JKが紡ぐ、青春協奏曲   作:Cr.M=かにかま

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7話目にしてやっと演奏(笑)


7.あるバンドのライブ

 

八月某日。

いやぁ、ついにこの日がやってきたぜ。青葉、お前の代わりに入ったバイトのシフトの借りは返してもらうからな!

しかも差し入れまで頼みやがって、あの後輩は本当に隙がないっつーか、ちゃっかりしてるっていうか。

 

「あ、君禎!」

「ようまりな!これ青葉達の所に届けてもらっていいか?」

「あ、山吹ベーカリーの!しかもすごい量、差し入れ?」

「パシリだ」

 

 

 

クラブハウスCiRCLE主催、Afterglowのミニライブ「夕影、鮮明になって」の開催日ってわけで、すごいお祭り騒ぎだな、おい。

おかしくない?まりなの話だとオーナーさんはこういうこと手抜かない人らしいけど、それでもグッズまで販売してるのはおかしいと思う。

缶バッチに、タオルにTシャツ、さらにはチョーカーときたか。

タオルだけ買っておくか、ロゴデザインまできっちりしてやがる。これ一体経費どんぐらい掛けてるんだ?

ていうか、人こんなに入るのか?ざっと見た感じ百は普通に超えてるぞ、おかしいよね?

ガルジャムに出てから著名になったらしいけど、それでもこんなに人が集まるものなのか。当日券売り切れてるし。セトリ見た感じ、カバーとオリジナル含めて十曲はある。

.....これ、普通にライブだよね?

 

「あれ?五葉さん、やっほー!」

「ん、宇田川?」

 

こんなクソ暑い中でもいつものジャラジャラゴスゴスした服を着てる中学生は宇田川しかいない。

 

「お前もライブに?」

「そうそう!世界一のドラマーのお姉ちゃんが出るから見に来ないと!」

「え、お前の姉貴もバンドやってたの?」

「ふっふっふっ、びっくりした?ねぇ、びっくりしたでしょ?」

「結構びっくりした、しかもドラムか」

「そうだよ!あこもお姉ちゃんみたいに格好良くなりたくって!」

 

なるほど、かっこいい系なのか。こいつのかっこいいはあまり当てにならないけど。

 

「しゃーねぇ、ライブまで時間あるし何か食うか。奢るわ」

「え、いいの!?」

「あぁ、今日は気持ちがアガってんだ。何食いたい?」

「商店街のクレープ!」

「商店街まで行く時間ねぇよ!」

 

 

 

「.....まさか、お前がRoseliaのドラマーだったとはな」

「あれ、あこ言ってなかったっけ?」

「初耳だよ」

 

ホント、俺の周りはどうしてこうバンドしてる奴ばっかなんだろうな。

姉妹揃ってドラマーか、家とかで練習する時近所迷惑になりそうだな。

ていうかなんでクレープ屋ここまで来て出店してたんだろ。もうびっくりだよ。しかもTシャツまで買っちゃってるし、出店条件みたいなものらしいけど、まぁ、いいや。宇田川にも買ってやった。

 

「そういえば白金は一緒じゃないんだな」

「りんりんは人混みがダメだから今日は遠慮されちゃった、五葉さんがいてくれてボッチは回避できたけど!」

 

なるほどね、たしかにあいつはこういうところ苦手そうだな。

 

「さて、そろそろ中に行くか。トイレとか大丈夫か?」

「あ!あここのTシャツに着替えてくる!」

「はいはい」

 

だからライブの時の女子トイレってあんなに混雑するんだな。

 

 

 

俺と宇田川のチケットは同じものであった。関係者席って、まぁ、間違いじゃないけど位置はそこそこいい場所だった。

指定席ではなく自由席だったので早い者勝ちみたいだ。俺たちが行った時はまだそこまで人は来てなかったから席は選びたい放題だった。

ていうか、こんな大きなステージあったんだ。もうライブハウスの枠から大きく外れてる気がする。デカすぎる。

もう小さめのコンサートステージって言っても過言じゃねぇぞ。

 

「楽しみー!」

「だな、俺も久々だ」

 

