もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

13 / 92
もこたんの強さの秘密

 時刻は夜の9時を過ぎているが、雄英高校の職員室は未だに明りが消える気配は無く、数名の教師たちが仕事に追われていた。

 そもそも学校の教師というのは一般的にも激務である事が多いが、天下の雄英ともなると仕事量はその比では無く、更にプロヒーローとしての仕事もこなす必要がある。新入生の入学間もないこの時期は特に仕事が多く、徹夜もザラにあった。

 

 一年ヒーロー科A組担任の相澤は、オールマイトより渡された今日の戦闘訓練の映像を見ていた。訓練の様子を観察しながら生徒1人1人の能力などをデータとして纏めていく。

 全5戦を見終わり、生徒たちのデータもある程度纏めた相澤は目を閉じ、タイピングする手も休めて椅子の背もたれに寄りかかる。

 

(緑谷の奴はまた腕をぶっ壊したか。爆豪も能力はあるんだがな…。爆豪、轟、藤原は実力こそクラスでも飛び抜けているが、3人とも一癖も二癖もある性格してやがる)

 

 モニターを見つめ続けて疲れた瞳に目薬を垂らす。一段落ついたが仕事はこれで終わりでは無い。まだまだやるべき事は残っていた。次の仕事に移ろうとしたところで、携帯の振動が電話の着信を告げた。

 

(ったく、誰だよ。またマイクの馬鹿話の電話だったら、すぐに切ってやる)

 

 そう思いながら相澤は携帯を取り出す。だが、携帯の画面に映っていた名前は腐れ縁のプレゼント・マイクでは無く、かつての同級生で元プロヒーローの上白沢慧音(ワーハクタク)であった。相澤は携帯を片手に廊下へと出て、電話を取った。

 

「ハクタクか?久しぶりだな」

 

『ああ、久しぶり。こんばんは、イレイザー。夜に電話をかけてしまってすまないね。今、時間は大丈夫かな?』

 

「ああ、問題ない。お前が電話をかけてくるのは珍しいな、ワーハクタク。何か用事か?」

 

『少し話がしたくてね。ああ、それとヒーロー名はよしてくれ。確かにヒーロー資格は持ったままだが、ヒーロー活動からは既に引退しているんだ。昔のように呼んでくれると嬉しい。それにしても、私の施設の子供がイレイザーの教え子になるなんてね。不思議な縁だと思うよ』

 

 慧音は昔を懐かしみながら話す。お互いに忙しい身である事は理解していたので電話をするのも躊躇してしまい、中々連絡を取れないでいた。だが、久々の友人との会話は心躍るモノがあった。

 

「少なくとも俺たちよりお前の方が教師に向いていた事は確かだろうな、上白沢。マイクの奴は学生時代から変わってないぞ」

 

『そうか、山田(マイク)は相変わらずか。フフフ、懐かしいな……それでイレイザー、話というのは他でもない、妹紅…藤原妹紅についてなんだ。本来ならば友人だからといって、担任の君に何も口出しする気は無かった。いや、友人だからこそ任せるつもりだった。だが、私も思うところがあるんだ。すまないが聞いてくれないだろうか?』

 

「別に構わない」

 

 相澤は口では素っ気なく答えたが、真摯で聞くつもりでいた。

 電話をかけるタイミングならば、雄英入学の前日でも初日でも何時でもあった筈だ。だというのに2日目というこのタイミング。恐らくは今日の戦闘訓練を妹紅から聞き、担任である自分と何かしらの話をする必要が出てきたのだと相澤は察していた。

 

『妹紅から聞いたが、今日はチーム戦の戦闘訓練をしたんだってね。君の素直な感想を聞かせてくれ、あの子の戦闘をどう思った?』

 

「不自然、その一点に尽きる」

 

 今日の戦闘訓練、そして昨日の個性把握テストから相澤は妹紅に対してそのような評価を下していた。慧音はフム、と頷いた。

 

『不自然…か。何故そう思ったんだ?』

 

「最初、入試の採点の時だが、俺とマイクは藤原の願書の保護者欄に書かれていたお前の名前を見た時にこう思った、あのワーハクタクが自身の後継者と認めた子供を雄英に送り込んできた、とな」

 

『ハハハ、まさか』

 

 慧音は思わず笑い飛ばしてしまった。そもそも自身(ワーハクタク)の後継者を作るという発想すら慧音には無く、相澤たちが大真面目にそう考えていたなどとは思いもしていなかった。

