●見えない弾丸
「私がロアーでぇ本当に良いんですかぁ?」
ロアー・アンド・ガンナーの会場で、選手の一人が不安を訴え掛けて来た。
この競技は一チームずつの場合と競争しながらの場合の二パターンあるが、競争に成ってしまったことも不安材料なのだろう。
とはいえ競争パターンの方がありがたかったので、ここは宥めておくとしよう。
「直線でもぉカーブでもぉスピードも出ませんでしたしぃ…」
「構いませんよ。最初は遅れている方が都合良いくらいです」
この選手は能力傾向は平均的な方で、二科生の中では高い方なのだが一科生には遥かに及ばない。
要するに典型的な器用貧乏であり、今回の競技には魔法能力の方は向いて居ないのだ。
あくまで単独の魔法能力に関しては。だが。
「重要なのはロアーとガンナーの相性です。先輩はどんな状況でも安定して力が出せるタイプですのでピッタリですからね」
この先輩はノンビリしている性格で、あまり焦らないタイプ。
練習時に何度かアクシデントがあっても、一番落ち着いていることもあって選んだ。
何しろ初回は勝利ではなく、目的が少し違う。
「それにこの競技は速度もですが、的を射抜く方で挽回できますからね。初回はこっちのお披露目が重要です」
「そうよ。私の方が処理力に少し不安あるから、落ちついて行ける方が助かるの」
ガンナーを頼んだのは、構築速度が早い壬生先輩だ。
今回は的を射抜くだけなので、強度や持続時間は関係ないのでガンナーに適した能力と言える。
発動…は一応大丈夫として、命中させることに失敗したとしても連射で補うのも早いからフォローし易い。
「さーやもそう言うなら良いンだけどぉ。今回はお願いねぇ」
「ええ! 司波くんへの借りを返したいし頑張らせてもらうわ」
「別に貸したつもりはありませんけどね」
実際のところ、俺としては毎回収支の範囲で行動して居る。
むしろ利用したという噂は間違いないと思うくらいだ。遠慮する事は無いのと思うのだが、まあ良しとしよう。
「俺が参加するスティーブルチェースの開始はまだ先ですが、会場が遠いので途中から居なくなりますが大丈夫ですよね?」
「はーいぃ。問題ありませんよぉ~」
「こっちは作戦通りに行くから、気にしないで大丈夫よ」
俺に不安があるとすれば別の試合に参加する上に、双方とも時間が掛る競技で相談に乗れないことくらいだ。
場合によっては渡している『虎の子の魔法』も予備で良いくらいだが、無理があるから切り替えろという指示のタイミングを見て居られない。
この辺りは市原先輩の冷静なデータ管理や、七草会長の眼に頼るほかあるまい。
試合が始まり、滑り出しの加速ゾーンに入った段階で俺は移動の準備を始めた。
「二科生の連中で遅れてるぜ。まっ当然か」
「でもカーブとかこっちより危なげなかったし、安定した選手選んでるんじゃない?」
「というと射撃重視か?」
昨日にあった試合なら、おそらくはもっと二科生を侮蔑した目で見た感想が多かったのだろう。
だが、耳に入って来る声の幾つかは、状況を冷静に観察して居るものもある。
もちろん選手層だからライバルを油断なく見ているだけで、一般観客席の一科生は別の視点もあるのだろうが…。
それらの声が悲鳴に変わったのは、一科生に遅れて射撃ゾーンに入った頃だ。
「全弾命中!? 安定したボードとはいえ二科生が?」
まずは当て易い場所に一か所、次いで徐々に難度の高い場所に幾つか。
点数の高い的は基本的に、迂闊に撃つと相手の的を射抜いたり、急カーブや高速帯の中で撃たねばならない場所にある。
「嘘っ! 一科生でも命中率の高い明智さんが幾つか外したのに?」
明智選手は高い能力に加えて、持ち前の射撃能力で高難度も当てていたが、それでも全弾は無理だった。
狙撃魔法の使い手ならば当てられる難しい的に、普通のタイプが移動しながら・相手の的を撃たずにというのはそれだけ難しいのだ。
今日からは一科生側も腕利きやホ-プを最初から当てて来ているが、今のところは作戦が当たったようで安心できる。
騎乗射撃に慣れている狩猟部の明智選手であのくらいの点数ならば、的を射抜く勝負に限定すれば今日は圧勝出来るだろう。
「つーか、今の弾見えたか?」
「出が凄く速い魔法なんじゃない? それともまさか…」
「それこそまさかだろ。二科生が『
これがこの競技の面白い所だ。
壬生先輩が普通に使用する場合、高難度の魔法を戦闘中に使用できない。
