もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんとマスコミ

「教師としてのオールマイトはどんな感じですか?」

 

 オールマイトが雄英高校の教師となった事は日本全国を驚かせ、大きな話題となった。朝、雄英の正門の周りには多くの報道陣が押しかけ、登校する生徒たちにカメラとマイクを向けてはインタビューを求めている。妹紅もそれを避ける事は出来ず、ズイッとカメラを向けられて、インタビュアーからコメントを求められていた。

 

「え…実践的で分かりやすく…厳しくも優しい先生です…?」

 

「はい、ありがとう」

 

 妹紅が当たり障りの無い答えを返すと、インタビュアーは形式だけの礼を言って、他の生徒を探し始める。そして新たな生徒を捕まえては同じような質問を投げかけていた。

 妹紅はそそくさと報道陣の囲いから抜け出して学校の敷地内に入る。流石の報道陣も敷地内までは入って来ないようだ。そんな妹紅の姿をたまたま見つけたクラスメイトの1人が声をかけた。

 

「おはよう、藤原ちゃん」

 

 声をかけたのは蛙吹梅雨。個性『蛙』の持ち主で、目がパッチリとして落ち着いた雰囲気の女生徒だ。クラスメイトは男女問わず“ちゃん”付けで呼んでおり、入学初日から他の生徒に対して積極的に話しかける社交性の高い女子だった。

 

「…おはよう、えっと…アスイさん」

 

「うん、蛙吹梅雨よ。私の事は梅雨ちゃんって呼んで」

 

「ア、 つ、梅雨…ちゃん?」

 

 恐る恐るといった感じで妹紅は呼ぶ。かつて、クラスメイトをちゃん付けで呼んだ事など無かった妹紅には、勇気を要する呼び名であった。

 

「自分のペースでいいのよ。それにしても、今日の報道陣の数は凄いわね。しばらくの間、登下校時はこんな感じかも知れないわ」

 

「あ、ああ。インタビューなんて初めて受けたから驚いた…これが毎回だと思うと少し疲れてしまうな」

 

「でも、プロヒーローになったら沢山のインタビューを受ける事になるのだから、今のうちにメディアに慣れておくのも悪くない手だと思うわ」

 

 蛙吹の意見に妹紅は衝撃を受けた。妹紅1人ではそんなポジティブな発想は出て来なかっただろう。そんな蛙吹の意見に、妹紅は何度も頷いて肯定する。

 

「確かにその通りだ。今の内に慣れていればプロになり始めた時の精神的な負担は減る…なるほど、流石だな、梅雨…ちゃん」

 

「そんな事は無いわ」

 

 そう言いながらも蛙吹は少し頬を染めると、照れくさそうにケロケロと鳴いていた。葉隠とは違うベクトルで話しやすい女子で妹紅も安心する。そんな会話をしながら2人は教室へと歩いていった。

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。V(ブイ)と成績見させてもらった。爆豪、お前もうガキみたいなマネするな。緑谷、個性の制御が出来ないから仕方ないじゃ通さねえぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。個性の制御さえ出来ればやれる事は多い。焦れよ緑谷」

 

 相澤は朝のHRが始まると、爆豪の行動と緑谷の個性の制御に対して苦言を呈した。相澤の言葉に爆豪は俯いて、緑谷は焦燥感に駆られながらも返事をする。

 他にも峰田を筆頭にだらしなかった生徒たちに対して小言を言いたい相澤だったが、それはオールマイトからの指摘を受けた本人たちも理解しているだろう。そんな生徒は睨み付けるだけで済ませ、HRの本題を切り出した。

 

「急で悪いが、今日は君らに学級委員長を決めてもらう」

 

(((学校っぽいの来たー!)))

