√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

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CAD密輸事件

●試合では無く、ゲームに挑む

 俺が服部範蔵副会長に勝負を申し出たことに対し、渡辺風紀委員長は面白そうな顔を浮かべた。

 七草会長と深雪は流れで押せなくなったのが不満の様だが、ゴリ押しは後に不満が残る可能性もある。

 ここは白黒点けると言う訳ではないが、スッキリと終らせた方が良いだろう。

 

「では、私が審判役で対等な条件による公正な…」

「ちょっと待ってください」

 どうした? と渡辺委員長は宣言を停止し、俺の方に向き直る。

 

「これは非常時での俺の腕前を見る為の物。『攻勢の利』と『守勢の利』が別々に存在する方が良いと思います」

「ほう? 例えばどんな条件だ?」

 モメごとが好きなのか、それとも今起きている問題のストレス解消なのか。

 渡辺委員長は唐突な俺の物言いに不満を見せなかった。

 面白がった表情はそのままに、俺の意見を促して来る。

 

「例えば服部範蔵副会長は、俺の情報を幾つか得た上で好きな開始距離を選びます」

「俺は手加減しないと言ったはずだが? それと範蔵は付けなくていい。服部形部で提出して居るからな」

「何を考えている司波? そんなに有利な条件を服部に出して」

 服部副会長は怪訝な顔を浮かべつつ俺の勘違いを指摘し、渡辺委員長は愉快げな顔で問いただして来る。

 それもそうだろう、もともと勝負は不要だった所に、自分から条件を上げる者は居ない。

 

「当然ながらこちらは別の条件を貰います。特定の物を守りきるとか、場所に辿りつけば良いとか」

「なるほど。司波が風紀に入ったとして、巡回や護衛中に狙い撃ちにされたと仮定するのか…」

「良いだろう。渡辺委員長に問題が無ければ俺は構いません」

 要するに俺が求めたのは、より想定されるケースに近い『ゲーム』だ。

 試合をしたところで、俺の実力を測る事は出来ないだろう。

 勝っても負けてもシコリが残る可能性はあり、それこそ服部副会長の器量次第になってしまう。

 

 だが、この方法ならば確実に次に活かせる。

 例え裏を掛れて敗北しようとも、その過程を見てもらう事で、風紀と言うよりは…九校戦に向けて俺の印象を強く出来ると言う訳だ。

 また、試合をするよりも服部副会長の言う懸念に近く、勝っても負けても印象が変わる可能性が高い。

 

(…とはいえ俺は相手の考えや気持ちが判るわけじゃない。むしろ怒らせてしまったので無ければ。の話だがな)

 もっとも服部副会長も気分を切り替えて、ゲームに挑むように条件を考え始めたようだ。

 今の時点ではこの試みは成功と言えるだろう。

 

「では俺の情報を、正しいかを中条先輩にチェックしてもらったで、渡辺委員長に幾つか選んでもらって転送してもらいます」

「別にチェックせずとも…」

「わ、わたしですか!? そうですね、問題ありません!」

 服部副会長が何か言う前に、中条書記が顔をますます輝かせて頷いた。

 ブンブンと目を回さないか心配なくらいだが、本人は嬉しそうだ。

 

 俺と服部副会長の双方が条件を出しあった紙を提出すると…。

「…なんというか、もう良いんじゃないかなという気がするんだけど…」

「桐原の例もある。ここまで来たら最後までやる方がスッキリすると思うぞ? 中途半端が一番いかん」

 七草委員長と渡辺会長が何かボソボソ言ったん後に、結局、話がまとまったようだ。

 

「ではCADの受け取って1時間後に場所を転送。到着次第に勝負を開始するものとする」

「「それでお願いします」」

 俺と声がハモった事を面白くなさそうにしながらも、不敵な笑顔を浮かべて服部副会長は生徒会室を後にした。

 