せいぜいが演武している時くらいで、他の魔法と併用したり、移動しながらの魔法使用は無理だ。
だが今回は移動に関するコントロールを、全てもう一人の先輩が安定重視で担当している。
魔法自体にとある隠しデータが含まれているので、気が付くことができればシェイプできるのと…。
特化型のCADも玄人用の命中補助ではなく、初心者用の処理の補助機能を拡張した物を使っているので撃つだけならなんとかなる。
他の生徒はどうやら本当の仕掛けに気が付いていないようだが…。
「ねえ達也くん。他に理由があるんじゃない? ロアー・アンド・ガンナーは外れた弾にペナルティは無い。だから連射に気が付かれない様に工夫するとは聞いて居たけど…」
「流石に会長の眼なら気が付きますか」
七草会長のマルチスコープは、いわゆる視野移動系魔法
さすがにCADを使わないと特殊な視野魔法を重ねて夜目などはできないが、離れた数か所を次々に見ると言うのには向いている。
「いくら『
「余波も少ない様だしエリア系型や射線型には見えない…ですか? あれらは相手の的を射抜く欠点もありますしね」
そもそも誤射の危険があるので一チームだけがやるならともかく、複数のチームが同時にやる場合はエリア型も射線型も禁止ではある。
爆裂を得意とする三校のプリンスがこの手の競技に関わらないと聞くのは、そのせいもあるだろう。
もう問題無いなと判断し、俺は荷物を抱えて立ち上がった。
「焦らさないでってばっ」
「会長の眼なら、二周目以降も見て居れば気が付くと思いますが、あれは散弾型に改良したんですよ」
手をばたばたさせて抗議して居た会長の手が止まり、キョトンとした顔を見せる。
こういう仕草は可愛いと思うので、いつもの悪女というか小悪魔スタイルは控えればよいのにと思わなくもない。
「改良? でもあれってただでさえ容量も多いし処理も複雑だし、この手の競技に持ち込むのも難しいって聞いたけど?」
「公開データの中には身内にしか判らないフェイクも混ざって居るんですよ。研究者が良くやる手です」
実の所、カーディナル・ジョージこと吉祥寺・真紅郎以外に使い手が少ないのもその辺が理由だ。
元もと重力を発生させるというのは使い勝手が悪いが、フェイクデータで容量や処理が複雑化して居れば使わなくて当たり前だ。
先ほど一科生の誰かが二科生には無理だと行ったが、この辺りの複雑さを解決すればそうでもない。
壬生先輩も最初は使うだけで精一杯と言っていたが、軽くしてからは文句も言わなくなった。
「それでは時間ですので、後はお任せします」
「あちらは難しいと聞いて居ますが、点数差が離されない様にお願いしますね」
もう話は終ったとばかりに、俺は歩き出した。
目線を市原先輩に滑らせると、諒解したとばかりに会長の手を取って説明をしてくれる。
ことさらに頑張れというのではなく、現実的に点数を離されるなと言うフォローはロマンこそ感じないが非常にありがたいものだった。
●不動の壁
「アレはなんなのよも、もー!」
そのころ、部活連側(一科生サイド)の陣営は混乱して居た。
特化した選手が組めると言っても、それはこちらも同じだと本気で挑んだ筈なのに…。
二科生相手にと言われることを覚悟した割りには、点数差が離れて居なかった。
「ボーリングじゃあるまいし、全目標皆中のボーナスなんて初めて見たよ」
「一か所ごとなら割りと見るんだけどな」
話題は二科生が全ての的を命中させたことだった。
それも一科生の的に当てることなく、最小限の範囲でやってるらしい。
「もう直ぐ一周を終えて帰って来るけど、何か伝える?」
「今のところ勝ってる。慌てるなとだけ伝えろ!」
生徒会側(二科生サイド)が作戦が当たって良い雰囲気なのに対し、こちらは勝って当然だったとあって焦りが生まれていた。
有利に進行して居るはずなのに、ちょっとしたミスがある度に点差が減っていくと言うのはそういうことだ。
「それじゃあ点数成り、取り変えてる的を見たら驚くわよ。あの子たち」
更に的を設置する調整側が成れない競技ともあって、一周ごとにピットイン時間を設けて的を設置し直している。
逆に言えば選手も点数を見る時間が取れる為、迂闊な説明は致命的だ。
上手い説明は無いが、何も説明しないのも問題…。
その状況を救ったのは、この場に居ない責任者だった。
『うろたえるな!』
力強い響きがその場を支配する。
