●獅子は我が道を行く
相手のモノリスは護り易いが奇襲を掛け易いビルの中。
こちらのモノリスは護り難いが奇襲され難いコンビニの中
「まずは引き離して時間を稼ぐ」
俺たちのモノリスには簡単な幻覚を掛けて見つかり難くしたので、討って出ることも可能だ。
だが一科生と撃ち合っても馬鹿を見るだけだ。
ならば自分たちだけが全力を出せ、相手は万全を期せない状況で戦う方が良いだろう。
「確認するが壁を歩いた時の要領で、足元や天井を硬化しながら走れるか?」
「やってやれねえことはねえが、他は何も出来ねえぞ?」
俺はその答えを聞いて素早く作戦を立てた。
「不利になった状態で適当な廃屋に逃げ込む。その時に足元が悪い場所なら床を、上が怪しいなら天井を硬化させてくれ」
「はーん、足跡のトラップってわけだな。おーらい任せとけ」
要するに俺たちは普通に走れる道だが、相手にとっては注意が必要な道になる。
ただ魔法を撃ち合うだけなら不利だが、そういった場所なら形成は逆転するだろう。
「相手を誘いこめるかどうかが重要だから特に上下どちらとも限らん。そこにだけ注意してくれ」
レオが頷いたのを見て俺たちは移動を開始する。
モノリスには簡単な幻覚が掛けてあるので判断出来る時間を与えなければ大丈夫だろう。
幹比古と引き離す様に、ワザと姿を見せながら移動して行った。
(早速来たか。これは術式解体を警戒して居るな)
精霊の眼で探るとタイミングと種類の違う攻撃魔法が展開され始めた。
先行する沢木先輩が同時展開で範囲型の空気弾を幾つか、後方に居るもう一人がタイミングを変えて初速の速い物理移動系で構成している。
一口に魔法での攻撃といっても色々あるが、扱う属性の問題であまり差は出無い。
振動系で火炎を作ろうが凍結波を作ろうが、並みの術者ではそれほどの差が出ないのだ。
だからこの場合は使用タイミングの問題が重要だろう。
「レオ、後から来る実弾は任せた」
「パンツァー!」
返事の代わりに硬化魔法の発動。
それに合わせて俺は走るスピードを落とし、代わりにレオがスピードを上げて追い越す形になった。
(やはりな。連射し難いギリギリのレベルだ)
術式解体…グラム・デモリッションは力技であるため、一定以上のサイオン集積が必要だ。
無警戒なら潰すのも簡単だが、簡単には吹き飛ばせない様に構成していればより練り上げておく必要がある。
もちろん、俺の方は迎撃までの時間があるので間に合うのだが…。
ここで沢木先輩が千日手を構成するのはワザとであり、後方に居るもう一人が出の速い魔法で俺が迎撃出来ないタイミングを狙う為だ。
案の定。俺が無系統を入れている特化CADで撃ち落とすのを見計らい石礫が高速で飛んでくる。
「効かねえよ!」
「そっちのもな!」
物体移動で飛ばされた石をレオの硬化魔法がアッサリと弾く。
返す刀で振り降ろした小通連…刃が飛んで射程延長できる剣を、沢木先輩が空気甲冑で弾いた。
初撃の撃ち合いは互角。
だが足を止めたら不利になるのは俺たちの方だ。
「レオ、あそこのビルに逃げ込むぞ!」
「ちっ! 仕方ねえ」
そのままレオを先頭にしたまますれ違い、もう二つ用意して居る特化CADのうち収束系を入れた方を取り出して追随する。
建物が見える位置まで移動しながら、無系統の方で牽制レベルで放たれた魔法を迎撃を試みる。
(まあ流石にそう来るか)
当然ながら追撃は熾烈と言うよりは狡猾になる。
こちらの移動すると届かせ難くなる位置に展開し、圧縮空気や物体移動で牽制して来た。
「仕方無い。使うには少し早いですが」
既に成立した物理現象は術式解体では無理なので、収束系のCADで圧縮空気を放って迎撃する。
圧縮空気同士がぶつかって気流が発生し、物体移動で飛ばされた石礫はコースを変えて直撃を免れた。
「くっ。そっちも風か? だが、選ぶ魔法を間違えたな!」
だが圧縮空気同士の激突で吹き荒れる場を、沢木先輩は空気甲冑を操る魔法を応用して大人しくさせた。
先輩達が足を止めたのは一瞬、即座にビルの中まで追いかけて来る。
「レオ、予定通りだ」
「ここじゃ場所が悪ぃ。上の階に上がるぜ!」
とはいえ意図した地形が都合良くあるはずがない。
ビルは堅牢でこそ無いものの、天井も床もしっかりして居た。
俺がこの状況に合った作戦を立てようとする前に、レオは気にすることもなく二階へと続く階段を目指していく。
