もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたん、試験をうける

 時間とは過ぎゆくものだ。2月26日。ついに雄英高校ヒーロー科の一般入試実技試験の当日となった。

 寺子屋の皆から元気に送り出された妹紅は何時もの中学校の制服姿で雄英の門前にいた。それにしても試験を受ける妹紅自身よりも、送り出す側の皆の方がガチガチに緊張していたのは何故なのだろうか。それを思い出してフッと微笑みが浮かんでしまった。

 

「おい、あの白い女子、すげぇな。自信満々の笑みを浮かべているぜ」

 

「ていうか、髪なっが!しっろ!たくさんのリボン?髪に関する個性か?」

 

 妹紅はざわめきを気にもせずに試験会場へと歩き始めた。雄英ヒーロー科の一般入試は実技試験と筆記試験がある。個性が強いだけでは、勉強が出来るだけでは合格出来ないのが雄英であり、故に全国から選りすぐりのエリートがやって来るのだ。

 しかしながら妹紅もその中の1人。自信を持って堂々と雄英の敷居を跨ぐのであった。

 

 

 

『今日は俺のライブにようこそー!エヴィバディセイヘイ!』

 

 説明会場でボイスヒーロー・プレゼントマイクがハイテンションで受験生に語りかけた。だが、数千人を超える受験生からは静寂しか返ってこない。それでも全く気にせず高いテンションを維持したまま試験説明を続ける姿は正にプロのヒーローと言うべきか、それともプロの教師と言うべきか。

 

『…っていう訳で俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校『校訓』をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!“Plus Ultra”!それでは皆、良い受難を!』

 

 割り当てられた試験会場に向かいながら、妹紅はふと先ほどの言葉を思い返す。『人生の不幸を乗り越える。更に向こうへ(プルスウルトラ)』。良い言葉だと、本心でそう思った。きっと受験生は皆、ここに来るまでの人生に大なり小なりの不幸があった筈だ。そしてそれぞれがそれを乗り越えてこの試験会場に来ている。中には私以上に辛い人生を歩んできた受験生もいるだろう、と妹紅は本気で思っていた。

 だからこそ、と妹紅は思う。

 

(負けられない。私は必ずヒーローになるのだから)

 

 到着した試験会場、作られた広いビル群を前に妹紅は制服のポケットに両手を突っ込み、目を瞑って精神統一を図る。辺りの受験生もソワソワする者、精神統一を図る者、何故か他の受験生から注意を受け萎縮する者など様々である。

 それにしても、ポケットに手を突っ込み俯いている妹紅の姿は、傍目から見たら機嫌の悪い不良学生のようだ。もっとも、学校の屋上で隠れて煙草を吸う女子中学生が不良では無いのかと聞かれたら首を横に振るしかないが。

 

『ハイ、スタートー!』

 

 妹紅はカッと目を開き、イメージを整える。周囲の生徒たちが困惑しているとプレゼント・マイクが叫んだ。

 

『どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられているぞ!』

 

 その言葉に受験生たちが一気に走り出す。残った受験生は妹紅とモサモサした髪の地味目の男の子だったが、彼も慌てて走り出した。心配したのか男の子がチラッと妹紅の方を心配そうに見たが、他人どころではないと思ったのだろう。焦りながら一生懸命走って行った。

 

「やっと周りが居なくなった」

 

 妹紅がそう呟くと背中から大きな炎の翼が現れる。ポケットに手を突っ込んだまま膝に力を入れてジャンプすると、炎の翼が力強く羽ばたいて妹紅は空へと大きく舞った。同時に、辺りに熱風が巻き起こる。この熱風に受験生が巻き込まれれば火傷を負わせてしまっていただろう。他の受験生への妨害行為はNGなので、わざわざ居なくなるまで待っていたのだ。

 なお、妹紅の今の格好は上下綿製のジャージである。綿はポリエステルなどの素材と比べると燃えにくいため使いやすいのだ。とはいえ、妹紅の火力を向けると当然すぐに焼け落ちてしまうため注意は必要だった。

