●黄の残光
エリカは剥ぎ取られた服の代わりにチーマーから奪い取り、警察に詳細を連絡しだしたので俺は心残りを片付けておくことにした。
「何やってんだ? 手が必要なら手伝うぜ」
「さっきの
調べる俺にレオが声を掛けて来る。
まあ当然と言えば当然か。いきなり地面を探し出したら何か落としたのかと思うだろう。
視力矯正手術が一般化する前は、コンタクトという補助具を落とす事もあったそうだ。
結局、見つかったのは金属製が三本とガラス製が一本。
「誰かの服にでも刺さってんじゃねえか? それか魔法で回収したとか」
「服の可能性はあるが魔法は無い。移動系の魔法は三回目とお前に使った時だけだ」
分析用としてはシルバーとして活動する為の支えにはなってくれたが、戦闘中だとそこまで詳細な把握ができる訳ではないのだ。
だがそれでも魔法の種類や、移動ならその方向くらいは判る。
その情報を元にすれば、この辺りに落ちている筈なのだが…。
対して成果が出ない内にエリカの連絡が終わったようなので、念の為に尋ねてみることにした。
「エリカ。参考までに聞きたい。『影打ち』というのはどういう技なんだ?」
「んー。ダミーの後ろにもう一つ隠す投擲術の1つよ。さっきのは幻覚だったから無視して本命を叩き落としたけど」
俺の質問にエリカは右手で掌を広げ、下に左手で人差し指を伸ばした。
「剣技とかに流用する場合は、二刀とかで弱く見える方を魔法で主力にするの。蹴りとかでもいいけどね」
「刀と魔法の掛った小太刀や蹴りか」
今度は右の人刺し指を伸ばし、左手は拳一つ分。
長さで言えば人差し指の方が長く、拳は威力がある。これのどちらに魔法を掛けるかで、強い方は入れ替わるだろう。
『影打ち』という技法は意識の陰陽を利用する技のようで、目立つモノとそうでないモノの認識を扱うのだろう。
「ダミーを無視して本命を落としたつもりで、実はその逆だったとかは?」
「ちゃんと幻覚だったわよ。でなきゃ無視なんかしないっての。…あーあ。勝ったと思ったんだけどなー」
エリカの言いたい事も判る。
だがダミーと本命の組み合わせで良いなら、金属針とガラス針でも良い筈だ。わざわざ幻覚で針を作る必要があるとも思えない。
ゆえに肝はそこなのだろうが、幻覚の中に小さな針を隠したとしてもエリカが見逃すだろうか?
その危険性があるならば大きく避けていた筈だ。確実に針はないと知覚出来たからこそ避けなかったのだから。
「あとは帰って幹比古に聞くしかねーんじゃねえの?」
「そうだな。
奴の能力は概ね把握した。
エリカの時は堂々とやっていたが、レオに使う前は別の使い方をしていた。
俺との会話に隠れて、魔法発動の兆候を隠しながら最低限の出力で練っていた。もし俺に特殊な目がなければ気が付かなかったという程のレベルだ。
細かいコツがあるのならば、そこまでは判らない。
そう続けようとした時に、離れた場所からこちらに来る者の反応を見付けた。
それも、最近会ったばかりの連中だ。
「どうした? まさか奴らが戻ってきたのか?」
「いや。この気配は剣道部だな」
「あたしにはまだ人が来てるってくらいしか判らないけど、本当に良く判るね」
エリカはあきれ顔だが、連中が来た意味を考えると舌打ちしたくなる。
事態は思ったよりも深刻なようだ。
「おそらくだが、
「何のために?」
随分と焦って移動しているようだが、一人だけペースが乱れないモノが居る。
その事を踏まえると、おそらくは予想は外れて居ないはずだ。
「チーマー達が役に立たない場合は剣道部へ親近感を持たせる為に。勝てそうか、こちらに会長が居た場合は挟み討ちに切り替える為だろう」
もし剣道部と連中の関係を知らなければ、背後を任せて後ろから襲われていたかもしれない。
その状況も問題であるが、俺達がエリカを前に置いて脇を固める戦法を取ったのを、顔見知りを利用して挟撃するという策を即座に思い付く辺りは
「いくら洗脳してても流石にそこまでは出来ないんじゃない?」