 

 また入学初日のように臨時テストでもやるのか、と思い身体を強張らせたクラスメイトがホッとしながらも心の中で声を上げる。そして、すぐに皆が一斉に手を挙げて立候補し始めた。集団を導く学級委員長という役職はトップヒーローの素地を鍛える事が出来る為、ヒーロー科の生徒からは人気が高い。

 妹紅も緊張しながら恐る恐ると手を挙げていた。中学時ならば見向きもしなかっただろうが、ヒーローを目指す今となっては、そんな内気な己自身も変えたいと思っていた。

 

「静粛にしたまえ!」

 

 皆が我も我もと立候補する中、飯田の声が轟いた。彼曰く、学級委員長とは多を牽引する責任重大な仕事であり、周囲からの信頼があってこそ務まる聖務だという。

 

「民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら…これは投票で決める議案!」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!何故発案した!?」

 

 クラス内での選挙を提案しながらも、右手を高々と挙げていた飯田にツッコミが入る。しかし、その提案自体は真っ当なモノであり、相澤の『時間内に決まれば何でもいい』という発言も受けて学級委員長を決める投票が行われた。

 

 結果、緑谷は3票を獲得して委員長に、八百万は2票を獲得して副委員長に決定した。

 因みに妹紅は1票、もちろん自分で入れた票である。残念と思う反面、ホッと安心してしまった自分自身に妹紅は思わず落ち込んでしまう。ヒーローに成る為には、まだまだ精神的な成長が必要である事は言うまでも無かった。

 

 

 午前の普通科目の授業が終わった昼休みの1-A教室。そこで妹紅が弁当を食べていた時のことだった。

 突如として校内放送用のスピーカーから警報が鳴り響く。教室に残っていたクラスメイトたちが『なんだなんだ?』と騒ぎ出す。妹紅も食事を止めて周りを見渡していると、スピーカーから避難指示が告げられた。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』

 

「え、避難!?屋外ってどこに行けば良いんだよ!?」

 

 教室に居たクラスメイトの1人、砂藤が焦りながら立ち上がったが、避難先が分からず二の足を踏んでいた。雄英に入学して3日目、避難訓練も未経験であるし、何より広すぎる校舎内の構造を把握出来ていなかった。

 どこで何が起こっているのか分からない状況で無闇に動く事は危険である。もしも、セキュリティを突破した者が危険人物(ヴィラン)であったならば、避難中に鉢合わせする可能性もある。先ほどの放送程度の情報量だけでは、むしろ避難せずに教室で待機していた方が安全である。

 それを理解しているのか、それとも混乱してしまい動けないのかは定かでは無いが、教室から出ようとするクラスメイトは居なかった。

 

(丁度良い、ヴィランが来たら昨日教えてもらった技で倒してやろう)

 

 一方、箸を置いた妹紅は好戦的な思考に染まっていた。スポーツ漫画を読んだだけでそのスポーツが簡単に出来ると思ってしまう小中学生のように、元プロヒーローから格闘術をちょっと学んだだけで万能感に浸る妹紅だった。だが、前席の爆豪がこれ見よがしに爆発を起こす。

 

「ハッ、知るか!何が来てもぶっ殺せば良いだろうが!」

 

(わ、私の思考レベルはコイツと同じなのか…)

 

 両手から小規模な爆発を起こしながら凄む姿は不良少年を超えて、正に危険人物。そんな爆豪と同じような事を考えていたと知り、妹紅は1人ショックを受けていた。

 ヒーローになると決めた日からスッパリと煙草は止めているが、それ以前は隠れて煙草を吹かしていた過去を持つ元不良少女、妹紅。あまり人の事は言えなかった。

 

「あら?ねぇ皆、窓の外を見て。アレただのマスコミよ」

 

「あ、ホントだ、相澤先生とマイク先生が対処にあたっているみたいだな」

 

 窓の外を覗いた蛙吹の言葉でようやくクラス内の混乱は治まった。皆ホッと胸を撫で下ろして、席に戻ったり、窓からマスコミの様子を確認したりしている。妹紅も再び弁当に箸をつけて昼ご飯を再開する。

 

「チッ、つまんねーな!クソが!」

 

 すぐに警察が到着してマスコミは撤退したが、爆豪はイラつきながら大きな舌打ちと暴言を吐き続けていた。

 

 

 放課後のHR、学級委員長の緑谷はその任を辞退し、新たな委員長として飯田を指名した。どうやら食堂で活躍したらしく、自分よりも飯田の方が適任であると判断したという。切島や上鳴などその様子を見ていたクラスメイトもそれに賛同し、反対意見も無かった為、緑谷に代わり飯田が正式な学級委員長となった。

 

 

 しかし、妹紅を含めた生徒は誰1人気付かなかった。鉄壁のセキュリティを誇る雄英が、何故マスコミ程度の侵入を許してしまったのか、その理由を。

 


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