 だが、相澤は電話口から聞こえる笑い声を気にせずに続ける。

 

「少なくとも藤原の圧倒的な炎を入試で見た時、俺たちはそう思っていた。筋肉と同じで個性は使い続ければ強くなる。だから、藤原は幼い頃から上白沢の元で相当にしごかれてきたのだろうと思った。しかし、昨日の個性把握テストと今日の訓練を見る限り、その様子は一切無かった」

 

『ほう、続けてくれ』

 

「お前は増強型の個性の持ち主だが、その膂力に驕らずに技量を重視したヒーローだった…だというのに藤原は炎の細かな操作はおぼつかず、戦闘訓練では火力と再生によるゴリ押しだけ。今日の訓練中、藤原が凍らされた腕を千切り捨てて戦闘を続行した件は聞いたか?」

 

『ああ、オールマイトから注意を受けたと妹紅は言っていたよ。もちろん私もしっかり説教をした』

 

「だろうな。お前ならあんな戦闘方法を子供に教える筈が無い。昨日今日と、アイツからはワーハクタクの弟子と言える部分は一切見えてこなかった。火力だけで言えば既にトッププロクラスと言えるだろうが、技量は遙かに心許なく課題が多い。これは不自然としか言いようが無い」

 

 相澤は妹紅の個性は入学試験の願書で確認していたし、過去に父親の虐待から精神病を患い、現在も無痛症だという事まで雄英の独自調査で知っていた。だからこそ際立つ不自然さに疑問を抱いていた。

 

『イレイザーの目からはそう映っていたか。私の事を知っている人間ほどそう思うだろうね』

 

「ああ…炎熱系は容易に人を傷つける事が出来る個性の典型だ。俺の知っているお前ならば、少なくとも火力の底上げよりも炎の制御を優先させた筈だ…良い機会だ、聞かせろ。お前はあの子供に何を求めている?」

 

 相澤がそう尋ねると、慧音は間を空けて小さく息を吐くと、静かに語り出した。

 

『…私が妹紅に求めたモノはただ一つ、あの子の幸せだよ。私は子供たちをヒーローなんて危険な職業に就かせたく無かった。だが、それでもあの子はヒーローに成りたいと言ったんだ。あの子の目を見たとき、揺るぎの無い覚悟と決意が見えた。私はそれ以上反対する事は出来なかった…私のように成りたいと言ってくれたよ』

 

「…そうか」

 

『それは雄英の入試の1ヶ月くらい前の出来事だった。妹紅に本格的に個性の扱い方を教え始めたのはその頃からだよ。ソレまでは個性を安易に使わないように、としか教えていなかった』

 

「入試1ヶ月前だと?馬鹿な、あり得ん。『不死鳥』という個性が如何に強力なモノだろうと、一朝一夕でアレ程の炎を生み出す事は不可能な筈だ。上白沢、一体どういう事だ?」

 

 相澤は驚きを持って聞き返す。映像を見た限り、『不死鳥』の再生は謎が多いが、あの炎は許容上限がある発動型だと相澤は予想していた。だとすれば、入試の際の炎を発するまでに成るには気が遠くなる程の訓練が必要であり、決して1ヶ月程度でどうにか出来るレベルでは無い事は明らかであった。

 

『さっきイレイザーが言っていた通りさ。筋肉と同じで個性は使い続ける程強くなり、そうでなければ衰える。つまりは個性の限界突破だ』

 

「個性によって死なないとしても、どんな過酷な訓練をしたところで1ヶ月程度では絶対にあり得ない。あの火力はそれこそ個性が発現した瞬間から鍛えなければ到達出来ない領域の――…いや、待て、藤原は再生にも炎を使っていたな……まさか、アイツは幼い頃から父親に…それほどの虐待を?」

 

『…ああ、その通りだよ。いつから虐待を受けていたか正確には分からない。だけど、父親が捕まって保護された10歳までの間、殺されては生き返る日々を送っていたらしい。食事も一切貰えずに餓死しては再生し、父親の暴力で殺されては再生する。そして、あの子の身体は炎によって再生される。つまり常に炎を使用していた状態だったのだろうね。保護された後も突発的に自傷行為に及ぶ事が多かった。強化された火力が維持されていたのはその為だと思う』

 

