もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんと雄英体育祭 第二種目 前編

『轟!爆豪!2人とも一歩も譲らねぇぜ!さぁ、2位はどちらが――ッと!?後方で大爆発!?何だ、あの威力!?』

 

 一足早く競技を終えた妹紅は、スタジアムに設置されているモニターをゴール地点から見上げていた。映し出されている場面は最終関門で繰り広げられる轟と爆豪の2位争い。白熱した妨害戦を繰り広げる2人に実況の声にも力が入っている。

 しかし、そんな彼等の後方、最終関門の入り口付近で突如として大爆発が起こり、辺りは騒然となる。なんと緑谷が爆風に乗って飛び出したのだ。

 

『A組の緑谷、爆発で猛追――…つーか!抜いたあああ!』

 

 緑谷は最終関門の状況を把握するや否や、地雷をかき集め、そして集めた地雷を起爆。第一関門で手に入れたロボットの装甲で、その爆風を受けて空をブッ飛んだ。前を行く生徒たちを次々に抜き去り、遂には轟と爆豪をも追い越したのだった。

 しかし、前を行く緑谷を許さぬとばかりに、轟と爆豪はお互い妨害を止めて追いかける。2人の追いかけるスピードは速く、また、空を飛ぶ緑谷は既に失速し始めていた。

 緑谷の状況は不利だ。このまま着地すると大きなタイムロスとなり、もう一度2人を追い抜く事は不可能だろう。どうするべきか、緑谷は必死に知恵を振り絞る。

 

(追い越し無理なら――抜かれちゃダメだ!)

 

 最早、破れかぶれに近い。着地寸前、緑谷は乗っていたロボットの装甲を振りかぶり、地面に叩き付けた。せめて妨害をする事で、なんとか逆転の芽は無いかと模索した結果だ。しかし、見事にそれが功を奏した。

 地面に叩き付けられた装甲は、複数の地雷を起爆。またも大きな爆発を起こした。轟と爆豪は突然の爆発にバランスを崩すが、装甲で爆発を受けた緑谷は再び空を飛んだ。地雷原を飛び越した先の地面に転がるように着地。最終関門をクリアした。もうゴール地点は目と鼻の先。緑谷はすぐさま立ち上がり、ゴールに向かって走り出すのだった。

 

『緑谷、間髪入れず後続妨害!なんと地雷原即クリア!イレイザーヘッド、お前のクラス、ホントにどんな教育してんだ!?』

 

『俺は何もしてねぇよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう。ともあれ、藤原が対空障害物のミサイルを潰した事を利用しての上空突破。緑谷の発想は悪くないが、爆発の如何によってはコース外に吹っ飛ばされていた可能性も十分あった。運が良かったな』

 

 テンションの上がりきったプレゼント・マイクとは裏腹に、相澤は冷静に解説を行う。だが、相澤の解説とは関係無しに観客は大いに沸き上がり、緑谷に歓声を送っていた。因みに、彼の母親の緑谷引子は、テレビの前で彼の名前を叫びながら、涙を流して椅子から滑り転げている。

 

『さァさァ、2位争いにまさかの展開だ!予想出来た奴なんていたのか!?緑谷出久、ゴーールッ!更に轟!間髪入れず爆豪が続く!』

 

 緑谷はそのままゴールまで走りきり、堂々の2位となる。その後ろに轟、爆豪と、続きゴールする。更にしばらくすると、後続が次々にゴールし始めた。やはり、その顔ぶれはヒーロー科に属する生徒ばかりだ。

 爆豪は肩で息をしながら悔しがる。轟も表情にこそ出てはいないが、その内心は穏やかでは無い。緑谷に抜かされた事もだが、妹紅に大きな差を付けられてゴールされた事も原因の一つだった。

 

 

「どう思う?」

 

 教師陣席の後ろ、経営科の席で1人の生徒が他に向けて声を発した。基本的に体育祭に参加するメリットが無い経営科は、売り子や経営戦略等のシミュレーションなどで勘を培っている。

 声をかけられた生徒は、ノートパソコンを片手に応える。

 

