「…一体どういうことですか?何の話か要領を得ないのですが」
何の話かなど、言われるまでもなくあの一夜の情事だろう。しかしそれをバカ正直に漏らすなんて愚の骨頂極まりない。それに雪ノ下さんは俺のことを
とりあえず、引き出せる情報は全て引き出そう。
「二股、なんて冠詞をつけたんだよ?わからない?」
「生憎俺は女難の相が出ているらしくて」
「でも二股出来たんだよ?女難なんて言ってるけど、本当は女なんて簡単とか思ってない?」
「俺にそんな器量はありませんよ」
「……雪乃ちゃんだけなら誰もこんなめんどくさいことしないのに。なんであの娘にも手を出しちゃったの?そんなに雪乃ちゃんの貧相な体じゃ不満?」
語気を強めて言及する。雪ノ下さんには珍しい、仮面を外しての心からの怒り。ひしひしと伝わる感情に知らないふりをして話を進める。
「そんなことありませんよ」
まあ実際は何一つ記憶はないのだが。
「雪ノ下さん、ちゃんともう1人の方のスタイル見てから言いました?」
そして、少し勝負に出る。もしも雪ノ下さんが嗅ぎつけた相手が由比ヶ浜なら割とやばいことになるのだが、あの情事でやらかした相手は4人だ。
追加して雪ノ下のことも少しだけ貶す。行動はああでもこの人は俺と同じ重度のシスコンだ。いざ他人に貶されたとなれば、多少は感情を揺さぶれるかもしれない。
「……まあ、ガハマちゃんみたいな感じじゃなかったと思うけど」
由比ヶ浜じゃない、スタイルが雪ノ下より少し良いやつ。加えて「思うけど」、と雪ノ下さんをもって曖昧な記憶の相手。消去法で十中八九一色だな。平塚先生ならそんな言い方はせず、しかもスタイルが良い。小町も雪ノ下に負けず劣らずの貧乳だ。引き合いに由比ヶ浜を出すとは考えられない。雪ノ下は初めからバレており、由比ヶ浜みたいな感じじゃない由比ヶ浜というのも意味不明だ。
「ねえ、今からでも雪乃ちゃん一筋になってくれない?」
「…その前に、まず事の発端の説明をして頂けませんか。多分その雪ノ下さんが言う“二股”についても関係あると思うので」
言われた雪ノ下さんは顎に手を当て、難しい顔をする。きっとわかりやすいように頭の中で推敲してくれているのだろう。
少しして、雪ノ下さんは口を開いた。
「あの日なんで静ちゃんがあんなに酔っ払ってたかわかる?」
「いえ、単に酔いつぶれただけだと思っていましたが」
「あれ、私が静ちゃんの飲むお酒をめちゃくちゃ度数の強いやつに変えてたんだ」
「へ?」
「ほら、静ちゃんって絡み酒じゃない?」
「いや、別にそんなこと知りませんけど…」
「まあそうなんだよ。でね、静ちゃんが酔いつぶれたら多分比企谷君に絡みそうだな〜、あわよくばお酒の勢いで雪乃ちゃんに手を出してくれないかな〜、って」
「」
「あれ、どうしたの?」
絶句。まさか元凶がこんなところにいたなんて。この人がそんなことしなければ、俺はこんなことで頭を悩ませるこたはなかったのにな。…まあその後にも手を出してしまった時点でそんなことは言えるはずもないのだが。
「いえ、それで?」
「まあ結果は君も知っての通り、というか当事者だけど上手くいってたんだよね。……けどさ」
「ええ、あいつですよね」
「相模ちゃん」 「いっし………え?」
「だから、相模ちゃんに手を出したじゃない。それより何、一色さん?」
「いいいいいいえなんでもありません!!……そうですね、魔が差したというかなんというか」
相模!?どこにこの人たちが繋がる要素がある!?
