●ハニートラップにはご用心
最後に見通しの悪い区画の巡回に入ったので、『目』で軽く捜査。
覚えのある反応が一、だがその人物が魔法を使った瞬間を『視て』居ないので詳細は不明。
あくまで俺の『目』が魔法に対して特化している為だが、死角ではないので構うまい。
「内密の話ですか、桐原先輩?」
「ああ。つるんで居る所を見られたくない。適当に歩調を合わせてくれ」
内容はおおむね予想できる。
司・甲が校内の対立を助長している容疑者だと言いたいのだろう。
「ブランシュの関連で妖しい人物に心当たりがあるという御話だと思いますが…。感情論では証拠に成りえないのでご注意ください」
「言われるかもとは思ったが、まさか口にする前に先回りされるとはな」
昨年の魔法剣術大会決勝戦で敗北して居るがゆえに、偏見である可能性が高まってしまう。
司・甲がエガリテに所属して居ると知らない者には、多少の証拠では動く根拠には成りえまい。
「とはいえ、一応の根拠の他に証言を考えて来た。あの大会には奴の目と体術以外に、もう一枚対策があったと言ったらどうだ?」
「それには気が付きませんでした。先輩の奇襲が読まれて居そうな状態には見えましたが」
近接向けの魔法の中には、強力さよりも的確さが重要なモノがある。
魔法の発動と動きを過敏症の目で確認し、予め鍛えておいた体捌きで対処。
後は簡単な魔法を駆使して、攻防に渡る動きをフォローしていたのだと思っていた。
「引っかかった俺が言うのもなんだが、剣道部の壬生と付き合って居たことが合って、大会前に言い掛りを付けて司に乗りかえられた」
典型的なハニートラップだ。
魔法師は貞操を守るが早婚するという風潮があるので、仕掛けやすいとも言える。
逆に魔法の扱いは心理的動揺が響くので、調子を落とすには十分かもしれない。
「癖を見抜かれた上で心理的に追い詰められたと? それは故意だとしても同情できませんが」
「これが根拠にならんのは重々承知だ。…しかしな、言い掛りがチグハグな割りに本気で怒って居たんだが、思い返してみると同じ違和感がもう一つあった」
桐原先輩は少しだけ照れては居たが、怒りを覚えている様子は無い。
騙された自分が悪いとは認識して居ても、こちらを信じさせようと強弁する気はないようだ。
「根拠の他に証言とおっしゃられましたね。ということは、第三者が居る訳ですね?」
「そういうことだ。…渡辺先輩に手酷くあしらわれたと言う話題が出て、試合を取り持ったことががある。だが、本人に問い合わせるとそんな事は無い」
渡辺委員長か。
あの人ならば回りに合わせて嘘を突いたりしないだろうし、身内用の証言者としては適任ではある。
正式ではないにしろ、身内で試合をしたなら忘れているはずもあるまい。
警察を動かす事は出来ないが、会長やエリカ達を説得する材料くらいにはなるかもしれない。
「壬生は『自分如きでは勝負にならない』と言われたつもりだったらしいが、先輩は『自分の腕ではもう壬生に勝てない』と言ったんだと。おかしいと思わないか?」
「最初は本当にそう勘違いして居たとしても、いつまでもそのままと言うのがおかしいですね」
伝え聞く性格を聞いているだけでも、一度聞いただけでショックで諦めるとか激昂するなどありえまい。
当然、何度かは食い下がる筈だ。
それをしていないのは、もう一度口にする前に第三者が何かを吹きこんだか…。
「この事を思い付いてから、改めて振られた時を思い出すとだな。やはりおかしい」
「壬生先輩、渡辺委員長。そして壬生先輩と桐原先輩との会話との齟齬が大き過ぎる…と言う訳ですね? 概ね判りました」
このすれ違いは当事者以外からもある程度は聞けるだろうし、介入者がいれば見ている事も可能だったはずだ。
ならば可能性は高いと言えるし、十分な『理由』にはなるな。
「そう言う訳なんだが、何か判るか?」
