衝動書き。たぶん二番煎じどころじゃない。


 そんなこいしとさとりのお話。文字も時間も狙った。




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 みんな!五月十四日はなんの日かな?



 え?こいしの日?何言ってんだ、母の日に決まってるだろ(おい)。

 てなわけで、どぞ。誤字等あったら教えてください。
 





道端の小石なんて誰も気にも留めない

 これは、忘れられたものの集う幻想郷の

 

 忘れられ、それでもその小さな枠で忌み嫌われたものの往く

 

 『嫌われ者の楽園』地底の

 

 その中でも、その小さな小さな世界でも

 

 特に嫌われ、奥の奥の方に住む、二人の『覚妖怪』のちょっとしたある一時の一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、お姉ちゃん!地上ってとっても面白いんだよ!!」

 

 

 ここは、地底。忌み嫌われたモノ、忘れられたものの住む『幻想郷』の中でも忘れられたモノたちの最後の楽園。故に人などおらず、ここは妖怪と怨霊の世界。ついでに言うと、地上に住む妖怪も入ってくることはない。理由は、地底と地上には不可侵条約が結ばれていて、『妖怪』は入ってくることが出来ないためだ。

 

 そう、『妖怪』は。私だってわざわざ好き好んで……好き好んできたのは片方だけか。まあいい。地底に来る『人間』なんているとは思ってなかったのだ。たとえ、どんな理由があろうとも。

 

 ほんの数日前、地上にここ、地底から大量の怨霊が湧き出てきて大変なことになった……らしい。

らしい、というのは我々地底の住人にはあまり被害がなかったせいであり、実感がないのである。

だが、その湧き出る怨霊を重く見た地上の賢者様は、地底を見に行くことにした。しかし、地底と地上には不可侵条約がある。それは賢者でも例外ではない……まあ、私の妹や鬼の一部なんかは行き来をしていたらしいが。つまり、どういうことかというと妖怪が行き来できないなら人間を行かせよう!という結論に至ったのだ。

 

 そして、先日、私は久方ぶりに人間を目にした。地底に潜って以来だから、おおよそ三百年ぶりだ。

昔の人間は覚妖怪、と聞くと荷物を置いて裸足で逃げ出していた。今の人間は、覚どころか妖怪も神も気にせずに戦いの相手とするらしい。外は物騒だ。地底に住んでいてよかった。まあ、あの人間たちがおかしいのだとは思うが。

 

「お姉ちゃん?聞いてる?」

「……ん、こいし。考え事をしてました。ごめんなさい」

「もう!しっかりしてよ!」

 

 考え事をしていると、前から声がかかった。顔をあげると緑がかかったグレーの髪の少女が、頬を膨らませて怒っているのを表現しようとしているのが目に入る。

 

 彼女の名は『古明地こいし』。私の可愛い可愛い、妹だ。姉の欲目というのも捨てても可愛い。美少女。世界一位。種族は………言いづらいが私が『覚妖怪』であるのに対し、こいしは『無意識妖怪』?というものに入る。こいしは過去に様々なことがあって目を閉ざしてしまったのだ。彼女はそんなことをそんなに覚えていないらしいし、今はまったく気にしていないらしいが。姉としてはちょっと気になる。

 

 そうそう、申し遅れました。私の名は『古明地さとり』と申します。

仮にもこの地底世界の支配者、でございます。そんな風に見られたり呼ばれたりすることはありませんが。しいて言うなら皆から『恐れられて』いることぐらいでしょうか。同じぐらい嫌われていますが。一応は『覚妖怪』ですので『心を読む程度の能力』を持っています。嫌われる理由はもちろんこの能力です。どんな人だって心を読まれちゃあ堪らないでしょう?私だって嫌です。誰だって嫌です。このせいで妹が目を閉じたかと思うと、覚妖怪に生まれたことを呪いたくなりますね。

 

 話がずれた。こいしは人の無意識をついて現れるので、話しかけられたのがわからない。そこが困っているところだ。つまり、私はこいしの話を全く聞いていなかったことになる。もう一度、話してくれるようにこいしに頼んでみる。

 

「ごめんなさい。もう一度話してくれるかしら?」

「うん!あのね!」

 

 いい笑顔で、大きな声で返事をしてくれた。うんうん、可愛い。

 

 

「神社に行ったの!!そしたら、巫女さんがいたの!紅白の!!すっごく強かったの!」

 

 

 気が付いたら、私は立ち上がっていた。座っていた椅子が倒れる音が部屋に反響したが、気にすることはない。

そんな事よりこいしが心配だ。

 

「あいつに、変なことされなかった?痛いことされなかった?」

「?……うん!一緒に弾幕ごっこで遊んだの!あと白黒の魔法使いとも!」

 

