もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんの戦闘訓練 前半

 オールマイトの初めてのヒーロー基礎学は、屋内での対人戦闘訓練であった。生徒は『ヴィラン組』と『ヒーロー組』の2対2のコンビに分かれて屋内戦を行う。

 状況設定は『ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか核兵器を回収する事。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事』である。

 核兵器の回収はタッチする事。捕まえるには捕縛テープを相手に巻き付ける必要がある、との事だ。

 

 コンビおよび対戦相手はクジで選ぶ流れとなった。妹紅が引いたクジには『I』と書いてあり、相方は葉隠(はがくれ)(とおる)という名前の透明な女子生徒だった。

 

 

 第1戦、ヒーロー側、緑谷出久・麗日お茶子 対 ヴィラン側、爆豪勝己・飯田天哉。

 

 これはとても派手で危険な戦闘訓練となった。オールマイトは確かに怪我を恐れず思いっきりやるようにと言っていたが、爆豪は緑谷を殺さんとする勢いで攻撃を行う。爆豪は建物の一角を吹き飛ばすほどの爆破をも使って緑谷を追い詰めるが、緑谷・麗日チームは機転を利かせて麗日が核兵器に回収(タッチ)する事に成功。緑谷・麗日チームの勝利となった。

 

 

 そして第2戦、ヒーロー側、轟焦凍・障子目蔵 対 ヴィラン側、藤原妹紅・葉隠透。

 

 訓練場所となる建物の前で、オールマイトは訓練だがほぼ実戦と思うように、と4人に言う。だが、第1戦のように度が過ぎないように、とも注意を促した。ヒーロー組とヴィラン組に別れる寸前、ようやく妹紅は轟に声をかけた。

 

「轟焦凍」

 

「…何か用か」

 

 轟はジロリと睨むように目線だけを妹紅に向ける。しかし、妹紅は無表情を崩さずに話を続ける。

 

「…中学の時、冬美先生には世話になった。訓練とはいえ、戦う事になってしまったが…よろしくな」

 

「…そうか。よろしく頼む」

 

 それだけ言うと、お互い視線を逸らして無言になる。お互いニコリともせずに終わる挨拶というのも中々無いだろう。とはいえ、これで冬美からのミッションをなんとかこなす事が出来てスッキリした妹紅だった。

 轟たちと離れ、建物内に入ると、コンビの葉隠が妹紅に話しかけてきた。

 

「よろしくね、藤原さん!あ、藤原ちゃんの方が良い?」

 

「…呼び捨てで良い。あなたは、ハガクレさんだったか?」

 

「そうだよー。私も呼び捨てで良いよ!藤原…なんか違うなぁ。妹紅?妹紅ちゃん?いや、もこたん!」

 

「…もこたんは止めてくれ。妹紅で良い」

 

 ケラケラと笑う声が聞こえる。透明で無ければ、きっと彼女は快活な笑顔を見せてくれていた事だろう。

 建物の最上階、5階の核爆弾前で妹紅たちは訓練に向けての作戦会議をする。ヴィラン側に与えられた猶予時間は5分。お互いの個性の確認、相手の個性の予想など、僅かな時間だが有効に使わなければならない。

 

「もこたん可愛いのにー。でもオーケー、妹紅だね。戦闘訓練、頑張ろうね。私の個性は見ての通り『透明化』だよ。直接戦闘は苦手だけど、不意打ちなら任せて!妹紅は炎系の個性だよね?昨日のテスト凄かったもんね!」

 

 身につけた手袋をブンブン振ってアピールする葉隠に、妹紅は自身の個性を話す。

 

「ああ。私の個性は『不死鳥』。普通の炎だけで無く、鳥を模した炎も扱う事が出来る。後は怪我をしても自己再生が出来るくらいだが……とりあえず前衛は任せてくれ」

 

「わー!?メッチャ強個性じゃん!無敵じゃん!これはもうウチら勝ったも同然なんじゃない!?」

 

 パッと両手袋を広げて驚く葉隠に対し、妹紅は首を横に振って否定する。

 

「…いや、不安要素は沢山有る。まず、核爆弾の近くで炎は使えない」

 

「あっ、確かにそうだね、オールマイト先生は本物として扱うようにって言ってたもんね。って事はヴィラン側設定の私たちは、最上階に核爆弾を置いて、下の階で侵入してきたヒーローを迎撃って感じかな?」