「エンデヴァーの息子の轟と、ヘドロ事件の爆豪。有名どころの2人を抑えてゴールした藤原と緑谷の株価急上昇だね。特に藤原は実力もルックスもどちらもイケる。緑谷は個性をみせてないとなると先が読めないなー」

 

 高火力の炎熱系個性を魅せつけた妹紅への評価は高かった。実力に加え、華もあった。一方、緑谷はというと未だ個性を使用して居らず、障害物の突破方法も泥臭いモノであった為、未だ評価が定まっていない。彼等が思案するのも仕方が無かった。

 

「藤原はアイドルヒーローでも十二分にやっていけると思うけど、緑谷はなぁ。彼の事務所経営を請け負ったと仮定して、どう売り出していくか意見を交えたいんだけど、どう思う?」

 

「見た目じゃまず無理だね。実力面や彼なりのアーティスティックなこだわりがあれば、そこを押し出せるけど、材料が揃わない事には難しいと思うよ」

 

 という経営科の意見であったが、プロヒーローの目からしても、その意見に大きな差はない。実際、材料が本格的に揃い始めるのは次の本選からだろう。第一種目の障害物競走は予選であり、ただの篩い落とし。雄英体育祭の本番は正にこれからだ。

 

 

 

「予選通過は上位42名!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されているわ!」

 

 全生徒が走り終え、もしくはリタイヤして第一種目は終わりを告げた。予選突破の42名中、40名がヒーロー科の生徒であり、残りの2名は普通科の男子とサポート科の女子であった。

 予選で落ちてしまった生徒は、当然本戦に参加する事は出来ない。代わりに大玉転がしや借り物競走といった一般的な競技(レクリエーション)には自由に参加出来るため、そこでアピールするしかない。無論、観客はオマケ程度にしか見ていないのだが。

 

「そして次からいよいよ本番よ!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!さーて、第二種目よ!私はもう知っているけど~~何かしら!?言ってるそばから…騎馬戦(コレ)よ」

 

 ミッドナイトの背後に現れるスクリーンに映し出される『騎馬戦』の文字。軽いざわめきが起こる。顔を曇らせたのは上鳴。彼の『帯電』は、その名の通り電気を身体の周りに放電させる個性である。つまり、電気を意のままに操る個性では無い。共闘が難しい個性であった。

 参加者42名が様々な反応を見せる。ミッドナイトは彼等を見渡しつつ、ルール説明を始めた。

 

「参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ。基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、異なる点も有るわ。まずはポイント。第一種目の結果にしたがい各自にポイントが振り当てられるわ!」

 

 つまり組み合わせによって騎馬のポイントがそれぞれ異なり、それを奪い合うポイント稼ぎ方式である。ミッドナイトは説明を続ける。

 

「1位に与えられるポイントは、1000万!上位の奴ほど狙われちゃう、下克上サバイバルよ!」

 

 3位のポイントは200P、2位は205Pだというのに、1位は突然に跳ね上がった。まるで、一昔前のバラエティ番組のようだ。皆の視線が妹紅に突き刺さり、妹紅も片眉をピクリと僅かに動かして反応を示す。

 

「上をいく者には更なる受難を。雄英に在籍する以上何度でも聞かされるよ。これぞプルスウルトラ!予選通過1位の藤原妹紅さん!持ちポイント1000万!」

 

 もう一度ミッドナイトは、そう宣言した。なるほど、これで1位の妹紅はポイントを奪われるまでずっと狙われ続けてしまうだろう。しかし、逆に考えるとこの1000万ポイントを奪われなければ、相手のポイントを奪わなくとも確実に勝利出来るという事である。リスクはあるが、同時に有利な立場でもあった。

 

「重要なのはハチマキを取られても、また騎馬が崩れても、アウトにはならないってところ!ただし!騎馬が崩れた場合は組み直すのに10秒の猶予が設けられるけど、10秒以内に騎馬を組み直せなかったら、その時点でアウトよ!アウトになればポイントを持っていたとしても、そのポイントは無効!残念ながら失格よ。騎馬上に騎手がいない場合も崩れたと見なされるから、飛行や浮遊、跳躍個性持ちの騎手は気を付けなさい!」

