もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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死柄木「イカレたメンバーを紹介するぜ!」



もこたんと林間合宿 3

 神奈川県横浜市に神野という街がある。この街は繁華街として栄え、歓楽街も内包する賑やかな街だ。しかし、光あるところに影はあり。煌びやかに輝くネオンの裏には、深く暗い影が潜んでいた。

 

「俺たちヴィラン連合は、雄英に再び襲撃をかける。お前たちはその手伝いをしろ」

 

 とある雑居ビルに入っている小洒落たバー。ヴィラン連合のアジトでもあるこの場所で、死柄木は複数の男女の前でそう言った。彼等は闇のブローカー、義爛(ギラン)の紹介で集まった者たちで、数は9人。人数こそ少ないが、中には脱獄死刑囚や凶悪指名手配犯といった者たちも含まれており、並外れた危険度を持つ集団となっていた。

 

「わざわざ学校を襲う目的は?」

 

「この歪んだ超人社会に真実を問うためだ。ヒーローとは何か。正義とは何か。この社会は本当に正しいのか否か。民衆1人1人を真剣に考えさせるには、今ある“ヒーローへの信頼”を揺るがすような大事件が必要だ。多少の犠牲が出ようとも、俺たちはそれをやらなくてはならない…。ヒーロー殺しのようにな」

 

「…ふん、まあいい。とりあえずは従ってやる」

 

 火傷の皮膚をツギハギにした黒髪の男、荼毘が襲撃の目的を問う。荼毘がヴィラン連合に加入したのはステインの意思を全うするためであり、それ以外の理由は微塵も無いのだ。故に、雄英襲撃の理由が馬鹿馬鹿しいものであれば、荼毘はこの場から去るつもりだった。

 しかし、今回の死柄木の言葉にはそれなりの説得力があった。恐らくは上辺だけ取り繕っているのであろうが、襲撃に成功すれば結果としてステインの教えが社会に浸透するだろう。そのため、荼毘は反抗的ながらも参戦を表明した。

 また、これには同じくステインに惹かれてヴィラン連合に加入していたスピナーと渡我被身子(トガヒミコ)も同意していた。

 

「ステインの御意向に沿うというのであれば、俺に否やは無い!」

 

「よく分かんないですけど、ステ様になれるってことですか?」

 

「…ああ、そんな感じだ」

 

「わーい、やります!それに楽しそうです!」

 

 スピナーは腕を組みながら満足気な表情を見せており、トガは狂気的な笑みを無邪気に振りまいて喜んでいた。ステイン信仰者の中で、頭が回るのはせいぜい荼毘1人。こんな奴等の為にわざわざ言い訳を考えてきたなんて馬鹿馬鹿しいが、利用するためにはしょうがない。死柄木はそう思う事にした。

 

「主義主張は別にどうでもいいよ。それで、僕たちは何をすればいいの?」

 

 カウンターに座り、そんな様子を見ていた少年が頬杖をつきながら言った。少年の(ヴィランネーム)はマスタード。ストレス発散の為に連合に加入した若きヴィランである。

 実は、先の3名を除き、その他の加入者たちはステインに興味が無かった。マスタードのようにストレス発散の為であったり、己の欲望を満たす為、自由を求める為、真の仲間を求める為と理由は様々だ。その代わり、彼等にはステイン信仰者のような面倒臭さは無い。利と欲で動かせるので、死柄木としては非常に扱いやすいのだ。

 

「主目標は3つ。藤原妹紅の拉致。プロヒーロー、ラグドールの拉致。爆豪勝己の拉致。この3点だが、最も優先すべきは…藤原妹紅。この白いガキだ」

 

「あの体育祭の優勝者ね…。ちょっと、これホント…?蘇生能力持ちって書いてあるわよ」

 

 死柄木の説明と共に、黒霧が全員の手元に資料を送る。この資料には妹紅の個性の秘密からUSJでの戦い方まで事細かに記載されていた。他の拉致対象者(ターゲット)であるラグドールや爆豪の資料に比べて数倍の量がある。それだけ妹紅の拉致に重点を置いているということだ。

 その資料を見て、ガタイの良い男が女性言葉で疑問の声を上げた。彼女はマグネ。いわゆるオカマであるが、強盗致傷9件に、殺人3件、殺人未遂29件で指名手配されている凶悪犯でもあった。

 なお、そんな彼女であるが、この中では割と常識人なタイプである。それだけでもこの集団のヤバさがうかがい知れるだろう。

 

「本当だ。何度殺しても生き返る。だが、最も恐ろしいのは何度死のうが戦闘を続けようとするその精神性だ。正面から襲おうと思うな。意識外から奇襲しろ」

 

「ふぅん、才色兼備で超強力な個性持ちかぁ。ムカつくなぁ」

 

 死柄木の言葉を聞いて、イライラとしながらもマスタードは資料を読んでいく。そして己の個性では敵わないことを理解して、更にイラついた。マスタードの個性は『ガス』。彼がガスを散布しても、恐らく妹紅は空を飛んで回避するだろうし、彼のガスは身体から放出されるので、上空から見ると居場所がすぐに看破されてしまうのだ。