●一つの可能性

 あちらは他に調整する場所が他に在るのか、俺が生徒会室に戻ってくると副会長はいなかった。

 代わりに待ち構えて居たのは中条書記で、ケースを開けるとハシャギっぷりが止まらない。

 

 ケースに入れて居るのは二丁の銃型…特化型CADだ。

「これってどっちも特化型のシルバーホーンの、更にカスタムモデルですよね!?」

「ええ。触れるだけなら構いませんよ」

 俺が許可を出すと、中条書記は頬ずりせんばかりに興奮していた。

 どうやら俺のファンというよりは、デバイス・オタクらしい。

 目を輝かせて触れるだけの範囲ながらチェックし始める。

 

「あれ、こんなにストレージをいつも持ち歩いて居るんですか?」

「自分の処理能力では汎用型を使いこなせませんからね。目的に応じて変更する事にして居ます」

 俺はそういうとストレージの一つを取り出し、軽く確認してから、中条書記が触って無い方に嵌めこんでおいた。

 設定が滞りなく機動し、誰も居ない方向に構えるとまさしく銃にしか見えない。

 

 そこまで行った段階で、もう邪魔にはなるまいと七草会長が尋ねて来た。

「ねえ。グラム・デモリッションを使えることまで教えてしまって良かったの?」

「構いませんよ。どのみちFLTのHPには記載して居る情報です」

 腕を組んで眺めるように口にしていたが、俺の反応を見て顔だけは笑顔のまま耳元近くで囁いて来る。

「そう言う事じゃなくて、せっかく良い雰囲気だったのに」

「誤魔化しても良いことはありませんよ。それよりも、俺のことを副会長に買ってもらった方が早い」

 そう、俺にとって勝負の行方など、どうでも良い。

 俺の目的、七草会長のオーダー、そして風紀委員への招請と三つの目的に対して効率的に動いただけだ。

 

 例えここで副会長がヘソを曲げて突き離してきたとしても、俺が使えると認識してもらえば良いのだ。

 だからこそグラム・デモリッションや、魔法の起動式を読めるという情報をあえて送ってもらったのである。

 この時点で、俺がどんな人間なのか、どれだけ役に立つかは、おそらく服部副会長の方が七草会長よりも知っているに違いあるまい。

 

「それに、正確な情報が常に正しいとは限りません」

「え?」

 心配するクライアントを宥める必要はあるだろう。

 

「自分はグラム・デモリッションのバリエーションを用意して居ますし、パラレル・キャストという手段もありますから」

「君は策士だな。最初から欺瞞情報を掴ませるつもりだったのか」

「どういうこと? 二人だけで話を進めないで欲しいのだけど」

 俺が顔を話して説明すると、渡辺委員長がくすりと笑いを漏らした。

 会長の方は本当に判らないと言うよりは、内緒話を誤魔化す為に判らないフリをしたようだ。

 

 そのことに気が付かないのか、演技に乗っているのか渡辺委員長は大袈裟に説明を行う。

 

「司波…私も達也と呼ばせてもらうぞ? 達也は最初から二丁の特化型CADや格闘戦を使う予定で、術式解体は数枚ある手の内の一枚だということだな」

「馬鹿正直にグラム・デモリッションだけを使う必要も無いでしょう」

 俺は事前情報で、師匠である九重・八雲に格闘を習っている情報を含めて、幾つかの情報を提示した。

 渡辺委員長はその中から、服部副会長と俺の勝負がバランス良くなるように送ったと言っている。

 

 副会長の方もあまり情報を引き出すのは好まなかったようで、事実上、俺の方が相手の行動を制限して居ると言えた。

 相手は様々な手段が取れるにも関わらず、俺が使うかも判らないグラム・デモリッションを想定しなければならない。

 得意な距離で挑むか、それとも奇襲し易い距離で挑むかなども頭が痛い問題のはずである。

 

