うたわれるもの 別離と再会と出会いと   作:大城晃

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5月21日 暁投稿文に追いつくまで連続投稿します。8時から二時間おきに六話分を連続で投稿します。

連続投稿分5/6


出会いにして再会7~海賊娘~

出会いにして再会7~海賊娘~

 

 

 翌日、二日酔いだった為、クオンから薬を貰った。マロとウコンも同じだったようで薬を貰いに来ていた。クオン達は女性三人で帝都の店を回ると言う事で出て行ったので久しぶりに一人だ。昼ごろに腹が減ってきたので飯の調達と散歩も兼ねて自分もフォウを伴って街に繰り出す事にした。

 

 特に当てもなく市場をぶらりと回る。フォウはさっきから果物の屋台を通るたびに反応しており少しずつ買い与えている。本来ならウコンに頼まれた例の件で仲間集めでもした方がいいのだろうが…まぁ焦ったところでいい人材が見つかるわけでもないしな今はゆるりと過ごすとしよう。

 

 歩きながら先程屋台で買った食い物を頬張る。うん、うまい。仲間集めはそうでもないが美味いもの探しは順調だな。今食べているのはアマムの粉で作った生地で肉や野菜などを包んだ物を蒸した肉まんのようなものだ。玉ねぎ(みたいなもの)が含まれているせいでフォウにやれないのが残念なくらいだな。ちなみにフォウだが実は何でも食べる。肉でも野菜でも果物でも何でもだ。ま、好物は果物みたいだから主にそれを与えているがな。

 

「そこのカッコイイおに~さん」

 

 二つ目を袋から出そうとした時、背後から耳元に囁くような声がしたので振り返る。振り返るとそこには、ほんわかした雰囲気の少女がこちらを見つめていた。そしてこの少女をみているとキウルに感じたような気持ちがわきあがってくる。やれやれ帝都での知り合いだったと思われる奴への遭遇率高すぎやしないかね?

 

「あやや、後ろ姿は格好良かったのに、前からは残念賞や…」

 

 で、自分の顔を見ると同時にサラリと失礼なことを呟きやがった。まぁ自分がそう整った顔立ちでもないのは自覚しているが真正面から言われると来るものがあるぞ、それにこいつ本気で思っているのが伝わってくるくらい、ガッカリ感を漂わせてやがる。

 

「まぁええか。なあなあおにーさん。ちょっと道を尋ねたいんやけど、いいけ?この『帝都百選』に載ってる白楼閣って名の旅籠屋、どこか知らん?」

 

 さっきの言葉などなかった様に尋ねてくる少女に呆気にとられた。先程の言葉に悪気やらこちらを貶めるつもりやらは本気でなかったらしい。もっともそれ故に危うさも感じるが。おいおい自分だったからいいが怒って殴りかかってくるような奴もいるんじゃないか。まぁそこまで心配してやる義理もないか。とりあえず少女の質問に答えるとしよう。

 

「白楼閣?知ってると言えば知ってるな」

 

「ホントけ?それやったらどう行ったらいいのか教えてくれへん」

 

「ああいいぞ、この大通りを――」

 

 昼食も食い終わったし、戻るにしてもいい頃合いか。それなら自分が案内してやるとしようか。

 

「いや、案内してやるよ。こっちだ」

 

 そう言って少女を促し白楼閣に向かう。その途中で自分も白楼閣に逗留している事などを話した。というかこれ、騙して裏路地なんかに連れ込むと思われても仕方ない状況な気がするが…気にしたらだめだな、うん。

 

「ふぅん、お兄さんって白楼閣に住んでたんか。じゃあ、これからお隣さんになるんやね」

 

「お隣さん?」

 

「そうやえ、ウチも今日から白楼閣で暮らす事になってるんよ」

 

 それに自分はそうかと返し白楼閣への道を歩く。そういえばさっきから少女に視線が自分の手元の袋に行っているのが気になるな、正確には自分が食っている物への視線が。

 

「それ、おいしそうやなぁ」

 

「………食うか?」

 

「ホントけ?催促したわけではないけど、ありがとな~」

 

 そういう少女に手に持った肉まんもどきを半分割って手渡す。催促したわけじゃないというが先程の視線が一番の催促だったと思うぞ、自分は。

 

「おに~さん、ええヒトやねぇ。ウチな、アトゥイいうんぇ。おにーさんは?」

 

「ハク。自分はハクだ」

 

「ハクさんいうんか。いい名前やねぇ~」

 

「そうかいい名前か、そいってもらえると嬉しいもんだ」

 

