酒は飲んでも飲まれるな   作:しゃけ式

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まさか2話でランキングに乗れるとは思っていませんでした。ありがとうございます!



クズとデブの企てはどう転んでも間違っている

俺と材木座は机を挟んで向かい合っていた。とりあえず最寄りのサイゼにでも入ってゆっくり話そうと言われたのでなすがままについて行ったというわけだ。

 

 

サイゼに入ってからは終始無言で、会話と言える会話も何を頼むか聞かれた時だけである。ちなみに俺も材木座もドリンクバーしか頼んでいない。こういった頼むものが同じというだけで勘ぐってしまう俺は毒されてるんだなあ、なんて呑気に考える。

 

 

とは言ったものの、依然話し(づら)い雰囲気の中ついに材木座が口を開いた。

 

 

「八幡、何か勘違いをしておるな?」

 

 

「」

 

 

「そう絶句するな。大方八幡は我とヤったなんて妄想を繰り広げておるのだろう?」

 

 

「ななな何言ってんだよ!?そん、そ、そんなわけねーべさ?!」

 

 

「皆まで言うな。我は八幡の状況はわかっているつもりだ。無論我ともヤっていない!」

 

 

「………話だけ聞いてやるよ」

 

 

「六股」

 

 

「いくらやれば黙っててくれる?」

 

 

「八幡…、それはさすがに我でも擁護できんぞ……」

 

 

なんにせよこいつは知っているのだ。確かに忘年会にも来ていたし、こいつが知っていてもなんら不思議ではない。

 

 

「けぷこんけぷこん、にしても八幡……傍から見ればマジで羨ましいぞ。変わってほしいくらい」

 

 

「んなこと言えんのは第三者だけだ」

 

 

「いや、だってな?奉仕部の美少女2人に小悪魔後輩生徒会長に美人教師に、あとは実妹と葉山で六股であろう?」

 

 

「葉山を入れるな馬鹿野郎!!!………まあ、六股は否定出来ねえんだがな…」

 

 

「お、おお…。まあとりあえず本題に入ろう。なぜ我がこんなことを言い出したと思う?」

 

 

腕組をしながら尊大な様子で聞いてくる材木座。多少イラッとはするが、今はそんな些細なことよりこの問いだ。

 

こういうのはゲーム理論が役に立つ。俺自身ゲーム理論の思考法というのは曖昧なもんだが、簡単に言えば相手の気持ちになって物事を考えるといったものだ。この場合、俺が材木座だとしてなぜこんなことをいうのか、言い換えればこの行為にどんな利益があるのかだ。

 

普通に考えればこれをネタに脅すことが可能だ。それか俺の相手の六人の誰かが狙いか…?さすがにそんなゲスいことは考えてないだろうが(そもそも俺がゲスいことをしているというのはとりあえず隅にやって)、それならば一体何が目的なんだ?

 

 

────小町か、小町だな。あんだけ可愛いんだ、脅してでもお近づきになりたいんだろうよ。

 

 

「小町をやるくらいなら俺は舌を噛むぞ」

 

 

「待つのだ八幡!!我は別に八幡の足元を見て言い出した訳では無い!!」

 

 

…ならなんだ?他にはもう思いつくものがないので、静かに材木座の答えを待つ。その姿がやつの厨二心にミートしたのか、にやりと笑って焦らしやがる。なんでかわからんが腹立つな、こいつ。

 

 

「それはだな、八幡」

 

 

一呼吸置き、無駄に溜める。早く言えよマジで。

 

 

 

 

 

「友情、さ」

 

 

 

 

 

さ、さ、さ……、と自らエコーを入れる材木座。それにしても。

 

 

「友情か。…はっ、俺には一番似合わねえ言葉じゃねえか」

 

 

「ニヤリ。しかし似合わぬ者同士の友情というのもまた乙なもんだろう?そうは思わんか、八幡よ」

 

 

「かもな」

 

 

久しく向けられていなかった純然たる友人としての好意を、不覚にも嬉しく感じてしまう。こんなこと死んでも言わねえけど、それでも少しだけ救われてしまった。本当に残念なことにな。

 

 

「あ、でも我ノンケだからな?それだけはお願いだから理解してくださいよ?」

 

 

「俺の感動を返せ」

 

 

「それより八幡、これからどうするのか決めておるのか?」

 

 

「いや……まあ、とりあえずは隠し通すしかねえかな、なんて」

 

 

「浅はかだな……、浅はかすぎるぞ八幡!!!」

 

