●挑戦状は、ド真ん中への剛速球!
「やられた。まさかこの手で来るとは」
第一高に置ける九校戦予選のプログラム。
それを古風な紙の手紙で受け取った時、俺はかつてない驚愕とプレッシャーを味わった。
何の変哲もない紙片が、余計な感情が無いはずの俺にこれほどまでの脅威を伝えて来るとは思いもしなかった。
「どうしたのですかお兄様?」
「部活連から予選における競技の開催順番を伝えて来たのだけれどね。最初に来る競技が問題なんだ」
俺が滅多に見せない狼狽を現したことに、深雪は心配してくれる。
朝の心地よい光と風、そして深雪の笑顔が背中に感じた汗の不快感を和らげてくれた。
プログラムにあった最初の競技は、まず…。
『アイス・ピラーズ・ブレイク』
幾つか並んだ後で、最後に次の競技が来る。
『モノリス・コード』
ただこれだけの文字列が、俺に十文字会頭の計画と精神性を伝えて来る。
まぎれも無く、会頭は俺に真っ向からの勝負を挑んで来ているのだ。
待遇も何もかも用意する。だから逃げずに戦え、引き受けた以上は全力で成果を出せ。そう言っているとしか思えない。
「あの? 第一の競技にアイス・ピラーズ・ブレイクというのは幸先が良いのではありませんか?」
流石にこれだけでは意味が判らないらしく、深雪はおずおずと尋ねて来る。
他の情報を考慮しなければ、確かにそうだろう。
だが他の学校での有望生徒の待遇や、一高内における一科生の反応を考えれば一目瞭然だ。
「それとも、四葉内部での命令のように勝つわけはいかない事情が起きたのでしょうか?」
「いや。俺にとって有利な競技には違いないし、本気で行く理由はあっても手を抜く理由がないから全力で取り組むしかないのだけどね」
自然冷却をせずに魔法で仕上げる以上は、アイス・ピラーズ・ブレイクは俺にとって絶対的な優位性を持った競技だ。
もしこれが、後半に来ているのならば何の問題も無く…場合によっては嬉々として挑んだだろう。
しかしイの一番であり、影響度を考えれば頭を痛めるほかは無い。
「ではなぜ?」
「グラム・デモリッションを使う二科生は、二科生の例外。だから一科生に失意はない、むしろ対抗心で燃え上がるはずだ」
あ…。と言う声が深雪から漏れる。
戦意のコントロールについて言及した段階で、ようやく気が付いた様だ。
『油断して居る一科生』にひと泡吹かせるのと、慢心を捨てて挑んで来る『専門の競技者』に勝つのでは難易度が大きく異なる。
「この際、ワザと負けて…いえ、ありませんね」
「そうだ。数少ない確実に勝てる競技であり、絶対的な優位性を知らしめる事が出来る。ここでダブルスコアを見せつければ、俺の発言力は三高における”プリンス”や”カーディナル・ジョージ”に匹敵するレベルに成るかもしれない」
だから絶対に手を抜くわけにはいかない。
不服を持ったままでも選手たちがサボタージュすることはないにしろ、デバイス調整の他に勝てる選手としても登録されて居れば話を聞かない筈は無い。
九校戦本戦で徐々に示すのではなく、ここで実力を示して置くだけで作戦を聞いてもらえるならば、手を抜く理由があるはずないのだ。
十文字会頭にしてみれば、何割かを占める戦力外の二科生が戦力になるなら損のある話題ではない。
七草会長もそう言っていたが、策も無く小細工も無く直球の勝負だけで勝負に載せようとしている。。
「こんな序盤で十文字会頭が選手として登録される事など無いだろう。ならば最終種目に会頭は必ずや待ち受けている」
「お兄様の実力を見せろ。勝って一科生の士気も二科生の士気も、共に盛り上げて見せろ。そう要求されているのですね」
俺は黙って頷くほかは無い。
深雪の推測にだけではなく、十文字会頭の無言の挑戦にもだ。
(俺に勝てるのだろうか? あの巌のような漢に…)
脳裏に浮かんだのは、ブランシュとの戦いで見た砂鉄の壁だ。
磁性を帯びて相互の位置を保ったあの防壁は、術式解体で崩したとしても、暫くは同じ場所に留まり続ける。
つまり邪魔する壁は消えて無くなる訳ではない。仮に『分解』を使ったとしても一部では意味が無く、あの量の砂鉄を消して注目を浴びない訳が無い。
