√シルバー【完結】   作:ノイラーテム

14 / 70
仕込み作業

●割れ鍋に綴蓋であるゆえに

「一高に入り込んでる連中は、ブランシュとその息のかかったエガリテだ」

「ブランシュってあの…結構有名ですけど、どんなグループなんですか?」

「テロ組織よ。言論の表看板と、裏で暴力やら色々悪いことやってんの」

 それが真実であるにしろ無いにしろ、考えねばならぬ事と、やるべき事がある。

 黒羽家に簡単な内容で暗号メールを入れ、返事があるまでの間、今後の話をすることにした。

 

 ここでリンから情報を引き出す為に使った、一高に何者かが悪影響を与えている情報を出す。

「どうやら一科生と二科生の対立を煽り、手下に引き込もうとしてるようだな。みんなも気をつけてくれ」

「それなら一科生の方も安心は出来ないな。こう言っちゃなんだが十師族へのコンプレックスも相当なもんだ」

 見解の相違というのは悪い意味だけでは無い。

 全く同方向のアイアデアマンだけでは、思い込みと言う罠に陥りかねない。

 思ってもみなかったが、確かに森崎が指摘したように一科生も十師族に対抗心を燃やして利用される懸念は有る。

 

「可能性が高いレベルだったのですが、先ほどの話で確定できました。ありがとうございます」

 リンの情報が無くとも確定はしていたが、『他人を納得させる』にはソースは多い方が良い。

 それに、美月や森崎にサラっと吹き込むには、丁度良いタイミングで助かったのは確かだ。

 此処で口にしておけば、エガリテに誘われてもホイホイと付いては行かないだろう。

 

「…いいえ。お互いさまだものね」

「そう言っていただけると自分も助かります」

 彼女も自分の情報を利用された事には気が付いたようだが、あえて指摘するほど愚かでは無い様だ。

 これならば、放っておいても大丈夫だろう。

 自分の出すべき情報は出すだろうし、七草や…四葉を紹介しても一方的な利用されない様に立ち回ってくれるだろう。

 

「問題の長期化は避けたいけど、ブランシュか…厄介な相手だね」

「幸い敵も問題を抱えているようだ。でなければリンさんが逃げ出して来れるとも思えない」

 幹比古の懸念に対し、俺は半分だけ頷いた。

 結束の固い四葉であっても、決して一枚岩ではないのだ。

 スポンサーの意向で無理やり一体化させられた状態で、しかも、同国民とも限るまい。

 

「あー。忠誠の証として挨拶に来いとか、一族を人質にとか言われたらムカ付くわよね。案外、ワザと逃げ易い状態で渡したんじゃない?」

「その後の追跡を考えたらその可能性は有るわね。手際の差というには大き過ぎたもの」

 想像できる流れとしてはこうだ。

 要請に従って引き渡し、逃げ出して新しい要請が出た所で、満を持して実力を示して見せる。

 ブランシュの無能を笑いつつ、自分の能力を誇示する訳だ。

 

「私達を利用してブランシュを弱体化させ、逆に自分達が上に…と言うのは都合が良過ぎるでしょうけど、連携の齟齬が期待できるだけでもありがたいですね」

「こっちは少人数なのに、敵さんが一斉にってのは避けてえよな」

「基本的には仲間割れを期待できるまで、敵の戦力を削ぐ為に迎撃。上手く行ったら警察に任せる形だな」

 深雪が理解して居るのは当然として、レオもちゃんと判断で来ているようだ。

 この様子ならば、こちらの認識は協力体制を維持すると言う事で、一致して居ると思っていいだろう。

 

「そこでエリカ」

「あに?」

 おおよそ自体が呑み込めたであろう段階で、俺は新しく提案する事にした。

 

「警察の協力は仰ぎたいが、リンさんを引き渡す気は無い。出来るか?」

「面倒だけど多分出来るわよ? 真面目な人には話して良い情報だけを、清濁併せのむーって言う人にはそれなりに話せば良いんでしょ?」

「何? エリカって警察関係者なの?」

 俺の話にエリカが載って来て、リンにウインクしながら微笑んで居た。

 同情心もあるだろうが、どうやら事態を愉しんで居る様である。

 

