もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんと雄英体育祭 第二種目 中編

「実質、それ(1000万)の争奪戦だ!」

 

「フフフ、予選の1位と2位が組んでいるチームに勝てば、私のドッ可愛いベイビーたちも目立ちます!」

 

 スタートと同時に飛び出して妹紅たちに迫る鉄哲チームと角取チーム。サポート科の発目が騎馬に参加している角取チームは、様々なアイテムを装備している。彼等と戦うならば、個性と同じく装備しているアイテムにも注意を払わねばならないだろう。

 

「いきなり2騎!藤原さん!」

 

「ああ」

 

 しかし、1000万ポイントを所有している妹紅チームが、わざわざ馬鹿正直に戦いを受ける必要はない。妹紅が軽く腕を振ると、放たれた炎が2チームの目の前で燃え盛る。

 

「炎!突破は!?」

 

「なんて事でしょう…私の個性では相性が良くありません」

 

「俺も無理だ!」

 

 燃え続ける炎の壁を前に、慌てて立ち止まった鉄哲チームと角取チーム。突破口を探る鉄哲だが、『ツル』の個性を持つ塩崎、『溶接』の個性を持つ泡瀬では突破は難しい。同じく角取チームも二の足を踏んでいる。

 炎の壁に守られながらも、周囲の警戒を続ける妹紅チーム。しかし、異変は足下から起こった。

 

「し、沈む!?足が地面に呑まれていく!」

 

「個性だ!たぶん、炎の向こうにいるチームの誰か!」

 

 鉄哲チームも、ただ指をくわえて待つ訳にはいかない。前騎馬の骨抜が個性『柔化』を発動させて、地面を柔らかくする。沼のようになってしまった地面に妹紅チームの騎馬は足を取られる。

 

「ケッ、突破出来ねぇなら、動きを止めてやる」

 

 沈む地面から抜け出そうと騎馬の3人は足を動かすが、底なし沼のように足は更に沈んでいってしまう。

 

「角取さん、敵騎馬の動きが止まった今がチャンスです!あのベイビーを、『のびーるアーム』を使うのです!」

 

「オーケーデス!」

 

 妹紅チームを狙っていたもう一つのチーム、角取チームがアイテムを起動させた。騎手の角取が背負っていたリュックサックから2本のロボットアームが伸びる。アームの先端は5本の指が備わっており、人間の手と同じ構造だ。しかし、腕の部分は大量の機械関節が導入されており、まるでタコの足のように滑らかに動いている。

 

『なんだアレ!?サポート科スゲぇ!?』

 

『時にアイテムは個性に勝る。サポート科だからと油断していると痛い目を見るぞ』

 

 現れたアイテムにプレゼント・マイクは驚く。妹紅チームと角取チームの対決が観客からも大きな注目を集める中、骨抜と鉄哲の2人は静かに視線を交わしていた。

 

(鉄哲!)

 

(分かってる!角取が1000万を取ったら、今度は俺たちがそれを奪い取る!角取たちには悪いが、恨みっこ無しだって事は角取たちも分かってるはずだ!)

 

 鉄哲チームと角取チーム。両チームは発目を除いた全員がB組の生徒であるが、共闘している訳では無い。偶然1000万狙いが被っただけだ。

 しかし、鉄哲チームは炎の壁を攻略出来る個性もアイテムも無い。そこで鉄哲たちは角取チームに望みをかけることにした。骨抜が妹紅チームの妨害を行うことで、角取チームが1000万を奪いやすい環境を整える。そして角取チームが1000万を奪えば、鉄哲チームは更にそれを奪い取る、という作戦だった。

 

 一方、そんな鉄哲チームの思惑を知らぬ角取チームは、妹紅の1000万に集中している。角取が操る2本のロボットアームが炎の壁を悠々と突き抜けて動けない妹紅チームに迫っていた。

 妹紅チームがどう切り抜けるのか、それとも易々と1000万を奪われてしまうのか。3チームの攻防に注目が集まる。

 

「麗日!」

 

「大丈夫!もう触った!」

 

 妹紅の声に麗日が応えた。そして麗日は妹紅の足にしがみつく。妹紅は炎から大きな火の鳥を作り出して、その足をしっかりと掴んだ。緑谷たちも騎馬が崩れないように妹紅に掴まり、強固な騎馬を作る。麗日の『無重力』で妹紅、緑谷、尾白たちにかかる重力はゼロになっており、この騎馬の重さは麗日の体重分しかない。

 火の鳥が力強く羽ばたくと、緑谷たちの足はズボリと音を立てて地面から引き抜かれた。角取チームのロボットアームは動きこそ滑らかだが、スピードはそうでも無く、妹紅たちの動きについてこれていない。

