√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

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お祭り騒ぎの開宴

●一人多い登校者

 疲れで気だるさが残りながらも、充実感が上回る目覚め。

 俺は昨日の出来事を思い出しながら、確かめるように言葉を紡ぐ。

 

「自在師の情報だけでなく、ブランシュに吸収された勢力の情報や『紅世の徒』の情報か…」

 登校数日の段階で、事態が大きく進展して居た。

 やはりシュミーレートと違って相手が…それも複数の勢力があるというのが大きな原因か?

 

「思ったよりも進展が早いな。都合良く俺が望むペースでとはいかんか」

 偶然と見るよりは、他者の介入が合って突き進んだ。

 あるいはこちらの対応を上手く利用されていると考えた方が無難だろう。

 

 例えば、刻印魔法の使い手への紹介を要求した時。会長は快諾したが既に相談している相手とまでは言って居なかったように。

 例えば、リンは何者かの関与を懸念して居ても、それが『紅世の徒』やブランシュのスポンサーだとは知らなかったように。

 

 了承する事は前提であっても、全てを語っては居なかった。

 無理にこの流れを断つよりは、用意された流れに乗りつつ逆に利用するくらいの方が健康にも良いだろう。

 駒としてこちらを良い様に扱いさえしなければ…、お互い様の関係で有れば問題は無い。

 

 着替えながらそんな事を思いつつ、食堂に行って出発や食事の準備をすることにした。

 

「おはようございます、お兄様。お食事でしたら私が」

「深雪に任せておけば安心できるか。じゃあ、俺はエリカや幹比古と合流の連絡を付けておくことにしよう」

 俺はそこで食事をっ深雪に任せて、エリカや幹比古にメールを打つことにする。

 

 二人とも朝練に励むタイプと思われるので、この時間ならばもう迷惑でもあるまい。

 少し思案をした後でエリカには小道具の注文を、幹比古には美月や呪具のことを確認しておく。

 

 そうしている間に遅くまで見張っていたレオや、リンに浮き沿う形で森崎もやって来た。

「昨日は達也が来るって言ってた、ここの警備以外は何も無かったぜ」

「嗅ぎつけられて居なければその筈だからな。…リンさんに少しお願いがあります」

 まあ当然だろう。

 亜夜子たちの気配を感じたとしても先に偽りの説明はしたので、レオに区別は付かないのは自明の理。

「…何? 文句を言える立場じゃないのは判ってるけど、嫌な予感がするのだけれど」

 同様に共闘関係で色々要請できる筈の俺が、ワザワザお願いなどと下手に出る以上はリンに取って文句が出ることしかない。

 

「一高で風紀委員は例外的にCADを所持出来るのですが、俺は誘われて居ますし…森崎もおそらくはそうでしょう」

「確かにそうだが、お前もか…」

「言いたいことが判ったわ。高校生の真似ごとをしろってことね」

 説明と説得を同時にする為、俺はCADを自分達だけが所持出来る可能性が高いことを告げた。

 戦力的に他者より優位に立っており、風紀という見回る立場の二人が居るのだ。

 ここで学校に入り込まない手はあるまい。

 

「加えてですが、俺と深雪は一高の七草会長とも縁があります。ブランシュの情報提供者と説明すれば無碍には扱わないでしょう」

「先に逃げ道を塞ぐなんて酷い男ね。これで断ったら私が馬鹿みたいじゃない」

 やはり頭が切れると話が早くて助かる。

 戦力的にも、保護する場所の候補としても学校の方が多くの選択肢を取れるのだ。

 大学生か高校生が微妙な年齢に見えるし、年齢にこだわりがなければ、俺の提案に乗っても損が生じない。

 学校での行動も会長に頼んで、IDカードの問題さえクリアすれば自由に行動できる。

 

 あえて言うなら入りこんだブランシュの連中が襲う可能性だが…。

 それはこの屋敷に留まっても、追跡者が見付けたらと考えれば同じなのだ。

 ならばむしろ、似たような背恰好の学生達に紛れた方が、誤魔化せる可能性は高い。

 

「確認するが、このまま出ずに片付ける選択肢は無いんだな?」

「何時までと区切りが付けられないからな。王族の継承問題みたいな場合は別だが」

 無頭竜の方にそういう風習があったとしても、吸収するブランシュには通じないだろう。

 

「なら私に否定すべき言葉はないわよ。サイズの合う服くらいは調達してもらわないと困るけど」

「それならばエリカに頼んで居ます。合流次第に、ダミー用の呪具込みで着替えが出来ると思いますよ」

 渋い顔をするものの、リンはそれ以上は言ってこなかった。

 俺達がこのまま彼女に付き添えない以上は、これより他の選択肢は無いのだ。

 そうすることで敵の追及をかわし、手出しがあれば昨日のように叩き潰す事で焦りを待つしかないと判っているのだろう。

 