姉ちゃんに連れられて行ってたのが懐かしい。そういえば、あの時の俺は今の宇田川くらいの歳だったか。

もうそんなに時間が経ったんだな、俺がステージに立つことが、いや、ライブハウスに行くことがなくなってから。

改めて本日のセットリストを確認してみる。オリジナルが五曲、カバーが六曲、計十一曲か。

 

「お隣よろしいですか?」

「あ、はい」

 

と、隣に来たのはこの場に似合わない和服を着た眼鏡のおっさんだった。しかもめっちゃ体格良いし、着物がよく似合ってらっしゃる。

 

「お」

 

客席のライトが落ちた。

演奏が始まる直前ってことか、携帯の電源は切ったし、大丈夫だ。

 

–––ステージ脇の照明が光り始めた。

 

そして、一気に弾けた。

ドンッッ!!と火炎放射による演出と共に演奏が始まった!

ヤバイ、演出にめっちゃ金掛けてる!

 

色んな意味で驚きながら一曲目【That is How I Roll】が始まった!

 

ベースとギターのスラップ、ドラムの激しいながらもリズムを整える慎重な叩き、全体を包むかのように安定させるキーボード。

 

そして、それら全てに調和させるかのようにステージに響き渡るボーカル、美竹蘭の女性にしては力強く、何かを訴えかけるような歌声。

 

ライブを楽しんで、観客の心をつかんでいる。それでいて、とても熱い!

心が震わされる、音色一つ一つが上手い具合に調和している。

メンバーの個性も、特に青葉!あいつのギターめっちゃ自由じゃねぇか!それでいて違和感を感じさせない演奏、やりおる。

 

初っ端から、俺は素直にAfterglowが凄いと思った。

 

 

 

三曲目が終わり、休憩が挟まれた。

ここまでヒートアップする曲が連続して続いたためか、汗が凄い。

宇田川なんてずっとお姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!って叫んでたし、その肺活量はどうなってんだか。

 

「お一つどうですか?」

「あ、すみません」

 

隣の着物おじさんが水をくれた。そういえば水分補給のこと全然考えてなかったな。

 

「ライブハウス、よく来るんですか?」

「.....いえ、最近ちょっと興味が出てきただけです。娘が本気になって打ち込んでるものに、ね」

「なるほど、水ありがとうございます」

 

娘さんに苦労してるんだろうな。

 

「君は、よくライブハウスに?」

「いえ、中学以来です。バンドを組んでたので」

「.....そうですか、もしかして親の反対とかあったりしたんですか?」

「あ、いやそういうのはなくて、メンバー内の方向性の違いってやつで勝手に解散って形になりました」

 

まぁ、リーダーがあんなこと言い出すもんだからな。俺は大丈夫だったけど、他の先輩方がなぁ。猛反発してたし。

 

「.....それはよかった、あなたはいい親を持っている」

「そんな、別にそんな」

「私は娘の人生を縛りつけてる。美竹家の跡取りとして、後継者として育ててましたが、純粋に親と子としての時間を過ごせたかはわかりません。私の意志だけをぶつけ、あの子の願いを聞こうともしなかった」

「.....それは、あなたが娘さんのことを想ってのことですよね。娘さんのことが嫌いな父親ならそんなこと、絶対しません」

 

間もなく次の曲が始まろうとしてる、イントロが聞こえてくる。

 

「娘さんのことを理解しようと、ここに来てるのもその証拠ですよ。意見の食い違いなんて、人間なら当たり前です」

「.....」

「今からでも遅くありません。娘さんと時間を作ることをオススメします」

「そう、します。娘と、蘭との時間を可能な限り」

 

「.....あれ?娘さんの名前蘭って、もしかして」

「えぇ、ちょうど今ステージで歌ってるのがうちの娘の蘭ですよ」

 

マ、ジ、カ!

