一撃のプリンセス〜転生してカンフー少女になったボクが、武闘大会を勝ち抜くお話〜   作:葉振藩

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謝るんだ

 

「へぇー、ライライはお父さんから武法を教わったんだー」

 

 ボクは人混みの多い正午の街路を、先ほど知り合った女の子――ライライと隣り合わせで歩いていた。

 

 その最中、会話に花を咲かせた。主な話題は武法の事。我ながら本当好きだなと呆れる思いだった。

 

 しかしライライはウザがったりはせず、小さく笑みを浮かべながら答えてくれる。彼女は姉様と同じ一七歳らしいが、その仕草はやっぱり十歳以上歳が離れたオトナの女性を思わせる。というか、姉様よりずっと大人だった。

 

「ええ。私のご先祖様は岳河剣(ユエ・ホージェン)の弟子だったの。そしてホージェンから教わった【刮脚(かっきゃく)】を、私たち(ゴン)家は家族の中で代々伝承してきたのよ」

 

「ってことは……今じゃ珍しい、一番古いタイプの【刮脚】ってことになるじゃないか! 【武勢式(ぶせいしき)】と【文勢式(ぶんせいしき)】のいいとこ取りの!」

 

「そうなるわね。私たちはホージェンから教わったものに、全く改良やアレンジを加えたことがないもの」

 

 ボクは興奮度をさらに強めて、ライライに詰め寄った。

 

「ねぇねぇライライ、良かったら少し見せてくれないかな!? 古流の【刮脚】は流石のボクでも見たことがないんだ!」

 

「うーん、残念だけどお断りさせていただくわ」

 

「えぇー!? そんなぁ!」

 

 興奮が一転、落胆モードとなるボク。

 

 そんなボクを見て、ライライは可笑しそうに笑いながら、

 

「シンスイって、本当に武法が好きなのね。嘘よ嘘。そのうち見せてあげるわよ」

 

「ホントに? 約束する?」

 

「うん、約束するわ。というより、約束するまでもないんじゃないかしら? シンスイも予選に出るんでしょう? なら、そのうち私の戦いぶりを見る機会があるでしょうし」

 

 それもそっか、とボクは同意する。

 

 それからボクは、ライライから比較的安めな宿を紹介してもらい、そこで宿泊手続きをした。ライライもその宿に泊まる予定とのこと。

 

 重たかった荷物を自分の部屋に置いた後、ライライとともに町中をぶらついた。予選は明日から。なら、今日は観光でもしようと思ったのだ。

 

 まず最初にしたかったのは、腹ごしらえだった。ライライもそれは同じだったようで、ボクらは露店で包子(パオズ)――中華まんのことだ――を買って食べた。

 

 肉入りであることを知って買ったわけだが、かぶりついた瞬間驚いた。なんと肉と一緒にスープが入っていたのだ。肉汁とスープがうまい具合にマッチしていてとても美味しく、ボクらはすぐにお腹に収めてしまった。

 

 次に、女物専門の服屋へ入った。

 

 さすが中華風異世界。ライライが着ているような旗袍風の服装がたくさん並んでいた。

 

 ライライは面白半分にとびきりセクシーな服装を勧めてきたが、ボクは頰を赤くしながらかぶりを振った。

 

 ちなみにこの世界、ご丁寧にブラジャーやパンティがあるのだ。

 

 ライライが気に入った服を試着中、その大きな胸のせいで着用していたブラジャーの留め具が壊れるというアクシデントが発生。急遽、新しいブラ探しをするハメになったが、彼女の胸に合うものがなかなか見つからず、大変な作業だった。……ボクがライライの素肌を直視できないせいで、サイズチェックに時間がかかったのも一因だが。

 

 途中で病院なんかも見かけた。

 

 前世とは打って変わって病気知らずだったボクは、そこに出入りする人たちを他人事のように眺めていた。前世では考えられなかったことである。

 

 店は開けっぴろげになっており、中の様子が少し見えた。

 

