覇王炎莉のちょこっとした戦争   作:コトリュウ

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将軍の旅立ち。
それは伝説の始まりを意味する。

天下無敵のゴブリン軍団。
対するは数万ものビーストマン。

はたしてその結末は……ってまずは竜王国まで行かないとね。



第4話 「カッツェ平野へ!」

「お姉ちゃーん! いってらっしゃーい! 絶対無事で帰ってきてねー!」

 

「もちろんよ! ネムもイイ子で待っていてね!」

 

 ユリの腕に抱かれた妹ネムへ別れを告げ、エンリは慌ただしくカルネ村を出発した。直ぐ傍には馬に騎乗したンフィーレアと、動物の像(スタチュー・オブ・アニマル)戦闘馬(ウォー・ホース)に騎乗したルプスレギナ、そして四千八百五十のゴブリン軍団と、レイナース率いる後方支援部隊二百名――荷馬車百台が続く。

 エンリはその先頭で馬の手綱を……と言いたいところであったが、エンリが騎乗している生物は馬ではなかった。

 丸っこい巨体に、フサフサの毛皮。長くて太いしっぽに、つぶらな瞳。

 そう、エンリが跨っているのは、なぜか「モモン様の御厚意で駆けつけた」という森の賢王こと『ハムスケ』であったのだ。

 ハムスケはアダマンタイト製の部分鎧を纏っており、鞍まで完備。尻尾の先には魔力の籠った斧槍が固定されており、まるで戦争のために準備していたかのようである。

 

「将軍殿、しっかり掴まっているでござるよ!」

 

「は、はいぃぃ」

 

 鞍にしがみ付きながら、エンリは疑問に思う。

 どうしてアダマンタイト級冒険者である『漆黒の英雄モモン様』が、使役魔獣であるハムスケを派遣してくれたのか、と。

 

「ハ、ハムスケさん、ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」

 

「なんでござろぅぐむっ!」

「エンちゃーん! 進路はカッツェ平野っす! このまま真っ直ぐ突っ込むっすよー!」

 

 勢いよく会話に割り込んできたのはルプスレギナだ。ハムスケの顔に馬ゴーレムを擦り付けて、意地悪を仕掛けているかのように見える。

 モゴモゴと喋ることができないでいるハムスケを眺め、ルプスレギナは満足そう……だがそれよりもエンリがビックリしたのは進路の件だ。

 竜王国までの進軍経路は、ゴブリン軍師と共にある程度取り決めていた。それはカッツェ平野を北東側へ大きく迂回して山野を越えるルートである。

 もちろん迂回するがゆえに日数は掛かるし、山に潜む飛竜騎兵部族との戦闘も予想されるから、できることならカッツェ平野を進みたい、とエンリも思っていた。

 しかしながら、アンデッドが無限に湧き続けるという凶悪な平野に足を踏み入れるわけにもいかない。そんなことをすれば竜王国へ着く前にゴブリン軍団が疲弊してしまうだろう。相手は疲労を感じない死者なのだ。幾らゴブリン軍団が強いと言っても、疲れを感じる生者には酷な話である。

 遠距離行軍中のアンデッド掃討なんて、指揮官の選択肢には最初から存在しないのだ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいルプスレギナさん! カッツェ平野ではアンデッドとの戦闘になります! しかも抜け出るまでに何日もかかる広さなんですよ! あんな場所で野営なんて……犠牲者が出てしまいます!」

 

 行軍経験の無いエンリにだって理解できる。死者で溢れている平野での野営なんて、ほとんど自殺行為に等しいだろうと。

 バハルス帝国が国の政策としてアンデッド掃討を行っている場所なのだ。時には伝説に語られるほどのアンデッドが生まれるとも聞く。其処で命を落とした冒険者の数も、三桁なのか四桁なのか。

 はっきり言って、進む、進まないなどの議論が起こる余地は無いのだ。それなのに――

 

「大丈夫っす。行ってみれば分かるっすよ。面白い光景が待っているはずっす」

 

「え、え~、どうしよう」

 

「エンリ、ルプスレギナさんはゴウン様から何か聞いているのかもしれないよ。とにかく行ってみよう」

 

