√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

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横浜操乱編
葦原を草薙ぐ剣(ウイードクラッシュ)


●新しい季節

 九校戦が終わり、生徒会長・部活連会頭・風紀委員委員長も一新された。

 とはいえ優秀者が生徒会を締めるため身内での指名に近いものがあり、一部の不満を除けば概ね無風の選挙だったと言えるだろう。

 

「ではコンペまでの護衛は市原に服部、平河に司波、五十里に千代田をメインとする」

「了解しました十文字先輩」

「とーぜんですよね!」

 論文コンペはデータを盗もうとする不埒者が現れる為、十文字先輩が責任者となって護衛班を作りあげた。最初の話し合いは出席者の護衛割り振り……と、いうことになっている。

 

 もっともこれは嘘だ。

 実際には根回しした通り、予め組んでおいた予定通りに議論が進行しただけのこと。

 

(これで負担を増やさずに、技術スタッフの護衛を手配できたな)

 九校戦後に発覚した『紅世の徒』による被害の露呈。

 その確認と対策に追われた俺は、仕方無く色々な方面で主導する羽目になった。

 

「司波には公私で負担を掛けるがすまんな」

「いえ。ウチにとっても助かるので問題はありません」

 中条先輩を生徒会長に推し、平河(妹)を俺の研究助手に招いたという縁で平河先輩にはラボの一室を貸し出すことで、護衛に回す人手を減らして居たのだ。

 そういう意味では千代田委員長のセリフではないが、今回の配分は当然と言えた。

 

「啓がシルバーくんの所に顔を出すかもとか言ってたけど、例のアレって上手くいってるの?」

「ええ。前世期の軽環境スーツサイズでなら実験が成功したので、今後は小型化を目指します」

 平河(妹)と美月が九校戦で口にしていた、服飾にCADを取り入れると言う手法。

 話題の一つでしか無かったのだが、当局から飛行用スーツの打診があった事と『紅世の徒』対策も兼ねて本腰を入れている。

 

 ひとまずは3m弱、ほぼロボットサイズでなら実現させた。今後は最低でも2mまでスケールダウンを目指して居る段階だった。

 

「いやいや、啓がシルバーくんを手伝うんだから成功して当然でしょ? 私が言いたいのは可愛くできるかってこと」

「その辺は門外漢ですから。美月が美術部の先輩達に協力してもらって外装を考えていますよ」

 この間まで感情が無いと思っていた俺にとり、外面の良し悪しなど区別が付かない。

 顔を晒す事無く、急所を覆って居れば良いのではないかと思ってしまうくらいだ。

 必要なのは機能性であり、機密性の高い任務に用いるのならば隠匿性もとしか思えない。

 

「シルバーくんに聞いた私がバカだったわ。空飛ぶウエディングドレスとかできないかなーと思ったんだけど…」

(千代田先輩も大概だな…)

 口の悪さもだが発想が俺と大差ない。

 こちらが武装の一環として捉えているのに対して、自分が着たいモノを念頭に考えているだけなのだ。もっともファッションを考慮して居るだけ、男の俺よりはマシなのかもしれないが…。

 

●キャプテン・シルバーとその一味

 企業化したトーラス・アンド・シルバー。

 そこにあるラボで、今日予定する二つの実験のうち一つが始まっていた。

 

「琢磨、ビリオン・エッジをフル・マニュアルで頼む」

「はい、お兄様!」

 俺が指示すると、白い陣羽織を着た七宝は意気を整えた。

 そしてトランス状態に入ると、祝詞と共に魔法式を構築し始める。

 

「腕に十種の神宝。八握剣、蛇の比礼、蜂の比礼、品物の比礼。沖津鏡、辺津鏡。生玉、足玉、死返玉、道返玉…」

 用意された大量の紙片が空に舞い、幻想的な光景が作りだされた。

 古式に近い用法で使用された魔法式は、陣羽織に編み込まれた魔法陣や各種CADの力を借りながら精密に操作を始める。

 以前は紙の刃を空気で出来た袋詰めで浮かせるだけであったビリオン・エッジが、明確に十のグループに分かれて行った。

 