「極限状態における個性の限界突破を数年もの間やらざるを得ない状況だった訳か。なるほどな、藤原の不自然さに納得はいったが…チッ、全く反吐が出る話だな」

 

 相澤はヒーローになってから凄惨な事件を何度も見たり聞いたりしてきており、どんな現場にも動揺しない精神を持つに至った。しかし、だからといって哀憫の情を捨てた訳では無い。言葉通り吐き捨てるように相澤は舌打ちをした。

 

「その父親はまだ刑務所か?」

 

『いや、残念ながら既に出所している。私がヒーロー資格を手放さない理由はそれだよ。私の施設には親に虐待された子供が多い。親はどこの施設に子供が保護されたかを知るすべは無いが、それでも子供たちは見えない親の影に怯えてしまうんだ。そんな子供たちを肉体的にも精神的にも救うには、ヒーローである事が重要なんだよ』

 

「…無理はするな、古傷に響くぞ。何かあれば俺やマイクを頼れ、何時でも力になってやる」

 

 ため息を吐きながら相澤は言った。マイクも学生時代から変わっていないが、コイツも変わってないな、と内心で思っていた。

 そんな相澤に慧音は笑って答える。

 

『ハハハ、それは心強いな、頼りにさせてもらうよ…やはり君が妹紅の担任で良かった、イレイザー。あの子は何でも心の内に秘めてしまって、他人に自分の事を中々話してくれないんだ。だから、君には少しでもあの子の事を伝えておきたかった』

 

「境遇には同情する。だが、ヒーローとして見込みが無ければ誰であっても除籍処分にするつもりだ。ヒーローに向かない者がヒーローになる事ほど辛いモノは無い。それはお前にも分かるだろう」

 

 もちろんだ、と慧音の頷く声が電話口から聞こえた。

 

『私もそういうヒーローたちを少なからず見てきた。もしも君が妹紅を除籍処分にしたとしても、私は受け入れるつもりだ。もちろんその時は保護者としてしっかりした除籍理由を聞くまで納得しないけどね!…ふぅ、長話してしまってすまないな。口うるさい保護者の戯れ言だと思って聞き流してくれ』

 

「いや、参考になった。礼を言う、上白沢。じゃあな」

 

『ああ、またな、イレイザー。マイクにもよろしく言っておいてくれ』

 

 別れを告げて電話を切った相澤が仕事の続きへと戻ろうとした時である、またも携帯が電話の着信を告げた。慧音が何か言い忘れたのかと思って画面を見ると、そこには『プレゼント・マイク』と表示されていた。

 相澤は通話拒否したい気分になるが、そこは我慢。万が一にも対ヴィランの協力要請である場合はすぐにでも駆けつけなければ成らない。だが――

 

『HEY、イレイザー!良い感じの店を見つけたから飲んでいるんだが、サイコーだぜ!FOO!お前も来――』

 

 一言も喋る事無く、相澤は電話を切った。まだまだ仕事が残っているというのに馬鹿の相手をするつもりは無かった。今日も相澤の夜は長い。

 

 

 

 一方、電話を切った慧音は一人っきりの施設の事務室から廊下に出た。既に夜の10時近い時間となっている。

 施設の年少組の子供たちは既に就寝している。年長組は勉強していたり遊んでいたりと思い思いの時間を過ごしているが、そろそろ彼等も寝る時間だ。そんな年長組の子供たちに、早く寝るようにと声をかけて回っていると、建物の外から声が聞こえてきた。

 声の方角、窓の外へと視線をやると、職員の1人と組み手をしている妹紅の姿があった。

 

 

「自分より力がある相手を投げるにはこうやって、こう。危険な投げ技だからヴィラン相手以外にはやらない事。じゃあ、ゆっくりやるよ」

 

「うわ、わ、わわ」

 

 施設の庭では慧音の元サイドキックの1人であり、今は同じ施設で働いている女性職員が妹紅に投げ技を教えていた。投げられて地面に転がされた妹紅は、片腕を掴まれたままうつ伏せに強く押さえつけられる。

 

「手首と肘を極めながら投げる。倒れたら自分の体重を利用して相手の首を制する。どう?動ける?」

 

「動かしにくい。でも思いっきり力を入れたら動けるかも」

 

 空いた片手で地面を掴んでグググ、と力を入れると、身体が少しずつ持ち上がり始める。自身の体重、そして女性職員の体重を片手で持ち上げようとする妹紅の頭にベシッと片手チョップが落とされた。