 それならそうと言ってくれればイイのに……なんてルプスレギナへ視線を送っても、当の健康的な美しいメイドは素知らぬ顔だ。彼女の性格からしてあっさりネタ晴らし、なんて絶対にしないだろう。

 長い付き合いであるエンリには分かる。

 ルプスレギナは人を驚かせることが好きみたいなのだ。驚愕の表情を浮かべる村人のことを、玩具か何かと思っているに違いない。

 だから今回も、エンリがどのような反応を見せるのか楽しみにしているのだろう。本当に困ったメイドさんです。

 

「もう、分かりました! 進路はカッツェ平野へ、直進コースで行きます!」

 

「ぼ、僕は後方の部隊に伝えてくるね!」

 

「うん、お願いンフィー!」

 

 ぎこちない動きで後方へ向かうンフィーレアを見送り、エンリは小さなため息を漏らす。

 「やはり一軍を動かすなんて荷が重過ぎる」エンリとしては、そう思わずにはいられない。五千もの軍勢を遥か遠くの竜王国まで移動させるなんて、村娘にできるはずもない芸当なのだ。

 進路一つ決定するだけでも、様々な懸念が生まれてきて頭が痛い。

 もちろんゴブリン軍師からは多くの助言を貰えるだろうけど、最終的に決めるのは自分であり、責任をとるのは自分なのだ。

 選んだ選択の結果、誰かが犠牲になったとしたら、誰かを犠牲に選ばねばならないとしたら、私はどうしたらイイのだろう。

 犠牲になるのが、もしンフィーだったら……。

 

 カルネ村を出発してから最初の野営――主要メンバーとの会議を終えたエンリは、戦争経験のあるレイナースを天幕へ招き、夜遅くまで相談を重ねたらしい。

 翌朝、そんな寝不足気味の二人をルプスレギナがからかったのは言うまでもない。

 

 

 ◆

 

 

 年中深い霧に覆われ、アンデッドが跋扈する死滅の地獄、カッツェ平野。

 それはとても生きとし生けるものが立ち入ってよい場所とは思えない……、なんて言いたいところであったが、なんだか霧が薄らいでいるように感じる。

 エンリ自身初めて目にするのだから、濃いか薄いかなんて判断はできない。

 でも結構遠くまで見通せる現状からして、先の見通せない深い霧が立ち込めている、とは言えないだろう。

 骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)の姿も見えない。

 

「ここがカッツェ平野ですか? 何だか想像していた光景と違いますけどぉ」

 

「エンリ将軍、周囲の偵察へ暗殺隊を送りますぞ。御身の傍にはレッドキャップスを数名配置いたしますので御了承を」

 

「あ、はい。ありがとうございます、軍師さん」

 

 カッツェ平野へ入る直前、連れてきた十名のレッドキャップスのうち、半数がエンリの警護へと付いていた。

 ゴブリン軍師の立場としては、アンデッドの住処へ(あるじ)を連れて行きたくはなかったのだが、当人からの命令とあれば致し方ない。たとえ要警戒人物であるルプスレギナの誘導があったからだとしても、『否』とは言えないのだ。

 できることと言えば、エンリ将軍の近辺を最大戦力で固めることぐらいであろう。半数で御身を護り、残り半数で足止めを行う。誰の足止めなのかは明言しないが……。

 

「お~、見えてきたっす。作業は順調に終わったみたいっすね」

 

「え~っと、なんの話ですか? ルプスレギナさん」

 

「なにって、アレっすよ。アレ」

 

「ん~? 霧の向こうから何かが走って――って、アレは死の騎士(デスナイト)さん?」

 

 霧を裂いて現れる巨体の黒い騎士。しかも一体や二体どころの話じゃない。その存在と数は、接近していた暗殺隊に覚悟を決めさせるほどだ。

 

「エンリ将軍! 此処は我らが押さえます! お逃げください!!」

「待つっす! その死の騎士(デスナイト)は、アインズ様が御自ら創り出した味方っすよ! 傷付けたらヤバいっす!!」

「あ、暗殺隊の皆さん! 退いて! 退いてくださーい!」

 

