ロクでなし講師と魔眼保持者 作:斎藤
「久しぶりですね。ラヴァル」
午前の競技が終わり、生徒達は各々弁当を広げて昼食を取っている時間に、人気のない場所でボーッと立っている俺に話しかける人がいた。声から恩人であるアリシアさんであることは分かった。
「アリシアさん、どうかしましたか?」
アリシアさんの表情を伺うに何か悲しいことがあったのだろう。恩人の表情を曇らせるとは誰だ!
「先程、娘に会ったのですが…」
なるほど、ティンジェルに会ったら素っ気ない態度を取られたりしたのか。話には聞いていたが複雑だよな。『異能者』だから殺さなければいけなかった。本来殺すところであるが存在を抹消して逃した。生かされたが、ティンジェルからすれば捨てられたのだから当然の反応だろう。
「俺は初めから親の顔を知らないけど、もし知っていたなら会って話したいと思うかも。その時に色々な感情が織り混ざって、初めは素っ気ない反応をして逃げるだろうけど、一回落ち着いて考えれば話したいと思うかな」
少し恥ずかしくなって後頭部を搔く。なんで俺がこんなこと言ってるんだろう。
「ラヴァルは変わりましたね」
「そうかね。あまり変わった気はしないですけど」
「ふふ、初めて会った時の衝撃は今でも忘れません。セリカと視察に来ていれば、急に目の前に現れて『俺が王国の【戦場の死神】だ。亡命させろ』なんて無表情で言うのですから、本当に驚きました」
感慨深そうに話す。そんなんだっけ?
まぁ、その後ババアと本気で殺し合ったのは覚えている。あいつマジで強かった。
「でもババアに負けかけたけどね。『複写眼』使っても勝てないってどゆこと」
「私としては貴方がセリカと渡り合えていたことに驚きましたよ」
「そういえば……『複写眼』のことなんですけど、もしかしたらティンジェルにバレてるかもしれない」
「あの娘にですか……それなら大丈夫でしょう。黙ってくれるはずです。………あら、もうこんな時間ですね。長話してすいませんでした」
時間を見てそう言った。確かに後8分くらいで次の競技が始まる。
「いや、俺の種目は最後の『決闘戦』だから大丈夫だけど、女王なのに大丈夫?」
「ええ、きっと大丈夫ですがもう戻ります。ありがとございました」
「いえ、気配を消す魔術の効果切れそうなので急いでくださいね」
それではとアリシアさんは去っていく。それを見送り俺もベンチのあるところへ移動する。これから『決闘戦』まで寝る予定だ。
ベンチを見つけるとそこには先客がいた。ペンダントを見ながら落ち込んでる様子のティンジェルだった。今日はこの親子と縁があるな。
「……」
無言で隣に座る。事情を知っているが本来ならば知りえないことであるため、表に出さない。なんて言えばいいか普通に思いつかなかった。
「ラヴァル君は親と仲がいい?」
どう答えろと?俺に両親の記憶なんてない。そんなこと知らずに聞いて来た人相手になんと言えばいいんだ。
「ティンジェルはどうなんだ?」
質問を質問で返す。仲が良いわけでないことは知っている。建前上聞いてやるのが正解だろうと思って聞いた。
「……実は、お母さんが来てるんだ」
「へぇ」
「でも、私を捨てたの。私、どうしたら良いかわからなくて……」
「……ティンジェルはバカだな。思ったことをすれば良いんじゃね。俺なんて親の記憶なんて一切ないから生きてるのか死んでるのかすらわからねぇ。手に届く距離にいるなら手を伸ばせばいい。俺ならそうするよ」
「親の記憶が……ごめんねラヴァル君」
俺のカミングアウトに驚き、謝る。こうなるから言いたくないんだよなぁ。
「謝んなよ。これでも今の生活は気に入ったんだ。普通に学院に通えて、普通に友達がいて、普通に過ごせている。昔とは大違いだ」
「そういえば、私ラヴァル君のこと何も知らないな」
「俺のことなんてどうでもいいよ。今必要なのはティンジェルがどうしたいか。そしてこれからどうするかだろ」
