√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

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氷が融けて霧となり、雫が現れる

●異なるコースを走るモノ

 ついに始まった九校戦予選。

 学内行事でもなく、部活連主体の動き。しかも余裕の相手とあってそれほど騒ぎにはなって居なかった。

 

「既に生成されたピラーにグラム・デモリッションは効かない。だから落ち着いて行けば勝てる」

「はいっ!」

 冷静に行けば一科生が二科生に負けるはずは無い。

 一科生側のブレーンの一人、関本・勲の言葉に一年生の選手が頷いた。

 

「と、関本先輩は仰ってますが…。大丈夫ですかね?」

「術式解体が効かないのは本当だろうさ。しかし…何か見落としてる様な気はするんだよな」

 森崎・駿が少しも信じてない様子で尋ねると、桐原・武明は肩をすくめて苦笑した。

 特に親しい訳でもないが、司波・達也を知る者として漠然とした不安を感じえないで居た。

 

「あの野郎が余裕ぶっこいてる以上は何か策を用意してると思うんだがな」

「一年総代の司波さんがあいつを尊敬の目で見てる姿を見かけたことがありますよ。…普通は同年代にそこまで慕わないと思うんですけどね」

 二人とも口には出さないが、達也から公正な目で意見してくれと頼まれている。

 つまり公正な目で見て、二科生側が優秀な成績を叩き出せる自身があるからだ。

 得意分野に限ってのこととはいえ、相当な自信が無ければ言う筈が無い。

 

「尊敬ねぇ。沢渡とかが十文字会頭を見る目がそんな感じだが…、逆をいやそれだけのナニカが無いとしねーよな」

「司波さんは頭がおかしいわけじゃありませんからね。何らかの根拠がある筈です」

 戦闘力で言えば『あいつ一人で良いんじゃないか?』というくらいの強さが無ければ同年代に尊敬など抱き難い。

 人格的にも大人物な(決して良い意味だけでは無い)十文字会頭は、良くも悪くも男惚れする長所短所の多い人間だ。

 十文字会頭と沢渡先輩くらいの差が必要なのか…と森崎は風紀の先輩を引き合いに出しつつ、苦々しい目で会場を見た。

 

 そこにはアイス・ピラーズ・ブレイクの為に用意された氷製のピラーが立ち並んでいる。

 どちらかといえば威力より精度重視の森崎としては、どう攻略するか期待する面もあるが、裏口的な手段でもあるんじゃないかと疑いの眼で見ていたのだ。

 

「親父が海兵隊なんだがな。たまに荒れるボートレースで言うんだよ。『ああ、こいつは別のコースを走ってるな』って」

「別のコースですか? でも同じコースを走るのがレースですよね?」

 ボートレースは魔法が一般的になった現在でも継続して居る公式賭博だ。

 あまりにも広いエリアで、様々な障害がリアルタイムで継続する為に、魔法の介入の余地が少ないからかもしれない。

「中止を危ぶむほどの荒天だとみんなペースが落ちるが、もともと荒れる海の出身だったら話は別だろ? 別に暗礁が多いとか波が高いでもいいんだが」

「ああ、そういうことですか。確かに陸上でも高所出身者とか難所出身者はそういう場所で早いですよね」

 微妙に異なる例えを出しながら桐原と森崎は頷き合った。

 グラム・デモリッションがあれば、普通の選手には選択できない戦術もあるのだろう。

 

 それを邪魔できる十文字会頭・七草会長クラスの干渉力なら話は別なのだろうが、今回の予選選考にはあまりエントリーしてない。

 他の競技にも言えるが、どちらかといえば一高に与えられた三枠に入れない可能性の高い選手が、ここで実績を残そうと三枠目の争いをしていると言える。

 競技者三名のうち二名がそんな選手で、あとは一年のホープに経験を積ませようと言う意見が多数を占めていた。

 二科生を舐めていると言えるが、この認識で正しいくらいが実力の差という現実でもあるのだ。

 二人はお互いに達也との縁を話す訳でもないが、認識した不気味さからどうなることやらと見守っていた。

 