 

(騎馬ごと飛んで空で待機はアリかな?炎翼…は騎馬の人たちを焼いちゃうな。火の鳥を掴んで、ぶら下がりながら…うん、これならイケるかも。でも、数人分の体重を腕で支えるのは厳しいか…いや、麗日の浮遊個性があれば…)

 

 妹紅はミッドナイトの説明を元に作戦を練る。妹紅の場合、とにかくポイントを奪われなければ勝利出来る。騎手が騎馬から離れていけないのならば、開始と同時に騎馬ごと上空で待機すればよい。第一種目を見た限り、麗日以外で空を飛べる個性持ちは爆豪くらいだが、彼の個性では騎馬ごと飛ぶ事は出来ない。つまり、麗日をチームに引き入れ、1000万ポイントを維持したまま空へ飛び上がれば、その時点で妹紅たちの勝利が確定する。

 しかし―――

 

(あ、コレ駄目だ。ヤジが飛びかねない。私はともかく、麗日や他の人まで非難されちゃうのは良くない。アピールするどころか印象悪くなるかも。とはいえ、少しの間だけなら問題は無い…はず。緊急避難用に麗日は絶対に欲しい)

 

 ルールの裏をかく行動は、大衆から好まれない。特に、妹紅は第一種目を1位で突破しており、期待の目で見られている。この作戦を実行したならば、観客から非難されること間違い無い。それどころか、チームメイトにも非難の矛先が向けられかねない。そんな事になってしまうくらいならば、潔く負けてしまった方がマシだと妹紅は思う。

 しかし、一時的に空を飛ぶだけならば、恐らく問題は無いはずだ。勝負の場に立ちつつ、個性を十全に発揮する。後は使用した際の観客の反応次第だ。少しでもブーイングが出るようならば、即座に止める。他人の目を気にしてばかりだ。

 ヒーローが人気商売だと揶揄されている理由が分かる気がする、と心の中で溜息を吐く妹紅であった。

 

「個性発動アリの残虐ファイト!でも、あくまで騎馬戦!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発退場にします!競技時間は15分間!タイムアップの時点でポイント上位4チームが最終種目に進出よ。それじゃ、これよりチーム決めアンド作戦会議時間を設けるわ。時間は同じく15分!交渉タイムスタートよ!」

 

「藤原アアァッ!オイラと組んでくれぇぇッ!騎手でも騎馬でも、オイラはどっちでもいいぞぉッ!」

 

 ムチの音と共にスクリーンにタイマーが映し出された。既にカウントは始まっている。15分という短い時間に戸惑う生徒もいる中、即座に峰田が妹紅にチームを申し込んだ。交渉タイムが始まってから、まだ3秒と経っていない。

 妹紅の強個性と1000万ポイント、メリットとデメリットを天秤にかけてチーム決めを悩むA組生徒が多い中、峰田の行動力は凄まじかった。見えているモノが違うだけかもしれないが。

 

「い、いや、私は騎手をしようかと…残念だが、峰田の身長では私と組むのは難しい…」

 

「そこを何とかぁぁあああ!」

 

 今ここで土下座でもするのか、という勢いで峰田は頼み込む。中々しつこい。しかし、このまま長引かせてしまってはチーム決めの時間が無くなってしまう。ここは嘘を吐いてでも断らねばならないだろう。

 

「既に組もうかと思っている人たちがいるんだ。すまない、峰田。組むのは無理だ」

 

「チクショォォォッ!!」

 

 峰田の身長は108センチ。妹紅では…というより、他の参加者でも峰田と組むのは難しいだろう。妹紅に断られた峰田は涙を流しながら走り去った。しかし、その数秒後には八百万にチームを申し込むのだから、なんとも心の強い男である。因みに八百万はゴミを見る目で峰田の提案を断っていた。

 峰田が去った直後。妹紅はまたも声をかけられた。葉隠の声だ。

 

「妹紅!」

 

「葉隠、私と――」

 