「警察を裏から牛耳るって一族言うと恰好良さそうだよな」

「人聞きの悪いことを言うなつーの。ところで達也君。報酬の方は期待していいの?」

「鼻薬を嗅がせると言うなら程度次第だな。勿論みんなにアルバイト代を渡すくらいは問題無い」

 レオの冗談ともつかない言葉にエリカは頬をつまみつつ、悪戯っ子ぽい視線を投げかけて来た。

 こちらとしても資金を惜しむ気は無い。

 

「あー違う違う。お金よりもホウキ…プログラムやCADの話だってば。あたしらの戦力UPが報酬って寸法よ」

「そんな特殊なCADを弄る自身は無いぞ? だが、専用の法機を組めと言うなら相談に乗れる」

「その警棒ってCADだったのかよ」

 法機とはCADの言い回しの事だが、この場合は自分の得意技が活かせる特化型CADの事だろう。

 トーラス・アンド・シルバーでは七宝のビリオン・エッジだけでなく、カスタマイズくらいは普通にやっている。

 

 今日は面白いモノをいろいろ見れたし、俺の目的の一つを考えれば願っても無い申し出だ。

 こちらから提案せずとも向こうから来てくれたとも言える。

(その分、こちらが満足するまでデータを取るのは難しいだろうが、まあそれは追々だな)

「じゃあ取引成立って事で♪」

 俺とエリカは頷きあって、双方の求めるモノを追求する事にした。

 しかしこの様子だと、エリカは口先だけで警察を動かせる自信があると言うことだ。

 レオが言って居た裏から牛耳る一族というのも、あながち間違いは無いんじゃないか?

 

法機(ホウキ)、あるいは宝具(アーティファクト)

「さっきの戦いだけど、何か思わなかった?」

「例えばレオの使い方は面白かったが決定打不足。幹比古の方は…実力の割に二科生な理由は発現速度の認識齟齬か?」

「うーん。そう言われちゃ立つ瀬がねぇ」

「そう…だけど、良く判るね。確かに僕もそれで相談はしてみたかったんだ」

 納得しているレオと違い、幹比古の方は目をぱちくりさせて驚いている。

 自覚はあるようだが、言い当てられて心底驚いて居る様だった。

 

「俺はBS魔法師なんだが、得意魔法とそれ以外の発現速度の差でイライラさせられることがある。同じ様な反応をしているようだったからな」

「確かにそうだね。もっと早く発動できるのに、以前はもっと上手くコントロールできたのにって…」

 実際には『目』で見て、起動式を読んでいたのだが言う訳にもいかないので、感覚的な言葉で説明した。

 それに対して帰って来たのは、実に感覚的な言葉だ。

 

「それは違うぞ幹比古。おそらくは、術の発動速度は変わっていない。単に、術が持つタイムラグの差を知覚出来るように成ったんだ」

「変わってない? そんな馬鹿な! 結界はそうかもしれないけど、他の術だって…」

 俺は手をかざして止めると、紙とペンを取り出して説明を始めた。

 アナログ的だが、いまでもこの方が判り易い。

 

「古式魔法はカウンターを避けるために、呪文を聞き所作を見抜かれても良い仕掛けがあるんだろう。知覚力が大きく向上したためにソレを見抜いてしまい、齟齬が許せなくなっただけだ」

「達也君って随分と自信家だね。古式魔法にモノ申すだなんて。…でミキどうなの?」

「僕は幹比古だ。…確かにそう言う仕掛けはあるよ」

 仮に術の発動が5フレームとする。

 古式魔法はこれに1フレームか2フレーム入れて、複数の用途と誤差を含ませている。

 例えば『緑青』という言葉には酸や毒、『稲』には大地・水・植物・稲妻などの意味合いが含まれる。

 