 お医者さんは、腰の悪そうなおばあさんをうつ伏せに寝かせる。そして、おばあさんの腰辺りに手を添えた。

 

 瞬間、お医者さんの手から――電気のようなものが漏れ出した。

 

 おばあさんの腰と、お医者さんの手の間で、青白いスパークが幾度も発生しているのが見える。まるで溶接してるみたいだ。

 

 ボクにはその電気のようなものの正体が分かっていた。

 

 あれは、お医者さんの体から放出された【()】だ。

 

 ――【気功術(きこうじゅつ)】は、医療にも応用が可能なのである。

 

 【気】の力を使って患者の体に干渉し、自然治癒力を刺激して回復力や回復速度を飛躍的に高めたり、感覚を一時的に麻痺させて麻酔と同じ効果を引き起こしたりすることができる。

 

 しかし、言うほど簡単ではない。

 

 人間の【気】には、指紋や声紋のように個人個人で形が異なる【波形(はけい)】が存在する。

 

 そしてその【波形】は、形の異なる別の【波形】が近づくと、互いに反発し合う性質がある。

 

 なので【気】の力で人間の体に干渉するには、患者の持つ【波形】を読んだ上で、自身の【波形】を一時的に患者のソレに似せてから【気】を流し込む必要がある。ラジオの周波数を合わせるように。

 

 どれも【気功術】としては高等技術であるため、ここまでできるようになるまで結構な時間が要る。

 

 そしてこの【煌国(こうこく)】の医師は、その気功治療法を必修スキルとしている。

 

 もちろん、武法を抜きにして【気功術】のみを覚えることもできる。だが多くの医師は、ついでとばかりに武法も兼修する傾向がある。武法も【気功術】も、ともに【易骨(えきこつ)】というスタートラインから始まるのだから。

 

 ……さらにこれは余談だが、【気】とは電気的性質を持ったエネルギーだ。そのため、塵が煙のように充満した空間で【気功術】を使うと、【気】が引火して粉塵爆発を起こす危険性がある。実際それで焼死した武法士も何人かいる。なので、そういった空間では【気功術】を使ってはいけないのだ。

 

 それ以降も、ライライとともに色々と見て回った。

 

 しばらくして、ポケットから機械式の懐中時計を取り出す。時刻はすでに午後三時を過ぎていた。そこまで時間が経っていたとは思わなかった。楽しい時間は過ぎるのが速い。

 

 ガチャガチャと金属の弾む音が、ボクの傍らを通り過ぎる。

 

「……んっ?」

 

 思わず、後ろを振り向いた。

 

 鎧や槍で武装した人たちの後ろ姿。【煌国】の正規兵だった。

 

 そういえば、さっきも兵隊を見たような……?

 

「ねぇライライ、あの兵隊……」

 

 どうしてこの町をうろついてるの? という言葉の続きを察したのか、ライライはボリュームを下げた声で、

 

「きっと、皇女殿下が宮廷から失踪されたから、探してるんだと思うわ。あなたと会う前、チラッと耳にしたもの」

 

「え、ええ!? 失そ――むぐっ」

 

 驚愕の声を上げようとしたボクの口を、ライライが慌てて塞ぐ。

 

「おバカっ。声が大きいわよ。あんまり騒いでいいことでもないでしょう?」

 

「ご、ごめん。でも、それってマズくない?」

 

「ええ、マズいわね。皇族がそこら辺ほっつき歩いてるなんて、非常識にも程があるもの。皇女殿下は前も何度か宮廷を脱走したことがあるらしいけど……まだ懲りてないのかしら」

 

「そ、そうなんだ……なかなかパワフルなお姫様だね」

 

「良く言えばね」

 

 ライライは苦笑まじりに同意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りの多い町の熱気から体を冷ますため、ボクたちは今までいた商業区を一度離れて、【武館区(ぶかんく)】という場所へとやってきた。

 

 この【滄奥市(そうおうし)】は上から見ると正方形をしており、半分が商業区、もう半分が住宅区、そしてそれらの間をとった円いスペースが公共区となっている。

 

