地霊殿の座敷わらし   作:らずべる

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第三話 迷子の従者

 

 

 

 雪がしんしんと降り続ける地底の底で、私は一人、佇んでいました。

 

 つい先程まで隣にいたはずのこいし様は何処へ行ったのか、姿すら見えません。

 ここは妖怪だらけの地底ですから大声を上げて探すのは、よからぬ輩に絡まれる危険がありますからやめた方がよいですね。

 ……仕方ありません、きっとこいし様は私のことを見つければ近寄って来てくれると思いますし、少し街の中を歩き回ることにしましょうか。

 

 

――――――――――――――――

 

数十分前

 

「こいし様、お出掛けですか?」

 朝食の後、しばらく屋敷の中を探し回って、少し迷子になりかけた所でようやくこいし様と再会できた私は、こいし様の後を追って玄関の辺りまで来ていました。

 

「うん、ちょっと散歩してくる」

 

「私も付いて行ってよろしいでしょうか?」

 

「うん、いいよー?」

 

 了承も得られましたので、こいし様を追うようにして、私も外に出ます。

 地霊殿の外に出るのはここに来て以来初めてですね。

 上を見上げても遥か上に天井があるだけで、空は見えません。

 

「うん。今日はいい天気だね!」

 

 上を見上げる私と同じように上を見たこいし様が嬉しそうに言いました。

 空が無いのに天候などあるのでしょうか?

 そう思った私が聞くと、こいし様はさも当然といった風に

 

「地底にも天候はあるのよ。普段は霧で、よく雪が降る。こんな感じに晴れるのはあまりないね。

うん、視界がよく通る」

 

 と、少し大袈裟に辺りを見回します。

 成る程、ここは地上に比べて些か気温が低いと思ってはいたのですが、雪が降るのですね。

 私は寒がりですから、少し暖かい服装を用意した方がよいかもしれません。

 地霊殿の中は暖かいからいいのですけれども……

 おっと、気がついたらこいし様がもう遠くに。急いで追いかけましょう。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 旧都と呼ばれる地底の都にたどり着く頃には、いつの間にか天井の辺りに薄い雲が広がっていて、ちらほらと雪が降り出してきていました。

 こいし様は特に気にとめた様子もなく、少し肌寒くなってきた都を真っ直ぐ歩いていきます。

 道行く人々……いえ、妖怪達は私達に気がついていないようで、何事もなく、すれ違っていきます。

 

「こいし様、何処かに向かっているのですか?」

 

 適当にさまよっている、というよりはあまりにも真っ直ぐ歩き続けているので、少し気になって聞いてみました。

 

「ううん。ここら辺はあまり面白いものがないんだもの」

 

 ……予定はなかったようですね。

 さとり様から聞いたのですが、こいし様は心を閉ざしたさとり妖怪で、無意識に、その場のノリと勘だけで動いてるらしいという話は、正にその通りだったようです。

 

 いつの間にか、降る雪が強くなってきています。

 

 それにしても、「旧都」と呼ばれるだけあって、地底の都は少し古くなっていたり、所々に穴が空いていたりしていますが大分賑やかな所です。

 道ゆく妖怪達や幽霊……いえ、怨霊でしたか。彼らも心なしかこの世を満喫しているように見えます。

 いえ、ここは昔地獄であったと聞きますからあの世、なのでしょうか?

 

 おや、出店でしょうか。大通りの隅にむしろを敷いて、その上に商品らしき物を並べて呼び込みをしていますね。

 並んでいる物は地上では見たことがないものです。

 

「こいし様……あら?」

 

 商品らしき何かが一体何なのかを聞こうとして、隣にいるはずのこいし様に話しかけようとそちらを向くと、そこには既にこいし様の姿はありませんでした。

 きょろきょろと辺りを見渡しましてもどこにも見当たりません。

 

 どうやら、私がぼうっと真っ直ぐ歩いているうちに、こいし様は何処かで曲がってしまわれたようです。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 ……しばらく歩き続けているのですが未だにこいし様は見つかりません。

 こいし様は意識されていなければ記憶にも、印象にも残らない上に、私自身も地底に来たばかりの部外者のような者ですから、道ゆく妖怪達に聞く、ということすらできないのです。

 それに、私は旧都に来るのも初めてですし、この辺りまでもこいし様に付いてきただけですから、広場の場所も、地霊殿への帰り道もわかりません。

 こうやってふらふらと都を歩き回って、こいし様に見つけてもらうのを待つしかないようですね。

 

 

 またしばらく歩き続けていましたら、広場らしき所に出ました。

 広場からの分岐もいくつかあるので迷いそうですね。

 

 そういえば、私達座敷わらしという妖怪は、外の世界の一部で『子供の頃にだけ見える妖怪』などと言われている妖怪なのですが、それはしっかりとした事実でして、そこに座敷わらしがいる、と相手が認識していなければ、こいし様のように特に印象に残るようなこともなく動くことができます。

 人里にいた頃は紫様に偵察の仕事を頼まれていたので、わざわざ目に止まるように動くこともありましたがここは地底。そんな面倒なことをする必要はありませんね。

 変な輩に絡まれるのも厄介ですし。

 

 そんなことを考えながら歩いていたら、また広場に着いてしまいました。

 先程と角度は違いますが、見えているお店や建物が同じなので先程の広場なのでしょう。

 どうも私は方向音痴なようで、移動しなれていない場所を歩き回ると迷ってしまう癖があるのです。

 

 弱りましたね……


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