「どう、かな?」
「別に悪くはないと思う。 あまり細かい指摘はできんけど、Afterglowらしさは出てると思うぜ。 これをPastel*Palettesが歌うってのはイメージしにくいが.....」
「.....やっぱりそこ、ですよね」
蘭がウチに来た。
もう何でウチの場所と部屋番号を知っているかなんてことは聞かない。
絶対モカが教えた、そうとしか考えられない。 それに知らない奴が来るよりはマシだ、俺だって大人だからその辺は弁えてるつもりだ。
用事もモカと違ってまともなものである、ただ美竹さんから後々何か言われそうで怖い。
あの人の親バカは筋金入りだし、根が真面目というか頑固なところあるから下手な言い訳や弁明も聞き入れてくれないこともある。 あ、それは娘である蘭も一緒か。
「何?」
「別に」
睨まれた、おーコワイコワイ。
「話を戻すが、これはまだ未完成なんだよな?」
「うん、何か物足りない。 その、あと一つ欠けた何かがわからなくて」
「短期間でここまで仕上げれるだけでも大したもんだけどな。 最近の高校生ってのは本当に恐ろしいよ」
世間的にガールズバンドがブームになってる今、そういった音楽関連のグッズや機材も俺がバンド組んでた頃よりも沢山出回るようになった。
こいつらは環境的にも恵まれてると言えるのかもしれないな。
「.....一本だけ吸っていいか? 頭が回らん」
「このニコ厨」
「やかましい」
考え事に糖分と言うが、煙草も必要だ。 こいつがないと頭が回らねぇ。
あれ、これ普通に中毒者のセリフじゃね?
「ていうか、今日は他のメンバーはどうしたんだよ? その曲だって皆と考えて作ったんじゃないの?」
「巴とひまりは衣装探し、つぐみは家の手伝い、モカは多分バイト」
「.....そっか」
モカって今日シフト入ってたかな? 俺が直接管理してるわけじゃないが記憶があやふやだ。 基本シフトは店長が決めてるからなぁ、俺の場合は自分で勝手に組んでるけど。
バイトじゃなかったら逆に何してるんだろうな、なんてことは思いつかないからバイトということにしておこう。
「それで、五葉さん一回歌ってもらってもいいですか?」
「今世紀最大級の無茶ぶりだな、オイ!?」
さっき一度聞いたばかりの曲を歌えと!? 全然覚えれてないんですけど、歌詞もそうだが音程も怪しい。
「ていうか、俺ボーカルじゃないからそんなに上手くないぞ?」
「大丈夫、父とよくカラオケに行ってることは知ってるので」
「.....あの人は」
飲み会だけでなく、美竹さんにはよくカラオケにも誘われる。 何でも、湊さんに勝つとか何とか言って意見やら色々求められる。
まりなも一緒についてくることも多いなぁ、あいつも昔はバンド組んでたんみたいだし、ていうか俺の周り改めてバンドしてる知り合い多すぎじゃない?
「.....わかった、けどまだ覚えれてないしうちじゃ近所迷惑になるから場所は変えるぞ」
「覚えるのに必要な時間は?」
「三日は欲しいな、間に合うか?」
「十分」
今回、AfterglowはPalettes*Palettesに楽曲を提供することになったらしい。 そこで製作途中のこの曲に対しての意見を俺に求めてきた。
これはAfterglow以外が歌うことになる、つまり自分たちでない声でこの曲がどのような形になるかのビジョンを蘭は確認したい。 そこで俺に歌って欲しいとのことだ。
楽曲提供は早い方がいい、事務所には焦らなくていいと言われたそうだがAfterglowのメンバーは早い方がいいと判断したようだ。
その判断に俺は意見は挟まない。
「おっけー、引き受けた。 このCDしばらく借りるぜ、あと、キーは変えても問題ないか?」
「できれば原キーだとありがたい、かも。 うーん、でも、まぁ、変に弄りすぎなかったら問題はないですよ」
難易度が少し上がった。
※
蘭が帰ってから早速買い出しに出かけた。
もちろん曲は聴きながらだ、散歩とかしながら聴くと結構覚えやすいからな。 それにそろそろ酒も食材も切れかかってたところだった。
いつものスーパーに行き、やまぶきベーカリーにでも寄って帰るか。
あ、そろそろ銀行から金も下ろしておきたいな。
※
「.....なんでAfterglowの皆さん全員集合してるんだよ」
「言ってませんでした?」
「聞いてません」
蘭と待ち合わせをしたスタジオCiRCLE前には五人のJKが待ってた、聞いてないぞ蘭。
「いっつーさんがあの曲を歌うと聞いて〜」
「それであたし達が演奏をしようって話になったんだ!」
「なんか蘭以外の声で演奏するのって初めてだから緊張しちゃう!」
「今日はよろしくお願いします! 五葉さん!」
なんかハードルがさらに上がってる件について。
これでもし俺が間違えたりしたら、大問題じゃねぇか。
「.....先取っといてくれ、ちょっと一本」
「いっつーさん照れてる」
※
受付をしてたまりなから部屋番を聞いて部屋に向かう。 まだ準備中のようで一番暇そうにしてるのはモカだった。
「暇そうだな」
「モカちゃんは手際がいいんでね〜、ボーッとする時間も必要なわけなんですよ〜」
「意味がわからん」
顔を逸らされた気がする。
マイクの方は蘭が用意してるけど、俺が歌うってことはあいつ今回やることなくね?
