√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

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我が身の所在

●校長室での接見

 先生方の指示次第ということもあり、俺は先に校長室に向かった。

 その間に生徒会側からの要望を深雪に伝え、問題が無ければスムーズに行くはずだ。

 

「失礼します」

「入りたまえ」

 ノックを規定回数した上で、招待に従って入室する。

 

 そこに居るのは本来の予定である校長と教頭、そして…。

 立会いを要望されたリストの中から『適当に選んだ』二人の合計四人だ。

 

「いやあミスター・シルバーが我が校に入学してもらえるとは幸先がいい」

「誰であれ、特別扱いはせんからな」

「扱いに関しては当然の事であると心得ております」

 出会い頭に先制して来たこの二人は、就職担当の教師と生徒指導に当たる教師だ。

 後から必要になるだろうと言葉の上では選んだ理由にしておいたが、実のところ、この二人が軍務経験ないし縁者にその経験者が居るからである。

 

 俺を取り巻く環境の一つに軍属であるということが存在する。

 聞いたところによると軍務経験者は同じ経験者を同類扱いするというが、そのことはあまり計算して居ない。

 重要なのは、後で『軍機の手前』という言葉を出した時に納得させ易いからだ。

 

 俺が課せられて居る秘密は、公表したFLTの他にも、四葉から枝分かれして多方面にわたる。

 説明する訳にはいかないが、後で判明した時に何故言わなかったという問題も面倒だ。

 ならば『何かあるがルール上は喋れない』と臭わせておくのが、誠意に見えると判断してここに至る。

 秘密保持の意味では余計でしかないこの二人の同席を許可したのは、その為の布石と言う訳だ。

 

「まずは皆様方にお詫び申し上げなければなりません、自分などの為に恐縮です。お手間を取らせていただきます」

「それに関してはこちらからも望むことだ、気にする事は無い。まあ…掛けたまえ」

 軽い礼の姿勢を取った後、直立不動で説明の準備に入る。

 だが百山校長は眉ひとつ動かさずに、一見、俺に対して柔らかく出たような態度を見せた。

 

「では失礼いたします」

「ここも学内だ、あまり気にせんでよかろう」

 しかし、これは俺の軍人的な態度を嫌ったのか、あるいはこちらのペースで技術論的な説明を嫌ったのかもしれない。

 巧妙に隠してはいるが、本家の上級執事たちが見せる話題の切り替えに良くにていた。

 

 俺が着席した所で、八百坂教頭が事前説明を読み上げる。

「確か…公私混同を避けFLT社から学内へ、余計な機材や実験を持ち込んだりしないという誓約の申し出でしたね。殊勝な心がけだと思います」

「ちょっと待ってください。せっかくミスター・シルバーが居るのに、その手腕を縛るのは惜しいかと」

 俺が発言するよりも早く就職担当の教師が異議を上げた。

 彼からすれば自分が押さなければならない就職希望の生徒に箔を付けるチャンスである、気持ちは判らなくは無い。

 

 だが、見知らぬ学生にまで無制限に頼られても困るし、社への斡旋を求められても困る。

 綱紀に従うつもりがあると見せる為にも、ここは一度、断っておくとしよう。

 

「失礼ながら、自分は理論畑で当校には技工師としてあるべきモノを学びに参っております。即実用に耐え得る品を扱えるほどではありません」

「しかしだねぇ…」

「司波が良いと言っているんだからそれで良かろう。それに、だ。十文字や七草にだって我儘は許しておらんし、連中も文句など言っておらんぞ」

 食い下がろうとする就職担当に対し、俺に近い筋で動いたのは生徒指導の教師だ。

 この男からすれば、最初にガツンと言うだけで気が済んだと言うか、あるいは、俺の態度を殊勝と見たのかもしれない。

 フォローと言うほどではないが、俺が積極的には動かないこと自体には納得しているようだった。

 