「達也! ちょっと無理するけど着いてこいよ!」
「どうする気だ?」
レオは脳筋に見えるがそれなりに頭が回る。
新しいアイデアこそ積極的に思いつこうとしないが、こちらで提案したことは柔軟に取り入れてくれる。
その在り様は中世の武将を思わせ、誰かのサポートがあれば幾らでも戦えるタイプだろう。
「こっちの窓じゃねえ…。あった、そこの窓だ!」
「なっ!?」
なんとレオは窓の一角に突進した。
あのペースは明らかに止まることを考えていない。
「いっくぜ、シルト!」
「俺が言うセリフじゃないが、無茶苦茶だな!」
レオは窓を突き破って跳躍すると、足下の家に向かって硬化魔法を掛け始めた。
咄嗟の事なので精霊の眼で詳しく確認する余裕も無いが、俺が頼んだ床強度の硬化だろう(そういえばシルトと言うのは接触対象の効果だった筈)。
レオに続いて着地した時、いつもの逐次詠唱ではなくもう暫く魔法が掛っている状態なのをようやく確認した。
「先輩達が来るぞ。誘導しながら間を開けるっ」
「これでどっこいのレベルでやり合えるってわけだな!」
レオには悪いが真面目に戦う気は無い。
俺は足元に対抗魔法を放って硬化魔法を打ち消す準備をしておく。
先輩達が加重系統で危なげなく跳躍して来るのに合わせて、俺は二丁のCADを構えた。
「追い詰めたぞ!」
「ええ、そうですね」
ここで俺は無系統のCADを水平に構える。
ただし、目標は水平方向に居る先輩達ではない。
先輩達が着地する場所に掛った硬化魔法に対し、術式解散を滑り込ませた。
術式解体では間にあわない僅かな差、先輩達がそのタイミングを図っているのを承知で魔法を解除したのだ。
「これで終わ…」
「終わりです」
術式解散…グラム・ディスパーションは実験室でようやく成功するレベルの魔法だ。
だがレオの魔法を散々見慣れている俺ならば、成功してもおかしくは無いだろう。
加えて昨日も見た空気甲冑にも試みてみるが、疑がわれても何なのでこっちは失敗させておく。
「うわっ!?」
先輩達が着地した屋根が大きく歪んだ。
レオが放った小通連もあり、瓦は数枚まとめて割れ、もし加重系統で調整して居なければ突き破っていたかもしれない。
「ちっ。小細工を!」
「今助ける!」
そういえば沢木先輩はマジック・アーツの猛者と聞いたこともあったか。
巧みな体重コントロールでもう一人を押し上げると、自分だけが滑り落ちそうな状態で家にしがみついていた。
「すみませんがそうもいきません」
「なっ!? そこまでするか!」
俺は沢木先輩の空気甲冑ともう一人が使う加重操作に対しまとめて術式解体を向けた。
同時に収束系で空気を圧縮してぶつけ、少しでも体力を消耗させる為に連発しておく。
(…さて、ここからが見物だな)
別に二階から突き落として勝とうとは思っては居ない。
そんなセコイ真似をしたいのではなく、ここで『俺対策』の魔法を見ておきたいのだ。
もう一人は候補としては下の方だったので時間の問題で詳しくは調べきれず、何か得意な魔法があるからこそ採用されたのだろう。
「調子に乗るな!」
「…なるほど、想子ウォールですか」
もう一人の先輩はサイオンの流れを食い止める想子ウォールを先に張って、術式解体を無効化してから救助をすることにしたようだ。
他の手段で邪魔する事もできるが無理を通しても意味はあるまい。
「レオ、ここでの戦いは終わりだ。集合するぞ」
「そろそろ時間だっけか。んじゃアバヨ!」
先輩たちが態勢を崩して居る間に移動してしまう事にした。
救出作業を妨害する為に圧縮空気だけは放ちながら、レオの先導で屋根を伝っていく。
SBを使って地下水を探したのか上水道をこじ開けたのかしらないが、そろそろ幹比古が準備を終える予定だ。
モノリスの方も走りながら視認で探すならともかく、探知系で調べられると見つかる可能性が高い。
十文字会頭が最後まで動か無いとは限らないので、合流して作戦を進めることにしたのだ。
●二重の霧と、偽の大瀑布
特定されても問題なので迂回しながら元の場所に戻る。
そこでは幹比古が簡単な地図を描きながら俺たちを待って居た。
「ごめん。大元で止められてるみたいで、この辺り一体の水をコントロールするので精いっぱい」
「十分な量が集まるんだな? なら問題無い」