 間一髪と言うべきか? エンリの叫びともつかない指示に、暗殺隊は瞬時に帰還する。幸い死の騎士(デスナイト)に警戒のそぶりは見られない。

 まぁともかく無用な戦闘を避けることができて、エンリとしてはホッと一息。だけど、そもそもルプスレギナが最初から教えてくれていれば良かったのだ。

 ゴウン様の死の騎士(デスナイト)がカッツェ平野で待っていると、その一言で十分だったのに……。

 

「(ルプスレギナさんには後で文句を言うとして)はぁ、それにしても」

 

 エンリが呆れるような呟きを漏らすのも仕方がないことであろう。

 目に映る薄霧かかった平野には、死の騎士(デスナイト)がざっと百体近く。視界の通らない霧向こうには、その数倍はいそうな気配がしてくる。

 いったいゴウン様は何をしようというのか? エンリには皆目見当がつかなかった。

 

「エンちゃん、大丈夫っすよ。死の騎士(デスナイト)は竜王国までの道中を助けてくれるっす。アインズ様は『カッソウロ』って仰っていたっすね」

 

「はぁ、かっそうろ、ですか?」

 

 むふふ、と何やら楽しそうなルプスレギナは、困惑するエンリをそのままに、死の騎士(デスナイト)達へ片手を上げる。

 

「そんじゃあ、よろしくお願いするっす!」

 

「「オアオオオォォオオォオーー!!」」

 

 返事なのか叫んだのか分からない轟音とともに、死の騎士(デスナイト)は規律正しく左右へ散っていく。広がった左右の幅は大型荷馬車十台分ほど。死の騎士(デスナイト)はそんな巨大な道とでも言うべき両端に於いて、一定の間隔を空けながら遥か遠くまで街灯のように佇む。

 

「これって、まさか私達の通り道ですか?! カッツェ平野に馬車が通れるような道を作ったってことなんですか? 死の騎士(デスナイト)さんたちで?」

 

「そうっす、驚いたっすか? エンちゃん達はこのまま死の騎士(デスナイト)の間を通っていけばイイだけっすよ。途中でアンデッドが近寄ってきても、道の左右に立っている死の騎士(デスナイト)が片付けてくれるっす。まっ、エンちゃんが来るまでの数日で粗方始末したらしいっすから、何もいないとは思うっすけどね」

 

 エンリは、道の左右で貴族を迎える執事であるかのように姿勢よく立っている死の騎士(デスナイト)を見つめ、一つの想いを心に宿す。

 

 ――その死の騎士(デスナイト)さん数百体を竜王国へ送れば、全て解決なのでは?――

 

 考えてはいけないと思いつつも、エンリは考えてしまう。

 偽装騎士を斬り殺し、カルネ村を救った死の騎士(デスナイト)。ゴウン様の忠実な(しもべ)にして、飲食睡眠不要の疲れないアンデッド。

 恐らくエンリ率いるゴブリン軍団より迅速にビーストマンを駆逐してくれるだろう。

 でもゴウン様はエンリに白羽の矢を立てた。

 その意味とは?

 

(ゴウン様は、私には分からない深い理由をお持ちのはず……。それに死の騎士(デスナイト)さんたちで全てを解決してしまったら、私たちの食糧問題がそのままになっちゃう。うん、やっぱり私たちの手でなんとかしないとっ)

 

 

 掃き清められた平野の道を、ゴブリン軍団は恐る恐る進む。

 先頭のエンリが平気な顔で先導しているといっても、やはり左右に佇む死の騎士(デスナイト)の存在は脅威だ。

 何かの弾みで襲いかかられては、(あるじ)たるエンリ将軍を護れない――そんな感情が滲み出ているかのようである。

 

「それにしても凄い光景でござるな~。前に来たときとは別の場所かと思うでござるよ」

 

「そういえばハムスケさんはここへ来たことがあるんですね。以前はどんな感じだったのですか?」

 

骸骨(スケルトン)がいっぱいいたでござる! 霧も深くて数歩前が見えないくらいでござった」

 

 ハムスケは『漆黒』の一員として、カッツェ平野でのアンデッド掃討作戦に参加していたこともある。それゆえ現地の事情に詳しいのだが、エンリには説明された以前の光景に、全く想像が追い付かない。

