機動戦士Dガンダム~悪魔の兵器の物語~   作:クニクニ

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第37話 偽りの仮面

俺たちZEUTH一同はタンパグンダ基地を出発し、何事もなく順調に航路を進んだ。

数日かけてようやく目の前にはザフト軍基地ジブラルタルが見え、俺はミネルバの艦内の窓から見下ろしていた。

 

「ここがザフト軍の基地ですか。」

 

そして俺の隣で同じように窓の外を眺めているディナ。

 

「ああ、そうだ。

前にいたタンパグンダ基地より大きいだろ。」

 

ここジブラルタルはザフト軍が地球に置けるザフト軍の重要拠点として建築し、ここにはザフトの大部隊が駐留している。

その為、窓から見ているだけでも巨大な基地だということは見て分かる。

 

「マスターはここジブラルタルで何をなさるつもりでしょうか?」

 

「そうだなぁ。」

 

ここジブラルタルでやることは幾つかある。

 

その中で重要なのはステラのことだ。

 

ステラの体は強化人間として改造されており、定期的に薬物を摂取しなければならない。

本来の物語通りならステラをよくするには連邦に返すためシンが動くのだが、その結果彼女はシンと戦うことになる上、フリーダムによってとどめを刺されることになる。

 

いちおう俺が手を出さなくても生きている可能性はある。

 

しかし、俺がいることで歪みが生じるという可能性も否定できない。

なら、俺の力でステラを治せば良いのではないかと考えた。

 

だが、もしここでステラを治せばどうなる?

 

事情がどうあれ彼女は連邦の兵士。

さらには強化人間な上、ザフトの新型機を奪取、そしてザフト兵を何人も倒したのだ。

 

そんな簡単に見逃してくれるはずがない。

さらにはザフトでいいように扱われるのがオチだ。

 

そうなると結局彼女を何とかしようとシンが動くはずだ。

 

そもそも俺のこの力でステラの体を治せるのか?

 

不安と疑問がある中、何とかならないかといくつか考えてみたのだが、何をするにしてもいま動けば状況が悪くなるのだ。

 

なので、いまからではなく少し時間をおいてから行動しようと思う。

 

それに、着いていきなり始まるというわけではないのでしばらくはこの基地の探索か、周囲を見てまわりたいな。

 

「ディナ。」

 

「はい。」

 

「シン・アスカに監視をつけられるか。」

 

「可能です。」

 

「それじゃあ、シンがステラを連れて動いたら報告してくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

「頼んだ。」

 

とりあえずしばらく自由行動だ。

彼が動くまではね。

 

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~ザフト軍 ジブラルタル基地~

 

ミネルバ率いるZEUTHがジブラルタル基地へ入港し、艦から降りる許可をもらうと皆が次々と艦から降り、俺たちは自由行動を許可されたので基地をうろつくことになった。

 

しかし、外に出てみると兵たちは何かあるのか賑わいっているのが分かる。

 

「なんだか、すごい賑わいですね。」

 

前を歩いていたロランは眼前に群がっている人たちに驚いていた。

 

確かに普段からこんなにも賑わっているのだろうかと疑問には思う。

 

そんなロランにヨウランが答えてくれる。

 

「ロランは知らないんだっけ。

今日、あのラクス・クラインがライブに来てくれるんだ。」

 

「ラクス・クライン?

それって確か歌姫と呼ばれている人でしたよね?」

 

「ああ、俺あの人のライブがあるって聞いてからずっと楽しみだったんだ。」

 

「へぇー、こんなに活気があるってことはすごい人なんですね。」

 

「ロランも見ていきなよきっと気に入るぞ。

おっ、噂をすれば。」

 

ヨウランが興奮しているとき、向こうから歓声が聞こえ、視線をそちらに向けると一際目立つピンクのザグ

がステージに歩いてきて、そしてザクの手から一人の少女が現れる。

 

『みなさーん!ラクス・クラインでーす!』

 

「「「おおー!!」」」

 

件の少女、ラクス・クラインの登場で観客全員が沸き上がる。

 

「すごい、熱気ですね。・・・ヨウラン?