「段階的に深層暗示に切り換えるため、管理権限がある者を脇に置いている可能性がある。この場合は部長だろうな。そいつが後ろから襲い、部員は説得するなり後述催眠用のキーがあるなら刷り込み待ち状態にすればいい」
洗脳魔法というのは矛盾する使い方はできない。
渡辺委員長がやった時も、あくまで会話の流れの中。それも本人の意識の延長にあったからこそ。
だからこそ、対象の意識をコントロールするためにキーワードが必要になる。
日常の中で丁度良いタイミングを掴まえ、そこで認識を新たにすれば調整は可能だ。
「例えば壬生先輩と桐原先輩が好き合っていたとして、別れさせて他の人間と組み合わせるのは不可能だ。だが腹を立てて痴話喧嘩の最中に、『反省させる為に浮気したフリが必要』と思いこませれば可能になる」
「なるほど。その時に洗脳し直す為に、意識が失い易い様なサインを用意しておくのね」
そんな段階を踏まえるのには、部外者であるブランシュの司・一では不可能だろう。
だが部長である司・甲であれば簡単だ。
だとすれば、俺を救う為に剣道部を率いてやって来ており、場合によっては襲う為の準備を整えていたと思われる。
「えげつねえなあ。テロリストやマフィアだから当たり前なんだろうけど」
「想像でしかないが、間にあわなかったのは都合良く時間が合わなかったのか、あるいは功績争いによる不具合だな。後者だとありがたいんだが」
レオの言葉に同意して苦笑するがとうてい笑える状況では無い。
初見殺しとはいえ、
加えて俺達のフォーメーションを逆手に取る様な策まで思い付く以上は、時間を与えるのはいかにもまずい。
早いうちに連中を潰さないと、いつ深雪が対象になるかもしれないからだ。
「もう直ぐ此処に来ると思うけど、逃げちゃう?」
「それだと薬物取引を潰したのは剣道部の功績になってしまうので巧くない。…仕方ない、この状況を逆に利用して連中を油断させるか」
俺の眼だけならまだしも、エリカが気配に気が付くくらいだ、そう時間も残っていないだろう。
迂闊に動き回るよりは、策に気が付かないフリをした方が良い。
「剣道部の相談にのってるから、エリカは服を替えた後で合流してくれ。検査は信用のおける病院でな」
「偽者にブランシュの元に連れてかれても困るもんね。りょーかいっ宴会までには戻るわよ」
「そこだけはちゃんと覚えてるんだな。チャッカリしてらあ」
警官や医師に化けるのは古典的だが有効だ。
そこまで手の長い相手かは別にして、警戒しておいて損は無いだろう。
そうして剣道部の連中が姿を現したのはさして時間が経った頃ではなかった。
●白地に太黒を落とす
エリカを警察に預けた俺達は、剣道部との茶番に挑む。
「こちらの地区に居られる高段者の方に習い出したのですが、不審者に襲われてると同門の方に連絡を受けまして」
「練習帰りでお疲れなのに、御心配ありがとうございます」
司・甲と名乗った眼鏡の男は予め考えておいたであろう言い訳を使った。
まあ実際に練習に来ているのだろうが、信用出来るはずもない。
とはいえ今の状況は笑って見ていられるはずもない。
「同じ一高生徒として当然ですよ。例え相手が不良や一科生であったとしてもね」
(深雪は当然として、生徒会のメンバーや桐原先輩にも一応は連絡を入れた方が良いな)
突き離す訳には行かず、連中を誘導するにはある程度付き合った方が良い。
となれば裏切ったのではないと早い段階で申告する必要があるが、どうにも消極的に過ぎた。
連中の策に嵌って行動を制限される様な物だし、既に俺の名前を騙って誰かを呼び出されかねない。
意図して
(俺の名前で会長を呼べるかは別にして、消極策に切り替えられたらコトだな)
前に中条先輩が生徒会室で言っていたが、数人だけ浚って潜伏する事は可能性がゼロでは無い。
やってないのはこれまでに掛けた成果に見合わないからだが、『シルバーがコーチを』と言って有望な一科生を呼べるだけ呼ばれたら面倒なことに成る。
生徒会のメンバーはまだしも、深雪の友人や元から剣道部と仲の良い個人などは引っ掛る可能性がある。
個別に合っておいて、俺の名前を騙る奴が居ると先に言っておくべきだろうか?