通信越しであるというのに、思念さえ伝えたかのようだった。
『生徒会側は今後とも全弾命中という仮定で作戦を組み直せば良い。できるな?』
「そうか、ロアー・アンド・ガンナーは到着時間でも大きな点数が入る。高難度ゾーンで無理に留まらなければ…」
「みっともない所をお見せしました、会頭」
あれほど慌てていた面々が、十文字会頭の一言で落ち着きを取り戻す。
敵にすれば恐ろしいが、味方にすればこれほど頼もしい人物は居ない。
もしかしたら一報を入れた直後は驚いたかもしれないが、少なくとも画面では一切その様子は見られない。
的確に可能なことだけをやれと要請し、最小限の介入で事をすませてしまった。
『今の試合はこれで良いとして…。正体は判るか、関本?』
「おそらくは、いや間違いなく『
部活連側に付いたブレーンのうち、一番理論的なことに詳しい関本・勲へ十文字会頭が尋ねた。
よどみなく答えを見せて下級生からは流石と言う言葉が漏れるが、長く付き合った者には悔しさが隠せないで居る。
「問題は、そこから何をしているかが検討付かないことかな。何かこの競技の攻略法があるとしか思えないんだが」
「攻略法を思いつくだけでも凄いけど、それを隠す為だけに『
『敵はシルバー、専門分野なら凄くて当たり前だろう。残りも油断しなければ勝てる』
既に任せた事なので、任せる…とは口にしなかった。
その場に居るメンバーでやれると知っているからこそ、十文字会頭は任せたのだ。
期待に応えるべく、一科生側も動き始めていた。
「ひとまず、相手チームはスピードを捨てて命中ボーナス狙いだと伝えてくれ。範囲魔法なら反則勝ちだ…くらいの冗談を添えてな」
実のところ、監督役の教師が確認して居るので範囲魔法であるはずがない。
スペースの問題で同時進行か、一チームずつか議論はあったがそれも予選前の事とあって、混同が許される筈がない以上、生徒会側も弁えているだろう。
「そうしておくわ。落ち付いて先行すれば良いって伝えておくわね」
とはいえ一年生をリラックスさせる為の冗談なので、それで十分なのだ。
「作戦は思いつくだけではなく、その先が肝心か。勉強に成ったよ」
「魔工技術に一科生も二科生も無いってことは確か…かな。ぼやぼやしてると、二科生にエンジニア枠を奪われかねない…かも」
その会話を聞いていた一科生の一人が、思わずこんな風に口にした。
「それを言われると痛いな。選手と違って実地で試せる分だけだし、平河さんの言う通り油断しないでおくか」
「少なくともウチは技術面が弱いと言われてたしね。気を付けるとしましょう」
気が弱いのか本人としては恐る恐る口にしたつもりなのだろうが、周囲は茶化してリラックスさせるつもりだと思ったようだ。
そう受け取ったのは、きっと当人達こそが気休めを欲して居たのかもしれない。
そして、冗談交じりのアドバイスを受け取った選手の方は…。
「いっ『
明智・G・英美ことエイミィは薄い胸を撫でおろしていた。
赤毛と言うよりはルビーゴールドの髪を、解れても居ないのに編み直す。
緊張感を維持する為にそうしないとやって居られなかったからだ。
「明智さん、次はスピード重視だって。少し揺れるけど大丈夫?」
「問題無いですよ~。私の方もパーフェクト狙いは止めとこっかなーと思ってたところです。あははっ」
真面目な話、急場で組んだペアにしては上手くやれているというレベル。
パーフェクト狙いなどやっても出来ないとは思っていたが、二科生の方がパーフェクトを実行して居るというのはそれなりにショックではあった。
しかし、ここで笑い飛ばす事のできる前向きさこそが、エイミィの強さなのかもしれない。
こうしてロアー・アンド・ガンナーの勝敗は、一科生側が速度勝負に出たことで巻き返したかに見えた…。
●索敵偵察と威力偵察
「しかしよお達也。あっちは良かったのか?」
「出方が読めている上に、メンバー構成が予想通りだったからな」
実の所、『
相手の作戦を、速度勝負のみに誘導する為だ。
ロアー・アンド・ガンナーはタイムから点数を引いて形状する競技なので、速度で点数を補う事が出来る。
ということは、こちらが全弾命中するのであれば、速度勝負に出るのは当然の事だ。
「二組目からは『
「ああ。一科生側は昨日と違って一番優秀なペアを最初に持って来たからな。後は点数が下がるだけだ」
こちらはお披露目の為に安定型で遅めの先輩を配置して、速度で負けることを前提に心理的な圧迫を加えることを前提にしている。
