●九島邸襲撃計画
受け取った情報の精査を四葉でも行いながら襲撃計画を練る。
囮で少数を誘き寄せることができないので、本命が居る事を前提に何処ならば確実かという段階からスタートだ。
老師としても野心家の息子はともかく、孫たちには近寄らせないと思うのだが……。
「この人も大漢の人だったのか?」
「正確には大亜連合所属で『現在は洗脳されている』と言うべきだな。知って居るのか?」
レオが資料を見ながら
何気ない仕草が気不味い表情に移り変わる。
「いやな。例の古式魔法を教えてくれたのがこの人なんだよ。別に恩に着て居る訳じゃないつーか……」
「なるほど。……気にするな。レオ経由じゃなくとも何処かで関与をしただろうさ」
生命力を燃焼させて魔法の効果を増強させる古式魔法。
強力だがリスクも大きい魔法だが、その入手経路を聞いてなんとなく腑に落ちるものがあった。戦闘系魔法師である自在師の魔法であれば納得が行くのだ。
(術の正体は生命力をサイオンと共に消費するのではなく、それらが入り混じった存在の力を消費する補助式と言うことか)
だとすれば呂・剛虎を使うことで大亜連合が動き回って居るとカモフラージュするだけでなく、当時戦っていたフレイムヘイズに俺たちが紅世絡みだと誤解させることもできるかもしれない。
臭わせる程度なので弱い様な気がするが、複数の情報を同時に操る上手い手だ。どれが引掛ってもよし、全て成功しても失敗しても良いという程度なのだろう。
「それよりも問題なのはその人物の紹介先だな。千葉の次男と言って居なかったか?」
「っ!? ちょっと! 次兄上がこの件に関わっているとか言うんじゃないでしょうね!」
確かレオが倒れて病院に担ぎ込まれた時、不審人物を追って行った先で、同じ様に追って居た千葉の次兄である千葉・修次が居たという。
その時に紹介された友人から教えてもらったということだが、このルートだと警戒心が湧き難い。警察関連に強い千葉家のコネが九島のソレに加われば、好き放題動くことが出来るだろう。
「確認するがエリカ、お前の所の剣は完全な洗脳状態でも十全に力を発揮できるのか?」
「そういう術理もあるけど……。次兄上の場合は駄目ね、変幻自在の才能を殺しちゃうわ」
いつもは千葉家の技を直接語らないエリカも、実の兄が関わって居ると知って動揺して居るのだろう。
あるいは洗脳されて居ないと信じたいと思うあまり、話題を次々に進めたいと思っているのかもしれない。
「なら正規の命令と簡易的な暗示を組み合わせたタイプだな。九島経由で命令を出しておいて、ソレを疑う事を禁ずる程度だろう」
「あーもう! どっちにしろ次兄上と戦うかもしれないってことじゃない!」
「確か3m以内なら世界最強なんだっけ? そりゃあ難儀だよな」
正確には十本の指に入る……だがこの場合は同じことだろう。
エリカの心酔ぶりと妾の子という血筋からして、直接指導したのは千葉・修次の可能性が高い。師を弟子が越えるのは困難だし、身内相手に割り切れるか怪しいとあっては暗示洗脳されている相手の方が尚更有利だ。
「仕方無いな。ここは一花先輩に頼るか」
「達也くん……。頼ることになるあたしが言うことじゃないけど……女心判って無さ過ぎ」
「オレもうとい方だけど、作戦上の必要性で付き合う相手を決めるのはどうかと思うぜ?」
少し離れたテーブルには各所から送りつけられた無数の見合い写真の中から、見知った顔を幾つか並べてあった。
数ある内に三枚ほどピックアップしてあるのだが、その内の一枚を手にとって交渉条件を考え始める。
「百家に居る以上は完全にはシガラミを避けられないさ。七草先輩も見合いの度に似た様な事を言って居なかったか?」
そう言いながら元のテーブルの位置に戻り、他のデータと並べて比較する。