 

「それが無難だろう。二つ目の不安は、私の炎のコントロールだ。……火力には自信はあるが、細かなコントロールに難がある。訓練とは言え、『屋内戦』も『共闘』も私は経験が無い。屋内で大火力を使うつもりは無いが、それでも葉隠(味方)を危険な目に合わせてしまう可能性がある」

 

 うんうん、という相づちは帰ってくるが姿が見えない。だが、この葉隠という女子、性格としてはとても話しやすい。妹紅も思わず饒舌になってしまう程だ。

 

「そっかぁ、私は姿が見えないから、妹紅の炎に巻き込まれちゃうかもしれないね。妹紅が派手に戦っている内に、隠れて死角から捕獲テープをー!って思ってたけど。うーん、別々に戦った方が安全かも?連絡を取り合って、お互いしっかり場所を把握しながら、チャンスが有ればー!って感じも有りだね」

 

「そうだな。…だが、安全第一だ。私の炎にも相手の攻撃にも、近づく時は十分に注意してくれ。第三の不安は――」

 

「うわぁ、まだ有るの?」

 

 困ったような声を出す葉隠に妹紅は頷く。先の人物、轟焦凍についてだ。

 

「ああ。ヒーロー側、戦う相手についてだ。片方の個性は知らないが……『轟焦凍』には特に注意しよう」

 

「私の前の席にいる男子だよね。確かにあの氷の個性は注意だね。個性の扱い方に凄く慣れてたもん。50m走とか氷を次々重ねて高速で移動してたよ」

 

「……あの後、轟が氷を溶かしている所を見たか?」

 

 妹紅は冬美から焦凍の個性について何も聞いていない。昨日の個性把握テストで焦凍が氷を操った時、冬美の個性も氷系だったため、焦凍の個性も同じ系統だと思った。

 しかし、彼は作り出した氷を熱で溶かしていた。上がる水蒸気を見て妹紅は疑問に思っていたのだった。

 

「うん、見てたよ。作った氷に手を当ててジュワーって溶かしてたよねー。ってあれ?もしかして個性は氷系じゃない?妹紅は始まる前に轟君と何か話していたけど、内容は個性について?」

 

「いや。私の中学時の担任がアイツの姉でな、仲良くしてやってくれと頼まれて…まぁ、それはいいか」

 

 小さく首を振ってその話を省略する。なにせ猶予時間はもう残り少ない。妹紅は話を続ける。

 

「中学の担任だった冬美先生は、父親がエンデヴァーって事で有名だった。つまりアイツもエンデヴァーの息子。氷だけじゃなくて、炎熱系の個性も持ってるんだと思う」

 

「マジで!?エンデヴァーの子供が推薦で雄英に入ったっていう噂はホントだったんだ!?」

 

「噂になっていたのか。…間違いないはずだ」

 

「エンデヴァーの炎にあの氷とか激強じゃん!どうしよう!?」

 

 わたわたと動く手袋を見ながら妹紅も首を傾げる。そう簡単に良い考えは思いつかない。

 

「……どうしようか。まぁ、あまり緊張せず、胸を借りるつもりで戦うとしようか」

 

「ん~、そうだね!勝つのも大事だけど、訓練なんだから学ぶのが一番大事だね!いいじゃん!やったろ!私は手袋もブーツも脱ぐわ。そうだ、向こうのペアの障子君は腕を生やす個性だと思うよ。握力測定で腕を沢山生やして500kgw(キロ)以上の大記録だったから、増強型クラスのパワーに注意だね」

 

 妹紅は頷きつつ時間を確認する。もうすぐ訓練スタートの時間だった。

 

「…そろそろヒーロー側もスタートだ。私は4階の階段前で待機しよう。一つしかない階段で待っていれば、確実に相手と出会う筈だ」

 

「それなら私は3階に隠れて、後ろから捕獲テープで捕まえるチャンスを窺うわ!」

 

 葉隠はグッとガッツポーズをしたらしいが、手袋もブーツも脱いだ彼女の姿は誰も見えない。小型無線機が唯一見えているが、それもよくよく注意しなければ見えないだろう。

 それにしても、見えないとはいえ装備無しの全裸な訳だが、ヒーローとしてそれは大丈夫なのだろうか?色々な意味で不安になるが、戦闘系の個性でも無いのにあの入試試験に合格しているのだから身体能力はかなり高いのかも知れないな、と妹紅は思っていた。

