JKが紡ぐ、青春協奏曲   作:Cr.M=かにかま

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更新遅れた理由?
イベント走ってたからですが何か?(ただしランキングは大したことない)


8.ある学生達の夏休み

午後までバイトがなく暇である、寝てようと思ったけどあまりの暑さに起きてしまったので仕方なく買い出しに出かけることにした。丁度塩とスポーツドリンクが減ってきたところだ。

いつものスーパーに行こうと歩いていたら俺の目の前に三毛猫が現れた。

 

「.....ミケ?」

「みやぁ」

 

なんだろ、俺はこのミケに知り合いなんていないはずだ。

それなのに、このミケはまるで俺を待っていたのように俺のことをじっと見つめてくる。暑い。

.....一体いつまでこうしてるつもりなんだろうか?それとも、これは我慢比べの類なのだろうか。

いくらバイトまで暇だからといっても無駄な時間は過ごしたくない。ミケの意図がわからないからとりあえず近づいて愛でてみることにしよう。そうすることで無駄な時間も無駄ではなくなる。

 

逃げられた。

 

「クソ!」

「みやぁぁ!」

 

付いて来い!そう言ってる気がしたから追いかけることにした。

いくら温厚で仏の五葉さんと言われてる俺でも怒るときは怒る。煙草足りない時とか、クレーマーが来た時とか、あの変態に絡まれた時とか!

 

駅を通り抜け、商店街を走り去り、公園を抜け、辿り着いたのは公園と路地の丁度境目に位置する小さな空き地だった。こんなところがあるなんて全然知らなかったな。

ドヤ顔をしてるミケが可愛い、まりなほどじゃないけど。

辺りを見渡すと猫、猫、猫と7匹くらいの猫が群れをなしている。そんな中、先客がいたようで人間が二人。

.....しかも、どっかで見たような、知ってるような知らないような...

 

「はぅ、こ、ここ?ここが気持ちいいの?」

「あー!かわいいー!1匹くらいうちにお持ち帰りしちゃってもいいよね!?いいよね!?」

「と、戸山さん!我慢しなさい、私だってここに住みた、全員連れて帰りたいのですから!」

 

.....アカン、普通に知り合いだ。

ミケよ、もしかしてあの二人を連れて帰って欲しくて俺をここまで連れてきたのかい?

二人の少女、片方は天体観測のバイトの時に見た戸山香澄、だな。ランダムスター背負ってるし。

んで、もう一人はあれだ、今井の幼馴染のユッキーナだ。一緒にいるのよく見るし家もご近所だから親と挨拶程度のコミュニケーションは取っている。

猫好き、だということは初耳だが普段の様子からは想像できんくらいの甘ったるい声を出してる。録音して今井に聞かせてやりたいくらいだ。

 

「あ、五葉さんだ!こんにちはー!」

「ッッッ!!?」

 

戸山が俺に気がついた。ユッキーナの身体がめっちゃ飛び上がった。何今の?

 

「.....い、五葉、さん?」

「お、おぉ、よっ」

「.....何か、見たかしら?」

「な、何かって?」

「何も、見てませんよね?」

「あ、はい。何も見てません」

 

頼むユッキーナ、その怒りと恍惚さと焦りが混じった顔をやめてくれ。怖いよ、親父さんと今井に何て言えばいいんだよ。

戸山も首を傾げてないで助けてくれ、肩が割れる。

 

「五葉さんと友希那先輩って知り合いだったんですか?」

「えぇ、ご近所さんってだけよ」

「俺はお前ら二人が知り合いってことに驚きだよ」

「えぇ!?」

 

しかもこんなモフモフの楽園で二人して猫ちゃん愛でてるなんてさ。

いつの間にかミケは俺の肩の上に乗ってるし、お前さっき俺から逃げたことは忘れないからな?

俺の肩の上は安くないぞ。

 

「.....い、五葉さん」

「何?」

「そ、その、その子撫でてもいい、でしょう、か?」

「.....何故俺に確認を取るんだ、普通に撫でればいいじゃん」

「で、でも」

 

ミケは俺の肩で気持ちよく欠伸をしてる、お前そこで寝るなよ。俺一応午後からバイトなんだからな、毛がついてたら落とすの大変なんだからな。

特にバイトの日には念入りにやらないといけないから大変なんだぞ。

 

「ていうか、お前らはここで何をしてるんだ?」

「夏休みだし、歩いてたら友希那先輩と会ってですね!」

「うんうん」

「友希那先輩がこの黒猫ちゃんを追いかけて、私が付いて行ったらここに辿り着きました!」

「そ、そうか」

 

なんだ、ここの猫ちゃん達は俺たちを呼び込んでどうするつもりなんだ?

ミケに尋ねてみるが、もう寝てやがるこいつ。

 

「.....ていうか、俺食料品買う予定だったんだ。そういうわけでそろそろ行くわ」

「せめて、そ、その子を置いていきなさい!さもなくば–––」

「なんで俺が誘拐するみたいな流れになってんの!?そういうノリはバンドメンバーの前でやれよ、ユッキーナ!」

「ユ、ユッキーナって呼ばないで!」

 

次からこいつのこと、ユッキーニャって呼ぼうかな?

