√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

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やがて来る戦いの前に

●迎撃準備

 レオが入院したと聞いて、俺は陰謀の可能性を濃く感じた。

 新装備も含めて接近戦の能力は以前よりも格段に上昇して居る筈だし、生存力に関して俺の再生を除けば随一と思えるほどなのだ。

 そのレオが突如入院したと聞いて、陰謀性を疑うなと言う方が嘘である。

 

(病院で聞き出すとして……。このまま受け身で居るのは巧く無いな。流れは自分で作るべきだ)

 場を眺めるべきだったとはいえ、いささか消極的だったかもしれない。

 これが仮に陰謀であるとするならば、こちらの判断よりも先を見据えて居る筈だ。

 

(レオも俺が行くとは思っているだろうが、すれ違いを考えれば先に連絡しておいた方が良いな。それと戦力不足だが……)

 上手く行けば飛び出したエリカにも伝えられるかもしれない。

 単なる暴漢相手ではなく何者かの動きかもしれない……。だから迂闊に動くなと添えてメールを入れておいた。

 

 そして所属して居る風紀委員の用事を片付けつつ、メンバーの一人に判り易く視線を送っておいた。

 

「……何の用だ?」

「場合によっては森崎一門ごと雇いたい。無論、話が大きくなった場合だが」

 まず目を付けたのはボディーガードを家業にしている森崎だった。

 護衛としてなら腕効きの部類に入るし、家業ということは一門の中に多くの人材を抱えて居るだろう。

 

「一門ごと? キナ臭い話は困るぞ」

「安心しろ、そこまでの事じゃないさ。ただ……狙われている対象が俺だけとは限らんからな。ひとまず深雪のことを頼みたい」

 都合の良いことに森崎は俺と反目して居るとみなされている。

 一時期共闘したこともあるが、その時も表に出して居ない。

 そして何より風紀委員として話す事ができ、深雪と同じクラスというのが大きかった。

 

 俺には理解不能だが、世間ではこういう相手を頼っても、協力を持ちかけてもいけないらしい。

 プロフェッショナルである以上は、戦力は戦力でしかないと思うのだが。

 

「司波さんを? あの人ほどの魔法師ならば並大抵の相手では叶わないと思うけど」

「真正面から来てくれるならばな。それに手段としての誘拐ではなく、脅しとして重傷に追い込む可能性もある」

 俺から技術を奪いたいにせよ、四葉の係累と推測して狙うにせよ。

 手段としては複数の方法がある方が有用だろう。そして遠距離狙撃や奇襲を考えれば、狙い易いのは場所が特定し易い深雪の方だ。

 そして当然、俺が守りたいのも深雪なのだから護衛を付けるとしたら考える余地はない。

 

「……ひとまず。の間は『二人』でいいか?」

「それで構わない。まあ『大ごと』になったら警察なり軍に頼むとするよ」

 この場合の二人とは森崎自身が教室を中心に、男には出入りし難い場所にもう一人女性スタッフを付けると言う意味だ。

 森崎一門に頼むとしたら社の関係者もということになるが、それ以上の大ごとはテロ対策部隊でも用意するしかないだろう。

 

 こうして最低限の準備を終えてから、俺はレオの居る病院へと向かった。

 

 

「面目ねえ」

「気にするな。それよりも何が起きたかを教えてくれ」

 精霊の眼で確認するとレオの生体情報が著しくすり減って居た。

 肉体的な傷はそうでもないので、担ぎ込まれた理由はおそらくソレだろう。

 

「……込み入った内容だから面倒癖え順番だがいいか? エリカには話してる間に何度もキレられちまったが」

「構わない。妙な誤解が混ざるよりもマシだからな」

 レオが珍しく悩んで居たようだが、話す順番を考慮して居たらしい。

 暫くして整理が済んだのか、ようやく口を開いた。

 

「全体としちゃあ組織とかグループが二つ・三つ関わってて、オレがこうなってるのは単に自業自得なんだ」

「……例の不壊魔法みたいな禁じ手でも使ったのか?」

 入院理由をこの段階で告げたのは、おそらくエリカが話題の展開に激怒したからだろう。

 その上で相手が複数ある事を教えて、事の面倒さを説明している。

 

「最初に出逢ったのはエリカの兄貴とその友人で、夜歩きの時に出くわした感じだな」

「エリカの? 刑事をして居ると言う話だったが……」

 長兄のことかと口にしたらその場で首を振られた。

 あの兄弟は横浜の一件でイベントに巻きこんだために、どちらもプロフィールは頭に入れている。

 確か……。

 

「次男の方だな。軍務つーか政府筋つーか、微妙な立場だとか言ってた。そん時に……横浜の件で問題が起きるって話を聞いたんだ」

「ああ……。確かに軍関係だったな。しかしその話しぶりだと、ナンバーズがらみかもしれんな」

 レオも同様に感じたようで、言葉には出さないものの渋い顔で頷いていた。

 しかしここで横浜の件と言われたことで、俺が警戒せねばならないのは一つだけだ。

 

