混沌ロード   作:剣禅一如

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第十五話 情報

 ブリタが声を掛けたのは、ウルベルトであった。あれから浮遊城のゴーレムを排除し探索を行ったが、城内は随分と昔に廃墟と化していた事がウルベルトにも察せられた。隅々まで城内を探索したが、何もかもが風化し何も残っては居なかったのだ。

 

 そんな中ウルベルトは、城の地下への通路を発見し降りていった。ウルベルトの降りた地下部分とは外観から言うと、丁度下部にある釜の様な部分である。その際に再度湧き出したゴーレム達を地下通路ごと蒸発させながらウルベルトは探索を行った。そして釜の丁度中心部の玉座の間に到達する事となる。そこには浮遊城の心臓部である玉座が鎮座していた。

 

 そして白骨化した人間の死体が玉座に座し、その胸に掻き抱いた無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)がウルベルトを出迎える。そして白骨死体にウルベルトが触れると、長い年月が経過したからなのか音もなく白骨死体が粉になり崩れ落ちた。ウルベルトがひょっとしたらと試しに玉座に座ってみると、玉座が浮遊城を操る為の端末機である事がウルベルトに何故か伝わった。

 

 実はギルド武器を何処かのドラゴンに奪われた事を知った今は白骨死体に成っている者が、ギルド武器の効果範疇から浮遊城を除いたのだった。

 

 そして己が浮遊城の所有者に成った事をウルベルトは認識するに至る。白骨死体の者が、玉座に座った者を所有者とする様に設定したからである。当然ゴーレムもウルベルトを襲う事もなくなった。と同時に月間に付き五千ユグドラシル金貨も維持費として費やさねば成らない事も分かった。これにはウルベルトとも苦笑いするしかない。ウルベルトも多少は金貨を所持しているが、数万程度でしかないのだ。そしてゆっくりと釜の地下空間をウルベルトは探索し宝物庫を覗くと、多少の魔法具が散らばるだけで部屋は空っぽであった。長年の拠点維持費用により、既にユグドラシル金貨を使い果たしていたのだ。

 

 そしてウルベルトが新たに手に入れた無銘なる呪文書は、呪文書に記される魔法を負担無しに一日に一度だけ唱える事が出来るワールドアイテムである。ユグドラシルで使用されたあらゆる呪文を網羅し、更には八欲王が異世界にて世界改変を行った後に唱えられた呪文すらも、記載されていた。

 

 もしも白骨死体以外の者が手に入れ様とすれば、手痛い反撃を行う様にワールドアイテムには仕込まれていた。つまりは罠である。これは過去に連合のメンバーが殺し合いを始めた際に、一人のワールドディザスター職持ちが条件を書き換えたのだ。それは白骨死体の者の事である。

 

 自分しかワールドディザスター職が存在しない事を利用し、ワールドディザスター職のみが所有者であると書き換えたのだ。その為にワールドディザスター職持ちのウルベルトが、あっさりと手に入れる事が出来たのだ。勿論ウルベルトが狂喜乱舞したのは言うまでもない。

 

 そして探索が終了し結局ウルベルトに分かったのは、城内は廃墟であり連合メンバーも居ないと云う事だけだった。棚ぼたで貴重なワールドアイテムを手に入れたウルベルトは嬉しくもあったが、同時に途方にも暮れた。そして浮遊城を起動して移動を開始ししようとしたのだが、真下に都市がある事に気が付き慌てて降りて来たと云う訳だ。

 

「ブリタってのか、あんた。俺はウルベルト・アレイン・オードル。南方から砂漠に来たんだが、冒険者じゃあねえ。あんたの言ってる冒険者のプレートとかは何の事かは知らねえが、詳しく聞きてえな。それと俺が凄腕かどうかだって? まあ……その辺りは察しろよ。それと、あんたアインズ・ウール・ゴウンって名前に聞き覚えはねぇか? ナザリック地下大墳墓でもいい。俺の探している仲間とその場所の名前なんだがな」

 

 ウルベルトの返事を聞いたブリタは、素早く思考する。

 

(へえ、やっぱり砂漠の更に南方から来たんだ。冒険者プレートの事を知らないって事ならあたしでも色々世話を焼けるかしらね。凄腕なのかは察しろか……雰囲気や装備から考えると只者じゃないわよね。ナザリック? アインズ・ウール・ゴウン? 聞いた事は無いけれど、探す際の手助けなら出来る。食い込めるかも知れない、この英雄候補さんに)

 

