JKが紡ぐ、青春協奏曲   作:Cr.M=かにかま

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思い立ったが吉日、とか初めに言い始めた奴に言いたい。
準備もせずにやると、大変なことになるぜ。と。


1.あるコンビニの夕勤風景

 

ここはコンビニ。

そう、何の変哲もない普通のコンビニエンスストアである。

近くに羽丘女子学園っていうそこそこ大きな女子校があるわけで、今日も朝から「きゃはは」とか「うふふ」だとか青春ガールズトークという若者しかできない話術をしてる若人達がお金をたくさん払ってくれた。

隣町にも女子校があるせいなのか、この辺の女性人口率は半端ない。俺結構レアだよ、希少価値のある男だよ。

 

さて、そろそろ後輩達も来る頃か。一応今日は店長からチーフ任されてる身だし、しっかり働こうかね。もう、出勤してきて一時間経ってるけど。

 

「失礼しまーす!」

「JK二人、到着いたしました〜。お待ちどー」

「おう、学校お疲れさん!ま、とりあえず茶でも飲めよ、暑いだろ?」

「やったー!さっすが五葉さん!わかってるぅー!」

「いっつーさん、パンはないの?」

「遊びたい盛りの大学生の財布の軽さ舐めんなよ青葉」

 

まったく、このポヤポヤ系女子は、隣の今井を見習いなさい。

何の文句も言わずお茶を飲んでるだろ。

もうゴールデンウィークも終わって、気温も上がってきたからな。熱中症にでもなったら大変だからな、うん。

 

「じゃ、いつも通り着替えたらレジと商品並べ頼むわー。俺ちょっと一本吸ってくる」

「おっけーでーす、ほどほどにね〜」

 

青葉が手を振ってくるからとりあえず振りかえすけど、お前、服はせめて更衣室で脱げ。

人が来るまで喫煙室行けなかったからなぁ、この一本がないと仕事できねぇ。本来この時間俺や後輩二人以外にも一人いるんだが、今日は用事で休んでた。

 

「ちょ、モカ早くしなって!また店長に怒られるよ!」

「ふっふっふっ、その点は大丈夫だよリサさん。モカちゃんもリサさんもかわいいかわいいJKだから許してくれるってのが世の理だよ!」

「はいはい、可愛い可愛い!でもちゃんとメリハリはつけようね!」

「.....は〜い」

 

とりあえず、店長に報告することが増えたっと。

そろそろ発注した商品のトラックが届く頃なんだけどなぁ、来ないと俺店側に行けないぞ。

さっきまで五分くらいレジに店員が無人って状態だったし、それもこれもトラックが悪い。そういうことにしておこう。

 

 

 

「いっつーさん、お疲れさまでーす」

「おー、青葉はもう上がり?」

「ですです。お先に失礼させてもらいます」

 

早いなぁ、もう三時間も経ったのか。いつの間にか煙草も一箱なくなりかけてやがるし、吸いすぎだろ俺。

 

「いっつーさん、次の差し入れは山吹ベーカリーのパンをお願いしたい」

「馬鹿野郎、わざわざお前のために花女近くの商店街まで行けと?」

「あ、交通費も奢りって形で」

「結局俺が払うんじゃねぇかッ!!」

 

なんて恐ろしい後輩だ!

こんな奴と毎日のように付き合わされてる人はさぞ苦労してるんだろうな、うん。そうに違いない。

もし、青葉の友人に会うことがあったら山吹ベーカリーのパンを奢ってやろう。

 

「じゃ、モカちゃんはお先に失礼しますね〜」

「んー、どうせ仕事も落ち着いてきたし、途中まで送ろうか?最近物騒だからよ」

 

曰く、少女を追いかける黒服の集団が目撃されたとか。

曰く、夜道を疾走する馬に乗った人物を目撃した人がいるとか。

曰く、商店街のマスコットキャラミッシェルの偽物がこの辺に出没したとか。

 

「.....路地裏に連れ込んだりしないよね」

「するか、アホ」

 

何故高校生に欲情せねばならんのだ。

それに彼女いるし。

 

「じゃあ、せっかくなのでいっつーさんとモカちゃんのナイトデートでもしちゃう?」

「ここから駅までだよ。どこまで行く気だよ」

「–––至極のパンを求めて三千里!」

「はぁ、行くぞ」

 

こいつは、こんなんだからちょっと心配になっちまうんだよな。

今井はきちんとしてるけど、青葉はどこかぽやぁってしてるし、何考えてるかイマイチわからん。

 

「暇、しりとりでもしよ」

「しょうがないなぁ、しりとり」

「りんご」

「ごりら」

「ラホーハ」

「.....版画」

「ガレット・デ・ロワ」

「わ!?わ、わ、わ.....藁人形!」

「ウェルシュケーキ!」

「きつつき!」

「キプフェル!」

「ちょっとストップ!タンマ、その言葉本当に存在してんの!?」

 

なんなんだ、さっきから!聞いたこともないような単語並べやがって!

正誤がわかりにくいから、判定つけられねぇじゃねぇか!