 住宅区の中には、さらに【武館区】と呼ばれる場所が存在する。

 

 武館とは、武法を教える道場のことだ。つまり【武館区】とは、その武館が数多く集まっている場所の俗称である。

 

 こういった場所は、どの町にも必ずといっていいほど存在する。

 

 そしてそこには、武法士ではない普通の人はほとんど立ち入らない。理由は簡単。怖いからだ。

 

 なので当然ながら、ここは商業区に比べて人通りに乏しい。

 

 しかし、落ち着いて休憩したい今のボクたちにとっては絶好の場所だった。

 

 ボクとライライは道の行き止まりにある井戸の前で、つるべに汲んだ水を備え付けの柄杓ですくって飲んでいた。

 

 歩き回ったせいで熱を持った体を、ひんやりとした井戸水が冷ましていく。

 

「ふうー、生き返るー」

 

「そうね。ずっと歩きっぱなしだったものね」

 

 そんな風に軽く話しながら、ボクらは口とつるべの間で柄杓を往復させる。

 

 先ほどの動き回りっぷりとは一転した、まったりとした時間が流れる。

 

 本当に自分の武法士生命を賭けた戦いに来たのかと、疑いたくなる。それくらいリラックスしていた。

 

 不意に、リズミカルな掛け声と足踏み音が、近くの建物の中から聞こえて来た。

 

 ここは武館の集まる武館区。つまり十中八九、武法の練習をしている声。

 

「何かやってるよっ? 何かな、何かな?」

 

「シンスイ、一応釘を刺しておくけど、練習を覗こうなんて考えちゃダメよ? それは武法士社会の中では最大のタブーなんだから」

 

「うー、分かってるよ」

 

 そうなのだ。

 

 武館の修行をこっそり盗み見る行為は【盗武(とうぶ)】と呼ばれ、武法士相手に一番やってはいけないことの一つだ。

 

 ボクのように気にしない者もいるが、ほとんどの者はそうではない。報酬を払ったわけでも、師と信頼関係を構築したわけでもない者に流派の伝承を盗まれることが我慢ならないのだ。間違った伝承を流布されるかもしれないという懸念ゆえでもあるが。

 

 ペナルティーは良くて袋叩き。過激な流派では、手を斬り落とされることもあり得る。盗み見て得た武法を使えぬように。

 

 いくらボクが武法バカでも、そこまでチャレンジャーではない。分別はわきまえているつもりだ。

 

 だが、練習する掛け声の中に、呻き声やダミ声のようなものが混じって聞こえてきた。

 

「え……?」

 

 ボクは柄杓を元の場所に戻し、呻きの聞こえる方向までゆっくりと近づく。

 

 ライライも柄杓を置き、ボクの後ろについてくる。彼女にも聞こえるようだ。

 

 先ほどまでいた脇道から大通りに出る。呻きがするのはもう一つ前の脇道からだ。ボクとライライはそこへ入る。

 

 薄暗い道が、目の前に真っ直ぐ伸びている。

 

「テメー、調子こいてんじゃねーぞボケ!!」

 

「うぐっ!」

 

 奥から具体的な発音を持った罵声が呻きとともに飛んできたため――なんと、女の声だった――、ボクは思わずビクッとする。

 

 しかし、ますます気になったため、奥へ進む足を速める。

 

 やがて、その騒ぎの元が、視界の中で大きくなった。

 

 レンガ造りの建物の側で胎児のように横たわる、一人の青年。その服はシワだらけな上、土があちこちに付着してボロボロだった。

 

 そして、彼がボロボロである理由は簡単に分かった。四人組が――現在進行形で彼を足蹴にしていたからだ。

 

 四人中三人は、ガタイの良い強面の男。そして残り一人は、ボクと比較的歳が近いであろう浅黒い肌の女の子だった。

 