「難易度の極めて高い技術的な方法か、生まれ付きという前提で系統外の精神魔法ならば」
そこまで強力な刷り込みは、技術的には無理か、さもなければ重度の問題が起きる。
それを考えれば、精神魔法の方が可能性が高いだろう。
「相談に乗って話している間に使用するとしても、一瞬の隙を突く必要があります。その意味では身内である剣道部は妖しいと言わざるを得ません」
短い付き会いでは不可能だが、同じ部活ならば接点を作って第三者の前に連れ出す事も出来る。
それならば、生まれつきの能力であろうと可能性は拡がるし、司弟の手引きで兄と引き合わせるだけなら簡単だろう。
そして、この流れが真実であろうと違おうと、状況証拠としては十分だ。
後はCADなり武器の一つなりを、『発見して見せれば』いい。
入念に隠して居れば悪辣な手段に頼らざるをえないが、連中の手際的にそこまではしていないだろう。
むしろ小難しく動いた揚句、暴力で策を押し潰されることを警戒すべきかもしれない。
悠長に証拠固めをしている間に、七草会長が誘拐でもされたらコトだろう。
(今朝がたリンが口にして居た『交流会の悲劇』は、うちの御袋が被害者だからな。会長が同じ目に在ったら激怒どころでは済むまい)
親しい人間が被害に遭った事件、これから親しくなろうとしている人間が被害に遭うかもしれない事件。
それを考えた時、俺の脳裏に僅かな怒りが差し込んで来る。
そして、それが深雪に及ぶかもしれないと考えが至った時、俺の怒りは沸点を越えてむしろ静まって行った。
ブランシュは消し去る…それだけだ。
「お前の評判を考えると、もう一度同じことをやって来るんじゃねえか? 壬生が剣道小町ってのは間違いがねえからな」
「それで先輩は、剣道部に関してどう対処して欲しいのですか? もちろん、喧嘩を売られればなんとかしますが」
少しだけ悔しそうで、何かを振り切るような表情。
壬生先輩がそんなに尻軽だとは思いたくは無いのだろう。
だが、洗脳であればそんな事を思うだけ無駄だ。桐原先輩も結局はその続きを口にした。
「そうだな。壬生の悩みであれば聞いてやってくれ。魔法を開発するのは得意なんだろ? あとはお前が連中に取り込まれなきゃ構わねえよ」
「ご自分を利用した相手に随分とお優しいですね。ですが判りました、精々洗脳されないように情報を聞き出して断定しますよ」
恥ずかしそうに顔を背ける辺りで、先輩の性格が判る。
惚れているが文句を言う気は無いし、拘束する気も無い。
彼女が俺に本気になるならばそれで構わないし、困っているなら助けて欲しいというのも本当なのだろう。
随分甘いとは思うが…。
洗脳されているのは桐原先輩の勘違いで、説得され工作員に成り下がっていた時は処分する。
だが、そうでないならば別に先輩の頼みを聞いても差しつかえあるまい。
「一応は恩に着とく。それとな、対立を利用できるなら俺も利用する。お前は知らん顔をしとけ」
「剣道部と剣術部のいさかいが起きた場合ですね。…不正使用は程ほどだと助かります」
本当はそんな『流れ』にならないのが良いのだろうが、テロ組織にイニシアティブを取られた状況で文句は言えない。
自分で悪役になると言うならば、利用させてもらうとしよう。
こちらとしては別に困らないし、会長にだけは事前説明しておけば最悪でも退学にはなるまい。
つい、進展した事態に気を取られながら、俺は巡回を切り上げて生徒会室に向かった。
新たな面倒事に巻き込まれているとも知らずに…。
●氷の美貌と、根回し作業
壬生先輩の食い違う記憶という情報を手掛かりに、強弱合わせて幾つかの魔法を考慮しながら生徒会室に向かう。
答えの出ぬままに辿りつくと何故か会長のニヤニヤ笑いに迎撃された。
「ちょっと聞いたわよ達也くん。リンちゃんを口説くなんてやるわね。リンちゃんはちっとも答えてくれないのだけど…」
「ほ、ほんとーですか~!?」
「っ!?」
ピーっ!