 今視界に入ってくるアンデッドは死の騎士(デスナイト)のみ。

 霧の深さはカルネ村でもごくまれに経験するようなレベルだ。

 加えて道中が快適すぎる。

 ゴウン様の仰る『かっそうろ』なる道は、死の騎士(デスナイト)によってデコボコが整えられ、小石一つ落ちてはいない。レイナース率いる大型荷馬車隊が無理なく進めることからして、整備された石畳の街道と同等であると言えるだろう。

 エンリとしては感謝の気持ちを持ちながらも、ゴウン様に少しだけ訴えたくなる。

 

 ――国家事業規模の土木工事なんですけど! しかもアンデッドの出現する危険地帯で!――

 

 しかもその大型事業が、エンリの一軍を通すだけのために行われているのだから、少しばかり眩暈を感じて頭がクラクラしたとしても許されるだろう。

 「ゴウン様は偉大だ」そんな何度目になるか分からない感想を抱きつつ、エンリはカッツェ平野の危険なはずの野営に向け、全軍へ指示を出していた。

 

 

 ◆

 

 

 目を覚ましたエンリが天幕の外へ出ると、やはり薄霧の平野が広がっていたのだが……。その奥には何故か巨大な船が転がっていた。

 いや、平野に船があること自体可笑しな話なのはエンリにだって分かるし、その船をボロボロに破壊したのが死の騎士(デスナイト)さん達だろうってことも理解している。

 ただ、エンリは子供の頃に聞いた怖い話の中に『カッツェ平野の海賊船』があったような気がしていたのだ。その海賊船が伝説のアンデッドを乗せて、何百年も前から人々を恐れさせていたはずだと。

 

(あの船って……まさか)

 

 常識外れの事象には結構慣れていたつもりでも、実際にはまだまだということなのであろう。

 エンリは鼻歌交じりで近付いてくるルプスレギナの呑気な様子を見て、別世界の住人なのではないかと疑わずにはいられない。

 

「おはよーっす! ん~? エンちゃんどうしたっすか~? 昨日はンフィー君と頑張っていないっすよね。寝不足になる要素は」

「ちょっ、ちょっとルプスレギナさん! 私とンフィーはまだそんなことしてません! いつもしているみたいなこと言わないでください!」

 

 ルプスレギナの誘導で、恥ずかしい台詞を大声で口にしているにも拘らず、エンリはまったく気付かない。

 周囲のゴブリン軍団が大人の配慮を見せて、無反応だからだ。

 まぁ同じ天幕の中で一晩過ごしていたンフィーレアが、自分のヘタレ具合を公言されたため、しばらく顔を出せなくなったのはご愛嬌であろう。

 

「それよりあの船はどうしたのですか? 昨日野営する前は無かったですよね」

 

「ああ、アレはアインズ様の『カッソウロ』を横切ろうとしたバカっす。身の程を知らないおバカさんだったんで、私が思い知らせてやったっすよ」

 

「ル、ルプスレギナさんがっ?!」

 

 開いた口が塞がらないとはこのことかっ?

 百人以上は乗船できそうな大型船を再度見て、エンリは自分の認識を改める。

 ルプスレギナがゴウン様に仕える凄いメイドであることは分かっていた。妖巨人(トロール)を打ち倒したときに、恐るべき戦闘能力を持つ強者であると理解したつもりでいた。

 だが、死の騎士(デスナイト)さんが集団で襲いかかってボロボロにしたのだろうと思っていた伝説上の相手に、目の前の傷一つないメイドさんが関わっていたとは。

 もしかするとゴブリン軍団全軍よりルプスレギナは強いのでは? なんてエンリが思うのも仕方のない話かもしれない。

 

「そんなことより朝御飯食うっすよ! いっぱい食べておかないと途中で倒れちゃうっす!」

「あ、あの、先に顔を洗い――」

 

 そんなこと呼ばわりされた伝説を尻目に、エンリはルプスレギナに引っ張られて食事の準備を始めていた後方支援部隊のところまで連れ去られてしまう。

 無論、そこには青い顔を見せながら朝食の用意をしている帝国兵、及びレイナースの姿があったそうな。

 

 

