出会いと再会~天元の花と呪いからの帰還者/英雄の遺物~
ノスリの先導で通路を進む。ここまで来ると先ほどノスリの言っていた音が自分の耳にも聞こえてきていた。
「たぶん、数は一人。そろそろ戦闘は終わりそうか?」
「ああ、音の主以外から聞こえるものが少なくなって来ている」
早足で進みながらそうノスリと言葉を交わす。
「でも、こんな遺跡の中で何と戦ってるですか?」
「ふむ……そうだな、獣の類か」
「ですがそれにしては血臭がしません」
自分の後ろをついて来ながらそう話す三人を振り返り、自分は多分正解だろう答えを返す。
「多分、タタリだ」
「!!……根拠はあるのか?」
そう聞いてくるゼグニさんに自分は消去法だよと返す。血臭はしない――故に獣や野党ではない――、遺跡の中――奴らの好む暗闇の中だ――、故にタタリの可能性が一番高い。
「それは……ハク兄様、向かって大丈夫なのですか?」
「なんともいえんが……背後さえ取られなければ逃走は可能だと思う」
「幸いここまでは一本道でしたし、先ほどの扉のような物もないようでした。少なくとも背後を取られる心配は少ないかと思います」
「ここまで来たのだ。進むしかあるまい。それにこの先にいる者が迷い込んだだけというのも否定できん。それを見捨てるなど私の正義が廃る」
ネコネが心配そうにそういうが、実際クオンから閃光弾も預かってきているし、逃走だけなら何とかなるだろう。それにここで引くといってもやる気になっているノスリが大人しく了承するとも思えんしな。
「まぁ、これだけ大きな遺跡だ。他に未発見の入口があっても驚くことじゃない」
そう、話をしながら先へと進む。そして何者かの気配を――これは二人か?――捉えた。
「……たぶんこの先だ」
「よし、ゆっくりと進むぞ。先頭は自分、続いてエントゥア、その後ろにネコネ、ノスリ、殿にゼグニさんの順で着いて来てくれ」
皆は自分の言葉に頷きを返してくるのを確認し先へと進む。
そこから少しだけ歩くと、視線の先に開いたままになった扉が見えてくる。その扉を潜ると女性らしきシルエットが見えて来た。
「で、私の後ろから近づいてきているのは、さっきの奴らのお仲間――って感じじゃないか」
扉をくぐった瞬間、その人物からそんな言葉が放たれ自分たちは足を止める。同じタイミングで女性が振り返った瞬間に自分の中で衝撃が走る。蒼のなかに赤の映える着物を身につけ、腰には4本、大小の太刀。色素の薄い髪をひとつに纏めた美人さんってのは驚いたが、自分が驚いたのはそこではない。獣人とは違う、そう自分と同じような丸い耳、しっぽらしきものもない。そう彼女は―――自分がこの時代で見た二人目の
それに驚いたのはそこだけではない。彼女の少し奥に見える布をかけられた人影、その顔に見覚えがありすぎるのだ。最近よく振り回された少女によく似た――しかし自分が知るそれより少し年を重ねているようにみえるが。
「む?――あ、もしかして此処って立ち入り禁止の場所だったり?いや私は怪しいものじゃなくて、気がついたらここに居たっていうか――」
黙り込んだままの自分を不思議に思ったのか女性がそんな風に話しかけてくる。背後の皆も自分を訝しげに見ているのもなんとなくわかる。しかし自分は衝撃から立ち直れずにいた。女性の後ろに見える姿、それはまぎれもなく――
「――ちぃちゃん……」
――自分を"おじちゃん"と言って慕ってくれた姪っ子の姿だったのだから。
Interlide 新免武蔵守藤原玄信
斬っても活動を休止するだけで死なない。しかも他の敵の相手をしているうちに復活してくる。
埒が明かないそう思いつつも
いったいどれだけ斬り捨てただろうか……。
