√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

4 / 70
トーラス・アンド・シルバー

●雲間に挿す光

 

 課に顔を出すと、不思議なくらいに騒然としていた。

 もともと静かな場所では無いことを除いても、だ。

「どうしたんですか? 妙にザワついてますが」

「こりゃ御曹司! みっともない所を見せてすいやせん。ちょいと在庫確認やらブッキングのミスが重なりやしてね」

 牛山主任が説明するには、使い切りそうな材料を補充に行くと、管理からは無いから回せないと言われたらしい。

 それだけならまだしも、課には無い大型のマシンの申請に対して重なっているのでこちらが後回しにされたそうだ。

 

「御曹司の予定してる試技室みたいに、指定するタイプの注文は美味く行ってるんですが…」

(あの人か? だとしたら随分と手が早い…。いや、それにしては穏当(・・)過ぎるな)

 話を総合する限り課の優先順位が、露骨に下げられたようだ。

 怠業に成らない程度のサボタージュを重ねて、無い場合はこの課を後回しにする…。

 

 今回、真っ先に連想するのは昨日の話から来る試練だが、追い出して強制独立という件に比べて大したことは無い。

 示された期限からは遥かに遠く、昨日の今日で研究が出来るはずが無いことくらいは判るはずだ。

 

(逆か…。もともとこっちが本筋だったと考えれば納得がいく。あの人はこれを聞きつけて、俺と親父たちの双方の背中を押す気だな)

 俺の報告を受けて、本家はどの程度の案件なのか調査した。

 

 その過程で、課の優先度を下げる嫌がらせが始まっていると判ったのだろう。

 だが、その程度ならば誰に取っても何の意味も無い。

 

 俺を掣肘するにしても放置するにしても効果が薄く、何の介入も無ければ納めることは簡単だ。

 だが、それもまた本家に取っては何の意味も無い。

 

「御曹司?」

「ああ、少し考えこんでしまいましたか。…おそらくはやっかみや嫌がらせの類いだと思います」

 だからあの人は、俺には独立を促し、親父にはいずれ放逐を促すつもりなのだろう。

 もし命令する気ならば、昨晩のうちに命じて、今頃は絶望と怒りの目が向いて居たかも知れない。

 ソレを考えれば、今の自体は温過ぎる。

 

「つまらねえ事しますなぁ。仕方ねえ、俺が行ってガツーンと…」

「いえ。それでは逆効果です。…実績でもあげれば簡単に黙るとは思いますが、二つか三つ手を打ってみませんか?」

 ならばむしろ、この状況を利用するくらいの方が良いはずだ。

「小ロットで良いので、ループ・キャストを基本としたCADの発表と試験提供を前提にします。その上でちょっとした改革を取り入れるわけです」

 一応は部外者に近い立場なので、提案という形で口にしてみる。

 

 牛山主任は最初驚いたようだが、直ぐに面白がって尋ねてきた。

「確かに実績が無いことを理由にしてるなら、実績上げるのが妥当ですなあ。それで御曹司は何をお考えで?」

「このまま管理だけの嫌がらせで済めば良いですが…」

 何の干渉も無い場合の解決手段を口にしつつ、俺は目的に合わせて予想の方を修正する。

 

 実際にはそこまでやらないとは思うが、あり得る範囲の懸念を並べ立てた。

「ライバル関係の部署や、親父に近い筋でネジこまれると面倒です。次は人事異動や引き抜きが来ても不思議ではありません」

「ソイツは厄介だ。時期としちゃ横紙破りだが、連中の十八番ですからなあ」

 使えない技術者を飛ばす事もありえるが、邪魔者を無意味に飛ばす事も無くは無い。

 

 顔を抑えて嫌そうな顔をしてる牛山主任自体、そういう兼ね合いで窓際に干されていたのだ。

 そうした連中が、牛山主任が元の場所へ戻ってくることを嫌って、盛大な妨害をする可能性はゼロではない。

 

「そこで声を大きくして断ることもできなくはないですが、実際にはやりたくてもやれないのが大人ってもんですわ」

 元の部署に戻す、もっと良い陽の当たる場所に…。

 そう言われたら信用できなくとも揺らぐ者は多いし、良くても不服従として給料を下げられる可能性はある。

 実際に異動させる気は無くとも、口にするだけでこちらの作業を邪魔するカードになるだろう。

「…で、具体的にはどうなさるつもりで?」

 大袈裟に顔を覆っていた主任は、悪戯小僧のような視線をこちらに向けて来る。

 少年の様なくったくなさと、悪戯小僧の同居…。これこそが牛山主任が飛ばされて来た理由なのかもしれない。

 