 呼びかけに振り返りながら、妹紅は葉隠をチームに誘おうとした。麗日を誘うつもりだが、葉隠もチームに加わってくれたら心強い。個性は騎馬戦の競技に向いていないが、素の身体能力は高く、何より妹紅と仲が良い。第二種目は個人競技では無いのだから、きっと葉隠は自分のチームに参加してくれるだろうという期待があった。

 しかし、残念ながら妹紅の期待通りとはいかなかった。

 

「第一種目は負けたけど、本番はまだまだこれからだよ!この騎馬戦で妹紅に勝つ!さぁ、響香!残りの騎馬を探すよ!」

 

「藤原と組んだ方が勝率は高いだろうに、全く…しょうが無いな。付き合ってやるよ、葉隠」

 

 葉隠の鼻息荒く、再びのライバル宣言。耳郎は溜息を吐きながらも葉隠の後に続いた。

 葉隠からしてみれば、妹紅の強さは手の届かないところにあった。先の第一種目、轟との戦闘訓練、そしてUSJで見た脳無との戦い。葉隠はクラスメイトの中で、妹紅の強さを一番知っているという自負がある。可能なら『私の友達の妹紅はこんなに凄いんだ!』と自慢して回りたいくらいだ。だからこそ、妹紅に甘えられないのである。ここで甘えてしまえば、友達であってもライバルでは無くなってしまう。妹紅が凄いからこそ、そのライバルでありたい、ライバルとして認められたいという想いが葉隠にはあった。

 その想い全てが妹紅に伝わった訳では無い。しかし、それでも言葉にならない、その何かを妹紅は感じ取った。

 妹紅は決断する。『葉隠の挑戦を全力で受け、そして勝つ』、それが妹紅の出した答えだった。身が引き締まる思いで妹紅は行動を起こす。まずは麗日だ。

 

「麗日」

 

「あ、藤原さん」

 

 妹紅の声に麗日は振り返る。どうやら緑谷と話していたらしいが、他の生徒の姿は見えない。まだチームを組んでいないのならば、チャンスだ。

 

「私と組んでくれないか?」

 

 妹紅が切り出したチームの申し込みに麗日は驚いた。予選を1位で通過した妹紅ならば、もっと強い人と組むのだと思っていたからだ。更に言えば、麗日は先程、緑谷とチームを組んだばかりであった。

 

「え、私と!?私は良いけど、さっきデクくんと組んじゃったよ?」

 

「デク…緑谷の事か。まだ2人か?」

 

 妹紅が聞き返すと、2人はコクコクと同時に頷いた。

 

「緑谷の個性は『超パワー』だったな…むしろ、ありがたい。麗日、緑谷、私と組んでくれないか?」

 

「ほ、本当に僕でもいいの!?」

 

「ああ、頼む」

 

「あ、ありがとう藤原さん!」

 

 妹紅は構わずチームを申し込むと、麗日も緑谷もそれを快諾してくれた。

 1000万ポイントというリスクは背負ってしまうが、妹紅の強個性は捨てがたいと緑谷は思う。炎を放てば近づける者はほとんど居ないのだ。勝機は十二分にあるといえた。

 

「藤原さんが騎手を?」

 

「ああ、私は全身から炎を放てるが、腕や手から放つと精度が格段に良い。可能であれば騎手をしたいと思っているが…緑谷も騎手がしたかったのか?」

 

「え、ええと、僕の個性は腕を使うから騎馬を組むと使用が難しくて…騎手がやりたいって訳じゃないんだけど、騎馬だと個性の使用自体が制限されるっていうか…」

 

 緑谷は自身の腕を見ながら、そう口籠もる。しかし、妹紅はその言葉に小首を傾げた。

 

「腕?足で個性は使えないのか?入試試験で特大のジャンプをしていただろう。それに緑谷の個性は使わなくても大丈夫だ。リスクが大きい個性だという事は知っている。敵が緑谷の個性『超パワー』を警戒して接近を躊躇えば、それでいい。中遠距離は私の炎に任せろ」

 

 妹紅の言葉に、緑谷はカッと目を見開く。そして突然ブツブツブツブツと独り言を始めた。その姿は中々独創的。小さな子どもが今の緑谷を見たら怯えてしまいそうなほどだ。

 