武蔵はそう思いながら、数が減り残り一体になったその粘性の生き物を凝視する。
「見えた――!」
武蔵の眼は――極まったその天眼は宿業すらをも
――斬――
何かを斬り捨てた感覚が武蔵の手に残る。そして赤い粘性の何かはその形を崩し……何者かにその形を収束させていく。
―――それは一人の少女だった。いや正確には少女と女の挟間、年の頃は15才くらいか?少女は一糸纏わぬ姿のまま目を開く。焦点のまだ合わない瞳で武蔵を見たかと思うと何かを呟いた。
「――おじちゃん」
そして意識を失い崩れ落ちたところを武蔵は受け止める。
「おじちゃん?いやいやこんな美女に――まぁ、多分私のことじゃないんだろうけど……」
武蔵はそう言って少女をその場に横たえると、都合よく近くに落ちていた布を体に巻きつけてやる。粗末なものだが何もないよりましだろう。そうして少女を介抱しているとその手の甲に何かが見えた。
「――これは、令呪?」
武蔵はそれを見て、聖杯戦争に呼び出されたか?とも思ったが違うように感じた。なんかこう、そういうバックアップ的な物を感じないからだ。だがこれも何かの運命なのだろうと思い、この少女をこの世界でのマスターと定めることにする。何より武蔵は不安定な存在だ。何らかアンカーの役割を果たす者がいなければ長くこの世界に留まることすらままならない。
「ま、なるようになるでしょ」
そう言って立ち上がると、背後から何者かが近付いてくる気配がしたので問いかけることにする。
「で、私の後ろから近づいてきているのは、さっきの奴らのお仲間――って感じじゃないか」
そして武蔵が振り返ると、5人連れの男女の一団の姿が見えた。その中の二人――特に先頭にいた男性に並々ならぬ武の気配を感じ、つい鯉口を切って挑発しそうになるがそこはぐっと我慢する。背後には自分のマスター(候補)がいるこの場面で死闘を演じるべきではない。武蔵は珍しくそう判断する。まぁ、相手がいきなり襲いかかって来るようならそれはそれなのだが。
だがどうやら襲いかかってくる様子はないらしい……武蔵はそれを少しだけ
「む?――あ、もしかして此処って立ち入り禁止の場所だったり?いや私は怪しいものじゃなくて、気がついたらここに居たっていうか――」
――返ってきたのは武蔵の言葉への返答ではなく――
「――ちぃちゃん……」
――そんな小さい呟きだった。
天元の花は少女とかつて神だった男に出会い、かつて神だった男は天元の花に出会い、大切な者との再会を果たした。
Interlude out
「ん?あなたこの子の知り合い」
「あ、ああ、自分の――姪っ子だ」
自分の思わずもれた呟きに女性がそう問いかけてくるのにそう返す。
「そっか――何があったのかは知らないけれどそれなら任せるわ」
そういうと、女性はちぃちゃんを抱えあげて近寄ってくると自分に託すように渡してくる。皆は成り行きを見守ってくれている。ちぃちゃんは巻きつけられた布がフードのようになっており皆から顔は見えていないようだ。自分にちぃちゃんを手渡した後、恥ずかしそうに頭に手をやるとさらに声をかけてきた。
「で、ものは相談なんだけど。出口まで案内してくれないかしら?」
「……そういえば、気がついたらここにいたとか言っていたか?」
「うんうん、そうなのです。あと一文なしだしご飯とか食べさせてくれないかな~と」
内容は割と常識的なものだったので、自分は頷くと後ろの4人にを振り返り確認を取るように見渡した。皆は頷いてくれるがいまの状況が把握できないようだから、後で説明しなければならないだろう。
それにこの女性にも聞きたいことがたくさんある。
だが気がついたらここにいた……か。ワープ装置が生きていて誤作動でも起こしたのだろうか?
