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~新地球連邦軍 会議室~
薄暗い部屋の中、幾つか人影の姿がいくつもあり、それらは大きな円卓のテーブルを中心にして座っていた。
そしてその円卓の中心には立派な髭を生やしており、体型は小太りな男性が一人立っていた。
「では、カイリル少将。
先の戦闘での行動は一体どう言うことかね。」
座っている人物の内一人が中心に立っている軍人の男性に問う。
「はて、何のことを申し上げてるのでしょうか?」
「とぼけるな。あのザフトと手を組んでいるZEUTHを取り囲んで一網打尽の包囲網を敷く為にオーブ軍のあの小僧にうまいこと言ってようやく協力を漕ぎ着けたのにもかかわらず、君が独断で部隊を撤退させたそうじゃないか。」
先の戦い・・・ZEUTHが連邦、オーブにさらには別の勢力に囲まれて危機が迫っているなか連邦は突然の命令により 撤退せざるを得ない状況へとなった。
そしてその状況を作り出したのはその現在問いただされている人物、カイリル・アーバン少将であった。
以前配属されていたガルナハンがZEUTHによる強襲を受け、さらには山ごと基地が削り取られており、最新鋭の兵器であったゲルズゲーの全滅、ローエングリーンの破壊と、ほとんど壊滅状態に陥っていた。
そんな戦闘の中、生き残ったほとんどは後衛で待機していた兵士。
いわば戦闘に参加していない負傷者たちなどばかりであった。
しかし、中にはザフトの捕虜として捕らえられたものもいるため、捕虜にもならずそして生き残って基地へと戻ったのはほんの数人だった。
その為、戦闘に参加していた兵士の生存は絶望的かと思われた。
だが、そんなときカイリル准将はガルナハンから奇跡の生還を果たし、一部では『奇跡の生還者』と呼ばれるようになり、さらにZEUTHに関する情報を以て帰ってきたためカイリル准将の功績を認められ、昇進を果たした。
そして今回の作戦ではカイリル少将が参加しており士気の向上は言わずもがなである。
しかし、そんな中で先の戦闘での独断の命令により上層部は当然無視のできない行為だった為現在は査問会が開かれており、その責任としてカイリル少将は問われていた。
「さて、カイリル少将。
いい加減、説明してはもらえないだろうか。」
しびれを切らした一人がイラつきながらもカイリル少将に問う。
「あまり公にお話はできないのですが情報部からの情報により判明したことがあるため緊急の措置をとらせてもらいました。」
「情報部からだと?」
「そのような緊急性のたる情報は我々の耳には覚えがないが。」
「軍内部の混乱を防ぐために情報規制を敷いていた為恐らく伝わらなかったのでしょう。」
「ふん、まあいい。
ただでさえ時空振動によりあちこちで被害が出ているなか、無用な混乱は確かに必要がない。
して、そんなことよりもその情報とは?」
「はい。
・・・ZEUTHが核に匹敵する兵器を所有してあるとの情報がありました。」
ザワザワ・・・。
カイリル少将の言葉を聞き、室内がざわめき始める。
「バカな!?
核に匹敵する兵器だと!?」
「はい、しかしこれらの情報の真偽が不明なため余計な被害を出さぬために撤退の指示を出しました。」
「むう、確かに・・・。
だがその話が本当だとすれば撤退せず包囲網で取り囲んでその兵器を入手すればいいのではないか?」
「もちろん、その案も考えました。
しかし、どれほどの脅威か分からない以上無闇に兵士を無くすのは得策ではありません。
もし無理にでも戦闘していれば多大な損失をしていたかもしれません。
ですが、幸いにもあそこには協力してくれた軍がいましたので我々が無理しなくても問題はありません。」
「なるほどそれでオーブ軍か!」
「はい、
オーブ軍がいたのでそれを利用して我々の損害を代わりに被ってもらおうかと。幸いにもあのオーブの五大氏族の一つである宰相の息子ユウナ・ロマ・セイランが我々のことは気にせず軍を前に進めてくれましたので。
そのため今回は我々の出番はありませんですが、お陰で今回の戦闘の結果を得られましたので次回は我々が優位にたつことが可能です。」
「「「おおおっ!!」」」
カイリルの査問会にもあったのにもかかわらずカイリルの今回の目的を知った上層部はカイリルの意見に思わず驚きの声を漏らす。
「ではその兵器の入手は可能なのだな?」
「はい、ですが相手はあのZEUTH。
しっかりとした作戦でないと厳しい相手でしょう。」
カイリルの話が終わると円卓に座る人物たちは隣にいる人物たちと小さな声でヒソヒソと密かに喋っており何か話し合っていた。