 こちらも亜夜子たちにアジトの場所を探してくれと頼んではいるが、具体的にどんなテロを企んで居るか判るまでは四葉家も動かす気はあるまい。

 告げる必要もなく、向こうが信じる可能性も低いことなので臭わせもせずにおいた。

 

 こうして俺達は、新しいメンバーを加えて学校へと向かうことにした。

 

●人と人との連なり

 

 学校への途中、幹比古たちと合流。

 SBを見れる美月と一番の戦力である深雪が連れ添って、リンが着替えている間に色々と申し合わせておく。

 森崎が全体を見渡せる場所を抑えているので、人間の目で見付けられるという事もあるまい。

 

「ひとまずブランシュに繋がる情報と引き換えに、会長に話を通して学校での居場所を確保してもらう」

「セーフハウスは七草家の方が多いし、そちらも借りられれば万全ね。あーあー。うちのコネが使えたらな~」

「お前んところは警察関連だろ。無茶言うなよ」

 エリカもレオもここまでの流れに疑問はない様だ。

 俺は頷いて、本命である幹比古の方に視線を移した。

 

「誤魔化す為の呪具は用意してあるよ。置延術式みたいなものだから、取り置きが出来るモノはそう造れなかったけど」

「それで構わない。会長が頷くか次第だが、不自然でない程度に吉田教諭へ連絡が取りたい」

 幹比古が造った呪具の内、魔法的な効果がある物は流石に数が作れない。

 それにいつまで続くか判らない段階では、臭いや外見で誤魔化すことで負担を軽くするべきだろう。

 

「一美ちゃんに? ああ、サボリの口裏合わせね」

「怪我とかしてるはずねえもんな。精神的にまいったって事にしておけば、魔法が使えなくても問題無いか」

「僕のほうは別に構わないけど…。ここで話すってことは、面倒なことでもあるの?」

 エリカとレオは納得顔だが、やはり幹比古は誤魔化せないか。

 単なる証明書造りならば、昨日の時点や今朝のメールで済むからだ。

 その方が手間が無いのに、今ここでワザワザという事に意味を見出したのだろう。

 

 …なぜならば、吉田・一美は『紅世の徒』と戦っていたはずの自在師だからだ。

 

「話す前に尋ねる」

 俺は予め、予防線を張っておくことにした。

「あくまで仮定の話、それも遠くの危険性だ。それでも聞きたいか?」

 陽性の強いこの連中ならば問題無いと思うが、聞かない方が良い話題もあるからだ。

「ここまで来ておいて今更ナイショは無しだぜ。水臭せえじゃないか」

「そーよ。一蓮托生と言うか、聞かなかったら後で聞きだすから」

「後悔するからじゃなくて、やっぱり聞くんだね。…僕も聞くとしようかな」

 聞くまでも無いことだと言わんばかりに二人は、残る一人も躊躇しながら頷く。

 

 これは無意味な問答かもしれないが、後に成って大きな意味が出て来る。

 関わる覚悟の無い者に話す必要は無いし、聞いた以上は自分の意思の範疇では協力してくれるだろう。

 

「まず。幹比古が視認させてくれたSBは、あの手の中で下位現象だ」

「基本的には追うだけ、見たことを簡単に伝えるくらいかな? 少し上になると魔法を遠くへ届けられない事も無い」

「なんだか凄いのか大したことないのか判らねえなぁ」

 俺が口火を切ると、幹比古が専門家らしく説明を受け継いだ。

 

「上位に成ると天候すら操りかねないけど…。達也が言いたいのは、そう言うことじゃないんでしょ?」

「ああ。もっと上の連中だと人間は食物連鎖の頂点には居られない」

 流石に専門家には察しが付いてしまうか。

 そもそも、自在師である吉田教諭に繋ぎを求めた段階で、怪しまれていたのかもしれない。

 

「それって、俺ら人間が食われちまうってことか? ゲー聞くんじゃなかったぜ」

「そうかな? あたしは逆に聞いて良かったと思うけどね。何も知らずにただ食われるのは許せない」

 最初は頭を抱えて居たレオだったが、エリカが不敵な笑顔を浮かべると吊られるようにニヤリと笑った。

 もともと恐れて居なかったのか、あるいは旅の途中でそういう噂を聞いていたのかもしれない。

 