速度で負けることは判って居るのでこちらに動揺は無く、相手は勝って居ても命中率の差を見て動揺する可能性が高い。
そしてこちらは二組目からが本番と言う訳だ。
「相手が点数を下げてでも速度を上げるなら、こちらも命中率を確保して速度を上げるまでだ」
『
こちらも速度を出せる選手を配置して、相手よりも遥かに高い命中率の状態で(流石に全弾命中は難しいと思われる)先行とは言わずとも徐々に追いあげて行けば良いのだ。
「まあ勝てるならそれで良いさ。しかし、あっちもこっちも軍事訓練みたいだな」
「ロアー・アンド・ガンナーが海兵の上陸射撃訓練を元にして居て、スティーブル・チェース・クロスカントリーは陸軍の行軍偵察訓練だからな」
幹比古のSBが動いている間は暇な事もあり、レオが頻繁に言葉を投げて来る。
それでも雑談ではなく全体的に関心のあるのを選んでいるのは、レオなりに気を使っての事なのだろう。
「この競技は主に二パターンあって、同じコースを少数のチームで巡るモノと、一定人数以上のチームが課題をこなす為に手分けするモノの二つある」
「今回は後者で、課題をクリアして行くんだっけか」
本当ならば前者の方がこの競技を訓練としてする場合が多いのだが、今回は監視・設置に当たる負担の問題で後者に成っている。
専門のスタッフでもないのに、一々やっていられないという教師の言い分も判らないこともないが。
今回に関しては、俺達にとって良い面と悪い面の二つがあった。
良い面は幹比古の偵察能力とレオの防御能力を組み合わせられること。悪い面は攻撃を大幅に禁止されてはいるが対戦形式になっていることだ。
人数はもう少し多いし攻撃手段は限られているが、ある意味モノリス・コードの前哨戦になってしまっている。
「自由設定したキングを護衛して指定ポイントを回ること…だな。キングを攻撃して良いのはアタッカーだけだから部活連側を見かけても注意しろよ」
「わーってるって。とっとと、そろそろ良いみたいだな」
今回は三つの役目を割り振られている。
一つ目は、指定ポイントを回ると大きな点数の入るキング。
二つ目は、キングを攻撃でき、殺傷威力が低いならば幅広い攻撃手段を許可されているアタッカー。
三つ目は、指定ポイントを広く把握でき相手チームの役目も確認出来るスパイ。
指定ポイントを回りさえすれば一人一点入るので、チーム全員が生き残ればかなりの点数が入る。
だが、キングは半数以上の点数と互角のポイントを叩き出せるので、自チームから落とされ相手にだけ残しておくと厄介だ。
相手チームへの攻撃自体は禁止されていないが、アタッカーを除けば大幅に制限されている(教師が危険を監視・介入し易くする為)。
いかにキングを温存するか、あるいは相手のアタッカーを早めに仕留めるかがカギに成るだろう。
「最初の指定ポイント付近には、何種類かのトラップが仕掛けてられてたよ。地精の報告だから落とし穴とかも間違いないと思う」
「幹比古、マーカー用のトラップはどれだ? そこを避けながら魔法は俺が、物理障壁はレオが排除しつつ向かうとしよう」
今回のルール上、一番問題なのはこちらの選手を落とすマーカートラップだ。
地雷代わりの範囲型や、攻撃魔法代わりの光線型がある。
「んじゃ、トラップは任せたわね。誰でもいから早く来ないかなあ」
相手チームの魔法にやられなくとも、倒された扱いに成ってしまうので最も警戒せねばならない。
逆にソレさえ気を付ければ、『トラップに関しては』それほどの脅威は感じなかった。
「相手のキングを落とせない以上は、できれば来ない方がありがたいんだがな」
「判ってるって。でも対戦して良い以上は愉しまないと損でしょ。試してみないとモノリス・コードも危いんだし」
エリカはノリノリで攻撃する予定だが、十文字会頭の防御力は脅威だ。
砂鉄に寄る防御も脅威だが、それをなんとかしても『ファランクス』を展開されるだけなのでどうしようもない。
「相手が来たら対応は任せるよ。じゃあ移動しようか」
できれば先行してゴールし、スコアに色を付けて戦わずに済ませておきたい物だ。
こちらを監視して居る『誰かさん』を極力無視ししながら、俺達は移動を開始した。
ここで視点は切り替わる。
達也たちからかなり離れた場所に、何者かが潜んで居た。
「動き出したか。…しっかし重要なのは判るけど、こんな地味な作業はしたくないんだけどなあ」
