うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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なんとか、がんばりました……短いですが、導入になりますのでご容赦を。


偽りの仮面 隠密衆編~新たなる出会いと騒乱の巻~
そして刻は動き出す~彼方からの来訪者/兄との語らい~


そして刻は動き出す~彼方からの来訪者/兄との語らい~

 

 

 

――???――

 

Interlude side???

 

 

 古ぼけた薄暗い建造物の中、それは現れた。

 

 青い扉のようなものがその部屋の中に突然現れ不安定に点滅する。

 一際光が強まったあと、それがあった場所には一人の人影。蒼のなかに赤の映える着物を身につけ、腰には4本の太刀。色素の薄い髪をひとつに纏めた一人の女性の姿があった。

 

「っと、本当にいつも突然なんだから……。立香君は――私が心配するまでもないか」

 

 あの娘がついてるんだから……女性はそうつぶやくと、一度頭を振って状況を把握しようと周りを見渡す。

 

「ここは……うん、建物の中だってのは判る。かなり廃れてるし、遺跡ってところか……う~ん、最近はこんな感じのところに縁があるというかなんというか」

 

 女性はそう言い、困ったように笑うと一度伸びをして――

 

「――さて、何奴か?」

 

――周りに集まってきている気配に気がつき、表情を引き締めて腰の太刀に手をやった。

 

――ズチャリ――ズチャリ――

 

 辺りにはなにか粘性のものが這い回るような音が響く。

 

――そしてそれは女性の前に姿を現した。

 

「――なに、こいつ?」

 

『――――――――――』

 

 まるでスライムのような粘性の体を引きずり、赤い体をしたそれを見て女性は違和感を感じるように目を細める。

 

「……化生の類か?いや、それにしてはこの気配――」

 

 そんなことをつぶやいている間にも女性の周りにそれは集まってくる。しかしそれが女性の感じていた違和感に確信を与えていた。なぜならその気配は女性が過去に斬ってきた者(・・・・・・)と同じ物だったのだから。

 

「――なんで、そんなことになってるのかは知らない。だけど――襲ってくるというならば容赦はしない」

 

 その女性の声に反応するかのように周りに集まっていた粘性の生き物――タタリ――の表面が膨張し攻勢の体制をとる。それに女性は腰に挿していた太刀を2本引き抜き構えた。

 

「―――二天一流、新免武蔵守藤原玄信(しんめんむさしのかみふじわらのはるのぶ)。推して参る―――!!」

 

 銀閃が閃き、日の差し込まぬ場所で天元の花が舞った。

 

Interlude out  

 

 

 

「遺跡の調査?」

 

「うむ、頼まれてくれぬか」

 

 トゥスクル一行が國に帰ってから数日、自分は兄貴に呼び出され例の場所――帝都の地下にあるらしい空間――でそんな依頼をされていた。

 数日前にウルゥルとサラァナが呼び出されていたのは、この件を話したかった兄貴が双子を呼び出していたらしいな。

 

「それは構わないが……何故自分に?そういうのなら専門家が当たったほうが効率が良さそうなもんだが」

 

「うむ、その疑問はもっともか。遺跡には人に反応するものがあってな。今回の遺跡はその可能性が否定できん」

 

「それで自分にか……」

 

 兄貴の説明に得心すると自分は今後のスケジュールを思い浮かべる。少なくとも差し迫って自分たちが居ないと回らない依頼はなかった筈だ。

 

「ハクさま、どうかお願いできないでしょうか」

 

「ああ、自分の予定を思い出していただけです。特に切羽詰った物もないし受けるよ兄貴、ホノカさん」

 

 自分が黙っているのを見て断ろうとしていると思ったのだろう。ホノカさんがそう言ってきたが、自分としては受けるつもりだったので、兄貴とホノカさんにそう返した。

 

「……そうか、受けてくれるか」

 

「ありがとうございます。ハクさま」

 

「おう。で、場所は?」

 

