「あれ、先輩?」
「え、もしかして北沢君?」
「はい!お久しぶりです!」
まさかの北沢君もバイトとして来てたよ!
「本当に久しぶりだな!店の方はいいのか?」
「えぇ、休みなので」
休みなのに日雇いのバイトに来るなんて、相変わらず真面目な後輩だ。
商店街の北沢精肉店の跡取りとして高卒してから両親の手伝いをしてると聞いてる。
最近あの店行けてないからなぁ、また行ってみるか。
「妹さんは元気か?」
「はぐみは元気ですよ、ていうか元気すぎて困ってます」
「ははは、だろうな!たまに街を走り回ってるのを見かけるよ!」
と、そんな話をしてたら今回の企画の発案者さんから召集がかかった。
これから簡単なミーティングが始まるみたいだな。必要なのは、ここと、ここ。あとは、ここか。
他はまぁ、適当に目を通しておけばいいだろう。
「–––以上です。それでは、本日はよろしくお願いします!」
※
バスは夕方出発するみたいだ。
俺たちバイトはちょっと早く集められてた。まぁ、急なアクシデントとかあっても困るからそれが妥当なんだろうよ。
バスは二台、そのうち一台を俺ともう一人、普段は経営会社に勤めてる森口さんとご一緒することになった。
さて、そろそろ集合時間になる頃だ。
バスの方もやってくるだろう、集まった人たちが迷わないように俺たちが目印にならなきゃいけない。
そんなわけで、俺と森口さんで一号車が停車する予定の場所へ行く。そんな遠くじゃないけどね。
お、集まってる集まってる。親子から青春を謳歌してる若者、ご老人まで老若男女問わずって感じだな。
–––さて、ものすごい見覚えのある人影に遭遇したんだが、どうやり過ごそうかな?
「あ、あんたは!モ、モカのことを誑かした男!?」
「誤解を招く発言はお止めくださいますか、お客様」
※
その後、森口さんに白い目で見られたが何とか誤解は解けた。多分。
青葉と同じバンドメンバーの美竹、羽沢。そして、この二人とは違うバンドグループっていう戸山とLINEアカウントを交換する羽目になった。
何なの、最近俺と会うJKは全員バンドをしてなきゃいけないって決まりでもあるわけ?
それで、何故かこの三人が俺の近くの席を選んで座ってきたんだが、なんで?
「本当にすみません!蘭ちゃんが、なんか、本当に、変なこと言っちゃって!」
「いいんだ羽沢。どうせ人の出会いは一期一会。ここにいる方々と次会うかすらわかんないからな」
「で、でも」
「いいってつぐみ、私の誤解だし」
それにしても、正反対だなこの二人。ていうか美竹は服装でここまで印象が変わるんだな。この間会った時は和服だったけど、今日は黒ジャケットにTシャツだからバンドしてるって言われても違和感はない。
青葉ともまた違う感じだし、この前のお客さんみたいにこの二人も振り回されてるのだろうか?
「それよりもさ、楽しみだね!流星群!」
「そうだね!誘ってくれてありがとね香澄ちゃん!」
「いいよいいよ!私も人がいなくて探してたところだったし!あ、五葉さんってお幾つなんですか!?」
「二十歳」
「え?」
「え?」
「え...」
え?ちょっと待って、何でそんな反応なの?
特に美竹、何その顔。
「.....すみません、私たちの一つ上くらいかと」
「おいコラ、俺一応大学生だからな」
失礼な奴らだな、俺がそんなにクソガキに見えたのかよ。
まったく、どういう育ち方したんだかな。
「五葉君、仕事中だよ」
「あ、すみません」
※
「とうちゃーく!」
「.....はいはい、順路通りに行くので私の話をしっかり聞いてくだサーイ」
「はーい!あ、すごい空が綺麗!」
もう聞いてないよ、この子!
ちょっと自由すぎないか?青葉とはまた違ったマイペースさを持ってるみたいだな、バンドメンバーもさぞ苦労していることだろう。
「ちょ、香澄」
「いいよ、俺が何とかしとくから」
ガキの暴走を見守って止めるのも俺の仕事だ。ここは森口さんと協力して何とか乗り越えたいが、あの人はあの人であっちで精一杯みたいだな。
たしか、この後簡単に夕食を食べに行くんだったな。そう、BBQだ。
「美竹と羽沢もあっちに行っておけ、戸山は必ず連れて帰るから」
「五葉さん、本当にすみません」
「なんでつぐみが謝るのさ」
「そうだよ、気にすんなって」
なんか、羽沢は謝ってばっかだな。これがこの子の平常運転なのだろう。
結構苦労してきたに違いない。
「え、えと、それもあるんですけど、モカちゃんも普段迷惑かけてそうなので、そのことについても」
「お前は保護者か」
その後、俺が戸山を捕まえたのは二十分経ってからのことだった。
※
北沢君のご好意で、店のお肉を使わせてもらえることになった。
いや、北沢精肉店ってたしかコロッケがメインじゃなかったっけ?
