメージを受けてしまっているが、まだ継戦可能な範囲だ。飛行する脳無を相手に、足からの炎放出によって相対していた。

 

「エンデヴァー先生。下は街のヒーローたちが集まってきてくれているようです」

 

「避難誘導は彼らに任せましょう。俺らはエンデヴァーさんの援護に回りますよ」

 

「ト鳥が2羽…ササさっきノ炎の鳥はハお前カ…?」

 

 エンデヴァーの左右に妹紅とホークスが控えた。飛行個性を持った2人の援軍。特に巨大な火の鳥を放った妹紅に対しては脳無も明らかに警戒しており、互いに睨み合う膠着状態になる。

 その隙を見計らってエンデヴァーは妹紅たちに応じた。

 

「2人とも気をつけろ。確認出来た個性は『肩部のジェット機構』、『変容する腕』、『筋肉増殖』、『パワー』、『超再生』の5つ。スピードやパワーが驚異的なのは当然だが、特に伸縮自在の手足が読みにくいな。それらを扱うだけの知能がある」

 

 パワー・スピードならばUSJ脳無に劣っている。脅威ではあるもののオールマイト級とは到底言えない程度だ。それが個性なのか素の身体能力なのかは不明だが、相澤の『抹消』のような個性を持ったヒーローがこの場に居ない以上はどちらでも同じことである。

 そんなことより一番の問題はこの脳無が持つ知能だ。今までのロボットのような脳無とはまるで違う。己の肉体と個性を理解した上で行動に移しており、それが非常に厄介だった。

 

「なるほど。それにしても…まいったな。羽根に仕込んでいた神経毒の毒針をコッソリ刺していたんだけど全然効果出てないや」

 

「改良済み…。ただ死柄木が起動させただけじゃない。やっぱりどこかに脳無の技術者が潜伏しているのだと思います」

 

 この脳無がビルに突っ込んできた瞬間。その時点でホークスは仕込み針を相手に刺していた。毒はテトロドトキシンなどを含めた神経毒を数種類。拮抗作用のない毒同士を調合しており、神野区で捕縛した全ての脳無に対して有効であったことは公安の実験によって判明している。

 しかし、この脳無に対して毒の効果はなかった。それはつまり脳無の製造に精通した者がAFO以外にも居るということを意味していた。

 

「神経毒も効かないとなると、正面からねじ伏せるほかあるまい…!藤原、ホークス。連携して叩くぞ!」

 

「はい、エンデヴァー先生!」

 

「りょーかいです!」

 

 噴き出す炎と共に発せられたエンデヴァーの号令に妹紅は炎爪を両手に構え、ホークスは刀のような風切羽を二刀流に構えた。現・最強ヒーローのエンデヴァーをスピード特化のホークスと火力特化の妹紅がサポートするというこの陣形。空中戦であることも考慮すれば間違いなく日本最強のチームアップだった。

 

「オオ面モ白い!」

 

「来るぞッ!」

 

 脳無が不気味に笑いながら右腕を大きく振った。伸縮自在の極太腕が強力なパワーで振り回され、鞭のようにしなりながら妹紅たちに襲いかかる。しかし、このような大振りの攻撃は読みやすい。腕の先端は目に止まらぬほどの速さで振られているが、肩や上腕の動きを注視すれば攻撃の軌道がある程度読めるのである。

 

「腕の軌道に炎爪を合わせます」

 

 妹紅は『デスパレートクロウ』に強く炎を込めて巨大化させた。大きさだけでなく威力も凄まじい炎爪が脳無の攻撃軌道上に置かれる。腕が触れれば瞬時に炭化して切断されるだろう。そんな炎爪を危険と判断した脳無は『変容する腕』によって攻撃の軌道を変えようとした。

 

「さ避ケ…」

 

「させないよっと。『風見の羽』!」

 