七草会長の言葉に反応を示したのは、俺よりもむしろビープ音だった。
ミスをすると鳴る様に組まれているそうで、実に趣味的だ。
平然としている市原先輩は自分の端末を使用して居るので、彼女の反応で無いのは確かだが。
しかし心当たりが無いので仕方無く尋ねることにする。
「なんのことですか? 身に覚えが無いのですが」
「しらばっくれちゃって。壁ドンまでして居たと聞いてるわよ。お姉さん見たかったなー」
「僭越ながら、壁ドンとはいかなる所業なのでしょう」
俺の質問に対し会長はますますニヤニヤ笑いを強くしていたが、奇妙な表現を確認して深雪が手を上げた。
ただし、その顔は凍りついた様な笑顔が張りついている。
「んっとねー。アーちゃんの所のディスプレイが壁として。『俺のモノになれよ』とか熱烈に求愛する事よ」
「ふ、ふえー。近いです近過ぎます。きゃうー」
「っ!? ……お兄さま。どう言うことかお聞かせ願いたいのですがっ」
会長は妙に作った声で中条書記の元に行き、片手で顎をクイっと持ち上げながらもう片方の手でディスプレイ画像の手前に手を付ける。
ピーッっと強烈なビープ音とは逆に、深雪の笑顔が強烈になった。
なるほど、あの音は深雪のミスか…珍しい。
それにしても目が少しも笑って居ないので、俺は即座に解凍(回答)することにした。
「単に秘密を必要とする会話をしただけだ。それと会長、俺は顎など持ち上げては居ませんが」
「そう? リンちゃんも大人しく目を閉じていたらしいけど…。秘密ってどんな秘密なのかしら? 何処でデート? それとも二人の今後?」
「あ、逢引きだけでなく、今後を話し合う仲だと言う事ですか?」
俺の言葉を一切聞きもせず、会長と深雪が俺に詰め寄って来た。
仕方ないので言を重ねようとするが、良い言葉が思い付かない。
濡れ衣に微妙な真実が混ざっているので、打開をし難いのだ。
「深雪、落ち付け。会長はありもしないことを煽っているだけだ。今後と言ってもそんな内容じゃない」
「今後について話したのは本当なのですね? 一体、どんなことを話したのやら…」
駄目だ。
普段は冷静な深雪が、意外なことに激昂して居る。
言葉を聞いて居ないと言うか、一定の状況が先に念頭にあるようだ。
まるでテレパスで共有しているかのように、二人は俺が市原先輩を口説いたのだとに敷きしていた。
この自体を打開したのは、意外なことに…。
いや、冷静に考えれば意外でもないんでも無い、もう一方の当事者の市原先輩だった。
「九校戦の切り札を聞いただけです。以上」
「九校戦の?」
「切り札とはもしや…」
市原先輩は手札をチラリと見せるだけで、流れを遮断してしまった。
何のことか判らない会長は首を傾げ、予想がつく深雪の方はハタと考え始める。
そういえば、テレパスは念頭に浮かんだことを繋げる精神魔法。
サトリと呼ばれるBS魔法を防ぐには、異なる思考で混乱させるのを一番だと師匠に聞いたことがあるが…。
イメージ的には同じ様なモノだろう、どうやら市原先輩は会長の扱いに慣れているらしい。
会長と深雪の間に共有されていた情景が見事に断裂する。
「司波さんならばその切り札に予想が付くのではありませんか? 重要性からすれば知る者は少ない方が良いでしょう」
「そう言うことならば仕方ありませんね。…申し訳ありませんでした市原先輩」
市原先輩は深雪の中にある答えだけで状況を整理してしまった。
ずっと対処法を考えていたのかもしれないが、イザという時に落ち付いて考えられるのはポイントが高い。
なるほど、会長が戦力として加えることを進めるのも判る気はした。
「でも良いなー。どんな魔法なんだろう。…専用のデバイスとか造ったりするんですか?」
「完成すれば普通のCADでも発動できますね。もちろん専門化したCADで使用するのが思想的ではあります」
判らないのがこの中条書記だ。
勉強や魔法実務としては申し分が無いのだろうし、この間見せてもらった分析力から技術方面でも行けるのは判る。
だがどうしても荒事には向いている様には見えない。
どちらかというと大切に守っておいて、後方で活躍してもらう方が良い様に思えるのだ。
世の中には克己心と反骨心で命令をしない方が良い者もいるが、一から十まで指示した方が安心して働ける者も多い。
中条書記の性格的には後者の方だと思えるし、同じ方面であればまだ千代田先輩と五十里先輩のカップルに協力を要請した方が良い様な気がするのだが…。
そう思って居た所、会長が意外な話をし始めた。
「こないだ悪い奴がこの学校を狙っているかもって言ったわよね? あーちゃんの梓弓で協力してあげたら、そのCADを御礼に貰ってもバチはあたらないんじゃないかしら」
「わ、私がですか!? そんなこと…」
「そうですね。放っておいても悪者は勝手にやって来ますし、そこを中条さんの魔法で協力すれば貢献度は高いと思います」
会長が中条書記に囁きかけると、すかさず市原先輩が畳みかける。
