√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

62 / 70
雲散霧消

●破滅のカウントダウン

 無意味なマントラを唱えた俺は、思考をプリセットして考えを改めた。

 封絶の中ゆえに人目を気にする事は無く、優先順位からすればこの三人までなら仕方無い。更に言えば始末を行えば問題も消す事が出来る。

 

 最悪の場合、取り逃がす事を考えて誰を優先して消し去るべきか?

 そして最後まで残すとしたら、それは誰か?

 

(最初にベクトル操作を使う二人目、次に最大出力で再生使いの三人目だな)

 途中で逃げられてしまった場合、ベクトル操作で機敏に逃げられるのが最も困る。

 最大出力で行使され続けると、もしかしたら分解も方向転換される可能性もあった。

 三人目は封絶を張って居るので最後まで残しても良いのだが、自主的に解除して逃げる事を考えれば、油断も出来ない。即死させられなければ腕や足が消滅しても再生可能かもしれないからだ。

 そして一人目には特殊なサイオンを撃ちこんだままなので、逃げられてもアジトを探せると言いうチャンスに繋がるかもしれない。ならば悩むまでも無いだろう。

 

 俺は敵の格闘攻撃を捌き、あるいは魔法攻撃から回避しながら、そう結論付けた。

 行動は決まった。ならば後は可能な限り、俺が何をしたか情報を与えずに倒すだけだ。

 

「どうした、本気を出すのでは無かったのか?」

「ならば見せてやろう。裁きの光をな」

 コマンドワードにより、先ほど使った光学系の術式を変更した。

 あの時は術式解体のサイオン砲弾に似せた輝きだったが、今回光量を引き上げてある。

 狙うは勿論、雲散霧消の効果を視覚では判断でき無くする為だ(回避され難くするというのもあるが)。

 

 軽いジャンプでバックステップを掛けて、着地と同時に地面を蹴り広域型の振動波を放つ。

 それで近寄ろうとする連中に牽制を掛けて、静かにトリガーを引いた。

 

「メギド」

「散開っ!」

「まっ眩しい……!?」

 閃光には慣れているのか、グレンデルを操る一人目は仲間に警告を発しながら距離を保つ。

 戦い慣れないらしい三人目は、顔を抑えて逃げ出そうとする。俺はその後ろを追って即座に追撃を掛けた。

 

「逃がさん。今度こそ、お前を倒す!」

「えっ……? キャア!?」

 一人目がフリーで誤魔化しも入れれない為、このタイミングで雲散霧消は使わない。

 三人目の後ろを取った後で肘打ちを入れ、威力強化型の振動波を放った。

 

 そして転がるそいつに追いうちの顔面蹴りを喰らわせたようとしたところで、目論み通り一人目が割って入り息を突かせる。

 

「ミア。お前は無事か!」

「けほっけほ。途中から赤蟻さんが防いでくれたのでなんとか。チャールズさんは大丈夫でしょうか……」

 見れば三人目の皮膚面に赤い燐光がちらついているのが見えた。

 どうやら装甲としての機能がある用で、鱗の様に機能して打撃はともかく振動波を緩和したのだろう。

 だが肉体的には魔法で防御で来ても、本人が把握して居ない事は精神的に判断できないのだろう。一人目を無意味な問いで困らせて居たのだ。

 

「チャールズは……」

「既に倒した。残っているのはお前達だけだ」

「そ、そんな……一体何が……」

 苦い顔をする一人目に対し、三人目は訳も判らずに顔を抑えている。

 やはり経験的にも精神的にも戦い慣れて居ないのだろう。つけこむとしたら、そこかもしれない。

 

「判らん。目を眩まされたと同時に存在が消え去って居た。もしかしたら伝説の宝具、ハッピートリガーかもしれん」

「紅世の王を爆散させると言うあの?」

「何でもいいさ。死にゆくお前らには関係の無い話だ」

 トリガーハッピーという単語に聞き覚えは無いが、結果として俺は運が良かったのかもしれない。

 連中自身に疑問を解決する情報があった為に、ソレを使われたという懸念が雲散霧消の効果を上書きしたのだ。

 

(……CADの銃口部分に着目して居るな。トリガーハッピーというのは銃型の様だな。ならばこいつをフェイントとして使わせてもらうか)

 幸いにも雲散霧消は俺自身の能力に関わるモノで、新型装備は絡めていない。

 光学系の術式をそのまま使って、雲散霧消の方は別の撃ち方をさせれもらうとしよう。

 