「わかった。ちぃちゃんも世話になったようだしそれくらいならお安い御用だ。自分はハクだ、よろしく頼む」
「ありがとハクさん。私は
女性――武蔵はそう自己紹介するとにかっと笑う。
「わたしはネコネなのです。よろしくお願いするのですよ武蔵さん」
「私はエントゥア、よろしくお願いします」
「私はノスリだ」
「……ゼグニだ」
皆が武蔵に自己紹介をする中、この数分の間に何度目か分らない驚きを感じていた。新免武蔵守藤原玄信――それは大いなる父達の歴史の中において、ある国で最強をうたわれた剣士の名だ。まぁ史実だと男性なのだが。
だが自分が驚いたのはそこではない。
あれは――そう、西暦2015年から数年間の事を書いたある手記の中だ。著者の名前は藤丸立香/藤丸・K・マシュの連名。彼らは表舞台に出てくることはなかったが何度も世界を救った英雄だ。凡人でありながら最後まで戦い抜いた青年と彼を最後まで支え、寄り添い、そして守り抜いた盾の乙女。
その手記の中に出てきた武蔵は気負う事のない自然体な、よく笑い、よく食べる快活な女性で、勝利にも名誉にもさして興味はなく、酒にだらしなく、金に目がなく、タダ酒に弱いかったらしい。……なんかシンパシーを感じるがそれはさておきだ。
武蔵は藤丸立香とも何度も共闘したことのある間柄のようだった。少なくとも藤丸立香の中では大切な仲間で恩人で友人といったところだろうか。
あと、武蔵に関する事で特に目を引く記述があった。"帰るべき世界と時代はなく、時空間をただ誘われるままに流転し続ける次元の
この他に特筆するものと言えば彼女の"眼"だろうか。彼女は実質的な不死の者と対峙し、その能力の根幹を"
で、ここまでの情報と、先ほど武蔵の言った"気がついたらここに居たっていうか――"という言葉を元に推測を立てると、この人はその手記に記述のある人物ではないかという疑惑が出てくる。
そしてちぃちゃんの事。彼女は兄貴の目の前でタタリに変貌したと聞いている。故にこの場に
そこまで考えると、ふと袖を引かれる。
「ハク兄様、どうかしたですか?」
ネコネに声をかけられ皆が訝しげに自分を見ていることに気が付く。少し物思いに耽りすぎたか。今はここから出るのが――
「いや、なんでもない。少しここを探索していくが構わないか?」
――そう思っていたのだが、自分のいる部屋の様子にそんな言葉が口から出た。
「わたしとしては嬉しいですが、いいのですか?」
「ああ、ちょっと気になることがあってな」
そう言い、自分はゼグニさんに目を向ける。このヒトが一番反対しそうだからな。
「……賛成しかねるが、短時間なら問題なかろう。手短にな」
「わかってる。エントゥア、ネコネについてもらっていいか?短時間だし問題はないとは思うが念のためにな」
「分りました。ハクはどうするのですか?」
ゼグニさんの了承にほっと胸をなでおろすと、自分はエントゥアにネコネの護衛をお願いする。先ほどまで戦闘が――おそらくタタリ――行われていたであろう場所で術師である彼女を一人にすることはできないからな。アトゥイやヤクトワルト程の戦闘能力はなくともエントゥアの腕は高い。不意を打たれなければタタリ相手でも不覚を取ることはないだろう。
「自分は――武蔵、ちぃちゃんを預かっててもらってもいいか?」
「え?私?」
武蔵は戸惑った風にそういうが、自分が真剣な眼をしていることに気がついたのか何も言わずにちぃちゃんを受け取ってくれる。正直ありがたい。ちぃちゃんの顔を皆に見られるとしてもここを出てからのほうが都合がいい。アンジュと同じ顔の人物なんて騒動の種にしかならんからな。
「ということで自分はひとりで探索する。ゼグニさんとノスリは見張りを頼む」
「うむ、任された」
「ああ」
そう言い残し、自分は一直線に部屋のある一点に向かう。瓦礫に隠れるようにして壊れた扉がそこにはあった。入る分には問題なかった為、そこから入り、暗闇に目が慣れるのをまつ。
「……ああ、懐かしい」
荒れ果ててはいるが記憶に残るものと同じ部屋の様子に思わず笑みがこぼれる。使いやすそうなキッチンの備え付けられたLDKだ。やはり、先ほどから見覚えがあると思っていたが、ここは――自分もよく出入りしていた兄貴たちの居住区画だ。
そして自分の目的の物、それは壁に立てかけられるようにして朽ちることなく存在した。
「……いつ見てもきれいだよな」