 しかし、不愉快を感じているのはマスタードくらいで、他の者たちにそういう感情は湧いていない。むしろ、イカレている連中を筆頭に興奮しているくらいだった。

 

「真っ白でカァイイです!でも、真っ赤に染まれば、もっとカァイクなると思います!」

 

「拉致ばっかで退屈だと思ったが、面白ぇやつも居るじゃねぇか!俺がミンチにして持って帰ってきてやるぜ!」

 

「白くてきれいだぁ。この子の断面が見たいぃ。見たいぃぃ!肉ぅう~!」

 

 トガは妹紅の写真を持って立ち上がり、踊るようにクルクルと回っているし、連続殺人犯のマスキュラーはチタン製のタンブラーを紙コップのように握り潰して笑っている。そして、脱獄死刑囚のムーンフィッシュは妹紅の写真に『歯刃』を突き立てて喚いていた。

 黒霧の『バーカウンターを傷つけるのは止めて下さい!あああ!本当に止めて下さい!』という悲痛な声を無視して、ムーンフィッシュはザクザクとカウンターごと写真を切り刻むものだから、すぐに『ワープゲート』で床に転がされ、資料を取り上げられたのは当然と言えよう。

 

「正面からヤるなと今言っただろうが。マスキュラーとムーンフィッシュでは相性が悪いし、目立ちすぎる。それにコイツと爆豪は仲間に引き入れたいから、今は出来るだけ危害を加えたくない。とりあえず藤原妹紅の拉致はトゥワイスとトガに任せた。必要な道具はこっちで用意してやる」

 

「女の子を浚って手駒にするとか正直ヒくぜ死柄木!熟女なら話は別だがな!ちくわ大明神!女子高生をお持ち帰りとか最高じゃねぇか!俺に任せとけ!きっちり拉致ってやる!誰だ今の!?」

 

「分かりました!ステ様になるために頑張ります!」

 

 『不死鳥』を攻略するのに戦闘に秀でた個性は要らない。やろうと思えば、トガ1人だけでも妹紅を無力化させる事は可能なのだ。そこに、個性『二倍』を持つトゥワイスを加えたのは戦術に幅を持たせるために過ぎない。また、状況に応じて他のメンバーを加えれば、拉致は更に楽になるだろう。

 

「んだよ、つまんねぇな!」

 

「白い肉ぅ…」

 

 落胆するマスキュラーとムーンフィッシュ。だが、この2人はこの集団の中でトップクラスの戦闘力を誇る。死柄木はそれを遊ばせておく気など微塵も無かった。

 

「そう落胆するな。お前たちには現場の撹乱という大事な仕事がある。ヒーロー、教師、生徒。ターゲット以外なら何でもいい。その時が来れば何人でも殺させてやる。特に、コイツらを見かけたら優先的に殺しとけ」

 

「ははは、そりゃ楽しみだ!今から疼いちまうぜ!」

 

「肉ぅ!子どもの肉ぅぅ!はぁはぁはぁ!」

 

 死柄木の手には緑谷と轟の写真があった。彼等が雄英を卒業してプロヒーローになったら、さぞ鬱陶しい存在になるだろう。刈り取れるというのならば、早期に始末した方が後々の為になる。

 そんな獲物を何人でも殺せると聞いて、マスキュラーは鼻歌を歌うほどに上機嫌になった。酒を並べている棚(バックバー)から勝手にブランデーを手に取ると、ボトルのまま呑み始める。

 一方、ムーンフィッシュは歓喜の余り、涎を垂れ流しながら床を這いずり回っていた。舌舐めずりにしては多すぎるほどの涎を垂れ流しており、更にその上を這うものだから、床には巨大ナメクジ通ったような跡がどんどん残されていく。

 

「ああ、最高級のブランデーが…。ああ、私のバーの床が…」

 

 ガックリと肩を落とす黒霧を鼻で笑いつつ、死柄木はテーブルに地図を広げる。そこにマスキュラーとムーンフィッシュを除いたメンバーが集まってきた。作戦を聞こうともしない2人だが、別に構わない。彼等は粗雑に暴れ回るのが仕事だ。細かな作戦はどうせ伝わらないだろう。

 

「現在、ターゲットたちはド田舎の山の中で合宿中。生徒は合計40人。護衛は10人。内2人は雄英教師のイレイザーヘッドとブラドキングだ。そして救助系ヒーロー『ワイプシ』の4人。加えて正体不明の奴等が4人居るが、これは立ち振る舞いから見てプロヒーローとみて間違い無いだろう。個性も不明だからコイツらには脳無を何体か差し向けるつもりだ」

 

「ずいぶん詳しいわね。もしかしてスパイでも送り込んでいるのかしら?」

 

 彼等の合宿場所は極秘事項なのだから、マグネの疑問は尤もだ。そんな情報を容易く抜けるはずも無い。しかし、死柄木はそれを否定した。

 

「いいや、俺のスポンサーからの情報提供さ。おおかた、情報収集系の個性を持つ部下を使って状況を確認してるんだろ」

 

 死柄木が言うスポンサーとは、もちろんオールフォーワン(AFO)のことだ。スパイの話など一言も聞いていないので、恐らく過去に奪った個性を活用しているのだろう。

 因みに、当然ながらAFOについては彼等に話すことは出来ない。彼関連の説明をする時は少々誤魔化す必要があった。

 