ギターオンリーで一曲合わせるのか?
「私はここで全体聞いとくから、五葉さん準備できたらいつでもいいですよ」
「.....お前な、俺結構緊張してるんだぞ?」
何が悲しくて作詞作曲をした張本人の前、ましてや曲を作り上げたといっても過言ではないバンドの生音楽で歌わなきゃいけないんだ。
しかも本人達の前で生歌とか、俺メインドラムとギターよ?
ボーカルなんてやるかやらない程度の頻度だよ?
「まぁまぁいっつーさん、勘弁したってください。 あんなこと言ってますけどなんやかんや蘭も楽しみにしてたんですから〜」
「ちょ、モカ!?」
やめて、余計にプレッシャーがかかる。
「大丈夫ですよ五葉さん! 私たちが全力で演奏するので何も心配することはありません! リーダーの私が言うんですから!」
「なんか余計に不安になってきた」
「なんでー!?」
いや、だってひまりだし?
俺の言葉に皆頷いてるし?
「.....まぁ、頼まれたからにはやるが、あまり期待はするなよ? 三日で何とか覚えれるだけ覚えたが、それでも急作りだったんだ」
「わかってます」
「–––じゃあ、いくぞ。 みんな」
曲名は、Y.O.L.O!!!!! (今知ったとか言えない)
※
若干歌いやすく歌詞をアレンジしたことがバレて蘭にお小言をくらってしまった。
うむ、やはり原曲通りにいくのが一番だけど、楽曲を提供するということはこういうことも考えられる。
けど、今回俺が歌ったことに関しては完全に俺の独断だ。 素直に謝った。
あと、モカ。 俺だってちゃんと謝るときは謝るからな?
「それで、他人が歌った感想は?」
「うん、やっぱり結構変わるもんですね。 特に五葉さん男声なので力強いというか、低さがあるというか」
「まぁ、そのへんは女声とは大きく変わるからな」
あんまり詳しくはないけど、喉仏が関係してるって話は聞いたことある。
そのへんの振動によって高音と低音が使い分けられてるんだとか何とか、あまり意識したことはないけど。
「これをパスパレが歌うんだよな?」
「.....正直、イメージができない」
「安心しろ、俺も全然それらしいビジョンが思い浮かばない」
でも、逆に演奏したらどんな風になるのか気になるのは気になる。
ボーカルである丸山彩のあのふわふわボイスでこの曲を歌うのか、どういう風に編曲されるのか。
「今日はありがとうございました」
「いや、いいよ。 俺も勉強になったし、この曲ってまだ公開しちゃマズイやつだよな?」
「えぇ、一応」
こいつらだけの問題じゃないからなぁ、芸能事務所が絡んでくるとどういう問題が起こるかわかったもんじゃない。
「お待たせー! 飲み物買ってきたよー!」
「パンは〜?」
「頼まれてないものは買ってきてないよ!?」
–––さて、どうするかな。
こっちもこっちでいい具合に進んでるんだが、上手くいくかどうか。
「なぁ、蘭。 ちょっと相談なんだけどさ」
「どうしたんですか、改まって気持ち悪い」
「.....お前ハッキリ言うな、実はな–––」
※
「五葉さん、いますかー!?」
「ドアを開けてから言う台詞じゃねぇな、それ」
先週は蘭が部屋に来て今日はリサかよ。 いや、リサはよく来てるか。
でも、時間帯がレアだ。 夕方にくるなんて今の今までなかった、大体リサの来る用事が夕食のおすそ分けが多いからな。
–––いつもありがとうございます。
「んで、今日はどうしたんだ?」
「これ、とりあえずこれ見て!」
「.....作詞コンテスト?」
リサのスマートフォンの画面にはそう表示されていた、詳細を流し読み程度で確認すると読んで字のごとく作詞コンテストをやるらしい。
ネットで募集してるところを見るとプロもアマも素人も俺でも、参加する権利はあるみたいだ。
「アタシ、Roseliaの為に何かできないかと思ってこれを見つけたんです」
「このことユッキーナは知ってるの?」