「そうか、それがあったんだ!足、なんで気付かなかったんだろう。そうだ、オールマイトの必殺技がパンチばかりだからだ。無意識にオールマイトに倣っていたんだ。オールマイトに足技は無いから、誰かから教えてもらわないといけない。先生方で足技を多用するヒーローはエクトプラズム先生だけど…いや、まずは身近な人の動きから学ぶのも良いかもしれない。そうだ、飯田君なら…」

 

「お、おい、緑谷…」

 

 1人自分の世界に入る緑谷に、妹紅も麗日も軽く引いてしまう。しかし、時間制限がある中、緑谷をそのままにしておく事も出来ない。妹紅がおずおずと呼びかけると、緑谷の意識はハッと覚醒して元の世界に戻ってきた。

 

「あ、ご、ごめん、つい考え事が。うん、それなら藤原さんが騎手で、僕と麗日さんが騎馬。後1人、近距離個性を持った騎馬が居た方が良いと思うよ。B組は僕の個性を知らないだろうから、構わずに接近してくるはずだ。僕の個性で追い払っても足を骨折してしまったら、その場から動けなくなってしまう。まだ騎馬が決まっていなくて、近距離個性持ちは…あの人だ!」

 

 我に返った緑谷の提案は理に適っていた。妹紅もその人選に納得する。妹紅たち3人は彼、常闇に声をかけた。

 

「すまないが、遠慮させてもらう」

 

「え…」

 

 しかし、その申し入れは断られてしまった。他のチームに入っている訳では無いらしいのだが、それでも妹紅のチームに加入する気は無い、と彼は言った。

 

「理由を詳しく言う事は出来ない。俺の個性の弱点に関わる事だからだ。俺を頼ってくれた気持ちは嬉しい。だが、すまない」

 

 常闇は軽く頭を下げて謝ると、チームメンバーを探しに去って行った。残念ながら常闇は妹紅のチームには入ってくれず、制限時間は半分を切った。周りの生徒たちの多くはチームが決まり、既に作戦会議を行っているチームもある。

 

「ま、まずい。もう近距離個性持ちで余っている人なんて…」

 

 緑谷が周りを見渡しながら焦った声で呟いた。そう簡単に見つかるわけも無く、更に焦る緑谷。しかし、その時同じく周りを見渡していた妹紅が声を上げた。

 

「居た。尾白、私たちと組まないか?」

 

「え、俺でいいの?そりゃ組んでくれたら俺も嬉しいけど」

 

 個性『尻尾』を持つA組の男子生徒、尾白猿夫。彼はA組内でチームを探していたが、既に4人のメンバーが決まっていたり、自分の個性を生かせるチームが見当たらなかったりした事でチームを組めずにいた。

 予選1位通過の妹紅ならば既にチームを組み終わっているだろうと思い込んでしまっていた尾白は、妹紅たちに声をかけること無く、仕方なく他のクラスの生徒とチームを組むつもりであった。しかし、その寸前に妹紅から誘われた、という流れだった。当然、尾白は妹紅の提案を快く受け入れた。

 

「そうか!尾白くんの『尻尾』なら騎馬を組んだ状態でも、攻撃も防御も自由自在だ!と、なると、僕が前騎馬で、麗日さんと尾白くんが後騎馬って感じかな?」

 

「うん。緑谷の言う通り、俺は後ろの方が良いと思う。ただ、皆も俺の『尻尾』のリーチは把握していてくれ。届かなければどうしようもないから。それと、敵騎馬から逃げる場合は『尻尾』が相手に向くように逃げると、俺も防御がしやすい。もちろん状況次第だけど、頭には入れておいてくれ」

 

 緑谷は手を打って納得して頷く。確かに尾白の『尻尾』は、騎馬戦という状況下でも輝く個性だ。特に後方からの攻撃に対応出来る強みは大きかった。

 こうして妹紅、緑谷、麗日、尾白の4人は互いに納得してチームを作る。残り時間は5分、早速作戦会議が始まった。緑谷を始め、妹紅たちも様々な案を考え、それを皆で精査する。もちろん、妹紅が考えていた麗日の『無重力』との連携回避技も採用された。応用すると制限時間までずっと空で待機出来る、と妹紅が言うと、3人は顔を引き攣って苦笑いを浮かべていた。無論、それを実行するつもりはさらさら無い、とも伝えてある。