「基本路線はさっき言った通り。後は残る場合の収入確保と、帰属意識を高める工夫をします。ロータリー四十七士を御存じですか?」

「そりゃあ俺だって男ですからね。化け物エンジンの開発チームのことは良く知ってまさあ!」

 Mツダの名車RX78はスポーツカーとして一世を風靡したマシンだ。

 ホンダムやダットサン、ボクヨユウ自動車など大手のマシンと比べても遜色ないどころか、一時的に性能が上回った時期もある。

 

 そのエンジン開発は難事業で、関わった技術者達は全員が世に知られている。

 詳しい者はその後に何に関わったかまで良く知っている様で、牛山主任はそれこそ少年の様に目を輝かせてベラベラとしゃべっていた。

 

「でしたら話は早い。まずは記録に残るようにしてイザと言う時に備えます」

 まあ、これはそれほど意味のある行為ではない。

 首を切り難くするというだけで、何の保証も無い。

 だが、切られ難くなるのは確かで、かつ、忘れられたあいつや俺の名前を出す事にも繋がる布石という程度でしかない。

 

 本命は此処から。

「次に、プロジェクト・リーダーに大きな権限を渡して、やってみたいモデルの開発が出来る様にします」

「ははあ…。他所が欲しがる名の知れた技術者を干すとは簡単に言えませんな。その上で好きな物造りに打ち込めるって、あっしらにとってのは大きな魅力だ」

 研究者が好きな研究を出来る訳ではない。

 同様に、技術者が好きな技術を試作できる訳でもないのだ。

 基本的にはやれと言われた用事をこなし、少ないパイを奪い合う形で開発リソースを割くことに成る。

 仮にカスタマイズくらいのレベルであろうとも、自分の興味だけで本格的にやれないという問題があるのだ。

 

 だからこそCADならCADで、好きなタイプのCADを作り易くさせてやれば良い。

 この課に所属する限り、汎用型なり特化型なり、ちゃんとした理論と目算があれば自分の目指す物を試す事が出来るなら他所に移ろうとはしないだろう。

 ちゃんとした実績が名前と共に残っているなら、実績やチームワークを盾に異動に文句を言う事も出来なくはない。

 

「でも良いですかい? それじゃ細かい開発に手を取られて、大きなことは出来ないって中途半端にもなりかねませんが」

「勿論、大きな企画があれば別です。お忘れの様ですが牛山主任。自分達もプロジェクト・リーダーの資格はあると思いますよ」

 開発リソースを割けば、当然ながら何もできなくなる可能性もある。

 特に貴重な素材は分割出来ない場合も多い。

 

 だが、そういう場合は事前に話し合って将来の優先を決める形にしてしまえば良いのだ。

 そうすれば…既に実績のある俺達二人の発言力は大きくなる。

 

「はは! 御曹司も人が悪い。海の物とも山の物ともしれない今の状況で一足先に作り出す俺達を相手に、下の連中が異議を唱えられるはずがねえじゃねえですか」

「そう言う事です。抜かずの剣というやつですがね。ひとまずは、ファースト・モデルの案を練りましょうか」

 ソレを振り回す気は無いが…。

 どうしても必要な場合の決定権は、実績に照らし合わせる以上は最初から保証されていると言えるだろう。

 勿論、無名の人物が良いアイデアを出して覆ることもあるだろうが、それほどの人物ならば望む所と言える。

 

 なにしろここで発言権や事績を誇りたい訳ではない…。

 あくまでこの方針というのは、将来に独立する時の為の布石なのだ。

 FLTの子会社として独立採算を果たした時、残ると言ってくれるように、今から帰属意識を高めていくだけなのだから。

 

●旗揚げと、黒蝶

 

 まずは俺達が中心に成ってファースト・モデルの話を進め、ループ・キャストを前提にしたCADの開発開始。

 判り易り易く汎用型のトーラス系と特化型のシルバー系とし、後は完成した順番で発表…。

 という段階で、横槍が入って来た。

 

「どういう事なの! あなたの様な人が勝手に名前を公表するなんて…」

「小百合さん。仮にもFLTの社長夫人ともあろう方が声を荒げるモノではないと思いますが」

 社長一行が通り過ぎようとした時、一人の女が踵を返して俺の方に詰め寄って来る。

 親父の後妻であり、管理の責任者でもある司波・小百合だ。

 