加えてあの魔法は、十文字家が誇る『ファランクス』ですらないのだ。
厄介な防壁を乗り越えた所で、さらなる脅威が待って居るのは間違いが無い。
「ですがお兄様…」
「ん?」
深雪が俺の袖を掴む。
だがその手は震えてなどおらず、確固たる意思と共に袖から俺の掌へと滑って来た。
「ですがお兄様。深雪はこの試合に勝って、お兄様が胸を張って迎え入れられることを望んでおります」
「深雪…」
澄んだ瞳が俺に突き刺さる。
掌を通して伝わってくる心と肉体の熱さは、深雪が本気で行っているのだといやでも理解させられた。
「四葉の中では良い扱いどころか備品も同然。ですがこの試合で、九校戦の本戦でも勝てば自らの手で切り拓いた確固たる地位として胸を張ることが出来ます」
深雪はソレが悔しいのです。そして新たな姿のお兄様がこの上なく晴れがましいのです。
言葉には出てはいないが、その言葉はハッキリと伝わってきた。
深雪がいかに俺の事を思ってくれているか、俺が知らない筈は無いのだから。
「それにお兄様は仰ったではありませんか。高校生活を十分に愉しめば良いと。その高校生活の中には、お兄様との時間も含まれるのですよ…」
「深雪…」
俺と共に深雪の心があるというのであれば、もはや逡巡して居る暇などない。
そのありがたさに涙が出る思いがするが、啼くよりも先に高速で回転を始めていた。
「…判った。そこまで深雪が言ってくれるのであれば、俺も決心をしよう」
「お兄様!」
この時まで、俺は依頼を果たせる状況を作りあげて終わりにするつもりだった。
二科生の中にも一科生に優位に立てる者がおり、全体として一科生の優位は揺らがなくとも、二科生の才能を埋もれさせるほどではない。
そんな『流れ』に持って行くだけなら容易いし、例え一度も勝てずとも、脅威さえ認識させれば条件はクリアできると思っていた。
一科生を育てるだけの教師しか居ないのは同じだが、二科生出身のコーチを揃えることで埋め合わせ、才能を伸ばす事は可能なのだから。
その流れを利用して俺がやりたいこともやり易くなるし、俺を取り巻く環境が激変すればもしかしたら気分が良くなるかもと言う程度だった。
そこまでの段取りを付ければ良いと思っていた認識は、今日ここまでにしよう。
「登校し次第、生徒会や初期選考しているメンバーを集めてミーティングを開く。まずはエリカやレオたちだな」
「はい!」
既に歩きだしているので顔色は窺えないが、その嬉しそうな声を聞けば疑う余地は無い。
俺の為に輝いている笑顔を、曇らせないようにするとしよう。
●テニスコートの誓い
フランス革命の時代、彼らはテニスコートで誓い合ったらしい。
だからという訳ではないが、すっかり顔なじみになった二科生組を学校と無縁のテニスの競技場へ集めた。
もっとも理由は単純にアイス・ピラーズ・ブレイクや、クラウド・ボールの説明がし易いからなのだが。
「こんな時間に呼び出すなんて、何か面白い事でもあったわけ?」
「部活連から手紙でプログラムが届いた。幾つか懸念事項もあるがそれ以外は想定通りだ」
「懸念事項?」
会長からのオファーを果たすだけでなく、絶対的な条件を勝ち取る為にはすべきことがある。
それは全体構造を判り易く理解し、勝利の為の明確なビジョンが見えることだ。
それを共有することで、士気は空元気から実感へと変わっていく。
ゆえに俺は一部の情報開示だけに留めつつも、端的に状況と意味する内容を突きつけることにした。
「十文字会頭は勝負に乗ってきた。むしろノリノリで真っ向から仕掛けて来る気だ」
「これか…? 随分と聞いた事無い競技で一杯だなぁ」
「あんたは殆ど知らないでしょうが。後で教えたげるから黙ってなさいよ」
プログラムのコピーを眺めていたレオから奪い取る様に、エリカは目を左右に走らせて行く。
此処に居る者はどこか居場所を探している様な…、そんな雰囲気が不思議と共通している。
だが流れ付く場所を探す様なレオと、激しく吹き荒れる様なエリカでは違った方向に見えた。
「ふうん。随分と戦闘向きのばかりじゃない。幾つかは達也君が提案したんでしょうけど」
「…まあな。外しても良いと思っていたモノを含めて、ここまで意見を取り込んで来るとは思わなかった。