どうかしましたか?」

 

「んー、あのラクス・クライン、なんだか雰囲気が変わったような気がするんだよな。」

 

ヨウランはラクス・クラインの様子が違うことに違和感を感じていた。

 

世間が知らないのも無理はない。

彼女はラクス・クラインを模した歌姫なのだから。

 

そして、元気よく歌うラクス・クラインを横目に視線をそらし少し離れたところに目をやると、ラクス・クラインを見守る人物が一人いた。

 

「・・・ギルバート・デュランダル。」

 

・・・いずれは彼とも戦うことになるんだろうな。

俺この場ですることはないので踵を返して、ライブ会場から離れる。

 

「マスター、どちらへ?」

 

「ここで見るものはなくなった。

他を見ていこう。」

 

「かしこまりました。」

 

----------------------

 

ライブ会場から離れるとまるで人がいなくなったかのような寂しさを感じる。

 

「人がほとんどいないな。」

 

「軍の人口の殆どがライブ会場に密集しております。」

 

デュランダル議長はラクス・クラインを世界に見せるためにこうやって基地の殆どの人をライブに集めているんだろうな。

 

一人でも多くの人が「あれはラクス・クラインだ」といえばそれで人々から彼女は偽物ではなく本物と言われるようになるんだろう。

そしてそれがデュランダル議長の考えでもある政治に利用できる歌姫だろうな。

 

「ん?ここは・・・?」

 

「ジブラルタル基地の入り口ですね。

この門の先は基地の外にある街に繋がっているようです。」

 

適当に歩いていると大きな門があり、兵士が厳重に警護していた。

・・・街に行くのもありか。

 

「街へとでるか。

だが、外に出ても問題はないのだろうか?」

 

「では、自分が兵のものに伺ってきましょうか?」

 

「ディナがか?」

 

「はい、マスターでも問題はないでしょうが、異性の者が交渉した際の方が成功率は高いと判断します。」

 

確かに俺よりディナの方がお願いすれば相手も頷いてくれるだろう。

むしろ俺が行くと話す前に銃を向けられそうな見た目だしな。

 

ディナは門番らしき人物に話しかけて外に出れないか交渉する。

 

ディナと話している人物は、ディナの顔を見てデレデレとしていた。

 

これが若さ・・・ではなく、男女差か。

 

少しするとディナが門番の兵士を連れてきた。

何かあったのか?

 

「マスター、外へ出る許可をもらえましたが、一応マスターの事も確認しておきたいとのことです。」

 

あ、なるほど。

仕事熱心で結構。

 

「ん、失礼ですが所属は?」

 

「ZEUTH・・・新造艦ミネルバの一員です。」

 

「この方と同じあの艦の人ですか。

でしたらすでに話は来ておりますのでどうぞ。」

 

「じつはここに来るのは初めてなので、できればどこかおすすめの場所はありますか?」

 

「おすすめですか・・・、あまりおすすめできる場所は少ないですが・・・。

ああ、それと初めてなのでしたら、部下にこの辺りをご案内しましょうか?」

 

「いいのですか?」

 

「ええ、ライブに興味がないものもおりますので問題はないです。」

 

まあ、アイドルに興味のないのがいたって不思議ではないか。

 

「では、お言葉に甘えて。」

 

そして、付き添うこととなった兵士を先頭に入り口の門を潜ると、そこは予想外の光景だった。

 

「こ、これは一体・・・。」

 

基地から一歩外へと出るとそこには人で溢れかえっており、至るところにテント等が立てられていた。

 

「難民キャンプです。

ここ最近、異星人による襲撃や戦争のため多くの人たちがこの基地に集まってきており、基地周辺は難民で溢れかえっています。」

 

目の前に広がる光景はテントと人が数多く見え、かなりの範囲を占めていた。

 

基地周辺にも建物はあるが、ここにいるのはその建物に入りきらず、テントをたてて雨風を凌いでいるのだろう。

 

「おい、早くしてくれよ!」

 

俺が難民キャンプを歩きながら見回していると、診療所らしき場所で何か揉めているようだった。

 

「もう、3日も息子の治療を待ってるんだぞ!」

 

「おい、それなら俺は一週間も待ってるんだ!俺が先だ!」

 

「なんだと!俺の息子はあの異星人の攻撃で大怪我しているんだぞ!