「失礼ながら御懸念のことに関しては、小百合さんの担当部署である管理とは関係ないと愚考しますよ」

「わ、私の管理が甘いと言うつもりなの!?」

 決して煽る気などなかったのだが、やっかみで資材やらスケジュールを弄っている人間にはそう聞こえなかったのだろう。

 立ち上げたばかりのチームであることを利用して、実績が下だから後回しという程度の小細工である。

 無視しておけば良いと思ったのだが、あらぬ関わりを持ってしまった。

 

 流石に見かねたのか、それともサボタージュでは無いとフォローする気なのか、親父が小百合さんに味方を始める。

 二人揃って口を合わせられると流石に面倒ではあるが、話を上に通す丁度良い機会だと思っておこう。

 

「達也、いい加減にしなさい。お義母さんに失礼だろう。それに四葉本家からは情報を極力隠すべしと言われているはずだ」

 小百合さんも四葉の家に翻弄された口なので、同情する余地はあっても揶揄する気は無かった。

 だが親父はそうは思わなかったらしく、俺を制しつつ、本家の言う事を聞けと言って来る。

 情報統制自体は小百合さんのやっかみは関係なく、これまで当然としてあった四葉の主義だからだ。

 

 しかし、その部分解除は昨日の時点で確認済みだ。

「その四葉家から下された任務の一環です。決して本家の意向に逆らう訳でも、あなた方の職責を侵すモノではありませんよ」

 四葉はかつてのできごとから秘匿傾向にあるが、今回はそれを逆手に取っての状況と言える。

 予め来ると判っている流れだけに、むしろ拍子抜けするくらいに反撃する事が出来た。

 

「例のMIA案件に関する防護策と、同時に四葉全体を隠す為の囮役を兼ねます。俺達が目立つことで家の者は動き易くなるでしょう」

「そういうことなら仕方あるまい。他に何も無ければ…行くぞ」

 四葉当主の意向を確認していると聞いて、異論を唱える気は無いらしい。

 家族間でのシコリは強まったかもしれないが、FLT内での嫌がらせは起きなくなるだろう。

 あとは実績を上げることで、もめ事はこれで収束すると思われた。

 

●幾万の刃と、幾億の刃

 

 そして俺はシルバー・ホーンというシリーズを発表。

 汎用型ゆえの煩雑さで遅れたものの、牛山主任もトーラスの名前を冠したCADを発表するだろう。

 あとは試験運用の反応待ちで、当面の予定は七宝の相手をするだけに成った、

 

「要望のあった機動目標に対する試験を二度、その後に硬化目標に対する試験。それを終えれば俺の方で適当にオマケと行きましょう」

「はいお兄さま…じゃなくて司波さん! いつでも構いませんよっ!」

 七宝はアタッシュケースを開くと、大きな書籍がバラバラと千切れていく。

 

「本当にこれほどの……では参ります」

(いきなり百万で来たか。相当の自信だな)

 今までの上限いっぱいの数が舞いあがり、流石に深雪も息をのむ。

 ややあって強化プラスチックで出来た標的が、十ほど軽やかに舞いあがって行くのだが…。

 

 ジグザグに乱数回避する機動目標を、あっさりと紙の刃が捕えてしまう。

「こんな物では練習にもなりませんよ。手加減は無用です!」

「っ! ならば次は、任意回避も入れて行きますね」

 ズタズタになる標的を見て七宝は得意げに、深雪は少しだけ悔しそうだ。

 妹が感情的になるのも珍しいが、七宝の方も最初に見たトゲトゲしさが抜けて居る。

 思うに二人とも同世代の中では抜きんでた存在であり、案外、ここでの出会いは悪くないように思われた。

 

 そして次には乱数回避に加えて、奥行きや目の錯覚も利用した複雑な軌道を取り始めた。

「あっ…。くそ、じゃあもう百…いや、三倍で責め立ててやる!」

 時々加わり深雪の意思が踊る様に回避し、途中で強化することで移動速度すら変化させる。

 頼まれ仕事に対していささか大人げない様な気もするが、それでも七宝には良い刺激に成ったようだ。

 

 三百万の紙の刃が、三つの扇と化して広範囲を仰ぐように追い詰めていく。

 総数を増やしたこともあり、管理が甘くなって落ちない目標もあるが、殆どが最初の接触で叩き落とされて行く。

 

「深雪、次は一枚だけで良い。アイスピラーズブレイクに挑むくらいで行きなさい、でないと七宝さんに失礼だ」

「「判りましたお兄さま!」」

 俺の指示に深雪だけでなく、七宝まで応じて居るのが面白い所だ。

 次々と上がる難易度に、二人ともちょっとした勝負をしてるつもりなのだろう。

 