「ふーん。じゃあ、チャンスが来ればそこから連絡が入って『ワープ』で襲撃っていう寸法な訳ね」

 

(“俺の”?ヴィラン連合のではなく、死柄木個人のスポンサーってことか?…そりゃ随分、物好きな輩も居るもんだな)

 

 マグネたちが納得する中、荼毘だけは僅かに違和感を覚えていたが、それはすぐに思考の隅に追いやられた。彼の後ろ盾が何であろうと荼毘はステインの意思を全うするだけで、他は全て些事なのである。

 

「襲撃はターゲットたちの行動次第だ。今晩かもしれないし、5日後になるかもしれない。何時でも出られるようにしておけ。マスキュラー、飲み過ぎるなよ。後、トゥワイスはトガをコピー出来るようにしておけ。トガも協力しろ。お前の個性は藤原妹紅拉致の要だからな」

 

「ガキの身体測っても面白くねぇっての!良いじゃねぇか!さぁ、おじさんと一緒に隣の部屋に行こう!」

 

「えー…」

 

 トゥワイスはトガを凝視しながら鼻息を荒くする。一方で、彼女は嫌そうにそれを見ていた。トゥワイスはヴィラン連合最後の加入者だ。つまり、顔を合わせたのは今日が初めて。更に言動も支離滅裂なので、彼女が警戒するのも無理はなかった。

 

「マグ姉、ついてきて欲しいのです」

 

「了解。アンタこの子に変なことしたら、玉を潰して(オカマ)とお揃いにするわよ」

 

「オゥ!そりゃ勘弁だぜ!それも有りかも知れないわ!ウッフン!」

 

 結局、女性同士?ということでマグネが監視役になることで話がついた。彼女はトガを守るためトゥワイスを脅すが、彼は暖簾に腕押しといった有様だ。身体にしな(・・)を作り、クネクネと身を捩らせながら隣の部屋に移動するトゥワイスの姿に、マグネは溜息を吐くのであった。

 

 

「それで、我らが大将はお留守番か?」

 

 トゥワイスの馬鹿らしい動きを笑って見送りながら、そう尋ねたのはシルクハットがトレードマークのMr.コンプレスだった。『圧縮』という拘束と携帯に秀でた彼の個性は、今回の襲撃でも重要になってくる。実際、現時点ではラグドールの拉致を担当していた。

 

「まさか。ちゃんとお仕事するぜ。お前たちが襲撃に勤しんでいる間、俺は東京拘置所に行ってくるのさ」

 

「なんだそりゃ。捕まりにでも行くのか?」

 

 コンプレスは大袈裟にリアクションを取りながら聞き返すと、死柄木は笑った。妹紅の写真を持ちながら楽しげに笑ってみせた。

 

「ハハハ。なぁに、盗られたオモチャは返してもらわないとなぁ」

 

 説得して仲間になるのであれば、それでいい。しかし、それでもなおヒーローを諦めないというのであれば―――心を壊してやろう。一片の光も残らないくらい徹底的に、無慈悲に、自分のように(・・・・・・)

 死柄木は静かに、そして凄絶に笑うのであった。

 

 

 

 

 

「取蔭だけど、入っていい?」

 

 ドアをノックする音と共に取蔭の声が聞こえてきた。夕食を終え、風呂も入り終わった今の時刻は午後8時。すなわち自由時間である。約束通り、B組の女子たちが来てくれたのだ。

 

「待ってたよー!さぁ入って入って!」

 

「お邪魔しま~す」

 

 取蔭を先頭に、拳藤、小大、塩崎、角取、小森、柳の7人がA組の女子部屋に入ってくる。既に部屋の中心には飲み物やお菓子などが置かれ、歓迎の準備は整っていた。

 

「どう座る?」

 

「輪になって座ろっか」

 

 せっかくだからクラスの隔てなく座ろう、ということになってA組B組関係無く車座になった。妹紅の左隣には小柄な体格の小森季乃子(きのこ)が座り、右隣には角取ポニーが座る。角取は日系アメリカ人らしく、英語混じりの片言の日本語を話していた。

 

「ほら、お菓子も一杯持って来たよ。唯、お願い」

 

「ん。解除」

 

 取蔭がビニール袋を取り出すと、皆の中心に置いた。掌サイズの小さなビニール袋だったが、小大が両手を合わせると元の大きさに戻る。小大の個性は『サイズ』。触れた物(生物以外)の大きさを変えることが出来る個性だ。

 取蔭がビニール袋をひっくり返すと、色々なお菓子が出て来る。定番のポテチやチョコなどもあったが、飴やガム、ラムネや小さなスナック菓子などといった駄菓子類も充実していた。

 

「おお、駄菓子も沢山ある!」

 

「懐かしいわ」

 

 駄菓子を見て、葉隠や蛙吹たちが懐かしむ声を上げる。妹紅としても寺子屋でいくつか食べたことがあった。近所のコンビニに駄菓子コーナーの棚があり、兄や姉がたまに買ってきてくれていたからだ。今では妹紅が弟や妹のために買ってやっており、よく慧音から“買いすぎだ!”と怒られたりしている。

 

「ん、これも」

 