 この脳無に対して唯一スピードで優位を取れるホークスが素早く羽根を飛ばす。たった一枚でも成人男性を軽々と運搬できる羽根を数十枚。それを脳無の腕に突き刺して攻撃の軌道を元に戻したのである。

 勢いのまま横薙ぎに振られた脳無の右腕は炎爪に触れてしまい、そして見事に焼き切られた。

 

「こノノくらイ…!」

 

「平気だろうな。だが、肥大化させて振り回していた腕を切られてバランスを崩したという訳だ。『赫灼熱拳…』」

 

 相手は『超再生』を持つ脳無。片腕くらいは数秒で再生するだろう。だが、トップヒーローの前ではそれが大きな隙となる。

 エンデヴァーは全身の炎を凝縮して溜め込んだ。大技の準備である。

 

「カカ回避…!」

 

 強力な炎を身に宿したエンデヴァーが昼間でも眩しいくらいに激しく発火する。

 脳無は彼から距離を取ろうとするが、バランスを崩している以上は射程外まで逃げることは難しく、そもそもエンデヴァーの射程を脳無は知らない。秘策の()()()()()()速い鳥(ホークス)燃える鳥(妹紅)が近くに居るのでは対処される可能性が高い。

 ならば、と脳無は『肩部のジェット機構』を噴かせた。バランスを崩しているため空中を転がるようにだが、僅かな距離なら何とか移動できる。脳無の目的地は妹紅を挟んだエンデヴァーの対角線上だった。

 

「これデデ撃てテまい…!」

 

「しまった!射線を切られた!」

 

 赫灼熱拳の射線が妹紅の身体で塞がれてしまった。脳無の狡智にホークスは焦る。だが、当の本人である妹紅とエンデヴァーに焦りは一切無かった。

 

「阿呆め!喰らうがいい!『プロミネンスバーン』!!」

 

「ちょっ!?エンデヴァーさん!?」

 

「ヒヒーローがミミ味方ごと…?違ココイツ炎熱ツ耐セ…ッ!」

 

 凝縮した強力な熱線を前方へ放射するエンデヴァーの大技『プロミネンスバーン』。それが一切の躊躇なく放たれた。ホークスは心底から驚き、脳無はエンデヴァーの正気を疑う。

 だが、両者ともにすぐに気が付いた。この位置取りは妹紅の誘導だったのである。

 

「ガ…!ガガ…!」

 

 妹紅と脳無が熱線に呑み込まれる。脳無を焼き殺さぬように威力を落として放たれた『プロミネンスバーン』だが、それでも脳無の視覚と聴覚は焼き潰れ、身体の主要な筋肉は炭化した。

 一方、妹紅はその熱線の中を泳ぐように飛行して脳無に接近。残っていた左腕と下半身をすれ違いざまに炎爪で切り落とした。

 

「両腕両足の切り落とし完了。あとは火の鳥で捕縛します」

 

 これで脳無の攻撃手段は無くなった。すぐに再生されるだろうが、それを許すほど妹紅たちもノロマではない。

 しかし、捕縛へと行動を移す直前。手足を切られダルマ状態になった脳無の胴体に白いニキビのようなモノが幾つも膨れあがった。

 

「ウウウ…!」

 

「早い!『超再生』の挙動ではないなッ…チッ!」

 

 妹紅では間に合わないと見て、エンデヴァーが咄嗟に炎を向ける。しかし、白いニキビは更に膨らんで、ついには体外に排出された。幾つかはエンデヴァーの炎で焼かれてボトボトと落ちていくが、それでも半数以上の白い物体は炎を回避し射出されてしまった。

 

「…何かを…産んだ?」

 

 焼かれ骨や内臓すら見えている胴体からナニカを産み落とした脳無に、思わず妹紅は嫌悪感を示す。一方で、ホークスとエンデヴァーはその観察眼で排出されたモノをしっかりと見極めていた。

 

「別個体の脳無です!身体に『格納』していた!?」

 