 そして、今度の変化は劇的だった。

 たった一つの群に襲いかかる一千万近い刃。

 だがまるで歯が立たず、ボロボロにこそしているが、七宝は深雪の守りを突破できないで居た。

 

「一千万でも駄目なんて…。ようやく勝った気もしますけど」

「いや、一千万だからこそだ。おそらくは…トリックが持つ敷居値に引掛ったな。七宝も数を減らせばどうなっていたか判らん」

 逆に深雪の方がビックリしたようだ。

 勝負ではないことを忘れて思わず俺に質問してくる。

 

「敷居値ですか?」

「そうだ。あの魔法は範囲に特化しており、それゆえに攻撃強度を上げ難いという欠点がある」

 これだけの数をまともに制御することなど不可能。

 だからトリックを使って、詐欺臭い方法で万単位のミリオン・エッジを億単位に変更する。

 それこそがビリオン・エッジであり、結局はトリックでしかないからこそ、固有の弱点を持っていた。

 

「七宝さん、お見事でした。最後のは群体制していない|(・・・・・)ゆえの問題ですから、今後の課題としましょう」

「すいませんお兄さま。いけると思ったんですが…」

「制御して居ない?」

 俺と七宝の会話に深雪が首を傾げた。

 当たり前だろう、群体制御の練習をしているのに、していないとはどういう事なのか?

 

 そう、これこそが億を操るトリックだ。

「ビリオン・エッジは刃を操る群体制御じゃない。深雪、風景画だとでも思って良くご覧」

「風景…? あっ」

 俺は自分用のCADを用意しながら、深雪にヒントを出した。

 

「全体に分散している様に見えますけれど、これはもしや、小さな集団に別れて居るのですか?」

「そうだ。相殺しないだけの処理をしたグループを一つの領域に放りこんだ…いわば風船のようなものだ。風船を操る群体制御ではあるけどね」

 干渉する規模を減らす事に寄り、個別に掛る能力負担やサイオン量を大幅に下げた。

 魔法の連続使用そのものは、それこそループ・キャストで行っている。

 

 もちろん多くの欠点を抱えて居て、全体で1つではない為、先ほどの様な場合に威力向上が難しい。

 ミリオンエッジが刀の波なら、ビリオンエッジはカミソリの網くらいの差がある。

 さらに干渉を減らしたとはいえ、それでも同時に他の事をするのは難しいだろう。

 

「あえていうなら敵部隊や隠行集団を叩き潰す為の専用術式というところか? …さて、オマケの方を片付けましょう」

 俺は自分用の銃型特化CADである、造りたてのシルバー・ホーンを掲げた。

 七宝に声を掛けつつ、銃口を天空の刃たちに向ける。

 

「ビリオンエッジが一撃で……。グラム・デモリッション?」

「見ての通り、術式の強度が下がる欠点もある。こうなった時にどうするか? それが重要な問題です」

 必要干渉力とサイオンを減らす為、最低限の力で滞流させているだけ。

 それも最初にそう命じただけで、その後は袋を投げるように領域を動かしているだけだ。

 だからこそ、情報強化で他者の干渉を防ぎ難く、術式解体が直撃すると、まさに風船が割れる様に吹き散らされてしまうのだ。

 

「さて七宝さん。あなたなら、この後どうしますか?」

「え、ええ……と。流石にもう必要ないと思って用意していないし…どうしたら」

 答えの無い問いに、無理やり応えを出さなければならない。

 そうしたイジワルな問いに対し戸惑っていたが、やがて混乱した頭で最低限の行動を取った。

 

 七宝の近くにある僅かな数の刃が、力無く浮かび始める。

「くそっ! こんな状態じゃ1万も動員できない…」

「いえ、それで良いんですよ。どんな状態でもその数だけを操れるようになれば、乗り切ることが出来ると思います」

 特に最適解では無いかもしれないが、七宝の見付け出した答えを、俺は全力で応援する事にした。

 

 もともと答えなどないのだ。

 今の状態が七宝に取っての基礎であり、最も操り易い数だということなのだろう。

 ならば、この数を上手く操って、どんな状態にでも対処できるように、答えの方を動かせば良いのである。

 

「ひとまずの完成記念と、次なる目標の確定をお祝いして、専用のCADと戦法でも考えてみましょうか」

「本当に良いんですか!? お兄様がよろしければ、是非!」

 俺の他愛ない申し出に七宝はとても喜んだようだ。

 

 本家の意向は優良顧客として確保しつつ、師族会議で何かあった場合は、間接的に取り込めるようにすること。

 その延長線上に過ぎないのだが、喜んでくれるならば悪い気分では無い。

 

