√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

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人克己して路を進む

●シークレット・ゲーム

 指定ポイントに辿りついた俺達は、交代で課題をクリアして鍵を開ける。

 教師考えた問題は様々な能力を要求されるが、基本的なことだけにクリア出来ないモノは存在しない。

 

 一科生は持ち前の能力の高さで複数人が分担し、二科生は特化した者が交代することで時間を掛けずに突破できるだろう。

 

「ねえ、こっちを着けてる覗き屋を退治しに行っていい?」

「ルールの全容が把握できるまでは止めてくれ。この端末に一通り書いているはずだから…」

 エリカは干渉力や構築力には縁遠いからか、盛んに先鋭攻撃を提案して来る。

 

 紙面でもらった基本ルールで十分だろうと言うのだが、俺としては提案した教師の意地悪い顔が頭から離れない。

 何しろ指定ポイントには幾つかルールがあり、一度通ると消えてしまう場所などの重要な事項を、紙面では無く口頭で補足して来るぐらいだ。

 何かしら性質の悪い仕掛けが施されていると覆った方が良いだろう。

 

「反応が来たっ。オープン・セサミだ」

「速く読んでよ、あたしは暇なんだし」

「判ったから待て。たったの三ページだ……」

 簡単だが対処が面倒だな。

 僅か三ページのルールを垣間見ながら、俺は簡単に要約する事にした。

 

「二ページ分は共通事項。目次的な物と指定ポイントの全ルール。最後のはこのポイントの詳細だな」

「目次って、ただし書きとこのトランプ模様のやつよね。どんなルールがあるの?」

 この後の影響を考えれば、このルール把握こそが重要だろう。

 流石にエリカも茶化しはせず俺の解説を待って居る。

 

「指定ポイントはトランプに合わせて十三か所。二番から十盤までの数列は、基本的に回ると点数が上がる類だ」

 序盤の二・三と中盤の六といった、単独型は一点。

 四・五や七・八などペア物で最初は一点だが、両方回ると点数が高くなり二点以上に変わるという物だ。

 十はコンプリートすると二十点もあるが、消えてしまうポイントがあるので実質的に全員が得点するのは難しいと言える。

 

「残りの絵札は全てが高得点だが、どれも癖があるモノばかりだ」

 到着が早ければ早いほど点数が高く、遅いと点数が低くなるJ。

 その逆で、一定人数が居ないと換算されないQ。

 誰かがポイントに到着すると消滅するK。

 最後に、行動不能に追い込んだ選手が多いと点数が高くなるA。

 

「ようするに出来るだけ回れってことよね。逆に回れなくしても良いんだけど」

 エリカは最後の条件に目を輝かせながら、考えることを放棄した。

 決して頭が悪いわけでは無いのに割り切って考えるのは、自分が切り込み役だと自任して居るからだろう。

 戦いだけでなく、話題に関しても積極的に意見を振って行くようだ。

 

 だが、いずれも一か所だけで考えると簡単に見えるが、他のポイントを回ることや相手陣営を考えれば一筋縄でいかない。

 自陣営だけがKを回ろうとしたり早めにJを回ろうと分散すると、QやAで痛い目を見る。

 かといって全員が集団で行動すると、KやJを攻略するのはかなり難しいだろう(しかもAでまとめてなぎ倒される可能性もある)。

 

「判り易いっちゃ判り易いが、ペア物は一人でもOKなのと分担OKのどっちなんだろうな?」

「回った者にだけ点数が入る。他のルール……例えば先着ボーナスがある少数チーム戦だと、通信機を手に入れた班だけ分担が可能になる」

 当然と言えば当然の問いに今回のルールでは、と前置きを置いて説明した。

 今回は監視役の教師が安全性を確保する為、最初に聞かされた配役を追加する必要性があったので、他のルールは採用されてないのだそうだ。

 

 もっとも点数を加算するキングを守り、多様な攻撃手段が緩和されるアタッカーを保持する事を考えたら、これ以上は複雑過ぎるのだが…。

 

「サバイバル物みたいでそっちの方が面白そうじゃない。回りは全て敵って事ね」

「物騒なことを言うなよ。そういう場合は難しいコースを戦闘無しで回るんだよ。きっと」

 残念なことに戦闘が無いと言えないのがこの競技だ。

 基本的に軍事訓練の応用であった為、様々なルールを用いて参加者に緊張を強いている。

 