「昨日、達也くんが物心ドウジ斬りを勧めたのはそう言う理由もあったわけ?」

「まあな。リンの父親たちをやったのがそいつらだとすると納得がいく。今は遠くの出来事と言うのは、そう言う理由だ」

「じゃあ、一美姉さんへの繋ぎというよりは、リンさんを守るってことだね」

 エリカと幹比古はそれぞれにするべき事を理解したようだ。

 剣の才能と超感覚があるエリカは、その能力を紅世の徒にも通じる様にする事。

 幹比古は吉田教諭を通じてフレイムヘイズを動かし、対策法や専用の術があれば尋ねるということである。

 

「あとは自在師の中でも精鋭、最も武闘派と呼ばれるフレイムヘイズを動かせれば理想的だな。少なくともリンが食われる可能性は無くなる」

「そういえば今は活動が活発じゃないって話だよね。まあ可能な範囲で伝えて見るよ」

 最も重要なのは、アンダーグラウンドを餌さ場にする紅世の徒を牽制する事だ。

 

 紅世の徒とて愚かではあるまい。

 無関係な輩であれば、その場を退散して雲隠れするだろう。

 逆に、技術者を餌さ場にする奴と同じ個体、あるいは協力関係にある存在であればこちらに拠点を移すはず。

 

 後は活動が大きくなって存在が露呈した所を、倒すなり追い込んで袋叩きにしてしまえばいい。

 …この手で倒せればさぞ気分が良いだろうが、そんな感傷は余分で余計。

 今は深雪を守りつつ、確実に倒す事を目標とすべきだと自分を納得させた。

 

 やがて一高の制服に着替え終ったリンが、美月や深雪と髪型を揃えてやって来た。

 それぞれに髪の長さや質は違うが、ぱっと見だけなら姉妹に見えない事も無い。

 同じ人物に見せるのは無理でも、こんな風に知らない人間を誤魔化すには十分なのだ。

 

「何かあった?」

「いえ。…何も」

 リンの質問に対し、森崎がこちらをチラリと見てから否定した。

 

(読唇術か。迂闊だったな)

 良く考えれば護衛業で名前を馳せる森崎が読唇術を使えるのは、そうおかしなこともでない。

(だが、これは嬉しい誤算だな)

 『表』の用事で森崎が使えると判ったし、こちらの密談を好意的に解釈しているようだ。

 紅世の徒に関して理解はしておらずとも、リンが食われることがないように配慮したと受け止めたのだろう。

 

 こうして俺達は意図せず、戦える者全員で紅世の徒の情報を共有したのだった。

 

●顔を合わせた者と、手を取った者

 

 少し登校した所でカフェで暇を潰すメンバーと、生徒会室に向かうメンバーに別れた。

 俺は深雪の他に森崎とリンを連れ立って、生徒会室に向かう。

 

「会長。少し構いませんか?」

「ええ。…森崎くんが居ると言う事は、昨日の暴漢騒ぎから護り通した依頼主さんかしら?」

「は、はい! 騒ぎを納められず申し訳ありません」

 会長は視線を森崎と言うよりはリンに移し、生徒会室のドアを大きく開いた。

 暗に入って来いと言うのを理解しつつも、気真面目に頭を下げる辺りが森崎の森崎らしいところだろうか。

 リンはその様子が気に入らないのか、それとも会長が気に入らないのか黙ったままだ。

 

「こちらはリンさんとおっしゃって、ブランシュがらみの関係者です」

「あら…意外な展開ね。でも助かるわ。お話が聞きたいので入っていただきましょうか」

 会長は手で口元を隠しながら驚いた様子を見せるが、目はちっとも驚いては居ない。

 考えるまでもなく、昨日起きたことを七草家の関係者に調べさせたのだろう。

 事件の真相はともかく、何が起きたかは知って居たに違いあるまい。

 

「第一高校生徒会長の七草・真由美です。お時間を取らせて申し訳ありませんが、中で少し構いませんか?」

「リン・リチャードソンです。シュン…森崎君にはお世話に成っております」

 二人の目線がぶつかった後、場所を生徒会室に移して話に入る。

 

 最初は牽制し合って話が進まないのではないかと思ったが、意外なほどにスムーズに展開して行った。

 昨日起きたこと話し合いの中で整理したことを踏まえて、アンダーグラウンドにある組織がブランシュに吸収された所まで一気に説明が終わる。

 

(これは…。手札を切る気だな)

 駆け引きというものは良し悪しだ。

 待遇を良くする事にも繋がるが、悪化する事にも繋がる。

 もちろん俺達がある程度知っていると言う事もあるだろうが…。

 事態を理解させる為にここまでの情報はスムーズに出した以上、隠している情報を使う事で保護させる自身が在るのだろう。

 

「もしかして、リンさんは何が起きるのか知っていらっしゃるのかしら」

「その通りです。テロとかいう、何処か遠くの地で良く見る日常などではありません」

 やはりというか、リンは情報の全てでは無いにしろ此処で話すつもりだったようだ。

 