 同じ言葉を用いた術でも、これだけ差があるならば、喰らう者が咄嗟に魔法で防御するのは難しいだろう。

 ただし、それは古式魔法同士の戦いに限られる。

「昔はそれで良かったんだ。お互いにタイミングロスがあろうとも、カウンターされないことが重要だったんだからな」

「はは…。威力と汎用性で勝るはずの古式魔法が、CADで放つ現代魔法に叶なわないはずだよ。とっくに術自体が古くなっていたのか」

 納得入ったのか力なく呟く幹比古に俺は首を振った。

 

「それも違うぞ。今回の攻防で敵がやって見せた奇襲性、お前が対抗して見せた対応力。これは武器だ。現代魔法では遠距離・長時間の管理は難しいからな」

「用途の差って事? でも現実的な所で、撃ち合いになったらどうするのさ?」

 SBを召喚して行った遠距離認識、それの対抗手段。

 こんな能力は現代魔法には無い。

 

 幹比古が言う様に戦闘に成れば致命的な穴だ。

 だが、奴自身がそう納得出来たならば、後はその穴を塞げばいい。

 

 俺は紙に『稲』と書いている部分だけを千切り、こんな感じの刻印だと説明する。

「そうだな。古式魔法の対応力を残したままで、一部の術をCADにしてみよう。刻印魔法を使えば中間的な物を作れるはずだ」

「なるほど。緊急性を要する術専用の呪符を作るのか…」

 例えば『稲』を伸ばすという魔法を、刻印魔法で呪符にする。

 これは『草を伸ばす術』、『大地を隆起させる術』、『水辺で波を作る術』、『稲妻を飛ばす術』に使える。

 だが、これを普通のCADでやろうとすると、絞って使うとしても放出や移動系で四つの魔法になるし、普通は複数の系統以外も使うので特化CADでは無理になる。

 

 四つの魔法を管理するのと、一つの魔法で四種類の対象に使い分けるのでは大きく違う。

「特化型に同じ系統の術ならば入れられるとしても、それは別々のモノですものね。それら四つが一・二にまとまるなら凄いと思います」

「同じ術が白と黒に使い分ける事もあるから、正確には八つだね。相克を利用して防壁に使うんだ」

「…何よ幹比古君。昔と同じ顔して議論出来てるじゃない」

「もしかして幼馴染なんですか!? 羨ましいです私、そう言うの無くて…」

 俺の仕事を見てる深雪がフォローするのだが、エリカと美月が口出したおかげで微笑ましい光景に成った。

 恥ずかしそうな幹比古とエリカであるが、美月はもしかして…これが平常運転なのだろうか?

 意外な一面と言うか、感受性の高さから来るとでも言った方がいいのか。

 

「次にレオだが、まずは硬化魔法のバリエーションを増やして総合強化してみよう」

「タンク役ですからその方が良いかもですね」

「えと…タンク役ってなんだ?」

「でも戦車って言うのもピッタリじゃない? 攻撃力はそのうち何とかすればいいでしょ」

 美月が恥ずかしそうに、ゲームでの用語だと教えてくれた。

 前面で攻勢を一手に引きつけ、タフネスを活かして戦線を支える役目だそうだ。

 

「まずは車ごと護るのに慣れてもらえば、リンさんの護衛が楽になるな。…あとは、手とあの毛布との相対位置を固定して腕を上げて見てくれ」

「車ごとってますますタンクらしいじゃない」

「うるせえっ…。ええと、これでいいのか?」

 急に言われたせいか、音声認識では無く戸惑いながらレオが魔法を発動させる。

 イメージが固定されていないせいか、ペースはゆっくりだ。

 

 やがて魔法が発動し、ピクリと毛布が動き始めた。

「おっ! 毛布が空を飛んだぜ。面白れえなあ」

「今日の最後の方で、壁を歩いたろう? あれは接地面を逐次固定する硬化とは別に、壁との相対位置を一定に保つ硬化を使い分けて居たのを見てな」

「良く見てるわねぇ。本当に油断ならないと言うか…」

 壁との設置を持続しても、頭が大地に向くだけだ。

 相対位置を維持することで、自在に動いて居たわけだが、その方式を応用する事にした。

 

