孤独のオラリオグルメ   作:赤備え

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ゴローちゃんの性格はドラマ版寄りにしてます。



エイナ・チュールの手作りサンドイッチ

バベル内ギルド本部ロビー

 

(参ったなぁ、ロイマンさんの自慢話長すぎだよ。それに「自分にふさわしい豪華な椅子」ってなんだよ…)

 

ふと周りを見渡すと今日もひっきりなしに大勢の冒険者たちが魔石の換金やダンジョンへ潜っている。

誰も踏破したことがない未知なる深層にロマンを求め日々冒険者はダンジョンに潜るらしいが俺からしてみればわざわざ死ぬ危険を冒してまで好奇心を満たそうとは思わない。

満たすは空腹だけで十分だ。だけど、冒険者たちが毎日戦利品として持ち帰る魔石で様々な生活用品が作られたり下水の浄化をしたりしているおかげでオラリオは繁栄しているから

冒険者という存在は迷宮都市オラリオにとっては欠かせない存在だ。職種は違うが毎日苦労して俺たち一般市民の生活の基盤を支えてもらってるおかげで美味しい飯が食える。冒険者さんたち、毎日ご苦労様です。

 

「ゴローさん!!」

 

冒険者たちに心の中で敬礼をしていると受付の方から走ってくる人物がいた。長く尖った耳に普通の人間ではありえないエメラルドの色をした瞳、理知的な目にはメガネをかけている。

 

「あ…エイナさん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです、じゃないですよ!ロイマンさんから呼び出されたそうじゃないですか!もしかして職員として戻って来いって言われたんですか!?」

 

ハーフエルフの女性であるエイナ・チュールは俺に対して鬼気迫る勢いで俺に詰め寄る。

 

「いや、違います。執政室で使う豪華な椅子が欲しいから見繕って欲しいと頼まれたんですよ」

 

「そ、そうなんですか…」

 

肩を落としがっかりしたように目を伏せるエイナ。俺にとって異世界に来て途方に暮れていた俺をギルド職員という職に就かせてもらって色々と世話をしてもらった恩人である彼女は会うと毎回ギルドに戻らないかと提言してくる。

 

今の仕事が軌道に乗ってかなり稼いでいるとはいえ俺の仕事は輸入雑貨の貿易商という個人で営んでいる自営業だ。いつか稼げなくなって普通に生活がないほど困窮してしまうのではないかと心配しているのだろう。彼女の心配はとても有難いが俺は組織に所属しているよりも一人で仕事をする方が合っているんだ。

 

「…エイナさん、心配しなくても大丈夫ですよ。今の仕事を初めてもう半年経ってお得意先も段々増えてきて収入は安定してるんです。だから安心してください」

 

「そういう事を言ってるんじゃないんですよ!その…ここ1年一緒にいる時間少なくなっちゃったじゃないですか…」

 

何故頬を染めて体をモジモジさせながら上目づかいに俺を見るのだろう。…ああ、そうか、エイナは自他共に認める世話好きとして有名で新人の冒険者には徹底的にダンジョンの怖さや知識を叩き込んでいるらしい。俺がギルド職員だった頃もなにかと世話を焼いてくれたなぁ。

 

俺の世話が出来ないから不満に思っているのだろう。まだ19歳の女性がこんな中年になるおっさんにも世話を焼きたがるなんて本当に奇特だ。

 

それにしてもあの頃の昼食は毎日エイナの手作り弁当を食べていたがどの食べ物も美味かったなぁ。エイナは「ゴローさんはいつも外食ばかりで健康に悪いです!これからは私が弁当作りますからそれを食べてください!」と言って本当に毎日弁当を作ってきてくれたのには流石に辟易したが今となってはいい思い出だ。

 

特にサンドイッチは格別に美味かった。思わず「毎日食べたいくらい美味い」と言ったらエイナは顔を真っ赤にして「そ、そ、それってプ、プロ…!!」と言いなぜか卒倒したが、何か変なことを言ったのだろうか。

 

この出来事以降エイナは毎日サンドイッチを作ってくれるようになった。何故か他の男性職員たちが殺気の籠った目で俺を毎日睨んでいたが理由は今でもわからん。

 

それにしてもサンドイッチかぁ…もうすぐ昼だし、なんだか急に…腹が、減った…。

 

 

 

ポン     ポン        ポン

 

 

 

「…ローさん、ゴローさん!聞いてるんですか!!」

 

「すみません、用事があるんで失礼します」

 

ロイマンの『自分にふさわしい豪華な椅子』の調達もしなければいけないし、まずは空腹を満たしてまた一仕事をしよう、腹が減っては戦はできぬだ。

 

「ちょっとまってください」

 

エイナはガシッっと俺の腕を強く握ってきた。なんだ一体…

 

「もしかして、ゴローさん今店で昼食食べようとしてるでしょう」

 