「ふむ、あれをこちらに」

 

「「承知しました」」

 

 兄貴がそういうと自分の後ろに控えていた双子が答え机の上に地図を広げた。

 かなり精巧な地図だな。少なくともこの國の技術力では再現は限りなく無理に近い。ってことは兄貴が作成したものなんだろうな。というか机の端でフォウがまんまるになってるが……毎回のことなので気にしても無駄か。

 

「ここじゃ」

 

「ここは――元ウズールッシャ領か」

 

「うむ。かの地を平定した後見つかった遺跡でな。儂の方で調査を進めておったが、それらしい痕跡を見つけた」

 

 兄貴が指し示したのはかの戦争の際にヤマトの直轄領として平定された地だった。その付近には軍も逗留しているらしく、ウズールッシャの残党の心配はほぼ無いとのことだ。

 

「そうか、なら明日にでも出ることにするよ」

 

「うむ、頼む」

 

 自分がそう言うと兄貴は頷き、とりあえず話は終わりだとばかりに酒を進めてくる。

 思わずホノカさんから酌を受けようとしたのだが――

 

「ハク、お話は終わった?」

 

「っと、すまん」

 

 ――後ろから聞こえてくるクオンの声に振り返る。

 

「其方は……」

 

「初めまして、御義兄さま。私はクオン」

 

 クオンはそう言うと自分の隣まで歩いてきて横に立つ。今回、ここに向かうにあたりクオンにも来てもらっていた。いい加減、兄貴にちゃんと紹介したかったからだ。

 

「そうか……其方がハクの」

 

「ああ、自分の大切なヒトだよ。兄貴」

 

 兄貴はそう声を上げると感慨深げに目を細める。その眼差しは優しく、つい気恥ずかしくなって兄貴から目をそらす。

 

「こんな日が……あの恋愛には興味もないと言いたげだった弟の――恋人を紹介される日が来ようとは、夢にも思わんかったわ。――ああ、よきかなよきかな。ホノカ、今宵は宴じゃ!」

 

「はい、主様」

 

 兄貴は嬉しげに笑みを浮かべてそう言うとホノカさんにそう指示を出す。それからすぐに料理が運び込まれ、あっという間に宴の準備が整う。

 

「あらあら、あなた達も負けていられませんね」

 

「「はい……お母様」」

 

 途中、ホノカさんが自分とクオンを見ながらそう言ってウルゥルとサラァナを焚きつけていたが自分は聞こえなかったことにする。

 

「クオンさんも座りなさい。今宵はよき日じゃ。ほれ、弟の話を聞かせてはくれんかの」

 

「……じゃあお言葉に甘えまして。えっと、ハクと会ったのは――」

 

 クオンも兄貴に進められ席に着きそう言って話し出す。とりあえず今日判ったのは自分以外から自分の話を聞くのは――嫌ではないが存外に気恥ずかしいということだった。

 

 

 

 それからしばらく、料理も粗方食べつくし、酒もたらふく飲んだ。さすがにそろそろお暇しようと兄貴に声を掛けたのだが、兄貴が少し待っているようにいうと双子が何かの包みを二つ持って近づいてくる。

 

「これを持って行くが良い」

 

 双子から受け取った包みを開ける。そこには豪奢な造りで紐のついた印籠と、9通の文、それと豪奢な感じの封筒に包まれたまた別の文らしきものがあった。

 

「これは……」

 

「此度の支度金と、前に言っておった、儂が全権を渡した者に授けるものじゃ。アンジュ、そして八柱将に宛てた文、そしてお主が儂の弟であることを証明する事を記したものじゃ」

 

 確かに約束していたものだが、今この場で渡すことに自分は少し嫌な感じを覚えて兄貴を見る。兄貴は穏やかな顔で自分を見つめ返し、ひとつ頷くと口を開いた。

 

「そう勘ぐるでない。ただ用意ができておったから早めに渡したまでよ。それに今度あったときに渡すと言ってあったじゃろう?」

 