 何しろイベントや持ち込む為の装備一式、そして避雷の魔法などは所詮その場しのぎに作りあげたオマケだからだ。

 問題があるとすればあの戦いで最後に使った……。

 

「えーと色々話すなって言われんだが、まあ達也なら俺よりもよっぽど関係者だからいっか。……あの時の最後にCADの調整で呼ばれたろ? アレを奪いに来てる連中が居るらしい」

「……なるほど。厄介な話に成ったな」

 悪い懸念は当たるものだ。

 どうやら戦略魔法であるマテリアルバーストが関わっているらしい。

 調整スタッフという関係者に過ぎないと誤魔化しているが、実のところ俺自身が行使して居るので厄介事を避ける事も出来ない。

 

「確認するがエリカにはその話をしてないな? ならいい」

「最初はエリカの兄貴も誤魔化そうとしてたんだけど、当てずっぽうで言ったら口止め込みで教えてくれてな。そん時に色々と技やら術も教えてくれたんだが……」

 レオは頷きながら難しい顔をした。

 横浜の時点で守秘義務を受けて居るし、今回の件で首を突っ込む時にも重ねて告げられた筈だ。

 当てずっぽうの話も関係者同士だから通じただけだが、……エリカもまたあの時の話は聞いている事に成る。さらなる面倒が生まれないと良いのだが。

 

「そん時に非常用と念を押されて教えてもらった魔法がよ、使い過ぎるとぶっ倒れるってヤツなんだ。オレはこの通りガタイがあるから資格はあると言われたが、確かに使い過ぎるとヤバイわ」

「当たり前だ。サイオンどころか生命力もふり絞ってるぞ。レオだから無事に済んだが普通の人間だったら死にかねん状態だ」

 生命力を消費して魔法力を向上させる様な術式だろうか?

 古式魔法の仙道系や符蟲道にあったとは思うが、確かにリスクの大きな魔法だ。素人に教えて良い術ではない。

 

 もっともレオが言う様に才能を見越して与えられた魔法であるならば、普通の人間に教えるとも思えない。

 あくまで死にそうな時に、脱出用として教えてくれたのだろう。

 

「それほどの魔法を使って戦わねばならん相手とはどんな奴だったんだ? 俺の所でも新しい魔法を覚えて居ただろう」

「おう。ありゃあ相当に強かったぜ。おまけに途中でマシンガン持った連中まで出て来たからな」

 レオに用意した新装備用の魔法、『エクストラ』は戦闘力を純粋に高めるモノだ。

 扱い易いが肉体への負担の大きい自己強化系の魔法と、レオが本来得意としている硬化魔法を併用する形で構築して居る。

 要するに人間としてのリミッターを外しつつ、その反動を硬化魔法で無効化したモノだ。一般人が行ってもそれなりに意味のある組み合わせだが、遺伝子的に適性のあるレオが行うことで比類ない力を発揮できる。

 

 ハッキリ言ってその辺りの装甲に身を包んだ連中や、薬物程度の強化歩兵で相手に成るレベルでは無い。

 そのレオに問題のある切り札を使わせるまで追い込んだ以上、かなりの強敵と思われた。

 

「九校戦予選で戦った魔法……えーと。動きを反らすような魔法があったろ?」

「ベクトル反射……いや、レオが戦ったのはシールド・ダウンだから軌道屈折操作か。アレを実戦レベルで使う相手か」

 クラウド・ボールの試合で多用されるベクトル操作は、方向をそのまま撃ち返すので難度が高くても扱い易い。

 対して軌道屈折操作は銃撃戦などで補助的な防御魔法として用いられるモノで、方向性を反らすだけの魔法だが防御用としては有用性が高い。

 

 とはいえ戦闘中に使用するには難度の高い魔法であり、普通は領域の外にのみ使われる魔法だった。

 大抵は反らすだけに務め、物理的な障壁であったり、魔法の領域が重ならないようにして他のモノが別の魔法で防ぐような使われ方をするのが精々だ。

 これを試合であるシールド・ダウンならともかく、実戦の格闘戦で使うとなると厳しいと言わざるをえまい。それを可能とする魔法師であれば、確かに厄介な相手だろう。

 

「まあその魔法を使う奴を……。横浜方面で怪しい奴が出入りして居る場所を見付けてよ」

 レオは場所を付け加えつつも、詳細に関してはあいまいに説明を入れた。

 ボカしているが、情報経路上に居る人物への義理立てなり別の守秘義務で独自に調べたのだろう。

 

「横浜戦で逃走した大亜連合とでも取引して居たのか?」

「……似たようなもんだな。そんで最初はそいつと出くわして、色々あって押し問答から殴り合いになったんだ。判り易く不審者だったし、売り言葉に買い言葉だったからな」

 横浜戦で逃げ切った部隊が窺っているならば、敵の敵は味方の理屈で情報交換をして居る可能性がある。

 そこを突きとめて襲い掛ったか、帰路で追跡するところを待ち構えられたのかもしれない。

 