「恐ろしいことにその場合は毎回運営が決めるらしい。まあ基本は罠や遅延魔法だらけのコースを巡るだけだがな」

「どおりで魔法が使えなくなる奴が出るはずだぜ。ヒヤっとした瞬間が続くんじゃな」

「驚いて魔法を使えなくなるような感性があんたにあるとは思えないけどね」

 エリカはレオを茶化しているが、軍はともかく学校側としては魔法が使えなくなるのは大問題だ。

 腕の良い魔法師を育てるためとはいえ、一人の精鋭を作る為にその何倍もリタイヤを作りかねない。

 しかも出来あがった競技者が、必ずしも軍の精鋭になってくれるわけでもないので、スティーブル・チェース・クロッスカントリーがお蔵入りになっている理由も判る気がする。

 

●勘違い

「あまり時間を掛けてもしょうがないし、もう行かない?」

「近くまでは精霊で視てるから、そこまでは行っても良いとは思うよ」

 エリカが促すと幹比古が怪しい場所を指差して歩きだそうとする。

 それを止めたのは、俺が後回しにして居るのを覚えていた司先輩だ。

「基本的に賛成なんだが、少し待ってくれ。千葉がさっき言っていたが、着けている『あいつ』をどうするんだ?」

「そういえばそうだったわね。付け回されて報告されるのも面倒だし、やっちゃおうか」

 俺は少し考えた後、論点を整理してそれを止めさせることにした。

 チェイサーをくっつけて移動するのはどうかと思うが、里見選手の特性を考えると正解では無い気がしたからだ。

 

「逃げられた揚句に起用方法を変えられると困る。暫くは放置して確実に仕留められる機会を待つ方が良い」

「起用方法?」

 俺は頷いて里見選手の特性と誤解を説明する。

「部活連側は誤解しているのかもしれないが、里見選手の特性は一人でポイントを回られる方が脅威に成る」

 あるいは判って居て、こちらの情報を正確に把握したいということだろうか?

 それは思い上がりだろうと自戒するが、後から考えればその可能性も捨てるべきではなかった。

 

「彼女の能力は確かに認識し難く、パっと近寄られても遅い事もある。だが注意して居れば把握できない訳じゃないからな」

 こちらが邪魔出来ない状態で、一人で全てのポイントを確認して報告されれば相手陣営だけ情報が手に入ることに成りかねない。

 それでは、ただでさえ尖った方向に絞られている二科生側の勝利は危いだろう。

 

「それって尾行されてる方がマシだから放っておけってこと?」

「こっちが辿ったポイントの位置を知られちまうぜ?」

「僕は賛成。やってることが大事と思えない…。くらいにはされてしまうかもしれないけど、一科生と言うだけで十分脅威だもの忘れるはずがないから対処は考えておけるよ」

 消極的な案だが、絵札に当たるポイントの情報を把握されて待ち受けられたらどうしようもない。

 Aで待ち伏せされ、あるいはJとKを可能な限り早期発見されると点数勝負で勝ち目が無くなるからだ。

 結局は幹比古の意見もあり、俺の意見が通ることになった。

 

 今回のルールを考えれば、俺の提案の方は間違っては居なかった。

 だが、この時の俺は次々と作戦を成功させ里見選手の特性を理解して、良い気になっていたのかもしれない。

 

●前哨戦

 俺たちは順調にポイントを攻略していた。

 練習用とも言える二番・三番の単独ポイントだけでなく、四番と五番のペアを揃える。

「拍子抜けするくらいに簡単に抜けられたな」

「だが安心はできん。ここまで接触が無かったということは、部活連側も速度を上げているはずだ」

 里見選手がこちらに張り付いているので、部活連側は接触を避けながらポイントの位置を探る事も出来る。

 攻略速度は精霊を使える分だけこちらが早いと信じたいが、効率よく行けているのはあちらもだろう。

 

 それを考えれば、里見選手を早々に排除すべきなのだが流石に迂闊な位置に移動してはくれない。

「なんとなく何処に潜んでるか判るだけにムカ付くわね」

「本人の特性と希望が必ずしも一致する訳じゃないからな。深雪の話ではむしろ目立つような振る舞いが多かったらしい」

 任意にコントロールできず、常時発動して居るとしたらどうだろうか?