 

 

 

そのあとは何度かトークも挟みながら(主にドラムの宇田川の姉貴さんとよくコンビニに来てくれるベースのお客さんが喋ってた)【True color】に続き【Scarlet Sky】のオリジナル二曲が最後の締めとして演奏された。

.....ていうか、あいつら演奏中に何か喋ってなかったか?お互いを励ますような、言葉を交わしてた気がする。

特に美竹、お前の声二重になって聞こえたぞ。

 

「くぅ!やっぱりお姉ちゃんカッコいい!そう思うでしょ、五葉さん!」

「いや、うちの蘭も負けてはいないぞ!どうだね、五葉君」

「どっちも、皆最高ッスよ!」

 

やっぱライブっていいな!心が熱くなるっていうか、感情が爆発しそうだ!

なんか美竹の親父さんとも仲良くなってしまったし!

 

「次の曲で最後になります、この曲は私が、私たちが挫折しそうになった時に、まだバンド結成して間もないときに練習させてもらった曲のカバーになります」

 

ん、まだあるのか?セトリじゃ最後だったけど、サプライズ的なあれか!

 

「–––聞いてください、ブレイブ・ハート」

 

「え?」

 

ブレイブ、ハート!?

 

–––ッ!?

 

このギターの入り方、間違いねぇ!それに続くベースのスラップ、調和するかのようなキーボードの流れる音。

歌詞と同時に、ドラムが、入る!

 

「ーーーッ!」

 

–––この感覚、あぁ、間違いない!

これは、俺の、俺たちの青春の一ページ、CamereoNの時に作った曲だ。

 

 

 

『どうだ君禎!イカスだろ、俺の相棒はよ!』

 

ベースとボーカル、さらにはキーボードまでやれたリーダーの叶多先輩。

 

『先輩、僕ら最高のバンドグループですよね!』

 

ギター担当、そして皆のブレーキ役でもあった北沢君。

 

『そう緊張することないって、気楽にやっていこや』

 

リードギターに編曲、作詞作曲をしてくれてたムードメーカーのモッピー。

 

『やれやれ、僕の周りってどうしてこうも癖の強い人ばっか集まるんだろうな』

 

キーボードとドラムを担当してた紅一点だった満先輩。

 

あの頃の思い出が、美竹の歌声と共に蘇る。あいつらの言葉、いつからか食い違った歯車、順風満帆だったの思ってたのに半年くらいで解散したこと。

 

–––そして、それが原因で姉ちゃんと叶多先輩が別れることになったこと。

 

「–––ッ!」

 

そう、このキーボードの忙しさ、激しく叩いてるようだけど曲全体の要と言ってもいいドラム。

そして、あの人が好きだったって理由で無駄に多いスラップ。譜面自体は基本に忠実だが、そこにアレンジを加えに加えた結果、うるさくて近所迷惑だと怒られた日々。

 

美竹の力強い歌声がよく合っている、マイクに打ち付ける感情の嵐、叫び響き渡るシャウト。

 

青葉のテクニックも中々なものだ、あのスラップの連続をこうも見事に再現するとは。それでいて、アレンジがあるも違和感がない。

 

あの、宇田川の姉貴のドラムも見事だ。俺もあそこまで楽しそうに叩けるかどうかと言われると、わからない。

あんなに、心に打ち付けるようなテクニックは俺にはできない。

 

「ーーー!」

 

–––あぁ、もうこのフレーズ、か。

もうすぐ終わってしまうのか。俺たちの曲、いや、今この場においては完全にAfterglowのものだ。

 

俺たちが紡いだ青春協奏曲を、今は、今を青春するJK達によって紡がれる日がやって来るなんてな。

皆が知ったらどんな反応するんだろうな、いや、止そう。

 

最後のパートだ。ここはベースのソロから入るのが特徴だ。

それからギター、キーボードで上げてドラムでヒビカセル!

 

「ー、ーーーーーーッ!!」

 

–––歓声が、会場の熱気が爆発した!

まさに、フィーバーだ!この一体感、これぞ、まさに、ライブ!バンド!

 

–––俺は、この日を、このライブを忘れることはない!

 

美竹蘭、そしてAfterglow!俺の魂に火を焚き付けてくれたこと、後悔すんじゃねぇぞ!