一花家が市原家になった理由は身体操作が問題視されたからだが、今回ばかりは非常に重要だ。
千葉・修次は得物を選ばないタイプで、武装を破壊しても無力化できない。
エリカと一緒ならば確実に無力化出来るし、……そもそも九島老師の目を一時的にでも誤魔化すには有る程度思惑に乗って見せる必要がある。
「司波くんは女心を理解して居ませんね。貴方が結納として用意すべきなのは株式譲渡用の書類ではありませんよ」
数日を置いてレストランに呼び出し用件を告げた。
その時一花先輩は、澄まし顔のまま譲渡書類を引き裂いた。だが今回の件そのものを否定してはいない。
「……常温型融合炉を実現化する為の会社ではいかがですか? 慰謝料としての価値があるかは不透明になりますが」
「それならば前向きに考えさせてもらいますね」
即答だった。
少し考えて以前先輩から聞いた情報を元に、常温型熱核融合炉の話題を切り出すと花の様な笑顔を浮かべた。
現金な……というよりは、最初からソレが目的だったのかと窺わせるほどだ。
「もしかして、俺が新型装備の開発に舵を切った事をスネていたんですか?」
「司波くん、そういう言い方は卑怯ですね。……ああ、演技の必要もあるのでしたら達也さんとでも呼びましょうか」
俺が可能性に言及すると珍しく不機嫌そうな表情に変わるのは、もしかしたら言い当ててしまったからだろうか。
だとしたら判らないのは女心ではなく、一花先輩の情緒である。こちらも合わせて鈴音さんと呼ぶべきなのか尋ねようとしたが、間違いなく好きな方で呼ぶように告げるだろうと思われる。
「お互いに好きに呼び合いましょう。どうせ必要な間だけなのですし」
「そうですね。でも、必要性が長く続くかもしれませんよ?」
否定はしない。
科学では放棄された常温型熱核融合炉の研究を、魔法によって実現するのは俺の目的の一つでもある。一花先輩……鈴音さんの目的が俺の進路上にあるというならば、別段無理して別れる事も無いだろう。
こうして襲撃作戦に必要な最後のメンバーを加えて、俺たちは作戦の最終段階に入った。
●マントラなど必要も無く
ブレーンを加えた俺たちは、いよいよ襲撃作戦を決行する。
まずはその気が無い事を示して意図を隠す為、あえて手持ちの戦力を散らして行った。
「文弥くんは中条さんを誘ってシルバー社に見学に行ってください。深雪さんはかねてから希望を受けているヘルヘイムの件で軍へお願いしします」
「鈴音さんは本当に身内じゃないんですか? 四葉家の者だと言っても誰も嘘に気が付きませんわ」
中条会長は精神干渉系魔法を使うことができるので文弥と相性が良く、年上ぶりたい性格も年下相手ならば丁度良い。
加えて技術系の情報に目が無いので自然に誘う事が出来るだろう。そして深雪は遠距離魔法であるヘルヘイムの説明に移動するが……あからこそ俺たちが同じユニットを抱えて移動しても何の問題も無い。
戦力の調整が上手く全体視野も広い上に迷いが無いので、亜夜子が四葉の係累だと冗談を言うのも仕方があるまい。
正直なところ、津久葉の夕歌さんよりもよほど似合っていた。
「心配しなくても亜夜子ちゃんは襲撃組です。七草家の双子と違って一人でも大丈夫なのですよね?」
「……特異能力ですもの問題はありませんわっ。あちらの双子の様な能力でしたら苦労なんてしなかったのですけれどね」
亜夜子の能力である極致拡散は気配やエネルギーの平均化だ。
珍しい能力ゆえに才能の発現が遅れたが、今では立派な四葉のエースと言える。師匠の様な超級の実力者を除けば、潜入工作に関しては右に出る者などいまい。
「それならば結構。なまじ七草家のイメージがありますから返って好都合です」
「……っ」
気が付かなかったが亜夜子は鈴音さんを苦手にしているようだ。