注目を浴び難い・印象が高くならないと言う特性を持つ里見・スバルを、生徒会側の監視に回して居た。
視覚を強化する魔法で遠距離から監視して居たスバルは、加速魔法を利用して部活連側に合流することにした。
最初の接近を気が付かれていなかったのに、移動用の魔法で気が付かれたとも知らずに急いで駆け戻る。
「戻りました。森の一部を迂回してますが、偵察用の魔法でもあるのか一気に走り抜けるみたいです」
「ふむ。動き出すとかなり迷いがないな」
スバルの方向を受け、指定ポイントに向けて移動しながら罠を探して居た部活連サイドも足を止める。
「森崎。確かブランシュ戦では連中と行動を共にして居たな。何か判るか?」
「確かSB…。精霊を召喚して偵察させていたと記憶して居ます」
この競技には人数が投入出来る事もあり、部活連サイドはスバルの他に森崎もメンバーに加えている。
森崎としては借りがあるので黙っていても良かったが、達也からは口止めどころか本戦のアピールになると言われていたので問われれば説明する事にして居た。
「トラップに引っかからない偵察兵って、この競技の為に在るようなもんですね…」
「MAP構成によってはモノリス・コードもだなこいつは相当に厄介だぞ」
沢木や辰巳のような猛者にとって、魔法での勝負はそれほど気にしては居ない。
だが自分達が苦労して居るトラップ探知を、簡単に済ませてしまう精霊魔法には脅威を覚えずには居られない。
「明日のモノリス・コードまでに判っただけでも良しとしましょう」
「そうだな。なんでこんな頼もしい奴と戦わなくちゃならないんだという気もするけど、本戦で楽になったと思っておくか」
これが点数の高いモノリス・コードでの勝負であったらと思えば、事前に判っただけでも良しとするべきだろう。
そして、達也の思惑通りではあるが九校戦本戦を考えれば、第一高校の戦力が増えたことを喜べる寛容さが彼らにはあった。
「会頭、我々はどうしましょうか。連中の動きの速さを考えれば、トラップを確実に無効化出来る自信があればこそですが」
「そこはこちらも習うとして、手を分ける」
十文字の会頭は、個々の能力の高さに任せて複数班での同時攻略を行うと言うものであった。
「というと、複数の指定ポイントを同時にクリアするんですかい? 点数が低くなっちまう可能性もありやすが」
「相手と同じ戦術では遅れを取るだけだ」
指定ポイントの中には、到着した全員に点数が入る物も、その後に消えてしまう物もある可能性があった。
当然ながらキングを含めた全員が多くの場所を巡る方が、総合的な点数は高くなる可能性がある。
だが到着と同時に消えてしまうポイントが多ければ、相手に渡さない分だけ班を分けた部活連サイドが有利になるだろう。
個々の能力を考えれば、生徒会側には取れない戦術だけに上手く行けば有利になるはずだ。
「ただし、生徒会側はこちらの分断を望んでいる可能性もあるから、推す班と退く班は決めておくがな」
「会頭の班はオフェンス、こちらはディフェンスと言う訳ですね。了解しました」
十文字は頷きながら、キングのマーカーを沢木に渡す。
確実に護るならば十文字が持ったまま逃げるのが安全だが、彼が攻め手に回るならば持って居ない方が万が一の防御に繋がる。
部活連側が分散する事を誘導して居る可能性も考慮した以上は、多重の罠に嵌められることも想定しておくべきなのだ。
相手を舐めない、本気で掛るということはそういうこと。
前日にはまるでやらなかった生徒会側所属の二科生を調べる事も含めて、彼らは本気でこの競技に挑んで居たのである。
こうして二日目の競技は、思考誘導に嵌ったロアー・アンド・ガンナーと、逆襲を開始したスティーブル・チェース・クロスカントリーでクッキリと別れることになった。
と言う訳で、九校戦予選の二日目です。
原作では特に語られて無かったり、あってもおかしくない別バージョンのルールを加えて捏造してみました。
ロアー・アンド・ガンナーは一戦目を捨てて、『
スティーブル・チェース・クロスカントリーは迫る十文字会頭の脅威に、これから立ち向かう感じです。
今回で捏造したスティーブル・チェース・クロスカントリーの特殊ルールですが、ジャンプで連載して居たMゼロからパクって持って来ています。
あの漫画が好きなのと、本来のルールでは対決にならないので変更した感じです。