もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

72 / 92
はんたー様からこの作品のファンアートをいただきました。
雄英の制服を着た妹紅が素晴らしすぎるイラストです。
はんたー様、ありがとうございます!

【挿絵表示】



もこたんとビッグ3

「御迷惑おかけしました!」

 

「デクくん、オツトメご苦労様!」

 

 始業式から3日後。爆豪より一足先に緑谷の謹慎が解かれた。教室内で深々と頭を下げて皆に謝罪する緑谷は並々ならぬ気合いが入っており、謹慎中につけられた差を取り戻すのだと息巻いていた。地味な見た目に反して、相変わらず熱い男である。

 

「おはよう、皆」

 

「「「おはようございます、相澤先生!」」」

 

 本鈴のチャイムが鳴り、相澤がやって来る。

 今日の一限はLHR(ロングホームルーム)だ。毎朝のSHR(ショートホームルーム)では伝えきれない内容をここで話したり、特別な座学授業などを行ったりする。クラスの委員長を決めたり、ヒーローネームを考えたりしていた時間なども、この授業内でやっていた。

 

「緑谷も戻ったところで本格的にインターンの話をするぞ。入っておいで」

 

「ん?」

 

 朝の挨拶もほどほどに、相澤は教室のドアの向こうに呼びかける。すると、待っていましたとばかりにドアが開いた。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか。直に経験している人間から話してもらう。多忙な中、都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名。通称ビッグ3の皆だ」

 

 現われたのは3人の生徒たち。順に、ガッシリとした筋肉質の金髪の男子、捻れた水色のロングヘアの女子、細身で猫背の黒髪の男子である。

 ヒーロー科のある全国の高校の中で、頂点に燦然と輝く雄英高校。その中でも、更なる頂点に位置する生徒たち、ビッグ3。それが彼らだった。

 

「雄英生の頂点、ビッグ3…。的な人たちがいるとは聞いてたけど、あの人たちが…!」

 

「びっぐすりー!」

 

「だけど、めっちゃキレーな人もいるし、そんな感じには見えねー…よな?」

 

 彼らの登場に息を飲むA組の者たちだが、同時に疑問を感じるところもあった。1年生の彼らとはいえ、雄英体育祭の上位入賞者くらい全学年チェックはしているのだ。というか、ニュースでもワイドショーでもガンガン放送されるのだから嫌でも目に付く。(ただし、今年は妹紅たち1年生が主役だった)

 だというのに、彼ら3人については見覚えがなかった。それはつまり、体育祭で優勝するどころか上位入賞すらしていなかったということだ。そんな彼らがビッグ3というのだから、A組の困惑も当然だった。

 

「あの金髪のガチムチ…。確かどこかで…う、頭が…!」

 

「大丈夫か?」

 

 ただし、峰田は何かを思い出しかかっているらしく、地味に頭を抱えていた。右隣の席にいる轟が心配するも、残念ながら男子の思いやりでは回復しなかったようだ。

 しかし、ビッグ3の先輩女子を見た瞬間、勝手に甦っていたので心配するだけ本当に損である。

 

「じゃあ、手短に自己紹介してくれ。天喰から」

 

 相澤が黒髪の男子にそう促した。その瞬間、天喰と呼ばれた彼はギロリとA組の面々を睨む。ただ一瞥するだけで凄まじいプレッシャーだった。妹紅も含め、皆が彼の迫力に押されている。『これが俺たちビッグ3の力だ!』と叩き込まれた気分だった。

 しかし、彼は次第にカタカタと震え始め、クルリと背を向けてしまった。

 

「駄目だ、ミリオ…波動さん…。ジャガイモだと思って臨んでも…頭部以外が人間のままで依然人間にしか見えない。どうしたらいい…言葉が出て来ない…。頭が真っ白だ…辛いっ…!帰りたい…!」

 

 天喰が急に泣き言を口にし始めた。どうやら視線がキツくなっていたのは、ただ緊張し過ぎてしまっていただけらしい。猫背を更に丸めて黒板の前で震えている彼の姿は、とてもじゃないが雄英最強の一角には見えない。

 あまりにも残念な様子に、最前列に席がある尾白が思わずといった感じで尋ねた。

 

「あの…、雄英ヒーロー科のトップなんですよね…?」

 