「国家機密を盗もうと言うんだ、倒されても文句は言えまい?」

「ち、ちが……」

「私達の使命をそんなものと一緒にされてもらっては困るな!」

 正論に弱いらしい三人目を遮って、一人目は再びグレンデルの巨人を発動させる。

 タイミングを変えた鉄拳が三発ほど発生したので、直撃するモノだけを術式解散で消して、残りはあえて喰らうことで距離を離した。

 

「何? ワザと喰らうだと?」

「あ、あれは私の……」

「ふん。再生能力が自分達だけの特権と思ってもらっては困るな」

 殴り跳ばされた後、転がりながら立ち上がる。

 オートで再生を行いながらCADを構え、九校戦の校内予選など以前に何度か使った事のある方式を脳裏に浮かべた。

 雲散霧消を撃つだけなら近距離でも良かったが、誤魔化す為には距離を離して居た方が良い。グレンデルを使えば邪魔できると思えるだけの間合いが必要だったのだ。

 

「チェックメイトだ、メギド!」

「いかん! 避けろミア!」

「は……い……」

 閃光の中で声が融ける。

 俺から直線的に延びるフラッシュに対し、光の巨人が腕を伸ばして立ち塞がろうとする。

 その姿に実像が結ばれ、これが物理的な力を持つ魔法であれば、その時点で止まったのだろう。

 

 だが俺は雲散霧消を直線では放って居ない。

 三人目の真横から発生させ、直線のフラッシュを囮として使ったのだ。結果として三人目は避けようとした体勢のまま喰らい、言葉の途中で消失する。

 

「馬鹿な……私以外、倒されただと?」

「これで残るはお前独りだ。振り出しに戻ると言う意味では、前に出逢った時まで戻ることに成ったな」

 封絶の外と中を分ける炎が消えゆくことが、何よりの証拠だった。

 既に三人目の姿は無く、残るのは一人目と光の巨人がむなしく佇むのみだ。このまま人目が無いなら雲散霧消で消滅させても良いし、逃げるなら追撃してもアジトまで案内させても良い。

 

「言った筈だ。あの時の段階でチェックメイトだとな」

「黙れ!」

 俺は勝ちに驕り油断して居るフリをして相手の動きを誘った。

 ここから先は詰将棋であり、相手の取る手段を一つ一つ潰しながら自分のミスを減らして行く。

 まずは周囲を精霊の目で詳細に探って……。

 

(師匠? ……頼んで居た黒幕対策か?)

 心が冷えた。

 油断したつもりは無かったが、師匠クラスの隠行の達人であれば俺の精霊の眼を誤魔化せる可能性がある。

 今は離れた場所に居るが、もしかしたら先ほどの戦いを見ていたかもしれない。それが師匠では無く敵の仲間だったら手の内を晒して居た可能性もあるのだ。

(さすがにそのクラスの相手を想像はしてい無かったな。だが油断は禁物だ、このまま確実に行く)

 雲散霧消は瞬時に倒せる時のみに絞るとして、基本は振動魔法だけに留めることにした。

 幸いにも再生の使い手は先に倒したし、ここで戦うにしても追撃するにしても十分に倒せるだろう。

 

「くそっ。せめてあの攻撃の情報だけでもアルフレッド達に届けねば」

「逃さん!」

 敵が撤退を決めたことで攻守が逆転した。

 奴は目立つグレンデルを納め、腕だけを出現させて攻防の要とした。俺の蹴りや肘打ちを光の拳で防ぎ、光の腕で振動をかき消して行く。

 だが逃走中に全ての攻撃を防げる訳でも無く、更に護衛や駆け付けて来る警察たちの居るコースを避けるとあっては被弾が大きくなっても仕方あるまい。

 

 このまま順調に倒せる、あるいはアジトの方向を探れると思った時の事だ。

 彼方から飛来する存在と、真っすぐに伸びる魔法式の反応があった。

 

「ぬぐっ!? 軍か……しまっ……」

 魔法式は受けた筈の場所を光の腕ごと分断し、遅れて放たれる二本目があっけなく絶命させる。

 そしてサプレッサーで消音された小さな音と共に、サブマシンガンらしき弾が撃ち込まれて行く。

「お手数をおかけしました、ミスターシルバー」

「USNA……スターズか」

「何の事かは判りませんが、感謝はしております」

 飛行魔法を使って現われたのは、日本人離れした二人組だった。

 精霊の眼を広げれば騒ぎがあった方向にも何組かが、同じ様にツーマンセルで行動して居る。それを考えれば答はおのずと明らかだ。

 

