うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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よろしくお願いします。


始まりの村~君がいるから~

始まりの村~君がいるから~

 

 

「はぁ、ボロギギリに襲われるなんて全く運がない。まぁ、なんとか倒せたが、特別労働手当を請求したいな」

 

「まぁそう言わないでハク。あとで私が労ってあげるかな」

 

「ま、期待して待ってるさ。けど、こいつら基本的には繁殖期に現れる突然変異種だったよな?ということは番でもおかしくはないか。前も番だったし経緯は覚えていないが残った一匹に襲われた覚えがあるんだよなぁ。一応村に着いたら知らせておこう」

 

「うん、私も詳しくは覚えてないけれどハクの策でタタリにボロギギリを襲わせたのは覚えてるかな。私が宿をとってた女将さんは村長とも伝手があったはずだし、村の人には一応知らせておいたほうがいいかも。あと半刻程で村のはずだから、ハクももうちょっと頑張ってね」

 

 村への移動途中にボロギギリに襲われたがなんとか倒すことができた。まぁ、依り代ではなくなったがクオン―ウィツァルネミテアの天子―ぐらいの力は扱えるのだ。昔に比べ身体能力も上がっているし、特に何も隠す必要の無いクオンとならば倒せなくはない相手だったからな。一応、死骸を処理し倒した証明になるように大きなはさみ部分を持って移動を再開した。

 ちなみに鉄扇は出発前にクオンから借り受けて自分の腰へと下がっている。クオンが言った“やっぱりハクにはこれかな”という言葉がやけに印象的だった。

 

 クオンの言った通り半刻程で村には着いた。

 もう日も傾いてきていたため、まずはクオンが前にも宿をとっていた旅籠で手続きを済ませことにする。旅籠の中に入り声をかけると初対面のはずだがどこか見覚えのある女性が出てきた。多分女将さんだろう。自分はこの旅籠に泊まった事があるはずだから会った事はあるのだろう。懐かし感じがするのはそのせいだと思う。

 

「あらあら、クオンさん、おかえりなさい。予定より時間が掛っているみたいだから心配してたんだよ。あら、そちらの方は?」

 

「心配おかけしました。ちょっと予定外の事が起きちゃって。こっちはハクって言います。もともとこの村で合流する予定だったんですけど、遺跡で合流できたので一緒に。あ、宿泊って大丈夫ですか?」

 

 クオンが女将さんに宿泊の予約をする傍ら、自分も“ハクです”と言って挨拶をする。 

 

「へぇークオンさんの良い人かい?部屋はクオンさんが前使っていた部屋をそのまま取ってあるよ。彼とは部屋は一緒で良いんだよね?」

 

「ありがとうございます、それで問題ないかな。そうですねハクは私の…とっても大切なヒトかな」

 

 クオンから大切な人ですと言われ頬が緩む。女将さんにお熱いねぇと揶揄されクオンが真っ赤になっていたが、女将に数日分の宿泊代金を渡し、部屋に荷物を置いた後で少し話があると言い残して部屋へと向かった。

 

 

 

「さて、何か話があるって事だったけどなんだい?」

 

 荷物を置いた後、女将さんのもとに着くとそう言ってきたため、クオンに目配せして話すように促した。もちろん自分の手元にはボロギギリの鋏を入れた荷物も持っている。

 

「女将さんはこの村長とも親しくしているって言ってましたよね?」

 

「ええ、そうだけど何かあったのかい?」

 

「ならよかったかな。実はここに戻ってくる途中でボロギギリに襲われて倒したんですけど」

 

「は?襲われたってそれは災難だけど。た、倒した!?あのでかいギギリをかい?」

 

 驚く女将を見ながら、まぁそういう反応になるよなぁ、と心の中で思う。だが事実なのだし証拠もある。女将さんを納得させるためにボロギギリの鋏を取り出して話を続けることにする。

 

「一応、これを。証明になるかはわかりませんが奴の鋏の部分です。基本的に奴はギギリの繁殖期に現れる突然変異種だったはずですし、番の可能性もあるので村長にも話を持っていっておいてほしいんですよ」

 

「確かにギギリを見る機会が最近増えてるってのは聞くね…わかったよ。任せておきな。これは村長に見せるために借りてもいいかい?」

 

「うん、多分それが無いと疑われちゃうかも知れないし持って行って欲しいかな。もし、討伐ってことになったら手を貸せると思うから、その時は遠慮なく言ってくれていいですから」

 

「助かるよ。それじゃあ、あたしは村長のところにいってくるから、二人はゆっくりしておいておくれ。それと宿泊費はしばらく無料で良いよ。これの情報料ってことでね」

 

 そう言って先ほど渡した宿代を返してくる女将にさすがに悪いとクオンが固辞するが押し切られて返されてしまう。ありがたく受け取っておこうとクオンに声をかけ二人で部屋へと戻った。

 

 

 

「う~ん、おいしいかな~。ほらハクもどんどん食べてね」

 

 夕食の時間、自分の前には山盛りになったアマムニィが置かれ、クオンが幸せそうな表情でそれを食べる。

 こいつ結構な大食い(自分からみると)だったなと思いつつ、自分もアマムニィを頬張る。少し物足りなく感じる味付けに、自分はこの数日でクオンに完全に胃袋を掴まれてしまったかと心の中で苦笑をこぼした。

 

「で、これからどうしようか。クオンはなんかあてがあるのか?」

 

「うん、とりあえずボロギギリの件が解決するまではここにいようと思ってる。その後は都に行ってみたいかな。前に行ったみたいだから断片的には覚えてるけどそれだけだし」

 

「そうか。自分はクオンに付き合うさ。なんたって一生傍にいるって決めてるからな」

 

 自分はそういうと照れ隠しにアマムニィを頬張る。嬉しそうな声でクオンの“ありがとう”という声が届いたのでそちらを見ると真っ赤な顔をしていた。自分の彼女は世界一かわいいと思う。

 

 食事を取り終えると、その後は一度部屋に戻って準備をしてから風呂に入り、部屋へと戻ったのだった。

 

 

 

 部屋に戻ると、クオンも風呂から戻ってきていた。クオンは浴衣のようなものを着ていて妙に色っぽくてどぎまぎする。

 

「あ、ハク。戻ってきたんだ」

 

「ああ、いや蒸し風呂もいいもんだな。湯船に湯を張る方が好みではあるが、あれとはまた違う気持良さだった」

 

「私もそれに同感かな。でもやっぱり湯を張って入りたいのはあるけど」

 

 そんなふうにクオンと他愛もない話をしていると、時間も遅くなってきたしそろそろ寝ようかとクオンに声をかける。部屋の明かりを消し、振り返ると布団に腰かけるクオンの姿に心臓の高鳴りを覚えた。その動揺を悟られないように自分もクオンの隣にある布団に向かう。

 

 クオンの傍を通ると少し強い力で引かれてバランスを崩しクオンの上に倒れこむような形になってしまう。

 

「ねぇ、ハク、大好き。だからね、その…」

 

 そう言う姿が愛おしくて、思わず自分の唇でクオンの口を塞ぐ。どれくらいそうしていただろうか。お互いの唇が離れるとクオンが瞳を潤ませ、艶っぽい表情で自分を見つめていた。

 

「私はハクの全部が欲しいかな」

 

「自分もクオンのすべてが欲しい」

 

「うん、だから、ハク…ね。あ、でも初めてだから優しくして欲しい…かな」

 

 そうして魅かれるようにクオンへと近づいていき――その夜、実に数百年来の時を経てクオンと自分はひとつになった。


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