 一方で、二人の教師に喋るだけ喋らせ、校長と教頭はダンマリを決め込んで居た。

 おそらくは俺の対応を眺めるために、二人を出汁に使って居るのだろう。

 その意味では、利用するために同席許可を出した俺と良く似て居た。

 

「ではせめて、九校戦やコンペはどうかね? あれが学内ではないし、そもそも理論や技術を試すものだ」

「それに関しては自分の管理する権限にありません。それこそ十文字会頭や七草会長が判断されることではないでしょうか」

「うん、その通りだ。一生徒が自ら手を上げるべきでは無いな」

 俺は就職担当に謝りながら一応は断った風で、完全には否定をしなかった。

 元より学内と規定して申し出たのは、その二つの行事で関わる可能性が高かったからだ。

 

 実のところ、七草会長は俺をフルに使うつもりだろう。

 ならばその二つに俺が呼ばれないことはあるまいが、一年目からメイン担当では特別扱いとみなされるので、主軸に据えるはずもない。

 そういう意味では、最初から出来レースで参加することは決まっていると言えるだろう。

 結論としては、嘘ではないが真実でもないと言う回答になる。

 

 一応の結論が出た所で、教頭が二つめの確認事項を切り出してきた。

「質問・疑義があれば答えられる範囲で、とあります。二・三なくもないですが、そちらに思い当たる余地はありますか?」

「お答えできるモノ、お答えできないモノ、中には研究の様に進捗すら窺わせることが出来ないモノが存在します」

「まあ社秘を口にされても困るがね、法に反する事は困るぞ」

 俺は建前論を口にしたように見せて、今日の本題を切り出した。

 隠しているつもりだったが校長はなんらかの臭いを嗅ぎつけたのだろう、冗談めかして釘を刺して来る。

 

 だが俺の意図は、あくまでこの建前論を口にする為なのだ。

 口にすら出来ない事があると説明した上で、後で実例を出せば、最初から誠意を見せたことにはなるだろう。

 

「その上で、説明し易い範囲ですが名前と住所でしょうか。シルバーは通名であり住居には住んでおりません」

「シルバーは商売用の通名であり、公表して居る住所はあくまで盗っ人やテロリスト対策ということだな。…で、我が校の方は?」

 俺の言葉に合わせて頷きながら、校長は初めて態度を顕わにした。

 あるいはソレすらも演技なのかもしれないが、ここは乗ることにしよう。

 

「申告通りの場所に住んでおります。ですが先の懸念もありますし、窃盗の可能性が出た場合には変更する可能性がありますのでご理解ください」

「ここまでに関しては問題ありません。同様の生徒が当校や他校にもおりますから」

 司会の役目なのだろうか、教頭は次の話題を促してきた。

 俺は素直に頷いて、FLTのトップの写真を指差しながら、まずは差し障りの無い内容を口にする。

「父、司波・龍郎は椎原・辰郎という通名でFLTの社長をしておりますが、学校に提出した文章には記載しておりません」

「おお、椎原社長が。これはますます持って。いや、北方会長の例もありますし問題ないかと…」

「…君。周知の事実とは言え、此処にはおらん生徒の話をするのはどうかと思うがね」

 俺の話題に飛び付いた就職担当を、校長が一睨みで黙らせる。

 

 次に、トップのうち別の人物の欄に指を滑らせた。

 そこには白衣の人物の絵が載っている。

「同様に記載して居ない事項やフェイクが混ざってしまうこともあります。例えば椎原・辰郎には四葉・段多郎なる義兄が本部長…とありますがそんな人間はおりません」

「FLTのフォアリーフともども、例の四葉のアンタッチャブルを利用した防衛策の一環ですね。その例をとる会社が多いとは聞きます」

「その件は良い。重要なのは君には法や校則に反した隠し事があるかどうかだ」

 俺は全ての説明責任を果たし心より安堵した。

 四葉・段多郎なる人物は確かに存在しないが、四葉家との間がらまで否定したつもりは無い。

 これで深雪が当主に指名され、急遽、四葉・深雪と名乗っても語って良い範囲で説明したことに成る。

 フェイクだと思ってさっさと切り上げたのは、校長の方なのだから。

 