 

「お互い位置の情報はしっかり――ッ!」

 

 妹紅は4階の階段に、葉隠は3階に潜伏する事が決まり、その場所へ向かう途中で、辺りを異常な冷気が包んだ。気付けば、パキパキと音をたてて建物全体が凍りついていた。妹紅のシューズや葉隠の素足も氷と共に床に張り付く。

 

「痛ッ!?建物が凍っちゃった!痛タタタタ……!」

 

「大丈夫か?すぐに溶かそう。……轟の氷だな」

 

 妹紅は自身のシューズを解凍しながらも、葉隠を火傷させないように炎で床を熱する。

 

「ふー、ありがとう。建物全体を凍らすなんてヤバすぎでしょ。作戦会議に時間かけ過ぎたかなって思ったけど、私一人で行動してたら、今ので行動不能になってたわ。結果オーライかな?」

 

「轟は速攻で来る気だな。…私は直ぐに階段へ向かう。葉隠はどうする?」

 

「速攻なら3階はもう無理ね。じゃあ、私は5階の核前で油断して近づいた相手を捕獲する!」

 

 そう言って、葉隠は戻っていった。

 一方、妹紅は階段を降りながら、炎を右手に纏う。そして1羽の小さな火の鳥を生み出して飛ばした。小型無線を通して葉隠へと連絡する。

 

「葉隠、聞こえるか。部屋の扉を開けておいてくれ。核の部屋に火の鳥を一羽飛ばした。そこに待機させておく。ソレには、先ほどの氷結攻撃がきても、安全に床を解凍するようにと命令を下している。…ただ、私が命令を改めない限り、他の事は何もしないから注意してくれ」

 

『わぁ、ありがとう!あ、来たよ!うん、この子がここにいれば相手への威嚇にもなるね。相手側がこの子に警戒した時が奇襲の大チャンスになるかも!わぁ~、温かいし、よく見ると可愛いね!』

 

 火の鳥は核のある部屋に入ると、扉近くでチョコンと座り込む。葉隠はソレに近づきマジマジと観察しながらも身体を温める。何せ周りは凍りついている。一糸纏わぬ姿の葉隠は寒くて仕方ないだろう。

 

 

 一方、モニター前のオールマイトとクラスメイトは寒さに震えながら轟を賞賛していた。音声はオールマイトにしか聞こえていないが、訓練中の4人全員の姿は映っている。(もちろん葉隠はカメラに映らない為、居ると思われる場所のみ映っているのだが)

 

「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵も弱体化!炎熱系の個性持ち(藤原少女)が居なければ、ここで試合が決まってたかもね!」

 

「最強じゃねぇか!今の攻撃、俺なら氷を無理矢理剥がせるかも知れねぇけど、瀬呂はどうだ?」

 

「俺、無理かも……」

 

「俺たちも……まるで対処出来ねぇ」

 

 オールマイトの言葉に切島と瀬呂のコンビが、そして砂藤(砂藤・口田コンビ)が悔しがる。他のコンビもどのようにして先の攻撃を切り抜けるかシミュレーションするが、難しい顔をするコンビが多い。

 

「お、見たまえ!轟少年と藤原少女がぶつかるぞ!」

 

「氷対炎!しかも昨日のテスト2位と3位の戦いだ!アツいぜ、これは!」

 

 ザワザワと騒がしくなるモニター前は、先ほどの冷気を中和するほどの熱気に包まれていた。

 

 

 4階の階段前で妹紅は相手を待っていた。そこに轟が3階からゆっくり階段を上がってくる。左半身を氷で覆ったようなコスチュームである。しかし、コンビである筈の障子という男子生徒は見当たらない。

 

「やっぱアレくらいじゃ、炎熱系の個性持ち相手には通じねぇか…」

 

「…4階の階段付近で轟を発見。腕の人は見当たらない、注意」

 

 妹紅の報告すると、葉隠から『了解!』と返ってくる。轟は自身の右手を見た後、妹紅を見て呟く。

 

「…じゃあ、いくぞ」

 

「轟との交戦を開始する」

 

 轟は右半身から冷気を、妹紅は全身から炎を迸らせて、第2戦の戦闘訓練が幕を開けた。


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