一二三四(ひ・ふ・み・よ)五六七八九十(い・む・なな・や・ここのたり)…」

「天叢雲の剣、八咫の鏡、八尺瓊の勾玉。いずれのグル-プ化も確認しました」

「ここまでは順調だな」

 十のグループが三つに数を絞りながら、徐々に密度と意味を強化する。

 七宝の右側・左側・上方。この三か所に配置しつつ、微弱な振動や対流現象を帯びて行くのだ。

 

 魔法陣入りの服が陣羽織になった理由は簡単で、研究用の大型CADを省略する為に何枚の布が必要か判らなかったからだ。

 十二単のように重ね着をした後、一枚ずつ剥がして実験をし直して居る。

 CAD単独に比べて多量の準備をしているが、それでも3mサイズの軽環境スーツよりは遥かにマシであろう。

 

 

布留部、由良由良止、布留部(ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ)

「変化止まりました。これ以上は延びません」

 今はこれで精いっぱいだが術者が成長し魔法式を完全把握した段階で、振動や衝撃をまとった紙の刃を攻防に用いることが可能になるだろう。

 しかし更に枚数を減らして、次の段階である侍袴だけになるのは無理そうだ。

 

 精霊の眼で垣間見た通りであったため特に悔しさはない。

 予想されることと同じだけであり、実験は次の段階に移行する時だ。

 

「第二段階に移る。どれでも良い、今度はオート操作に切り換えてくれ」

「了解です。…来い、草薙ぎの剣!」

 七宝がコマンドワードを唱えて右手を掲げると、紙片は右側のグループを残してバサバサと落下。

 直刀のように密度を高めた部分と、その死角を覆う三枚の護拳・布状に形成される。

 デフォルトで掛っているのは相対位置を固定した硬化魔法だが、新たなコマンドワードを使用すれば振動する剣に変わるだろう。

 

 少量に絞ったとはいえ大袈裟な詠唱などの準備や、ともすれば危険になるトランス状態に陥ることなく、コマンドワードによる連鎖型CADの制御だけでやってのけたのである。

 

「草薙ぎの剣の成立を確認! 実験は成功ですね。た…達也さん」

「千秋が協力してくれたおかげだ、ありがとう。小春先輩が研究室を使っている間だけとはいえ、助かったよ」

 何故か平河(妹)は下の名前を呼ぶということに躊躇いがあるようだ。

 名前など記号の様な物で、ここには姉妹二人とも揃っているのだし恥ずかしがる必要はないと思うのだが。

 

「常に再定義され続けたレリック。十種の神宝のように随時更新し続けて行こう」

「「はい!」」

 七宝や平河(妹)だけでなく、協力を申し出てくれたスタッフ達の声が唱和する。

 ここまではきっと全員の重いが一致したところだったろう。

 

「理想を言えば普段着サイズになるか、誰でも使用可能になれば良いんだが」

「お兄様…いきなりそこまでの成功されたら七宝家の立つ瀬がありませんよ」

 流石に高望みだったのか七宝が苦笑する。

「拡張性を排除して、小さいブレード・サイズならいけると思ったんだがな」

「そりゃうちの家の奴なら、経験もありますし能力的にも可能だと思いますけど」

 適性の問題だと言うのだが、それでは少し意味が無いのだ。

 

「確かにそうなんだが。琢磨が使うような複雑な魔法ですら上手く管理できるようになれば、一科生・二科生に別れる必要が無くなると思ったんだ」

「もしかして、二科生の枠組みを無くすおつもりなのですか?」

 俺は七宝の問いに頷いた。

 それが今年の目的であり、俺自身の目標の第二歩だからだ。

 

「飛行術式の条件付き公開により、様々な期間や個人の研究家が使用例を送って来てくれた。これで重力式の変数管理も可能になるし…」

 飛行魔法で移動する場合には、ループ・キャストによる変数の変更が不可欠だ。

 常に小さな魔法をかけ続けることで、条件の連続更新という最も負担の掛る項目をキャンセルする必要があるからだ。

 俺は飛行術式を使用例を送るという条件で、各友邦国の魔法研究機関に無料公開した。

 