「知りませんよ、アタシが勝手にやって驚かそうとしてるのに!」
なるほど、いわゆるサプライズ。 隠密活動というやつか、宇田川が好きそうでやりそうなことだ。 白金あたりを巻き込んで。
「それで、今色んな人に作詞をどうやってるのか聞いて回ってて、参考までに五葉さんにも何か意見をもらえたらな、なんて」
「どうしてそうなった」
作詞なんてやったことないぞ。
「いやぁ、今まで女性の意見しか聞いてこなかったので男性の意見も聞きたいなと、五葉さん昔バンド組んでたんでしょ?」
「それ言ったっけ?」
「ミカンから聞いた」
「なら仕方ないな」
もうあいつの口の軽さを治すのは諦めてる。 言っても聞くような奴じゃないしな。
「まぁ、いいか。 そういうことなら俺の意見でよければ協力するよ」
「本当ですか!?」
「あと、何度も言うが俺は作詞なんてやったことない。 それとこの後まりなが来るからあまり長居すんなよ」
「エッチなことでもするんですか?」
「しねぇよ、阿呆」
蘭といい、リサといい、まりなといい最近は音楽の相談をよく持ちかけられるな。
※
「そうだな、一般論的なところからいくと作詞は文法よりも語感が大切になってくる。 そこで大切なのは単語や文章の末尾だ」
「末尾?」
「例えば、歌詞の中に愛してるという言葉があるとする」
「.....なんでそれに例えたんですか?」
「よくあるからだ」
正直俺もパッと出た言葉を出しただけだ、特に深い意味はない。
「愛してるの末尾の母音はU、そこで同じ一節内の歌詞に繋げて終わる言葉は末尾の母音がUになるのを選ぶのと不思議と音が自然となる」
「ふむふむ」
「たしか、和歌や短歌、俳句にも使われてた。 表現の名称は忘れちまったけど、歌詞を意識して見てみると結構多い」
一番と二番の歌詞とわけて書くときにも使われてたな、こうすることで員が踏みやすいらしい。
「愛してる、なら次の一節に繋げ文末の言葉には溢れてる、とかな。 一見関係のなさそうな言葉でも不思議とそれっぽくはなるはずだ」
「あー、なんかわかります」
「大体歌詞ってのは、曲のリズムが出来上がってからそれに合わせるようにして詞を添えるってのがよくあるパターンだからな。 もしかしてRoseliaの音楽って全部ユッキーナ任せなのか?」
「そうなんです、友希那ってば気がついたら曲作ってきちゃってて」
やはりあいつ天才か。
湊さんもその辺のことべた褒めしてたしなぁ、自分よりも遥かに優れた才能を持って生まれてきた娘だってな。
.....正直、初対面が猫と戯れてる時だったから、あまりそういう印象はなかったんだけど。
「うんうん、なんとなくわかってきました!」
「本当に?」
「はい! いつもは友希那が作ってた、それってつまり友希那がレシピを書いてお菓子を作ったようなもの」
「.....ん?」
「アタシにはアタシにしか書けないレシピがある。 それをその後調理するのは友希那、正直友希那が作詞の基礎基本を知ってるのかは別として、それもまた受け取り方も変わる」
「ま、まぁ、そうなるだろうな」
「同じレシピでも、出来上がるものには差異ができる。 それはおかし作りでも変わらない!」
「.....なんでお菓子?」
「いやぁ、モカと話してましたら歌詞と菓子を掛けるみたいになってしまって」
さすがモカだ、そこに乗っかるリサもリサだと思うけど。
「それなら、五葉さん! ここの部分なんですけど、こうするのはどうですか?」
「ん? いいんじゃないのか、それかもしくはここをこうして–––」
結構楽しくなってしまって、まりなが来るまでリサと作詞作業に勤しんでしまっていた。
.....今度Afterglowにライブの礼に一曲贈ってやるかな、作曲やったことないけど。
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