「でも、私、怖くて……嫌われていたら……また、あの冷たい目で見られたら……」
しゃあねぇなぁ。このすれ違い親子の背中を押してやるか。全く、二人とも面倒くさいな。
「良いことを教えてやる。さっきティンジェルによく似た女性に会った。その人は久しぶりに会った娘に拒絶されて落ち込んでいた」
「ラヴァル君、その人って……」
「似ていた人だよ。どこか女王陛下にも似てた気がするけど気のせいだろ。護衛も連れずにこんな場所にいるわけないしな。ほら、後はティンジェルがどうしたいかだろ?」
「ラヴァル君も、付いて来てくれないかな。また拒絶されそうで怖くて………」
「面倒くせぇ。でもまぁ言い出したのは俺だしな。仕方ないし行ってやるよ」
「ありがとうラヴァル君」
やはり、微笑む姿は二人ともよく似ていると思う。
少し雰囲気が和らいだと思えば足音がこちらに向かってきた。数は10くらいだろう。
音の犯人が王室親衛隊だと見てわかるようになった時には俺とティンジェルは囲まれていた。
「ルミア=ティンジェルだな」
「え、あ、はい」
ティンジェルがティンジェルであることを答えたら王室親衛隊は全員が抜刀し、剣先をこちらに…正しくはティンジェルに向けた。
「我々は女王の意思の代弁者である。ルミア=ティンジェル、貴様には発見次第に処刑せよとの勅命だ」
「あんたら、マジで言ってんのか?」
「誰だ貴様は。邪魔をすれば貴様も国家反逆罪で処刑する」
なんだ。何がどうなっている。なぜ王室親衛隊がティンジェルの命を狙う。なぜアリシアさんがティンジェルを処刑しようとする。何かがある。この事件には裏が絶対にある。
ならば、ここは一度罪を背負ってでもティンジェルを守るのがアリシアさんのためになる。
「仰せの通りにします。恐れ多くも女王陛下に仇なそうとした罪、この命を持って償いといたします。ですので、ラヴァル君は…」
考えていればティンジェルが処刑を受け入れようとしていた。それも、俺を救おうとしている。舐められたものだ。
「その必要はないぞティンジェル。俺は罪を背負ってでもお前を助けてやる。こんなクソったれな事件はさっさと終わらせて、ハッピーエンド迎えようぜ」
「貴様!」
ティンジェルを庇う動作をすることで晴れて俺も国家反逆罪の犯罪者。俺に向かって剣を振り下ろしてくる。だが、
「遅いぞ王室親衛隊。この程度じゃ女王陛下なんて守れねぇぞ」
型にはまりすぎているし遅すぎる。戦場でこの遅さは命取りだ。一人の剣を白刃どりし、剣を奪う。そして奪った剣で全員の剣を弾き飛ばす。
「す、すごい……」
「貴様ぁ!《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》!!!」
《ライトニング・ピアス》が飛んできた。殺傷力的に本気で殺しにきてることを感じる。ならこちらも死ぬ可能性のあることをしても問題ないよな。
「《求めるは雷鳴>>>・稲光》」
指を宙に踊らせ魔法陣を描く。そして前にいた国の魔術を放つ。俺から放たれた雷撃は王室親衛隊の放った雷撃を飲み込みそのまま王室親衛隊へと直撃して意識を刈り取った。
仲間がやられたことに一歩後ろに下がった隙に接近し、残りの王室親衛隊も全員体術で気絶させた。
「す、すごい……」
ティンジェルが発言する頃には立っているのは俺とティンジェルの二人になっていた。
「真相を確かめに行こうティンジェル。女王陛下がこんなことをやるとは考えた辛い。女王陛下の前に行くまでの敵が誰であろうと守ってやる」
「ずるいなぁ…そんなこと言われたら私……」
ティンジェルの手を引っ張り移動をした。
やる気のないラヴァルはどこにいったのか……。
ラヴァルの強さは『複写眼』発動状態で《私の世界》を扱わない本気セリカと同等に戦える設定。
ルミアがヒロインにしそうだなぁ。。見た目だけならフランシーヌの方が好きだしイヴも結構好き。どうするかは考え中。