「バラエティうま○棒30本セットだ!ナイスチョイス!分かってますなぁ!」

 

 小大はもう一つ取り出した菓子のサイズを元に戻した。10円スナック菓子の30本セットで、色々な味が入っている。普通なら嵩張りすぎて持って来にくいお菓子だが、小大の個性『サイズ』はそれを可能に出来る。かなり便利な個性だ。

 小大のセンスを絶賛する葉隠たち。しかし、八百万だけは不思議なモノを見るような表情だった。

 

「駄菓子…?うまい…?」

 

「ヤオモモ、もしかして駄菓子食べたことない?」

 

「え、マジで?」

 

 どうも八百万は駄菓子という存在を知らなかったらしい。B組の面々は驚いていたが、彼女の実家にも行ったことがある葉隠たちは一瞬で納得出来た。なにせ八百万家は日本でも有数の資産家だ。その辺の小金持ちや成金とは訳が違うのである。

 

「よし、後でヤオモモにはうま○棒の納豆味を味わっていただこう」

 

「え、ええ。頂きますわ…?」

 

 なので、駄菓子を食べさせたら、きっとピュアセレブな八百万は良いリアクションを取ってくれるだろう。他にも“3コに1コが酸っぱいガム”とか“食べるとメッチャ泡が出るラムネ”とか“口の中ではじけるキャンディが入ったわたあめ”とか、小大が持って来てくれた駄菓子は色々ある。八百万の反応を楽しみにしながら、芦戸と葉隠はニヨニヨと悪い笑みを浮かべるのであった。

 

「ジュースもあるけど、お茶もあるよー」

 

「お茶を頂きます」

 

「私はジュースかな」

 

「私も~」

 

 紙コップを回し、ジュースやお茶を注いでいく。全員に飲み物が回ったところで葉隠が音頭を取った。

 

「それじゃあ、女子会を始めましょー!かんぱーい!」

 

「イエーイ!」

 

 乾杯すると、早速ワイワイキャッキャとお喋りを始める。夜に同級生の女子だけで集まってお喋りをしているのだ。これが盛り上がらないはずが無い。

 

「女子が全員集まるって初めてだね!」

 

「物間の奴が変に対抗心燃やすせいで、A組に中々来られなかったからなー」

 

「鉄哲とか他の男子もそれに乗っかっちゃうしねぇ。さっきも何か騒いでたよ」

 

「ん」

 

 取蔭や拳藤が困ったような笑みを浮かべると、小大も無表情で同意する。彼女の無表情っぷりは鉄壁だ。妹紅や蛙吹をも越えているレベルである。

 

「男子はともかく、女子だけでも仲良くしよっ!ねぇねぇ、皆のヒーロー名を教えてよ!因みに、私は『インビジブルガール』!!」

 

「透明少女、分かりやすくて良いね。私も直球で『バトルフィスト』だよ」

 

「私は『VINE(ヴァイン)』。(つる)という意味です」

 

 続く取蔭は『リザーディ』、小森は『シーメイジ』、柳は『エミリー』、小大は『ルール』、そして角取は未定とのことだった。恐らく彼女は、日本だけでなくアメリカでもヒーロー活動する可能性あるので、ヒーロー名を保留にしているのだろう。どちらの国にでもウケる名前を考えるのは大変そうだ。

 そして、A組も次々に自分のヒーロー名を紹介していき、最後に妹紅の番になった。

 

「私のヒーロー名は――」

 

「あ、知ってる。『もこたん』でしょ?ニュースでやってたよ」

 

 言い切る前に拳藤が答えてくれた。更にB組の面々も頷いている。職場体験とはいえ、妹紅は体育祭で有名になった直後にNo.2ヒーローの事務所に行っている。なので、その時期の報道はかなり過熱していたのだ。

 妹紅は外部からの評価に興味がほとんど無いので、自分が報道されている番組をあまり見ていなかったのだが、彼女たちは見ていたようだ。

 

「やはり体育祭優勝者は知名度が段違いですわ。ヒーロー名や職場体験ですらトップニュースなのですから」

 

「いや、それ言ったらヤオモモと拳藤はCM出演じゃん。今も放送中だし」

 

 妹紅の知名度を自分のことのように喜ぶ八百万だったが、耳郎がそこにツッコミを入れる。彼女たちは人気ヒーロー『ウワバミ』の下でヘアスプレーのCMに出ており、現在も絶賛放送中である。視聴者からの反響も良いので、長期間の放送になる可能性も高いのだとか。

 

「いやー…、あれは色々と予想外だったよ…」

 

「正直、あのCMを見る度に心臓がドキッとしますわ…」

 

 拳藤は苦笑しており、八百万は胸を片手で押さえて神妙な面持ちでいる。彼女たち曰く、あの職場体験でヒーローとしての理想と現実に直面したらしい。色々と思う所が有るのだろう。

 しかし、そもそも理解した上でその道を進もうとしている者の目には、その姿が羨ましく映ったようだ。

 

「うらやまキノコ!ニュースでもCMでもいいから私もテレビに出たい!」

 

「小森はアイドルヒーロー志望なのさ」

 