 

 

 

バイト先に到着したら、店長を筆頭に大慌てだった。一体何があったんだろうか?

 

「店長、今来ました」

「お、五葉君!助かった、とりあえず40秒で支度しな!」

「何のだよ!?」

 

 

 

準備を済ませて話を聞くには、今井が用事があって遅れるらしい。ついでにあの変態もついに大学から呼び出されたわけであって、今この場にいるのは俺と店長とモカの三人だけみたいだ。

もう、あと一時間もすれば今井含む何人かが来るらしい。

それまでこの夏休み真っ只中夕方のコンビニを三人で回せと店長は言う。

中々無茶なことだ、店長は今も他から応援を呼んでいる。それ以外の事務作業もすべて引き受けた、あの人過労で倒れたりしないかな?

レジに俺とモカが立つしかない、客もそこそこ来てる。本当にここはコンビニなのかってくらいの客数だ。

 

「いらっしゃいませー!レジこちらご利用ください!」

「よ、弟よ!頑張っとるか?」

「このクソ忙しいときにしれっと並んでんじゃねぇよ姉ッ!!240円になります!」

「500円から!」

「せめて40円を出せ!!260円のお返しになります!ありがとうございました!お次のお客様どうぞ!」

 

「あ、ひーちゃん!みんなもいらっしゃ〜い」

「ヤッホー!モカ!売り上げに貢献しに来たよー!」

「.....五葉さん、本当にすみません!」

「.....まったく」

「ほら、ひまり!混んでるんだし早く行くぞ!モカも一応業務中なんだから!」

「せめて、二列に分かれて並んでくださいませんかね、お客様ァァァァァァ!!!」

 

二時間後、客も減り今井達が来たことでようやく俺は一本吸うことができた。

うあー、生き返るわー。

 

「あ、いっつーさん」

「モカ、もう上がりか?」

「もうくたくたなので、今日はちょっとつぐりすぎましたので」

「.....つぐるって何?」

 

モカがその場で着替えようとしたのでとりあえず更衣室に追いやる。

そのままの流れで喫煙室に入って二本目に突入する。んー、今日で一箱使い切っちまうかもな。

 

「そういえばいっつーさん」

「どうした?」

「次の日曜、時間あったりします?」

「また、やまぶきベーカリーか?」

「さすがいっつーさん、わかってらっしゃいますな〜」

「商店街前でいいか?」

「ですです」

 

そのままモカはメロンパンを食べながら帰って行った。ていうかどこから出してきたんだ?

休憩室でまりなとLINEしながら黄昏てると今井が休憩に来た。

 

「あ、ラッキー!五葉さん休憩時間まだあります!?」

「まだしばらくあるぞ、今は人も来てくれて安定してるし」

「っしゃぁ!お願いします、夏休みの課題手伝ってください!!」

「準備早えよ」

 

机に並べられたテキストと筆記用具の数々!断れない雰囲気を作るあたり、モカ並みにちゃっかりしてやがる。

 

「......それで、どれかヤバイんだ?」

「えっと、数学がとりあえず一ページも手をつけれずにいるのでそれから」

「せめて少しはやっとけよ」

 

 

二日後、俺は宇田川と表札の掲げられた家の前にやって来ている。

 

「......結構デカイな」

 

姉妹揃ってドラムやってるっていうから、スペースはあると思ってたが予想以上だ。

あのライブイベントの後、巴にブレイブ・ハートの叩き方で迷ったところがあると言われて、教えてほしいとも言われた。正直、何年もスランプがあるからむしろ教わることになっちまいそうだけど、あこも便乗してきたんだからどうしようもなくなった。

スタジオでもいいんじゃないかと案はあったけど、あこの熱いプッシュによって宇田川家でやることになった。

 

まず、インターホンを押して扉を開けた先にはいつものポーズを決めたあこが立っていた。

 

「......帰っていい?」

「拒否する!」

 

こいつ、本当に巴の看病なんてできたんだろうか。夏休み前に巴が熱出して倒れてあこが看病したって話を本人が武勇伝みたいに語るもんだから、あの時は相槌打って聞くしかなかったけど、信憑性が薄れてきた。

中に入るとどこかあこに似た雰囲気の女性が迎えてくれた、多分二人の母親だろう。

 

「お邪魔します」

「あらあらどうもどうも!いつも巴とあこがお世話になってます」

「いえいえ、そんな。うるさくしてしまうかもしれないのは申し訳ないです」

「いいんですよ、いつもあこは騒がしいから」

「お母さん!?」

「それに比べて巴は、あの子もたまにうるさいのだけど落ち着いてますからね〜、本当に姉妹なのか未だに私疑ってますもの」

 

それでいいのか、宇田川母!?

たしかにあの二人本当に姉妹なのかわからないところあるけど、実の親が笑顔でそれ言っちゃっていいのか!?