 

立ち上がりどでかい声を出して俺を威圧する。しかし周囲の目線により逆に威圧された材木座はしゅんとなって席に座り直す。

 

 

「ん゛ん゛っ、繰り返し言うがそれは浅はかだ。よく考えてみろ、これから1年間も隠し通せるのか?しかも二股ならともかく六股だぞ?」

 

 

「だよなあ…、でも他にやりようもねえし…」

 

 

「ならば八幡、1人ずつきっぱり別れていくのだ。それが多分一番現実的で安全なやり方であろうな」

 

 

「まあ、そうだわな。具体的にはどうすればいいと思う?」

 

 

「とりあえずは雪ノ下女史からだろう。さすがの我でもあれは面倒臭そうと思うからな!」

 

 

「雪ノ下か…」

 

 

こんなことを言うのは少しはばかられるのだが、確かに雪ノ下はなんとなく重いところがちらほらと見られる。加えて今日の一色との昼飯の下り、あれはどう考えても道理にかなっていない意味不明な主張を繰り返していた。確かにめんどくさいだろう。

 

 

「しかしだな、材木座。面倒臭い相手を先に処理しても、いやしたからこそその後に面倒臭いことが待ってるんじゃないか?しかもあの雪ノ下だ、別れる理由を探られたらバレる自信しかない。ここはとりあえず泳がしておくべきじゃないか?」

 

 

「ふむぅ…、なるほどな。では雪ノ下女史はとりあえず保留にしよう」

 

 

「そこでなんだが、まずは由比ヶ浜なんてどうだ?」

 

 

「その心は?」

 

 

「目下顔を合わせることになる平塚先生との不安要素をなくすためだ。他にも由比ヶ浜はアホっぽいからだとか雪ノ下と比べて重くなさそうだからだとかは色々あるが」

 

 

「おお、意外と八幡も考えておるのだな…。よし、それでいこう!!」

 

 

トントン拍子に話が進んだが、とりあえずまずは由比ヶ浜を振ることが決まった。……なんかこんなことを考えていること自体罪悪感が青天井なんだが、だからといって下手に謝ったりするのは俺の自己満足なんだろうな。

 

 

「内容はどうする?実は今日一色に似たようなことをしようとしたんだが、失敗してな。酒は飲んですらいないようだ」

 

 

「む、知らなかったのか?あの場で飲んでいたのは八幡と平塚先生と雪ノ下女史と葉山だけだぞ?つまりお主が手を出した残りの3人はシラフだったというわけだ!!」

 

 

ええ…、てことは3人は酒の勢いだが残りはガチでヤったってことかよ…。ていうか小町ィ!お前妹だろお!!まあ手を出した兄が言えることじゃないんですけどね。

 

 

「とりあえず材木座。明日から早速由比ヶ浜に試したいんだが、内容は何かないのか?ないなら俺が考えるが」

 

 

そう聞くと、待っていましたと言わんばかりに胸を反らせて話し出した。その内容とは………。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「お、おはよう!由比ヶ浜!」

 

 

「おはよ、ヒッキー…って、どうしたのその服装!?」

 

 

次の日、朝の教室。俺は材木座に言われた通り、まず(えり)をすべて上に立て、真ん中にに大きくバツと書かれたマスクを着用して挨拶をした。マスクのイメージはクレヨンしんちゃんの紅さそり隊のあの人を想像してくれるとわかりやすい。

 

 

「え〜、いやな?ちょっとイメチェン、的な?してみたんだがどうだ?」

 

 

『作戦その一、服装で相手を幻滅させる!!八幡は良くも悪くも細いからすらっと見えるのでな、見た目もなんとなくかっこよく見えるのだ。つまり!!!見た目が悪くなったら相手もあれ?なんかこいつ気持ち悪いぞ?となれば勝ったも同然!!』

 

 

「え、ええ…。それはちょっと…」

 

 

「幻滅したか?幻滅したな?!」

 

 

「幻滅ってほどはないけどさ…。……ちょっと待ってね」

 

 

そう言って由比ヶ浜は俺の前に立ち、後ろ襟に手を伸ばして襟を直す。そのまま前の襟も同じようにし、その仕草はなんとなく────

 

 

「なんだか新婚さん、みたいだね?ヒッキー」

 

 

なんて感じてしまう。何が幻滅だ材木座。なんかいい雰囲気になってしまったじゃねえかよ。

 

 

「ヒッキー?……そんなに顔赤くしたら、バレちゃうよ?」

 