 そして、最後に説明しないでおきたいが、おそらくは必要になることを付け加えた。

「最後に、ありがたいことに軍にも納入しております。それに関して」

「…?」

「軍にも魔法師が居る以上は当然だろう?」

 俺の言いたいことを最初は意味が判らないようだった。

 それも当然だろう、商品であるCADが魔法師のツールである以上は軍でも使用するのだから。

 

「納入しておりますのは開発用の部隊であり、自分のBS魔法も合わせて一応は軍属扱いとなっております」

「なに?」

「軍属だと」

 これも嘘ではないが真実でもない。

 とある非常事態とBS魔法の問題により、軍属扱いで四葉から出向して居る。

 その後にCADも納める様になったのではあるが、この場は逆の意味に取らせるように説明した。戦術開発部隊であって技術開発ではないことも含めてだ。

 

「軍のことをべらべらしゃべる訳にもいかんとは思うが、一応の説明はくれるな?」

「はい。最初に述べさせてもらいましたが、説明できること、出来ないと主張する事、存在を説明できないことがあるのを改めてご理解ください」

 ここで生徒指導の態度が少し軟化した。

 就職担当の方も顔色を変えたが、先ほど校長に睨まれた経緯もあり今度は大人しい。

 

「自分は納入時や必要な場合に呼ばれる非常勤ですので、従軍の必要はありません。ただし開発部隊とは言え、軍機に寄り全く所属を明らかに出来ません」

「まあ当然だな。子供を引き連れる部隊など有るわけが無いが、技術開発で何処だと口にする訳にもいくまい」

 やはり経験者は軍務ゆえの機密に理解が早いのは助かる。

 また、トーラス・アンド・シルバーは警察や警備、軍隊の一部に人気があるモデルなので、納入するのが不自然ではないというのも大きいだろう。

 

 改めて最初に開いたシルバーの欄に戻しながら説明を続ける。

「また、当該部隊も『司波・達也という人物』は所属しないと答えるかと思います」

「ああ、こちらにも別の通名があるのか」

「まったく、念の入っておることだな」

 少しばかり態度の軟化した生徒指導に対し、校長の方は御機嫌斜めだ。

 だが…海千山千の校長が、この程度で表情を変えるはずもあるまい。

 不快だという姿を見せて、軍からの関与から距離を置いて見せたのだろう。

 

「その…差しつかえなければ、BS魔法について説明をお願い出来ますか?」

「軍機というなら仕方ないがBS魔法師だというのに二科生レベルならば、十分通用するだろう」

「まさか戦術魔法とは言わんだろうな? 厄介事は困る」

 教頭たちの質問と懸念は当然だ。

 BS魔法は個人の資質に影響するが、評価対象では無い魔法であり、大きく傾倒するがゆえに使い手は能力が低い場合が多い。

 それだけに強力な魔法であり、学校はともかく、警察や軍隊なであれば大きな評価ポイントではある。

 そして、戦術魔法級ならば爆弾を抱えて居るのと同じことなのだから…。

 

「この場のみの話であれば。ただ…先ほどの『説明できる』モノを有しておりますし、危険なモノではありません」

「うーん。ならば我々は遠慮しておこう。校長と教頭のみで良いんじゃないか? 迂闊に聞くとゲンコツの一つも落とせんようになる」

「そう…ですね。我々には荷が重い」

 俺が持つBS魔法は二つあるが、ここでは開陳して良い方を開示する。

 コレは隠しておきたくても、非常時には絶対に使う能力であり、秘密を共有しておいた方が良いからだ。加えて言うならば秘密は一つとのミスリード。

 とはいえ喋られては困るので、生徒指導と就職担当の二人に目を向けると、察したらしく自分から申し出てくれた。

 