たびたび皮肉を口にするのだが無視され、逆に無視しようとしたら適度に構われている。これでは確かに四葉の身内だったと言われた方がよほど自然に見えた。
「千葉さんと西城くんは私達のデートを後ろから追跡してください。もし監視が居ても『友人の悪戯』で十分に言い訳が立ちます」
「ハイハイ。武装の方は適当で良いのよね? デリバリーまでしてくれるなんて面倒が無くていいわ」
「本当にこんな変装でいいのか? もちっと動き易い格好をした方がいいんじゃねえかなあ」
普段は渡辺先輩への隔意から三年組を敬遠して居るエリカだが、鈴音さんには別に思うことは無いのだろう。
手配された装備や受け渡しの時期を見て、レオのサングラスを奪って自分が掛け直す程度の余裕がある。
「俺……自分達はいつも通りで良いのですね?」
「ええ。森崎君たちは深雪さんの警護と、その後に合流する一条くんのエスコートに付き合って下さい。何かあったら十文字くんのところに逃げ込むこと」
護衛戦力として確保した森崎一門は、無駄撃ちを承知で配置して居る。深雪や技術者たちの警護として動き、万が一に大亜連合が『早め』に裏切ってテロリスト化した時に備える為だ。
一条や十文字先輩にも内々に話をしてあるので、イザと言う時は連動して暴動を抑える予定ことになっていた。
これで九島が隠蔽工作に走ったとしても、現行犯以外で俺たちが罰せられる可能性は低いだろう。
「それにしても大亜連合の手引きで、大亜連合を匿っている連中の襲撃ねえ。本当に信用出来るの?」
「最初から信用なんかしてないさ。途中で裏切って、混乱に乗じて脱出するものだと見て居る」
踏み込む為の口実は全て大亜連合側で準備できる。
動かぬ証拠そのものが自分達の形跡を残しながら移動するので、何処に戦力を隠して居ても問題無い。
「連中の足を止める為の要はお前だ。できるな?」
情報を精査する中で、横浜での戦いで収監されたやつらの一部が保釈されている。
政治取引との理由はついていたが、当の大亜連合からは否定の情報が入って居る。おそらくは手駒を増やす為に精鋭部隊を確保したのだろう。
皮肉なことにそのことが連中の潜伏先を絞らせてくれた。
分散して匿うにしろ洗脳工作を同時に始めないと戦力としては不安だろう。逆に呂・剛虎の顔を最大限に使って暗示を使うならば、割りと簡単に暗示を掛けることが出来る。タイミング的にも今ならば自ら交錯している可能性が高い。
「大丈夫なのか? こないだ苦戦してたばっかだろ?」
「男子三日会わざればっていうけどさ、あたしだって成長してるわ! コレがあればあいつらとの鬼ごっこも今日でおしまいってわけ」
確認すると引き抜かれた舞台は例のステルス兵どもだ。
それを懸念するレオの言葉にエリカは笑って、特中のサングラス型CADをずらして見せる。『男子三日会わざれば割目してみよ』というのは呂・剛虎がコードネームにしている呂蒙の言葉だったか。冗談としてはまあまあだろう。
その言葉が豪語ではないことをエリカは行動で示して見せた。
九島が所有する別邸を襲撃した時、警護について居たステルス兵を次々に倒して行ったのだ。
「っ!」
「
姿が見えない相手を簡単にかわし、そいつの動きを盾にサブマシンガンの射程を回り込む。
まずは銃使いを黙らせようと、遠慮なしに斬撃を浴びせて居るのだろう。足元には血の花が咲き倒れ伏した音だけが倒した人数を告げて居る。
右に飛んで一人を倒し、低く身を沈めて割り込むとそのまま二人目と三人目へ続けざまに切り込んで行く。
「足手まといが必要だというのを忘れて無いだろうな?」
「判ってるって。陳さんだっけ? ちゃんとお迎えに引き渡してあげるわよ」
言いながらエリカはターンを掛け、追いすがって来る陰兵の手足だけに切りつけた。