 

「お、おふっ、おほ、そうだな!隠さなきゃな!」

 

 

ちょっと今のはやべえなオイ!!!秘密の共有ってことで六股を隠してる俺なのに、俺自身が秘密の共有にやられてどうすんだよ!…しかし、見ようとしていなかっただけで由比ヶ浜って可愛いんだな。小声で下から覗き込んで、顔も少し赤らめながら上目遣いで俺のえりを持つ。密着しているから由比ヶ浜の胸も体に当たって破壊力抜群だ。

 

 

 

……この作戦は失敗だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休み。教室の外で俺と材木座は話していた。周りにはほとんど誰もおらず、俺が知っている名前のやつは葉山くらいしかいなかった。

 

 

「して、どうだった八幡?我の天才的な作戦は成功したか?」

 

 

「してねえしむしろ失敗だよ…。てかとっとと由比ヶ浜を振らねえとな。残り何人いると思ってんだ」

 

 

「おい比企谷、結衣を振るってどういうことだ?お前の相手は俺だろ?」

 

 

例え由比ヶ浜を2日で振ったとしても、全員を2日で考えても2週間弱必要になる。その間バレずに、なんてことは本当に出来るのか?あれ?なんか俺詰んでね?

 

 

「なら次の作戦だ!!!作戦その二、あれ?前にあんなことがあった人と普通に話してるなんて、もしかしてヒッキー女だったら誰でもいいの??だ!!!」

 

 

「キモいからその声真似とかやめろ」

 

 

「おうふ、やはり八幡の罵倒は来るものがあるな……。で、だ。八幡よ、お主のクラスにあんなことがあったやつはいるか?」

 

 

「ん……、あんま思いつかねえな」

 

 

「相模さんなんかはどうだい?あの娘は君に随分傷つけられただろ。…まあ、今となってはあれも君の優しさだと気付けたんだけどね」

 

 

「ああ、そうか相模か。なるほどな。1人いたわ」

 

 

「あいわかった!ならばその女子に昼飯を誘ってみるんだ!…一応聞くが、その女子は弁当を群れて食べる(やから)か?」

 

 

「あいつ自身はそういう気質があるんだがな、色々あって今は1人で食ってることが多い」

 

 

「その心意気やよし!!!さあ、行ってくるのだ!!貴様の六股を刺されずに終えるために!!!」

 

 

「でけえ声で言うなクソデブ!!!」

 

 

「ちょっと待て比企谷!!六股ってなんだよ!」

 

 

イラッとしたので材木座を放り出してそのまま教室に帰る。最後に葉山が「そうか、つまりきみはそんなやつなんだな…。でも俺は……」なんて言っていたが、一体誰と話していたんだ?あんなに気落ちした葉山は初めて見たぞ?

 

 

 

 

 

 

「なあ相模、一緒に食べないか?」

 

 

そして教室。弁当を持っておもむろに相模の前の席を陣取ったかと思うと飯の勧誘をする俺ガイル。ありえない異常事態にクラスは騒然とし、わかっていたことだが由比ヶ浜は自身の脳の処理能力が追いつかないのか唖然としている。

 

ちなみに昨日の夜にメールが来た雪ノ下と一色にはベストプレイスに行くつもりだと伝えた。別に嘘は言ってねえし?ただ由比ヶ浜に捕まるつもりだから行けねえかもって言ってねえだけだし?(ゲス顔)

 

 

一方の相模も全く予期していない事態に絶句しながら、ようやくその口を開いた。

 

 

「は、な、ちょ、ええ!?なんでうちがお前なんかと!!?」

 

 

「うるせえな、別にいいだろ?気になるヤツと飯が食いたいってそんなにおかしなことか?」

 

 

そして俺は俺で周りの視線はどうでもよくなり、勝手に思いついたことをペラペラと並べる。この際だ、どうにでもなってしまえなんて思いが胸をよぎる。

 

 

「ちょっととりあえず別のとこ行くよ!!屋上ね!!!」

 

 

すぐに弁当をたたんで俺の手を掴み走り出す。というかなんであんだけ嫌ってたやつと手をつなげるんだろうな。マザーテレサよろしく嫌いなやつと好きな人の関係は表裏一体ってか?別にあれだけのことで相模の俺に対する好感度に絶対値記号をつけたとは思えねえんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

「ねえ八幡……、うち気持ちよかったよ…」

 

 

ラブホテル、ベッドでの相模の一言。

 

 

 

………どうしてこうなった??

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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