 他人から無視されることは慣れていないと苦痛だ。

 俺は深雪が居るから他の人間が居なくともでも構わないが、誰も俺を必要しなければ愉快だとは思えない。

 

 無論、その他大勢として扱われるタイプの認識阻害と、居ることすら認識されないタイプの認識阻害では意味が異なるが…。

 どちらにせよ、感情の無い俺でもあまり楽しい光景には思えない。

 普通の精神性を持つ里見選手が愉快であろうとは思えなかった。

 

 特性がそちらの方向であろうとも、身の入らない訓練に意味は薄い。

「やはり偵察兵として里見選手を使うのは間違いだな。本人の希望通り移動系魔法を活かしてメリハリの効いた作戦を立てた方が無難だ」

「今は相手の選手のことなんて考えなくっても良いんだってば!」

 本当の決戦は明日のモノリス・コードであり、このスティーブル・チェース・クロスカントリーは様子見なのは誰の目からも明らかだ。

 そのことで俺はどこか気を抜いてしまっていたのだろう。

 戦いに来たエリカにとって、俺が浮かれてどうでも良いことを考えているように見えるのも仕方のないことかもしれない。

 

 だが、油断していたのだろう。

 

 暫く進んだ所で、広域確認を任せて居た司先輩が立ち止まる。

「どうしました?」

「…信じられん。居るはずの無い奴が居る。いや、本人以外に考えようがないがな」

 言われて仕方無く、可能な限りポイントの側以外では極力使わない様にしていた眼を起動する。

 

 結果から見れば、見抜かれない為に手控えて居たことがこの事態を招いた。

 いや、理論的に考えてありないと過信して居たから使わなかったのだが、それが裏目に出たのだ。

 

「まさか…あれは十文字会頭なのか…」

 俺は一瞬、幻覚魔法を疑った。

 眼が相手を把握レベルで確認可能な距離に、反応があったのはまだ良い。

 

 だが遠目ギリギリに見える範囲で、磁性を帯びさせた砂鉄を展開し、待ちうけて居ることを教える必要を感じなかった。

 待ち伏せするだけならば魔法を使わずに森にでも隠れ、奇襲を掛ければ良いのだ。

 あるいはポイントの近くで時間を稼ぐために、率先して向かってくると言うならば疑いもしなかっただろう。

 

 しかし、今回のルールがある状態で、キングであるべき十文字会頭が正面からやって来る必要など何処にも無い。

 真っ先に幻覚であることを疑うのが間違っては居ないだろう。

「いや、俺から見ても本人にしか見えねえぜ?」

「…凄いな。レオはその距離でハッキリ見えるんだ」

「あんたってば耐久力だけでなく視力まで人間止めてるワケ?」

 レオ達の会話が他人事のように聞こえる。

 

(どういうことだ? ここで勝負を仕掛けることに何の意味がある…)

「ねえ達也くん、どうする? キングが…一人なら今のうちに倒しちゃう?」

 必死で考えを巡らせるが、この時の俺には答えが出ない。

 

(どう計算してもここで戦うことにメリットなどない。十文字会頭は何を考えて居るんだ…)

「ねえ、達也くんってば!」

 しょせん俺の計算など、スティーブル・チェース・クロスカントリーという競技、単体での計算。

 それと今回の九校戦予選全体での、いや九校戦本戦での総合勝利に向けた計算ではまるで意味が異なるのだから当然と言えば当然だ。

 

 思えば十文字会頭は、この予選を通して最初から俺たち二科生の意思力を問うて来たのだろう。

 そのことに気が付くのが遅れたことで、恐るべき状況に追い込まれていたのだ。

 

 圧倒的な暴力で眼を覚まされたのは、その時だ。

「起きろ、達也!」

「っ!?」

「どうしちゃったのさ。これからどう対応するのか決めないと」

 ボディーブローが俺の懐に突き刺さっていた。

 どうやら俺が考え込んで居るのを、茫然としていると勘違いしたレオが手荒い目覚ましをくれたらしい。

 

(まったく、計算して居ると言わなかった俺も悪いが、いきなりこのレベルの鉄拳とはやってくれる)

 そう思いながらも、俺は考えをシンプルに切り換えることにした。

 

「なにと、殴られて笑うなんて気持ち悪いわね」

「笑っていたか? いや、単に計算中の考えがレオのお陰でまとまっただけだ」

「うえ、考えてたのか? そいつは済まなかった。てっきり驚き過ぎたのかと思ったぜ」

 俺は思わず顔に手をやりながら、シンプルになった思考で考えをまとめ直す。

 余計なことは、もっと情報が集まった段階で後でまとめて考えればいい。

 今はこの場を確実に処理するだけだ。

 