それは黒を基調とし、十字架のような形状をした大丸盾だった。いくつもついた傷が勲章のようにその存在を主張している。そしてその隣にはあの制服。その下には傷だらけだが原型を留めていて使用は可能だろうトランク。
「全部きれいに残ってるとはな……。ま、いいか。んじゃ、運びだしますかね」
自分がある英雄の子孫だと証明する――一族で大事に受け継がれてきたそれを服は畳み、トランクは片手に持ち、盾は担いで運び出す。兄貴は重要視していなかったが寝物語に聞かされてきた"自分"には、一種の憧れのようなものがそれにはある。
その後、すぐに部屋を出た。広い部屋の探索だったがネコネが見ていないところは自分のところだけだったようで、自分に近づいてくる。
「ハク兄様!なにを見つけたのですか?」
「ああ、ちょっとな」
ネコネに見えるように担いだ盾を下ろすと、ネコネはそれを不思議そうに見てくる。何かカラクリでも担いで来ているとでも思ったのだろう。少しだけ微妙そうな顔になる。
「ハ、ハク兄様。これは……」
「……無銘の英雄と盾の乙女の遺物ってところだ」
「……無銘の英雄?盾の乙女?聞いたことがないのです」
ま、そうだろう。大いなる父の間でも一部のものしか知らなかった類のものだ。それが今のヒトに伝わっているわけもない。
「ネコネ、ハク、その話は後にして今はここを出ましょう。クオンも待っているでしょうし、もしかしたら小さい頃みたいにお漏らししているかもしれませんから」
自分とネコネの会話にエントゥアがそう言って入ってくる。
「いい加減そのネタでからかうのはやめてやってくれ。毎回そのあとは荒れるんだから」
「じゃれあいみたいなものですから。それにクオンもお父様から聞き出して私の小さい頃の事をからかってきているのでお相子です」
「わかった。それについてはもう何も言わん。ネコネさっきの話はここを出てからな」
「む~、わかったのです。後で絶対に聞かせるですよ」
二人とそんなことを話しながら待っている三人(+ちぃちゃん)の元へと戻る。しかし自身の恥ずかしい過去でからかいあうとかノーガードで殴り合いのようなじゃれ合いは自分ならごめんだ。
三人は自分たちが近付いてくるのに気がついてこちらに顔を向けて来ていたが、その中の一人――武蔵の表情が自分の持つものを見たときにどこか真剣なものへと変わるのが見て取れた。
「戻ったか。さて、長居は無用だ」
「うむ、ゼグニ殿の言うとおりだな。早く出よう」
「ああ、わかってる」
そう言葉を交わし自分が殿で部屋をでる。さっきのネコネとエントゥアとの会話が聞こえていたのか自分がなにか見つけてきていることへの言及は
「ねぇ、ハクさん。あなたが持っているそれって……」
部屋を出て通路を進みながらちぃちゃんを運んでくれている武蔵が小声でそう聞いてくる。武蔵が自分が思っている通りの人物ならこの三つに反応するのは当然だろう。……しかし、これでほぼ確定か?
「ハクでいい。そうだな……藤丸立香とマシュ・キリエライトの遺物と言えば通じるか?」
「え……?」
自分がそう言うと、武蔵からは驚いたような反応が返ってくる。それは信じられないものを見たような、聞きたくないような事を聞いたようなそんな反応だった。
「言っとくが、二人とも100才近くまで生きて、子供たちや孫に囲まれての大往生だったらしいぞ。そもそも数百年も前の人物だ」
「そっか……ちゃんと生き延びたのね。って、え、ちょっと待って!?数百年前って言った!?」
武蔵は自分の言葉に安心したように言葉をこぼした後びっくりしたようにそう言ってくる。他の四人が何事かとこちらを振り返ってくるのでなんでもないと返し、もう一度武蔵の方を向く。
「それも含めて後で話す。とりあえず今はここを出よう」
「……わかりました。そういうことなら指示に従います。でもしっかりと説明してよね?なんか私の事も知っているみたいだし」
「ああ、わかっている」
武蔵がとりあえず納得してくれたのを確認し、帰路を急ぐ。
しばらく歩くと通路の出口が見えてくる。
「武蔵、この先で仲間が待ってるからそっちに合流する」
「ええ、わかったわ」
武蔵にそう声をかけ、通路をくぐり皆が待っているであろう部屋へと入った。
通路の先、皆の和気藹々としている姿を想像していたのだが、どうにも雰囲気が張り詰めている。そしてマロンさんとロロ、シノノン、オウギの姿が見えない。まぁ三人をオウギに護衛させる形で先に戻したのかもしれないがそれにしたってこの雰囲気はなんだ……?