 ならば此処は、話し易いように援護射撃を入れた方が良いだろう。

「会長。ここはリンさんを保護する代わりに、御協力を願ってはいかがでしょうか?」

「そうね。一高の生徒会長として…。いいえ、十師族の一員である七草家の者として、当局に知らせずに安全を確保させていただきます」

 超法規的に扱い、警察に知られたら捕まってしまうような情報でも構わない。

 そう告げる事で取引し、安全に国外への逃亡ないし日本での生活を約束する。

 

「その言葉、信じます。そうですね、まずは何から話したものやら…」

 無論、リンの方も全てを信じたわけではないだろう。

 言質を取ったと言っても、あくまで言葉での約束。

 紙面に残る契約であろうが、必要ならば破る事もあるのが政治だ。

 そう言う意味に置いて十師族は貴族的に信用が置けない面もある。

 

 だから、リンが話したのは乗って来ると確信したからだ。

 結論から言うと、第一高校という母校に愛着を見せている時点で、会長は情報提供者を裏切らないに違いあるまい。

 そう言う種の隠し玉であった。

 

「少年少女魔法師交流会を御存じですか? アレを馬鹿馬鹿しく拡大解釈した計画の様です」

「えっ!」

 思わず本気で驚く会長だが、それも仕方があるまい。

 少年少女魔法師交流会は魔法師を浚ったもので、十師族の子女に取って語り継がれるほどの悪夢だからだ。

 当事者であった四葉家と七草家にとっては、今なお残る瑕と言って差し支えあるまい。

 

「今時、DNAを目的とした誘拐ですか? そんな手間だけ掛る馬鹿な事を…」

「拡大解釈と申し上げました。そうですね、とある組織には人を加工する技術があるそうですよ?」

 信じられないと言った表情の会長に、リンが駄目押しの一撃を放って来る。

 

「もしや昨日のエージェント達はその産物ですか? なるほど手を焼かされるわけだ」

「なに人ごとみたいに言ってるんだよ! 俺達が、一高の生徒が狙われてるってことだぞ!」

 言われてみれば、昨日の戦闘で疑問に思わなかった訳でもない。

 妙に早い反応、妙に高いタフネス。

 心理誘導と薬物による人間兵器か…。道具扱いされる俺の成れの果てと思えば笑う事も出来なかった。

 まさしく何処か遠いテロなんてモノではなく、足元に抱えた爆弾だったわけである。

 

 森崎とリンを残し、俺と会長は隣室へ移る。

 そこで簡単な協議をする為だが、ここで打てる手が多い訳でもない。

 

「達也君。やっぱり生徒会のみんなにくらいは話さない? それぞれに凄い特技だってあるのよ」

「それは会長に一任します。俺にはその特技が判りませんし、そもそも混乱の中で動ける性格なのかもしれません」

 俺の脳裏には、特に中条書記の顔があった。

 冷静な市原会計や、戦闘力のある服部副会長や渡辺委員長はともかく中条書記が慌てずに行動出来るとも思えない。

 

「それは追々説明して行くわ。達也君は信じないでしょうけど、あーちゃんが一番混乱の中で心強いのよ」

 授業前から付かれた様子の会長を宥めつつ、その場はリンへIDカードや隠れ部屋などを含む幾つかの約束をしてお開きになった。




長引かせても仕方無いので、予定を変更してブランシュの目的を先に持ってきました。
一高生をさらってジェネレーターだぜヒャッハー! これなら国外への持ち出しにも苦労しないぜ…という感じです。
ストーリーの順番が入れ替わり、同じスポンサーの元組織が統合したので可能になって居ます。
これによって、ブランシュの起こす事件が一段階凶悪。しかも一高内で収まったとしても大事なレベルの重大事件になります。
実際にはソーサリー・ブースターの件もあるのですが、リンさんがヘタレたというよりは、手札として残しています。
流出元の組織を放っておけないよね、でも自分ならそれを抑えて置くことが出来る…と警察に売られない為の保険ですね。
十師族と取引できるなら、復興も早いと身内を説得できるでしょうし。
現段階の政治手腕的には、リンさん >> 真由美さん ということになります。

 と言う訳で、順番を変えたので達也君が男に口説かれて、先輩女子を口説いてる手が早い疑惑は次回に持ち越しです。
なお、十文字会頭は暫く出てきません。人が多いと会話が判り難くなるのと、若大将が居ると安心感が限界突破して、説得シーンとかが不要になりますので。
あの人が「倒してしまっても構わんのだろう?」とか言ったら、本当に倒してしまいそうですからね。

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