「いや、そうなんだが……自分が帝都を離れる時に渡すから、何かあるのかと勘ぐっちまったんだよ」

 

 確かに前あったときに約束していたものだが、ありていに言うと今生の別れの前に自分にすべてを託すような、そんな感じを受けたのだ。……まぁ、兄貴の様子からするにそれは杞憂か。

 

「うむ、納得したのなら収めておけ、印籠(それ)をだせば今回依頼した遺跡にも入れてくれるように許可を出しておく」

 

「おう」

 

 自分がそう言って包みを懐に入れたのを確認すると、兄貴は静かに今のやり取りを見守っていたクオンに目を向ける。

 

「クオンさんや、弟の事を頼む。少々抜けたところがあるが優しい――儂にとっては唯一無二の弟じゃ。しっかりと尻にしいてやってくれ」

 

「はい、しっかりと支えるから安心してほしいかな、御義兄さま」

 

 クオンにそういう兄貴に一部(尻にしいての部分)突っ込みたいところはあったが空気を読んで黙る。尻に敷かれてるのは事実だから否定はできんしな。

 

「ウルゥル、サラァナも頼んだぞ」

 

「しっかりとお二人に御使えするのですよ」

 

「「……この命に代えてましても」」

 

「フォウ!」

 

「うむ、お主もよろしく頼むぞ。フォウよ」

 

 兄貴はそう言うと自分に再度視線を向けてくる。それに自分は頷きを返した。

 

「では、ハクよ。良い報告を待っておる」

 

「また、いらして下さい。待っておりますので」

 

「ああ、またな、兄貴、ホノカさん」

 

「今日はありがとうございました」

 

「主様、奥様」

 

「回廊を繋ぎます」

 

 そう言って自分たちは回廊に入りその場を後にした。

 しかし、大層なもんを持たされたなこれを使う機会が来ないことを祈ろう。ま、印籠については今回の依頼に必要だからすぐに使うことになるんだろうがな。

 

 

 

Interlude Side:帝

 

 

「ふぅ、これで一つ肩の荷が下りた」

 

「ええ、ですがまだまだ主様もご壮健にあらせられます」

 

「わかっておるよ。気分的な問題じゃ」

 

 帝とホノカはそう言いいながら柔らかに言葉を交わす。しかし次の瞬間には帝の顔は厳しく引き締められていた。

 

「トゥスクルの御仁達は思いのほか頑固じゃったのう」

 

「ええ、あちらにとっても聖地に当たる場所です。簡単に事が進むとは思っておりませんでしたが……」

 

 そして二人が話すのは先日ヤマトに訪れていたトゥスクルの大使達のことだ。帝の要請としてかの國の遺跡の調査を行う許可を願い出ていたのだが断られていた。

 ハクへと必要なものは渡し終えた。しかしトゥスクルの遺跡調査、これは自分が行わなければならない最後の大仕事として帝は認識していた。

 

「ホノカよ」

 

「はい」

 

「ハク達が出立した後、八柱将を集めよ」

 

「御意」

 

 それ故に帝はそう決断を下す。帝がハクの恋人であるクオンのことを調べてさえいれば行わなかったであろう決断であったが、それも仕方の無いことだろう。誰が自分の弟の恋人が―――かの國の皇位継承権一位にあたる女性だと思うだろうか。もちろんホノカやウルゥル、サラァナの双子からクオンがウィツアルネミテアと関係があることは聞いていた。ただそれ以上のことは双子の報告を信用し――クオンはハクとこのヤマトに仇なすものではないという報告だ――詳しくは調べていなかったのだ。

 

 故に必然として、ここに戦火があがろうとしていた。

 

「かの國――――トゥスクルに進軍する」

 

 こうして世界は大きく動き出す。

 

 

Interlude out




お読みいただきありがとうございました。

FGO組二人(?)目が登場。
武蔵ちゃんかわいいですよね。

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