 そんな服を気にしながらも妹紅はグングンと高度とスピードを上げる。走り出した受験生の先頭集団をも追い抜き、区域内の中心部で最も高いビルの屋上に着地した。索敵するまでも無く眼下にウジャウジャと仮想敵(ヴィラン)がいる。その場には受験生はまだ1人も到着していない。制服の袖を捲り妹紅は戦闘態勢をとった。

 

(まずは小手調べ)

 

 翼を作っていた炎が全て妹紅の右手に集まり、そして凝縮される。右手を振るうと放たれた業火が仮想敵の集団を飲み込んだ。爆発する仮想敵もあれば、爆発せずに焼け焦げて動きを止める仮想敵も居る。いずれにしても集まっていた1、2、3ポイント敵はどれも全て沈黙した。呆気ないが間違いなく行動不能である。これで早速15ポイント以上は手に入れただろう。

 

(爆発したのは燃料に引火したからだとしても…ああ、こいつらの基盤、簡単に半田付けでもされていたのかな。半田付けされた鉛が炎の熱で溶け落ちて制御不能。試験用だから耐熱加工も無しと…。意外とヌルい試験かな、でも手は抜かない)

 

 またも妹紅は屋上から仮想敵の集団に炎を放つと、爆発を伴い黒煙が広がる。先と同じく、全ての仮想敵を行動不能とした。

 

 

『あと6分2秒~』

 

(流石に敵も受験生も散らばり始めたから纏めては燃やせなくなったかな。ようやく慧音先生との訓練の成果を見せる時ね。『火の鳥-鳳翼天翔-』)

 

 ビルの屋上で妹紅は両手を掲げるように大きく広げ、業火を両手に灯す。そして灯された業火の中で更なる炎のカタチを作り出す。炎の中からソレはムクリと頭を上げたかと思うと大きな翼を広げ、飛び立った。妹紅の炎で作られた鳥、『火の鳥』である。全長は2メートルほどもあり、その体には信じられないほどの炎と熱が詰め込まれている。生まれた火の鳥は妹紅の頭上を大きく旋回し続ける。その間に妹紅はもう一羽を生み出し、同じように頭上を旋回させる。更に、妹紅は三羽目の火の鳥を作り出した。

 

「いけ」

 

 妹紅の操作で三羽の火の鳥たちがそれぞれ別々の仮想敵に襲いかかる。火の鳥自体はもっと生み出せるが、受験生を巻き込まないようにコントロールするには三羽程度が今の妹紅の限界だった。なにせ、慧音との実技試験対策用の個性訓練の時間は一ヶ月と少ししかなかったのだ。技量不足なのは致し方ない。それでも、妹紅は受験生を巻き込むようなヘマはせず、ビルの屋上から火の鳥たちを見下ろしながら上手くコントロールしていた。

 

「うお、炎の鳥!?フェニックス!?だ、誰かの個性なのか!?」

 

「翼がかすっただけで鉄製のロボットが焼き切れやがった!なんつー火力だよ!?」

 

 外下のざわめきを無視して妹紅は火の鳥を操り続ける。そこで仮想敵との戦闘中に足場を崩し、ピンチとなっている受験生が目についた。

 

「し、しまった。うわっ!…あれ?ロボットが焼き潰されている?誰か知らんが、ありがとう!助かった」

 

 その受験生は礼を言って仮想敵との戦闘に戻っていく。彼の言葉は妹紅の耳まで届いて、彼女はそっぽを向いて呟いた。

 

「別に、ポイント横取りしただけだし……今度は向こうか」

 

 また火の鳥を急いで向かわせる。次は囲まれた事で苦戦している男子の仮想敵の集団の一部を焼き飛ばした。

 

「逃げ道か!済まん、助かる!」

 

「次はアッチか…」

 

 また違う方向を見ると、怪我をしたのか酷く険しい表情で右足を引きずる女子が仮想敵に背を向けて逃げ出している。その仮想敵を焼き潰し、更に襲われないように一羽の火の鳥を女子の上空で旋回させた。

 