はやくしないと死んじまうんだぞ!」

 

「んなこと知ったこっちゃねえ!」

 

2人の男が取っ組み合い、いまにも殴りあいが起こりそうな雰囲気であった。

 

「ああ、またか。」

 

「こういうのは頻繁に起きてるのですか?」

 

「ええ、ここにある診療所も生き残った医者や看護師をかき集めた人たちばかりな上に、人手もまったく足りないので、診療所の人たちは休む間もないくらいの状態です。」

 

医者や看護師の格好をしている人たちは休む間もなく動いており、明らかに手が足りていない状態だった。

 

しかし、診療所のテントの回りには火傷や重症で身体中包帯に包まれている人、辛そうな顔つきをしている人でで溢れていた。

 

「・・・よしっ!」

 

「えっ、あのなにを・・・!?」

 

俺は意を決して、診療所で揉めている人たちの所へと歩く。

そして案内してくれている人は俺が揉めている人たちの所へと向かっているのに気がつき止めようとするが、ジョーカーはそれを無視して進む。

 

「失礼。少し良いですか?」

 

「あ?なんだこっちはいまそれどころじゃないんだ!」

 

「申し訳ない。だが息子さんが大ケガしていると聞こえたので。」

 

「あ、あんた医者かい?」

 

「医者、っというわけではないですが、治すことはできます。」

 

「ほっ、本当か!!

なら頼む、息子を助けてくれ!」

 

さっきまでもめていた男の顔は打って変わって、泣き顔で俺の服にしがみついて懇願してきた。

 

「わかりました。息子さんはどちらに。」

 

「い、いま連れてくる。」

 

男は人混みの中を突っ切って走っていきテントの中へと入っていった。

恐らくあそこに息子さんがいるのだろう。

 

「お、おいなら俺のところも見てくれるのか!?」

 

「ええ、どなたか具合が悪いのですか?」

 

「ああ、うちの母親がこの間の襲撃で腕を大ケガしちまって。」

 

「わかりました。見てみましょう。こちらにつれてきてもらえますか?」

 

「わ、分かった!」

 

「おおーい!息子の治療を頼む!」

 

先程の男が帰ってきて、腕に息子さんを抱えてやって来た。

 

「そこの台に乗せてください。」

 

俺はとりあえず少年を見るために大きくて平べったい場所に寝かせてもらい、怪我の具合を見る。

 

少年の体には至るところに火傷や傷口がありさらには体の殆どが包帯で包まれており、かなりひどい状態だった。

 

「はぁはぁ。」

 

少年の呼吸は荒く、息をするのも辛そうである。

 

「ぼ、僕、死ぬの?」

 

「大丈夫。俺に任せて。」

 

俺は少年の体に手を乗せ力を込めて、俺の力を発動させる。

 

手が緑色に淡く光り、少年の体を包む。

すると、火傷や傷口がみるみると小さくなり、最終的には怪我一つない体へとなり、不要となった包帯をとる。

 

「・・・あれ、痛くない?

仮面のお兄ちゃん、なにをしたの?」

 

「ん?

ん~・・・実はお兄さんは魔法使いなのさ。」

 

「お、おい!ほ、本当に大丈夫なのか?」

 

「あっ、父ちゃん!

うん、もう体はなんともないよ!」

 

少年は本当に何でもないかのように元気にガッツポーズをする。

 

「あ、ああああ、よかった。本当によかった。

あんた本当に、本当にありがとう!」

 

男は息子さんに強く抱きつき、涙を流しながら何度も感謝の言葉を並べてくる。

 

「おい、次はこっちを見てくれ!」

 

「いや、こっちだ、こっちを見てくれ!」

 

「次は私のところよ!」

 

この回復の力を見せたらもしかしたら、ここの人たちに嫌厭されるのではないかと思ったが、

どうやら思った以上にここにいる人は治療ができないことに切羽詰まっていたようなので、いまや俺の回りに人が溢れかえっていり。

とにかく俺の回復の力であっても治したいようだ。

 

「み、皆さん落ち着いて、とりあえず重症のかたを優先に「そんなの待ってられるか!早くしてくれよ!」」

 

しかし、藁にも縋る思いなのかここにいる人々は押し寄せてきたせいでか混乱し、状況が悪化しそうな雰囲気もあった。

 

(しまった。

このままじゃ、まずい。

俺、俺はまた余計なことをしてしまったのか。)

 

自分が、よかれと思ったことが裏目に出てしまった。

軽率なことをしてしまった俺は自分の事に嫌気がさす。

 

「ここは我々に任せてください。」

 

そんなとき、誰かが俺の肩に触れ、振り向くと白衣を着た男性がいた。

 

「あ、あなた方は?」

 

「我々はここで医者をやっているものです。

重軽症者の選別は我々に任せてください。」

 

混乱している人々を看護師や医者の人が手慣れた感じでいなしており、次々と重軽傷者を選別していってた。

 