「いやぁ、最近色んな肉を入荷してバリエーション広げてるんですよ!うち」
「やっぱ経営厳しいのか?」
「厳しかったらそんなことしてる余裕ありませんよ、はぐみの友達のこころって子が来てくれるようになってから売り上げもウハウハですよ」
「.....何者なの、その子?」
※
さて、いよいよ星を見る時間になった。我々スタッフ一同はビール片手にツアー参加者と一緒に座ってる。
まぁ、俺はその場にいないんだけどね。チーフが俺を戸山達の保護者として認識したせいであいつらの面倒見ることになった。
なんでも、あいつ商店街でも明るく活発で何をしでかすかわからない子として有名らしい。森口さんは近所の人じゃないらしいから知らないみたいだけど。
それで、だ。なんか増えてるんだけど...
「うん、やっぱり山の空気っていいわね!久しぶりに来たけど、来る回数を増やそうかしら」
「あはは、やっぱりこころちゃんって面白い!香澄ちゃんもキラッてしてるし、るるんって感じ!」
.....ホント、どうしてこうなったの?
※
増えたJK、金髪は弦巻こころ、薄い緑に近い青髪は氷川日菜と名乗った。
「ていうか、弦巻って、あの弦巻財閥のご令嬢さん?」
「ん?それはどういう意味かしら?」
「あ、いや、なんでもない」
なるほど、北沢君の言ってたこころって多分この子だ。そりゃ売り上げウハウハになってるだろうな。
「羽沢、これツアーに合流できると思うか?」
「.....ちょっと自信ないです」
「だよなー」
そんな気はしてた、とりあえず電波は辛うじて飛ばせるからチーフに連絡入れておこう。
なんかもう帰ってこなくてもいいよみたいな雰囲気だったけど、あ、北沢君にも一応連絡しておこう。
戸山と氷川は何か気が合ったらしく、さっきからずっと擬音会話をしてる、なんであれで会話できてるんだろ?俺も結構使う方だと思ってたけど、あれには負ける。
「そういえば、五葉さんって何か楽器とかやってました?」
「なんで?」
「いえ、なんとなく、バンドしてそうな雰囲気というか、小さい頃に見たことがある気がして」
「.....そっか」
まぁ、でもそっか。あり得ない話じゃないか。
「一応ドラムやってた、中学の時だけどな」
「ドラム...」
「まぁ、星の綺麗さの感傷に浸ったおっさんの独り言だと思って聞いてくれたらいいんだけど、その頃は–––」
「五葉さん五葉さん!これからこころちゃんの別荘に行くんですけど、行きません!?あ、蘭ちゃんもつぐみちゃんも皆で!」
「–––だー!なんでこのタイミングで来るんだよ、このヤロー!」
その後、俺は有無を言う暇もなく黒服にサングラスを掛けた方々に連行されることになった。
※
別荘に着いたはいいが、少し夜風に吹かれて星を見てたかったので中には入らなかった。
黒服の人がビールと煙草を持ってきてくれたからもらった、気が利きすぎる。
「煙草、あんまり体によくないよ」
「俺の人生だ、後悔はしねぇよ氷川」
「あはは、やっぱり五葉さんって面白いな!ていうか氷川ってなんか慣れないから日菜でいいよ!」
「はいはい」
.....日菜っていうと、どうしても別のヒナを連想しちまうけど別人だろうな。世界ってのはそんな狭くない。
「日菜はいいのか、戸山達と騒がなくて」
「ちょっと疲れちゃったからね〜」
「そっか」
「ねぇ、煙草ってどんな感じなの?」
「おいおい、やらねぇぞ」
「いらないよ、体に悪いし!それなのに皆どうして吸いたがるのかな〜って思って」
なるほど、最もな疑問だな。
「簡単な話さ、吸いたいから吸うんだ」
「体に悪いのに?」
「そう、やりたいからやるんだ。それはなんでも一緒だ、リスクを恐れてたら何もできないだろ?」
「.....ふふ、やっぱり五葉さんってよくわかんなくて面白い」
「どういう意味だコラ」
自分で言っててもわからなくなったのは否定しないが、他人からストレートに言われるとグサっとくるな。
「なんか、お前とは気が合わない気がするよ」
「えぇ〜、私は五葉さんと話すの楽しいんだけどなぁ」
「そっか」
「ねぇねぇ、もっと色んな話聞かせてよ!どこの大学行ってるの!?」
「華丘」
「あ、結構近所なんだ。東大とか京大とか行ってたらビビッときたのに」
「あんな頭のおかしい所に行く気にならねぇよ、遠いし」
「そうなの?行こうと思えば行けたんじゃないの?」
「まぁな」
「でも、行かなかった」
「ピンとこなかったからな」
まぁ、正直華丘も微妙くさいけどな。
「ふーん」
「日菜って高校生か?」
「そうだよー、高二」
「大学ってのは偏差値が全てじゃねぇ、入ってそれから何をするかが大切だ、そいつを覚えとけ」
「.....お、おぉ!なんかすごいババーンってしてるアドバイス!お姉ちゃんにも聞かせてあげたいな!」
「ん、姉貴がいんのか?」