 二人が退出した後で、校長は不機嫌そうな顔を隠しもせずに尋ねて来た。

「で、どんな魔法なのかね? もったいぶる必要があるのだろうな」 

「校長先生は自在師の方が使われる、『再構成』を御存じですか? 自分はそれに近い能力を限定こそ違うものの…使用が可能です」

 僅かに校長が態度を変える。

 今度は替えるではなく、確かに変えた。

 

 どうやら自在師の能力を知っているらしい。

 そして、その有用性もだ。

 

「なるほどな。確かに危険な能力では無さそうだ」

「当校にも一人所属しておりますが、あの魔法は見事なものですね。壊れた機材や校舎が完全に元に戻っていました」

「教師の方にですか? 失礼しました。自分が使うBS魔法は『再生』と申しまして、単体という欠点と時間制限・サイオン消費の大きなロスはありますが修理が可能です」

 紅世に関わるので調べたことが在るのだが、自在師が使う『封絶』という結界。

 これは予め仕掛けておくと、その領域で壊れた物がサイオンを支払うと再構成されるらしい。

 

 事前に敷く必要があるが、実験などには丁度良い能力と言えるだろう。

 自在師自体は紅世の徒が姿を消して以降、探すのが面倒ではあるが雇えないほどではないらしい。

 親父たちは実験の都度、俺の持つ『再生』を便利使いしてはいたが、今では自在師を雇う方向に切り換えたようだ。

 

 同じ様に軍の開発部隊でも、戦闘では無く似たような事をやらされているのだろうと、教頭の方は納得したらしい。

 校長も同じ様な表情を見せて居たが、こちらを完全に信用させられたとは思わないでおく。

 だが俺の話自体は一応の筋が通っているということで、双方の思惑はともかく、形式上は問題無しと言うことに成った。

 

●生徒会室での波乱

 

 俺は校長室を後にすると生徒会室に向かった。

 定例行事から言えば、主席である深雪は、生徒会への入会を要請されているはずだ。

 

 そう思ってドアをノックした所、見えたのは思わぬ光景であった。

「お兄さま、お食事は精進で構いませんか?」

「お前が選んでくれたのなら何でも良いよ。…ところでこの状況はどう言うことでしょうか」

 そこにあったのは数人の為には無用と思えるような、食事や飲み物を出す配膳サーバー。

 そこに食事を取りに行っている生徒会の面々だった。

 

「達也くんの用事が長くは成りそうに思えなかったし、基本的な説明だけして昼食を一緒に取ろうと思って」

「では失礼ながら御相伴に預かりたいとは思うのですが…何故、こんな所にサーバーが?」

「業務で遅くなる時も多くなりますし、その都度に移動しては効率が下がると申し送りを受けて居ます」

 七草会長の悪戯っぽい説明と違い、端的に説明したのは怜悧な美人だった。

 美少女と言っても良いのだが、顔や背の高さを含め構成する一つ一つのパーツや声に至るまでが、きつめの印象だった。

 その女性がワザワザ申し送りと伝えた以上は、以前の生徒会からそういう理由で配置されているのだろう。

 

 俺の会釈に軽く会釈を返す彼女の前に、会長の手が掲げられた。

「この子はリンちゃんこと市原・鈴音。会計を担当してもらってるわ。我が校の誇るクールビューティの一角ね」

「私のことをリンちゃんと呼ぶのは会長だけです」

 俺が自己紹介を返そうとする前に、会長は次なる人物の元へクルクル回りながら移動した。

 七草家の方で、何かあったのだろうか?