 A組の面々がどういう事かと困惑していると、取蔭がそう教えてくれた。小森は雄英入学当初からアイドルヒーローを目指しているのだという。彼女は小柄で可愛らしいし、個性も『キノコ』とキャラが濃い。知名度さえ高まれば、きっと人気も出るだろう。

 

「『キノコ』撒き散らかして有名になってやるノコ!」

 

「それは確かに有名になりそうやね…」

 

 グッと拳を握りながら力強く宣言する小森だが、彼女の『キノコ』は他人の体にも生やすことが出来るらしい。中々ホラーな姿を想像して麗日などは顔を引き攣らせていた。

 

「CMならキノコ関連の会社とかが有り得るんじゃない?後は、お菓子会社とか?」

 

「きのこ○山のCMならノーギャラでも大歓迎ノコ!ただし、たけのこ。テメーはダメだ」

 

 葉隠が何気なしに提案すると、小森は椎茸カット模様の瞳孔を煌めかせながら大はしゃぎする。しかし、その一方で、同社の姉妹商品には非常に厳しく、むしろ弾圧せんとする勢いだ。そう、きのこたけのこ戦争の闇は深いのである。

 

 

 

「さ~て、座も暖まって来たところで…恋バナの時間だぁ!!」

 

「恋バナ、恋バナ!女子会っぽい!」

 

「お、いいじゃん!やろうよ!」

 

 それから会話も弾み、クラスの異なる女子同士の距離も近くなってきたところで芦戸が身を乗り出して口を開いた。テンションの上がった葉隠や取蔭もそれに便乗して盛り上がる。

 

「うわぁ~」

 

「ちょっと、マジでやるの?」

 

「あ~、そういうノリか」

 

 一方、そういう話題に奥手な女子たちはほんのり顔を赤らめている。麗日や耳郎や拳藤など、ここにいる女子の半数くらいはこんな感じの反応をとっていた。

 

「こ、恋…!そんな、結婚前ですのに…!」

 

「その通りです。そもそも結婚というのは神の御前での約束で――」

 

 そして、ピュアハート組の八百万と塩崎。ここまでくると、純粋過ぎて心配になってくるレベルだ。

 

「恋…?」

 

「ん…?」

 

 最後に残るは恋愛無意識組。これには妹紅と小大が当てはまる。小大に至っては、中学時代に男子生徒の間で彼女のファンクラブが結成されていたが、全く気付かずに卒業してしまったほどの無関心っぷりである。きっと知らぬ間に多くの男子を泣かせてきたに違いない。

 

「よーし、みんな心の準備はいい?早速いくよ。それじゃ、いま付き合っている人~?」

 

 芦戸が興奮を抑えきれない様子で周りにそう問いかけるが、誰からも反応が無い。ドギマギしていた女子たちも『あ、あれ…?』といった感じで周りを見渡しているが、何も無い。

 

「え…マジで?いや、でも雄英だから、仕方無いのかな…?じゃあ、今まで付き合った経験がある人は?」

 

 雄英ヒーロー科は忙しい。はっきり言って彼氏彼女と付き合えるような時間は実際ほとんど無いのである。それは芦戸たちも理解していた。

 なので、きっと雄英の入学前くらいに『キミの夢のため、僕は身を引くよ。でも、応援している。これからもずっと…』とか『キミがヒーローになったとき、必ず迎えに来る。だから、忘れないでくれ。俺も忘れないから…!』みたいな恋愛ドラマがあったはずだ。そうに違いない。

 そんな思いを胸に、芦戸は周りを見渡すのだが――

 

「…ゼロ!?女子が14人も居てゼロ!?え、みんな『だって、話すのなんて恥ずかしいんだもん!』みたいな乙女っぽい理由とかじゃなくて!?」

 

 芦戸が絶叫するが、結果は変わらない。ゼロだ。隠している素振りさえ見当たらない。芦戸も葉隠も開いた口が塞がらなかった。正に絶句である。

 

「中学の時は受験勉強で必死だったし、雄英に入ったら入ったでそれどころじゃないもんな」

 

「デスねー」

 

 拳藤と角取が中学時代を思い返しながら語る。なにも彼女等に魅力が無かったという話では無い。受験勉強で必死だった彼女たちは自分から男子にアタックをかける余裕は無かったし、彼女等が雄英に合格することを心から願っていた男子たちは、その邪魔にならないように自ら身を引いていたのである。まぁ、男子の中で抜け駆け禁止のルールが作られていたからといえば、それまでなのだが。

 また、当然それ以外の理由を持つ者も居る。

 

「中学の時は勉強勉強、合間に筋トレと個性トレ。終わったらまた勉強。友達にも心配されるくらいだったし、男子と遊ぶ時間なんて無かったなー。推薦の合格が決まったら今度は『不純異性交遊とかで雄英合格が取り消されないように!』って感じで教師の目がメチャクチャ厳しくなったし」

 

「アイドルは恋愛厳禁。学生時代の浮いた話ですらドクツルタケ並の命取りになるノコ!……興味はあるけど」

 

 取蔭は推薦合格者だ。しかし、雄英を推薦に受かった者が、その後の素行の悪さで合格を取り消されでもしたら、その中学校の面目は丸潰れだろう。学校の推薦者希望枠も消え去るかもしれない。それはもう教師も血眼になるというものだ。