「実際のイメージが確立したことと、刻印魔法を併用する事でもっとスムーズに行くはずだ。後は位置と使い道に合わせて好きなコマンドを入力してくれ」

「脇に壁を作って通せんぼするパンツァーカイルとか、前に置いて突撃するパンツァーフォーとかいいですね」

「ねえ美月。なんであんたまでそんなに思い付くの?」

 専門家である俺はともかく、美月が色々と提案するのは意外だったのだろう。

 エリカがしきりにアイデアソース尋ねるのだが、恥ずかしそうに読んだ作品にそう言うのがあるのだという。

 俺が思い付く物など既にあると言うことか…恐るべしクールジャパン。

 

「でもこいつはいいな。ブラリと渡り歩くのも良いが、誰かを守って戦うってのも悪くは無さそうだ」

「当てつけか? こっちは家業みたいなもんなんだが」

 ブンブンと腕を振り回すレオに森崎が渋い顔をする。

 森崎家の本業は魔法の研究職だが、ボディーガードは副業どころか本業以上に成功して居る。

 趣味と一緒にされても困るというのは、判らないでもない。

 

 だがそれに対するレオの回答は、意外な物だった。

「馬鹿にしてる訳じゃねえよ。何にも囚われず各地を放浪してるが、誰かを守る契約した時だけは凄い勢いで暴れ回る伝説の番長てのに憧れてるんだ」

(…レオ。それは番長じゃない、伝説の『紅世の王』だ)

 俺は心の中でツッコミを入れた。

 調べた紅世の資料の中で、もっとも警戒心を刺激される最強の王。

 噂では死んだとも、別世界に旅立ったとも言われている。

 

 傍若無人の暴力性を秘めながら、誰かを護る為の戦いにしか本気にならない矛盾した存在。

 あるいは、護る戦いのために特化した暴力装置なのだろうか。

 

(だが、案外、レオにはピッタリな目標なのかもな)

 レオもまた、獣人めいた暴性を秘め、それと折り合いをつけて居るのかもしれない。

 それに誰かを守るというのは、レオの硬化魔法には相性が良い。

 多少抜けて居る所もあるが、それは自分自身が容易く死なないと言う自負があるからだろう。

 誰かを守るためならば、必死に頭を動かし体を鍛えるのかもそれなかった。

 

「エリカは『擦り足』使えるのか?」

「誰に物言ってんの? 出来ない訳が無いじゃない」

 俺の確認に、エリカは気分を害したように顔を背けた。

 実にらしい行動であるが…。

 俺にはある種の確信があった。

 

「体術じゃない。魔法の方だ。あればさっきの戦いで楽に勝てたと思ったんだが」

「…ほんっとーに油断成らないわね。使えるわよ。でも奥義に繋がる技をおいそれと見せる訳ないじゃない」

 なんだ、やっぱり使えたのか。

 どうやらこちらを意識して、技に制限を掛けて居たようだ。

 最後の最後まで放っておいたら嫌でも使ったろうが、俺が作戦を考えたので温存して居たらしい。

 

「擦り足って柔道とかでやるアレじゃねえのか?」

「この場合は短事高速機動の事だ。出来るからと言って長距離・長時間発動させる必要は無い。お前の逐次展開と同じだな」

 一度の魔法で十移動できるとする。

 得意な奴は十一・十二と延ばせるわけだが、別に十以上で使う必要などないのだ。

 

 むしろ、十を中心に九、十一を使い分け…。

 場合によっては、一、ないしそれ以下の為だけに高速機動を発動させる。

 それが短事高速機動…『擦り足』である。

 