 

「–––ありがとうございました!!」

 

この時、青葉はウィンクしてこっちに向けてピックを投げてきやがった。

しかも俺がキャッチできる絶妙な角度で、やりおる。

 

 

 

「お疲れさん」

「お姉ちゃーん!カッコよかったよー!」

「蘭、また腕を上げたな!」

 

「なんかすごい組み合わせ!?」

「あ、いっつーさんやっほー。差し入れサンキューね」

「あこ!来てたのか!ははっ!」

「.....お父さん、来ないでって言ったのに」

 

まりなに言って楽屋に案内してもらった。俺と一緒に宇田川と美竹の親父さんも一緒にだ。

 

「あんたが、宇田川の姉貴さん?」

「そういう貴方が五葉さんですか、初めまして。いつもあこがお世話になってます」

「い、いえ」

 

ヤベ、マジでビジュアルいいなこの人。宇田川が世界一格好いいと言うのも頷け、るけど、世界一かはわからない。

 

「いっつーさん、ともちんは高一でモカちゃん達と同い年だよ」

「嘘だろ!?」

 

同い年か一つ下くらいかと思ってた、最近の高校生パネェ!

 

「よく間違えられますので、あと、モカもバイト先でお世話になってます」

「.....お、お気になさらず」

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!超超超カッコよかったよ!」

「ありがとな、あこ!」

 

–––ヤバイ、超常識人だ。

 

「ていうか、どうしてお父さんと五葉さんが一緒に?」

「客席で知り合ったんだ、五葉君とはいい酒が飲めそうだよ」

「.....あの堅物のお父さんがここまで気に入るなんて」

 

「あの時の店員さん!来てくれたんですね!」

「今更だな、お客さん。改めて俺は五葉、よろしく」

「上原ひまりです!Afterglowのベース担当、リーダーもしてます!」

「え、リーダーって美竹じゃなかったの?」

「ちーがーいーまーす!!」

「いっつーさんもひーちゃん弄りがなってますなぁ、一級を差し上げましょう」

「モカ!!?」

 

なるほど、前々から片鱗はあったが上原はいじられ役なのか。主に青葉の。

 

「お久しぶりです、五葉さん!」

「羽沢もお疲れ、相変わらず大変そうだな」

「あ、あははは」

 

羽沢はなんか、苦労人って感じだな。労いのなでなでだ。

 

「美竹、いや、蘭ちょっといいか?」

「はい?」

 

美竹だと、親父さんの方も反応しちゃうからな。

 

「ラストの一曲にはやられたよ、よくあそこまで再現したな」

「いえ、五葉さん達には敵いませんよ。あれって五葉さんが中学の時に演奏した曲なんでしょ?」

「まぁ、他は高校生だったけどな」

 

俺と北沢君だけが中学生だったからな、あの頃は。

 

「ホント、凄かったよ。熱くなれたし、楽しかった」

「だってさ、よかったねモカ」

「ん?」

 

「へへへ、あの曲入れようって提案したの私なんだ〜。なんかいっつーさん最近元気なかったし、私に何かできないかなって考えてて」

 

「.....ッ」

 

青葉が恥ずかしそうにそう言った、普段こんな顔をしない青葉が。

俺が元気なかった、そうだったのか?

なんかあんま自覚ないけど、他人にはそう見えたのかな?

 

「.....そんな風に見えた?」

 

もしかしたら、バイトの後輩達や店長達、今井や蜜柑、まりなにも心配かけてたかもしれない。

気落ちするようなことはなかったと思うけど、え、本当に心当たりがないぞ?

 

「え、まさか勘違い?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

そんなのってアリ!?

 

「ちょ、五葉さん!」

「うわー、薄情ですね店員さん」

「五葉さん...」

「あはは、大変みたいですね」

「五葉さん五葉さん、女の子泣かすなんてサイテーですよ!」

「五葉君、君がそんな人だとは思わなかったよ」

「君禎...」

「えーん」

 

明らかな嘘泣きなのに、この仕打ち!?

ていうかまりな、いつの間に!?

 

「....あ、青葉、その」

「モカって呼んで」

「.....モカ、なんかごめん」

「山吹ベーカリーのパン十個で手を打ちましょう」

「さては狙ってたな!?」

 

この日、俺の財布が恐ろしく軽くなったことは言うまでもあるまい。




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