確認してみると幹比古が描いていた地図は、コントロールした水を何処なら吹き出させることが可能か判り易くしたものだった。
どうやらSBを通して圧力を掛けていので、好きな位置を水浸しにするとかは無理なようだが水道管を通して行えるなら問題無い。
「相手もモノリスに幻覚を使って居たらどうする?」
「問題無い。まずは砂鉄の防壁を剥がす方が重要だ。それに一部はパッシブ・ブソナー代わりにして居る可能性があるからな」
十文字会頭は砂鉄を少量ずつ目立たない様に配置して、こちらの移動を感知・迎撃して居る可能性がある。
こちらのモノリスが見つかって無いのは視覚を誤魔化す幻覚を張っているのと、あえて離れることで注意を向けさせてない事だ。そこに気が付かれたら戦場MAPはそれほど広いわけではないので、時間を掛けずに見つかると思われる。
探し出される前にこちらから仕掛けるべきだ。
(昨日出し抜かれたのに、会頭が砂鉄だけダミーに置いて探し回っているとは思えない。他の可能性があるとしたら正攻法だな)
もちろん完全に見当外れで、十文字会頭は余計なことをしてないというのも考えられる。
単純に消耗を避けて待ち構えつつ、こちらのモノリスの位置を把握してから一気に三人で押し込むだけなのかもしれない。十師族でも上位と言われる十文字家の魔法力と、それを支える一科生の実力を考えればこちらの方が可能性が高いだろう。
「手順を確認するぞ。まずは二重の霧で周囲を覆い一気に水流を浴びせる」
幻覚の霧を出した後、本物の霧を混ぜて撹乱すると同時に砂鉄で作られたパッシブ・ソナーを殺す。
そして水を浴びせかけることで重量を掛け、コントロールに負担を強いれば間違いなく砂鉄の防壁を捨てるだろう。
だが十文字会頭にとってソレはファランクスでの消耗を抑え、防壁を兼ねて便利使いできる魔法に過ぎない。
そこからが本番であり、こちらの攻撃はことごとく止められてしまうくらいでいるべきだろう。
「その後で俺たちも攻撃を仕掛けるが、本命は達也のグラムなんとかだったよな」
「モノリスがあれば僕が精霊でコードを確認。無ければ一度引いて会頭が砂鉄を捨ててから本番だね」
魔法と言うのは別にCADの周囲から放つ必要はない。
その方がコントロールし易いだけで、ファンランクスの無い方向から術式解体をモノリスに浴びせてしまえばいい。
自身から離れた場所で展開すると強度が下がるが、それはお互い様なので『攻め手の理』を維持できるならばモノリスに浴びせるだけなら難しくない(流石に本人に攻撃をぶつけるのは難しいが)。
全ての攻撃は術式解体を確実に、モノリスを守る防壁に浴びせるための段取りに過ぎない。
こちらが本気の攻撃を仕掛ける以上は部活連側も本気で防いで来るだろう。
先ほど沢木先輩たちが防がれることを前提にタイミングを合わせた様に、こちらも千日手を挑んでチャンスが来る瞬間を待つのだ。
必殺技が警戒されて必殺技でなくなるのであれば、手を尽くしてクリーンヒットさせるまでだ。
「最後にレオ。砂鉄を引き剥がせたらの話なんだが…硬化魔法の相対位置で新しい提案がある」
「なんかいーこと思いついたのか?」
駄目押しとして十文字会頭対策を提案し、俺たちは移動を開始した。
相手側のモロリスがあるはずのビルに向かうと、こちらを見失った沢木先輩達が戻っていた。
予定通りであることに胸を撫で下ろしつつ、合図を送ってまずは幻覚の霧を発生させた。
「…こんな場所で霧だと?」
「駄目だ。幾ら風を送っても効かない。これは幻覚だな」
沢木先輩が圧縮空気弾を入れているCADを使って、収束魔法の偏倚解放で風を発生させる。
当然ながらこの段階の霧は幻覚なので晴れるはずが無い。
(第二段階だ。緊張を煽りつつパッシブ・ソナーを無効化する)
暫くして周囲に水気が溢れ、幻覚の霧の中に魔法で作った霧が立ち込める。
次第に砂鉄を圧迫し、濃度が高まれば僅かに触れた程度では俺たちを感知し難くなる筈だ。
(だが相手が警戒して居る時に仕掛ける必要はない。攻めるのはもう一手を尽くしてからだ)
既に幹比古は作戦の最終段階を始めており、SB経由で水道管内の圧力を変化させている。
押し上げられた水は管内を逆流し、やがて魔法の完成と共に一気に噴き出すだろう。
「なんだ!? いつのまにか本物の霧になってるぞ!」
「駄目だ。幻覚の霧も残ってるからサッパリだ。でもなんで仕掛けて来ない!」
(よし、頃合いだ!)