 また、アイドルヒーローを目指す小森は、将来を見据えた上で自ら恋愛を拒否していた。もしも、彼女に思いを寄せてしまった男子が居れば、その者は叶わぬ恋を嘆くことになってしまうだろう。

 

「私は女子中学校でしたので、あまり異性と関わることはありませんでしたわ」

 

「私も女子中出身です。キリスト教系学校(ミッションスクール)でしたが」

 

 そして、八百万は国内でもトップクラスのお嬢様学校であったし、塩崎もかなり厳しい学校の出身だった。周りに男子すら居なかったパターンである。

 

「なんてことだ、なんてことだ…。それなら、三奈は?何かなかったの?」

 

 葉隠が芦戸に問いかけるが、彼女は無言で首を横に振った。なんと悲壮感溢れる顔なのだろうか。末期患者の家族に余命を伝える医者の方がまだ明るい顔をしているに違いない。

 

「くっ!じゃあ、妹紅は!?そんなに美人だったら、告白されたことくらいはあるでしょ!?」

 

「いや私、中学の時はハブられてたし…」

 

「返しが重い!?はっ、いけない!三奈がキュンキュン不足で酸欠になってしまった!どなたか!どなたかお客様の中で恋愛話が出来る方は居られませんかー!?」

 

 恋バナが全くのゼロの中、妹紅の重すぎる返答が重なり、ついに芦戸がダウンしてしまった。葉隠が助け出そうとするが、残念ながら彼女にも恋愛経験は無い。つまり全滅だ。

 嘆く葉隠の腕の中で、芦戸は『恋バナ…恋バナ…』と倒れたまま呻く。そこで、見かねた角取がある話題を提案してくれた。

 

「デハ、こういうのはどうでショーカ。気になる男子について語る、というノハ?」

 

「それだ!」

 

「それしかないとしか思えない!」

 

 ガバッと起き上がる芦戸。葉隠も同じく賛成の声を上げる。これなら全員参加出来るだろう。きっと蕩けるように甘く、胸が高鳴るような話を聞けるに違いない。

 

「じゃあ、気になる男子が居る人!?」

 

「そうね、私は常闇ちゃんかしら」

 

 早速、蛙吹から声が上がった。女子の中でも社交性バツグンの彼女だ。男子との距離間もかなり近い。これはもしかすると、もしかするのではないかと周りは頬を染めながら注目する。特にA組の面々は興味津々だ。

 

「そういえば、梅雨ちゃんは期末試験では常闇くんとペアだったね!」

 

「どこ!?どんな所にキュンキュンしたの!?」

 

 葉隠と芦戸が身を乗り出して問い質すと、蛙吹はニッコリと笑って言った。

 

「ダークシャドウちゃんがとっても可愛かったわ」

 

「「それ個性やないかーい!」」

 

 ズコーと2人がコケて、それに皆が笑った。蛙吹もケロケロ笑っている。2人のあの反応を狙ったのだとしたら、見事に大成功だ。

 その後は『轟はイケメンだけど、父親(エンデヴァー)は息子の彼女に厳しそう』とか『爆豪は顔や成績はともかく性格が壊滅的』とか『飯田は手を繋ぐようになるまで数年かかりそう。むしろ、結婚するまで手を握ることも出来ないのでは?』とか『緑谷?ナイ』とか、非常に厳しい意見が飛び交う。お年頃の女子の理想は高いのだ。ただ、麗日だけは妙にモジモジしていたが。

 

「そういえば、三奈って切島くんと同じ中学だったよね。何かないの?実は幼馴染みだったとか、そんな展開」

 

「ないんだな、それが。雄英受けるまでは、切島と喋ったことも無いくらいだったし」

 

「耳郎さんはどうですか?よく上鳴さんとお話されているようですが…」

 

「上鳴?ないない。そりゃアイツは喋りやすいけどさ、チャラいじゃん。絶対浮気するタイプだよ。ま、峰田よりはマシだけどね」

 

「峰田と比べたら、誰だってマシだよ~」

 

 峰田が話題に上がってくると、芦戸は口を尖らせて文句を言った。昨日はA組の女風呂を覗こうとした峰田だが、今日はB組女子の風呂を覗こうとしていたのだ。完全に予想していた女子たちによって峰田は返り討ちにされたものの、彼に反省の色は全く無く、『風呂場で服着てるなんざ、ルール違反だろうが!オイラは旅番組の温泉で、バスタオルを使うタレントは認めねぇ派なんだよ!』と謎の逆ギレ。その後、拳藤の『大拳』によって峰田は制裁されたが、副委員長の八百万を始めとするA組女子たちはクラスの恥部に頭を抱えていた。

 

「B組には峰田みたいなの居ないの?」

 

「居ないねぇ。物間以外のB組男子は割と硬派だよ。物間は…なんていうか物間だしなぁ…」

 

 耳郎の問いかけに拳藤は苦笑いで応える。物間に加えて峰田のようなクラスメイトが居たら、B組が立ち行かなくなるかもしれない。その点、A組は凄い。峰田だけでなく、爆豪が居ても何とかやっていけているのだから。

 

「ぐぬぬ…。じゃあ、理想の男子像は!?」

 