「そういえば、今日はどんな研究をされていたんですか?」
(いや、逆か。今の時点で積極的に誘導するんだ。なら材料は何が良い? こいつが聞きたいであろうキャスト・ジャミングは論外だが…)
俺は司・甲に適当に話を合わせながら、仕方無く一部を披露する事にした。
当然ながら飛行魔法でもなく、今日考えていた中でテロ用CADに見合った物だ。
「壬生先輩に説明した術式に着想を得まして、シンプルな術式を使いこなすのも悪くないかと思いまして」
「わ、私の? コレの事かな…」
俺が話題を振ると壬生先輩は恥ずかしそうにした後、担いでいる少し大きな竹刀袋を開いた。
そこには通常の竹刀の他、脇差や小太刀サイズの竹刀が入れてある。
「ああ、投擲術が向いていると言う話題でしたね」
「壬生先輩に剣以外に使う術を勧めたのは、剣道部だから合わないと言う建前ではありません。純粋に適正の問題だったのですが、そういう術を一つ『使いこなす』のも面白いかと」
言い訳でもあったが、脳裏に閃いたのはレオや
立った一つの魔法を使い分け、あるいは同じ技を色んなバリエーションで使用して居る。
派手な術も使い様だが、信頼できる技を一つというのも悪くないかと思えて来た。
「どんな状況でも使用可能な。最終的にはCAD無しを想定し、今は性能の悪いCADでも十分なレベルを目指して練り上げます。自分の得意技なら一科生ですら追いつけないほどの練度で」
「それは面白そうですね。何時でも素晴らしいCADがあるとは限りませんし。…それでわざわざ普段は扱わないCADを製造に来られたと」
「粗悪なCADなんてミスター・シルバーが持ってる筈ないですもんね」
例のCADに入る程度でそれなりに使える魔法を示すと、司・甲は俺の話に興味を示す。
だがキャスト・ジャミングに未練があるようで、再び用件を元に戻してきた。
(面倒だな。だが、こいつらとの付き合いを長引かせたくないし、今月中に撃発するように仕向けるか)
元から連中の計画では今月中に事件を起こし、何も起こせなくとも来月には討論会をふかっける気の筈だ。
となればその勢いを後押しする、あるいは今月中に動きたくなるネタを仕込めばいい。
「それもありますが、せっかく一高に入ったのに来月から閲覧室の資料が見難くなるかもと聞きまして、今の内に参照したいデータの摺り合わせに来たんです。FLTのラボでも持ち帰りは不可ですしね」
嘘ではないが本当でもない。
俺が一高からのアクセス制限や、セキュリティ強化を申し出たりしたのは間違いない。
もっともそれは却下されており、念の為にエージェントを派遣するレベルだ。校長の方でも見回りを検討して居るだけだろう。
「閲覧室と言うと、特別閲覧室ですか?」
「ええ。事前申請しないと入室許可が下りなくなるかもしれない。あるいはアクセスの際の手間が増える可能性を説明されました」
そうなる可能性は低いが、実際に提案した事なので調べれば担当教諭から『提案はあった』と返ってくるはずだ。
例え可能性が低くとも、万が一を考えれば今月の計画を実行に移す方が確実だと思い易くなる。
後は駄目押しに、後押しするキーがもう一枚か二枚あればいい。
そしてそのキーは俺の手に在った。正しくは、俺がキーだと言うべきなのだが。
「それにしても流石はミスター・シルバーですね。特別閲覧室の入室許可が出るとは」
「私たちじゃ何のためにって聞かれるのがオチよね。入た事もないわ」
「入れたら入れたらで成果を求められますよ。シンプルで扱い易い術式を調べたら、教師でも生徒でも質問にも答える様に言われる筈です」
「その研究で一番助かるのは私達なのに、先生に習える一科生もってズルーイ」
先ほど簡単な魔法を説明してみせたが、ここで剣道部の話を聞きながら誰それにはこんな術が良いのではと提案してみる。
全員が納得する訳ではないが、幾つか説明した段階で素振りしたりしてみる者が現れる。
(これで俺を浚う、あるいは洗脳する意味が出て来た筈だ。例のCADに丁度良い魔法をインストールでき、事前申告すれば閲覧室にも許可が出ると知ったからな)
七草会長と十文字会頭を同時に襲うのは難しい。
だが、風紀の俺と会長ならば難しくも無い。事件を起こして説得に来た所でも良いし、その後の討論会でも良い筈だ。
二人揃ったところを強襲しまずは会長を抑えるついでに俺を浚っても良いし、そこでまた俺を助けて見せて兄である司・一に合わせれば良いと思う可能性は高い。