「あ、聞いて聞いて。そういうのノミの心臓って言うんだって!人間なのにね!不思議!彼は天喰(あまじき)(たまき)。それで私が波動ねじれ。こっちは通形ミリオ。今日は校外活動(インターン)について皆にお話してほしいと頼まれてきました!」

 

 何も喋れなくなった天喰に代わり、紅一点の波動が説明を始める。妹紅たちが『あ、この人はちゃんとしている』と思ったのも束の間、彼女の話は一瞬で脱線していった。

 

「ねぇねぇ、ところで君は何でマスクを?風邪?オシャレ?」

 

「これは昔に…」

 

 尾白と同じく最前列に席がある障子に、波動は声をかけた。確かに、障子は常に口元を隠すマスクをかけている。それは過去のとある出来事が原因なのだが、彼がそれを話す前に波動の興味は既に別なモノに移っていた。

 

「あと、あなた轟くんだよね!?ね!?何でそんなところを火傷したの?」

 

「…ッ!?それは…」

 

 障子の次は轟。しかし、その質問は中々キツかった。彼の火傷は父エンデヴァーのせいで精神的に不安定になった母親に熱湯をかけられた時のものだ。それによって母は精神病院に入院して、轟とは引き離されてしまった。以来、彼はその原因となったエンデヴァーを強く憎んでいたのである。

 そのことを知っている者は緑谷と妹紅、そして今は謹慎中でここには居ない爆豪の3人のみ。しかし、理由を知らないクラスメイトたちも何か察するところがあったのか、遠慮して深く尋ねることはなかったのである。

 だが、波動にそんな遠慮心など存在してなかった。そして何より、彼女は疑問を口にしているだけで、別に回答を求めている訳ではなかったのだ。

 

「芦戸さんはその角折れちゃったら生えてくる?動くの?峰田くんのボールみたいなのは髪の毛?散髪はどうやるの?蛙吹さんはアマガエル?ヒキガエルじゃないよね?もこたんはリボンまで再生するのは何で?リボンしたまま産まれてきたの?どの子も皆気になるところばかり!不思議!」

 

「天然っぽ~い。かわいー!」

 

「幼稚園児みたいだ」

 

「オイラの玉が気になるって、ちょっとちょっとー!?セクハラですって先パァイ!」

 

「違うよ」

 

 純粋無垢といった様子の波動に、上鳴や芦戸はホッコリと癒される。先輩というより年下の様な雰囲気だった。

 そして、玉について聞かれた峰田はタマ(・・)を押さえつつ大興奮していた。瀬呂のツッコミも八百万のドン引きの視線もなんのその。“この先輩はオイラに気があるな!”と勝手に得心していた。無論、そんな訳がない。

 

「…合理性に欠くね?」

 

「イ、イレイザーヘッド!安心して下さい、大トリは俺なんだよね!前途ー!?」

 

 全く話が進まないこの有様に、イレイザーヘッドの機嫌も悪くなる。これに慌てた通形が前に出て、いきなり耳に手を当てて皆に尋ねた。しかし、妹紅も含めて全員が“ゼント”という謎の掛け声に困惑している。すると、通形は大声で笑い始めた。

 

「多難ー!っつってね!よぉし、ツカミは大失敗だ!ハッハッハッハ!」

 

 本当に前途多難である。既に、クラス内では本当に彼らがビッグ3なのか疑問視しており、近くの席の友人たちとコソコソ話を交わしていた。

 

「3人とも変だよな…。ビッグ3という割には、なんかさ…」

 

「風格が感じられん。我がクラスの上位3名の方が、まだ強者のオーラを纏っている」

 

 砂藤が控え目に言う一方で、常闇などは辛辣だった。ビッグ3である以上、もっと威厳を持って然るべきなのだ。彼は何事も形から入るタイプなので余計そう思ったに違いない。

 そんな皆の思考を読み取ったのか、通形も笑うのを止めて真面目な顔になった。

 

「まァ、何が何やらって顔してるよね。必修ってわけでもないインターンの説明に、突如現われた3年生だもの。そりゃ無理もないよね。今年の1年生って凄く元気があるし、そうだねぇ…。何やらスベり倒してしまったようだし、君たちまとめて俺と戦ってみようよ!」

 

「「「え…ええ!?」」」

 

 突然の模擬戦の提案にA組の者たちは面食らう。まさかビッグ3と戦うことになるとは一切思っていなかった。

 