『アイス・ピラーズ・ブレイク』
『ロアー・アンド・ガンナー』
『クラウド・ボール』
『スティーブル・チェース・クロスカントリー』
『シールド・ダウン』
『モノリス・コード』
「この中でクラウド・ボールだけ浮いてるわね。スピード・シューティング外してるし、これも消して良かったのに」
「おそらく、二科生が最も能力を活かせる競技だからだろうな」
「最も活かせる?」
俺はテニスコートの中央添いに立って、右と左の地面に『一』『二』と描く。
言うまでも無く一科生と二科生のサイドであるが、その下に幾つか小石を置いて行った。
「クラウド・ボールでは領域への干渉が禁止されている。あくまで自陣内にあるボールの周囲と自身の体だけだ」
「まあそうよね。自分の陣地だからって風を吹かせ続けたら勝負になんないし」
「だから私が出場したとしても、アッサリ負けてしまう可能性が大きいでしょうね」
広域展開を得意とする深雪は、こういう制限の中で力を行使する競技に向いては居ない。
だから取って不可能なわけではないが、自衛の訓練では無い以上は無理にやる必要も無いだろう。
「使っても良いとされる魔法は多くても百程度、その中でも有効な魔法は二十を越えないだろうね」
「そっか許可が下りたとしても、硬化魔法なんてやっても意味が無いか、やった瞬間に負けだもんな」
古式魔法の幅広いバリエーションを封じらえる格好になるからか、幹比古はあまりこの競技にノリ気では無いようだ。
話を聞いたレオも、その時点で考えを切り捨てている。
まあ幹比古としても魔法の展開速度での難点を克服できてない以上はその気にならないだろうし、別の競技で活躍してもらう予定なので、その気になっても困るのだが。
「そういうことだ。主に自己加速や跳躍力・反発力と言ったテニスに近い肉体的な魔法と、ボールに干渉する射撃的な魔法に限られる」
肉体強化に関しての制限は無いが当然相手のコートでは役に立たないし、ボールに干渉する方も自分のコートの中だけだ。
この僅かな時間、それも複数のボールをコントロールしなければならない。
一科生だからといって必ずしも有利ではないし、特化した能力を活かせるならば二科生でも活躍できるのは間違いないだろう。
「七草会長は押し返す魔法だけで勝つことも多いそうですよ。そういう意味で向いている能力があるなら二科生に向いて居るでしょうね」
「その向いている能力を持って居て、体力のある人探すのが難しいと…思いますけどね。私だとちょっと…」
「あー。美月は立派な西瓜を抱えてるものね」
美月のコンプレックスを晴らす為、エリカはセクハラ発言で場を混ぜっ返した。
レオは呆れ幹比古は顔を赤らめと、少し場が和んだので休憩代わりに説明を止めておく。
だが、『向いている能力』と体力の共有が難しいのは事実だ。
そんな人間はそう多くないから、偏見だから二科生にやらせなかったというよりは、体力を魔法によって補える一科生が選ばれた理由でもある。
「選手の追加はこれから探すとして…。エリカ、クラウド・ボールの攻略を頼みたい」
「えー!? これだけ戦闘向きの競技が多いのに~?」
どうやら目当ての競技が既にあったようだ。
幾つか競技があり、やってみたい候補があるのに、全て無視して一番戦闘向き出ないのを押しつけられるとは思ってもみなかったのだろう。
「クラウド・ボールは試合数の多い競技だからな。全体の戦績を上げるためにもこれを落としたくない。埋め合わせに他の枠を優先的に回すから頼む」
「本当に、ホントーだよ? これで『他は埋まりましたー!』なんて言ったらただじゃおかないんだから」
掌を合わせて拝んだ格好を見せると、不承不承ながら頷いてくれた。
隠れた不満は老い追い何とかするとしても、とりあえずは一難去った形だ。
「それで、あたしは何をすればいいわけ?」
「まずはテニスの範囲で見せておいてくれ。一番先に持って来るから他の選手が見本に出来る様なのを頼む。後半は…好きにしていいぞ」
ここでのテニスとは自己加速に魔法を絞って、他の選手でも真似出来るような用法だ。
一つの魔法の使い方に習熟して球をスピードだけで処理し、相手コートに押し返して行くだけ。