 

「まぁまぁ、ゆっくりしていってくださいね」

「あ、はい」

「お母さん!あ、あことお姉ちゃん、ちゃんと姉妹だよね?ちゃんと血繋がってるよね!?」

 

あこが落ち着くまで十分かかった。

 

 

 

「あはは、すみませんね五葉さん。うちの母が」

「いや、俺はいいんだけど、あこが信じちゃったってのはヤバイんじゃないの?」

「ね、ねぇ、お姉ちゃん!確認するけど、あこ、お姉ちゃんとちゃんと姉妹だよね!?」

「あぁ、当たり前だ!こんな可愛い妹あこ以外にいるものか!」

「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

美しい姉妹愛も確認できたし、練習に入ろうか。

 

「ちなみに二人でセッションとかしたことってあるの?」

「ないですよ、近所迷惑になっちゃうのでさすがに自重してます」

「.....なら尚のことスタジオでよくなかった?」

 

まぁ、金もあまりなかったということにしておこう。宇田川家のリビング並みに広い部屋にドラムセットが二つ並べられていた。ヤバイ、自宅にドラムセットがある。

 

「それで、巴はどこが疑問だったんだ?」

「入りだしのここなんですけど–––」

「あぁ、そこはだな、ここをこうして–––」

「あ、なるほど!こんなやり方があるんですね!」

「基本をちょっと弄っただけだけどな、例えば–––」

 

そういえば、俺もあの頃はこんな風に我武者羅に叩き方を模索してたっけ。

メンバー内でも経験はかなり浅い方だったからなぁ。

俺はかつての自分のスタイルを巴に説明しつつ、巴の技術も吸収する。

 

「ねぇ、あこ一回だけでいいから五葉さんの叩いてるところ見てみたい!」

「え?」

 

やだ、恥ずかしい。

 

「お、いいなそれ!五葉さん!お願いします!」

「土下座はんな軽々しくするもんじゃねぇ!」

「ねーえ!いいでしょー?」

「いててて、あこ、テメェ、腕掴むな!」

 

さすがドラマー!見た目華奢でキャピキャピのロリっ娘なのに腕の筋力半端ねぇ!

 

数分後、俺が一度だけ叩き、それだけで終わらずに七曲もドラムソロの演奏をしたことは言うまでもあるまい。

 

 

 

週末、約束通りモカと例のやまぶきベーカリーの戦争に参戦するため商店街に来た。

 

「お待たせ〜」

「じゃあ、行くか。もう結構人来てるぜ」

 

これから向かうのは戦場だ、モカも表情を引き締めている。

これまでにない真剣な顔つきだ、相変わらず頼りになる戦友だことで。

 

「じゃあ、もしはぐれるようなことがあったらB地区で落ち合うってことで」

「了解です」

「–––いくぞ」

 

 

 

数分後、B地区こと羽沢珈琲店でモカと合流しお互いに戦果を報告する。

 

「まず俺からだ、週末限定パン二つ、クロワッサン六つ、カレーパン一つにメロンパン一つだ」

「次私ね、限定パン三つ、メロンパン八つ、チョココロネ四つ、クリームパン二つ、女の子一人」

「え、え、え?わ、私も報告するの、これ?」

「......誰?」

 

この子は一体何をしてるんだ?ていうか、モカは一体何をしたんだ??

 

「あ、初めまして!牛込りみって言います!チョココロネを買いに求めやまぶきベーカリーに通いつめて早半年ちょっと、今回もチョココロネを七つ購入させてもらいました!」

「同志よ!」

「え、え?」

 

ガシッ!とモカが一方的に握手をする。牛込困ってるじゃん、一回落ち着かせてやったらどうや。

 

「あ、モカちゃん達いらっしゃい!」

 

そんでもって、またあのライブの後知ったことなんだけどここ、羽沢珈琲店はつぐみの実家らしい。

両親の経営してるカフェの一人娘、それで娘のつぐみも店番をすることがあるとかなんとか。バイトも募集してるらしいし、コンビニが嫌になったらこっちで働くのもいいかな?

 

「あ、つぐ〜、パン食べる?」

「あれ?つぐみ、この店って持ち込み...」

「あははは、本当ならダメなんだけど、ね」

「......うちの後輩が迷惑をおかけしてます」

 

いつの間にかモカと牛込はやまぶきベーカリーのチョココロネについて語り合ってるし、焼き加減とかチョコのとろみとか、よくわかるなそんなの。

つぐみが若干困ったような表情浮かべてるよ、何?これって俺が悪いの?

 

「コーヒーを人数分頼む、俺が奢るよ」

「やった〜、いっつーさん太っ腹〜、でも奢るならパンも奢ってほしかったな〜」

「な、なんかすみません!私もパン買ってもらえたら嬉しいです!」

「お前ら頭の中は幸せチョココロネか!!?」

 

俺はコーヒーを飲んで、チョココロネについて語り合う二人を置いて帰った。




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