ロクでなし講師と魔眼保持者   作:斎藤

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非日常1

ラヴァルが真面目に授業を受けた次の日、槍が降ることもなく青空が広がっていた。その次の日もやる気なさそうに授業を受けていたが槍は降らず、クラスメイトは全員が安堵していた。

 

「うーん、真面目に授業を受けたせいでまた今日も遅刻だな」

 

青空の下、恒例の屋根走りを行いながら呟く。

 

「しかも本来なら今日休日じゃん。なんで授業あるんだよ面倒くさい」

 

グレンの授業は遅れているため休日にも補講として授業があった。学生からすれば休日出勤などあり得ないためやる気なく学院の方へ向かう。

 

だが、やる気が無いおかげで学院の異常を察した。いつもの警備員がいない。そして、よく慣れた鉄の匂い。学院に結界が張られている。明らかな異常に頭を働かせ、いつでも、そして何にでも対処できるようにして結界に穴を空けて入っていく。

 

「あー、面倒くせぇ平穏な学生生活を満喫できると思ってたのになぁ」

 

呟きながら学院の中を歩く。歩きながら派手に暴れてもバレないように仮面をつけ、服も制服をカーテンの黒い布で隠す。

 

「誰だ貴様は」

 

廊下を歩いていれば敵と思われる男を発見した。そして、その男の周りには5つの剣が宙に浮いている。

 

「《我・契約文を捧げ・大地に眠る悪意の精獣を宿す》」

 

ラヴァルが宙に指を踊らせ唱える魔術に男は警戒する。聞いたこともない魔術の詠唱。固有魔術の可能性を疑った。見た目は何も変わらず自身にも変化がないことを見て身体能力の向上の魔法であると判断し、防御することを考えた。

その考えは正しかった。だが誤算があるとすれば身体能力が向上したラヴァルは目で捉えることができない。更に言うなら防御に使った剣がまるで小枝が折れるかのように潰されることだった。

 

一瞬にして前に現れたことに驚き、5つの剣全てが防御するために前に出るが、ラヴァルの蹴りはその5つを砕き、男を蹴飛ばした。壁に当たるまで転がされ、そのまま壁にのめり込む。男は壁の一部となりながら考える。相対して来た敵の中でも最も強い。戦っても今のままでは殺されることを、理解する。

 

「おいお前。何が目的で学院を襲った」

 

「目的を言えば見逃してくれるのか?」

 

少なくとも回復しなければと時間稼ぎをする。それに対してラヴァルは明らかな時間稼ぎであることを理解しながら時間稼ぎに乗ってやる。

 

「見逃すから教えろ」

 

「嘘だな。今の一瞬の攻防だけでも貴様がぬるくないことくらい見抜ける。何者だ」

 

仮面の裏に潜む顔を探る。男の予想では宮廷魔道士の1人であり、その任務はルミア=ティンジェルに何かあった時の対処だ。『天の智慧研究会』の情報網に引っかからないのだからそれくらいの地位にいることは確定だ。

 

「そうだな。目的を言ってくれたなら、冥土の土産として教えてやってもいいよ」

 

「ルミア=ティンジェルが目的だ。貴様は一体何者だ」

 

「うわ、本当に言ったよこの人。ま、正体を言う前にその通信機潰させてもらうぞ」

 

内ポケットに入れられてあった通信機を服越しに殴られて破壊される。もちろんそれなりの威力の拳であるため肋骨も粉砕された。

 

「で、俺が何者かだっけ?それは……」

 

「てめぇらルミアを…ってあれ?仲間割れ?」

 

ラヴァルが適当なでまかせを言おうとした時、グレンとシスティーナが入って来た。だが壁にのめり込んでいる男と、仮面に黒の布を身に纏うラヴァルを見て仲間割れを疑った。

 

「邪魔が入ったから退散させてもらうよ」

 

魔法の持続を確認して退散しようとするがグレンが退路を塞ぐ。そのことにため息を吐き、グレンが剣の男に目を向けた瞬間に窓から飛び降りた。

 