当然ながら相手にも対処し易い戦法だが、クラウド・ボールは全ての球を返す必要の無い競技だ。
相手が処理しきれなくなるまで、速球を返すだけでいい。
「後半は好きにして良いって…。達也君、相当に根性が悪いわね」
「なんとでも言ってくれ。向こうのブレーンがこっちの用法に気付くまで専念出来ればいいし、他の方法もできると気が付くのは最後の星勘定の時で十分だ」
エリカは自己加速に習熟ではなく、極めて居る。
ただた単に移動するだけでなく、ちょっとした歩幅で調整したり、撃ち返す方向も微調整可能だろう。
誰が一科生側のブレーンに成るのか知らないが、テニス式の用法しかやってこないと思いこんだ時点で、こちらの思うつぼである。
「まあ飛びまわる無数のボールを追い掛けるわけだし、集団戦の訓練だと思っておくわ。相手が居る分だけ機械よりマシでしょう」
「そう言ってくれると助かる。これで二つの競技では白星が稼げそうだ」
「二つですか?」
「お兄様はアイス・ピラーズ・ブレイクに出場されるつもりなのよ美月」
「あー。グラム・デモリッションがあるもんな」
プログラムのコピーに、軽く二本の線を入れて周囲に見える様にしておく。
これで残るは四つの競技であり、残る内から一つか二つは白星を多めに奪っておきたい所だ。
「それで…。こんなことを僕の方から言うのは恥ずかしいんだけど…」
「専用の刻印符だな? 幹比古にはモノリス・コードやスティーブル・チェースに出てもらうつもりだからな。ぶっつけ本番になるがなんとか間に合わせた」
「前に五十里先輩に頼んでたやつ?」
幹比古の使う古式魔法はその場で組み立てる上に、幾つかのフェイク情報を経由して組み立てているために時間が余分に掛る。
この不要な情報を取り除いた上で、刻印魔法を使うことで極めて特化型CADに近い呪符を作ることが出来た。
もちろんスピードでは特化型CADには及ぶべくは無いが、幅広い応用が出来る古式魔法を選んだ一部とはいえCADに匹敵できるのだから天地の差が生じる。
「まだ完成したばかりだし、ここからブラッシュアップしなければならんことは多いが…。予選で出た不具合を修正するくらいで構うまい」
「勿論だよ! これがあればブランシュとの戦いでも何とかなったかもしれないのになぁ」
「そうかな~。そう都合良く…。いや、いっか。頑張ってね幹比古君」
嬉しさと悔しさが混ぜ合わさった様な幹比古の顔を、茶化そうとしたエリカが微笑みながら見守っていた。
そういえば二人は幼馴染だそうだが、スランプで苦労して居た次期を良く知っているのだろう。
「幹比古はそいつでSBだか精霊だかの補助をするとして、俺は何をすればいいんだ?」
「レオは一番忙しいぞ。幹比古のに加えてシールド・ダウンの候補でもあるからな。抗議は聞かんから他の選手が増えるのを期待しておいてくれ」
「楽しそうな競技ばかりでいいじゃない。あたしなんて替わってあげたいくらいよ」
レオの役目は成績じゃない。
あの不壊魔法を含めて、硬化魔法の使い分けによる無敵ぶりを見せつけることだ。
その姿は印象深いモノであるし、一つの魔法を完全に習熟すると言うことがどれだけ意味のある事か一科生にも二科生にも見せつけることが可能だろう。
十文字会頭が見せつけるであろう、一科生の強さ。
その一部である防御力での剛健さをこちらもやることができる。
本人の性格も陽性であり、俺や幹比古が言っても無駄な事を、レオが言うだけで雰囲気を変えることが出来るかもしれない。
そして、高度で理解出来ないファランクスではなく、硬化魔法という比較的に扱い易い魔法で見せるのは地味ながら意味が大きいはずだ。
こうして俺は一つ一つの競技に能力を知っている仲間を当てることで、判り易い判例をまず作り上げた。
そして勝ちパターンの一つを共有し、他の方法を模索する事で二科生側生徒全員に周知する方程式を作りあげていく。
その方程式をある程度完成させたところで、俺は七草会長たちに持って行くことにした。
時間の問題もあて全てではないが、生徒会側はまだ『善戦ができれば良い』と考えているので十分だろう。
本気で勝負を挑むのは、俺と十文字会頭だけが知って居れば十分だからだ。