●フィールド・アタック

 一方、俺の方でも二科生側の選手に似たような事を話していた。

 当然ながら楽観論にはなりえなかったが。

「この際ですから胸を借りるつもりで思いっきり行きましょう。何、全力で行けば一か所・一か所では俺達の方が干渉力は上です」

「そうだな。司波の言うとおりだ」

「普段威張り散らしてるやつらに目にもの言わせないとね」

 今回集めたアイスピラーズ・ブレイク用の選手は、干渉力だけなら一科生以上の選手ばかりだ。

 魔法の同時展開数が少なかったり、発動が遅かったりするが威力だけなら問題無い。

 その二名に先駆けて、俺が第一試合で思い切りの良い前例を作るつもりで居た。

 

 同じ様に二科生側は他の競技でも、勝ち易いエースメンバーが先行。

 残る二名がそれを参考に、自分が一科生に勝って居ると思わしき能力を振るうと言う作戦になっていた。

 ある程度の博打はあるが、一科生側が舐めているならば十分に通用する策だ。

(まあ、その意味でも十文字会頭が最初にこの競技を持って来た意味は大きいな。次の競技ではそうもいかんかもしれん)

 俺向きの競技とも言えるこの試合で、ダブルスコアを付けて圧勝するつもりだった。

 そうすることで一科生にも一目置かせるつもりだったが、向こうのやる気を出す為に会頭から利用されているとも言えた。

 

「ところで、この格好は本当に必要なのか? ただの学生服にも見えるが」

「アイス・ピラーズ・ブレイクは花形なんですよ」

「リンさんの見送りの時に、人数が揃わないからって僕に女装させたんだし、そのくらいは着て貰わないと」

 俺は美月たちによってたかって、いわゆる学ランに着替えさせられていた。

 ただし背中に逆向きの北斗七星が龍のように描かれており、双子星が怪しく輝いている。

 それだけでも不良学生と言う感じだが、オールバックにさせられており微妙な気分だ。

 

 しかし試合開始と共に、俺はCADを用意し気持ちを切り替える。

(とはいえ初手だけは二対一だからな。俺の方も油断は禁物か)

 俺は用意した通常型一つと二丁のCAD特化型のうち、術式解体と『もう二つ』を込めた特化型をアクティブにする。

 ただし、向けるのは氷のピラーではない。もっと下だ。

(この競技が夏の華で良かった。まあ冬場に氷を砕いても面白くもなんともないが)

 夏場に魔法で無理やり氷を作っている。

 その事実が俺に大きなアドバンテージを用意して居た。

 魔法で存在を許容して居る以上は、たった一つの魔法を打ち砕くだけで勝利の天秤は俺に傾く。

 七草会長も渡辺委員長もこちら側であり、会頭が試合相手ではない以上は負けるつもりなどない。

 

 試合開始を告げるランプが灯ると、俺は『相手フィールド』に術式解体を撃ち込んだ。

(魔法式を把握。次はもっと少ないコストで可能か。さて、相手選手の魔法を迎撃するとしよう…)

 術式解体で試合会場を覆う二枚の保護フィールドのうち、相手側のモノだけを打ち砕いた。

 これによって熱から零度まで簡易遮断されたピラーに、自然の熱が伝わり始める。

 

 通常はあり得ない事態に、担当の教師が事故かと慌ててフィールドを張り直すが…。

 そんなことを許しては面倒なので、今度は難しい代わりに手早く使える『術式解散』で手早く吹き払った。

(よし、これで俺がフィールドを崩したことに気が付いたな。こちらも攻撃に参加出来る)

 選手の相手をしながら教師の魔法を崩すのは手間があり過ぎる。

 よって残りの手数は全て迎撃に充てていたが、もう攻撃に回っても良いだろう。

 

 相手側だけ保護フィールドを崩したことにより、持久戦では俺の方が有利になった。

 ただ、氷と言う物は大きくなったらそれ自身の存在が保護を行ってしまう。

 小さな氷は簡単に融けてしまうが、大きな氷はお互いに補い合うのでペースが落ちるのだ。

 だから俺の攻撃は熱風で融けるのを助長するか、振動を与えて打ち砕くかになる。

 