そして、ルミアを狙っていると知ってしまったからには救ってやろうと思う。『天の智慧研究会』がルミアを狙うとすれば殺すのが目的ではなく実験材料にするのが目的であると判断。内側から出られない結界を学院に張られていることから転移で運ぶことを思いつく。

そうと決まれば転移することのできる塔の中へ向かうが、見晴らしのいい校庭で大型ゴーレムが現れる。その数は5。普通の魔術士であれば苦戦。いや、負ける数である。だが、普通の魔術士ではないラヴァルはそれに臆する事なく立ち向かう。

 

「《求めるは殲虹の転真>>>・光狗燐》」

 

空中に魔法陣を描き唱える。7つの光の塊がゴーレムへと伸び、5つのゴーレムを再起不能な状態にまで破壊される。他に敵はいないかと周囲を確認し、邪魔する者はいないと判断して塔の奥へ行く。

 

「おや、どちら様ですか?」

 

塔の上部に行けば以前まで見慣れていた先生。グレンの前任であるヒューイが立っていた。

 

「ティンジェルさんを助けに来たのだと思いますが一足遅かったですね。魔法陣は出来上がっていてあとは時間待ちです」

 

「どなたかは分かりませんが、私のことはいいから他の生徒達を連れて逃げてください!」

 

「……」

 

ルミアの言葉をラヴァルは無視して魔法陣を見る。見ればこの魔法陣が五層になっていることを理解する。面倒くせぇと心の中で呟きヒューイの方を見る。

 

「貴方が何者かはわかりません。ですが、解術は可能ですか?方法をご存知ですか?魔術が発動すればこの学院は爆発しますよ。私の魂と引き換えに。全てを救う方法、貴方にはありますか?」

 

「案外、喋るんだな。知っているか?喋りすぎる悪役ってのは勝つことがないんだぜ」

 

「それは初めて知りましたね。良い勉強になります。今後の参考にさせていただきましょう……と言いたいですがこれで終わりですね」

 

「何そのブラックジョーク全く笑えないんですけど。まぁ、この程度の魔法陣ならすぐに解除できる。だから今後の参考にしてくれ」

 

そう言って魔法陣を見る。それだけでなく、自身の異能である『魔眼』を発動する。

目に朱く輝く五芒星が浮き出る。仮面越しでもわかるそれはヒューイに恐怖を抱かせる。そんなこと知ったことではないとラヴァルの見る世界が変わる。魔力の残滓が見え、この魔術の構成を解析し読み取る。

そして、解析した魔術を無効化する。そうすれば1つ目の魔法陣が消え去った。

 

一瞬である。一瞬にして魔術の構成を解析して無効化した。その人間離れした眼にヒューイは恐怖した。

 

「あ、貴方のその目は一体何ですか…」

 

「魔眼だとか神の目とか色々言われてるが、俺からすればただの呪いだよ」

 

会話の間に2つ目、3つ目の魔法陣を無効化する。

 

「貴方は一体…誰ですか?」

 

ルミアは恐る恐る聞いた。身を張って自身を助けにきてくれた男性。だがその姿は黒い布と仮面に覆われ、仮面から見える目は朱い五芒星が輝いている怖くないはずがない。

 

「さあね、分からない方がお互いのためになるよ」

 

話しながらだから少し時間はかかったが全てを無効化し、ヒューイの作戦は失敗に終わり、ルミアは助かった。

 

「面倒くさかったなぁ。ここでヒューイ先生に問題です。この後先生はどうなるでしょうか?」

 

視線をヒューイへと移動すればその顔は満足気だった。

 

「……好きにしてください。私は生徒のために組織を裏切ることをできなかった。ですが、この結末には満足しています。結果として学院の生徒達は無事だった。貴方が何者かは知りませんがありがとう。ルミアさんにも酷いことしましたね。すいませんでした」

 

「さっきまで俺の眼を怖がっていたくせによく言えるな。んじゃあお縄につけるために気絶してもらうか。《男女平等パンチ》!」

 