 ふう。良かった。こいしに危険が及んでいたら、どうしようかと。少なくとも一週間はトラウマ漬けですね。間違いない。こいしという、私と地底と宇宙の秘宝に傷でもつけていたら、許さなかった。と、いうよりもこいしがふらふらしすぎなのだ。もっと地底の目の届くところにいてほしい。心配だ。

 

「………それは、良かったわね。でも、変な巫女さんには気をつけなきゃダメよ?あの巫女さん、たぶん怒るとすっごく怖いわよ?」

「………!そうなの?お姉ちゃん、怒られたことあるの?」

「………ええ。まあ、怒られたというよりは、叩かれた?」

 

 こいしは、私の言葉を聞いて、腕組みをして、頷きながらこう言った。

 

「怖い巫女さんもいたものね」と。可愛い。

 

 

 

 

 

 

「ハクシュン!うう………風邪でも引いたかしら?」

 

 参拝客の一人いやしない、神社の境内を掃除する紅白の巫女さん。

縁側に座ってせんべいを頬張る魔法使い。

 

「風邪か?ならこの前湧いた、温泉にでも入ってくるといいんだぜ」

「………そうしようかしら」

 

 

 

 

 

 

 ちょっと、時が流れた。

 

 

 

 

 

 

 あれから、少しは地底も変わった。まず、ほんの少しならば、地上に出ていいことになった。相変わらず私は地上どころか、地霊殿の外にも出ないが。というか、地底の中でも好き好んで外に出るのなんていなかっただろう。逆のケースは多かったらしいが。例えば、魔法使いが宴会を開いたりだの、鬼が西洋の鬼と力比べをしただの。旧都から遠く離れたここにまで、叫び声や声援が聞こえてくるぐらいだったので、盛り上がっていたのだろう。私には何の関係もない話だが。

 

 あの時以来、こいしが姿を見せることも、話しかけてくることも、笑顔を見せてくれることも、ぐんと多くなった。その点ではあの人間たちに感謝してもよいかもしれない。その点では、だ。

 

 あの時の異変は、山に住み始めた神様が『産業革命』?を起こす為にお空に太陽の力を与えたらしい。そしてそのせいで灼熱地獄跡が暴走したために、お燐が困って怨霊を地上に送って助けを求めた、というのが事の顛末らしい。神様二人が謝りに来ていたが、関わりたくないのですぐに帰らせた。

 

 あれからは、私の平穏が乱されることもなく、こいしが傷つくようなこともなく、さらに地底で何かが起こるようなこともなく、静かに暮らせていた。こういうものを私は望んでいるのだ。それ以上、私は何も求めたりなんてしないのに。

 

 外では、今、宗教戦争なんてものが流行っているらしい。こいしにも、私にも、地底にも縁のない話だ。地底ほど信仰とか、宗教だとかが似合わない場所も少ない。私は神も仏も信じていない。こいしも同じではないだろうか?そもそも、信仰を取り合って戦う理由がわからない。私のように、一人静かに本を読んで暮らそうと考えることは出来ないのだろうか?

 

「お姉ちゃん!私、お寺に入ったよ!」

 

 私は椅子から転げ落ちた。どんがらがっしゃん、と。割と大きな音を立てて。

ねえ、こいし。私はさっきまでそれと真逆のことを考えていたのだけど。まだ、私は貴方の考えが読めないみたい。流石無意識妖怪ね。

 

「いてててて………それで、どういうこと?なんでお寺なんて入ったの?」

「なんかね……ひじりさん?って人が、『あなたは無我の境地にたどり着いているわ!命蓮寺に入って見ない?』って言ってくれたから……」

 

 こいし、ソレは割と危ないかもしれないわよ?そういうのにすぐ騙されないようにね?年を取るとそういうのに騙される人が多いって聞いたわ。

 

「大丈夫!ひじりさんは優しいし、こころちゃんっていう友達もできたの!今、私はすっごく楽しいのよ!」

 

 

 友達!?確かに、こいしは社交的だし、私と違って友達がいたって全然おかしくはないわ。むしろいいことよ。だから……私は悲しくないもん………グスッ。

 

 

 

 

 

 

 またちょっと時が流れる。

 

 

 

「ねえ、お姉ちゃん、オカルトボールって知ってる?七つ集めると願い事が叶うんだって!」

 

 私が本を読んでいると目の前にこいしが現れた。もう驚かない。こいしが唐突に、オカルトボールなるものの存在を知っているか聞いてきた。勿論知るはずはないのでいいえと答える。どうやら、今の外の世界(どうやら幻想郷の!)では、オカルトボール探しなるものが流行っているらしい。外の世界の流行はすぐ変わる。私のマイブームはここ百年の間、読書だというのに。だいたい、そんなボールを七つ集めた程度で願いがかなうならだれも苦労しない。そんなのを信じているなんて、まだまだこいしも子供だ。まあ、頭のいいこいしちゃんならそんなものを集めるのにうつつを抜かしたりなんてしないだろうけど。