「え…?」

 

「…ちょっとここで待ってくださいすぐに戻ってきますから」

 

「いや、だからこれからちょっと用事が…」

 

「い い で す ね ?」

 

笑顔だがここで無言で去ったら確実に何か恐ろしいことが起きると俺の直感がささやいていた。

 

 

 

「…はい、これ、弁当です。ゴローさんの好きなサンドイッチが入ってますよ」

 

直感に従って待っているとエイナが弁当を俺に渡してきた。

 

「え、でもこれってエイナさんの弁当じゃないんですか」

 

「いいんです!私は職員食堂で食べますから。それよりもゴローさん、外食ばかりじゃ栄養が偏りますから今後はしっかりとした食生活をしてくださいね!」

 

「…わかりましたじゃあこれ、ありがたくいただきます」

 

…全く、仕方ない。彼女に言われたら断れないじゃないか。ここは素直にもらっておこう

 

「…そ、その弁当をあげる代わりと言うか…今度一緒にご飯を食べに行ったりショッピングに付き合ってもらいますから!言っときますけど拒否権はないですからね!」

 

一気にまくしたてるとエイナは頬を桃色に染めて小走りに受付へと戻っていった。拒否権はないんですね…。

 

 

 

しかし、腹が減りすぎて店を探す時間も惜しかったからエイナからの弁当はかなりありがたかった。

早速摩天楼(バベル)前の広場にあるベンチに座って弁当の蓋を開ける。

 

たまごサンド←サンドイッチの王様。黄身と白身の色合いは正に芸術。

 

照り焼きチキンサンド←焼いたモモに甘いタレ、正に正統派の組み合わせ。タレの臭いで空腹はMAX!

 

巨黒魚(ドドバス)のフライサンド←異世界の魚だけど味は天下一品!食べればもう巨黒魚の虜!

 

(おお、あの頃と同じやつだ。これだよこれ)

 

俺がギルド職員の頃美味いと言ったのと同じ食べ物を揃えている。これはかなり嬉しいぞ。

 

まずはたまごサンドから…うん美味い。いつ食べてもぶれない美味しさ。俺的サンドイッチランキング堂々の1位に輝いているだけはある。

 

異世界人も現代の日本人である俺と同じ味覚をしているのは本当に有難い。たまごサンドは異世界でも美味いと認知されているのは純粋に嬉しかった。もし虫やモンスターを主食にしているなんて言われたら卒倒するだろうな。

 

さて、お次は照り焼きチキンサンド…おお…これこれ、この甘すぎないトロトロのタレ!これがいい!これ、タレをご飯にかけても美味いんじゃないか?

 

サンドイッチって色んな食材を組み合わせて自分のオリジナルのサンドを作ることもできるんだよな、試行錯誤を繰り返して美味い組み合わせを開発する…正に食の科学者だ。

 

そして最後は巨黒魚のフライサンド。この魚を最初見た時はモンスターと勘違いしたほど凶悪そうな見た目をしていたが食べてみると白身魚と変わらない美味さなんだからびっくりしたなぁ。食わず嫌いはいけないことだ。

 

ふぅ…エイナの作るサンドイッチを久しぶりに食べたがやはりどれも文句なしに美味い。…これだけ美味いものを作ってくれたんだから、まぁ今度エイナの買い物に付き合ってやろうかな。

 

俺は空になった弁当箱を鞄に詰め込み、ベンチから立ち上がろうとした時に不意に俺を見つめる視線のようなものを感じた。

 

「…?」

 

辺りを見渡してもダンジョンに向かう冒険者たちで賑わっている周辺に俺を見つめる人は誰一人もいなかった。

 

「…まぁ、気のせいだろう」

 

最近働きすぎて疲れているんだろうな、今日は仕事を早めに終えてふかふかのベッドで寝よう。俺は満腹になった腹をさすりながら自分の事務所兼自宅へ向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バベル最上階の50階にて

 

「…」

 

広大な部屋の中でガラス越しにバベル前の広場を見つめる一人の神がいた。

 

男だけなく、女でさえもその姿を見ただけでその女神の虜になってしまうほどの美貌を持った女神フレイヤの瞳は広場にいるスーツを着た中年の男に釘付けになっている。

 

それは本当に偶然だった。何気なく見渡していたオラリオの景色の中に一つだけフレイヤの目を惹きつける『色』をした子を見つけたのだ。

 

「ふふ…面白いわ。あの子の魂…凄く純粋で綺麗…何かを純粋に求めている色をしているわ…」

 

フレイヤは恍惚とした顔をしながら瞳の中に欲望の炎を灯していた。

 

「あなたは一体何を求めているの?知りたいわ…とても…」

 

 

 

 

 




フレイヤに目を付けられたゴローさんは一体どうなるのか。次のお話はフレイヤさんもかなり絡んでくる話にする予定です。

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