「あ、ハク!」
「クオン何かあったのか?」
自分たちの姿を見つけたクオンが近づいて声をかけ、駆け寄ってくる。
「って君は!」
「フォウ!」
クオンの肩にいたフォウが自分の――ではなく武蔵の肩に飛び乗るのを横目に見て驚きつつ自分はクオンに向き直る。
武蔵が何か驚いているようだったが、今はそれどころではなさそうだしな。
「ハク、急いでここを出るかな!」
「待て、何かやばい事があったのは理解できるが少しは説明しろ」
「っ!そうだね。えっと、ハク達が奥に向かったあと、別の扉を見つけて中に入ったんだけど―――」
クオンが手短に説明した内容を要約するとこうだった。
・扉を発見して中に入ったら冷凍睡眠装置を発見。
・もし作動して人がタタリに変貌する可能性を考えてやばいと判断し皆に早く出るように言った。
・原因は分からないが装置が作動。
・急いで部屋から出る。
・扉を塞いでいる最中に装置から出てきた人がタタリに変貌。
・タタリに気が付かれないように扉を塞ぐことに成功。
・人がタタリに変貌したのを見たことでこの雰囲気
とのことらしい。
「……そうか。急いでここを出よう」
「うん。皆はいつでも動けるようにしてるから今すぐにでも――」
「――姉御!やばい扉が破られる!」
クオンの話を聞いてすぐに出るべきだと話していた矢先、ヤクトワルトの緊迫した声が響き渡る。
そして―――
『―――――――――――』
扉が爆発するように破られると、それは現れた。
扉を拡張するように押し広げながら出てくる、ゲル状の体。
見た目だけならばタタリ――人類が変貌したそれそのものだったがある一点のみ異常だった。
それはあまりにも巨大だった。みしみし音を立てながら扉から出てきているが、まだ全体が見えないというのにヒト五人くらいなら楽に取り込めそうな大きさだ。
幸い皆はヤクトワルトの声で扉から離れたので無事だったが、あまりの光景に動きを止めてしまっている。
「皆!急いで出口へ!」
皆は自分のその声に我に返ると急いで扉へと向かう。しかし―――
「あ、ち、力が―――」
あまりの衝撃に腰が抜けたのかルルティエが反応できていなかった。ココポが服を加えて動かそうとしているがそれも間に合いそうにない。なぜなら―――タタリが目前まで迫ってきている。
自分が持っていた盾、制服、トランクケースを投げ捨てて助けに入ろうとしたその瞬間、自分の横を何者かが神速の勢いで飛び出ていった。
「―――はい。君は下がってて。ご主人さまをちゃんと護りなさい」
そして次の瞬間には――先ほどまでそばにいると思っていた、武蔵の姿が自分の目線の先にあった。腕の中にいたはずのちいちゃんはいつの間にかエントゥアの腕の中に移動している。
「ホロロロッ!」
「あ、あなたは……」
「とりあえず今は下がって。大丈夫、こいつと同じ奴ならさっき何回も
武蔵はそう言ってルルティエをココポの上に乗せると見知らぬヒトに助け出された事に驚いた様子のルルティエに下がるように促し自分は一歩前に出る。そして―――
「おい!武蔵お前も下がって――」
「ふっ―――!」
―――――斬―――――
―――ほとんどの者が眼で追えないであろう速さで神速の一閃を繰り出した。
「じゃあ、ここから出ましょうか」
そしてそう言って、タタリに背を向けると散歩に行くような気軽さでルルティエに話しかける。
「あ、そうです!急がないと」
「大丈夫。―――もう殺してる」
ルルティエが焦るようにそう言うと、武蔵はあっけらかんとそう返す。そしてそれを証明するように―――
『――――――――!』
――――タタリが膨張するように脈打ち、そして―――一切の活動を停止した。
タタリが停止した後、自分たちはその場を後にした。
遺跡を出るとクオンの指示を受けたマロンさんから指示を受けて遺跡の封鎖の準備を行っていた一団が居たため、後を任せて遺跡を封鎖してもらった。そして自分たちの野営地に戻ったのだった。
お読みくださりありがとうございました。