 結局、『彼氏にしたい男子がクラスの中に居ねぇ!』という結論になってしまい、次の話題へと移った。これなら抽象的な質問なので、ハードルは低いだろう。先程まではハードルが高すぎたから、みんなハードルの下を潜ってしまったのだ。故に、ハードルを限界まで低くすれば、皆きっと跳べるはずだ。

 

「うーん。優しくて、でも厳しくしないといけないところはきちんと厳しい人かな」

 

「それに加えて、真面目な方を望みます」

 

「キノコが好きな人」

 

「クールで、それでいてキュートなところも有るといいかもデス」

 

「周りを纏め上げて引っ張っていけるようなカリスマ性があると安心出来る」

 

「そして、強い!そんな相手さ!」

 

 順に、拳藤、塩崎、小森、角取、柳、取蔭が理想を挙げていく。だが、拳藤以外の女子はすぐに首を傾げると周りを見渡して…拳藤の方を見た。そこで“納得!”といった表情をする。

 

「これ一佳だ。キノコ好きかどうかはともかくとして」

 

「へ?私?」

 

「ん」

 

 目を丸くする拳藤に、小大も同意するように頷いた。ついでに八百万まで頷いている。職場体験では、主に精神面で拳藤から色々フォローしてもらっていたのだ。気丈夫な彼女が居なければ自分はもっと落ち込んでいたかもしれないと八百万は語る。

 

「一佳が男子ならモテそう」

 

「分かる。絶対頼りがいある」

 

「ちょっと、ちょっと…!」

 

 取蔭がそう言うと、柳や他の女子たちからも続々とお墨付きが与えられていく。本人は気恥ずかしそうにしているが、そんなのお構いなし。低いハードルを跳ばずにコースアウトするという、まさかの展開である。

 

「むむむ!ならば、こちらからはA組のイケメン担当、妹紅がエントリーだ!優しくて真面目で格好良くて可愛くて、そして誰よりも強いぞ!」

 

 更に、葉隠まで悪ノリしてしまい、妹紅の背後に忍び寄ると、ササッと髪の毛を纏めてオールバックのポニーテールに仕立て上げた。そんな妹紅は葉隠に身を任せてされるがままだ。

 

「イケメン担当なんだ…」

 

「轟クンじゃないのデスね…?」

 

 柳と角取が困惑するのも無理はない。そもそも雄英女子たちの間では、学校一のイケメンは1年A組の轟ではないかという話もあるくらいだ。そんなところに当のA組女子たちが別の人物を、それも女子を推薦してくるとか予想外にもほどがある。しかも、控え目に見ても本当に格好良いから否定出来ないというところも困惑ポイントの一つになっていた。

 

「確かに、横顔とか宝塚の劇団員ばりに凜々しいもんな」

 

「個性も容姿もメディア映えするノコ。強力なライバルキノコの予感…!」

 

「強さは体育祭で十分に味わいました…」

 

 取蔭は妹紅の顔をマジマジと見つめ、小森はライバル視し始めている。また、個性相性的に全く敵わない塩崎は手を組んで祈っており、拳藤は自分から注目が逸れたことにホッとしていた。

 

「うごご…。妹紅がめっちゃイケメンなのは分かるけど、これは禁断の花園に続く道だぞ…!」

 

 一方、芦戸は頭を抱えて悶えていた。もしも、耳元で『一緒に堕ちよう…』とでも妹紅に甘く囁かれたら、彼女は抗えないかもしれない。イクところまでイッてしまいそうで怖い。

 

「ええい、意地でも男子で心ときめかせてやる!話題を変えて、次は――意中の男子にされてキュンとするシチュエーションについて!」

 

 しかし、そんな誘惑を断ち切り、芦戸は声を大にして言った。低すぎる障害物で立ち止まってなんかいられない。いい加減ハードルは跳んで越えるべきなのだと言わんばかりである。すると早速、柳と取蔭が好みのシチュエーションを語ってくれた。

 

「悲しんでいるところを優しく慰めてくれたりとか?」

 

「涙をそっと拭いて、微笑みながら優しく抱きしめてくれるような彼氏が欲しいなぁ…ん、どうしたの?」

 

 2人が望むシチュエーションは正にド鉄板だ。しかし、それを聞いて芦戸はガクリと崩れ落ちた。畳に両手を付けて項垂れる彼女の姿に、B組の2人は疑問に思い尋ねる。すると、予想外の答えが返ってきた。

 

「この前されたよ…!妹紅に…!」

 

「されたんだ…」

 

「ホントにイケメンじゃん…」

 

『変わってないよ、話題…!』と嘆く芦戸に、妹紅のイケメンっぷりに恐れおののくB組の面々。ハードルに向かって走り出したかと思ったら、真逆を突っ走っていたのだ。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものでは無い。もっと恐ろしいものの片鱗を味わう芦戸たちであった。

 

 

 

「そのリボン、ベリーキュートです。ドコで購入したのデスか?」

 

 芦戸たちのやりとりを良く分からないまま見守っていた妹紅だったが、隣に座っていた角取が語りかけてきた。良く見れば、周りも思い思いに会話をしている。

 八百万は耳郎を交えて拳藤や塩崎と話しているし、麗日と蛙吹は柳や小大とのんびりお喋りをしている。芦戸や葉隠、取蔭たちに至っては、『現役の男性(・・)プロヒーローの中で、結婚するなら誰!?』という話題で熱弁を振るい、ようやく女子会の本懐を遂げている最中であった。