 妹紅たちは危機から脱し、騎馬ごと宙を舞った。

 

『藤原チーム、飛んだーッ!窮地を脱出!』

 

『藤原が麗日をチームに入れたのは、今のような回避をするためか。麗日の個性があれば、騎馬の機動力を格段に上げる事が出来るからな』

 

 実況と解説の声と共に、観客からは歓声も聞こえる。どうやら、妹紅たちの回避策はテクニカルなものとして受け入れられたようだ。しかし、ホッとしたのも束の間。妹紅たちが着地しようとしたところで、更なる危機が迫る。

 

「白髪女!調子乗ってじゃねーぞクソが!」

 

「かっちゃん!?」

 

「ッ!?着地する場所に峰田くんがもぎもぎを投げ込んでいるよ!」

 

「なに!?」

 

 着地狩りは戦法の基本。横から単独の爆豪が飛んで攻撃を仕掛け、反対側からは障子の背に乗る峰田が大量の『もぎもぎ』を着地場所に投げ込んでいた。既に妹紅たちは着地の寸前。降りる勢いがついているため、下手に着地地点を変えられない。

 

「爆豪は俺が受け持つ!藤原さんは地面を!」

 

「分かった!」

 

 爆豪の対処を尾白に任せ、妹紅は空いている片手で炎を発し、もぎもぎを燃やす。

 

「死ねぇ!…チッ!」

 

「いっだぁ!」

 

『5!6!…爆豪、騎馬に着地!カウントは6!セーフ!また飛んでもカウントは0からスタートだけど、カウント10になれば問答無用でアウトだし、騎馬が崩れてもいないのに騎手の足が地面に着いた場合もアウトよ!気を付けなさい!』

 

 爆豪の『爆破』を尾白は『尻尾』で迎え撃つ。爆豪は押し返され、瀬呂のテープによって巻き取られて騎馬に戻っていった。爆豪の撃退には成功したが、爆発の直撃を受けた尾白の尻尾はただでは済まない。火傷を負い、彼の密かな自慢であったフカフカの毛並みも焼け焦げている。

 尾白がダメージを受けてしまったものの、着地には成功した。峰田のもぎもぎは妹紅に焼き払われ、辺りには髪の毛を燃やした独特の臭いが漂っている。

 

「尾白、大丈夫か?」

 

「な、なんとかね…。それにしても今度は爆豪チームと峰田チームが相手か…まいったね、これは」

 

 尾白は冷汗をかきながら言う。しかし、麗日がある事に気付いた。

 

「あれ?爆豪くん、他の騎馬と戦っているみたいだよ?あッ!爆豪くんのポイント取られている!」

 

「なに?あれは…確かB組の物間」

 

 妹紅は一瞬だがソチラに目をやった。確かに爆豪は物間チームにポイントを奪われ、それを取り返そうと躍起になっていた。しかし、その一瞬の隙を狙って、障子の背から攻撃が飛んでくる。

 

「ッ!藤原さん!前ッ!」

 

「なッ!?…危なかった。すまない、緑谷。助かった」

 

 緑谷の声に反応して、妹紅は身を躱す。間一髪、1000万ポイントは死守する事は出来た。

 

「油断大敵よ。藤原ちゃん」

 

「緑谷ァ!尾白ォ!この裏切り者めぇ!絶対に許さん!」

 

 障子は自分の背を『複製腕』で隠していたが、よく見ると蛙吹と峰田が乗っている。そして何故か峰田は激昂しており、緑谷と尾白にその怒りの矛先を向けていた。

 

「う、裏切り!?ぼ、僕たちが!?確かに峰田くんと組めなかったのは申し訳無いけど…」

 

「違う!そんなことじゃねぇ!お前らが藤原と組んでいる事も許せねぇが!それよりもさっき空を飛んだ時の事だ!お前ら騎馬を固める振りして、麗日に抱き付いたり藤原の太ももを触ったり匂いを嗅いだりしていただろうがーッ!許羨(ゆるせん)!」

 

「えええ!?」

 

「そんな事する訳ないだろ…峰田、お前の目は大丈夫か?」

 

 全くの冤罪に目を丸くする緑谷。尾白に至っては呆れかえっている。しかし、心配するべきは彼の目ではなく、頭だろう。きっと。

 

「しらを切るつもりかーッ!せめて感想を言えーッ!」

 

 血涙を流しながら、峰田は叫ぶ。実況のプレゼント・マイクすらも言葉を失い、相澤は青筋を立ててキレる寸前だ。幸いにも観客はギャグだと思っているようで大きな笑いが起こっていた。人を笑わせることもヒーローとしての才能の1つだが…少なくとも峰田は笑わせているのではなく、笑われている、ということを忘れてはならない。