「千秋が考案した術式のシンプル化も合わせれば学習が容易くなる」

「シンプル化は定数にすることで、扱い易くすることでしたよね。でも、それだけだと条件はみんな一緒なのでは?」

 平河(妹)の考案した魔法式のシンプル化は、最も多用される数値に定型化してしまうというモノだった。

 そのことにより射撃的な発現をする魔法であれば、弓や拳銃のように距離設定をせずとも、術者がちゃんと使えば設定を省略して使用出来る。

 

 仮に最も使用頻度の高い距離を定数として、10mなら10mに設定。

 特化型にインストールできる魔法式の一つとして完全固定し、必要ならば二次的な頻度の距離…例えば30mを二つ目の魔法として設定する。

 魔法が拳銃化・弓化する訳で、魔法を以前よりもコントロールし易くするものであった。

 もちろん距離以外も定数化し、それらを組み合わせて単純な方式で魔法を組み立てるのだ。

 

「確かにそうだ。しかしな琢磨。二科生の二科生である所以は能力ではなく、自らの個性に向きあう為の補助役。…教師が居ない事なんだ」

「私も知らなかったんですけれど。入学試験で実技だけは上の二科生と微妙に下の一科生だったのに、二年・三年になるにつれ決定的な差が出るそうなんです」

 俺の話を平河(妹)が補足する。

 彼女は何処で聞いたのか知らないが、そんな例を持って来て案の方向を示したのだ。

 当時、まだ会長職に合った七草先輩が調べてみると、確かにその様な状況は多かったらしい。

 

「能力が延び悩む…ということですか?」

「そうだ。仮に同格の二人が一科生と二科生に別れたとする。領域干渉・情報強化という防壁に阻まれた時、二科生の生徒は突破する方法を尋ねることも出来ない」

 処理速度が上回るならば先に撃てばいい、干渉強度に優れるならば強引にこじ開ければいい。

 あるいは二次的な現象を引き起こし、作成した物体で殴りつけるのも有効だろう。

 

 だが、二科生はその単純な相談すらできない。

 例え暇な教師を探して質問されたとしても、一科生だけで忙しい彼らが『常に』質問に答える訳にもいかないのだ。そして常に答える事が出来ないのならば、一度だけ答える訳にもいかないとなるのも仕方あるまい。

 

「干渉領域は判り易い例えだが、これが能力を伸ばすと言う問題だともっと複雑になるな。どの能力を伸ばすべきか、そもそも自分の限界が何処なのかすら判らない場合が多い」

 もちろん限界が判って居て、教師役が居てもどうしようもない事態も数多い事だろう。

 俺なら俺が処理速度を向上させることは不可能だ。二科生だからではないし、一科生だったとしても深雪が制御力を向上させるのも難しい。

 何故ならば深雪は『封印』に制御力を使っており、俺は深雪の監視に処理能力を割いているからである。

 

 まあ、俺と深雪は可能性を焼かれて限度いっぱい拡張された人(神)造フレイムヘイズだ。

 作成物だからこそ、割り切って判断出来るだけとも言える。

 普通の人間であれば、もしかしたらまだ延びるかもしれない…と無駄な努力をする場合が多いだろう。

 

「しかしだ。自分の定数を理解していれば、自ら気が付くことも可能になる。七草先輩の計画したコーチ制次第で相談も可能になる」

「無限の可能性とは言いますけれど、五里霧中な状態では不可能。でも限界が判れば考えるのは簡単ってことですね。なんか自分で言ってて悲しくなりますけど」

 定数化すれば現時点での自分の実力を理解する事が出来る。

 どうやっても10m以上は伸びず、9mだと安定するならばひとまず10mにしておけばいい。

 その上で他の項目を調査しておき、9mに設定すればその能力を伸ばせる場合、9mにしてしまえば良いのだ。

 射撃戦など強度や速度よりも距離が優先されるならば、その項目を下げて距離を10mにしてしまえば良い。

 たったそれだけの判断をして、自分が何をするか二科生は指針を得られないのである。

 

 そして定数化と変数化を両立する事で、可能になったモノは他にもあった。

 それが予定されている、二つ目の実験である。

 

●ローゼン・マギクラフト

 一つ目の実験が終わって暫く、エリカとレオが三人の客を連れてやって来た。

 正確には二人も客なのだが、既に入り浸っている。

 