(もちろん、その前に俺と会いたいと申し出て来てくれても良い。…偽者だと洗脳までは無理だろうしな)
エガリテに入会したとしても、洗脳魔法で作った偽者の指導者と出逢わされる可能性がある。
よって潜入コ-スはやるべきではないが、司・甲のツテで向こうから俺に接触する場合は別だ。
最悪でも洗脳魔法が…この場合は催眠程度でも使えるメンバーを繰り出して来る必要性があるだろう。
それば基幹メンバーに間違いがなく、そこから指導者である司・一を辿るのは難しくない。
「こんな所で話すのもなんですし、どこかに入りませんか?」
「そうですね。エリカやレオに食事を奢る約束をしてましたし、暫く歩いた場所に在るレストランにでも入りましょう。助けてくださろうとした皆さんにも奢りますよ」
「ええ、良いんですか? やったー!」
「間にあって無いのに悪いわね…」
おそらくはラボか知り合いの道場にでもと言おうとしたようだったが、俺は先回りして適当な店を選んでおいた。
条件はただ一つ、ラボのメンツが行きつけにしてない場所だ。
そこで接触されて潜入経路を作られても困るし、どうせならCADを簡単に弄りながら実演でもして見せればよいだろう。
「問題無ければエリカの方に連絡しておきます」
「問題なんてありませーん! どんな店ですか? 中華? イタリアン?」
「もう、あんたってば食い意地が張ってるんだから。少しは遠慮しなさいよ」
ここで俺はレオの方に視線を移す。
喫茶店で良いだろうとか、道場でお茶でもとと言う言葉を打ち切る為だ。さっきの不壊魔法でかなりのカロリーを無駄使いして居るはずなので、乗って来るだろう。
「レオは何処が良い? 喫茶店でも料理屋でもいいが」
「とにかく沢山食える場所ならどこでも良いよ。さっきから腹が減って腹が減って」
予想通りの答えが返ってきたところで、周囲から明るい笑い声が漏れた。
●対白の用意
食べ易い大皿の問題で、イタリアンでパスタとピザを何種類か頼む。
そしてエリカに集合場所のメールを送るついでに、ラボのメンツ用に牛山にも釘を刺す形で発送。生徒会用には込み入った話になるので市原先輩を選んで電話を入れる。
『なるほど、今月中に事件が起きる可能性が高まるということですね』
「はい。それと例の資料を元に反論考証を勧めておいて頂けると助かります」
七草会長では無く市原先輩を選んだ理由は単純だ。
討論会が起きるとして、魔法系クラブを優遇して非魔法系クラブを差別して居ると吹っかけて来るのは判り切っている。
ならば今のうちに反証を用意しておく方が確実というものだ。
僅かな溜息が聞こえた後で、厄介事に対して愚痴が漏れるのは仕方のないことかもしれない。
『五月にはコンペに向けての討論があるのですけどね、仕方ありません。時間を割いておきます』
「申し訳ありません、お詫びに今度食事でも奢りますよ」
俺がプレイベート保護用の遮音壁越しにレオ達を眺めながら提案すると、即座に御断りの通知が返ってきた。
『それは止めておきましょう、会長たちがまた面倒なことを言い出しそうなので』
「察するにそちらも会長と御一緒ですか? では何かの形で御礼を。では」
良く良く聞いてみれば、市原先輩の方も遮音壁の中から電話して居る様だった。
どうやら会長か誰かと出ていた時に通話してしまったらしい。
月曜からまた面倒くさくなるなと思いつつ、俺は苦笑いでない笑みを浮かべて通信を切った。
遮音壁から出ると、バジルソースの香りが薄く漂っていた。
温度差を感じないので、おそらくはシーフードと野菜をベースにしたサラダパスタだろう。
「レオには物足りないんじゃないか? ピザか何かを適当に頼めばいいのに」
「ここは本格的な窯で焼いてるから、時間が掛るんだと。全部食っちまう訳にはいかないからな」
「あはは。これが一番簡単に作れるやつなんだって…」
剣道部の女性陣はこじんまりとした量でピザやサラダパスタを少しずつつついているのに対し、レオの方は複数ある大皿一つを完全に占拠して居る。
厨房から薫るミートソースの香りを考えれば、次は大量のボロネーゼが出て来るだろう。それもこの調子では何分保てるか心配だ。
「それで、俺達に見合った魔法ってどんなんだ?」
「個性にも寄りますが、そうですね…」
同じ剣道部でも女性陣と違って男性陣は直接的で、面白くもなさそうにコーヒーでピザを流し込んで居た。
俺が女性陣の接待を受けている格好なのが気に入らないのか、あるいは主将から男女別パターンで聞き出せと言われているのかもしれない。