 息抜きに遊んでいるのではないかと思うくらいにはハイテンションに見える。

 

 次に示されたのは小柄な少女で、愛くるしい顔を赤くしていた。

「この子はあーちゃんこと中条・あずさ。書記を担当してもらっているわ。うふふ、実はトーラス・アンド・シルバーのファンなのよね」

「あーちゃんは止めてください、よりにもよってシルバーさんの前で…。な、中条です、よろしくお願いします!」

 からかいたくなる会長の気持ちも判らなくもないが、ファンだと本人の前で紹介するのもどうかと思う。

 可哀想に涙目になりながら一生懸命挨拶して来る…のだが。

 思わず先輩なのか尋ね返したくなった。

 

 最後に副会長の後ろに回り込み、目隠ししながら説明を開始する。

「十文字くんは何時も部活連で居ないし風紀の磨利は遅れてるから、はんぞーくんが最後ね。服部形部小丞範蔵こと働く副会長よ」

「ちょっと待ってください会長、下級生の前でそういう呼び方は…というよりも、初めて聞いた言い方じやないですか」

 気の毒なことに上級生とか副会長の威厳とか、もはや何処かに消えて居る。

 そこに居たのは異性に心をときめかせる少年であり、悪戯好きの姉分に良い様にされる弟分であった。

 おそらくは憧れて居たのだろう、まるで反撃できないまま動けないでいる。

 

 一通り反応を愉しんだ後で、会長は席に着いた。

「以上が生徒会のメンバーで、さっき言った部活連の十文字くんと、風紀の磨利が外部から協力と独自性を確保しながら、行事を運営して居るわ」

「この学校では生徒に権限が大きく与えられており、その二つは生徒会と着かず離れずの権限をもった組織となります」

 七草会長の言葉を市原会計が補足する。

 学校側からの管理が強い風潮と、生徒の自立性が強い風潮の二つがあるらしい。

 今は自立性が尊ばれるということだが、それでも行政・司法・立法の三つが分立するように、部活をまとめる組織と風紀を取り締まる組織は別権限ということだとか。

 

 食事会と言う訳でもないが、会長のノリに付き合わされて和やかなまま食事が始まる。

「硬い話は後に回すとして、司波くんに何か聞きたいことない? まずはあーちゃんから」

 七草会長からの無茶振りに、中条書記は口の中の物を呑みこんでから急いで息を整えた。

「ふえ? わ、わたしですか!? ええとシルバーさん、シルバーホーンはお持ちですか?」

「当然所持…。いえ、この場合は携行しましたが提出中です。せっかくですから、後で触ってみてください」

 くるくると変わる愛くるしい表情は小動物めいている。

 質問が持ってきているかとの言葉だろうから、規則に則り預けているだけだと告げたら、輝く様な笑顔で何度も頷いて居た。

 

「じゃあ次にリンちゃん」

「そうですね…。書籍を読んで居たと会長からお聞きしましたが、何の研究書ですか?」

「重力制御魔法式熱核融合炉の可能性について、です。特に極小型と極大型のモデルケースに関しての項を」

 学校で読んで居る以上は機密などの問題は無いと踏んだのだろう。

 市原会計は俺が読んで居た本に付いて尋ねてくる。

 

「あの研究は素晴らしいですね。魔法師の未来について考えさせられる項だったと思います」

「その通りです。自分はループ・キャストを主軸に考慮しますので、どうしても極小型寄りとなってしまいますが」

 俺も愉しく読んで居た無い様なので、つい話が弾んでしまった。

 二人で長話をしてしまうと、茫然とした顔で会長たちがこそこそとやり始める。

「…話にちっとも付いて行けないんだけど、あーちゃん判る?」

「な、なんとか。極小型は風車の様な負荷を下げることを重視して管理・維持を安定的に行うもので、極大型は逆に水車の様な大規模大容量…のモノだったかと」

「手前味噌の話に夢中になってしまい申し訳ありません」

 俺は自分達の興味の話題に没頭してしまったことを詫びた。

 一昔前の原子炉とソーラー発電のようなもので、どちらの方式を取るかで色々変わって来る。

 文明そのものを押し上げるなら極大型であるが、俺の目的を叶えるにはむしろ極小型の…おっといかん。

 