「連れて来たわ。それと、これが例の遺言書よ」

「これが『開かずの箱』か。スナイパー姉妹に問題がなければ、早速やってしまおう」

 エリカが持って来たのは細工箱だった。

 精霊の眼で確認すると、小さな留め金に魔法…おそらくは情報強化が掛っている。

 構造上ソレを外さないと他が開かないというシンプルな物で、だからこそこれまで誰も開けられなかったらしい。

 

 留め金だけに魔法が掛けられているのは、あくまで遺言書を守る程度の意味に過ぎず、同時に長い年月掛け続ける必要性があったから…との事だ。

 割りと無駄の多い魔法式に見えるが、術者はレオと同じタイプの硬化が得意な魔法師とあれば仕方が無いのだろう。

 

(軽く見ただけだどこの程度だな。…もう少し深く読んでみるか?)

 俺はホンの少し逡巡した。

 精霊の眼は万能では無く短時間の確認では、エイドスを経由する時を除けば魔法が掛っているかどうかだ。

 それでも他に掛っている魔法と比べることで、どのような魔法なのか、どのような変化なのかを推測する事が出来る。

 

 そこが限界の能力なのだが、他の能力…俺が持つ固有能力である『再生』と併用する事で違う側面から見ることが可能になる。

 魔法式だけでなく『再生』する段取りを途中まで行うことで、物体の構造なども読み込みかなりの情報を調べることが出来るのだ。

 精霊の眼はあくまで併用を前提としており、組み合わせるのが術式解散ならばパっと見でも良いのだが…。

 

「ソーリー。どうせ実験するなら…。レオにお願いしても良いデスカ?」

「お、オレ!?」

「構わないよ。仮に君たちが縁者だという可能性があるならば、赤の他人である俺よりそっちの方が良いだろう」

 リリィが頭を下げて来たので、俺は思考を中断して頷いた。

 急に話を振られたレオが驚いているが、この際無視しておく。

 

(丁度いい。俺以外でも可能かどうか調べる事が出来る。…こっちはまた後にしよう)

 実験の段取りを変更しながら、俺は箱を元に戻した。

 ここで深入りを強行しなかったのは、これまでの『パっと見』では済まないからだ。

 本格的に調べれば詳しい事も判るが、何も得られないかもしれない。

 

 だが、深く読み込む為に集中すれば、誰かが気が付く可能性が出て来てしまう。

 それこそ専門分野の魔法師でなければ理解できない筈だが、兆候を覚えておけば何かしらのヒントになる可能性もある。

 それに…老師クラスの魔法師ならば、間近で見ただけで判ってしまうだろう。

 

「ジョン・スミスさんもそれでよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。私としては彼女達に受け継がれた遺産ならば、彼女達の自由にすべきだと思います」

 俺はスナイパー姉妹ではない、三人目に視線を移した。

 この男が老師クラスの魔法師であるとは思えない、だが研究者の視点を持つ魔法師であるとは理解していた。

 それと同時に、今回の話に胡散臭い物を感じたのも確かなのだ。

 

 あからさまな偽名で、視野の広さや知識を窺わせるのに課長職だという。

 彼の主張を完全に嘘と決めつける気はないが、好奇心の為に俺の能力を見せてしまうわけにもいかなかった。

 

「改めて説明するぞ。今回の実験は『術式解散の成功』を再現することだ」

 術式解散、グラム・ディスパーションそのものは別に難しくはない。

 魔法式を破砕するのは走りながら小さな針に糸を通す様な物で、まず成功しないだけである。術式解体はサイオンの塊をぶつけることで面制圧に近いから可能なのであり、それだけにサイオンの問題が常に付きまとう。

 

「魔法式は勝手に組み上がる様になってるから、柄を握ってサイオンを放射し続けてくれるだけで良い」

「その放射し続けるってのができないから、普通は無理ってことなんじゃないかと思うがよ」

 レオが握り締めたのは馬上槍(ランス)のような武装一体型CADだった。

 柄からは長いコードがコンピューターに連なり、臼が三つ連なった穂先が独自に回転するのが違いと言えるだろう。

 