「例えばレオが一科生に上回るのは硬化魔法だけですが、数パターンに絞って習熟して居るので、フォローさえあれば九校戦に出れるレベルですよ」
「本当かよ…」
「まあBS魔法師に近い奴っているよな」
レオのことを
俺がそうであるように、開発計画の意図した戦場に置いて万全の能力を活かせるようにできているのだろう。
「硬化魔法にそこまでの適正では無くとも竹刀が鉄の強度を持ったり、振動系であれば2m程度の衝撃波を放てれば随分違います」
「そりゃな。攻撃魔法ほどの射程がなくても、2mもあれば剣の間合いとしちゃ十分だ」
盾として使える竹刀、あるいは槍の間合いを持つ竹刀。
もちろん実戦とあれば竹刀である必要は無いので、強度も威力も相対的に上昇する。
「後はいつでも使えるような心構えと習熟。それと何にでも使える発想の転換ですね。例えば硬化魔法でビニール傘を強化できるならば攻防共に理想的ですよ」
「あー。傘だと手軽な鉄扇って感じですよね」
「フリル付きの日傘でやってみたーい」
硬化魔法で強化したビニール傘は、名実ともに機動隊のシールドを上回る。
広げれば広範囲を守ることが出来るし、畳めば鉄棒として威力を発揮するのだから。
そしてそこに必要な魔法式は、そう大した物ではない。
二科生でも十分にコントロ-ル出来るし、適正次第では恐ろしいまでの隠匿性と戦闘力を引き出せるだろう。
「でもそこまで魔法式をダイエットする必要があるのかしら? 授業や試合でそんなに制限されることないわよ?」
「常在戦場という訳でもありませんが、小さな魔法式で組み立てられれば、残ったスペースに補助式や予備の魔法が入れられますよ」
ここでの性能は、九校戦などの学校単位での公式試合で用いられるCADだ。
魔法剣術大会やレース競技などでは万全の高性能CADが使えるが、学校単位で平等に扱う試合ではそうもいかない。
極力性能を抑えておくほうが色々拡張できるし、そうでなくとも軽い魔法の方が扱い易いのは確かだ。
「例えば壬生先輩の投擲術を例にすると、徹鉄する対物タイプをメインに余力があれば衝撃を与える対人タイプも使えます」
「ああ、その辺なら同じ投擲術の練習だけで済むな」
あくまで車両レベルの対物貫通を念頭に、人間を痺れさせても良いし、戦車クラスの貫通力を考慮しても良い。
「もちろん加速や加重の強化版でもいいですけど、両手投げするか連投した方が早いでしょうね」
「確かに加速すると、剣道と剣術でクセに差が出るのよね。剣を極めると言う意味では分けて考えた方が無難かな」
当然ながら加速系で対人専を剣で戦っても良いのだが、習熟すると言う意味では投擲術に絞った方が良いだろう。
命中精度の一刀投げに数を撃つ両手投げに連投など、確実に当てる為の訓練を積む方が使い分けが出来る。
(…まあ、こんなものか。これで討論会に成った場合でも、俺が連中にフォローしそうだという期待も持たせられたかもしれん)
そこまで都合特思わせられないにしろ、俺が剣道部に対して親近感を持って、色々アドバイスするつもりがあると見せられれば十分だ。
魔法を使うことを全体に話していたので、キャスト・ジャミングの事で尋ねられ難い土壌も出来た。
後は適当に相手しておけば良いだろう。
食事がスープ・パスタに移るころにはエリカも合流し、デザートをつつきながらの話に移行した段階で、飽きて来た男性陣は引き上げ始める。
そうなると保護者役の司・甲も居難くなり、次第に解散ということになった。
「モテモテじゃない、ちゃっかり女子全員のアドレスまで聞いちゃって。ハーレム狙い?」
「勘弁してくれ。自由闘争のアマゾネスに興味は無いさ」
重要なのは端末を目標に相手の位置を特定する事もできるということだ。
怪しいメンバーが居たら、藤林少尉が暇な時に追跡調査してもらうのも良いだろう。
そうして一日は過ぎ去り、俺達はリンや森崎達に土産のケーキを追加注文して帰還する事にした。
これは剣道部を中心に連中が撃発する、数日前の出来事である。
という訳で前回に
不意をついて痺れさせても良し、失敗して剣道部が間にあっても良し…と大人の老獪さで翻弄して居たことが判りました。
おかげで達也君はブランシュともども無頭竜残党を潰さねばならぬと本気になり、原作同様に壬生先輩達がやらかす為の土台作りです。
次回は原作と同じコースで放送室・討論会、そこでまた戦いが…ということになりそうですが、長さの問題で二話に分けるかもしれません。