「だが白脳無だ!雑魚に構うな藤原!まずは再生中の奴を確実に確保せよ!」

 

「ッ!火の鳥、クチバシで焼き挟め!」

 

 時間稼ぎの悪あがきに過ぎないと瞬時に看破したエンデヴァーの命を受け、妹紅は捕縛用の火の鳥を放つ。

 だが、それに脳無が反応した。妹紅が戸惑ってしまった1秒にも満たない時間。脳無はその短時間で視覚や聴覚を再生させていたのだ。

 

「ジェ『ジェット』トで…!」

 

「残念!させないよ!」

 

 脳無は焼け爛れた『ジェット機構』で離脱を試みる。しかし、ホークスの必殺技『風見の羽』によってその場に縫い付けられた。

 無傷の状態であれば力負けしていただろうホークスの羽根も、炎に焼かれ再生途中の『ジェット機構』程度ならば勝てる。そうして空中に固定された脳無の胴体を巨大な火の鳥がバクリと咥えた。

 

「…よし、完全に捕らえました。再生した端から焼いているので拘束し続けることも可能です」

 

「良くやった、藤原」

 

「もこたん凄い!お手柄!」

 

 まるでカラスに啄まれる青虫のように脳無は捕らえられた。脳無の胴体はダルマ状態で『超再生』と釣り合うように焼かれ続けており、自慢の『パワー』を振るう腕すら作り出すことも出来ない。

 脳無は火の鳥のクチバシからフード頭だけを出して、途切れ途切れの潰れた声を上げるだけだった。

 

「オ…オ…!」

 

「いやー、良かった。でもエンデヴァーさん、作戦なら先に言っといてくださいよ。プロミネンスの時、俺メチャ焦ったんスけど」

 

「『不死鳥』が炎熱完全耐性だと把握していただけだ。別に作戦を立てていた訳ではない。だが、助かったぞ藤原。撃ちやすい方へ脳無をよく誘導してくれた」

 

 インターン生といえども妹紅は事務所ヒーローの一員。当然エンデヴァーは『不死鳥』の特性を把握しているし事前に試している。逆に、妹紅も彼の必殺技について聞かされており、連携の訓練もやっている。こういった戦闘のサポートはサイドキックとして至極当たり前のことだった。

 

「残るは白脳無か。ホークス、羽根は飛ばしているな?」

 

「そりゃモチロン。排出された9体の白脳無それぞれに飛ばしていますよ。襲われそうになった民間人は羽根で避難させています。地元ヒーローたちが対応してくれている箇所もありますが、戦況はあまり良くないみたいですね」

 

「オ…!」

 

 ホークスのおかげで現在のところ人的被害は出ていない。しかし、白脳無といえども一般ヒーローには強敵だ。エンデヴァーは頷いた。

 

「俺たち2人で手分けして迎撃するぞ。藤原はこの脳無の見張りを……なんだ?」

 

「どうかしましたか?」

 

 しかし、ここでエンデヴァーが違和感に気付いた。捕らえられ焼かれ続け、もうどうしようもないはずの脳無がコチラを見ながら満面の笑みを浮かべていたのだ。

 

「おモ…面白イ…!」

 

 肩部にあったはずの『ジェット機構』がいつの間にか後頭部に再生されており、それが勢いよく噴かされる。脳無の頭は首から千切れ、そのままの勢いで吹っ飛んでいった。

 

「自殺した…?」

 

「情報を秘匿するため…ですかね?」

 

「…いや違う。クソ、まんまと騙された。ヤツめ、頭だけでも『超再生』できるのか…!」

 

 秘密保持のための自殺なのだと誰もが考える。しかし、その思い込みがヒーローたちの判断を遅らせた。脳無の弱点は“脳”であり、“頭部そのもの”ではないのだ。頭部のみで脱出というまさかの緊急離脱手段と、そこからの『超再生』。こちらの目的は捕縛であり、殺すような攻撃はしてこないと理解した故の行動だった。