「ねえ達也君。あの女に魔法を作ってあげたの君だよね? 互角に持ち込んでたのに酷い目に会ったんだけど」

「あの女? ああ、渡辺委員長に考案した『雷上動』のことか」

 リアクティブ・アーマーみたいな技が欲しいと言う事で、簡単に指示できる魔法を考案した。

 好きな場所に稲妻を発生させる浮遊地雷のような雷撃魔法で、対人・体ナノマシン用の範囲特化か対戦車用の威力特化を選べる。

 最初は超弾道ドウジ斬りで良いだろうと思ったのだが、ネーミングに文句が入ったので源氏に伝わる弓から、雷上動の名前を取った。

 なんでも雷上動には専用の矢が二発あるかららしい。

 

「あの女ばっかりずるいよ…」

(そうか。仲が良い兄が婿養子に行くから義姉になるんだな。さて…この場合はエリカが納得するかどうかか)

 何を言ってもエリカが納得しないと意味は無い。

 同時に嘘八百でも、エリカが納得すれば価値はあるだろう。

 

「魔法が一般的でなかった時代に、童子斬りの名前に隠して同時斬りを使用した。だがドウジ斬りは一つじゃないって知っていたか?」

「へっ?」

 エリカは思ってもみなかったらしく、素っ頓狂な声を上げた

 それもそうだろう、何しろ、俺が今考えた。

 

「渡辺家に伝わるのは強大な相手の全身から斬りつけ、数人の雑魚を蹴散らす為の多数同時斬りだ。他にも範囲型や持続型があっても良いと思わないか?」

「なるほど一つの流派が、弟子の得意技で枝別れするのと同じね」

 例えば干渉力を上げて広範囲に振動を叩きつけるドウジ斬り、熱源を操作して数秒ほど燃え続ける同時斬り。

 そんな派性があっても良いのではと吹き込むと、エリカは自分の知識でネタを事実として組み上げて行く。

 

 繰り返すが重要なのは真実では無く、エリカが納得できるかだ。

「あの女は自分ちの伝承から組み上げて得意になってるけど、沢山ある内の一つって訳だ。…で私の向きのドウジ斬りはどんなの?」

「見た所、エリカの能力は高速機動を最後まで実行できる超感覚だ。SBを切り落とす物心同時斬りなんてどうだろう」

 常人が速度を上げすぎたら、途中で把握できなくなる事もあるが、そんな事が無いのが強みだ。

 ようするにエリカは超人じみた速度で動き回っても、自分が何をしているか把握できる。

 

「標的の用意はできるけど…あんまり気は進まないな」

「いや、倒す的までは良い。エリカが自在にSBの位置を把握できるようになれば十分だ」

 高速機動可能な超人が居るとして、真っ先に思い付くのは攻撃力の向上。

 だがエリカの流派はそれを補う加重・慣性制御の魔法がある。

 次に高速機動の別バリエーションの短事高速機動だが、これは既に持って居るそうなので、最後は攻撃力の保持だ。

 

 攻撃力を保持するには普通なら相手の装甲に対する衝撃系か、術式を解体する方法になる。

 衝撃系は自分でアレンジして持っていると思うし、術式を解体するほどのサイオンを持っているとは限らない。

 だが今回苦労したSBに対して、存在を揺らぐ程度の威力を発揮するには十分だろう。

 

「仏神…神に会っては神を斬り、仏に会っては仏を斬る! エリカちゃん凄いですね! サイオンの色の見分け方くらいは私もお手伝いできますっ」

「その字じゃないと思うけど…。良いんじゃない? 今回の敵に対して役立ちそうだし、覗き魔って嫌いなのよね」

 納得してくれるのはありがたいが、どうにも美月はのめり込む癖があるな。

 やはりブランシュの事を口に出したのは正解だったようだ。

 適当な所で、司・甲がエガリテに居ることを吹きこんでおけばいい。

 