強烈な右ストレートがヒューイのイケメン顔に突き刺さり、あっさりと意識を手放した。気絶した顔も満足気であることから先程の言葉は本気なのだろう。

ヒューイを殴った後、座り込んでいたルミアに少し屈んで片手を差し出した。ルミアもその手を握り、立ち上がる。

 

「あの、助けてくれてありがとうございます」

 

頭を下げて礼を言う。その際、ラヴァルの纏う黒い布の合間からアルザーノ帝国魔術学院の制服が見えてしまった。

 

「学院の制服…」

 

「え?」

 

ルミアの言葉に驚く。そしてどうしようと迷えば次に足音がこちらに向かって来た。

 

「ルミア!」

 

「てめぇ、何者だ」

 

グレンとシスティーナが現れた。グレンの手には愚者のアルカナが持たれている。これはグレンの固有魔法である《愚の世界》が発動しているということでもある。この固有魔法の下では魔法を一切使うことができない。

 

「先生待ってください!この人は私を救ってくれました!悪い人ではありません!」

 

ルミアは事件は終わったこととラヴァルが悪人でないことを弁明する。戦闘になったら面倒だなと考えていたラヴァルは内心で弁明してくれたことに喜んだ。

 

「といっても黒い布に仮面って明らかに怪しいだろ。それを取れば考えてやることもできる」

 

「やだね。正体バラすなんて愚の骨頂だ。俺は逃げる」

 

「無駄だ!ここから出るには俺を突破するしかない。魔術を使うことができない状況でどう突破するんだ?」

 

結局こうなるのかと魔術を発動しようとするが発動しない。そういう魔術が使われていると判断した。魔術を発動させない魔術、確かにとんでもなく強い魔術である。

だが、ラヴァルには魔眼である複写眼(アルファ・スティグマ)がある。これは魔法ではなく異能。故に《愚者の世界》が発動しても使用が可能。複写眼を発動して《愚者の世界》を無効化する。

 

「《求めるは大雲>>>・雲霧》」

 

「な!?《愚者の世界》が破られた!?」

 

魔法が発動し、辺りが霧に包まれる。グレンは《愚者の世界》を破られたこと、突然眼が朱く輝き出したことに驚く。

 

「学院の制服のことは黙っていてくれ」

 

ルミアの耳元に小声で言ってグレンの方へ走って行く。

 

「先生!来ます!」

 

システィーナが煙に微かに映る影を見て言う。それを合図にグレンはラヴァルへと殴りかかる。

グレンの右拳を素手で受け止め、回し蹴りをするが掴まれていない腕で塞がれる。

 

「《雷精の紫電よ》!」

 

回し蹴りをグレンに受け止められ、動きの止まった瞬間にシスティーナが唱えた。だが、発動しない。この現象をシスティーナとグレンは知っている。《愚者の世界》と同じ現象だった。だがグレンは破られてから発動していない。なら誰が?とラヴァルの手を見てみればその手には愚者のアルカナが収まっていた。

 

「なぜ、お前がその魔術を……」

 

グレンは自身の固有魔術を発動されて目に見えて焦る。システィーナも他人の固有魔術を使える未知の敵に恐れを抱いた。

 

「答える気は無いな」

 

魔法を封じられることでシスティーナは戦力外。体術ではグレンも戦えはするが見た感じでは手を抜いているように見える。もし本気を出されれば呆気なく2人とも殺られるだろうと考える。

 

「………分かった。とりあえずお前はあいつらの仲間では無いこと、学院に敵意がないんだな?」

 

「そうだよ。え、通してくれんの?」

 

「あぁ、気絶させて捕まえることができれば良かったがどうにも無理そうだ。行ってくれ」

 

「初めからそうしてくれたら良かったのに。もうこの格好で会うことがないことを祈るよ」

 

グレンとシスティーナの間を通って階段を降りていく。外に出た後、黒い布を捨て、仮面も懐へ戻す。教室に行っても怪しまれるだけであるからそのまま家へと帰って行った。

 




次がエピローグで一巻終わりです。
はやく終わらせて長ったらしい3巻4巻までいきたいです。
ちなみにこの作品の作者はFGOをしています。イベントは全てのミッションをもう終わらせました。

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