(相手側の防御は満遍なく情報防御を掛けて、狙われ易い場所には少し密度が濃い。…無難な選択肢だが、この場合は悲しいほどに間違いだ)

 俺は情報防御を術式解体で打ち砕くと、待機しておいた通常型を立ち上げた。

 収束魔法で周囲の光と熱を集めて、相手陣地全体の熱量を徐々に上げていく。

 工程が少ないだけに地味な魔法だが零度に保つ保護フィールドが無い以上は効果が大きく、放っておけば融ける…という程度から保護し直さないと試合中に融けるかもしれないというレベルまで温度が上昇する筈だ。

 

 ここで俺は汎用型をサスペンドして、待機させているもう一丁の特化型を立ち上げる。

(相手が集中防御して居る場所はバレバレだからな。今ならそこを外して撃っても問題あるまい)

 同一対象に対する対象設定を実行。防御して居る場所を外した上で対象数を増やした。

 もう少し行けるが、ひとまず八つほどの対象を目標に振動系の魔法を射出。これを邪魔する相手選手の魔法をやはり術式解体で迎撃する。

 

 タイミングを変えて振動魔法を連射して、アッサリとピラーを打ち砕いて行った。

 残る四つのうち幾つかは防御が掛ったままで俺の能力では破壊が難しいので、術式解散で一斉に崩して同様の行程で振動系を確実に撃ち込んで行く。

 全てのピラーを崩すのに、それほど時間は掛らなかった。

 

「凄いじゃないか、あんな短時間で」

「相手が何をするか、ほぼ判っている状態だからな。実験室と同レベルの環境なら行けなくもない」

「それだって凄いことに替わりありません。お兄様は偶には胸を張って成果を誇るべきです」

 この競技が俺向きなのは、夏場に氷と言う元から無茶のある舞台だということ(今は五月だが年々暑くなっている)。

 次にお互いを対象としない魔法の撃ち合いであり、術式解体を攻防に利用すれば一方的に攻撃が可能なことだ。

 そして、ほぼ同一の状況と魔法が続く為、実験室以外では成立しないと言われている術式解散…グラム・ディスパーションが成立してもおかしくないことである。

 

 術式解散は精密な事が出来る反面、タイトな設定が必要で確かに成功し難い対抗魔法だ。普通に使ってもまともに成功しない。

 だが俺は『眼』で見た情報を元に成功させることができ、その眼の情報を隠すには状況の動か無いこの競技はうってつけなのである。

 今回は誤魔化せそうにないし不要だったから使って無いが、相手の魔法で視界が荒れる場合には『分解』を使っても誤魔化し易いのもあるだろう。

 

「ひとまず次の試合も大丈夫だろう。試合らしい試合に成るのは最終戦。深雪の友人だけに気が抜けないな」

「雫は正式な選手ですからね。でもお兄様なら大丈夫です」

 一年の一科生でも、次に戦う二年の控えの選手より強いらしい。

 

 だが、深雪によると強度が高い半面、精度が苦手なタイプとのことだ。

 構成力も高いので大型の魔法式を自在に使いこなせるらしいが…、この手のタイプは自分が得意な魔法に頼る傾向がある。

 それが『共振破壊』であることも深雪から聞ける環境にあるので、最初から術式解散を試してみても(流石に一射目から成功するのはマズイ)おかしくはないだろう。

 

(共振破壊は出の早い魔法だが、精度に欠けると言うことは俺と違って多数同時実行が高速のままでは不可能だと言うことだ。そこにつけ込む機会がある)

 出を遅くして一気に処理しようとすれば術式解体で叩き潰せる。

 なら術式解体よりも早く実行できる個数で次々に潰して来る筈だ。その途中なら術式解散を成功させても問題無い。

 

 そういう意味では深雪の友人である北山・雫という少女は、俺の『眼』を隠すのにうってつけの人材だろう。

 彼女のお陰で術式解散の難易度も説明出来るからいつも使用しなくて済むし、得意魔法が知れ渡っているなら成功するまで試みたと言い訳できる。

 