 このことを見抜けなかった妹紅は悔やむ。そして2人に謝罪した。

 

「すみません、油断しました。私も数秒程度なら頭部だけになっても意識を保てます。私の場合そこから『不死鳥』で再生しますが、脳無なら『超再生』だけで同じ様なことが出来ると考えておくべきでした」

 

「ぬ…、う、うむ…。あー…あれだ、気にするな。責任は作戦を指示した俺にある。俺の油断だ。お前のミスではない」

 

「実体験…?え、一時期頻繁に自爆してバラバラに飛び散っていたことあるから割と詳しい?そっかぁ…。よし、この事件片付いたらまた3人でご飯に行こうか!ほら水炊き!水炊きの美味しい店まだ紹介してないからさ!」

 

 人は首だけになっても数秒は生きていけるのだという豆知識を聞いて、ドン引きしながらも妹紅へのフォローを忘れないトップヒーローたち。流石である。

 しかし、脳無という脅威はまだ消えていない。妹紅たちの視線の先で脳無は再生を終え、既に戦闘態勢を整えていた。

 

「もっトもッと…!モッと激シいタ戦いヲ…!」

 

 脳無は笑いながらそう叫んだ。ただ戦う為に、強者との死闘を求めて脳無は笑う。

 無論、この程度で気圧される者など3人の中には居ない。しかし、それでもこの脳無が厄介であることには違いなかった。

 

「しっかし、火の鳥でも拘束が難しいとなると手段が無いですね。頭ごと拘束すると多分焼き殺しちゃいますし、どうしましょうか?」

 

「お前のサイドキックや地元ヒーローに拘束系個性の者は?」

 

「何人か居ますけど、この脳無相手じゃ無理ですよ。発動条件満たす前に殺されかねません。というか拘束個性が決まってもまた抜け出されるということも考えられます。なんなら他にも個性隠している可能性もありますしね、コイツ」

 

 ホークスの言う通り、拘束手段が無い。仮にそこをクリアしたとしても護送が難しいし、収監も難しい。僅かでも隙があると首を千切って逃げ、体力も『超再生』もほぼ無限という有様。更に個性の数も不明。はっきり言ってどうしようもない。

 そんな追い詰められた状況にエンデヴァーは溜息を吐いた。

 

「仕方ない…。()るぞ」

 

「幸い…って言っちゃうと不謹慎ですけど、脳無は『人間の遺体を改造した操り人形』です。生きた人間ではないというのが警察の公式スタンスですね。とはいえ…」

 

 ホークスがそう言いつつ視線だけを動かして妹紅を見た。彼女が覚悟を決めていることは理解の上だが、それでも未成年(こども)に遺体の焼却処分など率先してやらせることではない。全ての責任は自分たち大人が背負うべきだと彼は考えていた。

 エンデヴァーもそれを察すると当然のように頷いた。

 

「ああ、この脳無は俺たちで始末をつける。藤原、お前は排出された白脳無を倒し、撃破後は避難する人々の最後尾を守れ。ここから街の様子を見る限り、避難が予想よりもかなり遅れている。恐らく蔓延っていた恐怖によって混乱が生じているのだろう…」

 

 エンデヴァーは脳無を見据えながら妹紅に語りかけた。

 ホークスの『剛翼』のおかげで死傷者や重傷者は出ていないが、避難している人々はそんなこと知りもしないのだ。それどころかエンデヴァーや妹紅が福岡入りしていることすら知らない者も多い。“脳無がすぐ後ろまで迫って来ているかもしれない”、“もしかしたら自分の背後では既に死体の山ができているかもしれない”。そんな恐怖に追われながら必死に逃げていた。

 更に、排出された白脳無によって恐怖が恐怖を呼び、避難の最後尾では集団パニックも起きている。白脳無だろうが黒脳無だろうが、一般人の彼らが知っている脳無とは神野区で妹紅と死闘を繰り広げたあの(USJ)脳無のみ。