「では誘導はこちらが行います。

いまから連絡して基地から兵を何人か呼びましょう。」

 

さらには俺を案内していたザフト兵の人が通信機を取り出して基地の人と連絡を取りこちらに人を寄越してくれるようだ。

 

こんな戦争のなか、自分の事で手一杯のはずなのにこうやって協力できるのだなと。

そして感謝の気持ちで涙が出そうだったが、言い出した俺にはやるべきことがある。

それを済ませないといけない。

 

「皆さん・・・、お願いします。

それとありがとうございます。」

 

「今は手が足りない状況。

どういったものか分かりませんがあなたのその不思議な力、どうかここにいる人たちの事をお願いします。」

 

「わかりました。」

 

そしてそんな光景を見ていたディナはというと。

 

「これも『人間』の一つ・・・。」

 

機械であった少女はその光景を見て何を思ったのか、それは本人にしかわからない。

ただディナはその光景を主人の傍らで見守っていた。

 

 

 

しかし、そんなやり取りの中で一人の人物がこちらをじっと見ているのであった。

 

「いまのは・・・。」

 

 

----------------------

 

「つ、疲れた。」

 

五時間ぶっ通しで治療を行い、ようやく人混みが収まってきたのでテントの中に入り、一息休憩することにし、テントにある椅子に座り込むのだった。

 

「お疲れ様です。」

 

続けて入ってきたのは先程いた白衣の男性だった。

 

「ええ、そちらもお疲れ様です。」

 

白衣の男性は俺とは反対側の位置で向かい合う感じで座った。

 

「この度は本当にありがとうございます。」

 

白衣の男性が座った後、突然頭を下げて礼を言う。

 

「あっ、いえ、そんなお礼なんて。」

 

突然のお礼に、俺はキョドってしまう。

そりゃそうだ。

俺がやったことでめちゃくちゃ混乱した上に、いろんな人に迷惑をかけてしまったのだ。

礼を言われるなんて・・・。

 

「ですがあなたのお陰で、多くの人が救われました。」

 

「・・・俺のこの力、気味悪がらないのですか?」

 

俺の持つこの本来人間にはない異質な力。

俺が気になっていたことを白衣の男性に問う。

 

「・・・正直にいえば貴方のその不思議な光・・・よく分からないものだと、怪しんでいました。」

 

やはり・・・か。

実際に言われると重みが違うな。

やっぱり人に見せるものじゃないなこの力は・・・。

 

「ですが、貴方のその力がなければここにいる人のほとんどは我々の手にかかることもできずに亡くなっていたでしょう。」

 

男性は悲しそうな表情をしていたが、視線をテントの外を向けていたので俺もつられて眺めると、外には先程まで怪我していたとは思えない人たちが笑顔で過ごしていた。

 

「我々は怪我や病気を治すことはできます。

しかし、我々には限度があり、治せるのもあれば手に負えないものもあります。医者と言えど限度はあります。

一人ならまだしも、これだけの大人数は我々医者の数が少ないほど無力となってしまいます。」

 

「それに、こんなこと言っては医者失格ですが、

正直、ここにいた重症の人を救うことは諦めていました。

私だけではなく他の人もどうやらそう思っていました。」

 

治療していた人の数は多かった。

重症の人を優先に治療していたが、軽傷の人は医者や看護師が対応していてくれてたらしく、分担していたお陰で素早く済んだのだった。

 

もし、彼らの手助けがなかったら、俺はここの人たちを救えていたのだろうか?

 

「ですが、あなたが現れたお陰でここで治療するには設備も薬品も足りるかわからない患者を貴方はあっという間に直してくれました。

そして我々は思ったのです、貴方がいればここの人たちを救えると。

だから我々は貴方に任せることにしたんです。

貴方のその力に!」

 

ああ、だがらあんなにも信用して、俺に託してくれたのか。

 

「ああやって、みなさんが笑顔でいられたのは紛れもなく貴方の力のお陰です。

我々だけでは到底できないことをあなたは成し遂げてくれたのです。」

 

テントの外で賑わっているか人々を見て俺は仮面の下で涙を流す。

 

この世界に来て色々なことがあった。

思い通りにならなかった事もあった。

だけど今回の俺の行動は間違っていなかったんだ。

俺はようやく人の役に立てたのだと。

 

「マスター。」

 

涙を流しているなか、ディナが傍に寄り耳打ちする。

 