「まあいいや。んじゃ、始めるぜ!」

「データ計測開始。三連術式解散が起動し始めました」

 臼の先から迸る術式解散が固定化され、それが回転する事で波調を強制的に変更する。

 本来ならば三度も試さねばならないが、この方法によって大幅に短縮できる。

 

「九校戦では名前をもじってトリシュールと名付けたが、もうトリシューラの方がいいかな」

「どちらかと言えばダイヤルロック型のシリンダー錠を一つずつ回してる感じだけどね」

 どうやら俺は名前にセンスが無いらしい。

 三俣の槍で例えたのだが、即座に突っ込みが返って来た。

 

「サイオンの消費量が術式解体を越えました。破錠はいまだなりません」

「ここまでは予定通りだ。計測と調整を続けてくれ」

 七宝の言葉ではないが、一足飛びに成功したは苦労はしない。

 まずは出力限界でサイオンを高められない者でも可能にすること、次に消費量、サイズはその次になるだろう。

 時間と労力の問題は、当面先だと言う他はない。

 

「側距データに感あり! 再調整と収束に入ります」

「データの計測はそのまま続けてくれ。ここからが山場だぞ」

 走りながら針に糸を通しても、同時に何本もやれば成功する可能性が出て来る。

 もちろんそれだけでは実用には遠いので、裁縫で言えば『指抜き』にあたる仕掛けが必要だった。それが三連術式解散に使用して居る、変数差を持って撃ち込むたびに計測し直すデータである。

 

 今回放射し続けたデータ、そして破錠される魔法式の具合によって、次回以降に大きな手掛りが残せる筈であった。

 

「開錠です! 魔法式の破錠行為に成功しました!」

「了解した。一応はそのままデータを取り続けて居てくれ。レオ、確認出来るか?」

「あー。ちょっと待ってくれ。いまこいつをなんとかしとく」

 俺が声を掛けると、平河(妹)はデータを計測し続けレオは馬上槍を脇に置いた。

 

「…ドイツ語かあ。えーっと、二人の爺さんからかな? 子供あての内容の他は、国とローゼン・マギクラフトの話とか書いてあるぜ」

「十分だ。後は二人のプライバシーに関することだろう。後で聞ける範囲だけ聞こう」

 レオはぼかして話したが、やはりプライバシーに関することがメインだったようだ。

 ローゼン社などの件は、おそらくレオ自身が聞いている事もあって、その通りだと断言する意味で口にしたのだろう。

 

 

「それで、細かいことをツッコム気はないが大丈夫なのか?」

「まあオレが聞いてる範囲ならな。つってもローゼンの血族の中に話が判る人間が居て、逃がしてくれたってくらいだけどよ」

 レオの知っている話しと、先ほど垣間見た内容を照らし合わせること、次の様な内容らしい。

 

 血族の中で有力者であり研究者であったルーカス・ローゼンが、人体実験の非道さと成果に疑問視して行動を起こした。

 ほとんど壊滅的な安定度であったが、可能な限り生存可能なメンバーを安定している間に同盟国へ技術交換要員として派遣。

 そしてレオの祖父など動くことが者を、日本などへ亡命させたらしい。

 

「その亡命計画は成功したのか?」

「俺がピンピンしているのが不思議なくらいじゃねえの? あの子らの許可がねえと話すわけにはいかねえが、USNAも人体実験だったが比較的にマシだったとか書いてるからな」

 ようするに計画がザルだったと言う訳だ。

 技術士官として派遣されたが、最初から検体としてデータ収集されたのだろう。

 まあ当時を考えたら仕方無い向きもあるし、計画した血族の有力者とやらがお坊ちゃんだったと思われる。

 

 …あるいはそれらデータ提供という形での派遣は、あくまで保険と囮だったのかもしれない。

 亡命可能なレベルで安定している者は可能な限り確実な方法で逃がしているのだし、ほとんど余命が無いから駄目もとで提供した。

 それを知っているからUSNAでも寿命を延ばす為という名目で人体実験は続いたし、ドイツに居続けたまま切り刻まれる運命よりはマシだったという考え方もできる。

 

 そして亡命を試みて数少ない成功した例が、レオの祖父ということだ。

 他に居たかもしれない数名は失敗したか、成功しても名乗り出て居ないのだろう。

 

(まあ筋は通っているか。レオの祖父以外に成功例は無く、あの双子は提供された遺伝子でより安定した兵士を作る時代の産物?)