 

「これは酷いな」

 

「サイテー」

 

 妹紅も麗日もドン引きしている。下ネタが、というより、峰田が純粋に気持ち悪い。騎馬となっている障子もマスクの上から分かるほど顔を顰めている。

 

「本当に最低ね。とりあえず峰田ちゃんは無視しておきましょう。奇襲が失敗した以上、藤原ちゃんたちと1対1で戦うのは厳しいわ。障子ちゃん、ここは1度退きましょう」

 

 蛙吹がそう言うと、峰田チームは妹紅たちから離れていった。騎手の峰田だけは反対していたが、チーム内のヒエラルキーが生ゴミよりも低い彼は無視されていた。仕方無いことだ。

 爆豪チームも峰田チームも妹紅たちの前から去った。そんな妹紅たちの前についに彼女が現れた。

 

「ようやくサシだね、妹紅。準備はいい?」

 

「もちろんだ。かかって来い、葉隠」

 

 フィールドの一角、妹紅チームと葉隠チームの戦いが幕を開けた。

 

 

 

 一方、爆豪のポイントを奪った物間は、未だ彼と相対していた。個性『コピー』を持つB組生徒、物間寧人。彼の『コピー』は触れた相手の個性を5分間使うことが出来るという個性だが、爆豪のポイントを奪取するに至るまでには、ある経緯があった。それは騎馬戦開始前まで遡る。

 

 騎馬戦開始前。物間には予選の障害物競走で目をつけた生徒が何人かいた。予選1位通過の妹紅を始め、上位通過の轟や爆豪などの面々である。

 そして第二種目が騎馬戦だと分かると、まず彼は轟の個性をコピーしようとした。個性は恐らく『氷結』。拘束系個性は騎馬戦でもかなり有利な個性だ。更にエンデヴァーの子どもであるため、炎熱系個性も持っている可能性も僅かにある。そう思い、物間は彼に近づこうとした。

 しかし、轟は作戦を他人に聞かれないように用心深く辺りを警戒しており、物間が少しでも近づこうとすると、ギロリと睨むものだから諦めた。構わず声をかけたところで触れることはほぼ不可能。自分への警戒が増すだけなので無理をする必要は無かった。

 

 物間の次の目標は妹紅。観客が暇にならないようにという配慮であろうか、スタジアムのモニターには障害物競走のハイライトが流れていた。それを見る限り、彼女は恐らく炎熱系と鳥のハイブリッド個性なのだと物間はあたりをつけた。

 炎熱系個性は単純だが強い。特にこの騎馬戦では、攻撃や防御はもちろん、牽制にも十分役立つ。更に機動力があるならば言う事は無い。物間は妹紅に近づき、そしてコピーに成功した。

 

 仲間の所まで戻り、物間はまず指先から炎を出して様子を見る。いきなり大火力など出さない。リスクすらもコピーしてしまう物間の個性。未知の個性を扱う時は常に慎重にならなければならない。幼い頃から他人の個性をコピーしてきた彼は、稀にリスクの塊のような個性もあることを知っていた。

 指先の炎は熱くなかったので、徐々に火力を上げていく。右手が包まれる程度の炎でも熱さは感じない。ほんのり暖かいくらいだ。この個性には炎熱耐性が有ると確信して、物間は笑みを深めた。更に炎を操り、火の鳥を作り出す。妹紅が障害物競走のミサイル発射装置を焼き潰した技の再現を彼は行う。鳩サイズの火の鳥が1羽、物間の手の平から生まれた。

 

「個性名は『炎の鳥』ってところかな?結構良いじゃないか」

 

 余裕綽々といった感じで炎を扱う物間は、火の鳥をクシャリと握り潰して残り火もかき消した。

 

「炎の翼で空を飛ぶ練習もしたいけど、もう時間が無い…ん?」

 

 競技開始まで時間は残り僅か。そんな時、物間は自身の体調の変化を感じた。彼の様子に前騎馬の円場が声をかける。

 

「どうかしたのか?」

 

「これは……しまったな。少し疲れている。ちょっと走った後のような感じだ。体力が削られているって言った方がいいのかな」

 

 物間はそう語る。確かに彼の『コピー』は対象の個性を自由に扱うことが出来る個性だ。しかし、それは個性の知識までコピー出来るものでは無い。つまり物間は妹紅の『不死鳥』をコピーしたが、再生や蘇生能力といった個性の詳細までは分かっておらず、そのリスクも分かっていなかった。