 

「これ買った訳じゃなくて、外しても何故か勝手に生えてくるんだ。ほら」

 

「ホワッツ!?エ?意味が分かりません!?」

 

 妹紅が大きな紅白リボンを自ら外すと、頭頂部から発火して同じ物が再生された。角取は大いに驚くが、トリックでも何でも無い。そういう個性の特性だ。

 何と言ってもオンオフも利かないので、髪を洗う時などが本当に面倒くさい。髪の先端や途中に付いている小さなリボンも同様だ。外れたリボンは寺子屋の姉妹たちが欲しいというので当初は配っていたが、髪を洗う度に取れてしまう訳だから、結局どんどん余っていくのだ。後はもうゴミとして捨てるしか無いのだが、炎耐性が残っているせいで燃えないため、燃えないゴミに出すしか無いという面倒の塊である。

 

「私も理由は分からないけど、勝手に再生するんだ。個性に関する事だから、ラグドール先生に聞いてみようと思っていたのだが、今日は朝一以外ほとんど会えなくてな。やはり40人もの指導ともなるとかなり忙しいのだろう。明日は話を出来る時間があればいいのだが…」

 

 妹紅からもラグドールを探してみたのだが、どうにも会えなかった。もちろんこれはラグドールが避けているからだが、妹紅はそんなことを知らない。まさか蘇生のことを知られているとは思ってもいないので、ただ運が悪いだけだと思っていた。

 

「ハー。強いだけではなく、不思議(ファンタスティック)な個性なのデスネ。このリボン、いくつでも作れるのデスか?」

 

「再生能力の一部っぽいから、ほんの少し疲れるが…まぁ、ほぼ無限に作れるな」

 

 そう応えた瞬間、隣からガサッというお菓子の箱が落ちた音がした。きのこ○山だ。その持ち主の小森を見ると、彼女は愕然とした表情でプルプルと震えている。

 

「グッズ展開も可能な個性?しかも、元手ゼロで大量に?か、勝てない…。勝てないよぉ…。アイドルはただでさえ比べられるのに、同期にこんなアイドルヒーロー居たら『キノコ』なんて霞んじゃうよぉ…」

 

 悲痛な顔で落ち込む小森。実は先ほど、彼女は妹紅をある種のライバルとして認識していたのだ。男性にも女性にも愛される美しい容姿に、強力な個性。そして既に十分高い知名度。強大だ。アイドルヒーローとしてとんでもないくらい強大なライバルがここに居る。そのため小森は『私の隣に居るのラスボスじゃねぇか!』という認識を持ってしまっていたのだ。

 故に、妹紅に勝つにはファンサービスで上回るしかないと小森は結論付けた。そこから切り崩していくという作戦を心の中で練っていたのだが…、その希望も掻き消されてしまった。グッズ展開が無限に出来るってなんだそれは。しかも、アイドル自ら作成した品であり、身に付けていた物だと?そんなの誰だって欲しいに決まっている。ファンなら幾らだってお金を出すに決まっている。『こんな相手に勝てる訳ないだろ!』と小森の心が折れかけたその時だった。

 

「いや、私アイドルヒーロー志望じゃないけど…」

 

「あなた、良い人ノコー!!」

 

 妹紅が言うや否や、小森が彼女の懐に飛び込む。憂う顔は吹き飛び、小森は満面の笑みで妹紅に甘えていた。妹紅は妹紅で小森の小柄な体格に弟妹たちの姿を重ねてしまったのだろう。妹を甘やかすかの如く小森をあやしている。それを見て、B組の女子たちは『小森が堕とされた!?』とか『あの恋愛厳禁の小森が!?』と騒ぐが、それでもいつの間にか妹紅の膝の上が小森の定位置になっているあたり、実は彼女が甘え上手なのは間違いない。

 

 その後は、また皆でお喋りだ。八百万に駄菓子を食べさせて、目を白黒させたりする様子を暖かく見守ったり、妹紅のココアシガレットを咥える姿が余りにも堂に入っていたので皆が真似したりと(真面目な妹紅がまさか過去に煙草を吸っていた経験があるとは、誰も疑いもしなかった)、色々と話題は尽きず、AB組の女子会は芦戸の補習時間が来るまで続けられるのであった。

 




 ヴィラン連合側も意外と和気藹々しています。半分くらいイカレてるメンバーなので陽気なのでしょう、きっと。私としてもトゥワイスに「ちくわ大明神」と言わせたかっただけなので満足です。

次、女子会。
 ヒロアカの小説版、第二巻が元ネタとなっています。ただし、そちらの方では角取、取蔭、小森は女子会に参加していません。今回は是非とも女子全員を参加させてみたかったので、妹紅を含めてやってみました。そのせいで文字数が異常に多くなったんだよなぁ…。
 なお『彼氏にしたい男子がクラスに居ない』とか『拳藤が男ならモテそう』とかは、その小説版からです。峰田の悪行(風呂覗き)なども詳しく書かれているので峰田ファンの方は手にとってみては如何でしょうか。話の半分くらい峰田が主人公です。

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