「それは判るんだけど…」

「そういえば渡辺委員長。先ほど気に成る話をしていましたね。魔法まで使用したのに、抜けられた…と」

 なおも会長が食いさがって来たので、俺は一度引くことにした。

 押してダメなら引いてみろとも言うが、あえて他の話題に持ち込んだのだ。

 この勝負とは関係なく、CADの話には首を突っ込むと告げて居るので、問題も無い。

 

「そうだな。辺り一辺倒の巡回とは別に光学迷彩まで使ってもらったが、誰かが移動した形跡が残るのみだ」

「囮まで使ったのですか? 聞く限り入念な調査に見えるのですが…」

 藁にもすがる思いというには程遠いだろうが、他人に聞かせるのがストレス解消にはなるのだろう。

 渡辺委員長は肩をすくめて話し始め、俺はCADの調整をしながら話を聞く。

 あからさまな話題転換であったが、七草会長も興味はあったようで、それ以上の何も言ってこない。

 

「勿論こちらをひっかきまわす為に通っただけ、小動物か何かという可能性もあるが…。延々と歩哨を立てた時は一切の行動を起さない」

 口だけ、計画だけで手腕が伴って無いという可能性はあるまい。

 それなら七草会長を始め、ここに居る誰かが注意を促しているはずだ。

(随分と徹底してるな。…何らかのトリックがあると見るべきか)

 となれば思考の穴を付いて、何らかの詐欺臭い手を成立させていると見るべきだ。

 

 幸か不幸か、俺はトリックの種と、CADの持ち込みをやる相手に心当たりがあった。

(司・甲…。魔法の光を見ることが可能ならば光学迷彩に意味は無い。むしろ慢心を引き越すだけだ)

 件の人物が所属するエガリテと母体のブランシェは、魔法に寄る差別に対抗して居るが魔法によるテロは否定して居ない。

 

 霊子を見る目をフルに使って、『魔法』が発動して居るかだけを理解出来ればいい。

 どんな魔法か判らずとも、その場所を避けることで、重点的に警備して居る場所を回避できるのだから。

 

(本命を司・甲としよう。あとは対抗で会長たちの狂言…いや、ないな。大事過ぎる)

 俺に発言権を持たせるために七草会長が計画したとしても、バレたら大変だ。

 となると司に関わる可能性が高いだろうし、後は連中自身が黒幕か、それとも別の犯罪集団が影を利用して居るかの差だ。

 

 ここで捕まえるのは容易いが、それでは事件の本質には近づけない。

 何かキーが必要だ…と考えて居た時に、深雪が声を掛けて来た。

 

「お兄さま、もしかして、からくりが解けたのですか?」

「ああ。それほど難しいトリックじゃない。問題は一人・二人捕まえた所で枝を切られて幹に近く手段がないことか」

「本当か? これまで風紀が全力で動いても見付けられなかったんだぞ?」

 思わず答えると、深雪はしてやったりと言う顔を浮かべ、委員長は仰天して居る。

(どうやら俺に手柄を立てさせたかったらしいが、しようのない子だ…)

 そうは思いつつも、せっかく妹がお膳立てしてくれた舞台である。

 兄としては期待に応えるとしよう。

 

「一人捕まえれば何とかする手段がなくもない、是非教えてくれ」

「そういうことでしたら…。まずは一案として聞いてください」

 委員長の方に考えがあると言う話であり、俺は考えを示す事にした。

 

「風紀が特別な作戦を立てるか自体は、学内でアンテナを張って居れば、気が付くのはそれほど難しくありません」

「そうだな。さっきの例で言えば、光学迷彩を使いこなせる奴は限られる。そこまではいい」

 俺の言葉を噛み砕くように委員長は重々しく頷いた。

 彼女の手駒として自由自在に動ける精鋭メンバーはそれほど多くあるまい。魔法は長時間保たないのでどうしても交代制に成る。

 

 彼らだけを見張り、特別な日をまずは予測する。

「何が・何処で・何時、それが特別なのか判らない時は何もしなければ良い。その上で、魔法発動を検知するシステムを組むのです」

「ん? すると何か、連中は私達が魔法を使って居るかどうかで判断していると?」

 俺は司・甲の話を伏せたまま、ゆっくりと頷いた。

 