 

「失敬な、きちんと存在してるよ!」

「そいつは失礼しました!俺が無知だけなのかな!?」

 

こいつ、アホなのか天才なのかわかったものじゃねぇな!

 

「そういうわけで次、いっつーさんの番ね〜」

「え、まだ続けんの?」

 

 

 

青葉を送った後、俺は一本吹かしながらコンビニに戻ることにした。

途中、ギターケースやら大きな荷物を持った女子高生、多分あれは花女の方の制服だったな。集団を目撃した。

バンド、ってやつか。いやぁ、青春してますなぁ、若いってのはいいねぇ。

バンドといえば、姉貴の会社がたしかそういう雑誌を取り扱ってる会社だったような、そうじゃなかったような。

 

のんびりと近くの自販機でコーヒーを買って、戻ると今井が休憩に入ってた。

 

「あ、五葉さんお疲れさまでーす!さっき店長来てましたよ」

「げ、マジかよ」

 

あの人今日はもう来ないと思ってたのに、めんどくせぇ。

またシフト増やされたら、今度こそ労働組合に訴えてやる!

 

「まったく、俺もそろそろレジに戻るかなぁ」

「ていうか、五葉さん吸いすぎじゃないですか?健康に悪いですよ!」

「いいんだよ、人生は一度きりなんだ。やりたいことやらなきゃ損だよ、損」

 

いちいち規制とか体のこととか気にしてたらキリがない。ま、これは俺が現在一人暮らしをしてるからできることであって、実家に帰ると確実にどやされる。

 

「さて、あと二時間頑張るか」

「そうですね!ていうか、最終私たち二人だけになっちゃいますね」

「え、まじ?」

 

 

 

「おっつー!あ、君禎じゃん、おつかれ!」

「おー、来たか海輝。じゃ、そろそろ俺らは上がりか」

「.....なぁ、君禎、前々から思ってるんだけど、お前って俺のこと嫌いなの?なんで俺が来る時間にシフト上がりに設定しちゃってるの!?」

「わざとだ、お前と一緒だと仕事にならねぇからな」

「ヒデェ!?」

 

というわけで、午後十時。俺と今井はここで上がりだ。

高校生の今井をこれ以上遅い時間まで店に置くわけにはいかないし、なにしろこのアホが来たからな。

 

「白夜さん!お疲れ様です、じゃ、頑張ってくださいね!」

「リサちゃんもあがりかぁ、とりあえずその制服貸し–––」

「黙ってろ、変態」

「あ、君禎のでもいいよ!」

「アホか、蹴るぞ」

「.....五葉さん、もう蹴ってますし白夜さん痙攣しちゃってます」

 

このド変態、そのうち110番通報してやる。男だろうが女だろうが、他人の着た服で興奮するとか、特殊性壁すぎて俺には理解できない。

違うな、理解したくない。

 

「じゃ、鍵置いてくから後よろしくな」

「それじゃ、失礼しまーす!」

 

ま、そのうち店長も来るだろ。先輩もレジにいたし、時間帯的にも人は少なくなるはずだ。応援要請が来ても行く気はないけどな。

 

「そういえば、五葉さんと白夜さんって同じ大学なんですよね?」

「まぁ、不本意ながらね。あいつは留年してっけど」

 

そう、受験の時も一浪して、さらに留年までしてると来た。

本来ならば出会うこともなかったろうに、あの変態が馬鹿だったせいで妙な縁ができてしまった。

 

「.....今すぐ縁を断ち切りたい」

「まぁまぁ」

 

今井は苦笑いしてるけど、俺は割とガチだったりする。

まぁ、DQNにまで堕ちてしまった弟に比べれば全然マシだけどな。

今井と雑談をしながら帰路につく。学校のこととか、妹のこととか、その他趣味とか料理のこととか何やかんや言いながらも話題は尽きない。

あと、俺の下宿先と今井の家は割と近所だってことも半年前に判明した。

なので今井の家族さんにも顔が知れることとなって、バイトで遅くなるときはできる限り一緒に帰ることが多い。

店長も融通利かせてるし、今井の母親も安心してくれてる。

たまに今井の父親と幼馴染にすっごい睨まれるけど、うん、気にしちゃダメなやつだ。

 

「それじゃ五葉さん、今日もありがとうございました」

「気にすんなって、また筑前煮余ったら分けてくれ」

「了解でーす!」

 

あいつの作る料理は本当に美味いからなぁ、なんか負けた気分になる。

負ける気なんて更々ないけどな!一人暮らしだし、講義は週に四日だけだし、時間はあいつよりもある!

 

下宿先のアパートに戻って、シャワーを浴びてからパチってきた消費期限ギリギリの弁当を食って片付けを済ませてから寝た。

まぁ、興味は一切ないだろうが、これが俺五葉君禎の日常である。

名前にフリガナを入れると、いつつばきみさだ、になる。いつばじゃなくて、いつつばな。つは二つだ。

.....一人暮らしし始めてから独り言が増えたな、寝るとしよう。

 

 

 

次の日、今日はバイトも学校もないからCDでも買いに行こうかとアパートを出たら青葉に捕まった。ちょっと待て、お前何で俺のアパート知ってるんだよ?

 




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