 長い髪をサイドテールにしたその少女は、美少女と呼んでもおかしくない容貌だった。しかしその目つきは鋭く、剣呑な雰囲気を周囲へハリネズミのように発している。

 身長はボクより少し高い程度。だがスタイルはほぼ同じ。そのスレンダーな体を、桔梗色の半袖カットソーと、うっすら竜の刺繍が入った黒のショートパンツが包み込んでいた。二の腕や太腿から先を積極的に露出させた、活発さをアピールするかのごとき着こなし。

 

 その女の子と、傍らにいる三人は、ボロボロになった青年を執拗に蹴り続けている。

 

 青年は蚊の鳴くような声で、

 

「うっ……ぐふっ……や、やめろ、もう許してくれ……」

 

「ざけんな! まだだ! もうウチらにケチつける気がなくなるくらい、ボッコにしてやんよ!」

 

 少女は乱暴に言い捨て、蹴る勢いを強めた。

 

 それに便乗するように、三人の男も蹴りを強くする。どうやらあの女の子が、彼らの主導権を握っているようだ。

 

 いずれにせよ、このまま見ているわけにはいかない。

 

「――もうやめてあげなよ」

 

 ボクは彼らの元へ歩み寄ると、語気を強めてそう言った。

 

 四人と一人はボクら二人の方へ一斉に振り向く。

 

「るせーな! こっちにゃ事情があんだ! 目障りだから引っ込んでろよ三つ編み!」

 

 早速、女の子が噛み付いてきた。

 

 ライライは胸の前で腕を組むと、嘆息したような口調で、

 

「とは言ってもね、そんな風に白昼堂々リンチ行為をされたら、誰だって気になるでしょう? 関わって欲しくないのなら、自分たちが場所を考えるべきでなくて?」

 

「はぁ? なんだよお前、偉そうに。アタシの師父にでもなったつもりかよ? お前もその三つ編み共々大人しくしてろ、デカパイ女」

 

「デカッ……!?」

 

 女の子から言葉を浴びせられた瞬間、ライライは信じられないといった表情で硬直した。

 

 ……ライライは怒っているというより、ショックを受けているように見えた。

 

「ほらっ、さっさと散れ散れっ。これはアタシらの流派の問題なんだ。お前らもここにいるってことは武法士なんだろうから、分かんだろ? 別の流派の事情に口挟むんじゃねーよ」

 

 女の子は猫を追い払うような手振りをしながら、億劫そうに告げる。

 

 うーん……聞き方がちょっと上から目線過ぎたかな。

 

 なら、もう少し下手に出てみよう。

 

「えっと……ごめんね? いきなり偉そうに言っちゃって。なんとなく気になっちゃったんだ。もし良かったらでいいから、どういう事情でこうなっちゃったのか、詳しく聞かせて欲しいんだ。もしかしたら、なんか力になれるかもしれないし。ね? いいでしょ? お願いします」

 

 拝むように両手を合わせ、ボクは頭を下げた。我ながら、かなりへりくだった態度だ。

 

 それが功を奏したのか、女の子は居心地が悪そうな態度を見せ、レンガ家の根元に転がる青年を顎で示した。

 

「……言っとくけどな三つ編み女、元々の火種はそこのバカだからな?」

 

「そうなの?」

 

「ああ。このカス野郎、酒の席でアタシらの【九十八式連環把(きゅうじゅうはちしきれんかんは)】を貶してやがったんだよ」

 

 女の子の言葉に、三人の強面たちも首肯した。

 

 【九十八式連環把】――全部で九八ある技を好きな順番で数珠繋ぎし、絶え間無い連続攻撃を繰り出す事を主体とした武法のことだ。

 

 具体的な武法の概要はひとまず置いておいて、ボクは事情の追求を続けた。

 

「えっと、だからこうやって集団でボッコボコにしたの?」

 

「そうだよ。引きずり込んでボコボコの刑だ。なんか文句あっか、え? 三つ編み女」

 

「いや――無いよ」

 

「はっ?」

 