殺すのではなく負傷者を続出させ、後退に人手を割くことで相手の戦力をダウンさせるのは戦いの鉄則だ。だが今回はもう一つ、裏切るだろう大亜連合の足を引っ張ることを計算に入れている。
「だからさっさとやられちゃいなさいよ」
「世迷イ事ヲ言ウナ! ダガ何故ダ! 何故判ル!?」
この間に戦っていた少女に対し、エリカは圧倒的なペースで押しまくって居る。
幻術を見切り振動する剣をかわし、手元へ正確に打ち込みを浴びせて居た。明らかに見えて居なければ不可能な攻撃だ。
「……何をやったのです? 昨日の今日でコレとは……」
「手の内をバラす必要は無いが……。まあ時間を稼ぐ必要はあるし別に構わないか」
前回は見えない剣を何とか避けながらだったので、互角と言っても良い状態だった筈だ。連中の教官役が信じられないのも無理はあるまい。
「始まりは超音波センサーだったんだがな。途中でお前達が対策をしていないはずが無いと気が付いて、他の物で代用した」
「音も風の一種。同じ木門ですからね……なるほど」
視覚だけではなく、聴覚も覆い隠して居るはずだ。音波の反射を拾って視覚に還るセンサーが役に立つとは思えなかった。
だが攻略法さえ判れば後は簡単。各種センサーを引っ張り出してエリカが知覚できるモノを選んだだけの話である。
「陳・祥山が確保に来るのは本当だぞ? お前達は呂・剛虎が囚われ洗脳される筈が無いという前提に囚われ過ぎたんだ」
「それは実際にお逢いしてから判断しましょう!」
滑る様にやって来る教官の攻撃を、片手で受けてその場で勢いを散らす。
同時に発生する振動魔法だが、俺も似たような連携を持っている。最低限の術式解体をまとって無効化。二発目以降は同じ技を見せることで、術式解散を使っても違和感が無い様に誘導しておいた。
「時間稼ぎが必要だったのは私達も同じこと! 上校……たちの方が先に到着されたようですね」
「そうかな? お前とて俺たちが何の対策もしてい無いとは思っても居まい」
呂・剛虎は同時に千葉・修次を伴っていた。
至近戦最強と目される二人の揃い踏みは圧巻だが、本来は敵味方に分かれるからこそこの教官も違和感を覚えて居るのだろう。だがそれでも上官命令に従うのが軍人だから信じて居るのだろうか。
「エリカ……後は任せた」
「判ってるわよ。あたし達で何とかすれば良いんでしょ」
「こっちも終わったぜ」
戦っている間にエリカは少女を気絶させ、レオも周囲の隠兵たちを片付けて居た。
こちらはエリカほど明確に把握するセンサーを用意はできなかったが、大物を持たせれば範囲を攻撃できる。硬化魔法さえ掛けて居ればサブマシンガンくらいは問題無いので黙って見て居られた。
そして重要なのはこのタイミングだ。
エリカとレオの手が空くのが間に在ったが、俺達の戦力は他にも隠れて居る。隙を見て捕縛系の魔法を使ってもらえばいいだろう。
「エリカ。お前のやっていることは反逆罪だぞ」
「次兄上こそ騙されて居るんです。早く目を覚ましてください! あと、できればあの女からも!」
エリカに用意した魔法はタイミングを図ることこそ難しいが、細く短く一瞬の強度を発揮するものだ。
既に間合いの中だと言うのに飛び込もうとしないのは、身内だからか、それとも今行っても容易く見切られるからか。
「どうしますか? 私としてはあちらが終わってからでも良いのですが」
「プロレスラーじゃねえが……できるだけ早く教えてもらった魔法を使いこなして見せるのが恩返しってやつだろ?」
同時にレオが呂・剛虎に仕掛けた。
こちらはトップスピードのまま一気に拳で殴りつけ、容易くねじられ慌てて距離を離す。
やはり相手の方が実力も実戦経験も上だろう。
それでも世界屈指の相手に容易く終わらないだけ、二人の腕前が向上して居ると言えた。今ならば『あの手』を使っても問題あるまい。
