地霊殿の座敷わらし   作:らずべる

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時系列的には地霊殿の異変よりも前のお話です。


第五話 方向音痴と八咫烏

 

 

 地霊殿に来てから数日程経ち、私もここでの暮らしにだいぶ慣れてきました。

 相変わらず早朝に起き、こいし様も起きていたら朝食を作って、寝ていたり屋敷にいなかったりした場合は屋敷の掃除をしている霊や妖精を手伝います。

 私が主に手伝うのは玄関と食堂で、こいし様の部屋は居ないときに私が掃除をすることになっています。

 私としてはこいし様が出掛けるのがわかるなら追いかけたいのですが、やはり気がついたら既に居ないことが多いので、置いていかれることがほとんどですね。

 

 普段はこんな感じで掃除をしたり、食事を作ったりしているのですが、今日は休みをいただいたので地霊殿の中を探索しています。

 ここで働いているのにここの造りをほとんど理解していないというのは問題ですからね。

 

 しかし、私が普段使わない場所、というのは最早通りがかったこともないような場所でして、

 何が言いたいのかといいますと、私は今この広い屋敷の中で絶賛迷子中なのです。

 

 こうなってしまうことはまぁ、大体予測できてはいたのですが、地図でも貰ってから動けばよかったですね。

 今、後悔しても遅いのですが。

 

 

 ここら辺りは使用人の部屋でしょうか?色々と名前がかかれていますね。

 私はこいし様の従者ですので、部屋はこいし様の近くなのですが、他の妖精やペット達の部屋はここに纏められているようです。

 まぁ、燐さん曰く大体のペット達は、仕事をしてない時は自由気ままに暮らしているようなので部屋にいることは少ないらしいですけども。

 

 

 おや、廊下を曲がったところに誰かいますね、さとり様のペットの一人でしょうか?黒い翼をもっていますから、烏かなにかの妖怪ですかね。

 

「あのー……」

 

「うん?このこどこのこ?どうしたの?」

 

「この間、こいし様の従者に配属された(あずま)ゆりです」

 

「・・・・・・あぁ!新人さんね。私は霊烏路(れいうじ)(うつほ)。みんなお空って呼ぶよ」

 

 私が名乗ってから返答までにだいぶ考え込んでいましたね。

 (そら)と書いて(うつほ)さん……ですかね。お空と言っていましたし、そのようですね。

 

「それで、貴方こんなところでどうしたの?迷い込んで来ちゃった?」

 

「今日は休みなので地霊殿の中を探索していたところです。迷っていることに変わりはありませんが……」

 

 空さんは私に目線を合わせるようにしゃがみこんできました。

 小さな子供の様に扱われるのは些か不服ではありますが、まぁ仕方がありません。

 

「迷ったの?奇遇ね、私もよ。最近灼熱地獄跡で寝泊まりすることが多かったんだもの」

 

 数日空けると家で迷うというのはいかがなものかと思いますが、私も迷っているので人のことは言えませんね。

 

「それで〜、ゆりちゃんは何をしてたの?」

 

「私ですか?私はここに来たばかりなのでこの屋敷を探索していたところです」

 

「そっかー……探索かー……あ!そうだ。ちょっと私の部屋においでよ。ここの地図あげる!」

 

 そう言って空さんはずんずんと先に進んでいってしまいます。

 ……迷っているのではなかったのですか?

 まぁ、そんなことを気にしていてはいけないのでしょうが。

 

「ここだよ、私の部屋。どうぞどうぞ、中に入って。散らかってるけど」

 

 部屋のプレートにはしっかり彼女の名前が書かれていますし、迷わずにたどり着いたようですね。

 勧められたことですし、お邪魔させていただきましょうか。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 ……そこはなんというか、生活感のない部屋でした。確かに散らかってはいるのですが、物がほとんどなく、逆にこの量でなぜ散らかるのか不思議なぐらいです。

 恐らく、片付けようと思ったまま忘れているのでしょうが。

 ……せめて女の子なのですから下着くらいは片付けましょうよ。

 

「あったあった。はい、ここの地図」

 

 先程からごそごそと更に部屋を散らかしていた彼女が戻ってきました。

 

「ありがとう」

 

「んー、それにしてもそろそろ灼熱地獄跡に戻らないといけないんだけど……」

 

 成る程、仕事場に戻れなくて困っていたのですか。

 地図を開いて場所を確認してみますと、どうやら灼熱地獄跡はこの屋敷の地下全体に広がっているようです。

 出入口は中庭、でしょうか?

 

 おや?

 

「ねぇ、お空」

 

「なあに?」

 

「部屋の奥にある扉はどこに繋がっているの?」

 

 地図を見る限り、ここはどうやら中庭に面している部屋なようで、廊下とは反対側にある扉は中庭に繋がっているように見えるのですが……

 

「…………あ」

 

 扉から出てみると案の定中庭が広がっていて、その中央には地下に続く大きな穴が空いていました。

 

「この下が灼熱地獄跡?」

 

「そうだよ。私やお燐はここがまだ現役の地獄だった頃からここに住んでいたからね。廃れちゃったのは残念だけど今でもほぼ、向こうで暮らしているのよ」

 

 ここが放棄されて旧地獄になったのはかなり昔の話と聞きましたから、どこも全盛期の頃よりは廃れてしまっているのですね。

 彼女なりに思い入れの強い場所なのでしょう。

 

「さて、私はそろそろ仕事に戻るよ。だいぶ冷めてきちゃってるし、暖めなおさなきゃ。じゃあね」

 

「地図ありがとう、またね」

 

 別れを告げると、彼女は穴の底に降りていってしまいました。

 

 

 あぁ、聞いた話なのですがこの灼熱地獄跡の熱源は人間の死体なのだそうですね。

 私は人間の近くに住む妖怪ですから、少し考えてしまうこともあるのですが、無駄に殺してはいないそうなので安心しました。

 さて、地図もいただけたことですし、ここの探索を続けましょうか。

 

 

 もう迷わなければよいのですが……


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