題名は未定 作:俺だよ俺
「ドライブアウトしました、周辺のスキャンを開始します」
「敵艦なし、金属反応なし、ガス反応なし……オールクリアです」
成れた様子で報告するココとアルモ。
「通信障害は、どうなっている? 」
「現在は見られません」
「よし、ルフト将軍に繋げ」
レスターの指示に従ってアルモが通信を繋げようとする
「あ、ちょっと待った。俺にちょっと考えがあるんだ。次のクロノ・ドライブで第二方面軍と合流するだろ?せっかく援軍が来るんだから、なるべくそれを有効活用したくてね。ただし暗号変換はしないで通信してくれ。敵からすれば、俺達が援軍と合流するのは阻止したいだろう。当然、こちらの動きをつかみたいはずだ。」
「は、はい。でも・・・・」
何か思いついたのか、タクトが「いい事を考えた」と言わんばかりの表情でアルモに暗号通信の使用をやめるように言う。アルモもこれまでの信頼関係から疑問を持ちつつも命令に従う。
「タクトさん?それは規定違反です!作戦行動中に、暗号化もせずに通信を行うなんて!」
その言葉に反応したのちとせだった。生真面目な性格から多少興奮気味に軍規違反だと訴えるちとせをいつもの調子でなだめるタクト。
「大丈夫、大丈夫、まぁ、見ててよ。」
「まあ、あいつにも何か考えがあるのだろう。アルモ、オレが許可する」
ちとせの言葉を聞いて通信を繋げるべきか否か迷っているアルモにレスターがタクトの肩を持つことで後押しする。副指令であるレスターの後押しもあってちとせは「はい…わかりました。」と後ろに下がる。アルモも一連の流れを受けて通信を繋げることにする。
「了解しました。・・・・・・通信繋がりました、ルフト将軍です。」
「よし、メインモニターに回してくれ。」
『おお、タクト!無事だったか。通信が途絶えたきりになって、心配しておったんじゃ。』
スクリーンにルフトの顔が映る、かわいい教え子に会えたからか喜んでいるようだが、やはり激務なのか疲れが見える。軍の最高司令官と国家宰相の二足の草鞋はやはり相当に厳しいのであろう。特にまだ前回の戦いの傷跡が残る今の皇国においては、大きな重圧が襲いかかっているのだ。
「お久しぶりですルフト先生、敵に通信を妨害されてたんですよ。でも、このとおり、われわれは無事です。予定どおり、目標宙域に向けて航行中です。それより、我々が追っている敵の正体が判明しました。」
『なに、本当か!いったい何者じゃ?』
「エオニア軍の残党で、首謀者はレゾム・メア・ゾムです。」
『レゾム? あの男、生きておったのか。』
タクトと違いルフトの方はレゾムの事をちゃんと覚えていたようだ。
「はい。レゾムは【真・正統トランスバール皇国軍】を名乗り、皇国に宣戦を布告してきました。ですが、問題はそこではありません。なぜ、あいつが無人艦隊を・・・・それも、あれだけ大量に保有しているかです。」
とりあえず、本題から切り出すタクト、わざわざ暗号をかけないで通信をしているのだ。怪しまれないようにする必要があろう。
『ふむ・・・・・・・確かに、先の戦いで温存していたにしても、各方面に出没しておる敵艦は、ちと数が多すぎるな。』
「はい、いくら紋章機があるとはいえ、戦力に不安があります。前回の援軍の件どうなりましたか?」
『むぅ・・・・・・・それなんじゃが、第5方面軍の意思が固くてな。あまり大規模なものは送れん。第5方面軍は先の動乱で日和見を決め込んだ故に軍内では風当たりが悪い。そう言った理由で彼らの観艦式に対する熱意は並々ならぬものがある。それに観艦式成功の暁には無人艦隊は別としてエオニア派の士官達の投降も促せるとして賛成する者も多いのじゃ。酷な言い方になるが先に送った増援だけで戦って欲しいと言うのが本音じゃ。』
申し訳そうにそう返すルフト、しかしながら、ないものないというのも絶対的な事実だ。
「そんなことだろうと思いました。わかりました、なんとかやってみますよ。」
そう、ここからが重要なのだ。
「ただ、ちょっと困ったことが・・・・紋章機にトラブルが起きて、今は戦力が半減しちゃってるんですよね。」
タクトの発言にちとせが疑問を口にしようとしてレスターに止められる。
「え?あのタクトさん?紋章機は・・・」
「しっ。とりあえず、黙って聞いてろ」
『なんじゃと?それは弱ったのう。』
「でも、心配はいりませんよ。幸い、敵の姿もありませんし、合流ポイントまでは心配ないでしょう。ところで、ちょっと個人的な話になるんですけど。」
『おいおい、タクト。今は作戦行動中じゃろう?』
「それはわかってますけど。ほら、「ここまで出てるのに~」って思い出せなくてむずむずするんですよ。気になってこのままじゃ作戦に手中出来そうにないんですよ~。」
『わかった、わかった。で、何が気になっとるんじゃ?』