「それにしてもいつも最低限しかしゃべらないリンちゃんが、こんなに楽しそうに長話をするなんてねぇ…。どう思う深雪さん?」

「そうですね。兄がこんなに楽しそうに喋るのを始めて聞いた様な気がします」

「深雪…」

「喋らない訳ではありません。言葉を連ねる必要性を普段は感じないだけです」

 七草会長と深雪は何故か仲良く笑顔で意気投合したようだ。

 話題に置いて行かれた女性と言うものは、こんな風に団結するものなのかもしれない。

 対処に困る俺と違い、市原会計は涼しいものであった。

 

「はんぞーくんは?」

「そうですね。校長との話しはどうなったんだ?」

「予想通り、実験や持ちこみに釘を刺されましたが、当然の事ですので誓約を行ってきました」

 硬い話は後でということだったが、服部範蔵副会長は気に成っていたことを追求して来た。

 予想も何もこちらから申請した訳だが、彼に聞かせて居る事前話から行っても、この回答で問題無いはずである。

 そのお陰もあってか副会長は納得し、つまらない反応だったからか会長の方は不満げである。

 

 いずれにせよ食事が終わりかけて居たことと、遅れて渡辺風紀委員長がやってきたことで話は止まった。

 

「お、君がシルバーこと司波・達也か? 私は風紀委員長の渡辺・磨利だ。よろしくな」

「司波です。よろしくお願いします」

 ガチャリとドアを開けて姿を現したのは、凛とした佇まいのすらりとした女性だった。

 美しいと言うよりは恰好良いという言葉が良く似合い、女性陣から熱烈な支持を受けそうな外見である。

 どこかで見た所作に似てはいるが気のせいだろうか。

 

 しかし、流石に会長の友人だけあって、同じ様な紹介をするな…。

 流れが副会長が最後に成っていたし、もしかして会長と示し合わせて、気不味くなったら中断する為に様子を窺っていたのではないか?

 

 そう思ったが、どうやら俺の穿ち過ぎだったようだ。

「もしかして例の件?」

「ああ。また隠されていた。巡回だけでなく、魔法で監視までしてた場所をやられてる」

 良く判らない流れの内容で、俺達は関係ない話のようだ。

 この様子ならな歓迎会を演出する為に、一芝居打ったわけでは無さそうだが…。

 

 不思議なことに、中条書記がちらちらとこちらを見ながら口を出していた。

「粗悪品とは言え安い物ではないのに、どこから持ち込んでいるんでしょう? 組み立てて最低限の運用をするだけでも大変ですよ」

「待って下さい、もしかしてCADですか? なら調整をする為の場所も必要になりますよね」

 持ち込まれたナニカ。

 最初は想像もつかなかったが、シルバーのファンだという中条書記が、期待した目で俺を見て居る。

 ならばCADなのだろうと、半信半疑で口を開いた。

 

「ん? ああ、君はCADの専門家だったな。ならば話は早い。専門家としての意見を聞かせてくれるか?」

 どうやら俺の予想は正解だったようで、渡辺委員長は快諾してくれたばかりか…。

 思わぬ爆弾までオマケに投下してくれる。

「どの道、君を風紀委員に勧誘しようと思って居たんだ。今なら先生方の枠も含めて、よりどりみどりだぞ」

「良いわね、ソレ! 生徒会枠で彼を推薦するわ。深雪さんも一緒に活動できるし…リンちゃん、問題無いわよね?」

「はい、先ほどの要請、兄と一緒に是非お受けしたいと思います」

「確かに生徒会への入会は、校則で一科生と限定されていますが、風紀委員には存在しておりません」

 恐ろしい勢いで何かが、なし崩し的に決まりかけて居た。

 

