ロクでなし講師と魔眼保持者   作:斎藤

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日常3

 

 

少年が物心ついた時、眼に映る情景はこの世の地獄であった。燃え盛る炎。足下に転がる死体。その装備を剥ぎ取る人間。少年も装備を剥ぎ取っていた。こうするのが生きる術であり、これ以外に生き残ることができないことを理解している。

 

「おらガキ!早くいくぞ!」

 

小太りしたボロボロな服を着た男はその手一杯に死体から剥ぎ取った装備品を持って言う。それに少年は頷くだけで反応し、少年もまた剥ぎ取った装備品をありったけ手に持って退路を歩む。

普通に見れば異常な光景。だが少年にとってはこれが普通だった。いや、戦争中の国で生まれた孤児の中では生きていられるだけで良い方であるとも言えるし、この地獄で生きているより死んだほうがマシであるとも言える。

 

「ガキ、そいつをよこせ」

 

集落に着けば小太りの男に言われる。そして言われるがままに剥ぎ取った装備品を渡す。逆らっても痛い目に合うだけであることを理解しているため抵抗など一切しない。物心がついたばかりの子供とは思えない反応である。

 

「お前の取り分だ」

 

そう言って渡されるのは小さな堅いパンだ。少年の収穫物からすれば安すぎる報酬だ。それでも少年は何も言わず、自分の寝床である地下の何もない倉庫へと向かう。そして子供特有の将来の夢など一切描かず、何も考えずに眠る。この何の生産性もない日々が続く。集落のほとんどはそう思っていた。

 

 

「襲撃だ!にげろぉ!」

 

誰の声だったか、慌てた声に少年は目を覚ます。堅いパンを無理矢理噛みちぎり腹に入れて逃げ出した。そして少年は生まれて初めて幻想を見ることになった。

集落を襲った敵は魔術を使っていた。見知った顔の大人達、その子供も魔術により殺される。この光景を見て少年は魔術なんてロクでもないと知った。

 

詠唱とともに指先から放たれるそれは集落の人々を蹂躙する。炎に焼かれ、雷に貫かれ、水に押しつぶされる。そして少年にも死が迫った。魔術士が少年に指を向けて詠唱する。

死にたくないと涙を流す。涙だけでなく尿も漏らしていた。だがもうダメだと諦めた時、映る世界に変化が起きた。

 

宙に浮かぶ魔法陣が見えた。そして、その構成を理解してしまった。理解すればどうすればその魔術が無効化できるかもわかる。理解すれば早い。眼からその魔法陣へ干渉し、無効化させる。それだけでは済まさず、先ほど展開しようとしていた魔術の魔法陣を宙に描き唱える。

 

「《求めるは雷鳴>>>・稲光》」

 

放たれた雷撃は魔術士を殺した。魔術士が殺されたのが分かったのか他の魔術士も少年の元へ集まってくる。集まってくれば少年を一目見て全員がこう言った。

 

ーーーこの悪魔め!

 

何を言っているかわからないと反応するが都合よく地面に落ちていた鏡の破片を見て理解した。目に朱く強く輝く五芒星が浮かんでいた。本当に自分の目なのかと戸惑う。その戸惑いを魔術士達は見逃さない。魔術士達はバラバラの魔法を唱えていく。

 

だが、その全てが発動されない。魔術士8人は戸惑ってしまう。立場が入れ替わった。先ほどまで魔術士が展開していた魔法陣を展開し、発動させた。

 

少年の前に立っている魔術士は消えた。死体になったということではなく、跡形もなく消え去った。自分の力に気づいた少年は集落を襲った残りの魔術士を殺した。

 

その後の少年は戦争で使われ、大勢の人々を殺した。無数の死体を築き上げた頃には、協力していた国に殺されかけ、亡命して名を変えた。

 

 

 

 

「くっそ、目覚めが悪い。絶対前の事件のせいだ」

 

ラヴァルはいつもより早く起きた。といっても一般学生の起きる時間と同じである。だからたまにはいいかと学院へ行く準備をして家を出てポストを確認する。

中には1つの手紙。送り主はアリシアと書かれている。その名を見た瞬間周りを確認して手紙を開く。

そこには他愛ない世間話とラヴァルの学院生活の心配。最後に書かれていたのは『あの娘を助けてくれてありがとう』だった。

 

悪い夢を見たが朝から良いことがあったと元気よく学院へと行く。

 

「ラ、ラヴァルが登校してる!ルミア、遅刻するわ!」

 

訂正。バカにされたので差し引きマイナス。今日は悪い日である。

 

「システィ、出る時間見てなかったの?まだ余裕あるよ」

 

「そうだぞ銀髪。俺だって遅刻ギリギリじゃない日もある」

 

「毎日そうしなさいよ!」

 

「面倒くさい」

 

「そういうこと言うからいつも眠そうな目なのよ!」

 

「まあまあシスティ、折角今日は朝から来てるのに攻めたら可哀想だよ」

 

「あまり目を見るのはやめてくれ。恥ずかしいだろ」

 

「そういえばどうして休日の補講来なかったのよ?」

 

「休日だから寝てた。いや、普通に忘れてたよ」

 

笑いながら言う。こんなところからバレたらシャレにならないと平常を装う。

 

「でも、あの日は来なかった方が良かったかもしれないわね。あんなことがあったし…」

 

「あんなこと?まあ大変なことがあったんだな。お疲れ」

 

「ラヴァル君は知らないんだね」

 

システィーナからはあまり感じないが、ルミアから疑いの目を向けられていることは理解した。ラヴァルの目には近くから見なければわからないが五芒星が浮かんでいるため目を逸らした。

 

「知らないし知りたくもないね。今日は授業で寝れるかな」

 

適当に話を逸らした。ルミアはさらに追求しようとしたが学院についたためしなかった。

 

「授業は寝ずに真面目に聞きなさい!」

 

「最近はラヴァル君も起きてるから大目に見てあげよ?」

 

いつも通りシスティーナに怒られ、ルミアにフォローされる。それを適当に流す。

 

これがラヴァルの送りたい平穏な生活。もうあんな事件は起こらないでくれと心の底から思った。

だが、どうせ『天の智慧研究会』がまたティンジェルを狙って平穏を害するんだろうなぁと台無しなことを考えていた。

 




一巻終わり!次の話からは一人称視点含みます。

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