「シン・アスカが動きました。」

 

「!・・・わかった。すぐ向かおう。」

 

どうやら休んでいる暇はないようだ。

涙を流すのはやめて俺は目的の場所へと向かうのだった。

 

----------------------

 

 

~ミネルバ~

 

ミネルバ艦内で医務室から三人の人物が出てくる。

 

「大丈夫だよステラ。俺が君をネオのところに連れて行ってあげるから。」

 

「シン、急ぐぞ。

恐らく異変にすぐ気がつかれる。

そうなると彼女を返すこともできなくなるぞ。」

 

「ああ、わかってる!」

 

医務室から出てきたのはザフトのパイロットであるシンとレイ。

そして捕虜であるステラが眠るベットを押して通路を歩いていた。

 

 

しかし、世の中甘くないのか通路を進んでいると曲がり角から巡回の兵士と出会ってしまった。

 

「やべ、まずい!」

 

シンはステラの眠るベットを押しており、とっさに止まり、レイが前に出て兵士に騒がれる前に先手を打とうとする。

 

「おい、お前何をして・・・ぐっ!」

 

しかし、レイが手を下す前に兵士の後ろに黒衣の少女が現れて手刀で兵士の首筋に一撃を与え気絶させる。

 

「なっ!」

 

「対象を無力化。」

 

「あ、あんた一体。」

 

「確か・・・彼女はジョーカーと一緒にいた少女。」

 

「よし、よくやった。」

 

ディナの後に続いて、仮面の男ジョーカーも現れる。

 

「ジョーカー!

どうしてここに!?」

 

「そんなことよりも、さあ早く。インパルスの発進準備は整えた。」

 

「え?」

 

「その子。ステラを連合に返すんのだろ。」

 

「ど、どうしてそれを。」

 

「早くしろ。レイはカタパルトの準備を。シンはコアスプレンダーに乗るんだ。」

 

「・・・!、了解した。」

 

レイは状況を理解してくれたのか即座に動き、カタパルトの準備をするためにシンたちとは別れる。

 

「さあ、俺たちも行こう。」

 

「なんで・・・、あんたが。」

 

シンは未だにジョーカーの登場に、そして手を貸してくれることに戸惑っていた。

 

「その子の為を思って連合にいくんだろ。困っていたら助けてあげないと。さあ、早く行くぞ。兵士が来たら出るに出られないぞ。」

 

「あ、ああ。」

 

「ああ、それとディナ、ここは俺たちが済ませる。

念のためにデビルガンダムで待機していてくれ。」

 

「畏まりました。」

 

ディナは目にも止まらぬ早さで姿を消す。

 

そして、コアスプレンダーにシンが乗り、彼の膝の上にステラを乗せて倒れないように固定しておく。

 

「よし、このベルトを着けて、っとその子が安全なようにちゃんとしないとな。」

 

「ジョーカー。えっと、ありがとう。」

 

「気にするな。さっきも言ったが困っていから助けてあげただけだ。よし、これで大丈夫だろう。」

 

「はぁ、はぁ、・・・シン?」

 

薬の効果が切れたのかステラが目を覚まし、苦しそうにシンを見つめる。

 

「ステラ、大丈夫?今から連邦に連れていくから。」

 

「・・・?、ネオ?」

 

「そうだよ。ネオのところに連れていってあげるからね。」

 

「さあ、シン早く行け。」

 

こうして話しているうちに兵士が来てしまうかもしれない。

しかし、ステラは俺の声に反応したのか今度は俺を見つめてきた。

 

「・・・あなたは?」

 

「・・・ジョーカーだ。君と話すのは初めてだね。体には気を付けるんだよ。」

 

「あなたも・・・また会える?」

 

「・・・ああ、その首飾りがあればまた会えるさ。」 

 

「・・・?」

 

ステラはジョーカーの言葉に首をかしげる。彼女はジョーカーの言った言葉を何処かで聞いたような感じだった。しかし、それがどこでだったか思い出せなかった。

それどころか意識は朦朧としておりまともに考えることはできなかった。

 

「・・・せめて君が元気になるおまじないだけはしておこう。」

 

ジョーカーはステラの手を握り、回復の力を使いステラの体が淡い緑で包まれる。

 

そして効果があったのか彼女から辛そうな顔はなくなっていた。

 

「いまのは・・・。」

 

「ほんのおまじないだ。

さあ早く、兵士がすぐ来るぞ!」

 

「っ!・・・ああ!