 ここで出た障害はこの場で排除する必要は無い。

 そんな蛮勇をする前に、一時的に切り抜けて確実な対処をすべきだ。

 

「コースを変える。幹比古、すまんが先に行って五分以内に幻覚を構築してくれ。十分後にそこに逃げ込んでやり過ごす」

「構わないけど、大丈夫?」

 俺は頷きながら、キングである幹比古を逃がした。

 

 今回の競技での成功は、幹比古の精霊や古式魔法に掛っており万が一にも倒されるわけにもいかない。

 真っ先に逃がすと同時に、十分後には逃げられるという保証を立てておくことにした。

 

「十文字会頭の防壁は正直対処が思いつかん。情報戦でなんとかする他あるまい」

「そういうことじゃないんだけど…。まあエリカとレオが居るなら大丈夫かな」

「そーそー。さっさと行った行った」

 どうやら幹比古の心配は戦力ダウンの方だったらしい。

 エリカが手を振ってさっさと行けと言うと、難しい顔をして懐に手をやった。

 

 取り出したのは遅延魔法が掛っていると思わしき折り紙折って無い用紙が一枚、折ってる方は良く見るとヤッコ人形の様だ。

 

「僕の幻覚を残して行くから、できれば当てられない様になんとかしておいて。十分後…八分後には何とかしておくよ」

「無理を言ってすまんな。司先輩、罠である可能性もあるので幹比古をお願いします」

「辰巳たちを相手にだと怪しいが、直前で逃げるくらいは何とかするさ」

 俺達は頷きあって分担を決め、即座に行動を始めた。

 

 この場に俺たち三人が残り、幹比古を守って司先輩ほか残る全員が付きそう。

 当然ながらこちらの役目は足止めである。

 

『…司波、お前の覚悟見せてもらうぞ』

 遠くに居る十文字会頭の言葉が、嫌にハッキリと…聞こえた。




 と言う訳で、特殊ルール把握もそこそこに戦闘が始まります。
十文字『来ちゃった』
達也君『え!?』
 と言う感じで策士である達也君は色々と考えてしまうのですが、十文字会頭の方は天然なので直球で腕試し・度胸試しです。
最適解を考えれば十文字会頭がキングなのですが、彼は達也の根性が見たいのとモノリス・コードの延長上で考えてるので点数とか無視です。
一人で全員相手にしても負ける気は無いし、負けたとしても、達也君が信用置ける人間か見極めれるなら損は無いとかいうジャンプ展開。
なお、ルーrその他は捏造です。

●今回の、スティーブル・チェース・クロスカントリーの特殊ルール

共通ルール
・樹木の高さより上にジャンプなどは禁止
・4kmx4km四方に設置された、トラップ・魔法のコースを移動する

今回の基本ルール(漫画Mxゼロより着想)
 全員が攻撃数すると教師の防御魔法が間にあわない為。大幅な攻撃制限が掛っている(選択ルールによっては他者への攻撃が全く無いルールもある)

・配役が決まっている。
・メンバーは7人。キング1人・エース1人・残りはスパイ
・場所pに加えて、その場に訪れた者につき1p

・キングが居ると点数加算(今回は+4pで合計5pになる)
・エースだけはアタッカーとして攻撃手段が多数OK
・スパイは調査範囲が広い。

ポイントルール(同人ゲーム、シークレットゲームより着想)
 基本的には特殊地形や任務を考慮して居る。場合によっては先着ボーナスでアイテムが配られる選択ルールもある

2・3:単独ポイント:1p
4・5:ペア:1pずつだが、両方回ると3pずつに
6:単独ポイント:1p
7・8:ペア:1pずつだが、両方回ると3pずつに
9:単独ポイント:1p
10:全てのポイントを回ると20p

絵札の基本は20p
J:特殊:ここだけ30pだが、時間経過で1pずつ下がる
Q:特殊一定人数が居ないと加点されない(今回は3人以上で、バラバラで来ても合計一回のみ20p)
K:特殊:誰かが辿りつくとポイントが消える
A:行動不能に追い込んだ選手が多いと点数が高くなる(今回は一人に付き+3p)

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