「痛ぅっ、足首やっちゃった…でも、あの炎の鳥、私を守ってくれている?……そっかぁ、やっぱり私じゃ雄英は無理だったかぁ。あの炎の鳥みたいな凄い人が合格するんだろうなぁ。だって雄英だもん。聞こえますか?試験官さん、私棄権します。あ、もう搬送ロボが来た。ありがとう、炎の鳥の人!」

 

 小型搬送用ロボの担架に乗せられ、運ばれていく女子が妹紅の火の鳥に大きな声で礼を言った。

 

「…火の鳥(それ)は私本人って訳じゃないし…ていうか、ライバル減らそうとしただけだし…」

 

 屋上まで聞こえた礼にブツブツと1人で言い訳を口にしていた妹紅であったが、ビルを、いや試験会場の街全体を揺らす程の振動と衝撃がソレを遮った。

 現れた物は0ポイントの仮想敵。ビルの大きさを超える超巨大ロボット。正に圧倒的脅威である。

 妹紅が居たビルの屋上も揺れたが……運が良い事にそのビルはチューンドマスダンパを採用した最新式の免震工事が施工されていた為、揺れは相当抑えられていた。流石雄英と言いたい所であるが、一体何がしたいんだこの学校は。

 

 しかし、あのデカさは脅威だ。受験生たちは叫び、パニックになって逃げ惑っている。だが、逆に気合いが入った者も居た。妹紅だ。彼女はビルの屋上の低い縁に片足を乗せてニヤリと笑った。

 

(ようやく面白くなってきたかな?0ポイントだけど、アレを倒せば大きくアピールが出来そうね。周りの受験生と比べると私はかなりポイント稼いでいるようだから余裕はあるし……試してみようかな)

 

 妹紅には慧音との訓練でも危険すぎて練習すら出来なかった、正に奥義と呼べる技がある。その技をあの巨大ロボに使おうと思っていた。それは全力で生み出した巨大な火の鳥を敵に叩き付けるという、単純すぎるほどの力技。眼下には逃げ回る受験生が居る為、彼等に被害が向かないように多少のコントロールは必要であるため、100%全力でという訳にはいかないが、あのロボを十分に倒せる自信があった。

 

「ッ!危ない子も居るな。一撃で決める」

 

 巨大ロボットの足下には足を石で挟まれて動けない女子がいた。妹紅は両手を掲げ、全力の炎を両手にかき集める。二の腕まで捲っていたジャージの袖が肩口まで一瞬で焼け飛んだ。急激な温度変化に辺りの空気が大きく歪む。巨大な火の鳥が翼を広げた。これで火の鳥を解き放つ準備が整った。

 

「パゼストバイ――ッ!誰か飛び出した!?不味い、炎回収!」

 

 突如として飛び出してきた人影。妹紅は急いで両手から放っていた炎を収めた。回収ロスもかなりあったが、あらかたの炎が妹紅の体に戻っていく。ロスした炎は空中で消えていった。

 

「SMAASH!!!」

 

 その男子の一撃は巨大ロボットを叩き潰した。パニックになっていた受験生ですら足を止め、振り返り、その勇姿を目撃する。ビルの屋上という好立地に居た妹紅は、それを誰よりもはっきりと見ていた。

 轟音と共に土煙と爆煙を上げながら倒れる巨大仮想敵。それを倒した男子に皆が目を丸くしていた。

 

(ただのパンチであの巨大ロボットを粉砕。あんな子も居るんだ。流石は雄英ね…)

 

 その一撃を放った男子は重力に従って自由落下を始める。見事なものだ、と手放しで賞賛していた妹紅は落ちていく男子を見て疑問に思った。

 

(?、飛べないの?どうやってあそこまでジャンプを?増強型?…ッ!あの男子、マジで落ちてる!)

 

 気が付いた妹紅は急いでビルから飛び降りながら、炎の翼を作り出し、落ちる男子の元へと全速力で向かう。だが――

 

(駄目ッ!全っ然、間に合わない!ッ!あれはさっきの足を挟まれていた女子!)

 

 妹紅の視線の先に1人の女子がいた。彼女はロボットだった部品の一部などを浮遊させ、自身もその上に乗り、落ちてくる男子を待ち受けている。そして、彼が落ちて来た瞬間、その頬にバチンとビンタをかました。

 

(ビ、ビンタ?いや、そうか!浮遊個性!たぶん触れることが条件!)