「他に数名居たと思いますが?」

「それとテロリストはまだ潜んで居るかもしれません。よろしければお荷物を預かりましょうか?」

「結構だ。それと他の奴は既に始末した」

 笑みこそ浮かべて居るものの、銃の安全装置は掛けて居ない。

 周囲を警戒するというよりは、まるで威圧するかのように二人ともこちらを見つめている。おそらくはどちらかの情報を寄こせと言うのだろう。

 

 それを中断させたのは、新たな闖入者の追加だった。

 他のチームと違い、その人物だけは単独行動。そして鬼の様な仮面を付けた奇妙な姿である。

 

「協力者に対し失礼だぞ、お前達。……部下が失礼なことを申しました、ミスターシルバー」

「いや、構わない」

 どうやらこの仮装した人物が隊長らしい。

 精霊の眼を詳細に使用しても情報体がおかしいと判るのみで、おそらくは偽装情報だ。これほどの使い手はシールズ女史か師匠しかしらないので、女史の方だろう。

 

「それと調べたいなら少し戻ったところに行ってみると良い。大出力の魔法を使ったが、痕跡くらいは見つかるかもしれん」

「そうさせていただきます。不躾ですが、再びこのような事が起きた時は御一緒させていただいても構いませんか?」

 何も残って居ないことを承知で俺は何処で戦ったかを教えることにした。

 共闘の要請も、大型CADを巡る戦いではこちらから戦力として要請するつもりだったのだ。嫌応はなく素直に頷いておくことにした。

 

 こうして敵の戦力を削り、罠の中に飛び込ませる為の第一段階が終了した。

 次の戦闘で決着をつけられれば良いのだが……。

 

●割断

 そして視点は仮面の人物に移る。

 『彼女』は部下と共に指定された場所に移動して居た。

 

「シリウス少佐。日本人を信用して良かったのですか?」

「それに本国から追加された命令では、戦略魔法の事に関して調査せよとも」

「優先順位は下です。あくまで任務の最上位は脱走兵の確実な処分なのですから」

 言葉を強く改めたアンジェリーナは、部下を諭すように機材の稼働を求めた。

 世界一の精度を誇るサイオンレーダーが、達也が告げた場所でデータの消失を検知した。もっとも情報遮断の魔法もあるので断言出来る訳でもなのだが。

 

「それと協力者の(チョウ)からFAE理論を使ったモノらしいと一報がありました。おそらく戦略魔法はメルトダウナーでしょうね」

「メルトダウナー!? 分子ディバイダーの戦略魔法版とも言える魔法ですか?」

「馬鹿な! 日本人ごときがステイツでもまだ未完成な魔法を完成させるなどと!」

 戦死した前総隊長が完成させた分子ディバイダーは、電子の引力と斥力のうち、引力のみを解除して斥力で断つ魔法である。

 この状態を保ったまま仮想領域で切りつけるのだが、メルトダウナーが完成した場合は規模と二次被害により莫大な破壊を巻き起こす魔法とされていた。

 

「仮に事実だとするならば目をそむけて何になるのです。この推測が本当だとするならば、小型化に成功して居る分子ディバイダーのユニットと引き換えに情報を開示する方が早いでしょう」

 もちろん無償で手に入れられるならば越したことは無いですが。

 アンジェリーナはそう呟きつつ、シルヴィアから送られてくる情報をまとめて居た。

「撹乱に当たって居た者のうち、その場で一名を、追跡中に一名を処罰したようです。これ以上得る物はなさそうですし一度撤退しましょう」

「「イエス、マム!」」

 時間を掛け過ぎると日本側の協力者である七草家でも抑えられなくなる。

 警察に強い影響力を持つ千葉家の協力も得られればもう少し何とかなったのかもしれないが、今はそんな贅沢を言っている暇は無いだろう。

 スターズは来た時と同じく密やかに帰頭し、次なる情報を求めて動き出した。

 

 

 視点は再び達也の元に戻る。

 独立魔装大隊とのコンタクトを予定通りにブティックで行ったのだ。

 

「基本は電子の結合を分離するモノです。そこでFAE理論を用いる為、仮想領域に魔法を展開。この領域を移動させるのが分子ディヴァイダーと言われています」

「そこまでは真田大尉から聞いて居るわ。で、どんな風にメルトダウンまでこぎつけたの?」

 祖父である九島老師から過密なスケジュールを押しつけられた藤林中尉が、多忙な時間を縫って社長室に訪れた。

 俺は最低限の説明をすべく、それなりの時間を取らせてもらった。

 