(まずは全体として有利に立つ為に、目の前の相手を倒しておかないとな。しかし監視を考えれば一気に行かないと逃げられる)
大亜連合の兵士相手に有利でも何の意味は無い。
例え呂・剛虎を妥当しても所詮は洗脳された駒を取り除くだけの話だ。
「戦力は逆転しました。貴方はともかくお仲間を思うなら、悪いことは言いません降伏なさい」
「そうかな? 呂・剛虎も千葉の次男も特技はあくまで白兵戦だ。下がり続ければ早々負けることは無いさ」
教官役の男が言う様に相手の方が格上ばかり。
だがこちらにも良い条件はある……奴らにとって二人は貴重なコマだが、俺にとっては別にエリカとレオを温存する必要は無いということだ。必須なのは二人が次の戦いに参加出来る事でしかない。
普通ならば格上相手の足止めを行えば守り主体であっても、良くて負傷、悪ければ重傷だ。
しかし大前提として今回の戦いで俺は、遠慮をする気が全くない。最初から俺の特異能力を全開で使う事を『身内全員』に告げて居た。
「まずはお前を片づけて、二人を遠距離から支援する事にしよう」
「そうはいきませんよ。方を付けるのは私です!」
牽制の拳打から掌底そして接近肘打ち、途中途中に振動魔法を浴びせる。
お互いに同じような組み合わせて打突を繰り返して、俺の様に余裕があった。当然ながらスパートを速めれば、仕掛けて来るのはこいつの方だ。
「行きますよ!」
「悪いがキャンセルさせてもらおう」
ニヤリとした笑いが二重の衝撃の後で発せられる。
一度目の衝撃を受け止めた時、間髪いれずに波を上乗せする通背拳。タイムラグがある上に今までとは波長を変えて居るので、術式解散は使えない。
だが牽制封じに使った術式解散のタイミングでまた同じ様に使うとは限らない。
俺の方は後出しながら雲散霧消を使用して、奴の術式の余波を丸ごと消し去ったのだ。
「何!?」
「悪いな。術式解散には別の使い方があるということだ」
説明する訳にもいかないので、あくまで術式解散のバリエーションと言うことにしておく。それに敵に対して馬鹿正直に解説する必要もあるまい。
お互いにブラフの一環として喋って居たのだ、最後まで騙させてもらうとしよう。
「そして魔法攻撃を崩せるということは、当然こうなる!」
「馬鹿な! 想子封じまで!?」
術式解散ならまだしも、至近距離の雲散霧消にサイオンウォールなど意味をなさない。
紅世の徒を討滅するためなら、いつもと違って意味の無いマントラを唱える必要も無い。さっさと倒して次の標的だと他の二人にワザと殺気を漏らしておいた。
「二人ともそのまま下がり続けろ。ただし逃げる様なら足止めを頼むぞ」
「もうちょっと速く行ってくれたら楽だったんだけどね」
「難しい事言ってくれるぜ全く」
エリカは切り傷こそあるものの、攻勢を掛けられない程度で済んでいる。
むしろ厳しいのはレオの方だろう。何しろ拳の上に呂・剛虎ほどの男が乗って居るのだ。
「軽身功か。使いこなすのは剛気功よりも難しいらしいが、良くもやる」
「感心してないで援護の一つもくれればありがたいんだが、よ!」
レオが苦労して体勢をコントロールすると、落ちて来る相手に対しストレートを放った。
これに対し呂・剛虎は身を翻し、回し蹴りを浴びせながら体勢を入れ替える。カポエラを思わせる低い体勢から、猫が立ちあがる様な軽いステップで掌底を打つ。なのに万全の体勢で受けて居る筈のレオの方が、後ろへ後ろへと下がらざるを得なかった。
「
「次兄上を放っておけば達也くんを狙うでしょう? そういう訳にもいきません」
すくい上げるような逆袈裟なのに、千葉・修次の剣は唐竹割りよりも強烈な衝撃を与えて居た。