「カイリル少将。今回の君の働きは評価に値する。
だが無断の命令について本来は処罰を与えねばならぬ。そのため次の作戦にてその兵器を入手してみせよ。」
「はっ!寛大な処置ありがとうございます。
次の作戦では精一杯勤めさせていただきます。」
そして査問会議は終了したため座っていたものたちは次々と立ち上がりそれぞれ会議室から出ていった。
「さて、自分も戻るとしようかの。」
カイリルも会議室から出ていく人たちの後を追いカイリルも会議室から出るのであった。
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会議室から出て上層部たちとは別方向に進み、自分のやるべきことを済ますためカイリルは通路を歩き移動していた。
『・・・リル・アーバンよ。』
歩いている途中誰かが自分の名を呼んでいる気がしたが、周りには誰もおらず通路には自分一人しかいなかった。
『カイリル・アーバンよ、聞こえますか?』
再び声が聞こえるがその声の発生源は自分の頭の中から聞こえてくるものだとわかった。
そして頭の中から聞こえてくる声の持ち主が誰かは即座にわかった。
「こ、これはデビルガンダム様。この老骨にお声をかけていただけるとは。」
カイリルの頭の中からデビルガンダムの声が聞こえ、笑みを浮かべながら自分の主たるデビルガンダムに敬意を
現しつつ返事をする。
『カイリル・アーバン、そちらの方は順調ですか。』
「はっ、デビルガンダム様より授かったDG細胞を使って現在上層部の一部はすでに掌握ずみです。
ですが、周りに気がつかれぬように慎重に行動しているためいまだ半分もいっておらず申し訳ありません。」
『かまいません。我々の存在を世に大きく広めるのはいまはまだ早いです。
とうぜんながら今回の報告で我々の存在は明かしていませんね?』
デビルガンダムは今回の報告の内容について問いかけてくる。
喋り方は別段代わりはないが、その問いはかけの部分を聞いた瞬間思わず体がブルッと震えた。
先程の査問会議みたいな問いかけにもかかわらず頭の中に語りかけられて冷や汗が止まらず、さらには震えが止まらなかった。
今にも自分の命が終わるような圧力がカイリルの体に重くのし掛かる。
「もっ、もちろんです。
いっ、以前に仰られていたようにZEUTHには核に匹敵するものがあると伝えました。」
『手筈通りですね。』
「で、ですがよろしかったのですか?
デビルガンダム様のことを言っていないとはいえ、デビルガンダム様に危害が及ぶ可能性が・・・。」
『核に匹敵する兵器を連邦の上層部はそれを広めると思いますか?』
「・・・いえ、むしろ我先にと手に入れるために周りに気がつかれぬように少数で行動するかと。」
『まさにそのとおりです。
ですのでそこまでの心配はせずとも無用です。』
「かしこまりました!
では現状維持のまま上層部の掌握を進めます。」
『まかせます。
それと我々にとって支配は目的ではなく、手順の一つです。
我々の本来の目的はマスターの望む未来を我々が操作して導く為です。
その為には大規模な組織、いわば新地球連邦軍を裏から操作することが最も素早い方法です。』
「重々承知しております。
その重大な役目をこの自分に与えられたからにはデビルガンダム様、そして我らが主のために!
この新地球連邦軍のことはカイリルにお任せください。
いづれはこの新地球連邦軍そのものがデビルガンダム様の思いのままとなりましょう!」
『期待しておきましょう。』
『ははぁ!』
デビルガンダムとの会話を終わらせたあと、カイリルの頭の中からデビルガンダムの声が聞こえなくなり緊張の糸が切れ、ほっと息をつく。
そして、カイリルはにやりと口元を笑わせて他の人が見たらゾッとするような表情をしていた。
「ふ、ふひひひひ!」
(デビルガンダム様から貰ったこの力。
これさえあれば地位も名誉も金も女もすべて自分のものに、もっと自分が役立つことを証明すればいづれはデビルガンダム様の幹部、いや右腕にしてもらえる。
これが笑わずにいられるか。)
「さて、そうと決まれば早速行動せねば。」
見た目に似合わず真面目な姿勢の足取りで歩を進めつつ、頭のなかでは欲望まみれな思考のカイリルであった。
当然、ご存じの通りながら彼の行動や考えはデビルガンダムに筒抜けであり、さらにはデビルガンダムに洗脳されているためこの状況がおかしいことなどカイリルはまったく気が付くことはなかった。
新地球連邦に忍び込んだ魔の手。
その支配は着々と侵食していた。
あいかわらずですがデビルガンダムが裏から暗躍して着々と足場を固めていることを知らない主人公です(笑)。