 アンデッド彷徨う死の平野、そのように呼ばれていたカッツェ平野も今は昔。エンリが眺める薄霧の大地は、実に平和な様相を見せていた。

 アンデッドが近付いてきたのは、数日間のうちわずか数回。

 それも死の騎士(デスナイト)により瞬殺されてしまったので、危険を感じた回数はゼロである。

 その他には何もアクシデントは無く、ルプスレギナのちょっかいから逃げる方が大変だったと思うほどだ。

 

「はぁ、結局平坦な街道を何事も無く進んできただけなんて……」

 

「大丈夫かい、エンリ。疲れているならハムスケさんに任せて横になったらどうかな?」

 

「うむ、尻尾で固定して落ちないようにするから安心してほしいでござるよ」

 

 この数日間で妙に仲良くなった――面識があるのは聞いていたけど――恋人と魔獣を眺め、エンリはため息を漏らす。

 カッツェ平野を無事に抜けられたとはいえ、竜王国へ辿り着くためにはまだまだ難所が待ち構えているのだ。横になっている場合ではない。

 まずは目の前の山を越える必要がある。それも大型荷馬車を百台抱えて、だ。荷物満載の荷馬車を整備されていない山中へ押し込み、通過させるなんて、村娘の頭でも困難な作業であると分かる。

 加えて山の獣たちが大人しくしているとも思えない。

 ゴブリン軍団がいくら屈強であると言っても、疲労困憊の登山途中で襲われたなら少なからず犠牲は出るだろう。

 

「ンフィー、今は先にやることがあるわ。荷馬車に積んである荷物を小分けにして、登山できるよう準備しましょう。ハムスケさんも手伝ってくださいね」

 

「あっ、そ、そうだね」

「分かったでござるよ。このハムスケにお任せあれ!」

 

「なに言ってるっすか? そんな面倒なことしていたら竜王国は滅びちゃうっすよ。――てなわけで、よろしく頼むっす!」

 

「ウオオオォォオオ!!」

 

 なんだか見たことのあるような展開だなぁ、っと他人事のように眺めていたエンリの前で、死の騎士(デスナイト)が動き出す。

 その数は百体、それぞれが後方支援部隊の傍まで歩を進め、ガシッと荷馬車を掴むと、慌てて逃げ出す帝国兵及び軍馬に構うことなく大きな荷台を自らの背に載せてしまったのだ。

 

「さぁ、このまま山を越えるっすよ! ん~? なに口を開けっぱなしの間抜けな顔をしてるっすか? エンちゃんが大将なんすからしっかりするっすよ!」

 

「は、はいぃ!」

 

 大荷物を軽々と持ち上げる百体の死の騎士(デスナイト)は、エンリの指示を待って微動だにしない。

 恐らくエンリが出発の号令を下せば、ゴブリン軍団に続いて山を登ってくるのだろう。道無き道を、足場の悪い坂道を、なんの苦も無く駆け上ってくるのだろう。

 速度を他の皆に合わせるよう指示をしておかねば、大荷物を抱えたまま先頭まで突っ走っていくのかもしれない。

 疲労無きアンデッドの恐ろしさとその怪力には、今更と思うかもしれないが、エンリとしても二の句が継げない。

 ただ、これだけは言っておきたいと思う。

 

 ――ゴウンさまぁ! やっぱり死の騎士(デスナイト)さんだけで十分なのではっ?!――

 

 他の理由があると分かっていながらも叫びたくなる。だけど今はそんな場合じゃない。全軍を指揮して前へ進まないと、助けられる人も助けられなくなる。

 エンリは急な坂道をハムスケに支えられながら少し登ると、振り返って全軍を見渡し、気持ちを取り直して号令を下す。

 

「全軍、出発!!」

 

 ちょっとやけくそ気味なエンリの号令、それは遠方まで響き渡り、無関係な獣まで揺り動かしたそうな……。軍列の後方に獣の列ができたのは、決して物資の食糧目当てだったわけではないだろう。

 




旅には苦労が付き物。
そのはずが……。

何故か快適旅行気分。
アンデッドの徘徊地帯であろうとも、観光ツアーであるかのよう。

つーか、それでイイのか魔王様?
アンデッドが土木工事に向いているとアピールしたいのは分かるが、
ここでアピールしてどうする。
関係者しか見てないぞ。

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