 そう考えれば不思議なことはなにもない。

 偶然でレオの祖父は生き延びた、あの双子の祖父は失敗したがUSNAの計画変更というよりは、世界的な流行の変化で放りだされただけ。

 

 その世代を境に、遺伝子操作やら血統操作は流行から外れた。

 日本でもエレメントや十師族の元となった実験体世代は、流行から外れたせいで急激に減っていく。

 

(しかし、釈然としないな。あまりにも条件が整い過ぎている。やはり調べておこう)

 術式解散は走りながら針に糸を通す様な実験だと口にした。

 それを考えれば、レオや双子の件はもっと高い可能性だろう。

 だが推理小説を後から読む様な『整合性が整いすぎている』感触が拭えないのだ。

 

 

「とりあえずは血族のルーカスって人の派閥が残って居るか、探せってことか?」

(話はレオに任せておくか)

 自分に関係ない事もあり、俺は部外者だからと席を外そうと口にした。

 相談したいから居てくれと言うレオに対し、隣の部屋に居るからと小声ならば聞こえない程度の距離を開ける。

 

 そうして精霊の眼と再生の魔法を併用し、あの箱のデータを詳細に読み取ることにした。

 …答えは黒だったと言っておこう。

 

(だがそれを問題にしてもしらばっくれるだろう。あれが全部ウソでも俺が困る訳じゃない。もう少し様子を見るか)

 当て物のコツは、証拠が見つかった時点で口にしないことである。

 慎重に二つ三つと用意しておき、相手がボロを出したところで畳みかける方が効果的なのだ。

 

 そうして他人事のように眺めていると、エリカの視線がいやに強く感じられた…。




 と言う訳で第三部、横浜操乱変に突入します。
大亜の人たちが半分以上消えているので、原作のスト-リーが大幅に圧縮。
あーちゃんを護衛して居る余裕ないので生徒会長にしておこうとか、平河姉妹がシルバー社に青田買いされてたりしてます。

『キャプテン・シルバー』
 このストーリーでの達也くんはネーミング・センスが無いので、FLT本社でイヤミで言われていた『キャプテン・シルバーとその一味』という皮肉をそのまま採用。


『十種の神宝』
 このストーリーでは、レリックを掲げる魔法師社会があって、それらを統一して行く過程で、負けた側はレリックを献上し、支配者は代わりに庇護を与える。
これらの集合と選別の結果が十種の神宝。八塚の剣、天叢雲の剣、草薙ぎの剣と再定義ごとに神器も名前を変えて行った。
というイメージにしております。
 達也くんの計画的には、集められた様々なデータを元に、丁度良い距離・距離・速度を定数化して、自分に都合が良い様に調整可能にする。
教師の負担の一部を生徒自らができるようにして、そこをコーチが相談する事で、教育原理の壁を突破する感じになります。
 なお第一部で登場したビリオン・エッジの強化や、設定だけは作っておいた魔法陣入りの陣羽織がようやく完成。
スワットの装備とか魔装大隊の装備とかはこおれから小型化して行きます。
イメージ的には、シャーマンファイトの主人公がやった二重憑依とかブリーチの卍解とかになります。

『トリシューラ』
 定数化して固定する部分と、変数を調正管理する馬上槍。
石臼が回転するように三連術解散を押しあてていくので、そのうちに魔法式が合致して術が壊れるというもの。
サイオンを一度に沢山放出できない人も、五分・十分かければ誰でも術式解散できるようにするためのツールです。
戦闘には使えませんが、鍵開け機にはなるだろうという感じ。
形状のモデルは黄金の王さまのアレです。

『開かずの箱』
・強力な情報強化を、細く長く掛け続ける為の仕掛け
・箱の素材そのものの年代
 この二つだけは本物。あまり難しい問題では無いので、次回くらいにパパっと解決されます。

『双子とジョン・スミスと、ローゼン・マギクラフト』
 以前にチラっとセリフが出て来た伏線を回収する為の前振りです。
長びかせてもなんなので、次回で解決されます。

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