 しかし共振破壊か。専用の魔法とCADを作っても…。

「お兄様。もしや人の友人を口説こうなどと思ってはいませんか?」

「まさか。共振破壊は滅多に見ないから面白いなと思っただけさ。ピラーの準備を手伝うんだろう? 行っておいで」

 妙な質問をする深雪に気のせいだろうと促して、俺は二科生の選手の様子を見に行くことにした。

 

 一人目と二人目の選手は問題無いだろうが、三人目の北山選手も強度重視とあって不安を感じたからだ。

 事実、北山選手と当たった方は早々に敗北が決定してしまっている。

「すまん。ほぼ完封されてしまった」

「問題ありませんよ。もう一人の選手には通じた作戦ですし、このまま全体のスコアで押して行きましょう」

「そうそう。めげてないでどの程度の強度で押せば壊せたか教えてよ。二つ三つは成功したんでしょ? こっちのデータも教えるからさ」

 嬉しい誤算は敗北した三人目の先輩が途中から数本だけ護って時間を稼ぎつつ、あとは攻撃のみに切り換えてデータを測ってくれたことだ。

 これで北山選手の防御を抜くのに、どの程度の労力を回せば良いかが判って無駄打ちしなくて済む。

 二人目の選手は完全な攻撃重視作戦で行ったらしいので、そのデータを元に絞って攻撃して行けば善戦できるだろう。

 

 結局、北山選手の圧勝で調子を取り戻した一科生側は、二戦目で俺以外の二科生との戦いでは接戦で勝ち越されてしまう。

 だが前評判を考えればこれでも十分。俺以外は白星一つではあるが、内容的には二科生側健闘のまま最終戦を迎えた。

 

●北山・雫

 

 三戦目の第一試合、俺の相手は北山選手だ。

 部活連も本命対決として、お互いの情報が知れ渡った所でぶつかる様にしているのだろう。

 

 現在の勝利数は、六戦のうち俺の二つともう一つで半分納めていた。

 ここで俺が北山選手にも勝てば九分の四、残る二人のどちらかが勝ってくれれば勝ちこせる。

 

 既に、二科生も状況次第でやれる…という成績ではある。

 しかし例外中の例外である俺だけが勝利し、残る一つが偶然と言われかねない状況だ。

(ここでもダブル・スコアで勝てば一戦目のように一科生側が調子を崩す事もあり得るが…。少し厳しいかもしれんな)

 何しろ今回の相手は一年生のホープであり、残り二人の選手と違って正式な九校戦選手に選ばれているそうだ。

 地味な勝負に持ち込めば確実に勝てるだろうが、それでは他の一科生にショックを与えるほどはないだろう。

 例外中の例外と認識されるのは、そういうことなのだから。

 

 加えてこちらの手の内がバレているのいも痛い。

 共振破壊は調査の為に余分な一手を打ち込む必要があるのだが、俺の方もフィールド破壊で一手目を使用するからだ。

 結果としてお互いの一手目が固定された状態で、俺の術式解体よりも早いペースで共振破壊が飛んでくるだろう。

 更に俺が連射で打ち込む振動魔法は威力が弱いので、ギリギリまで密度を薄くして高速型に切り替えた防御で弾いて来るに違いない。

 

(まあ、そこまでは手が読めるからな。こっちも防御重視にすれば千日手にできるだろうが、それじゃ意味が無い)

 俺が防御に徹したとしても、能力的に防ぐのは難しい。

 結果的に術式解体と併用しての防御でズルズルと時間を掛けるだけだ。

 フィールドを破壊して居る分だけ消耗戦は有利なように見えるが、そうなればこちらの二科生がやった超攻撃型の作戦で全面攻撃を仕掛けてきかねない。

 

 それを防ぐためにまた新しい手を…と、こちらが受け手に回ってしまって、結局は優勢勝ち以上が狙えなくなってしまうのだ。

 そうなれば心理戦に持ち込めるはずも無く、調子を保ったままの一科生側が勝利を収めるのは間違いが無い。

 

(もっとも…。それは俺が魔法を変更してなければ…の話だ)