 勿論ウルベルトとしては、己の異世界での実力に付いてはまだ未知数だと思っている。城でのゴーレム殲滅はユグドラシルの基準での話であり、ウルベルトとしてはあてには出来ない。連合の連中が不在な事と既に廃墟である事を考慮すると、ひょっとするとこの世界は途轍もなく拙いのではとウルベルトは心配していた。先程の蠍の群れや巨大なミミズの異世界での実力が確認出来れば、そこから異世界での己の実力が計れるのではとウルベルトは期待している。今はまだ、ブリタに察しろと言って誤魔化すのが精一杯のウルベルトである。

 

「御免なさい、ナザリックもアインズ・ウール・ゴウンも聞いた事が無いわね。でも冒険者組合で依頼すれば、中原地域全てから情報が集まるのよ。それなりに費用は必要だけど、ウルベルトさんなら大丈夫そうね」

 

 ブリタは精一杯の愛想笑いを浮かべて、ウルベルトの興味を引こうとしていた。

 

「へえ、冒険者ねえ。中々に浪漫が溢れる言葉じゃねえか。依頼を出せばいいのか? ああ、それと俺も冒険者に成れるのか? あと金か……宝石とかで代用出来るのか?」

 

 矢継ぎ早に質問してしまうウルベルトに閉口しながら、ブリタは満足感を味わった。どうやら己をウルベルトは必要としている様だと。

 

「ちょ……ちょっと待ってよウルベルトさん。順番にね。落ち着いて」

 

「済まん」

 

 ウルベルトは、焦ってしまった事を恥じ入る様に頭を掻いた。

 

 そしてブリタはウルベルトに順を追って説明していった。貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある事。大抵の国家が、王がいて貴族がいる封建制である事。宗教国家や竜の治める国家もある事。この砂漠と違い、四季折々が中原にはある事。時々だがタレントを持って産まれてくる人々がいる事。武技と云う物が鍛えれば身に付く事。勿論ウルベルトが余りに常識的な事すら訊いてくる度に、ブリタは違和感を覚えた。

 

 そしてウルベルトは、最も気になる事を訊いた。

 

「なあ、あの空の城なんだが何か知ってるか?」

 

 流石にブリタも、ウルベルトに違和感を拭えなかった。浮遊城の事すら知らないとは不自然過ぎると。

 

(でも私の知らない程遠くの土地だと、噂すら届いてないのかしら。それに常識にも色々と違いがあるのかな? 別の手段でタレントが発現するとか、武技も種類か系統が偏ってたり?)

 

「あれはね、五百年前に現れた八欲王の浮遊城よ。中原一帯を支配したり、六大神を殺したりしたの。最後には仲間割れで滅びちゃったけどね」

 

 ウルベルトはブリタの言葉に愕然とする。五百年もの時間差が八欲王と己の間に生じた事を認識したからだ。中原の支配だとか神殺しや仲間割れなどは、ウルベルトにとっては何となく状況が察せられた。異世界での八欲王と云う名で呼ばれる程の彼らの所業やユグドラシルでの態度からなら、ウルベルトには容易く頷ける事であった。

 

「へえ、五百年前ね。随分と昔の話なんだな。もっと八欲王とやらの事を聞かせてくれよ。あ、六大神のも頼まあ」

 

「ええ、いいわよ」

 

 唇をブリタは舌で湿らせてから深呼吸をする。お喋りは女の得意な分野であり、伝説の欠片の端にでも関わりたいブリタにとっては八欲王の伝説関係は詳しい事柄でもある。そしてウルベルトはブリタから六大神や八欲王、十三英雄などの伝説を粗方聞き出した。

 

 流石にウルベルトにも大体の事が飲み込めた。どうやらユグドラシルのプレーヤー達は、この異世界で随分と暴れ回って居たらしいと。そして己もこの異世界に骨を埋める事に成るだろうとも。そこで思い出すのは、砂漠の巨大なミミズの事である。

 

「なあ、ブリタ。砂漠で馬鹿みたいに大きなミミズを見たんだが、何か知ってるか?」

 

 ブリタは大きなミミズと聞いた途端に、背筋に悪寒が走ったのを自覚した。

 

「ウルベルトさん、それジャイアントワームというモンスターよ。砂漠で遭遇すれば殆ど誰も生きては還れない程の化け物の事よ。もしもこの街に現れれば皆一貫の終わりね。でも安心して、この街の地下は厚い岩盤に覆われているから流石にジャイアントワームでも潜っては来れないのよ」

 

 それを聞いたウルベルトの口元が歪んで、邪悪な笑みが浮かんだのをブリタは見逃した。


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