ルフトの許可を得たので、一息ついてからタクトは尋ねる。
「ほら、先生が教官だった時のスペースボール士官学校リーグ決勝戦。」
『おお、もちろん!悲願の初優勝を果たした時のことじゃな。お前のサイン入れ替え作戦が功を奏して、イリノア校の連中は、てんてこ舞いじゃったな。昔からお前は、自分が楽に勝つことにかけては、知恵の回る男じゃったよ。』
「いやぁ、それほどでも~。あはは」
「褒めてないぞ、タクト。」
タクトとレスターがルフト教官の下で一緒に汗を流した良き思い出である。楽しかったななどとレスターもルフト同様に感傷に浸って懐かしんだ。
「えっと、それであの決勝戦で逆転ゴールに使ったフォーメーションって、フォーメーションがどうしても思い出せなくて・・・。あれって、フォーメーションいくつでしたっけ?0でしたっけ6でしたっけ?なんか、妙に気になっちゃて・・・。」
「なぜ今のその話を・・・・?はて、フォーメーション0。おお、おお!フォーメーション0か!!」
「あ、やっぱりフォーメーション0でしたよね?」
タクトは、内心で自分のたくらみが上手く行ったことにガッツポーズをしていた。もちろん表情は一切変えずにいつものどこか抜けたような笑みを浮かべている。
同時にレスターもタクトの意図することが分かったようで、口元を僅かに歪めた。
『うむ、そのとおり。フォーメーション0はここぞという時に効果的じゃ。』
「そうですよね。いやぁ、これですっきりしました!ありがとうございます。そうだ、またスペースボールの試合をしましょうよ。俺の得意なフォーメーション0なら290対0で勝てますよ!」
『ははははは、290対0とは大きく出おったな、こいつめ。もちろん、ワシが監督じゃろうな。スケジュールを空けて必ず行ってやるぞ。』
「楽しみにしています。」
「おお、そうじゃ。その話、ラークにもしておこう。」
「ラーク・・・・ですか。」
『ラークじゃよ、ラーク覚えとるじゃろ?』
「ああ・・・あのラークですか!確かに、俺たちのチームには欠かせない存在ですよね!了解しました。ラークにもよろしく伝えておいてください!」
ルフトの発言に一瞬詰まってしまうものの、彼の意図するところと理解すると、すぐにタクトは、「全くその通りですねー」と言うポーズを続けつつ同意した。
『うむ、それでは貴艦の無事を祈る。』
そういって通信は切れる。タクトはブリッジの面々へと振り返る。それと同時にタクトの意図を理解していたレスターは、アルモに指示を出した。
「さて、これで良しと・・・レスター。」
「ココ、ポイントYMf290へ進路をとれ。」
「え? 指定されたポイントはYMf288ですけど?」
「いや、YMf290だ。」
「りょ、了解しました。」
「さて、引っかかってくれるといいがな。」
「たぶん、いけると思うよ。」
「あのー、タクトさん。ひとつ聞いてもいいですか?ルフト将軍とお話しされてた、フォーメーション0って、なんですか?」
ミルフィーが頭に?を浮かべて尋ねてくる。その横のちとせもうんうんと頷いている。
タクトはミルフィー達の疑問に答えて今の通信にどのような意味があったのかを説明し始めた。
「まず、フォーメーション0はスペースボールの時、サインによってパスを受け取るメンバーを変更するもので、内容を知っている人なんてそうはいない。そして、通常レスターがパスを受け取るのだが、フォーメーション0において、そのパスを受け取るのが手前の味方ラークだった。パスを受け取ったら手薄になった敵陣を一気に突破すると言う作戦なんだ。ちなみに290対0なんてスコアは普通にあり得ないスコアだよ。つまり、今回の場合で言うと囮役は本来の合流ポイント。手前でパスを受け取る味方が、これから向かうポイントになるのさ。」
「つまり、合流ポイントの手前で待ち伏せて、やって来た敵を叩く・・・・・・と言う事ですか。すみません、タクトさん。そう言う意図がおありだったとも知らずに、私・・・・」
「気にしない、気にしない。正規の手続きを無視したのは事実だし。そういうとき、ちゃんと注意してくれる人がいるのも大切な事さ。」
「でも・・・・勝手に合流ポイントを変えちゃったら、増援部隊と合流できないんじゃないですか?」
「それも問題ない。今頃ルフト将軍を通じて伝わっているはずだ。将軍がラークに伝えるって言っただろ?ラーク=増援部隊だ。」
そう心配したアルモにレスターが補足説明する。
「じゃあ、そろそろお開きにしようか。みんなは、ドライブ・アウト後の戦闘に備えて、ゆっくり休んでくれ。」
そうしてタクトは、その場で解散を命じて、ココとアルモも、次のクロノドライブの準備をして、ドライブに入ったらそれに合流すべく、コンソールに向き直った。
ほぼ、原作通りの流れ。