「俺たちの“経験”をその身で経験した方が合理的でしょう?どうでしょうね、イレイザーヘッド!」

 

「……好きにしな」

 

 自信満々の通形の提案を相澤も止めることなく許可した。皆、困惑しつつも制服から体操服に着替えて体育館γ(ガンマ)へと向かう。妹紅たちが到着した時には通形たちも体操服に着替えて体育館に来ていた。

 

 

「あの…マジすか?」

 

「マジだよね!」

 

 グッグッと柔軟体操を行う通形に、瀬呂が遠慮がちに尋ねた。“本当に模擬戦するんですか?”という意味ではない。“本当に1人でA組全員と模擬戦するつもりですか?”ということなのだ。だが、彼は本気のようだった。

 

「ミリオ、やめた方が良い…。形式的に『こういう具合でとても有意義です』と語るだけで充分だ。皆が皆上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

「あ、聞いて。昔、挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子いたんだよ、知ってた?大変だよねぇ、通形もちゃんと考えないと辛いよ、これは辛いよー」

 

 しかし、瀬呂たちとは裏腹に、天喰と波動の心配はむしろ後輩たちに向けられている。通形と同じビッグ3である彼らはそれだけの戦力差があることを理解しているということだった。

 

「…あの、波動先輩?」

 

 そんな中、妹紅が珍しく困った声を上げた。先程から波動が妹紅のリボンを弄っているのだ。リボンを解いて新しいリボンが再生してくる度に彼女は目を輝かせていた。

 

「すごい、本当に何枚でもリボンが出て来る!ねぇねぇもこたん、これ貰っていい?」

 

「良いですけど…。私のリボン不燃性なので、捨てるときは不燃ゴミに入れて下さい」

 

「やったぁ!捨てないから大丈夫!」

 

 波動はそう言って御機嫌な様子で妹紅のリボンを次々に回収し始めた。妹紅はされるがままだ。

 そんな彼女たちはさておき、切島や常闇などの面々は天喰たちの言葉に些かの苛立ちを覚えていた。しかし、それは通形たちに対してではない。己に対してのものだ。

 

「俺たちが弱ェってのは十分に理解してるっスよ…!」

 

「故に訓練を重ねてきたのだ…!我らの今の力、雄英の頂点を相手に測らせていただく…!」

 

 USJ襲撃ではチンピラを撃破したものの真のヴィランといえる死柄木や黒霧を逃してしまい、後の脅威を生み出してしまった。夏休みの合宿襲撃ではヴィランにクラスメイトを拉致されてしまった。個々の戦闘では勝利した者もいるが、全体の結果はどうしようもないほどの惨敗である。

 無論、一生徒である彼らにこれらの責任は一切無い。だが、『あの時の自分がもっと強ければ…!』という後悔は全員が持っており、その為に訓練を重ねていたのだった。

 

「うん、良い顔だ。いつどこから何人で来てもいいよね。さぁ先陣を切るのは誰だ!」

 

「よぅし…!」

 

 常闇たちだけでなく、他の者たちのボルテージも上がっていく。お望み通り力を見せつけてやると切島が一番手を名乗り上げようとしたところ、背後から現われた緑谷が先に応えた。

 

「僕…行きます!」

 

「意外な緑谷!」

 

「お、問題児!皆元気だけど、君が一番元気あるなぁ!」

 

 謹慎3日間でついた差を取り戻すのだと気炎を揚げていた緑谷が先頭に立つ。身体強化に特化した彼の個性はかなり強力だ。しかも、そんな彼の後ろには切島や飯田など近接隊が7名。更に後方には常闇や瀬呂など中遠距離の後衛隊が9名も備えている。

 錚々たる布陣。しかもクラスメイトである彼らは連携力も高い。そして、相手がたった1人だとしても一切の油断もなかった。

 

「近接隊は一斉に囲んだろうぜ!後衛隊は援護射撃を頼んだ!よっしゃ先輩、そいじゃーご指導よろしくお願いしまーっす!」

 

 切島の挨拶と同時に緑谷が全身をフルカウルで強化して駆け出す。先手必勝を狙うつもりだろう。しかし、次の瞬間。通形の衣類が何故かハラリと落ちた。

 

「あー!?今、服が落ちた!?」

 

「ああ、失礼。調整が難しくてね!」

 

