混沌ロード   作:剣禅一如

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第五話 決意

 モモンガは、まだ守護者達に言って措かなければならない事があるのを思い出す。それは覇王の肉体の事である。

 人間化して守護者達にモモンガだと認識されなければ、攻撃されてしまうかもしれないからだ。

 

 しかしモモンガは知り得ない事だが、ナザリックに属す者にはナザリックに所属する者の気配がお互いに分かる。特に至高の41人の気配ともなれば強力な物となり、ナザリックの者から見ればモモンガの気配などは一目瞭然で感知が可能になる。これは覇王の肉体に変化した場合でもである。

 

「お前達に伝えておかなければならない事がある。それは私が受肉する事で、人間形態に変化出来る様になった事だ。これは人間になったという訳では無く、あくまで擬態である事を肝に命じてほしい」

 

 擬態云々の科白は異形種族がモモンガの基本種族だよと主張した方が、守護者達には受けが良さそうだと判断した為である。実際はどちらもモモンガであるというのが本当のところであって、区別する意味は無い。その時々で、モモンガが便利だと思った方を選択すれば良いだけの事である。

 

「そしてこれが、その擬態だ」

 

 モモンガは、その場で覇王の肉体に変化してみせた。威圧感のある風貌を見て守護者達が驚愕する。

 

「「「これがっ!」」」

 

 守護者達にとっては、何故至高の御方が擬態とは云え好き好んで人間などにと不思議に思ってしまう。そこでデミウルゴスが即座に質問をした。

 

「モモンガ様、何故、人間に擬態が必要なのでしょうか? 私には分かりかねますが、何かしらの理由があるのでしたら私共にも御教え願えませんか?」

 

 現在のナザリックの不可思議な状況下で敢えてモモンガが人間に擬態すると言い出したのには、何かしらの関連性がある様にしかデミウルゴスには見えなかったのである。

 

「う、うむ、そうだな。今現在、我々が居るこの世界では人間が幅を利かせていると見ている。これは当然、私の勘でしかないがな。しかしこの世界の強さの基準が分からない現在において、我々が実は最弱の存在だったなどの事も予想される。その時に同じ人間種族であれば、友好的に事を進められるかも知れないからだ。分かるか?」

 

(そんな事は、俺にも分からんがな)

 

 モモンガはそれらしい理由を述べたが異世界に於いて人間が主流かどうかなど、勘だとて現段階では誰にも分かりはしない。単純にモモンガが人間形態で喰っちゃ寝をしたいだけの事だ。アンデットの特性である三大欲求を満たせない状況は、流石に人外初心者であるモモンガも勘弁して欲しいと思っていた為だ。

 

 それに気付かずに守護者達は至高の御方の叡知に触れて、感動を得ていた。

 

「流石は至高の御方の中でも、最後まで残った愛しき君でありんす」

 

 シャルティア・ブラッド・フォールンは何故か内股をモゾモゾと擦りながらも、赤く染めた頬で称賛した。

 

「御方ノ叡知トハ、コレ程ノ物トハ思イモ致シマセンデシタ。御方ヲ侮ッタ罪ハ私ノ命デ償ワセテ頂キマス」

 

 コキュートスが自害しようと刀を頸に当てるが、モモンガが即座に止めに入り事なきを得る。

 

「あたし達とは比べるのも烏滸がましい程に、モモンガ様は考えておられるのですね。あたし達も頑張らないとねマーレ?」

 

「う、うん、モモンガ様はヤッパリ凄いね。お姉ちゃん」

 

 アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレは、一人は瞳をキラキラと耀かせて自らの主を仰ぎ見てながら決意を新たにし、一人はオドオドとしながらも敬愛する主を上目遣いで盗み見る。

 

「モモンガ様は、実に慎重に行動されるのですね。私など其処まで警戒心を働かせては居ませんでした」

 

 セバスは、跪きながらも器用に背筋を真っ直ぐに伸ばして深く頷いている。

 

「私なども人間と親しくしなければならないのでしょうか? 難しいかも知れませんが、モモンガ様がそう仰るならば必ずや成し遂げますわ」

 

 人間を蔑視せよ設定されているアルベドは決意を固めていた。そうあれと設定されたならば仕方の無い事ではあるが、モモンガの為に設定を曲げると述べる。しかしモモンガとしては、単に自分の我儘でしかない事柄に反応されてもなといったところである。