 その恐怖が警察や地元ヒーローたちの避難誘導すら呑み込んでしまうほどの大混乱を引き起こしてしまったのである。

 

 ならば誰が適任か。スピード、火力、手数という白脳無の撃破に最適な個性を持ち、対脳無としての絶大な信頼を人々から既に得ている人物はこの中の誰か。

 エンデヴァーは力強く叫んだ。

 

「示せ、もこたん!怯える人々に“お前が来た”ということを見せつけてやれ!」

 

「…はいッ!」

 

 エンデヴァーの檄を受けて妹紅は飛んだ。白脳無を撃破するため、人々を恐怖から守るために炎翼を広げて全速力で空を(かけ)ていく。

 そんな妹紅の後ろ姿を満足げに見送っていたホークスだったが、唐突にあることを思い出してニヤニヤと笑いだした。

 

「エンデヴァーはそんな気遣いせん!…でしたっけ?」

 

「焼くぞ貴様ァ…!」

 

 昼食前のファンサービス中に出会ったエンデヴァーの大ファン、通称エンデヴァーガチ勢の少年の言葉を引用してホークスは彼をからかった。

 ただでさえ初めての“もこたん”呼びで内心恥ずかしかったというのに、その上この冷やかしである。エンデヴァーは怒り顔で言い返すが、ホークスはどこ吹く風という感じだった。

 

「冗談ですって。格好良かったですよ。まぁ、でも俺たちトップヒーローなんですから、もっと格好良いとこ見せなきゃいけないんですけどね」

 

「ふん、当たり前だ」

 

 エンデヴァーは鼻を鳴らして応える。

 戦闘は妹紅を欠いた状態で振り出しに戻ってしまった。しかし、強個体脳無(スーパーヴィラン)に勝てるヒーローは妹紅やオールマイトだけに非ず。プロヒーローの頂点としてエンデヴァーやホークスも人々に希望を示さなければならないのである。

 

「もット…モもっと強くク…!…強サを!!」

 

 飛び去った妹紅の不意打ちを警戒していた脳無も痺れを切らし、大きく叫びながら襲いかかってきた。

 だが、日本を担うトップヒーローたちに焦りはない。手加減無用の全力全開で脳無を迎え撃つ。

 

「行くぞホークス。俺に合わせろ」

 

「任せてくださいエンデヴァーさん!」

 

 2人は肩を並べ、そして勝利を目指す。

 




妹紅VSハイエンド脳無(フードちゃん)
 USJ脳無と同じく強敵で、更に薬物耐性あり。捕縛はかなり厳しい。ただし、捕縛ではなく殺害前提の戦闘なら妹紅との相性は良いので、周囲の被害さえ目を瞑れば簡単に倒せます。しかし殺害(破壊)という汚れ仕事になり、報道ヘリも絶賛中継中なのでエンデヴァーとホークスは妹紅を離脱させました。もちろん人々の避難も重要な役目です。避難が済まないとフードちゃんを殺しきるような大技も使いにくいですし。
 なお、妹紅的には「破壊前提なら私でも勝てるし、エンデヴァー先生なら楽勝っしょ!」って感じで全く心配していません。期待が重いぞ!頑張れエンデヴァー!

ホークス
 憧れのエンデヴァーと肩を並べた共闘ができて内心ちょっと嬉しい人。でも、実は罪悪感で一杯。
 虐待家庭で鳥個性という共通点で妹紅にかなりシンパシーを感じている。福岡の美味しい物を沢山食べさせてあげたいと思っている模様。
 妹紅には珍しく、目上なのに「ホークス」と呼び捨て。妹紅が「ホークス先生」と呼んで、「呼び捨てでイイよ~。あ、エンデヴァーさん。俺もエンデヴァー先生って呼んでいいスか?」というやり取りを入れる予定でしたが、入れる場所がなくカットになりました。

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