 耳郎が顔を真っ赤にして叫ぶ。下着まで全て落ちてしまった彼は慌てて下着とズボンを履き直していた。

 そんな隙だらけの通形に緑谷は顔面蹴りを放つ。しかし、その蹴りは彼の顔を通り抜けて空振ってしまった。続く後方からの遠距離攻撃も全てすり抜けてしまい、気付けば通形の姿はその場から消えていた。

 

「いないぞ!?」

 

「まずは遠距離持ちだよね!」

 

 対象が消えたことに飯田が声を上げる。だが、それに呼応するように通形の声が後方から聞こえた。最前線に居たはずの彼が、後衛隊の背後を取るように現われたのである。

 

「ワープした!?すり抜けるだけじゃねぇのか!?」

 

 切島が疑問の声を上げながらも遠距離隊を助けるために動こうとする。しかし、時既に遅し。遠距離隊の9名は通形のボディブローを受けて、僅か数秒足らずで全滅してしまったのだ。

 

「僅かでも反応できていたのが数名!初見だったはずなのに驚いた!1年生にしてはかなり鍛えられていると思うんだよね!」

 

「ふ、不覚…!」

 

「ぐ…!」

 

「奇襲は警戒していましたのに…!」

 

 撃破は一瞬。だが常闇や障子、八百万などが初見の奇襲に僅かでも抵抗できていたことに通形は驚いていた。

 それもそのはず、彼らはヴィランの奇襲によって友を拉致された苦い経験がある。常闇と障子は一瞬の隙を突かれて爆豪を密かに拉致され、八百万は背後からトゥワイスに殴打されて気絶している内に妹紅を拉致された。

 だからこそ奇襲には特に警戒していたのだが、通形の拳は防御をすり抜けて腹部に届いた。この相手がヴィラン連合であったならば、彼らは再び友を拉致されてしまっていただろう。それが悔しくて堪らなかった。

 

「お前たち。良い機会だから、しっかり揉んでもらえ。そいつは…通形ミリオは俺の知る限り最も№1に近い男だぞ。プロも含めてな」

 

 相澤が教え子たちに向けて言い放つ。それなら半壊する前に教えてくれよという話ではあるが、最大限の警戒を持ってしても防げなかった以上どうしようもない。本当に通形は強かったのである。

 これには相澤の隣で模擬戦を見守っていた轟も、驚きを隠せないでいた。

 

「一瞬でクラスの半数が…!」

 

「轟、お前は行かないのか?№1に興味ない訳じゃないだろ」

 

「俺は仮免取ってないんで…」

 

「…そうか」

 

 相澤は轟の大人しい返答に“丸くなりやがって…”と内心で呟いた。

 入学当初のガンギマリ轟くんは何処に行ってしまったのやら。あの頃の彼は危うさを大きく秘めていたが、餓狼の様な貪欲さもあった。ヒーローとしては今の落ち着いた性格の方が好ましいかもしれないが、それでも更なる研鑽のためには多少の貪欲さもヒーローには必要なのだ。

 そんな轟はさておき、この模擬戦に参加していない生徒はもう1人居た。妹紅である。

 

「で、藤原は?」

 

「いやあの、波動先輩が放してくれなくて…」

 

 妹紅としては参戦する気マンマンなのだが、模擬戦そっちのけでリボンを回収している波動が解放してくれないのである。頭頂部の大きなリボンも、長い髪の節々についている小さなリボンも、彼女はまるで葉物野菜の収穫のようにモッサモッサと回収していた。

 

「波動先輩、そろそろ良いですか?」

 

「待ってね、あのね、あと5枚は必要だから!有弓(ゆうゆ)の分でしょ、クラスの女子たちの分でしょ。それに普通科とサポート科と、あとね、あとね!」

 

 どうやら自分の分だけではなく友人全員の分も欲しいらしい。既に大量のリボンを確保しており天喰が荷物持ちと化しているが、それでもまだ足りないという。ヒーロー科だけでなく他学科にも友人が多いのだろう。

 妹紅には想像できないほどのコミュニケーション能力だが、そこを羨んでいても仕方ないので彼女はリボンを毟られながらクラスメイトに声をかけた。

 

「…切島、全身を固めろ!『すり抜け』にしろ『ワープ』にしろ、相手の攻撃は素手による殴打のみ。お前の『硬化』が最も相性が良い筈だ!」

 

「おお、確かに!アドバイスありがとな、藤原!オッラァ!」

 