「ここではどんなシステムかは置いておきましょう。魔法を使って居る事が判ればそこを避ければ良い。判らなければ、先ほど言った様に行動そのものを中止すればいい」

 迂闊に話して無実でも困るし、そもそも、大会で優勝し別の過敏症発症者を勧誘して居る可能性もある。

 そこでオブラートに包み、何か、魔法を検知するシステムとぼかして説明をした。

 

 だが、そこで明言を避けつつも、あえて口にする文言も存在する。

「犯人、もしくは犯人たちの目論見は学園側を翻弄し、仲間達に行動力を見せつける事でしょう。でなければ頻繁に持ち込む必要などありませんからね」

「そう考えれば納得はいくが…。それではまるで、学園内に対抗勢力が居ることに成るぞ?」

 俺の言葉に委員長は苦々しく口を開いた。

 可能性の一つと考えてはいても、思考の隅に追いやっていたのだろう。

 自分達が対抗される様な圧制者だとは思いたくないに違いあるまい。

 

「対抗勢力がいるのではなく、対立構造があると錯覚させたいのでしょう。それを助長する為に、あえて強力な魔法を使う日で挑発行為に出る」

「もしかして、達也くんは二科生と一科生の対立を煽っている人物が居ると言いたいの?」

「俄かには信じがたいが、そう考えるとしっくりくるな」

 俺が水を向けた話の流れに、七草会長が載って来た。

 ここで彼女にもらったオーダーに応えるべく、二科生と一科生を分けるのはよろしくないという考えを吹きこんでおく。

 もとより会長に近い筋であり、一般生徒全てが対立するのではなく、悪役が居ると信じたい委員長は率先して頷いていた。

 

「あり得る話ですね。実際に黒幕が考えておらずとも、いずれ使用する可能性のある策です。対処しておくにはこしたことはないでしょう」

「リンちゃんの言う事も、もっともだわ。後ではんぞーくんにも話を通して、考えておきましょう」

「その服部副会長との勝負もそろそろですね、移動しましょうか」

 市原会計と会長は顔を見合わせて、説得の材料として考慮したようだ。

 二人のやり取りは、俺と会長のやり取りに近い物がある。

 どうやら彼女も、自分にも関わるナニカに関して、何らかの命題を見付けて居るのかもしれない。

 

 ともあれ時間は着々と進み、勝負の会場を目指して移動することになった。

 

●奇襲の用意あらば、迎撃の用意あり

 

 会場に赴くと、それなりの広さが密閉されていた。

 壁は頑丈で周囲から窺えず、色々な意味で思いっきりやれそうだ。

 

 そして暫くして、服部副会長に先駆けてどこかで見た顔が現われた。

「桐原。もしかして、お前も顔を出すとはな」

「こいつが気合い入れて何してるかと思えば、二科生と本気で勝負するって言うじゃありませんか。見逃せるほどに他人事じゃないんでね」

 呆れた声の委員長だったが、相手との話で誰か予測が付いた。

 二科生との勝負にこだわり、テレビでの望遠ながら見た顔。

 確か、司・甲と決勝で敗れた生徒の筈だ。

 

 しかし、ここで違和感が出て来る。

 服部副会長は先ほどの会話から、自分に自信があり、率先して来そうなイメージがある。

 それに規則を重視する面もみえたし、自分が先に訪れて、連れてきても良いかと聞きそうなものだ。

 

 メールで尋ねたようには見えないし、何らかの作為を感じる。

 いや、この桐原という男が、剣術大会で司・甲に破れて居ると言う事実が、俺に何かを警告して居た。

(しかし俺は直観に頼ったことは無いが…。なんだこの違和感は)

 どうにも拭えない感覚。

 デ・ジャ・ビュー、規視感と言う他ないが…。

 