「うん、双子で同い年だけどね!」
「へー」
ということはその人も高二かぁ。
日菜はたしかに姉というより妹って感じだな、なんか、蜜柑と話してる時と似てる気がする。
そういえば蜜柑のやつも今井も高二だったな。
「五葉さんは兄弟いないの?」
「ん、姉と弟、あと日菜と同い年の妹がいる」
「あれ?それってもしかして蜜柑ちゃん?」
「うわー、世間って狭」
※
「五葉様、お煙草の追加はいかがなされますか?」
「じゃあ、あと二箱くらい。銘柄は何でもいい」
「承知しました」
「.....もしかしなくても、弦巻ってあの弦巻家のことだよな。確認だけど」
「えぇ、我々はこころお嬢様のボディガードにございます」
「ご苦労様です」
「いえいえ」
さっきまで曇ってたけど、無事晴れてくれたみたいだな。
黒服の人が音もなく消えた、忍者なのかあの人たち。
さて、戸山達の部屋にいるのはいいけど皆眠そうだ。もうすぐいい時間帯だけど、これは起こしていいものかな。
トイレに行っていた美竹が戻ってきた。
「おう」
「五葉さん、さっきの話の続き聞かせてもらってもいいですか?」
「.....いいけど、面白くねぇぞ」
「それでも聞きたいんです。あなたほどのドラマーが何故、今は活動をしていないのか」
「.....お前、知っていたのか」
「いえ、さっき黒服の人たちに頼んでライブ映像を見させてもらいました」
.....優秀すぎない、あの人たち?
俺がライブした時の映像なんて、身内ですら持ってないのに何で持ってるんだか。
「『CamereoN』の曲は何度か練習で演奏させてもらったので、存在は知ってました」
「.....そっか、CDは残ってたか」
ったく、モッピーの奴め。あの時に作ったやつもこの調子だと回収してないんだろうな。
「まぁ、いいか。簡単に言えば方向性の違い、よくあるパターンさ」
「.....本当にそれだけなんですか?」
「あぁ、特に面白いことは何もない」
あとは俺個人のことになってくる。姉ちゃんのこともあるし、何よりめんどくさい。
「それで、なんでこんな話を?」
「.....いえ、単純な興味です」
–––嘘、だな。
「そうか」
だけど、あえて言及はしない。したところで何もない。
それに、もうすぐ流星群が一番見える時間だ。
「美竹、皆を起こすの手伝ってくれ。そろそろ時間だ」
「あ、はい」
ったく、急にしおらしくなりやがって。数時間前とは大違いじゃねぇかよ。
「ったく、お前もどうせ青葉に振り回されてるんだろ?」
「.....モカは、皆を振り回してます」
「.....そっか」
何とも言えない気持ちになった。
※
日を跨いで十二時半、俺は黒服の人たち(こんな時間まで本当にお疲れ様です)に囲まれて移動を始めた、皆気づいてないけど。
「すごい!キラキラが、ときめきが止まらない!!ギター弾きたい!」
「やめろぉー!」
アホかこいつはー!
「そうだよ香澄ちゃん!いくらなんでも、こんな時間にやるのはマズイよ!」
「でも、香澄の言うことも一理あるわ!そうだ、ここに特設ステージを建てましょう!」
「そういうことじゃねーよ!」
「あははははは!五葉さんのツッコミってドドーンって感じだね、面白い!」
こいつら自由か!
ったく、今まで会ってきた奴らが可愛く見えるくらいだぜ、制御できねぇ!
「まったく、皆流星群終わっちゃうよ」
「あ!そうだった!」
ふぅ、とりあえずは落ち着いたか。
流星群か。初めて生で見たけど、結構綺麗だな。まりなと二人で見れる日が来たらまた見たいな。
「うし、せっかくだし記念撮影でもするか!流星群が終わる前に!」
「あ、いいですねそれ!」
「でも、写るかな?」
「それなら心配ないわ!私が夜景でも写るスゴイカメラを持ってきたから!」
というわけで、黒スーツの人にカメラマンを頼んで流星群を背景に写真を撮ってもらった。
戸山と弦巻が真ん中、右隣に日菜、左隣に美竹と羽沢、そして俺がその後ろって構図だ。ていうか日菜、俺の腕を掴まないでいただきたい。
「すみませんね」
「いえ、仕事ですので」
黒スーツさんにお礼を言ったら言葉を残してどこかへ消えて行った。あの人ら本当に忍者なんじゃないのかな、なんて思えてくる。
「ふぁ、なんだか眠くなってきちゃった...」
「私も〜」
「えー!?私は何か元気出てきたんだけど!」
「俺ももうなんか色々疲れたわ」
あ、そうだ。これ帰りどうするんだろ?考えてなかったな。
「五葉さん」
「ん?」
「–––夏休みに、私達Afterglowのミニライブがあるんですけど、来ていただいてもいいですか?」
「.....それ、青葉にも言われてチケットももう貰ったぞ」
「え!?」
美竹は恥ずかしそうにしてそっぽ向いた。
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