 

「モモンガ様の御考え、理解致しました。成る程、我々が弱者かも知れないですか。後々、偵察部隊には確りとその辺りも確認させます」

 

 デミウルゴスもこの世界で最初に遭遇したのが人間ならば侮ってしまったのではと、自戒を込めた発言をした。

 

「うむ、そう云う事だ。くれぐれも慎重に行こうではないか、ナザリック地下大墳墓に敗北があってはいかん。だからと言って狂犬の様に噛み付くのも、それはそれで憂慮すべきではある。さて、そろそろ私が命じた作業に取り掛かってくれ」

 

「「「はっ!」」」

 

 守護者達が自分の階層を調べる為に散っていく。モモンガは見送りが終わると、早速第9階層の自室へリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移した。

 

 自室に到着後、部屋に一緒に入って来ようとするセバスとメイドや護衛の昆虫騎士達を何とか退け、覇王の肉体のまま部屋の豪奢なベッドに倒れ込んだ。

 

(訳が分からない事だらけだ。ナザリックは現実になって異世界らしい場所に転移はするし、守護者達は凄い忠誠心なのは助かるが重いし、俺は単なる平凡な社会人なのにアイテム群と融合して凄く強くなるわ、滅茶苦茶じゃないか……でも嘆いてばかりも居られないか。この仲間達との絆の象徴であるナザリック地下大墳墓だけは、何者からだろうと護り抜いてみせなければ)

 

 この状況に対してモモンガは色々と考察や推測を試みるが、仮想現実続行誘拐説、植物人間夢想説、運営宇宙人説などの荒唐無稽な考えばかりが浮かび思考を放棄するに至る。そして結局の処は現状に沿った形でナザリックを維持するしかないとの結論を、モモンガは導き出した。

 

 ここでモモンガは薄々気付いては居たが、敢えて目を背けて考えない様にしていた事に向き合う決心をする。先程の魔法を確かめる際に、アイテムボックスも問題無く使える事を確認している。そこから流れ星の指輪を取り出すと星の数を確認し、それが一つ減っている事に驚愕した。

 

 本来は願う事で運営からの選択肢が表れる仕様の星が減っているのにも関わらず、モモンガにはそんな記憶は無い。ならばユグドラシルが現実に成ってから願ったと考えるのが、自然である。

 

 そう、あの願い。“もしギルメンが死ぬ直前にアインズ・ウール・ゴウンに還りたいと本心で願ったならば連れてこい”と願った事で星が減ったのならば本当にギルメンが来てくれるのではと、モモンガは祈りにも似た気持ちで期待に胸を膨らませる。

 

(もしも皆が死ぬ間際に還りたいと願ってくれたなら、此方に転移する事になるのかも知れないが、皆が死ぬ事を前提に考えなければいけないのは申し訳ないとは思う。でも寿命とかで死んだらどうなるんだ? 時間とかも超越して来る事になるんだろうか? まあ現在のこの状況を考えれば今更か。だが来てくれるのだろうか? まあ来てくれたのなら前世は既に終わってる訳だし、望んで来てくれたなら問題はないか。また仲間と思う存分冒険出来るかも知れないなんて夢みたいだ)

 

 思わず頬が弛むのをモモンガは止められないでいた。なにしろ、数年に渡りモモンガはたった一人で待っていたのだ。現実の生活を犠牲に拠点の維持費用を払い続け、仲間と再び冒険する事を夢みてコツコツとまるで修行僧の様に過ごしていたのだから。

 

(だが、いざ本当にギルメンが異世界に転移してくれた時にナザリックが蹂躙されていたなら、仲間に申し訳ない処か顔向けが出来ないな。よし! 頑張れ俺、負けるな俺)

 

 その為には現在の情報量では圧倒的に足りないし、更には己の新たな能力を活用してナザリックを護らなければいけないと、モモンガは静かに決意を固めた。

 

 明確な方針が決まるとモモンガの腹が据わる。そして守護者達の報告を待ちながら色々と想定をして、どうすればナザリック地下大墳墓を異世界の仮想敵対勢力から護り切れるのかと思案する。

 

 

 

 


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