 念の為に思い返して行くと、さほど情報がないことあって辿りつく事が出来た。

 何のことはない、自分が口にした司・甲への対策方法だ。

 

『司波さんなら彼の様な人がお客なら、専用の魔法式やCADを用意できるのではないですか?』

『…? ええ、まあ。そうですね。特殊な目と体捌きがあることを前提に、慣性制御に特化した体術補助を組むでしょう』

 確か会長に最初に合った時に問われ、考え事をしていた時に思わず答えた回答である。

 

 その時に口にはしなかったものの、俺はこう対策を考えたと思う。

『高度な体術にとっての鬼門は圧倒的なパワーかスピードである』

『自己加速を極めたり、高周波以上の超震動で足を止められるとどうしようもない』

 これらのことを、俺はようやく思い出していた。

 

(副会長が『攻勢の利』として、多岐に渡る情報では無く、奇襲をルール違反にしないことを選んだ可能性もあるな)

 勿論、俺の気のせいであったり、そう思わせるミスリードの可能性が無い訳でもない。

 偶然そう考えただけで、俺の勘違いである方がありえるだろう。

 

(とはいえせっかく思い付いたんだ。そうであると想定しておこう)

 自己加速を掛けたまま、ゆっくり歩いて居る違和感が、俺に気が付かせた。

 その可能性を否定しはしないが、単純に桐原という男から声を掛けただけの可能性もあるだろう(提案したのは彼だと、俺は思っているのだが)。

 

 俺の持つ特殊な目でもう少し深く調べられなくもないが、こんな他愛のない勝負で使う気にもなれない。

 『再生』に絡む能力だけに、機密とは言わないが、あまり気が付かれたいとも思えないからだ。

 

 そんな事を考えていると、委員長が中央の少し奥まった場所で宣言を始めた。

「勝負はどちらかが昏倒するか、重要物を奪うないし届けきったらで決着する。真由美、なにか貸してくれ」

「こんなもので良いかしら? これなら何かあっても困らないしね」

 委員長の要請に会長はハンカチを取り出し、俺に手渡した。

 その時に深雪が眉をしかめるが、無視しながら軽く腕に巻いて奪うことが可能なようにしておく。

 

「司波…達也は壁の端から、始まり次第にもう片方の端に移動してくれ。服部が好きな位置に移動し終わったら、挨拶ぬきで勝負を開始とする」

「異論ありません」

「了解しました」

 委員長の説明に頷きながら、俺は所定の位置に移動。

 副会長は軽く思案してから移動を開始した。

 

 あの副会長が七草会長の私物を焼き払うとも思えないので、昏倒か、接近して奪いに来るか…。

 と考えた時に、僅かに遠くで声がしたような気がする。

 

「…司波。悪く思うな、これは勝負だ!」

 副会長は背を向けたまま、一瞬でミドル・レンジに移行。

 そのままこちらに腕を見せずに、CADを操り始めた。

 

「あ、あれって最初から加速魔法ですか? 卑怯なんじゃ…」

「卑怯じゃない。奇襲して良いってルールだからな」

 中条書記が悲鳴の様な言葉を上げると桐原という男がニヤリと笑った。

 

(ほう、そう来たか)

 やはり自己加速を予め掛けておいたのだろう。

 だが、そこから先が想定外だった。

「はんぞーくん暴走する気なの? 幾らなんでも多過ぎだわ」

「いいえ。司波くんに迎撃されることを考えれば、むしろ適正範囲です」

 管理限界を越えて、処理落ちしかねないほど多数の攻撃魔法。

 

 殺し合いでは無いので威力は不要であることから、数だけは多いが…。

 片方のCADを構えてサイオンを解き放つ。

「それでは俺に届きませんよ?」

 俺はループ・キャストを前提とした。グラム・デモリッションのバースト射撃を行った。

 相手はサイオンの壁で魔法を練ってないことから、こちらも威力を落として数で攻め立てる。

 ほぼ範囲魔法のような形で、一発のグラムが数個の魔法を、三点バーストによる重砲撃でまとめて粉砕して行く。

 