 

 妹紅の予想通り男子がブワリと浮かんだ。女子の方も個性の限界だったのか、すぐに個性を解除してドシャッと周りの浮遊物ごと地面に落ちた。相当な負担だったのだろう。青白い顔で嘔吐している。助けられた男子の方は左腕を使ってなんとか動こうとしているが、左腕以外の手足の骨がバキバキに折れていた。

 

『終了~!!』

 

 プレゼント・マイクの声が試験地内に響き渡る。残り僅かとなった無事な仮想敵のロボットは一斉に動きを止め、受験生たちも一息ついたり、大きく伸びをしたりとリラックスしていた。

 妹紅は炎の翼で火傷させないように気を付けながら浮遊個性を持った女子の近くに降り立った。炎の翼を消して、女子の隣まで近づく。そして未だ具合の悪そうな女子の背を撫でてやりながら声をかけた。

 

「おい、大丈夫か?ちゃんと呼吸出来ているか?吐きたいなら吐いた方が良い。ホラ、今なら誰も見ていない」

 

「だ、大丈夫です。ただの個性の反動で…うぷ、私よりあの人の方が……」

 

 プルプルと震える指先で先ほどの男子を示す。あちらのボロボロの男子は他の受験生が集まっていたから、誰かが介抱してやっているかと思えば誰も手出しせず、遠巻きで見ているだけだ。妹紅は思わず心の中で舌打ちした。

 

「そうか、見てこよう。お前も無理するな」

 

 

 

「あいつ、何だったんだ?」

 

「いきなり0ポイントのギミックに飛び出したりして」

 

「増強型の個性なんだろうけど・・・規格外だ」

 

 倒れて動きもしなくなったボロボロの男子の周りでザワザワとしながら話す受験生たち。妹紅は『イライラ』という感情を強く味わいながら、そんな受験生たちを押し退けた。

 

「どいて」

 

「うわ、なんだよ?」

 

 強く押し退けられた受験生が文句を言うが妹紅は見向きもしない。文句を言いたいのは妹紅の方だ。しかし、彼らに構うのも時間の無駄である。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 倒れた男子受験生に近づいて、膝をついて呼びかける。唯一無事な左手はギュッと拳を握りしめ、眼からは涙がボロボロと零れていた。妹紅は近づいて分かった、このモサモサした髪の地味目の男子はスタートの時に出遅れていた子だ。

 

「意識はあるな。嘔吐跡有り、呼吸は出来ているか?…うん、出来ているな。頭は打ったか?……おい、私の声聞こえているか?ああ、急に頭を動かすな。頭打った後、動かすのは良くない。頭を打ったかすらも分からないなら動かすな。ゆっくり自分の楽な姿勢にすると良い……そのままで良いのか?…そうか。…手足は見ない方がいい。目を瞑っていろ。こんな試験なんだ、すぐに医者が来るはずだ」

 

 意識はあるし、頷くくらいの受け答えも何とか出来るようだ。妹紅の素人目であるが治療優先度(トリアージ)治療順位2番(イエロー)といったところだろうか。慧音から少し救助方法について教わっていた。だが、この男子の怪我の状態では意識と呼吸の確認をして、安全な場所で安静にさせるくらいしか妹紅に出来る事がない。後は医者の判断に託すしかないだろう。

 きっと砕けた手足の痛みが凄まじいのだろう。彼はまるで人生に絶望したかのような形相で涙を流していた。妹紅には分からない痛みであるが、妹紅はせめて医者が来るまでそばに居てやるかと思ってしまうほどの絶望した表情だった。

 その時、受験生の間からその場にそぐわぬ女性高齢者の声が聞こえてきた。

 

「お疲れ様~、お疲れ様~。ハイハイ、ハリボーだよ。ハリボーをお食べ」

 

 注射の形をした杖をついて低身長の老婆がお菓子を配りながら歩いてくる。妹紅はこの人物を慧音から聞いた事があった。そも、この老婆は有名人なのだ。

 