 拳だけを固めていた切島は、妹紅のアドバイスで全身を固めた。

 切島は『安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)』という全身を最高硬度で固める必殺技を持つが、その維持は今のところ30~40秒程度が限界であり、身体も軋んで動きが鈍くなってしまう。

 故に、彼は通常の『硬化』で全身を固めた。無論、通常の硬度であっても素手相手ならば十分過ぎる防御力を持つ。切島はこれをもって通形に挑んだ。

 

「防御系の個性!確かに厄介だよね!でも…必殺『ねこだまし』!」

 

「うッ!?」

 

 切島が殴りかかる。しかし、彼の攻撃はスカされてしまった。代わりに目の前で手を強く叩かれて切島は一瞬怯んでしまう。それが通形の狙いだった。

 

「驚きで一瞬だけ『硬化』が緩んだよね!」

 

「ぐぇ!?」

 

 刹那のタイミングを見極めて通形はボディブローを叩き込んだ。切島のような発動型の個性は集中力を欠けば精彩も欠く。通形はインターンでそういった個性を持つヴィランとの戦闘も多く経験しており、それ故に対処法は熟知していたのである。

 

「切島くん!?」

 

「よそ見はダメだよね!」

 

 防御型の個性『硬化』ですら簡単に破られたことに緑谷が驚きの声をあげると、その隙を突いて通形は背後へとワープする。

 そのまま緑谷が撃破されるかと思いきや、彼はまるで予知していたかのように背後に鋭い蹴りを放った。切島を心配する素振りは本心からだが、それは同時に通形を釣る餌でもあったのだ。

 

「俺の攻撃を誘う為のブラフだったのかな!?だが、甘いよね!必殺『ブラインドタッチ目潰し』!」

 

「うッ!?」

 

 罠を張って相手の動きを予測する。緑谷の作戦は見事なものだったが、通形の強さは更なる高みにあった。

 緑谷の蹴りを簡単にすり抜けると、通形は指を緑谷の眼球に突っ込む。これには緑谷も反射的に目を瞑ってしまうが、その指は緑谷の顔をもすり抜けていった。そして、次の瞬間に通形は鋭いボディブローを打ち込む。その破壊力に緑谷は悶絶した。

 

「良い策だった!でも、多くの相手はそういったカウンターを画策するんだよね。ならば当然、そいつを狩る訓練!するさ!」

 

 通形が言い放った。

 直接攻撃をされているのだから、その瞬間だけはコチラも攻撃が出来る。それが通形の個性の欠点だというのならば、そんなところは補っていて当然。緑谷はそこまで予想するべきだったのだ。

 

「通形先輩…、確かに強い。先生の言う通り№1に最も近い人だと思います。トッププロを除いた(・・・・・・・・・)プロの中では、ですが」

 

「…気付いていたか。まぁ、お前はエンデヴァーのところに行っていたから、そのくらいは分かるか」

 

 切島と緑谷がやられた後は、残っていた近接隊たちも次々に倒されていく。その様子を見ながら妹紅が呟くと、相澤はガシガシと頭を掻いた。

 確かに通形は強い。戦闘力だけならヒーローランキングトップ10にも入れるだろう。しかし、そこまでだ。少なくとも彼の個性では『超再生』持ちの脳無などは倒せない。攻撃手段が素の身体能力に依存している時点で、何処かで限界を迎えるのではと思われるのだ。

 反対に、エンデヴァー・ベストジーニスト・エッジショット・ミルコなどは格上撃破(ジャイアントキリング)の可能性を残している。それだけでヒーローの順位を決めることは出来ないが、通形の総合力が彼らを超えているとも妹紅は思えなかった。

 無論、これは今の戦闘を見ただけで勝手に下した妹紅独自の判断である。しかし、妹紅の言葉を否定していないということは相澤も『(トップヒーローを除いた)プロヒーローを含めてNo.1に最も近い者』という意図があったのだろう。後は、A組の生徒たちに発破をかけるという側面もあったのかもしれない。

 

「天喰くん、大漁だよ!大きいリボンも小さいリボンも一杯!これ、すっごく可愛いね!」

 

「良かったね、波動さん…」

 

 A組が全滅してしまったところで波動の収穫作業も終わったようだ。これでようやく妹紅も参戦できる。

 図らずも1対1という形になってしまったが、そんな状況の中で妹紅はビッグ3の一角、通形ミリオへと挑むのであった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。