それじゃあ、ステラいくよ。」

 

シンはコアスプレンダーのキャノピーを下ろして出撃準備を整え発進する。

 

レイの方も間に合ったのかコアスプレンダーの射出口を開いてくれる。

 

「シン・アスカ!

コアスプレンダー出ます!」

 

強いGが一気に掛かり、機体がカタパルトから射出され、続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、そしてシルエットフライヤーも射出し、4機がそれぞれ合体しインパルスガンダムへと合体する。

 

「頼む間に合ってくれ!」

 

シンはステラの体に負担を与えないように気を使いながら、シンはフットペダルを踏み加速させる。

 

そしてその後を追いかける、虫の形をした一つ目のロボットに追跡されているとも知らずに。

 

 

----------------------

 

「行ったか。」

 

「ええ。」

 

シンのコアスプレンダーを見送り、俺とレイは格納庫で佇んでいた。

 

今回、俺が出るまでもなかったが、

やはり、俺がいることで何か予想外のことが生じるんじゃないかと思ったがどいたやら杞憂のようだった。

まあ正直いうと心配だったのもある。

 

そして、シンが出撃してから遅れてザフトの兵士がゾロゾロとやってくる。

 

「レイ・ザ・バレル、そしてジョーカー。

連邦兵士の脱走に関与しているのは明白だ。

同行してもらおう。連れて行け!」

 

逃げ場はなく、俺とレイの手に手錠をかけられ、連行される。

 

まあ、これから尋問されるんだろうな。

 

 

あれ?

確か二人はデスティニープランの要になるからデュランダル議長が帳消しにしてくれるが、この場合俺はどうなるんだ?

 

 

 

 

・・・やべぇ、詰んだ?

 

 

----------------------

 

ジブラルタル基地の部屋の一つに、ラクス・クラインの付き添いできていたデュランダルが今回の騒動の報告書を見ていた。

 

「なるほど。連邦のエクステンデットを逃がしたのか。」

 

「はい、今回の騒動を引き起こしたのは我が艦のシン・アスカ、レイ・ザ・バレル、そしてジョーカーの三名によるものです。」

 

「なるほど、詳細は分かった。

彼らの処遇は追って伝えるとしよう。」

 

「わかりました。ではこれにて失礼します。」

 

タリアは報告が終わると踵を返して、デュランダルの部屋を後にする。

 

「・・・それで、結果は?」

 

タリア艦長が部屋を出たあと、デュランダル議長が誰かに対して喋っていると物陰から人が現れる。

 

「はい、ミネルバに設置している監視カメラでも映像が確認できました。」

 

彼の正体はザフトの中でも一部の者しか知らない兵士。

いわゆる内部調査を目的とした兵士の一人だ。

 

「それは、ほんとうか。」

 

「はい、ですが何者かの工作なのかいくつか映像が見れませんでしたが、こちらで確認できます。

ただ、こちらのカメラはネットワークから独立したタイプな上に小型化にしたのですが、さらに残念ながら雑音が酷く音声は入手できませんでした。」

 

音声もあればよかったが音声がなくてもこの映像は確実な証拠になるのは間違いなかった。

そしてデュランダルはカメラの映像をモニターで再生する。

 

「これは…。」

 

そこに映っていたのはシンとレイ、そして仮面を被った男ジョーカーの3人(・・)だった。

 

 

連邦の兵士をつれているシンたちと合流しており、ジョーカーを先頭に格納庫へと向かっているのが映像に映っている。

 

会話の内容はわからないが、この手際のよさにデュランダル議長は違和感を感じた。

 

(もしや、この脱走を仕組んだのは彼なのか?)

 

「この3人はどうしますか?」

 

「・・・シンとレイはザフトの一員だ。

それに彼らはパイロットとしての功績もある。

だが、ジョーカーというこの男。

恐らくこの脱走は彼が計画した上でシンやレイが手伝ったのだろう。

2人に何を見返りにしたのかわからないが主犯はこの男で間違いはないはずだ。」

 

「では、この者は。」

 

「ああ、君のやり方で頼んだよ。もちろん、丁重にね…。」

 

「はっ!では、失礼いたします。」

 

ザフト兵はデュランダルの部屋を後にする。

 

「やはり彼は我々とは相反する存在なのかもしれないな。」

 

モニター越しに写るその仮面を最後にデュランダルはモニターの電源を切るのであった。

 

 




おや、不穏な空気が・・・。

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