 術式解体・術式解散・『分解』である雲散霧消を込めた無系統と、熱の収束を収めた汎用型はそのまま。

 変更したのは当然、弾かれると判っている振動系だ。

 振動系の系統設定はそのままに、熱量を増幅する振動魔法に入れ換えている。

 相手も同じ魔法式ながら高速型に切り替えて居るはずなので、中立サイドの教師陣に提出して居る以上は、お互いさまと言えなくもない。

 

(さて、お手並み拝見といこう)

 対する北山選手の装束は、紫色が映える娘袴だ。

 奇しくも大正時代の学生対決のようで…と考えて軽く笑いそうになった。

 とはいえ教師陣の張ったフィールドを破壊し、入れ違うようにこちらの振動数を測られているので笑って居られるような状況では無い。

 

(思ったよりも遅いが力強い魔法だな。術式解体で落とすには早過ぎ、九校戦の本戦で使わせるには遅すぎる)

 おそらくは調査の為に精密に測るのが苦手なのだろう。

 二科生と戦うには問題無いが、九校戦で精鋭と戦いぬくには少し不安の残る荒削りさがあった。

 この後に同じチームになったら、やはり改良した魔法式を考案する必要があるだろう。

 

(二手目。…早速来たな。俺も対応を開始するか)

 俺が熱の収束を複数から敵陣に向けた時、こちらのピラーが早速打ち壊された。

 当然ながら、俺が無理やり放った術式解散は波調を合わせることが出来ていない。

 あと数個こちらが壊されて、北山選手の能力をギリギリ把握したと思わせられるまで迎撃は見合わせるしかないだろう。

 

 問題は粗削りな北山選手が、この後で壊すたびに尻あがりにペースを早めることだ。

 二科生側は俺が把握に間にあうか不安だろうし、一科生側は手に汗握って勝利を待ちわびている事だろう。

 

(もっとも、それより先に俺が別の方法を試すがな。…焦ってこちらが手を変えていることに気が付いて無いといいんだが)

 俺はまず、敵陣に向けた熱の収束を二か所に増やした。

 一つは相手陣地の上層で、これは場所を増やしても熱を奪い合うだけで意味が無い。

 ならば、もう一か所はどこか?

 

 当然ながら、俺の陣地から相手陣地に向かう方向だ。

 ここは零度に保たれているので、意味は無いが…。

 

(作戦開始と行こうか)

「なっ、あれはマグナ・ブラスター!?」

 俺が用意したのは振動によって熱量を発生させる魔法の、わりと下位に当たるモノだ。

 フォノン・メーザーを用意する事もできなくはないが、俺の実力では使いこなせない。

 

 下位互換に当たるこの魔法が精々だが、この場合に利点が他に在る。

「でもなんで自分のピラーにまで…」

(普通なら意味は無い。だが、こちらで発生する熱量もそちらへ向かって行く。そして…)

 同一目標への射撃を、ピラーではなく場所に複数同時に発生させる。

 対象は北山選手のピラー周囲や、既に砕かれた俺のピラー周囲にもだ。

 

 仕掛けられた熱収束により、下位の魔法であるマグナ・ブラスターでも悪くない威力を次第に発揮し始める。

 加えて既に砕かれたピラーから立ち上る蒸気が、相手陣地を覆って把握が難しくなり始めていた。

 

(今なら分解を使ってもバレないか? だがまだだ。念には念を入れて、術式解散を合わせ全体を動揺させてからだ)

 こちらのピラーを砕くと、それも使って蒸気が立ち上る。

 数度繰り返すたびに、術式解散の波調があって来るのではないか?

 そのことが北山選手を、そして一科生側の心理を追い詰めていく。

 

「オン・マケイ・シヴァラヤ・ソワカ…」

 無意味なマントラを唱えることで、俺は精神を強制的にプリセットする。

 今使って目撃処理に問題は無いのか? 見られる可能性は、そもそも必要あるのか? 再計算して不要だと頭の片隅でささやく声がする。

「…そうだ、まだその時では無い。俺はまだ全力を出して無い。ならばそれ以上はもっと後だ」

 今発動しても問題無いとは思うが、見る者が見て居ればまだまだバレる可能性があるだろう。

 機密であるならば徹底的にそれを守るべきだし、無くても勝てるならそのそも使うべきではない。

 