「最初は尻尾だけ掴んでやろうと普通に戦ってたんだがよ。途中で別口の奴らが現われてそいつごと俺も撃ちやがった。そこで仕方無く……な」

「銃器は魔法師にとって天敵だからな。しかし無理はするなよ」

 今の段階ではレオ自身と戦った相手、どっちを狙ったのか判らない。

 やったのは証拠隠滅を図る大亜連合の連中かもしれないし、マッチポンプのあ可能性すらあり得る。

 

(とはいえ現段階で判ってる相手としては、この間の奴と……USNAか。USNAならマテリアル・バーストを狙う理由もあるだろうが、紅世関連だと意味が判らんな)

 襲ってきた奴が『紅世の徒』である可能性と、フレイムヘイズである可能性。

 現段階ではどちらとも言えないが、マテリアルバーストを探る意味が見えない。連中にとって現世利益に興味があるとも思えないからだ。

 

(いや。……大亜連合や大漢には『紅世』の痕跡が見られたのだったか? 敵の敵は味方ではなく、本当に味方で呼び寄せたのだとしたらどうだ?)

 『紅世の徒』とフレイムヘイズの最終決戦は、日本だったとも欧州だったとも言われている。

 だがその前哨戦は大亜連合と大漢が争った紛争の陰に隠れて実行されており、かの地に一大拠点があったのだとも。

 

 それを考えればUSNAに居る同胞を、大亜連合に所属する連中が呼び寄せたのだとも考えられる。

 そしてUSNAがその様子を見てしまったとしたらどうだろう? 脱走兵を捕獲するどころか、敵国と共同で当たろうとするならば処分対象と成っても仕方が無いだろう。

 

(まだ断定は禁物だがそう考えると筋が通るな。対処法だけは常に用意しておくとして、今はどちらであっても防がねばならん)

 相手が誰であれ、戦略魔法であるマテリアルバーストの秘密を渡すわけにはいかない。

 狙いが判った以上は、情報と人間を守っていく必要があるだろう。

 

「それでエリカは?」

「達也がメールくれたから、先に兄貴の所に行って詳しい事を聞いてくるって言ってたぜ。まあどこまで真相を聞いてくるか判らねえけどよ」

 やはり先々に手を打って正解だったか。

 これで最低限の戦力は整うし情報も手に入った。

 

 森崎一門を全て雇用するにしても研究所では無く人材の方に専念させられる。

 深雪と横浜事変の時に関わった技術者たちに張りつけておいて、こちらは打って出ればいい。

 

「情報の精査も必要だし、動くとしても暫く先だ。それまでに気力体力を取り戻しておいてくれ」

「そうしとくよ。病院食は薄味なのが偶に瑕だけどな」

 差し入れを用意しておくと言った後、俺は『予定』を考え始めた。

 

 当然ながら情報収集はしておくとして、本当にマテリアル・バーストが目的だった場合の罠造りだ。

 どこかにおびき寄せて一網打尽と行くのが良いだろう。話し合いの余地があれば良し、不可能ならばUSNAも使って確実に潰すべきだ。

 

(本当ならば部外者の関与は避けたい所だが、USNAと共同で当たるならばシールズ女史の力も宛てにできるだろう。おびき寄せるなら何処かな……)

 横浜戦の時に関わった技術者も含めて目立つ形で集め、実際にはそのメンバーには森崎一門を付けて早めに退避してもらう。

 会議中と称して体勢を整え、シールズ女史も含めて迎撃するのが理想的だと思われた。

 

 とはいえ相手にはまだ余裕がある。

 罠だと判って飛び込ませるには、まだ時間が掛る可能性が高い。

 どこかで前回以上の手痛い打撃を浴びせる必要があるだろう。……できればそれまでに情報の精査がしたいところだ。

 




 前置きの情報が長くなったので分けます。
その分だけ予定よりも早く書き上がった感じになります。

●森崎一門の雇用
 隔意を持たれている相手ですが達也君の性格ならば平然と雇用しそうなので雇いました。
周囲から見て仲が良くない相手ならば、陰謀であったとしても削ぎ落しておく可能性の低い相手です。
(実際、内部に情報を伝えている相手が居るので、想定外の戦力に成ります)
 強いというよりは警備込みで、深雪や他の技術者に張りつけておける丁度良いレベルの戦力と言う感じです。


●次兄とそのお友達
 長男の人が動く事件が起きて無いので、いきなりこっちになっています。
今回は語られませんでしたがお友達のお陰で、良くも悪くも戦略魔法の話題に繋がります

●レオの新魔法『エクストラ』
 単純に新装備で魔法の併用できるようになったのですが、自己加速と化は合わなさそうなので
負担のある魔法と硬化魔法の組み合わせで超人戦闘を覚えて居ます

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