十文字会頭は力強いリーダーであることを求められ、その責務から逃げる事無く体現している。
少々卑怯だがその行動原理を逆手に取り、沢木先輩達を指揮する為に出て来たところを狙わせてもらおう。
「落ち付け。モノリスの護りを解除するのも、信号を撃ち込むのも近寄らなければならん。それよりも予定通りに動け」
「「了解!」」
(予定?)
部活連側の作戦が気になったものの、今更こちらの予定を変更するのは無理だ。
既に水道管の内圧はビルの一階・二階間で高まっているし、会頭の動きに合わせて吹き出させるだけなのだから。
やがて沢木先輩だけが会頭の側に付き、もう一人が霧の外に出たことで予想は二つに絞られた。
(なるほど。この状況で俺たち狙いとも思えない。モノリスを探しに出たな)
こちらが博打に出て三人で攻めるのは予想できるだろう。
何しろ時間を掛けると見つかって、部活連側が三人で攻めよせると間違いなく守り切れないからだ。
十文字会頭のファランクスと沢木先輩の空気甲冑だけでも、俺たちと互角の自信があるのだろう。
もう一人を守りながら戦うよりは、二人だけで俺たちと対峙して三人目が探し続けるのは悪くない選択肢と思われた。
「後は時間との勝負だな。行くぞレオ」
「そうするとしますか」
ドドドドと強烈な音が周囲に鳴り響き、その音に紛れて水が水道管から滴り落ちる音が隠れる。
俺たちもその音に紛れて移動を開始し、霧や滴った水によってパッシブ・ソナーに過剰反応が出た頃に走り始めた。
時折、こちらも圧搾空気を複数の位置から送り込んで水量を誤解させる。
「うおっ!? 水が…屋内で滝だと!」
「落ち付け。霧も音も幻覚だ。冷静に対処すればなんとでも出来る」
沢木先輩に声を掛けながら、十文字会頭は重くなった砂鉄の防壁を使い捨てた。
ビルの窓側からモノリスに忍びこめる場所を塞いで、自分達の前を通らなければ進めない様にしたのだ。
「裏口が潰された。同じ捨てるにしても想い随分と切りが良い。会頭は試合巧者だな」
「要するに正面から挑んで来いってやつだよな? 無茶言ってくれるぜ」
本当を言うと最後まで頼ってくれた方が楽だったんだが、所詮は消耗を抑えながら便利使いする魔法に過ぎないと言う訳だ。
重くなった上に磁性防御も機能し難くなった砂鉄ではなく、ファランクス駆使して戦う気だろう。
「霧が晴れて…やはり居たか!」
「判ってたでしょうに。全力で活かせてもらいますよ」
俺は沢木先輩と圧縮した空気弾を撃ち合いながら、術式解体で先輩の弾の他にモノリスを狙い撃つ。
しかし想子ウォールで弾かれ、あっけなく戦いが終わったりはしない。
「公開すれば発言力は高まるが予測はされる。世の中そう上手くは行かんな」
「自分でもそう思います。決まってくれれば楽だったんですが」
十文字先輩ならばこちらの予想を見抜くことも、対処することも簡単だ。
圧縮空気弾も術式解体もサイオンの保有量に物を言わせて乱れ撃ちにしているが、流れ弾も丁寧に処理しつつ、レオが放った小通連の刃も止めているのは流石と言うしかない。
だが、これは予想できた苦戦だ。
ここから二手三手と先手を取るが全てブラフであり、同時に攻略の一手。
でなければ余裕を持って防がれてしまうだろうし、偶然決まったとしても効果が薄くなってしまうだろう。
風によって水飛沫が部屋に充満した所で、視野が鈍い閃光に染まる。
「はあ!」
幹比古がこちらに合流しながら放った雷童子が水の上を伝わり暴れ回る。
その余波が冷めやらぬ内に強襲を掛けた。
「距離を詰めるぞ!」
「パンツァー!」
布を投げつけながらレオは小通連を持って先行する。
硬化魔法で自らを守りつつ打撃効果を狙って振り回したのに合わせて、俺も前進するが電撃の名残でいささか痺れ…だがそんな物には構っていられない!