 

「見て見て!六つ集めた!」

 

 そういって、こいしは後ろ手に隠していた紺色の球を六つ私の眼前に突き出した。

私は椅子から転げ落ちた。これで何度目だかわからないがいつもの事なのでもう気にしない。こいしの奇行はもう気にしてはいけないのだ。何時も私を支えてくれる椅子さんには感謝している。

 

 もう二度とこいしのことで驚くもんか、こいしに変な目で見られてたまるもんかと、心に強く決意して思いっきり打った腰をさすりながら私は椅子に座りなおした。そして深呼吸して、一度考える。

 

 こいしに何といえばいいか。騙されてるわよ、とでも言えばいいのか?それはダメだ。私の妹がせっかく集めたのだ、それを否定するのは論外だ。わあ、すごーい!と褒め讃えてあげるのが一番だ。

 

「わ、わぁ!すごーい、こいし!もう六つも集めたのね!この調子で七つ集めきっちゃいましょう!?」

 

 私の声は震えていただろう。こいしは気にしていないようなので良かったが。そういえば、このボールを六つも集めてどうするつもりなのだろうか。願い事がかなう、と言っていたがまさかこのボールを使うと空から『龍神』が出てきて願い事をかなえてくれるわけじゃないだろう……たぶん。

疑問に思ったら訊ねてみるのが一番だ。こいしに聞いてみる。

 

「ねえ、そのボールを集めて何の願いをかなえるつもりなの?というか、そもそもなんでオカルトボールなんて探し始めたのよ?」

「ん?オカルトボールを集めた理由?えっとねぇ………そうそう、メリーさんってわかる?」

 

 メリーさん?何だそれは。外界ではやっている新手の遊びだろうか?分からないということをこいしに伝える。

こいしは少しがっかりしたようで、表情を暗くしている。その表情も可愛い。流石マイシスター。天使の無意識妖怪。

 

「そっかぁ……地底ではあんまり有名じゃないのか……残念だなぁ……」

「大丈夫!おねぇちゃんが外に出ないだけで、もしかしたら流行っているかもよ!?」

 

 自慢できたことではないが、私は筋金入りの引きこもりだ。地霊殿の外に出ないし、ましてや地底の外なんて絶対に出ない。だから私が知らないのも無理はないのである、ということをこいしに言ってフォローする。すると、こいしは笑顔になった。私は自分が引きこもりかつボッチであることを自覚して少し悲しくなった。だが、こいしの笑顔だけで天秤が釣り合う。なのでいいのだ。

 

「そうそう、そのメリーさんっていうのをみんなが怖がってくれるかな、と思ってやってたらオカルトボールがこんなに集まっちゃった」

 

 ………なにか重要な点をすっ飛ばしたような気はするが可愛いのでセーフにしよう。

 

「で、あと願い事だっけ?そうそう、私の願い事はね!」

 

 こいしの、願い事。気になる。こいしはお金も名誉も望みそうにない。では何だろう。こいしが一番ほしいもの。願っているもの…?

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんと、みんなとずっと一緒に幸せに暮らしていけること!!私の願いはそれだけだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 私は、あの願い事を聞いた後、こいしが部屋の外を出て行ってから机に突っ伏して泣いた。ここ百年分の涙が一気にあふれ出た。わんわん泣いた。私の見た目通りの年みたいに。

 

 だって、仕方ないだろう。『自分という覚妖怪』を捨てても、それでも前に前に進み続けている妹の、一番の願いが『家族』なんて嬉しいし、とても誇りに思うし、とっても可愛いし。

 

 小石。それは覚妖怪が最も嫌う、無意識に潜むもの。………であるが故に。

 

 

 彼女は覚妖怪としての自分を捨てた時、自分にその忌み嫌う名前を付けたのだ。

 

 

 

 『こいし』と。

 

 

 

 でも、私は。

 

 

 

 

 彼女のことを昔の名前で呼んでみる。

 

 

 

 

 『恋視(こいし)』と。

 

 

 

 

 

 私は………彼女の依り所になりたかった。しかし真実は逆。私の拠り所こそ彼女だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ!もう………私は彼女から逃げたくないのだ。もう彼女が捨てた目をそらすのは止めだ。

 

 

 

 

 

 私たちは『覚妖怪』の『古明地』だから。地底の支配者だから。

 

 

 

 

 

 

 もう。世界から逃げない。

 

 

 

 

 そうして、私は初めて目を開けた。

 

 

 




 続きを書くとするならおそらく三月の十日になるだろう。

 いや、書きませんけどね?

 


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