「リカバリーガールですか?恐らくトリアージイエローの患者です。治癒を願います」

 

 雄英の看護教諭、リカバリーガールは杖を突きながら倒れた男子の近くへとやって来ると『おやまあ』と頷く。そして彼の怪我の診察をその場で行った。

 

「トリアージイエロー、良い判断だね、その通りだよ。それにしても、自身の個性でこうも傷つくかい…まるで身体と個性が馴染んでないみたいじゃないか」

 

 リカバリーガールがそう言うと、彼女の唇が大きく伸びた。『チユ――――!』という音と共に個性が発動される。それだけで内出血で赤黒く腫れ上がり、バキバキに骨折していた手足が一瞬で治癒されていった。

 

(これがリカバリーガールの個性『治癒能力の超活性化』。燃え上がって傷を無理矢理治す私の『不死鳥』の回復とはかなり違う。なにより、他人を治癒させる事が出来る個性……羨ましいなぁ)

 

「良い判断だったね。アンタは怪我してないかい?」

 

 リカバリーガールの個性を観察していた妹紅に、彼女は声をかける。先ほど治癒された男子は、怪我そのものは治ったようだが元気はまるで無い。彼は小さく礼を言った後、フラフラと歩いていった。

 

「いや、私は何も……」

 

「アルビノ症だね?それは私の個性でも治癒出来ない・・・まだ日焼けしていないみたいだけど、肌に日の光を当てちゃあいけないよ。目も専用のサングラスをかけた方が良い。試験中に無くしちまったのかい?」

 

 ズイッと近づいてくるリカバリーガールに妹紅は思わず一歩引き下がる。

 

「いえ、炎熱系には耐性があるので…あ、火の鳥を回収しないと……」

 

 リカバリーガールから目をそらした先で、三羽の火の鳥たちが上空で旋回しつつ待機している姿が見えた。そのまま掻き消す事も出来るが、妹紅は己の炎を回収、吸収することが出来、その吸収した炎の分の自身の体力を回復する事が出来るのだ。

 妹紅が右手を軽く挙げると、三羽の火の鳥が翼を納めながらも妹紅に一直線に向かう。周りの受験生たちは慌てて遠ざかるが、リカバリーガールは動揺すらしていない。そして火の鳥たちは妹紅の右の掌に当たり、残り火を散らしながら吸い込まれるように消えていった。

 

「炎熱系個性。なるほど、それで日光にも耐性がある訳さね。よし、じゃあ他に怪我した子は?ちゃっちゃといくよ」

 

 頷きながらリカバリーガールは他の生徒の治療に向かった。会場はいくつもあるのだから彼女は受験生以上に大変だろう。ざわめきの中、妹紅も何時ものようにポケットに手を突っ込み、白い長髪を揺らしながら歩き始めた。

 

「あの白い女子、炎の鳥を操る個性か…強いな」

 

「三羽もいたんだ。かなりのポイントを稼いだに違いないぜ」

 

「あの炎の鳥に俺は助けられたんだ。おーい、ありがとうな!」

 

「俺もだ、ありがとう!後、袖が肩口から燃えてパンクな服装になってるぜ!」

 

 妹紅の背後から感謝の言葉がいくつか投げかけられる。妹紅は振り返りもしなかったが、右手を軽く上げるだけで声に応えた。

 

「おお、クールだ……」

 

「パンクでクールでホットなホワイトガールだな」

 

 こうして怪我人は出たものの、実技試験は問題なく終わった。しかし、難題はまだ残っている。妹紅を含め、受験生たちは次の試練である筆記試験に挑むのであった。

 




初技はもこたんのスペルカード、不死「火の鳥-鳳翼天翔-」からの転用。
そして、0ポイント仮想敵を倒そうとした技は「パゼストバイフェニックス」でした。

パゼストバイフェニックスは原作の東方永夜抄で妹紅が使うスペルカードの一つで、直訳で「フェニックスの憑依」。原作では肉体を再生させずに魂だけとなった妹紅が自機狙いするという技ですが、このSSでは全力で巨大な火の鳥をぶち込む必殺技です。

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