良いコンビネーションというか、会長の参謀役というポジションなのだろう。
「梓弓と言う魔法を聞いた覚えが無いのですが、もしや古式魔法か系統外の精神魔法ですか?」
「もしかして達也くんってライブラリィと直結してるんじゃないのかしら? その通りなんだけど、精神に働き掛ける能力なの」
「会長、その言い回しでは誤解を招きます。あくまで鎮静化に特化して居るとおっしゃるべきでは」
そして、ここでのポイントは『鎮静化』ということだ。
先ほど、飛行魔法という言葉を出さずに深雪を説得した先輩である。
あえて言葉に出した以上は、意味のある事だろう。
「古式魔法は白と黒、同じ術が二系統に使えると聞き及びますが? あくまで精神安定限定と?」
「中条さんの性格的には情動を高ぶらせて攻撃に…というのは難しいですね。ゆえに学内限定で許可が下りているのですが」
幹比古との会話のついでに調べたが、梓弓の儀式補助に近い能力なのだろう。
梓という中条書記の名前から取ったのではなく、古式魔法由来の精神魔法だからということか。
強制・洗脳して使うには難しい術であるし、学校内での実験や治安専用で許可が下りているのならば知っている者も少ない切り札に成り得た。
これならば会長が戦力に成ると行った理由も理解出来る。
攻撃力・防御力に優れている魔法師が一番困るのは、パニックになって戦力外どころか足手まといに成ることだからだ。
中条書記を守り通すことで、他の学生達を冷静にできるならば、敵を潰す際に後ろから撃たれることもないだろう。
「そう言うことでしたら、サンプルモデルで良ければ提供しますよ。ナンバリングは入っていませんが構いませんよね?」
「逆に言えばノー・シリアルの限定品って事ですよね!? まかせてくださいっ、どんな悪者だって通しません!」
さきほどまでおっかなビックリと言った風情だったのに、突如として勇ましくシャドーボクシングを始める。
子犬が自分ができることを盛んに示しているようで、例えは悪いが思わずクスリと仕掛けた。
中条先輩の性格が判った気がして、能力ともども御厄介になることにしよう。
「学外での暴漢騒ぎは警察に任せますし、学校内に襲いかかって来てもパニッだけをお願いしますので安全ですよ。戦うことは無いかと…」
「なら余計に問題はありません! どんな状況でもバッチこいです!!」
「…二人とも、私よりもリンちゃんの説得なら素直に聞くのね。自信なくしちゃうわ」
思い付いた方法で誘導すると中条先輩は嬉しそうに頷くのだが…。
今度は逆に会長がふてくされ始めた。
そして不満を解消しようと、消えた筈の爆弾に火を点け直そうとする。
「でもリンちゃんも満更じゃなかったんじゃない? 実は性格の合わない人とは会話を続けるのも嫌いなくせに」
「私も女ですから一応は…。ですが魔法師の未来を語り合う方がずっと楽しいですね」
「未来の中にはお兄さまとの仲も入っているのでしょうか?」
せっかく鎮火したはずの火種に会長はニトロをぶちこもうとしていた。
恐ろしいことに市原先輩は頬に手を当てて、悪くは無さそうな表情をする。
お陰で無視しようとしていた深雪も再び加わって、針のムシロに座っている気分だった。
「安心してください。現時点でそのような気持ちはありませんし、行動する場合はあらゆる手段を講じます」
「…そのあらゆる手段とは具体的にどのような方法を? もしやお姉さまとお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
キッパリと言い切る市原先輩であるが、よせば良いのに深雪は尋ね続ける。
その意味では市原先輩も誤解を招く様な表現をしなければ良いと思うのだが…。
返って深雪の怒りを招き、周辺に冷気が及び始めた。
「っ!? 氷の美貌じゃなくて。本当に凍り始めてますよ」
「よっぽど事象干渉力が強いのねぇ」
( 中条先輩は二人の会話に軽く腰が引け、意外なことに会長はアッサリ引きさがった。
よほど市原先輩の手腕というか、深雪を説得すると判断しているようだ。
つまらなさそうに残りの雑務を片付けに入ってしまった。
「必要なキーだとしたらですが。私は別に…イノセント・タブーなど気にしませんよ?」
「っ!?」
「え…? リンちゃん今なんて…」
「え、ええ……?」
市原先輩の爆弾発言に深雪は絶句。
さしもの会長すらビープ音を出しながら尋ね返し、中条先輩はキーボードに顔をうずめてるほど顔を赤らめる。
能力と権力を維持する為に近親者で交わるなど、古代史の世界だけだ。
なんというか生臭い会話だが、いつからここは古代史の世界に入ったのか俺は疑ってしまう。
この際だが、深雪に施術した駄目な方の親父の技術ならば、肉親関係であろうが悪影響が出ない可能性があるとかは無視しておく。
「お姉さま! 私達、仲良くできそうですねっ!」
「み、深雪さん。貴女本気なの?」
「ふええーー!?」
こちららは見えないが市原先輩の手を取った深雪は笑顔なのだろうか?