「………」

 

 少女――アトゥイは自分が名乗ると自分の名前を聞いてきた。名前を褒められたのは嬉しいが嬉しいって行った後のその沈黙はなんだ、おい。

 

「おに~さん、ほんまに残念賞やぇ」

 

 どういう意味だろうか、なんか釈然としないが。とりあえず聞いてやる事にする。

 

「おにーさんの後姿なほんにキュンってするくらいカッコよかったんよ。運命のヒトに出会えたかと思ったくらいや。なのに振り返ったらガッカリやなんて…ウチのときめきを返して欲しいくらいやわ」

 

「ったく、何が言いたいんだ?褒めてるんだか貶してるんだか、どっちだ」

 

「ほえ?褒めてるんやけど…」

 

 とりあえずアトゥイが天然だって事は分かった。こりゃあ気にするだけ無駄だな。心の中でガックリと肩を落としつつ苦笑がもれる。あんまり今まで周りにいなかったタイプだな、こいつは。

 

「なあなあ、その白楼閣ってどんなとこなん?ウチな帝都に来るの初めてやから、何も知らないんよ」

 

「どんなところ…と言われてもな。そうだな…とりあえずでかい湯船の風呂がある。泊まり心地はいいな。寝床は広いし、飯は美味い、特に風呂は最高だ。この帝都ですら、あれだけの規模の大浴場はなかなかないらしい」

 

「ふわ~、それは楽しみやぇ。ウチを出て一人暮らしを選んだの正解かもな~」

 

 なんか最近聞いたような話だがまさかこいつもとか言わんよな?まぁそんな頻繁に貴族の子息に合うはずもないしきっと気のせいだろう…気のせいだといいなぁ。

 

「まさか家出だとか言わんだろうな?」

 

「ん~?ウチを出たのは、とと様に言われたからやけど。何でも仕来たりらしくて、姫殿下の生誕祭に合わせて上京する事になってな?」

 

 アトゥイが言う内容に心の中で頭を抱える。どうしてこう貴族とかかわりあいにある機会がこんなに多いんだ自分は。この子自体は天然だが良い子っぽいがめんどくさい事この上ないぞ、本当に…。

 

「それで遠路はるばるやって来て、ついさっき帝都に着いたとこなんよ」

 

「それは気がつかずに大変ご無礼をいたしました。どこの令嬢かは存じませんが先程の無礼の数々なにとぞご容赦のほどを」

 

「あ、あや?おにーさん、どうしたん急に畏まって」

 

「貴族のご令嬢に先程のような口を聞くのは無礼と言うものでしょう。して何故、共も連れずに一人でこのような場所に?」

 

 自分の対応が先ほどと変わった事にアトゥイが戸惑う声を上げる。流石に許しもなくいつもの口調ってのはまずいんでな、どうしても嫌ならそういってくれ。しかし、行列やら共やらはどうしたんだろうか?

 

「ああ、もう。おにーさんフツーにしゃべって―な。なんかおにーさんにそんな畏まって話されるのなんか背中がむずむずするえ」

 

「…それじゃあ、そうさせてもらうか。で、アトゥイ、さっきの話だとお前はどこかの貴族の令嬢なんだろうが共も連れずにどうした?それに行列は?」

 

「お、おにーさん、変わり身が早いなぁ。…まぁいいけ。行列な、窮屈で暇やから抜け出してきたんえ。それに初めての帝都暮らしやもん。やっぱ自由気ままにくらしたいしなぁ。とと様が屋敷を用意してくれたみたいやけど、そんなとこよりナイショで一人暮らしする事にしたんぇ」

 

 アトゥイから許しも出たので普通にしゃべらせてもらう事にする。しかし抜け出してきたって、それ今頃おさわぎになってるんじゃ…。あと屋敷って事はかなりお金持ちな家の子なわけね。

 

 

 そんなこんなで結構時間が掛ったが白楼閣の屋敷が見えてくる。なんだか妙に疲れた気がするな…。

 

「ふわぁ~、なんか他と違う、みた事ない感じで綺麗やなぁ~。いい雰囲気やぇ。こっちにして正解やったなぁ。とと様が用意してくれた屋敷よりも、楽しくなりそうやぇ」

 

 目を輝かせながら白楼閣を眺めるアトゥイをみながら心の中で苦笑をもらす。ま、気に入ってくれたみたいで良かった。そんな風に考えていると後ろからよく聞きなれた声で話しかけられた。後ろを振り向くと買い物に出ると言っていたクオンが戻って来ていたようだ。