「最後に思い付く範囲で森崎だが…」

「俺は自分の任務だと思って居るが…。戦力強化になるなら覚えてやるよ」

 森崎は二科生である俺に習うのは嫌なのか、あるいはプロ意識なのか少し躊躇った。

 だが、今回出て来た敵のエージェントに対して力不足だったのは確かだ。

 何しろこいつの術は普通のレベルに合わせたモノ。

 即座に衝撃緩和で気絶魔法を無効化出来るような、化け物を相手にするのは考慮外なのだ。

 

「汎用型をサスペンドしながら使っていたな? 常に二つ所持するならまずはパラレル・キャストだろう」

「生憎とそんなに器用じゃないぞ? 一応はそいつの訓練をしてみたことはある」

 俺の意見に対し、即座に首を振って来た。

 まあ森崎のスタイルなら、真っ先に試して居るだろう。

 

「トーラス・アンド・シルバーの顧客リストには居なかったと思うが…。コツは全部を利用しようと思わない事なんだ。可能な一部を最大限に利用する」

「全員記憶して居るのか? 暇な事だな。データは後で回すことにする」

 極論を言うと、一科生である森崎は何をしても強化に繋がる。

 特殊な弾を作成する時だけとか、ソレを撃ち込んだ後で、汎用型に切り替え追尾するだけでも良い。

 

 家の副業から元もと相当な訓練はこなしているから、実力そのものはそれほど伸びないかもしれない。

 だから森崎は苛酷な訓練をしても延びないタイプの可能性は有るが、逆に色んなコツを覚えて状況に合わせて使いこなすなら話は別だ。

 こればかりは実体験でやらないと判らないモノだし、低い能力を活かしてきた俺はそういうコツを無駄に覚えて居る。

 

 俺の欠点をそのままに、一科生レベルにした上位互換だと言えば少し思う所は有るが…。

 今はそう言うことを言っている余裕は無いし、一科生にも協力者が居れば今後もやり易くは成るだろう。

 

「後は時間稼ぎだが、幹比古はダミー情報を作って、エリカに渡してくれ。ソレを警察や軍、何も無い場所に持って行ってくれれば暫くは問題無くなるだろう」

「了解」

「りょーかい」

 こうして俺達は、一度帰宅する幹比古たちにSBのジャミングを頼んでおいた。

 もともと二人きりの俺と深雪や、たまに放浪して居るレオ、家に連絡して護衛を続ける森崎がこの屋敷に残ってリンをガードする形だ。

 

 後は作戦を練る為に時間をくれと告げて、俺は自分に割り当てられた部屋の周囲に、誰も立ち入れない様にして置いた。

 侵入を得意とする魔法の使い手ならば…、話は別なのだが。




 と言う訳で、今回は基礎対応を話し合いつつ、各人の能力向上を話し合った回です。
九校戦とかその辺で思い付いたことを、この段階から必要に迫られて用意した形でスト-リー圧縮。
プライベートで先に製品化した物を渡すのは、校長との約束には抵触無いので問題無い。という感じでしれっと術式を作っていきます。

 幹比古が素直とか、レオの目標に関して。
最初からシルバーと知っていたり、シャナの登場人物に丁度良いモデルが居る性です。エリカや森崎君の方も実際にSBやジェネレーターに苦労したため。


 無頭竜への対策に関して。
仲間割れが都合良く起きるとは限りませんが、スポンサーの手引きに素直に従った派閥だけが相手。
と考えれば、それほど難しくないのかもしれません。それでも報復を考えそうな人も居るかもですが、血族であるリンを庇った流れなので問題はなさそう。
黄・朱の二人と、連れてる凄腕エージェント(ジェネレーター)を倒せば良いのだろう…と言う理由付けをしています。
実際には四葉のエージェントが美味しく情報を利用して、色々やるのですけど。

 黒羽家や紅世への対策が出て来るのはおそらく次回の予定。
エリカ達が帰ったのを良いことに、男の娘たちをコッソリ寝所に招き寄せて良からぬことを吹きこみます。
こう書くと変態チックですが、一族の若手を年上の人が手ほどきするのは、戦国時代では普通の事ですよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。