 それに反抗したのは服部範蔵副会長だ。

 会ったばかりのこの男が、これほど頼れると思った事は無い。

「ちょっと待ってください! オブザーバーで十分なはずです! 有名人だからと二科生を風紀に入れるのには反対します!」

 だが、残念なことに彼は女性陣の総スカンを食らって沈んでしまった。

 その勢いは、さながら列車に飛び込む野生動物の如く。

「失礼ですが副会長。彼を生徒会に入れることはルールとして出来ませんが、任免権は生徒会長や先生方とルールで決まっております」

「それにだ。没収したCADの解析だけでなく、日常的にCADを運用する風紀の備品整備も効率を考えればおそらくこれ以上の人材は居ないぞ?」

「シルバーさんが魔法式を読み取れるのは、公式HPだけでなく、業界でも良く知られた事実なんですよ!」

 ルールを説く市原会計に加えて、大人しそうな中条書記まで論戦に加わっている。

 

 それでも孤軍奮闘しようとする副会長に、会長が冷たい笑顔を浮かべて立ち塞がる。

「そ、それでも反対です。知識はあるかもしれませんが、取り締まりには実力が必要で…」

「はんぞーくん? 私はもう決めたの。達也くんがイヤというなら仕方ないけど、理論まで整っている状態で、貴方が感情で口を挟むことはないわよね?」

 既にもう、役者が違うとかそういう問題では無い。

 状況が俺を必要としていて、ルールの上でも問題が無いそうだ。

 ならばそのレールの上に大人しく引きずられて行くしかないが、せめて野生動物が跳ねられないようにフォローくらいはするとしよう。

 

 仕方無く俺は二人の前に割って入り、妥協案を提出する。

「副会長の言う事も一理あると思います。そこで、副会長に俺の実力を測って頂くのはいかがでしょうか? ただし、この件に関しては人ごとではないので関わらせていただきます」

「二科生のお前がか? 思いあがっている訳じゃない…よな?」

 俺の申し出が意外だったのか、副会長は信じられないような物を見る目をした。

 まあ何しろ俺の排斥をしている最中に、とうの俺からフォローが来たのだ。信じられなくとも仕方あるまい。

 

「俺を買ってくださっている方が居る以上は、クライアントの信頼に応えなければなりません。ですが同時に、性能の方も示す必要があるかと」

「大した物言いだが、俺は手加減せんぞ?」

 俺の言い様に呆れたような仕草で副会長は不敵な笑みを浮かべた。

 二科生なぞに負ける気は無いと、タカをくくっている様子だ。

 

 とはいえ俺が実力を示して置くことには意味がある。

 ここでCADが持ち込まれたら、真っ先に疑われるのは俺であるから、解決に協力する必要がある。

 そして、何れ来る九校戦にエンジニアとして招かれるには、風紀でCADの調整をしておくのはプラスだろう。




 と言う訳で、校長たちとの会見と、生徒会・風紀の勧誘話を一気に終ります。
次回でオリジナルのCAD密輸事件に関してサクっと揺り椅子探偵で解決作を出しつつ、服部副会長との模擬戦になります。
 なお、このお話の達也は感情がゼロではなく、僅かにあります。
深雪への感情が100に対し、新しい激情が1なので大した物では無い。
だが、1から2と成長して居るのは感じているので、ちょっとずつ積極的に動いてみよう…と頭で考えている状態になります。

 FLTの本部長ということになっている四葉・段多郎に関して。
このような人間は居りませんので、偽のプロフィールとなっております。
どんな人物だったかと言うと、マッド・サイエンティストで同類を売ることに躊躇が無く、存在が食われた深夜さまの代わりに、達也の実験にも関わった。と言う設定です(過去の存在なのでこの世界には居ませんが)
外見は金髪で眼鏡を掛けた白衣のおじさん。あるいは中世スペイン風の服装を着た貴族の錬金術師風の男性になります。
…まあシャナ側の人物なので出る予定が無いだけなのですが。

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