 

「あ、ハク。なにか収穫はあった?」

 

「いや、流石に昨日の今日では難しいさ。そういえばルルティエとネコネは?」

 

「そっか。うん、仕方ないかな。切羽詰まっているわけでもないし、あせらずに根気よく探そ。二人はルルティエがまだ買いたいものがあるらしくてネコネはその付添いかな。私は調合しておきたい薬があったから先に帰って来たの」

 

「そうか、あ、荷物は預かるぞ。部屋にいいんだよな?」

 

「ありがとうかな、ハク」

 

 先に戻ってきたというクオンから荷物を受け取る。そこで白楼閣に見とれていたアトゥイがこちらの様子に気がついたようで声を掛けてきた。

 

「ほわわ、すごい別嬪さんや。なぁなぁおにーさん、この別嬪さんて、知り合いなんけ?」

 

「ああ、自分の恋人だよ。今はこいつ、クオンと同じ部屋に住んでるんだ」

 

「ハク、この方は?」

 

 クオンはアトゥイと牽制するように自分の腕に抱きつきながら自分にそう聞いてくる。それに苦笑を返しながらアトゥイを紹介する事にした。

 

「クオン、こいつはアトゥイ。市場で声を掛けられてな、白楼閣を探してたみたいなんで案内してきた。今日からここに住むらしい」

 

 そう言ったのに加えて小声でルルティエと同じく貴族の娘さんのようだと言う事を告げるのも忘れない。アトゥイなら特に問題ないとは思うが一応な。クオンは警戒を解いてくれたのか自分の腕からは離れてくれた。

 

「ウチ、アトゥイいうぇ。今日からここで、お世話になるんよ。よろしゅうなぁ」

 

「そうなんだ。私はクオン、こちらこそよろしくお願いかな。同じくここを仮住まいとしているから、何か困ったことがあったら遠慮なく行って欲しいな」

 

「うひひ、なぁなぁクオンはん、おにーさんとは恋人同士なんやろ?今後の参考がてら今度いろいろきかせてーな」

 

「え、えっと機会があれば…ね?」

 

 アトゥイはクオンに挨拶した後、恋愛の先輩としてクオンに話を聞く事を要求していた。クオンは困ったように自分を見てくるが、自分にはどうしようもできん、アトゥイが手加減してくれる事を願う事だな。

 

「帝都に来たんやもん。どうせなら火傷をするような恋の一つもしてみたいんよ。うひひ、恥ずかしいぇ」

 

「恋って…いったい帝都まで何をしに来たんだか」

 

 おいおい豪族の娘がそれでいいのかと心の中で突っ込む。親御さんが泣くぞ…そういやこいつはその親御さんから逃げ出して来たんだったな。もう泣いてるか。

 

「ほんなら、もう行くな?とと様が追手に四天王なんかを差し向けてくるから、ちょっとだけ疲れてもうたんよ。あれだけ念入りに潰したら、もう追手の心配はいらないぇ…」

 

「それなら、お風呂で汗を流してくるといいかな。ここのお風呂は最高だから」

 

「そうさせてもらうぇ、ここのお風呂は楽しみにしてたんよ。そんあらおにーさん、ここまで案内してくれてありがとうな」

 

 ナチュラルに酷い事を言いつつ、クオンに勧められるままアトゥイは白楼閣の中に入っていった。ふぅ、なんだか妙に疲れたな。

 

 

 

 その日の夜、詰め所にする事にした大部屋で本を読んでいるとウコンとそれに伴われたキウルが訪ねてきた。

 

「おう、アンちゃん、じゃまするぜ」

 

「こんにちは、先日は挨拶の途中で失礼しました」

 

 昨日言っていた件だろう。キウルもいる事だし居住まいを正すことにする。ウコンとキウルに座るように促すと自分もその正面に腰を掛けた。

 

「ウコン殿、キウル殿、ようこそいらっしゃった。して、某に何用でしょう」

 

「オシュトルの旦那からの頼まれごとでな。アンちゃんにちっとばかし頼みたい事があるのさ。それはそうとアンちゃん、キウルなら大丈夫だから普段の話し方で問題ないぜ」

 

「えっと、よく判らないですが、そちらの方が話しやすいのならそちらでお願いします」

 

「そうか、分かった。で、ウコン、昨日言っていた件か?」

 

 自分の話し方の変わりようにキウルは驚いたような顔をしていたが、とりあえずは納得したようだ。ウコンがオシュトルの旦那って言うって事はキウルには自分の正体については話していないのだろう。実際にウコンから意味ありげな笑みを貰ったしな。さてキウルを連れてきたって事はキウルを預かるって件だよな?