 

「はい、無茶しない無茶しない。関節は極めたままだから、普通は痛くて動けないんだよ」

 

 そう言って彼女は押さえつけを止めると、妹紅の手をとって立たせてあげた。妹紅は服についた砂埃を払うと、彼女の身体を借りて先の投げ技の動きをゆっくりと反復する。何度か正確な動きを確かめながら妹紅は質問する。

 

「でも、押えていても抵抗するヴィランもいると思うけど、そんな時はどうすればいいの?極めてる関節をへし折るの?」

 

「いや、これ逮捕術だから。拷問術じゃないから…そういう時はブン殴って気絶させなさい」

 

 妹紅の発想に若干引きつつもパタパタと手を横に振って否定する彼女だったが、抵抗するならば殴れと拳を握って見せる。今度は逆に妹紅が引いた。

 

「えぇ…それはいいの?」

 

「うん、いいよ。オールマイトだっていつもヴィランを殴り倒しているでしょう?上手く失神させるにはコツがいるけどね。でも妹紅ちゃんの個性なら、エンデヴァーの戦い方が参考になるかも。オールマイトほどじゃあ無いけど、No.2だけあって彼の動画はそこそこ多いから沢山学べるわよ」

 

 実際、ヴィランを捕縛するよりも殴り倒して捕まえるヒーローは多く、オールマイトはその典型だ。ヒーロー資格を持った者だからこそ認められた武力行使といえる。

 因みにエンデヴァーは低温の炎で相手を焼き、その痛みのショックで気絶させる戦い方を主としている。ヒーローのファンサイトなどでよく書き込まれる『エンデヴァーは怖い』、という内容は彼の性格だけでなく、このような戦い方も関係しているのかも知れない。

 

「わっ、もうこんな時間。今日はこれで終わり、早くお風呂に入りなさい。寝る前に歯磨きを忘れないようにね」

 

「はーい、ありがとうございましたー」

 

 一礼して風呂場へと向かう妹紅の後ろ姿を静かに見守りながら、慧音は相澤の言葉を思い出していた。

 

(私の後継者、か。確かに妹紅は私のように成りたいと言ってくれたけど、あの子にはあの子自身の道を歩んで欲しいと私は思う。ヒーローがあの子の道ならば、私はそれを見守る事しか出来ない…ならばせめて、この『寺子屋』に居る間だけでも心安らかな日々を…)

 

 慧音は胸に手を当て夜空を見上げ、明るい満月に願いを捧げた。

 




以下設定の垂れ流し。

藤原妹紅
個性『不死鳥』
身体から発した炎を操る事が出来る。
また炎を鳥の形にすると、炎でありながら物理性を持ち、簡単な命令を下す事が出来る。鳥の形の一部(翼など)も炎で形作ると物理性を持つ。だから炎の翼で空を飛べる。もうこの時点で強い。
怪我をすると、その部位が燃え上がり再生する。死ぬ程の怪我でも再生する。死んでも再生する。
炎の使用や再生には体力が必要となる。爆豪の言うMP型。自分の発した炎を吸収することで体力を回復できる。
体力が無い状態で死ぬと完全にガス欠の状態で再生する。しかし、どんなガス欠状態でも蘇生・再生は勝手に発動する。そんな状態での再生を何年も続けていた結果、火力が馬鹿みたいに上がった。

結論:強い(確信)。だけど天敵は相澤先生や心操とかの搦め手系の個性です。



上白沢慧音
ムーンヒーロー ワーハクタク
個性『獣化』
ハクタクという伝承の聖獣に変身する事が出来る(もちろんハクタクを確認する事は不可能な為、これは自己申告)
変身する事で角と尻尾が生え、髪が緑かかった色になる。また、身体能力が大幅に上がる。
満月の夜に変身すると、身体能力の上昇率が格段に上がる。

歴史を隠したり創ったりするという能力は無いです。ここの慧音先生はただの増強型個性ですね。

過去にヴィランとの戦闘で大怪我を負い、その怪我が元で現役を引退。その後、孤児院を経営する。当時のサイドキックの数名が慧音を慕って同時に引退。同施設の職員となる。慧音も職員もヒーロー資格は未だに持っているため、妹紅のような問題を抱えた子供が入居する事も多い。
最も戦闘能力を備えた児童養護施設と言っても過言じゃないレベル。


そんな感じ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。