エリカはその勢いを何とか殺しながら零距離からの刺突を心臓めがけて放った。不思議なことに千葉・修次を受け流す事は無く、身をよじって体勢を入れ替えると、小太刀を右手から左手に投げつけつつ切りつける。
「いつのまに覚えたんだい?」
「見せたことの無い技だったのですが……さすがは次兄上です」
(刺突系の衝撃波か? 高速の一撃からの更なる高速とは流石だが、足止めどころか殺す気マンマンだな)
手を抜いて勝てる相手ではないのだろう。
エリカは明らかに殺人技の類を連発して居る。室町や江戸時代でも剣客が他の剣客と出逢って生き残ることなど滅多にないそうだが、千葉・修次は明らかに初見殺しの技を読み切って居た。
(あれは優れた洞察力とか以前に、間合いとタイミングの方を読んでるな。……ここまで高度な知性を残す以上は燐子……使い捨てパラサイト化はしていないだろう)
紅世の徒は燐子という消耗品として、いわゆるパラサイト化を手駒に使うことがあるらしい。
俺が洗脳よりも危険視したのはこちらで、一時的にではあるが爆発的な魔法力を有することを警戒して居た。他にも再生が効かなくなるとかエリカにとって大変な可能性もあったが、まあそうならなくて良かったというところだろうか。
(……鈴音さんと阿夜子は配置に着いたな。ならば防壁を取り払っておくか)
呂・剛虎も千葉・修次も一流の相手だ。
白兵戦をしているからといって防壁を解くことなどあり得ない。だからこそ俺程度の振動魔法では牽制にもならないのだが、それは同時に鈴音さんたちの捕縛魔法も無力化出来る。
(カメラは既に潰した。精霊の眼で監視の位置を探り切った。あとは合図を出すだけだ……)
だからこそ連中の防壁魔法をそのまま残すわけにはいかない。
術式解散に紛れて雲散霧消を使用する事で、これに対抗することにした。この二人を片付ければ次は黒幕どもだ!
という訳で本当の意味での最終決戦が始まりました。
まずは政治的に手駒としてる大亜連合の連中を無効化。以前まで苦労して居たステルス兵ともども、洗脳状態の呂さんを倒すことになります。
彼が正気ならもっと手強かったのでしょうが、武力100から知力80・武力90に変わって居るのでレオもまともに闘うことが出来て居ます。
/ヒロイン
話の都合上、鈴音さんが正妻+@で深雪に決まりました。
まあベットで研究成果を語り合う様な仮面夫婦にしかならなさそうなので、将来も付き合っているかは不明ですが。
深雪の方は鈴音さんが以前に冗談で言った近親婚での愛人関係OKの話を聞いて、ヤンデレ化が融けて居ます。原作のほのかと違って、兄弟ゆえに愛人でも仕方無いと判断できますし、一度憑き物が落ちればむしろ精神的に安定するでしょう。
なお前回の話で断る気マンマンだったのに、あっさり掌を返して居るのは四葉にとって必要だったからです。
追いこまれて仕方無く翻弄されるのはダメというか嫌なことであり、自分達が自分の都合で振り回すのはアリな感じでしょうか。
異端者で精神系で、他所から白い目で見られてきたからこそ、他所の都合で動かされるのは真っ平ごめんなイメージになります。
なお鈴音さんは疑似お嫁さんではないので、普通にブレーンであり戦力になります。
デートと称して周囲の眼を欺き、平然と九島の別邸襲撃に参加しました。呂・剛虎さんはともかく千葉・修次さん対策の要になります。
/ステルス対策
超音波の反射を拾って、視覚情報にするツールを何かの漫画で呼んだので
それをアレンジして別のセンサーで代用して居ます。見付ける方法さえあれば、使うと判って居るステルスは大した相手では無いので瞬殺。
/オン・マケイシュラヴァヤ・ソワカ
今回は制限不用な相手なので、最初から無意味なマントラは唱えません。
コッソリ使う事を前提にはしていますが、再生も雲散霧消も使い放題です。