「言っておくがこの魔法、防御の為だけでは無いぞ?」
「ぐあああ!?」
十文字会頭がタックルの態勢を取り、自身の正面にファランクスを形成して走り出した。
魔法が最も強固に使用出来る位置で形作られたソレは、防壁ではなく破城槌と化してレオを強打する。
しかも展開面積は相当に小さく、これならば他の場所にも展開出来る、あるいは連続使用可能だと思わされた。
それは事実その通りで、最も強固で攻防一体なのが自信の前方。
そして、最も効果的なのが…。
「それ、司波。お前にもだ!」
「くっ…攻撃も迎撃も不可能とは」
今度は掌サイズまで絞った防壁が、俺に向かって叩きつけられる。
手裏剣を投げる様なものだが、生憎とこの防壁はいかなる魔法も術式解体ですら弾き返す凶器でもある。
タックルと違って反動が少ないのでレオの様に吹っ飛びこそしなかったが、連続でもう二・三発喰らうと強烈な衝撃が叩きつけられた。
「やれやれ。大型バイクにぶつけられて以来だな」
「そうか。俺の方はボクサーのパンチ程じゃない。やっぱり肉体の前面くらいが最適の位置なのか」
「…二人とも何いってるのさ」
俺たち二人がたち上がるまでの間、沢木先輩の牽制をしてくれていた幹比古が奇妙な声を上げた。
何かおかしなことでもあったかと思いながら、最後の攻撃に討って出る。
「アレで行くぞ!」
俺は温存しておいた三つ目の特化CADを抜きながら、収束系のCADを放り出した。
合わせて幹比古が沢木先輩を牽制しながら、一足先に離脱を始める。
「掴め、アーガトラム!」
「こっちが本命だったか。だがこの程度では意味を為さん!」
レオは布に硬化魔法を掛けて十文字会頭に絡まる形で固定した。
だが十文字会頭の言う通り、相対位置を固定しても会頭を動かす事はおろか、その場に留めることすらできない。
そう、このままの状態ならばだ!
「レオ、そのまま押し込め!」
「あいよ!」
「なに、重力軽減魔法か!」
俺が三つ目として用意したのは、重力系統のリバース・グラビティ。
本来は床に使って、その上に立つモノへ上方に向かって反重力のような影響を与える為に使うものだが、俺の能力では重量軽減として使うのが精いっぱいだ。
効果は薄いがループ・キャストによって継続使用できるし、床に掛けるから十文字会頭が自身を守っても意味が無い。
次第に会頭が押されて持ち場を離れ始めるが、ここでもう一人を放っておくこともあるまい。
「沢木先輩にもプレゼントです。当然ですが、その甲冑も解除するとしましょう」
「性格悪いな、お前!」
レオは会頭を押しこんで行くことに精一杯なので、小通連で攻撃はできない。
だが沢木先輩からはそのことが判るはずもないので、モノリスや会頭を狙う傍らついでに狙っておいた。
同じ様に足場を不確かにし術式解体を撃ち込んで行く。
「いつまでもこんなことが通用すると思っているのか?」
「ええ、通用するとは思いません。…下がるぞ、レオ」
俺が放った術式解体は会頭の思子ウォールで止められてしまう。
例え体重を軽くされ硬化魔法の相対位置で押しこまれようとも、軌道が見えるならばその前に張るなど容易い事だろう。
だから、ここで俺は会頭から見えない位置を基点として術式解体を放った。
魔法は別にCADの先から放つ必要はなく、威力を気にしなければ他の位置を基点にできるのだ。
もちろん相手の魔法を解除しようとすれば少し話は異なる。障壁魔法ならば自分の前面だし、射撃系の魔法攻撃ならばCADから放った方が強度が増すのだ。
しかし強度の問題になるのは、対抗して来る相手の魔法のみ。
「しまった、モノリスの防壁が…」
「よし、後は幹比古に任せるぞ」
教師が事前に掛けておいた魔法は持続時間を前提にしたものだ。