会長まで腰が引け始め、中条先輩は思考回路が完全にショート寸前だった。
もちろん俺には、女性の思考回路は理解の範疇外である。
「そのように本気に取られると、冗談だと言い出し難いのですが」
「お兄さままでそのようにポカンとされなくてもよろしいと思うのですが」
「…そうよね、冗談よね?」
あまりの展開に、冗談と言う言葉がシックリ来る。
深雪は完全に毒気を抜かれ、会長はストレス解消のために俺を弄るどころではない。
とはいえあまりにも気まずいので、俺は強引に話題を転換する事にした。
今朝がたリンを匿った様々なCA調整用の部屋の事を聞いてみる。
「会長、これから例の部屋に寄って行こうと思うのですが、あの部屋は一体?」
「あ、興味ある? あそこはね、うちの技術チームの活躍を受けて、来年から技術課程が選択できるように成る予定なのよ」
納得できる内容であるが、僅かに引っかかりを覚える。
確かに五十里先輩の技術は相当な物だし、中条先輩の腕も及第点以上だろう。
だが、昨年の九校戦メンバーやコンペに一年生は参加して居ない。
そして、どちらかといえば、一高の活躍は会長たち選手側に依存して居ると聞いたことがあるからだ。
勿論、彼が今年の九校戦で活躍し、俺が加入することで確かに充実するだろうが…。
この事が意味する謎。
それに会長の活躍で射撃場が新設された事を繋げていくと、ある種の仮説が成り立つ。
「もしや会長の協力者は校長ですか?」
「判っちゃう? 元もと一科生と二科生の対立を良く思って無かったのは校長先生なのよね」
おおよその筋書きが見えてきた。
会長が感情面で対立を許容できないのであれば、校長は理屈的に納得できないと言う差はあるだろうが。
校長は色々と起きた事態を利用し、予測できることを全て利用しながら『第一高校』という学び屋を寄り良くしていくつもりなのだ。
例えば一高が劣っていた技術面で警鐘を鳴らし、五十里先輩たちの台頭を支援すると言う理由で技術系の設備を用意する。
そして彼らが今年活躍し、その成果を助長するのは俺の加入と言う訳だ。
以前から根回ししている状況で、一高の技術スタッフが以前と比べて大活躍したとなれば、反対して居る教師も黙るだろう。
これに二科生すら、技術的サポートで活躍できると言うなら止める方がおかしい。
「参ったな。全て計算尽くだったわけですか」
初日に行った駆け引きは、ようするに全て出来レースだったわけだ。
会長から先生達の性格とデータを聞き出して、裏での調査を補強して話を進めたつもりだった。
だが難関であったはずの校長は、厳めしい顔で文句を言うフリをしていただけということだ。
「…ですがこれならば桐原先輩の提案を呑めます」
「桐原くんがどうしたの?」
俺は道中で桐原先輩に出会い、情報提供を受けたこと。
何か問題が起きそうな時は、積極的に行動を起こして『剣道部が俺に近づく』理由付けになるとの提案を説明した。
「釘は刺しておきましたが、穏健に収まる保証はありません。取り締まるであろうこちらで何とかするつもりですが…」
「判ったわ。魔法の不正使用に対する厳重注意で済ませれば良いのね? あーちゃん達は知らないフリをするか、近くで起きた時は離れてちょうだい」
「わ、判りました!」
桐原先輩が勝手に言い出したこととはいえ、そのまま退学でもされては寝覚めが悪い。
予め根回しする事で、学校内の記録を抑え、証言も何とかする。
こうして俺達は、これから起きるであろう学内の問題に対処する事にしたのであった。
と言う訳で、桐原先輩とこれから起きるであろう一悶着は、根回しした上で行われることになります。
生徒会側で時間も調べられるので、達也君が偶然では無く意図的に立ち合うことに成る予定。
実は校長が味方で、騒ぎを納めるのに協力してくれたり、来年に技術科ができるお話をここで利用します。
どうように、あーちゃんが奮起する話も会長選は無風になる予定なので、ここで利用。
今回から、リンちゃんあーちゃんの性格に触れて打ち融けてきたので、内心では会計・書記呼びで敬称つけてたのが先輩呼びで多少フレンドリーになっていきます。
前に出ていた、司先輩と桐原先輩の試合の裏側ですが、以前にクラッシュブレイズで見たネタを流用。
技術面で超強化されたスーパー司先輩に対し、桐原先輩はハニトラで癖を見抜かれ心理的にダウナーだったことに成ります。
ついでに渡辺委員長との確執をここで出しておき、洗脳魔法があることなどを提示。
情報戦で有利に立った側が、そのまま有利に立ち続けるということが関係者に周知されて行きます。