 俺は歩きながら重心を方向け、片足は踵にもう片方は爪先に力を入れて強制的にバランスを取る。

 その間にも多岐に展開した魔法陣を、片端から撃ち落として行くのだが…。

 

 ここで副会長は、二度目の一斉砲撃。

「そんな事は…百も承知だ!」

 同時に態勢を低く構え直した。

 思いっきりが良いと言っても良いだろう。

 

 なんと副会長はそのままダッシュを掛け、先ほどよりも速く疾走して来る。

 こちらがグラムで落とさなければ、自らも怪我をしかねないライン取り。

 しかも急加速に急加速を繰り返し、慣性制御でなんとかバランスを取る無謀な突進を掛けて来る。

 

「これは…流石に決まったか?」

「いえ。兄ならば問題はありません」

 委員長の言葉が疑問付きならば、深雪の言葉は確信に満ちて居た。

 まったく、手を抜かせてくれないのか。

 そう思いながら、俺はフっと力を抜いた。

 

 踵と爪先で危く取っておいたバランスが崩れ、歩いている方向がねじ曲がって行く。

 コロンと転がる様に、もともと傾向いて居た重心通りに俺は崩れ落ちる。

 その過程で爪先に力を入れ直し、無理やり起きあがることで強制的に加速を掛けた。

 

「もらっ…なに!?」

「服部っ…。くっ…」

 桐原という男は副委員長に声を掛けようとした寸前で思い留まる。

 セコンドとして登録して居ない以上は、ルール違反だからだ。

 

 直進する相手に対し俺は斜めに移動しながら、死角から死角に渡ってもう片方のCADを操った。

 設定して居る魔法は無系統、サイオンの波を連続で飛ばすだけの魔法。

 これならば俺の能力でも十分に対応できる。

 

 そして…。

「勝負あり! 流石は九重先生の弟子だ。…しかしあれは体術なのか? それとも魔法か?」

「斜め移動であれば体術の総合で、いわゆる縮地の一種になります」

 委員長が勝敗の決定をコールすると、俺は頷きながら体のバランスを整える。

 縮地と呼ばれる技は、流派によって幾つもの説があり、複合体術として組上がる。

 俺は相手の動きを予測して居た事もあり、斜めに動くことで相手の後方に移動した。

 

「その後は魔法よね? でも、どうやったらそんな事が出来るの?」

「サイオンの波を連続でぶつけて、酔ってもらったんですよ。調整が面倒ですが、魔法としてはそれほど難しい訳でもありません」

「そういえばループ・キャストをトーラス・アンド・シルバーが実用できたのは、変数の調整が大きいんですよね!」

 会長の疑問に対しては、ハンカチを返しながら説明する。

 中条書記が相の手を入れてくれたこともあり、スムーズに説明を終えることが出来た。

 

 ループ・キャストは全く同じ魔法を繰り返すわけだが、同じ場所に発射しても意味が無いとされてきた。

 だが、変数を管理して、僅かに位置・時間を変更する事により、意味あるものとして実用にこぎつけたのである。




 と言う訳で、オリジナル部分の説明と、副会長戦を一気に終えました(ついでに桐原戦も合体)。
このオリジナル部分を挟む事で、二科生と一科生の対立を煽ろうとしている、エガリテが色々やってる…。
などのパートを一気に進めた感じになります。
桐原戦を合体させた理由は、単純に『男が男を見直す』シーンは一回で良いよね?というものです。
勝負は主人公が勝利してるのは変わりませんが、ガチでメタってるので、少し長引いています。
仮に公正な勝負を申し出て居たら、頑丈な防壁張られて手が出ないので、こんな形の勝負を申し出た分が勝因に成った形となるでしょうか。

 次回はサクっとはんぞーくんと桐原君が仲間に成って、吉田先生の紹介とミキが仲間になって…と男たちを連続で口説いて行くことになります。

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