 更に、個性の熟練度なども完全にはコピーすることは出来ない。それは物間自身の『コピー』の熟練度に依存している為、『不死鳥』をコピーしたところで、妹紅並みの炎は扱うことは出来ず、体力の消費も激しかった。

 

「あ?体力?」

 

「そういう個性のリスクなんだろうね。個性を使う分、体力も使う。炎を使えば使うほど疲れる個性って訳さ。予想よりも使えない個性だったね」

 

 予選1位の個性ならば、もっと凄い個性なのだと思っていたのに、蓋を開けてみればとんだ拍子抜けだ。物間はそう溜息を吐いた。

 実際、生み出した炎を回収していれば、物間は体力を回復出来ていたのだが、それを彼が知るはずもない。妹紅の個性で、彼が評価出来るポイントはそこそこの火力だけだった。

 

「マジか、どうする?」

 

「火力はあるようだから、まぁ問題は無いさ。最初の5分はこの個性でいくよ。疲れるから使いどころに注意だけどね。それに、良いことも分かった。藤原はポーカーフェイスを気取っているようだけど、予選であれだけ炎を使っていたんだ。きっと騎馬戦の後半にもなれば……」

 

「なるほど、疲れ果ててフラフラって訳だ。それを俺たちが奪い取る!」

 

 笑みを浮かべる騎馬の3人。物間も不敵な笑みを隠そうともしない。そして第二種目の騎馬戦が始まった。

 騎馬の3人の個性やコピーした炎で近づく敵チームを牽制しながら、物間は戦況の把握につとめる。1000万ポイントは後回し。序盤から中盤まではA組B組問わず、油断したチームのポイントを奪うつもりだったが、図らずも絶好のチャンスが来た。1000万を狙う爆豪チームが見えたのである。選手宣誓であれだけの大口を叩いた爆豪。そんな彼の隙だらけの姿を見て、物間はほくそ笑む。

 

「瀬呂、ナイキャッチ!っと、藤原の炎か!」

 

 尾白が爆豪を撃退して、妹紅が地面を焼き払ったと同時に、物間もコピーした炎を爆豪チームに向けて発する。爆豪チームからの視点では、まるで妹紅の炎が自分たちに襲いかかったように見えていた。爆豪を回収した騎馬たちは炎から距離をとる。爆豪チームの注意はすべて妹紅たちに注がれる。

 全ては物間の計算通りだった。

 

「単純なんだよ、A組」

 

「なっ!?んだてめェコラ!返せ殺すぞ!」

 

 物間は死角から爆豪チームのポイントを奪い取った。同時に爆豪にも触れて個性をコピーする。既に試合開始から4分が過ぎている。『不死鳥』の効果が残り数秒というところで、物間は新たな個性をコピーすることに成功していた。炎も節制して使用していた為、疲労もそこまで大きく無い。

 片や、ポイントを取られた爆豪はヒーローらしからぬ顔と言動で恫喝するが、時すでに遅し。爆豪チームの持ちポイントは0となってしまった。

 

「やぁ、有名人。確か君、『ヘドロ事件』被害者だったよね?今度、参考に聞かせてよ。年に一度ヴィランに襲われる気持ちってのをさ」

 

 更に物間は爆豪を煽る。怒らせる事で平常心を乱す作戦であったが、半分は物間の趣味のようなものだ。しかし、沸点が低すぎる男、爆豪は当然ブチ切れた。

 

「切島……予定変更だ。白髪女とデクの前にこいつら全員殺そう…!」

 

 ポイントを取り返すどころか、殺戮でも始めそうな表情で爆豪は言った。ここに爆豪チームと物間チームの戦いが始まった。

 




『ほぼ』全員ガチ
 いや、一応峰田もガチで騎馬戦に臨んでいますよ。ただ、髪の毛なのでどうしても炎個性と相性が悪い。後はギャグ成分を補給したかった…。

次。発目の『のびーるアーム』
 これは初期から考えていた一発ネタです。発目はにとりポジだった…?東方×ヒロアカは結構数あるので、ネタが被ってないことを祈ってます。

次。物間の個性
 彼の個性は登場回数は少ないし、ウルトラアーカイブにも詳しく乗っていなかったので、かなり独自設定が入っています。熟練度までコピー出来たらチート過ぎるし、初期個性のままのコピーではショボすぎる。物間の『コピー』の熟練度が、コピーした個性に反映される。くらいが妥当かな、と。

 因みに物間が不死鳥のコピー中に死ぬと死体が燃え上がり、全身アルビノになって生き返ります。不死鳥の効果が切れた瞬間いきなり死ぬとかはありませんが、色素は抜けたままです。ホワイト物間になれますが、きっと腹は黒いままでしょう。



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