 間伐入れずに肯定したボクに対し、女の子は毒気を抜かれたような顔をする。

 

 ボクは続ける。

 

「リンチは褒められたことじゃないけど、君たちが怒るのには頷ける。自分が好きだったり、誇りに思っているものを侮辱されたら、怒ってもいいと思う」

 

 ボクだって、武法をくだらないもののように言った父様に反感を覚えた。なので、この女の子の気持ちは理解できる。

 

 なら、この場で最善の解決策は一つだけだ。もちろん、それはリンチではない。

 

 ボクはボロボロになった青年へ視線を移すと、

 

「ねぇ、そこのあなた」

 

「……な、なんだよ……」

 

「謝るんだ」

 

「え……? い、今までも散々謝ったんだけど……」

 

「あと一回でいい。その一回に誠心誠意を込めるんだ。何て言って貶したのかは知らないけど、彼女の誇るものをバカにするような発言を少しでもしたのなら、あなたは心を込めて謝らないといけない」

 

 さあ、とボクは彼を促す。

 

 青年はしばらくジッとしていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。

 

 そして、女の子と三人の強面を正面から見据えると、

 

「――すみませんでした」

 

 深々と頭を下げ、謝罪の言葉をはっきり告げた。

 

 腰を九十度曲げ、言葉にもきちんとした意思がこもっている。ナアナアな感じは一切感じない。

 

 しかし、女の子は聞く耳持たなかった。

 

「謝りゃ済むと思ってんじゃねーぞっ!!」

 

 そう怒号を上げるや、片足を勢いよく蹴り上げた。

 

 女の子の蹴り足が風を切りながら急上昇。

 

 そのままお辞儀を続けている青年の腹に突き刺さる――前に、ボクが片手でその足首を受け止めた。強い衝撃が手根に響く。

 

 女の子はボクを射殺すように睨めつけ、

 

「テメェ……!!」

 

「――やめるんだ。もう彼は誠心誠意謝った。これ以上の暴力はボクが許さない」

 

 そう言って、蹴り足から手を離す。

 

 女の子は数歩退くと、あからさまな構えを取った。体の中心線を守りつつ攻防を行うことに特化した、実戦向きの構え。

 

 ボクはそんな彼女に質問を投げかけた。

 

「ねぇ君、明日の【黄龍賽(こうりゅうさい)】の予選には出るの?」

 

「出るよ! それがどうしたってんだ!?」

 

「出るなら、ここで事を構えるのは良くないと思う。武法士は体が資本だ。ここで生傷を作ると、明日に響くんじゃないかな」

 

 そんなボクの意見に一理あると思ったのか、女の子は決まりが悪そうな顔をする。

 

 しばし逡巡を繰り返すと、はっきり聞こえる舌打ちをして構えを解いた。

 

 そして、強面三人を引き連れ、こちらへ歩いてくる。

 

 女の子はボクの隣まで来ると、訊いてきた。

 

「……おい、三つ編み。お前も明日の予選には出るつもりか?」

 

 ボクは頷く。

 

 女の子はそれを確認すると、

 

「……アタシは孫珊喜(スン・シャンシー)。お前は?」

 

李星穂(リー・シンスイ)

 

「リー、シン、スイ……よし。名前は覚えたぞ。明日になったら覚悟しとけ。今度こそぶっ潰すからな」

 

 そう言い残して、女の子――シャンシーたちは去っていった。

 

 その場に残されたのは、ボクとライライ、そして青年。

 

「……ライライ?」

 

 ふと、ライライの様子がおかしいことに気づく。

 

 レンガの家の壁に寄りかかりながら、がっくりとこうべを垂れていた。明らかに何かに落ち込んでいる様子。

 

 思い当たる点を見つけたボクは、ライライに尋ねた。

 

「あの……もしかして、さっきあの子が言ってたこと気にしてるの? その…………デカ……」

 

「……コンプレックスなのよ……」

 

 ……意外と繊細な性格なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ――こうして、その日の観光は幕を閉じた。

 


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