「ミリオン・エッジと併用出来る数に絞って、ビリオン・エッジの欠点を補う形にしようかと思っただけですよ。手間としては大したものではありません」

 アイデアとしては基本に戻るだけだ。

 対軍仕様のビリオン・エッジの火力では駄目なら、対人仕様で練り上げられたミリオン・エッジで切り割けばいい。

 先ほどの強力な個体の様な場合や、術式解体された場合。

 あるいは奇襲された時に身を守るためなど、咄嗟に利用できる、併用できる僅かな数だけを用意するだけだ。

 

 できれば風船をぶつけて居るだけの状態をなんとかしたいところだが…。

 まあ他人様の術式である、追々何とかして行けば良いだろう。

 

●ダブルセブン

 

 そして何日かが過ぎ去く。

 提供しているCADの反応を集積しながら、メインで紅世に関して調べつつ、サブで七宝用のCADを作り上げていった。

 

 CADの方はアイデアが先行しているので難しくもないが、紅世の方はそうもいかない。

 せいぜいが『徒』(ともがら)と呼ばれる下位の存在と、『王』と呼ばれる上位の存在に分化していることくらいだ。

 徒であれば十師族に連なる精鋭ならばなんとかなるらしいが、王であれば最低でも国家に数人いるかいないかの戦術級の魔法師が必要条件というのだから、軽く目眩を覚える。

 

(戦闘力もだが、追跡者が居るから隠れて居るというのが最大の難関だな。最悪、第三者も利用せざるを得ないとして…)

 自分の手だけで片付けるというのは贅沢かもしれない。

 

 そう思ったころに、牛山主任が声を掛けてきた。

「御曹司、すいやせん。お客様がお見えになっておられるんですがね」

「そうですか、応接室の方にお願いします」

 七宝が取りに来たかな?

 と思いつつ、試作一号を鞄に入れて移動する事にした。

 

 主任の顔がニヤニヤ笑いだったのが気にかかるが、もしかしたらCADを提供を要望するどこかの会社なのだろうか?

 評判は良いので、最近では警備会社などがそういう話を持ち込んできたりしている。

 

 そう思っていたのだが…。

 予想は斜め上の方向に覆された。

 

「初めまして。私は第一高校の生徒会長を務めております、七草・真由美と申します」

「これはご丁寧に。FLTに所属しておりますチーム、トーラス・アンド・シルバーの司波と申します」

 意外なことに、一高の生徒会長だった。

 志望高の一つであり、十師族であることから知ってはいたのだが…。

 何の要請で来たものやら。

 

「今回は備品の手配か何かでしょうか?」

「いえ、実は…」

 多くのデータを集める為と、名前を手っ取り早く広めるために、ループ・キャストなどの技術は公開している。

 だからこそ、わざわざ中学生に頭を下げる生徒会長の要望など、他に思い付かなかった。

 

 あと少しで用件を聞きだし、会話も終わると言うのに、在っては居る闖入者が現われたのは、その時である。

 

「お兄さま、いけません! そいつは魔性の女です。きっと良からぬことを…」

「琢磨、お兄様は止せ。失礼しました…なんの御用向きでしょうか?」

 七宝が会談中に割って入ると言う迷惑なことをしてくれたので、やんわりとあしらいながら、七草嬢に頭を下げる。

 

 それに対して彼女は、くすくすと笑いながらコケティッシュな笑顔を向けて来る。

 

「あらあら。笑い出してしまってごめんなさい、これでおあいこですね? 改めまして用件なのですが…。第一高校に入学していただけませんでしょうか?」

 だが、その話の内容は、俺に取って意外な物であった。




 今回でFLTの問題とか確執とかは卒業。以後はレリックがらみの時にイヤミがまた来るくらいです。
本編に居た執事の青木さんですが、このお話では真夜さまがポンコツ化して主人公にベタベタなので、近づいてきません。
 また、ダブルセブンに入るとみんな千本桜ポイ技を出して来るので、このお話でも出してみました。理論的には、操り易い風船を作って投げつけてるだけです。
ミリオン・エッジが殺傷度A・範囲A・対抗Aだとしたら、ビリオン・エッジは殺傷度C・範囲AAA・対抗Cみたいな感じになります。
で、最後に提案した少数のミリオン・エッジが、NARUTOで出て来る我愛羅の砂の中で、少数の練り込んだヒョウタン砂のイメージ。
次の段階が…そこまで出るかは不明。

 一応は中学生編はここで終わって、次回の頭で軽く承諾して(?)、そのまま高校生編に入る予定に成ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。