強度はそれほどではなく、解除され難いだけで術式解体を目標レベルにしてはいない。
俺たちは牽制攻撃を放ちながら、SBで視認したはずの幹比古が範囲内の何処かでコードを入力するのを待つだけだ。
先に離脱したあいつはビルの何処かに潜んでいるはずなので、探されない様に時間を稼げば俺たち二人が倒されても問題無い。
…はずだった。
『それまで。部活連側の勝利です』
「なに!?」
時間を稼ぐために態勢を立て直そうとするより先に、スピーカーから無情なアナウンスが聞こえて来る。
「はあ!? さっきの先輩がオレ達よりも先に探し当てたってのかよ」
「…それは違うぞ西城。既に場所は探し当てていたのだ」
十文字会頭はレオの魔法が切れたことで、布を取り払いながら部屋から出て来る。
「まさか、アクティブ・ソナーとしても使ったということか…」
「そういうことだ。俺は動か無かったのではない、動いていたのだ。間にあうかヒヤヒヤはしたがな」
序盤に十文字会頭はビルを守って出てこなかった。
だがそれは擬態であり、少量の砂鉄を動かして接触探知で探っていたのだ。
俺は近づく者を探知する為だと思っていたが、会頭は消耗するのを覚悟で地味にエリアを一つずつ探っていたのだろう。
「お前たちが動き回っている場所には無い可能性が高かったからな。最初に吉田の居たエリアにモノリスが無くて焦りもした」
「そうは見えませんが…。いえ何を言っても負け惜しみですね。完敗しました」
魔法の眼による探知は七草会長の十八番だったが、まさか十文字会頭が似たようなことを出来るとは思わなかった。
アレは生まれつきの才能ゆえに同じことは出来ないからこそ、別の方法で代用手段を探っていたのかもしれない。
そういう意味では、昨日に視覚を誤魔化す幻覚を使った事で、会頭は視覚を切り捨てて接触探知のみに絞ったのだろうか。
いずれにせよ、九校戦予選はこれで終了。
後はアトラクションを兼ねたミラージ・バットで、一足早い飛行魔法のお披露目である。
と言う訳で、九校戦予選は次回で終了。ミラージ・バットの試技ともう一つ別の試技を入れて終了です。
字数が余れば他を付け加えるかもしれませんが、その場合は幕間の出来ごとで別の人々の暗躍になるでしょうか。
タイトルは名前からきているので、『●●の達也り」みたいな感じになるかと。
/今回の戦術
部活連:
・十文字会頭が防御に残る(嘘)
・残り二名が遊撃戦を兼ねて、視認で捜索
・実は会頭が接触探知を使って怪しい場所(建物の中)を探しているので、時間稼ぎとしてグラム・デモリッションを前提に千日手
・生徒会側が正攻法で来たら正攻法で三対三で着実に、絡め手で来たら一人がモノリスを目指す作戦
生徒会側:
・幹比古が防御に残る(嘘)
・残り二名が遊撃戦で場所を引き離す
・実は幹比古が水をかき集めているので、時間稼ぎとして千日手
更に足場崩しを使って引き離し先に合流予定
・幻影の霧、水の霧、偽の音、水流放出で水浸し作戦。相手が動か無ければ雷童子で延々と攻撃
・砂鉄防壁を引き剥がして再び千日手。たまたま有利に進めたが、死角外の一撃を打てれば良いので不利になっても構わなかった
・最終的に視覚外からのグラム・デモリッションでモノリスの防御を解除し、精霊で視認する作戦
と言う感じです。
・加重系統魔法『リバース・グラビティ』
原作でカーディナル・ジョージが相手を浮かせている魔法の劣化互換
ふわっと浮かせるのが達也くんの実力では無理なので、床の上に立つ者の体重を軽くする程度。
ループ・キャストにより継続使用は可能なので、第三者が押しこめば割と簡単にゴツイ人でも推す事が出来る
なお掛ける相手は床なので、想子ウォールなどで邪魔する場合は床を守る必要がある