「…ちょっとだけ幻滅したよ。他の子ならまだしも、なんでよりにもよって相模ちゃんなの?」
「いやまあ、そのあれですよ。親近感、そう親近感!親近感ですよ。というかそれより、なんで雪ノ下さんがそのことを知ってるんですか?」
「メール」
「え?」
「だからメールだよ。多分付き合い始めたその日かな?相模ちゃんが相談したいことがあるって言ってきてね」
以下、雪ノ下さんの言ったことを要約すると、相模は周りの人には言うなと言われたから言わなかったが自慢したかったので害のなさそうな雪ノ下さんに報告したそうだ。その理由もそれだけではなく、間接的に俺から雪ノ下が手を引くように伝えて欲しいみたいなことをほのめかしていたらしい。
…バカ女のバカさ加減を見誤っていたな。それが原因で文化祭が飛びかけたというのに。
「…まさかそこまでバカだとは」
「さすがの私もちょっと引いたね」
「あの、それと材木座と繋がっていたのはなぜですか?」
「2人のことをちょっと監視するようにお願いしたんだよ。さすがにガハマちゃんにこんなことは頼めないでしょ?」
「それはそうですね。てことは材木座が俺のことを知っていたのも全部雪ノ下さんが教えたってことですか?」
「うん。元々知ってたっぽいところもあったんだけどね」
てことは材木座は雪ノ下さんから言われるまでもなく俺の…、もう何股かを数えるのも面倒だがそのことを知っており、その上で雪ノ下さんから俺のことを聞いて板挟みに苦しんだというわけか。
つまり俺が二股以上のことをしているのだとやはり雪ノ下さんは知らないわけだ。
「……最後に聞くよ、君は本当に“二股”をしたの?」
「ええ。“二股”ですね」
毅然とした態度でそう答えると、雪ノ下さんは少し目を細め、短く息を切って出ていってしまった。
俺にはなぜか、その仕草が壊れたおもちゃを捨てる時のように見えた。
◇◇◇
翌日、久しぶりに出た奉仕部ではやはり席は戻っておらず、ひたすらに3人が近い状態で奉仕部は始まった。
「…ちょっとゆきのん近くない?」
「由比ヶ浜さんこそ、寒いのなら暖房をつけるけど?」
と、いつもの痴話喧嘩で時間が過ぎていく。
しかしそれも30分くらいのこと。扉が開く音に俺たち3人の視線が集中すると、そこには相模が立っていた。
…そして、俺の冷や汗も最高潮に達した。
「あの、奉仕部に依頼なんだけどいいよね?」
人当たりの良さそうに、しかしどこか小馬鹿に見るような目つきは
「なにかしら」
当然のごとく相模の見え透いた下賎な視線に雪ノ下は気付いており、現にいつもより目つきが鋭くなっている。さすがに不快な気分をさせたからといって追っ払うようなことはしなかったあたり、成長しているんだな。まあ前の戸部のやつはありがたかったけれども。
「ね、ここってこっちが依頼したら手ほどきしてくれるんだよね?」
「少し違うわね。ただいたずらに魚を与えるのではないわ」
「「魚のとり方を教える」」
「…!」
「だよね!だからさ、うちにデートの仕方を教えて欲しいの!」
「「「は?」」」
黙って聞いていた俺と由比ヶ浜もつい声を漏らしてしまい、結果奉仕部3人で声を揃える形になった。
「や、だってうちね?こう見えて男子と付き合ったことあんまりないからさ〜。魚のとり方ならぬ男子の釣り方?教えて欲しいんだよねー」
「さがみんの言うそれって…」
「うん、比企谷を貸して欲しいなー?ってことだよ。別に彼氏を作ってほしいって言ってるわけじゃないし、いいよね?」
「認められないわ」
「なんで?」
「彼はうちの部員なの。勝手なことは許されないわ」
「でも見捨てるのは奉仕部の理念に反すると思うよ?雪ノ下さん」
「……」
一色の時も思ったが、
「すまん雪ノ下、由比ヶ浜。こいつの言ってる事は屁理屈なりに理屈が通ってる。俺がやるからお前らはここで活動頼むわ。俺のことは待ってて……つっても、多分完全下校時間までかかるだろうから先に帰っててくれ」
「終わった?なら早く行こ?」
相模が俺の手を取って部屋をあとにする。あいつらの顔が見えなくなるまで時間はそうかからなかった。
◇◇◇
「どういうつもりだ?内緒つっただろ?」
パルコ内での会話。ウインドウショッピングなるものをしながら俺はそう尋ねた。
「でもさ、やっぱうちらカレカノじゃん?そういうこともしたいなーって思ってさ。あれなら怪しまれずにデート行けるでしょ?」
「…それとだな、雪ノ下さん…、陽乃さんが知っていたのはどういうことだ?俺は初めに内緒って言ったよな?中学のトラウマまで話してよ」
語気を強めてたしなめるように言う。今まで優しくしてきた分耐性がないのか、はたまたは文化祭での出来事を思い出したのか、ビビっていると言うには充分な青い顔だった。
「あ、その、ごめん……、うちそんなつもりなくて…」
あれ?これもしかして別れられる?なんかそんな雰囲気じゃね?
「…そんなつもりがなくてもな、事実は変わらないんだよ。そこに思惑は関係ない。起きたことだけが俺に対する態度なんだよ」
それっぽいことを言って混乱させる。正直なに言ってるか俺もわからん。
「うっ…、ひっく……、うち、そんなつもりじゃ……」
しまいには泣きだした相模。これはもう一押しだな。
「……すまん、俺もこんなことは言いたくなかったんだがな。ただお前といてトラウマが…、トラウマが………アナムネーシスするんだよ。とりま別れてくれ」
ダメだ、トラウマの後の言葉が思いつかなくなったせいで後ろがめちゃくちゃになってしまった。
「そんな、うち別れたくない!!」
「本当に俺のことを好きならさ、別れて俺のことを楽にしてくれよ」
それだけ言い残して去った俺は、少しの罪悪感に胸を締め付けられながら帰路についた。
贅沢な望みかも知れませんが、どうか感想もしくは評価などくれると嬉しいです!読者の方と話すの結構好きなんですよ(笑)
それと関係ないことを一つ。デレステでありすガチャ復刻きたのに全く出ないとかどういうことじゃ…。吸われた俺の金はどこへ…。