 しかしキウルはなんで連れてこられたのか分かっていないようで少し訝しげにしている。ウコンの奴しっかりと説明なしに連れてきたな。昨日はきちんと説明してから連れてくるって話だったのにな。オシュトルだと絵にかいたような堅物だってのにウコンになるとなんでこう…少しキウルが哀れだな。まぁ自分も笑みをかえしてもっとやれとか思っている時点で同類か。

 

「で、アンちゃんにオシュトルの旦那からの言伝だ。実践やらなんやらの経験を積ませるための修行として、コイツをアンちゃんのところで働かせる事にする、とよ」

 

「えっ!?」

 

「ほぉ~、自分達の同志に加えろって事か」

 

「だな、あの旦那が好きに使えっていうんだ。そういうことだろうよ」

 

 ウコンがそう言うと、なにも知らされていなかったであろうキウルが戸惑った声を上げる。まぁ、なにをやってるのかまったく知らされていない男のところに連れてこられては混乱するなと言うのが無理な話だろうなぁ。

 

「ま、待ってください。いきなりこんなところに連れてこられたかと思ったら、そんな話聞いていません!」

 

「そりゃそうだ、今初めて話したんだから」

 

「そんな…」

 

「まぁ、待て待て。悪いようにしねぇから、最後まで話を聞けって」

 

 いきなりこんな話を振られてキウルは声を上げるがウコンはどこ吹く風だ。キウルは腰を浮かしかけたがウコンにそう宥められとりあえずは座りなおした。

 

「もともと向こうから持ってきた話だ。こっちは別にかまわないが…そっちの方は大丈夫なのか?」

 

「オシュトルの旦那が言うにはこの坊ちゃん、武芸の稽古は欠かしてなかったって話で、ソコソコいけるらしいぜ」

 

「ほぅ」

 

 昨日も思ったがこの風貌からは、とてもそんな風には見えない。だがオシュトルのお墨付きと言うのなら実際にそれなりの腕はあるのだろう。期待させてもらう事にしようか。性格も悪くないし、昨日ウコンにも言ったが男手が増えるのはありがたい。何より男なら気を使う必要がないからな。

 

「クオンのネェちゃんから話は聞かせてもらったぜ。少数精鋭でやるつもりなら少しでも腕の立つ奴が必要だと思ってな」

 

「ちょっと待ってください!あの…ウコンさんでしたよね?貴方は兄上の直属だと言っていましたけれど、本当にそうなんですか?いきなり押しかけてきたと思ったら連れ出されて、何の話もなく…こんなこと兄上から聞いてません。わたしはネコネさんと同じく兄上の補佐役を希望していたのに、これは何かの間違いでは…」

 

「いや、ウコンがオシュトル様の直属だと言うのは本当だぞキウル。それにネコネが自分達と行動を共にしているのは昨日お前もみただろう?それじゃあ信用できんか?」

 

「えっと、それはそうなのですが…」

 

 声を荒げるキウルに落ち着かせるように声を掛ける。キウルも自分の言った内容に矛盾が無い事は感じ取れたのか少し落ち着いたようだ。まぁネコネの名前が一番効いたみたいだがな。

 

「アンちゃんの言うとおり、俺とこのアンちゃんはオシュトルの旦那の直属で間違いはねぇ。オシュトルの旦那が言うには、身内だとどうしても甘やかしてしまう。一人前の益荒男になるには外での艱難辛苦を乗り越え、様々な経験を積む必要があるってな」

 

「………」

 

「まぁどうしてもって言うなら、おまえさんの希望の通りに持っていけるように旦那に掛け合うがどうする?」

 

「それは…確かに早く一人前に…でもそれだとネコネさんと…ああ、どうしたら…」

 

 結構不純な動機が混ざってるなこいつ。しかし疑ったかと思ったら簡単に信じちまうし…まだまだ甘いな。そう言うところを直してやれって事なのかね。しかしネコネといたいのならなおさら自分達と一緒にいた方がいいと思うんだが…。

 

「なぁキウ「ハク~居る?」ル、お、クオン、ネコネ、ルルティエもどうした?」

 

「ネ、ネコネさん!?」

 

「ああ、どうもなのです。どうしてここにいるですか?それに、兄さまも」

 

「どうしてって、いきなり連れてこられて、この兄さ…兄さま!」

 