 どうせ囮なので不用な時間かもしれないが、第三者が聞いて不自然でない程度に完成させられなければ意味が無い。

 そして今日の会合と今後のスケジュールを大凡掴めるのであれば、身内か九の家に『虫』が入り込んで居る可能性が高いだろう。

 

「劉・雲徳が使用した霹靂塔のバリエーションを参考にしました。斥力の最大出力そのものは下げて、仮想領域の広域展開用する為の術式を準備に組み入れます」

「確か……。あの時は雷が落ち易くする魔法を使って、消費を抑えて居たのよね? なるほど二次被害で十分と言うことかな」

 極論を言えば、何でも切れる剣など必要無い。

 電子を定理に結合させている引力と斥力を分断し、その状態を保って押しつけるだけで莫大なエネルギーが発生するのだ。

 問題なのはその状態を維持し難いだけなので、事前に干渉し易くなる魔法を掛けておく。場合によっては分子ディバイダーで消し去っても良いだろう。

 

 あの時は敵味方が混合して居た為に、先に分解で邪魔する連中を始末してからマテリアルバーストを使用した。

 丁度その時に程近い状態を作り出せるし、あえてこの方法を選択したのだ。

 

「それでこの魔法が完成して居ない理由って何なの?」

「単純に能力不足ですね。この魔法式に相応しい素質の魔法師がおらず、仮想領域を広げるユニットにはパワーが足りません」

 ユニットの完成そのものは試行錯誤の時間を掛ければ何とかなるだろうが、魔法師の資質ばかりは仕方は無い。

 都合良く人材が揃うなどはありえないし、簡単に見つかるようならばUSNAが既に別バージョンとして完成させているだろう。

 

「今回は演習場で試射ということで、領域を広げることはしません。ひとまず一直線、ないし扇状のラインを引ければ十分でしょう」

「判ったわ。真似ごとで良ければ私が代役を務めるから、後は達也君、よろしくね」

 九島の係累は放出系の才能があり、小規模であればメルトダウンの領域を造れるだろう。

 後は必要に応じて俺の方でマテリアルバーストを使用すれば良い。

 

「演習場自体は御爺様にお願いして、九校戦でスティーブル・チェースを本当に採用して良いのかテストするということで抑えておいたわ」

「ありがとうございます。その理由ならこちらも色々と仕込みが出来ますので助かります」

 スティーブル・チェース・クロスカントリーは九校戦の正式種目だが、危険度が高いのでお蔵入りに成る事も多い。

 横浜戦の影響で軍事色の高いこの競技に注目が集まっていることを利用し、対外的にはソレですませたのだ。そして九校戦を名目にするのであれば、俺たち学生が乗り込んでも不自然では無い。

 

 包囲網を築く外陣も信用のおける人員を頼むし、実際に迎撃する内陣も一応は揃えられる。

 とはいえ戦闘系の魔法師である自在師相手だ、幾ら警戒しても足りることは無いだろう。俺はレオやエリカに用意した魔法式を強化する必要を感じて居た。




 と言う訳で罠の第一弾は終了、雲散霧消で無双する話です。
日報では二日か三日と午前一時ごろに書いたのですが、興が乗ったというか前回の続きだったので眠い目こすりながら完成。予約投稿してみました。
誤字脱字が多かったら申し訳ありません。

●偽の戦略メルトダウン(メルトダウナー)
 まんまインデックスのメルトダウナーと、劣等性の分子ディバイダーを足して二で割った感じです。
麦野さん並みの才能を持った魔法師居れば、脳改造では無く大型CADで使用出来るかもしれません。
1:地形属性変更魔法
2:仮想領域展開
3:分子結合が分離した空間でブン殴るのではなく、エネルギー大放出現象を維持する
(横浜操乱編において、対馬沖で使った魔法は消耗が大きく専用CADが壊れたので、今回はコストカット重視を試す事にしたという設定)

●USNAのチェイサー
 衛星級・惑星級ではなく、二等星級を中心として一等星も連れて来てます。
なので分子ディバイダーを部下も使えて居ます。

●オマケ:偽の魔法式の呼称
 真・魔神転生Ⅱの最強魔法シリーズから名前を借用して居ます。
サードアイ
アブソルルート・ゼロ
メギドラオン
メルトダウン
これらがモデルと成っており、次回登場するアルフレッドさんはMP消費無しでマハアギラオンを伴って現れる予定です。

トリガーハッピー
 シャナの一巻で壊れた、対フレイムヘイズ用の最強武装。
当然ながら達也君は何のことか知らないので、意味はありませんし、雲散霧消とも関係ありません。
単純に即死したので、もしかして? くらいの会話です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。