 まずは振動系のCADを待機させて汎用型を再びアクティブに、敵陣周囲を探ると熱収束が吹き抜けて無駄になっている作用点にも収束魔法を仕掛けて陣地の中に熱を戻して行く。

 同じ様に無駄が多いとは知りつつも、熱が外に出て行かない様にドームを作りあげて状況を加速する事にした。

 後は再び特化系をアクティブにして、マグナ・ブラスターを撃ち込み続ければ勝てるだろう。

 もはや術式解散を成功させても、蒸気で満たされた場の派手さの方に目が行っているのだから。

 

「流石は深雪のお兄さんだね。最初は勝てるかもとか思ったけど、驚いた」

「こちらこそ、まさか共振破壊をあのペースで実行されるとは思わなかった。驚いたならスローダウンするかと思ったんだが」

 最終的に北山選手はマイペースに事を進め、こちらのピラーが半分壊れるまで意地で破壊をし続けた。

 壊せば壊す程、俺が使う材料が増えると思わせたかったのだが、そこまでは無理だったようだ。

 とはいえ霧を発生させて目を奪い、他の一科生を驚かせたので十分な成果と言えるかもしれない。

 

「そうだお兄さん。隣のクラウド・ボールでほのか…私の親友が試合をしてるんだけど、見に行かない? 九校戦で絶対に役立つはず」

「悪くないな。こっちもエースを任せたエリカがどうなってるか興味あったんだ」

「お兄様…。あれほど私の友人を口説かないで下さいと…」

 握手したまま試合観戦の話をしていると、深雪が怖い顔で笑っているので二人で宥めることにした。

 帰りにケーキを一緒に食べながら、あくまで深雪の紹介と言う形で詳しく話す事になる。

 

 なお、残りの二試合は残念ながら敗北。

 逆にクラウド・ボールは優勢なようで、胸を撫でおろしながら観戦に向かうことにした。




 と言う訳で、パパっとアイス・ピラーズ・ブレイクの予選は終わりです。
暑いから保護フィールドがあるという設定は特になかったと思いますが、無いとも書いていないので、今回はあることにしました。
(アニメとかだと夏なのに自然に融ける様子が全くないし)
無ければ無いで達也君の一手目が空くので有利なのかもしれませんが、術式解体・術式解散が付けるぞーというアピールの為に、ある方が面白いとした為です。
他の選手の試合に関しては、心理線込みで優勢な時もあった。しかし、雫もパワー系だったのでパワー系対決なら一科生が勝つ。結果的に一科生側が押し勝ったとしています。
感覚的には一本ずつの棒倒しなら勝てたかもしれないけど、十二本もあるんだから、向こうがペース取り戻すよね…という感じですね。

魔法に関して
『術式解体』
 万能だけど遅くてサイオンも沢山消費。感覚的には面制圧。
『術式解散』
 合わせるのが大変だけど、可能なら微調整とか高速射出とかできる。感覚的には線に線をぶつける。

としています。

『マグナ・ブラスター』
 フォノンメーザーを達也が実戦使用出来るのはおかしいので、下位互換として設定。
メーザー砲に対して熱線砲レベル。それも普通ならば見て対処が可能な遅さ・弱さ(術式解体で防御を崩すから意味がある)。
見た感じはスーパーロボットの胸から出る熱線砲のイメージ。

『熱収束』
 収束系で風を起こす魔法の熱版。風も同時に起こすべきだが達也は同時に実行できない。
この為に、高速で一点に集中させることができず、ゆっくりとした熱量が移動して行く魔法。

『共振破壊』
 一発目に軽く振動を測る魔法を撃ち込み、その差分を考慮して振動を掛けて破壊する魔法。
通常の共振破壊は早いが精度のある調査が必要で、対抗魔法で迎撃される危険もある。
達也が後にアレンジする共振破壊は、地面に掛けてその振動方向をピラーに向けるので対抗され難いのと、最初の微調整が簡単(雫からすると主にこっちの方が重要)。

オマケ:勝負服
達也:学ラン。クランプのXよりアレンジ
雫:娘袴。はいからさんが通るよりアレンジ

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