「概ね了解しました。これらのパターンが出来る人や、まったく別パターンを提案してる人を組み入れていけば良いのですね」
「はい。慣れている人の方が頼りになりますし、全く別のパターンを提案できる人ならそれはそれで大歓迎です」
流石に市原先輩とは話が早い。
俺の言った事に頷きながらも、幾らか提案を組み入れて話の流れを作ってくれた。
「現段階で可能な範囲に置いて、概ね問題無い『光景』が展開出来ると思われます。いかがでしょう?」
「そうね。ロアー・アンド・ガンナーの対策が出来てないのが残念だけど…。今の段階じゃこれ以上を望むのは難しいかな」
そう、光景だ。
現段階で作り上げたのは、奮戦を期待できるという作戦案に過ぎない。
ゲームと違って、競技には相手が居るのだ。
更には相手方のブレーンがおり、こちらの作戦を崩して来るだろう。
できればもう一押し…。
「ロアー・アンド・ガンナーに関しては面白い穴があるので、それを試したいと思います。完成できればですが、二科生向きの競技になるかもしれません」
「っ!? ということは、ミスター・シルバーの新しい魔法ですか? それは一体どんな魔法でどんなCADを!」
これまえ大人しく聞いていた中条先輩が、突如立ち上がって興奮し始めた。
俺はそれを駄目ながら、ガッカリしそうだなと思いつつ事実を口にする。ここで気休めを言っても仕方ないだろう。
「残念ながら既存の魔法の応用ですよ。より正しく言えば、コストカットして扱い易くするだけですけど」
そう言って俺がとある魔法を説明すると、中条先輩はガッカリするのではなく驚いた表情をするのであった…。
●一足早い来訪者
USNAからの到着便が、空港を訪れる。
途中でヨーロッパを経由したコースのせいか、乗客たちの中には疲労している者も見えた。
そんな中で三人ほど、軽い足取りで荷物を受け取りに移動して居る。
「チャーミングなワタシはUSNAから来た、リリィ・スナイパー。デース」
「プリティなワタシは、同じくUSNAのマリィ・スナイパー。デース。二人合わせてスナイパーシスターズ。ネ」
「…まあそんなものだろう。二人とも、学校ではその調子で適当に頼む」
記載された名前を改めて確認し、二人の女が荷物を受け取った。
ワザとらしい英語訛りという触れ込みの日本語を話し、連れの男に妙なアピールを盛んにしている。
「そうそう、私の事はそうだな…。仕事に失敗して飛ばされた主任ということにしよう。ジョン・スミス主任というのはどうだね?」
「せめて部長か特別室の課長デハ?」
「問題無ければどの呼称でもお呼びシマスが…。どちらへ?」
苦笑する男は肩をすくめて、二人の女を置いて荷物を引きずってキャビネットの方に向かい始めた。
「墓参りを兼ねて第一高校の視察にね。ライバルになる強豪校だそうじゃないか。色んな意味でお前達の相手に成る者がいれば良いのだが…」
ジョン・スミスと名乗る技術者は、そういって東京行きのプレートを示した。
と言う訳で、パパっと予選対策と二科生内部の選抜をしたことになります。
あまり立候補をする人も居ないので、司元主将とか壬生先輩とかこないだまで敵だった人を中心に見知った顔が多めで集まった感じです。
(原作の段階で二科生があんまりいないというのも理由ですが、九校戦本戦があるのにそこまで長くしても仕方無いというのもあります)
原作と大きく違うのは、十文字会頭が挑戦状を叩き付け、深雪がお願いしたことで達也君が最初から『甘えるな』キャンセルの本気モードなことです。
『どうせ全体勝利は無理だし、一部の生徒が勝って見せれば良いよね』というイージーモードはサヨナラ。真面目に行くぞという形になるでしょうか。
続く次回は来月の2・3日ごろだと思いますが、予定は未定なのでずれ込むかもしれません。
内容的には、速攻で試技とか試合の開始して前後編くらいで終るかと。
最後に…。リーナ編までなのですが、それ以降のお話から三人ほど引っ張って来てみました。
原作だと本戦は『三巨頭が頑張った』で終ってしまうので、量産型の中で能力分散の仕様違いな娘二人。が敵に回ると思ってくだされば幸いです。