 ネコネが来た事に驚くキウルだがネコネの言葉でさらに混乱する。混乱するキウルを宥めつつ、種明かしをする事にした。最後まで話すとキウルは落ち着いたようだが頭を押さえて苦虫を噛み潰したような表情をしていた。にしてもネコネはタイミングがいいんだか悪いんだか。

 

「そう、ですか。それでそんな恰好を」

 

「まぁ世を忍ぶ仮の姿って奴だな」

 

 キウルはそれにしても性格が変わりすぎじゃあとか何とか言っていたがなんとか立て直す。

 

「幻滅したか?」

 

「い、いえ、そんなことは」

 

「わたしは幻滅したです。上京したあの日、いの一番に兄さまのもとに駆け付けたです。…そして目に飛び込んできたのはむさい男達に混ざって裸踊りをしていた兄さまの姿。あの時の絶望感は絶対忘れないのです」

 

 幻滅したかと聞くウコンにキウルはそんなことは無いと返すが、ネコネは違ったようだ。ウコン…慕ってくれる妹にそれは酷過ぎるだろう。自分は慰めるようにネコネの頭を優しく撫で、クオンは大変だったんだねと言いながらネコネを抱きしめた。

 

「えー……」

 

「ダハハハハ、あん時はみんなして飲みまくってたからなぁ」

 

「…………」

 

 ウコンのその肯定にキウルの目が死んだ魚のように濁って来ている気がするが大丈夫だろうか?キウルを気の毒に思ったのかルルティエが茶を入れて皆の前にお茶請けと共に置いた。

 

「どうぞ、いい茶葉がてに入りましたので。お茶請けもどうぞ」

 

「ど、どうもありがとうございます」

 

「なんかネコネの奴、こっちに出すときは渋ってたのに今じゃすっかりネェちゃんとアンちゃんに懐いちまったなぁ。ちぃとばかり寂しい気がしないでもないが」

 

「今すぐその姿をやめて元の姿に戻れば、また戻ってくると思うがな」

 

「…………」

 

 キウルはルルティエに礼を言うとウコンの言葉になにを思ったのか黙り込んでしまった。

 

「ちぃとばかし心配してたんだがうまくやっているようでなによりだな」

 

 ウコンの言葉にそんなにそっちの姿がいいのかと心の中で突っ込みつつ、キウルにも話を向ける事にする。

 

「で、どうするキウル。自分達と一緒に頑張るか、オシュトルの補佐官として頑張るか、二つに一つだが」

 

「そういえばネコネさんはこちらの方に?」

 

「ああ、オシュトル…いやウコン、ああややこしいな、とにかくこっちの人出が足らんだろうって話で、連絡員としてこっちで動いてもらってる。まぁ自分にとってもかわいい義妹だし、有能だから助かっている」

 

 そんな風に話しているとネコネにも聞こえたのか顔を赤くしてこちらを見ているのが見えた。そういうとこもかわいいんだがな。クオンとはまた違った感じでかわいらしい。もちろんクオンが一番なのは変わりないのだが。

 

「そうですか…。やります!こっちで頑張らせていただきます」

 

「お?そう言ってくれるのはありがてぇが、別に無理しなくってもいいんだぜ?」

 

「いえ、大丈夫です、できます、がんばりますので!」

 

「そ、そうかい。そこまで言ってくれるんなら、こっちも助かるってもんだ。んじゃ頼んだぜ」

 

「はい!」

 

 キウルは若干、というかかなり不純な動機が見えるがこちらで働く事に決めたようだ。ま、動機が不純だろうときちんと働いてくれれば問題ないしいいだろ。

 

「じゃこれからは同志になるわけだな。よろしく頼む」

 

「はい!」

 

「これからはキウル君も一緒なんだ。あらためてよろしくね」

 

「はい、こちらこそよろしくおねがいします」

 

「そうですか、キウルもですか」

 

「よ、よろしくお願いしますネコネさん。ルルティエさんも、よろしくお願いします」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「こちらこそです」

 

 キウルは全員とあらためて挨拶をすませる。なんだかネコネと話すときに花が奴の周りにまってる気がするが気にしなくてもいいだろ。話がひと段落するとルルティエの茶が冷めるというクオンに促され穏やかにお茶会に移行していく。キウルは皆に呼び捨てでいいと言うと改めてよろしくお願いしますと頭を下げた。

 今日は仕事の話を持ってくると言う話だったのだがまだ準備ができていないらしく、ウコンはそのまま帰って行った。キウルに関しては新たに部屋を取り生活基盤を整えるため明日は買い出しに行く事になったのだった。


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