 

 

「やぁ、A組の藤原さん。第一種目1位通過、おめでとう」

 

「…?あ、ああ。ありがとう…君は…」

 

 制限時間も残り1分をきった。いくつかの作戦を再確認していると、愛想笑いを浮かべた他クラスの男子生徒が妹紅に話しかけてきた。作戦会議を切り上げて、妹紅は話しかけてきた優男然の男子生徒と向き合う。妹紅は彼に見覚えは無く、言葉に詰まっていると、彼は柔らかな物腰のまま自己紹介を始めた。

 

「おや、失礼。僕はB組の物間。物間寧人。よろしく」

 

「ああ…よろしく。藤原妹紅だ」

 

 物間は右手を差し出して握手を求め、それに妹紅は応えた。握手を交わした瞬間、物間の笑顔が一段と深まり、実に楽しげな表情を浮かべた。しかし、すぐに物間はスタジアムの時計に視線を向けると、わざとらしく声を上げる。

 

「おっと、そろそろ始まりそうだ。敵同士だけど正々堂々と戦おう。じゃあね」

 

 そう言って物間は立ち去っていった。彼の向かう先には同じくB組で構成された3人のチームメイト。彼等と合流した物間は右手を軽く挙げてニヤリと笑うのだった。

 

 気が付けばディスプレイに映るタイマーは残り数秒。四角形のバトルフィールドの外周に各騎馬が均一に並ぶ。既に騎馬は組んだ。準備は万全だ。観客も今か今かと戦いの時を期待している。

 

『15分のチーム決めと作戦タイムを経て、フィールドに11組の騎馬が並び立った!さぁ上げてけ鬨の声!血で血を洗う雄英の合戦が今!狼煙を上げる!準備はいいかなんて聞かねえぞ!いくぜ!残虐のバトルロイヤル、カウントダウン!3! 2! 1! START!!』

 

 第二種目、騎馬戦。その試合開始のゴングが鳴った。

 




 峰田は妹紅を見つけ次第、張り付こうとしていましたが、妹紅は上空ルートだった為、原作通り八百万に張り付いていたようです。その為、ゴミを見る目で見られていました。ついさっきまで妨害していた奴からチームの申し込みをされたら、そんな目にもなる。

 次に第二種目について。原作からの変更点は騎手の滞空制限です。騎手が騎馬から離れた場合、10秒以内に騎馬の元へ戻らないと失格です。この制限が無いと、爆豪と妹紅による上空一騎打ちが始まります。お前ら騎馬戦しろってなります。その為、ルールが追加されました。
 因みに本編でも書いたように、このルールがあっても、妹紅と誰かの2人チーム、もしくは麗日と組めば4人チームでも騎馬ごと、競技開始からタイムアップまで上空待機が出来ます。しかし、『ルール的にはOKだけど、空気読めよな』と観客は思うでしょう。高校野球で松井秀喜を5打席連続敬遠したピッチャーみたいな感じです。…なんか変な例えですが…そんな感じです。
 よし、次行こう。

第二種目、騎馬一覧
A組
藤原チーム 妹紅、緑谷、麗日、尾白
爆豪チーム 爆豪、切島、芦田、瀬呂
轟チーム  轟、飯田、八百万、上鳴
葉隠チーム 葉隠、耳郎、砂藤、口田
峰田チーム 峰田、蛙吹、障子

B組+α
物間チーム 物間、円場、回原、黒色
鉄哲チーム 鉄哲、骨抜、泡瀬、塩崎
拳藤チーム 拳藤、柳、小森、取蔭、
小大チーム 小大、凡戸、吹出、
角取チーム 角取、鎌切、宍戸、発目
心操チーム 心操、常闇、床田、鱗

 42名、計11チーム。この様になりました。爆豪、轟、葉隠、峰田、物間、鉄哲、拳藤チームは原作通りです。

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